お願いだから俺に構わないで下さい

大味貞世氏

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第111話 残務整理、そして迷宮03

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単なるお食事会。
セッティングだけで後はお任せ。とは成らず。

小生の予測した通りに。ライザーは数騎先行隊で元気良く王都に帰って来た。

何時にする?明日なんてどう?来月頭にする?
返答は「今直ぐだ!」偉そうに答えやがった。

王子じゃなかったらぶん殴る所だぞ。

2人共互いに急ピッチで整えさせて宴室の席に着かせた。

さあさあ後はご自由に。と離脱を試みたが。
「帰れると思っているのか」
ヘルメンちに止められた。

「後は本人たちの自由でしょ」
「仮でなくとも王族だ。主催のお前たちが居ない間に喧嘩にでもなったらどうする。ニーダを罪に問うのか」

なんてブツクサ言う始末。始末に負えないね。

はいはい解りましたよと。主役から遠く離れた卓を囲み王族4人と一緒にこちらも軽く食事会。

そう言えば1人足りない。
「ノイツェ殿も呼ぶべきでは?」
「心が追い付かん。お前たちに任せる、だそうだが…
恐らく何処かでこっそりと見ておるのではないか」
周囲をキョロキョロ。…居た。

給仕係の通用口の脇影から怪しげに覗いている。
邪魔だろ!

捕縛して俺の隣の空席に座らせた。

「…申し訳有りません。どうしても気に成りまして」
「良い。それが親心と言う物だろう」

遠目から眺めるに。意外にも2人は良い感じに談笑を交わして独自の世界を作り始めていた。

雰囲気はね。

隣のフィーネも。
「もう少し時間掛かると思ってたけど。2人共無理してない。和やかな雰囲気よ」

その言葉に胸を下ろしたノイちゃん。
「取り敢えずは善かった…」

機嫌良くサンドイッチを頬張り飲み込んだ陛下が。
「して。スターレン」
「はい陛下」

「サンタギーナへの渡航は何人なのだ。早く決めねばあちらの大使館に状面が送れぬぞ」
あ、相談するの忘れてた。と言うより昨日の夕食時にでもと考えていたが迷宮で調子こいてすっ飛ばした。

「この後。従者と相談し本日中にはご連絡を」
「昨日はお出掛けが長引いてしまいまして」

メイザーがライザーを垣間見ながら呟いた。
「サンタギーナか…。懐かしいな」

「メイザー様は視察で」
「いや。幼少の頃に父上のお供を。一緒に連れられたライザーは覚えているのかとな」

「二人共。激しい船酔いで吐いて回っておったのに覚えていないと言う事は無いであろう」
「それを言わんで下さい父上。船に慣れていなかっただけです」

メルシャン様も。
「あら、意外な弱点ですわね」
「今はもう大丈夫だ…と思う」

ミラン様は周囲の遣り取りを微笑みながら静かに見守っていた。貴女は聖母様ですか。


持ち直したノイちゃんが現状の解説を加えた。

サンタギーナ王国の王都サンジナンテは港町シャインジーネの南に直結していて海から王城が見えるらしい。

一般の行商はその2つを纏めて王都と呼んでいる。
バラして聞いて回ると少々混乱するかもとの事。

「ラフドッグ同様。負けず劣らず活気に溢れる都だと聞いている」

「それは楽しみです」
「私も楽しみだけど。半分は仕事よ」半分はね。

「陛下。サダハ・ルーリナン王とは接見した方が宜しいのでしょうか。お会いすれば数日は拘束されるので出来れば避けたいのですが」
「気持ちは解るがそれはあちらの要請次第だ。求められれば素直に応じるのが外交であろう。迎えてくれる国の王の誘いを断る外交官が何処の世界に居る。
クワンジアのピエールは論外だがな」

港に入っての歓待状況で解るか。
「ですよね…」
「サクサクと回りたいのですが…」

こちらと相反する主役2人の楽しそうな笑い声が聞こえて来る。お好きにどぞー。

「あちらは順調そうですね」
「私たちはそろそろ離席させて頂いても宜しいでしょうか」

「良かろう。早く申請の返答を持って来い」

ではではと席を立とうとした所。フィーネがメルシャン様の引き留めに遭い。
「では。私が返答を持って戻って参ります」



早速自宅リビングで開いた打ち合わせ。

メンバーは何時もの4人とオマケのプリタ。

「態々呼び立ててごめん。サンタギーナへの視察同行者の件なんだけど。前に話した通りのソプランとアローマでお願いしたい」

「だろうと思って準備はしてある。て言っても荷物は前回の付け足しレベルだがな」
「付き人として恥ずかしくない様、お勤めします」

「宜しく。それとニーダの件の調査隊はどうなってる?」

「まだ編成前だ。アルシェさんからの返事は昨日届いたらしいが俺たちは未確認だ。後で聞きに行くか」
「そうする。新しい武装の配給やらしたいし。古代都市産の良品で闇市で流れてる物より遙かに性能がいい」

「そりゃ有り難いな」
「なら、俺も行く」とカーネギ。

結局フィーネ以外の6人で押し掛ける事となった。
「私はメルシャン様の所でお茶して来るね」
とクワンを肩に乗せ、嬉しそうに歩いて行った。

「プリタも行くの?」
「私も留守を預かる者の一人。多少の心得はあります。
何時もミランダやカーネギ様がお近くに居るとは限りません。余りあるなら私も何か頂きたいです」
しっかりしてる時とフワッとしてる時の差が激しいな。
責任感もあり独自の視点も持っている。

意外に出来る子や。俺が気付かなかっただけで。

「清掃は終わりましたし。お庭のお手入れも終わり。
かと言ってお料理は大の不得意。一人で待っていても暇で御座います」
どっちなんだろう…。

アローマが苦笑いで窘めていたが。正直に言ってくれるのは有り難い。


団体でカメノス邸へ向かおうと歩いていると、慌てたシュルツが駆け寄って来た。

新作ブーツやバッグを何れだけ量産すればいいか解らないから私も行くと。

遠征組の分まで作ってくれるんだ。

ありがとねと手を繋ぎ…。
「何故に負んぶを?」
シュルツが俺の背中に飛び乗って来た。
「お姉様がいらっしゃらない時間は短いですもの。ペリーニャ様が良いなら私も精一杯甘えます!」
周囲の目が痛いんだが。

まいっかとそのままシュルツを背負って歩いた。


この負んぶが後の夫婦喧嘩の火種に。は成らなかった。
ラフドッグに行ってからフィーネの許容が広がった様だ。




---------------

カメノス邸の会議室に集まったのは。
常駐メメット隊メンバー+それぞれのペアも加わり結構な人数。

公開されたアルシェさんからの返信内容には未確認事項が多かった。

嫁ぎ先の公爵位を持つバーミアン家の関係者でもトルレオ家に付いて知る者は居らず。クインケも知ってはいるが只の小者だと注目されていない。と言う内容だった。

議長カメノスが加えた。
「しかしだ。手紙の文面を見るにバーミアン家の当主。義父は何かを知っている表情を浮べたらしい。
アルシェは昔から勘が鋭い娘でな。もう少し探りを」

俺は挙手をして。
「こちらから頼んでおいて申し訳ないですが。そのアルシェさんの独自調査は至急止めて下さい。思っていたより根が深く非常に危険と判断します」

「理由を聞いても?」

「先日ソプランと発見した一団はクインケの手先で確定ですが。加えてラザーリアの地下施設を無断で掘り起こそうとした一団と、一昨日俺をマッハリア東部に強制召喚した5人組。何方もロルーゼの縁者との兆候が見えました。
数名は泳がせましたが雇い主の所に戻るかは微妙。

天候まで改変可能な道具。転移の道具に逆の強制送致の道具。地下深くの空気が薄い場所でも呼吸が出来る装備品。硬い岩盤を掘削しようとした破砕道具等々。

敵は想像以上に強力な魔道具を取り揃えています。その殆どが東大陸産や闇市やバザー等で入手した物であるとするなら、戦力は全くの未知数です」

「そこまで危険な話だったのか…」

「はい。先程昼に行いましたライザー殿下とニーダのお見合いも上手く行き。今後はノイツェ殿を筆頭に軍部も本腰を入れ始めます。

行商隊の皆さんは軍部との接触を避け。一般的な行業ルートを辿って下さい。

恐らく俺が嗅ぎ回っている事が敵に知られれば、思わぬ痛手を喰らう可能性が高いです。

情報収集は暮れ暮れも慎重に願います」

行商隊のリーダーを務めるゴンザが手を挙げた。
「行業ルートと同行メンバーの見直しは勿論する。が女性メンバーは厳しそうだな」

予定プランでは食料品部門のメメット。医薬品部門でロルーゼ北部出身者の女性3名も含まれていた。

メメットが代表で。
「警護対象が増えるのは頂けん。俺は野垂れ死んでも泣く奴は居ねえが。今回嬢ちゃんたちはパスしてくれ。
普通に俺が食料品を宣伝してきてやるよ。食料だけなら最悪奪われても問題ねえ。だが医薬品は話が別だ」

半分は新婚旅行に行けると楽しみにしていた女性3人は酷く落胆していた。
「仕方がありませんね…」
と研究棟副主任でケッペラの妻イルヤが呟く。

ミランダも含め、ロルーゼ出身の4人も。トルレオ家やシャシャ家は全く知らないと締め括った。

行商隊の出発は俺たちが南へ旅立ってから数日後。

予定メンバーはメメット、ゴンザ、ケッペラ、ヒレッツ、
メレスの5人にカメノス邸の警備隊から4人が加えられる。

武装各種の見直しと配給もその場で終え。
本編の武装一式を積んだバッグは一番魔力保有量が高いゴンザが受け持ち。食料品を詰め込むフェイクの大収納袋と合わせシュルツが用意する。

「ブーツが九名分ですね」
「袋も合わせて大変だろ。俺も手伝おうか?」

「いいえ。この件には私も大きく関わっています。その責任として一人で頑張ってみます。
南へ持って行って頂く上位品は既に完成していますし。
この量でしたら半日あれば余裕です」

何でもこないだあげた遺跡産のリストバンドで製作スピードが格段に上がり、複雑な物でも既製品なら30分もあれば作れてしまうそうだ。何とも凄いの一言。

クワンのガードル新調もシュルツにお願いしちゃお。




---------------

全てを投げ捨てさて置き置き捨て捨てられて。

捨ててしまおう諸問題。

何故なら後3層。油断は禁物気持ちは逸る。

未確認だった18層。そこは一面の銀世界。
クソ暑い真夏に冬が来た。

「ねえスタン。寒くない?」
「気の所為だろ。だって今夏だし。地方が変わった位で季節は変わらんよ」

「…変わるっしょ」
「変わるかも」
「クワ?」クワン氷漬けの世界でも平然としている。

フェンリル様の首輪のお陰。

俺たちは人間は法衣を頭から被り、フィーネはマント決して離さない。

足元だけは良好だ。天翔ブーツは必要な機能を備え、遺憾なく発揮している。有り難うシュルツ。

帰ったら無理矢理キスしよう。そう決めた。

パッキパキの氷の上でも難無く歩けるし走れもする。

じゃあ何故に進まない。否進めない。

迷宮とは上手く表現された言葉だ。
今、俺たちの目の前に塞がる壁は…めっちゃ動いてる。

一歩進める度に目の前の通路は塞がり、右に左に新たな通路が開く。

地面、横壁、天井全てが氷の世界。
逃げ場所が無い俺たちは、階層主の掌の上でアイスダンスを踊らされていた。

魔物は居ない。1匹も。
即ち戦闘などしていない。

唯々常時更新される氷の迷路を彷徨っていた。
彼此2時間。おしっこしたい…。

女の子には切実な問題だ。俺はたっしょん出来る。

それでも水分は補給しないと身体が持たない。

迫り来る尿意に怯えながら温かいコーヒーで喉を潤した。

無理は身体に悪い。上階段の踊り場にトイレを設置してスッキリ爽快。

しかし彼ら魔物は何も知らない。
愛する嫁が右手に握り締めるハンマーの名を。

君の名は、銀盤の破壊鎚…。

久々に本気でプッツンしてしまった彼女の前に。最早迷路の銀色の壁は単なる紙切れ。

「ぬぉぉぉあぁぁぁーーー!!!」
聞くに堪えない嫁の絶叫。
放送禁止コードを適用すべき腹の底からの遠吠え。

涙ながらに俺はクワンのお耳を塞いだ。
「見ちゃダメ。忘れてあげよう」
「クワ…」

今、スフィンスラー迷宮は生まれて初めての悲鳴を上げながら飲み込んでしまった猛毒に怯え震えていた。

例えるならバキンッ、ドゴンッ、ドカンッ…。
只でさえ語彙力が低い俺にはどう表現すればいいのかが解らなかった。

右や左や上や下。東西南北所構わず割り、砕き、突き、回り紙切れを破り抜いて行った。

俺が棍棒を出すまでも無く。
遊び場が無いクワンも飛べず。

「みーーーつーーーけーーーたーーーぁぁぁ」
何を見付けたのかは解らないし見えなかった。

俺とクワンが目撃したのは。
魔力を込められ輝くハンマーを振り抜き、何かが塵と化して消えて行く姿。

銀の壁は全て消え去り、だだっ広い空間の真ん中に残されていた物。

大きな氷の最上位魔石と、氷蝋。

インテリア…。釜倉に飾るオブジェに最適。
氷の中でも深海でも灯り続ける不思議な蝋燭。その淡い炎は一度着けたら無酸素だろうと二度と消える事は無い。

「あら。ずっと星砂が観賞出来るわね」
きっと他の使い道があると思います。
「良かったな。帰ったら何かご褒美をあげよう」

ご機嫌が戻ってくれて良かった。良かった…。


折角戻ってくれたのに…。やってくれたぜ19層。

真っ赤な炎が火柱が。四方八方から襲い来る。
層内全体が紅蓮の炎に満たされていた。

18層の逆をご用意された。頼んでないよ。

「暑いわね…」
「あっちいなぁ…」
「クワァァ…」

今度はフィーネさんのごり押しは通用しない。
攻略法が全く見えない。変則的で統一性が皆無な炎。

魔物の名はローライドプリズン。
脱出不能な燃え盛る牢獄。

「層内全体が魔物。個であり多でもある」
「反射盾も意味が無い。抜け道も無い。それ以前に熱くて通れない。クワンにマントを着せて。俺たちが全身鎧になれば進めると思う」

「でもそれやると。下の迷宮主が対抗して来る」
「ここで全力出させようって魂胆が丸見え」
「クワッ」イヤイヤしてる。

「1つ手段があるとすれば。何も出なかった階層で対抗手段のレアが出るまで周回する、とか」
「内容も不明で復活サイクルも解らないんじゃ。何日掛かるか…」

「真に試練の迷宮だな」

「ねえスタン。単なる思い付きだけど。さっき出た氷蝋投げてもいい?」
溶岩の中に水滴を垂らす様な物だとは思うが。
「それはフィーネの道具だし。ずっと暖炉に当たってるのも辛いからどうぞー」

直ぐに上階段に逃げ込める位置から。フィーネさんの大胆な投球モーションでオーバーハンドスロー。

音も無く投げ込まれた氷蝋。それが真っ赤な炎に飲まれた途端。着弾点から真っ青な炎が巻き上がった。

……青い、炎。通常赤よりも青の方が高温と言う認識だったが。熱気が増したとは感じない。

赤と青の鬩ぎ合い。次第にそれは青が優り、徐々に赤が飲み込まれ始めた。

大自然の摂理宜しく。青の方が強い。
丸で青が赤を吸引しながら蹂躙している様に見えた。

そこでフィーネが鞭を取出し遠方から青い炎を打った!
「全ての炎を喰らい捻り潰せ!!」
凄いねぇ。燃え盛る炎って鞭でしばけるんだぁ。

全体が魔物だから?

青の吸引は加速。掃除機の弱から最強に変化した。

層内に巡っていた赤い炎は見る見る飲み込まれて小さく萎んで行った。

物の数分。3分程度で層内に残ったのは小さく大人しい灯火を称えた氷蝋。

と奥の方に黒鉄色の金属檻がひっそりと佇んでいた。

「フィーネ、クワン。あれが本体だ!ぶっ壊すなら今しか無い!」

俺は棍棒を出してからの3方攻め。

衣を綺麗に剥がされた檻の中には何も無い。だったら外側の折そのものが本体と考えるのが筋。

哀愁さえ漂う檻は即座に分解され。3カ所でそれぞれのリンチが開催された。

誰かは不明だが核にヒットしたのか。檻は跡形も無く霧散して炎の最上位魔石と、炎獄と言う名のミニチュア版の檻を残した。

名前:炎獄の檻
性能:炎耐性を持たない魔物1体を閉じ込められる
   永久不変(発動者死亡時に消失)
   一度でも収監された魔物は以降出し入れ自由
   使用回数:1回
   収監後の魔物は発動者に対し完全隷属化
   収納袋に檻毎収納可能
特徴:可愛いあの子をゲッ

「条件はあるけど弱らせた魔物1体だけ閉じ込められるんだって」
「使い処はよーく考えないとね」

言い終えたフィーネは氷蝋を拾い。
「摂氏10℃まで下がりなさい。出来ないなら深海の宝物庫に捨てるわよ」
柔やかに恐ろしい言葉で氷蝋を脅し、温度を掌で確かめると満足そうに収納した。

「この炎獄もフィーネの物だな。俺が使うと誤解を招くし」
「遠慮無く~」


残る敵影は下の層に1つ。赤い炎が復活されても面倒だと下へ行ける階段穴を探した…。

が見付からなかった。

敵影は斜め下の位置。そして目の前には壁。

何処かに石版を嵌める所が在る筈だと探し回った。

敵影の場所から離れていないと思い込んでいたが、オブジェクトがあったのは真反対。

上階段穴の横手に鎮座していた。

「これってプリズン倒さなくても行け」
「まあいいじゃない。結局、炎で何も見えなかったんだからさ」仰る通りで。

石版を嵌めて何が起こるのかと身構えていると。目の前の壁が豪快な音を立てて歪み、左手にスライドした。

おぉ。面白い仕掛けだ。

現われた下階段。降りて直ぐにゆったりとカーブを描く螺旋状の回廊。

19までの自然色豊かな壁色ではなく漆喰のような白色。
続く階段も大理石を磨いた艶やかな光沢を称えていた。

曲線を曲がり切れた所で階段は終わり、平坦な回廊に切り替わった。

壁画でもあれば印象も違ったのだろうがそれは無い。

回廊を進んだ先の終端部。そこには巨人でも入れそうな大扉が構えていた。

「如何にもって感じだな」
「いよいよ迷宮主ね」

扉から手前に離れた所にシートを敷いてお昼休憩。
上で消失した水分補給も忘れずに。

お弁当を食べながらふと考える。

「ここまで転移不可ではなかったけど。通常この手のボス部屋は転移不可なのが多い」
「それが、どうしたの?私たちには泪があるよね」

「脱出はしない方針で行こうと思う。
ここは試練の迷宮だ。俺たちはここまで反則に近い形で突き進んで来た」
転移で出たり入ったり。
「最後は正攻法でって事?」

「そう。誰かが致命傷を負ったら撤退するけど。それまでは装備も含め、現状の武装で知恵を絞って戦うべきなんじゃないかって思うんだ」

「ん~」
腕を組んで思い悩むフィーネさん。
「言わんとするのは理解出来る。出来るけども。私が竜人化するにはここで着替えなくちゃいけないし…。
あぁそっか。入る前に竜人化すると対抗されちゃうんだ」
「だと思う。だから戦いながら少しずつカードを切って。
過剰にならない所で倒し切りたい」

「私のメイン武器は出し尽くしてて。クワンティはガーネットが着けられる。残る切り札はソラリマとスタンの煉獄剣だけか…」

「クワンがソラリマを装備しないと3人のバランスが悪い」
「クワッ」

「敵がどんな攻撃を仕掛けて来るにせよ。誰かが止めを刺しに行けるようにしたい。
序盤は現状で様子を見て。次にスキルや温存して来た武器を使用。魔力を上乗せするのは最後かな。

俺の時間操作は乱戦状態では使い処が難しいから多分使わない」
「うんうん。見えて来ましたぞ」
「クワッ」

「理解して頂けた所で。最も危険なのが敵が即時対応して来る事」
「だからこそ序盤が大切なのね。戦力を把握して、弱点を見極めて、叩けると思ったら速攻で止め」

「同士討ちも怖いから。各自の距離感と連携も大切」
「おぉ…。私が一番苦手な奴だ。緊張して来た」

「まだ南西出発まで3日間猶予がある。今日は無理せずここで終わりにしてもいい。但し入るなら1発勝負。
撤退して2度目があるなら。更に強力な武装を追加しなくちゃいけなくなる。…言ってる俺も緊張して来た」

「失敗すると時間ばかり喰われるのね。新しい武装が手に入る保証も無いし」

相談を重ね。やはり挑戦してみようと相成った。
負け前提ではないが失敗するなら早い方が良いと。




---------------

人は迷い悩む。それでも選択出来るのは1つ。
たったの1つ。

振り返っても自分が歩いて来た道が見えるだけ。人間である以上は引き返せないし戻れない。

あるのは前。未開で未踏破な荒野が広がっている。

誰でも不安だ。
だから誰かと手を繋ぎ足を一歩ずつ進める。
独りで歩ける勇気が無いのなら。

俺たちは両サイドに分かれて扉を押し開いた。

何も無い。鈍空で空虚な空間。空っぽ。
自分の心の内を見せられているようで笑えた。

フィーネのライトで照らし出されても部屋は無人。

それは背にした扉が閉じられた瞬間に現われた。

最奥で位不動堂と構えている。

ヒレルガーディアン。真に守護神の風体。
全身灰色の天馬に騎乗するのも又、同じ色の全身鎧。

得物は体格には合わない長過ぎるランス。馬上の槍。
反対の腕には円盾。円卓の騎士と言う名が相応しい。

「あれはアンデッドだ。どっちも中身が無い。貫通攻撃も精神攻撃も意味が無い」
「でも剥がさないと核は見えないわ」

「あれば、いいがな」
「…それってどう言う」

初見観察後に問答をしていた時。騎乗のランスがフワリと動き、馬の前脚が僅かに動いた。

そう認識した瞬間。来ると言う間も無く、俺たちは3者共後ろの壁まで吹き飛ばされていた。

真ん中に立っていたフィーネは閉じた扉に。
しかし壁も扉も無傷。衝撃は全てそれぞれの身体に来た。

ダメージはデカい。それでも反撃は出来る。

落とし掛けた盾を持ち直し立ち上がると。騎士は元の位置に居た。

序盤は様子を見る。その判断は悪くはなかった。
ただその余裕が有ったならの話。

「無事か!」
「まだまだ」
「クワッ」

初撃は堪えられた。だが何も見えなかった。
攻撃の軌道もヒットされた瞬間さえも。

「方針転換!散開して各自一撃。スキル使ってでも何処でもいいから当ててくれ!」
「ラジャ」
「クワッ!!」

騎士は更に上を行く。

こちらが分散するのを待っていたかのように天馬の翼が大きく開き、騎士がランスを上に向かって突き上げた。

馬が前進を始めたその時。騎乗の騎士が馬の背から上に飛び上がった。

違う。上がったのは上半身のみ。分断した下半身が馬上を降りて俺に向かって来た。

半身の独立歩行なのにアンバランスではない。俺たちの全速と同等の速度。

引き付けるのではなく、相手から肉薄された。

片足が持ち上がった直後に、手に持つ盾が弾き飛ばされた。

「しまっ…」時間操作も間に合わない。
膝頭のスパイクが俺のがら空きの腹にめり込んだ。

声も出せない。呼吸が止まる。意識が刈り取られる。


意識が飛ぶ寸前に。時間操作:前3

転がる盾を掴み全身武装を展開した。



フィーネの前に相対したのは天馬。
視界の端にスタンの腹に騎士の半身の膝が入るのを捉えてしまい、目前の敵の対応が遅れた。

致命的な遅れ。コンマ秒の遅れだった。

長い歪な一角で盾が逸らされ、その隙間に反転後の後ろ脚が飛んで来た。

避け切れずに左肩を掠めた。
「っつぅ…」

何とか2撃目を避け、距離を離そうとしたが離せない。

盾と槍は外さない。落としたら上昇が消えて終わりだ。

スタンは強い。死んでもいない!
私はこの馬を攻略すればいい。

冷静に。集中し、倒す。

【幻影】3つに分身し。再反転した馬の首、片翼、着地した後ろ太腿を横から突き崩した。

…ダメージが入らない。剥がれたのは一部だけ。しかしそれも直ぐに元に戻った。

けれども攻撃を続けるのは変わらない。
剥がし続けなければ中身は見えない。

気配の読み取れないアンデッド。
只1点の答えは出ている。本体は1つだけだと。



反撃手で善戦したのはクワンティ。

襲い来るランスの霰。先端が直角に折れ曲がるもマントが裂かれながらも回避し続けた。

斬首台のように振り降ろされた盾を背に受け、袋の中で導師の人形が砕け散った。

こんな序盤に使わされた。忌々しいと思いながら。

出来上がった一瞬の静止。この隙を突き、クワンティは宙に浮く鎧の下側から内側に飛び込んだ。

胴部には何も無い…。ならば頭部。
クワンティに迷いは無かった。躊躇い無くソラリマを装備して上に向かって突き抜いた。

…手応えを全く感じない。本体はこちらではない。
違和感を感じる。さっきの一時停止だ。

頭部を首から切り離し、そのまま上へと持ち去った。

下の状況は余り変化が無い。分断した鎧は気にも留めぬと追い掛けて来た。

他の馬と下半身もそれぞれ独自に動いている。

この状況にも違和感。何故馬は翼があるのに飛ばないのだろう。

被さる兜を放り捨て、ドーム状の天井を見上げた。

3体は個別と見せ掛けて…操縦者は1つ。

天井中央部の赤い石がキラリと輝いた。あれだ!

背後に迫ったランスの先端を振り切り、クワンティは迷わず見付けた赤い石を嘴で砕き割った。

常々紅い色には縁があるなと思いながら。



クワンが天井辺りの何かを破壊した途端。
馬も鎧も動きを止めた。俺の目の前の下半身以外は。

ガーディアンの本体を引いたのは俺だったようだ。

踵や膝や爪先を自在に操り蹴りを繰り出して来る。

ここまで来てしまえば答えは簡単。全力で叩き潰す!

煉獄剣を全力で振り抜いた。

魔力を込めて一撃一閃に地水氷の属性を重ね掛け。

急速接近して来る上半身をフィーネが無い足を足止めしてくれている間に決着を。

血生臭い呼吸を整え、煉獄剣の乱撃で下半身を細切れにした。上半身がその挙動を止めるまで。

やがて軸足にしていた左脚の膝辺りを粉砕した時。勝利の瞬間が訪れた。


置物と化した馬諸共霧散して行くガーディアン。塵一つ残さずに。

唯一残り現われたのは。
部屋の中央床に金色の宝箱が1つだけ。


いやぁしんどいしんどいと蛇と亀の生血をガブ飲みしながら宝箱の前に集合。

「強敵だったなぁ」
「だね。如何にもボスだった」
「クワッ」

ロープを駆使して箱のストッパーを外そうとしたが全く動かない。フィーネの力任せでも外せなかった。

「「「???」」」

「これって討伐した人しか開けられないんじゃない?」
おぉ、なるほ。

「最後の最後で罠って事も無いだろうし。ここは止めを刺した俺が代表でパックリと」
「どうぞどうぞ」と双眼鏡を構えた。

霊廟鎧を解除して素手で触れると簡単に外れた。

上蓋を慎重に開き切った…箱の中身。

そこには煌びやかな刺繍が施された、勲章のような布切れが1枚。

「…双眼鏡では何も見えない」残念そう。
接触時のみの奴か。

布の下から掬い上げるように手で触れた。

名前:勇者の証
性能:聖剣カタリデの所有と装備を許される
   証を手にした者のみカタリデの覚醒が可能
特徴:試練の迷宮スフィンスラー踏破特典
   尚、この証に認定者が触れ続けると体内に

「あ!」と言う間に証は消え去り、手にしていた右手の二の腕が燃えるように熱くなった。

慌てて袖を捲ると。腕の表面に首長竜を象った朱色の入れ墨が浮き出た。

「「「……」」」拒否権ナッシング!

「私は何も聞いておりません!」ロイドちゃん…。
神様に、嵌められた。

「どうやら…俺。勇者にされてもた。拒否権無しで…」
「お、おめで…?」たくはないな。
「クワ?」

「まいいや。最悪面倒になったらこの腕切り落としたる」
「それは断固反対します」そうっすか。

「あぁ…。だからベルさん回る順番関係無いって言ったんだな」
「やる事は変わりません、と」

女神教新興派がこれを欲しがった理由は今一解らんが。
「今夜は祝杯だ!て言うか自棄酒だ!!」
「お摘まみ沢山作って。朝まで付き合いますよ」
「クワァ」

「お願いします!」


俺の種別に(救世の勇者)が付いてしまった今日この日。

金色の宝箱をお土産に。夫婦とクワン水入らずで夜通し飲み明かした。
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