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第168話 夏休み・後半終わり迄
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前半の新規招待者組を王都へ帰し。
ホテルの食器類を借りてカサゴの丸揚げ、虎河豚の唐揚げと白子焼き、鯛の塩焼きを夕食代わりに鰭酒を嗜む。
実に豪勢な夕食会。
未成年のラメル君にはちょっぴり酒精が入った甘酒を進呈した。
お疲れソプランが。
「やっと終わったぁ、てお前ら昨日もこんな美味えもん食ってたのかよ」
「鯛の塩焼き以外はね。だからちゃんと今日は持ち帰って来たじゃん」
「明日からはタツリケさんたちとクワンジアからの定住者組だから。子供たちだけ固めて遊ばせれば町案内で済むから私たちは全員お休みよ」
「助かるわぁ。いい加減疲れたぜ。鰭酒が染みるぅ」
「監視役も楽ではないですね。ロイド様とクワンティが居なければどうなっていた事やら」
アローマも疲労困憊。
「まあ明日からはゆっくり休んで。そういやアローマはフラーメにあの話はしたの?」
「いえ、まだです。明日こちらに招いてから話そうかと」
「ならヤンも交えて纏めて話するか。新規の車案件で部品発注する可能性大だから。管理棟への挨拶と造船所の見学させる積もりだし」
「そうして頂けると助かります。私だけで話をすると今直ぐ行きたい、とか言い出しそうで」
「短時間、即帰りならクワンに運んで貰って行けん事もないけど…。内容次第かな」
「はい」
「南西へ行くのかえ」
「年内には1回は必ず行くよ。次のモーランゼア遠征前後辺りに」
「ほなら妾たちをサンタギーナに連れて行け」
「あぁ…。あっちの夏トマト?」
「正解じゃ」
満面の笑み。
「どうしよっか」隣のフィーネに。
「ん~。確かに今しか買えないしねぇ。どの道ペカトーレでは最低限の人員で隠密しなきゃだし。同時進行なら私とグーニャで3人をサンタギーナに連れて行くわ。カルも目立つからこっちが良いかも。秋でも良かったら買い物だけ」
「聞いてみてペカトーレ前倒し案は考えよう」
料理が片付き。デザートに竹炭シフォンを提供。
「昨日はバタバタしてて出せなかった竹炭ケーキ。王都に帰ったら同じレシピでラメル君に焼いて貰おう」
「この深くて香ばしい味わい…。勉強させて頂きます」
「炭を混ぜるとこうなるのか。奥が深いのぉ」
「私は絶賛弟ラメル君に対抗心を燃やしてるメリリーさんと何か煮込み料理を作るわ」
「私も頑張らないと。是非ともご教授を」
「食用の魔物肉も使うから。レイルとカルのお口には入らないけど。普通のお肉煮込みの参考にして」
「はい…。食用の魔物肉、ですか?」
「2人は初めてだもんねぇ。別鍋で作るから試してみてよ。口に合わなかったら止めても良いし」
「挑戦してみます」
「私も。ラメルが食べるなら」
「程々にの。お、そうじゃ。プレドラの陥落は成功した。が多少暴れるやも知れぬから。もう一度迷宮へ行く。それも予定に入れて置け」
「意外に早かったな」
「妾を誰じゃと思うておる」
「レイルなら当然か。早めに行けるように調整しとくよ」
外で暴れられても困るしな。
ロンズ宿泊の5人が退出した後。
口数が少なかったロイドが突然。
「スターレン。モーランゼアの件ですが」
「何か有った?」
「出向する人員の予定はどの様に」
「古代樹の杖に似た設備が王都に在るぽいからレイルはアウトでしょ。念の為グーニャもタイラントでお留守番。
ソプランとアローマもお休みさせないと。初回はロイドも待機班か上に戻るか。ペリーニャが私も行くぜってなったら呼ぶかも。
フィーネにも影響有るかもだけど。略人間になってからは平気そうだから問題無いレベルだと考えてる。
自由転移が受理されない可能性も有るから。何にしても俺とフィーネとクワンで物を確認してからだな。ホントに見学だけで終わりそうな気もするし。それが?」
「いえ。そこまでお考えなら何も…」
「私も行かない方がいいの?上の禁忌とかに抵触しないなら先に教えてよ」
「…禁忌とかではなく。1つの懸念です」
「懸念?やっぱ何か有ったんじゃん」
勿体振りやがって。
「怒らないで下さい。モーランゼアに関しては何も見えないのです。只、南端町のプーリアで急遽宴会が催され。数日間拘束されたのが引っ掛かっていて」
「ん…。確かに言われてみれば」
「あれは不自然だったかも。ケイルガード様も早く王都へ帰った方が良くて。私たちも用事が有るからクワンジアへ戻らないといけなかった…」
お皿を下げて貰って打ち合わせ続行。
「俺たちは兎も角。あのレイルが一緒に居て別段何も感じていなかったのを考慮すると」
「クワンジアに居た組織の残党が。北に抜け切るのを待っていた、とか」
「ケイルガード様も含め。中立って言いながらモーランゼアも組織に加担してたって事になるのか」
「王都ハーメリンで、何かしらの罠を張っているのではないのかと」
「考えますニャ~。敵も」
「クワァ…」
クワンは追加で。
「宴会中に南部の町の上を偵察していても怪しい集団は見掛けませんでした。平常時の様子そのもので。付け加えるとプーリアの北側に布陣していた以外。大規模な軍事行動も起きていなかったです」
「代理王をお出迎えするにはお粗末だな。逆手に見ると内通してたからこそ、ケイルガード様のあの余裕振りだったのかも知れない」
「裏取られてるぽいね。私を欺くなんて飛んだペテン師。それとも平常心を保てる道具を身に着けてたのかしら」
「用心に越した事はないかと思いまして」
「良い物あるぜって俺とペリーニャを誘ったんなら。初回は古竜の泪を持ってる俺とクワンだけで行った方が良さそうだな」
「致し方なし。ペリーニャには種回収の時に話して引き留めるわ。それと…浮気したら許さないから」
「もうちょっとだけ信じてよ…。一応モーランゼアは表向き健全な国って言われてるんだしさ」
クワンも一鳴き。
「あたしがしっかり見張って置きますよ。接近する悪い虫のお尻を囓ります」
「お願いね。クワンティ」
そっちの心配の方が優先度高いんかい。
「別のお話ですが。個人的にペリーニャさんから頼まれていた物をお渡ししたいので。フィーネが行く時に連れて行って下さい」
何だろ。こないだの買い物の奴か。
「女同士の秘密です。因みにフィーネにも内緒です」
「えー酷くない?私だけ除け者なんて」
「どうしてもと言うなら御本人にお聞き下さい。答えてはくれないと思いますが」
「そこまでではないよ。誰にだって秘密にしたい事位有るんだし」
人間だもの。俺の秘密は全部ロイドに握られてしまっているのだが…。
「所でロイドとレイルに渡した転移道具はやっぱり使えないの?」
「元が空中では発動しませんし。移動距離に制限が掛かる様です。凡そ1km内。連発して魔力を消費するより翼を広げた方が早く。レイルさんも似た様な物だと」
「上位種族は制限有るんだな。逆に安心したと言うか何と言うか微妙だけど」
「シュルツ分の転移道具は新しく作ろうか。ペリーニャへの用事も出来るだけ纏めて済ませたいし」
「グズグズしてると手遅れになるしな。明日俺が送迎してる間にサクッと作って貰ってよ」
「うん。そうする」
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翌朝お出掛け前に。コンシェルジュさんを呼んで旅行鞄を吟味中。
普通収納の大きな鞄を。
大きさや型はまちまち。色は黒、茶、灰、白、赤の革製品5色。
「なんでまた鞄を?」
「今後も単独出張とか有り得るなと思って。腰巻きバッグだけだと仕事で飛び回ってる感が出ない。クワンが気軽に翼を伸ばせる枕台としても便利かなぁと」
「確かに。じゃあ私も…」
セルジュさんが珍しく先手を。
「申し訳有りません!水色や青皮は何処を探しても見付からず。商品のご用意が困難です。何卒ご容赦を」
「だ、大丈夫ですよ。そんな我が儘言いません。スタンさんが選んだ物以外で選ぶから、早く決めて」
「無難にシックな茶色で。簡易鍵も付いてるし。お仕事感出そう」
「じゃ、私は白で。カルは共用でいいよね?」
「構いません。一般品なら王都でも買えますし」
そうなんです。エリュダー商団製のオリジナル高級品はホテルに泊まらないと買えない(貰えない)んです。
ロンズではやってないサービスだからレイルには内緒。
王都自宅で嫁たちと分かれ。グーニャを頭に乗せ。ソプランを連れてヤンとフラーメを拾い、ハイネへ移動。
ハイマン一家とタツリケ隊ご家族と合流したのだが…。
理由不明で。トム君を筆頭としたギャボン商隊の少年少女とアレハ君率いるタツリケ隊の子供たちが睨み合いの喧嘩を始めていた。
関係者を同じ区域に固めていた弊害か?
集合場所の近くで小競り合いを。
離れて見守るハイマンに事情を尋ねた。
「何これ?なんで喧嘩してるの?」
「これはスターレン様。集合時間間近だと言うのに…。家の馬鹿がご近所の子供たちに自慢をしてしまって。怒ったトム君が友達を集め。アレハも負けじとタツリケ隊の子供たちを。であの有様です」
「あぁ。はいいけど。なんで止めないの?」
「こう言うのは大人が下手に止めると後を引き摺る物なんですよ。殴り合いまではやらせてみようかと」
ふむ。大体事情は把握した。
タツリケ隊の大人たちを振り返り。
「アレハが一番年下に見えるけど。いいの?」
タツリケ氏が。
「後ろは面白がって組んでるだけだな。家の娘はアレハ君を気に入ってるようで。親としては複雑な…。しかし外出ばかりで構ってやれなかった負い目も有って。強くは言えない立場で」
「子育てした事無いから解らんけども。それはこれから取り戻そうよ。今回でも話す時間有るでしょ」
タツリケ氏の奥さんも。
「もっと言ってやって下さいな。娘の事となると天でダメ亭主になってしまって。情けない…」
「それを言わんでくれ」
奥さんと娘に頭が上がらないダメ親父の図。よく有る日常ですな。
先頭に立つトムとアレハが掴み合った所で分立捕縛。
「はい終わりー」
「「スターレン様!?」」
今気付いたんかね。
「トムはここでは先輩だろ。それにラフドッグなら仕事や休暇で何度も行ってるんだし。一々挑発に乗るな。
アレハは罪無い人様に暴力は振わないって俺との約束を忘れたのか?こんな簡単に破るんだな」
「御免なさい。スターレン様に運んで貰えるって自慢されて我慢出来なくて…」
「ごめん…なさい。楽しみで嬉しくて、つい」
調子に乗り易いのも子供らしさ。はて、どうしたもんか。
反対後方で見守っていたトーマスさんを発見。
「トム君夕方迄ラフドッグで遊ばせてもいい?」
「え!?」
「店は人手も増えましたので。一日位なら…て連れて行って貰えるんですか?」
「物は序でさ」
ギャボン商隊の子供たちにも。
「行きたい人。挙手!」
全員即応挙手!
「じゃあ俺の時計で20分待ってるから。なる早で外出許可と着替え一式持って。今日手の空いてる親御さん何人か連れて来て!トムも浜辺で遊ぶなら着替え持って来な」
「はーい!」
ギャボン隊員一時解散。
アレハたちに向き直って。
「トムたちは自分のお小遣いは自分で稼いでる。お店や親の仕事の手伝いをして。アレハの今日のお小遣いはいったい誰が稼いだお金なんだ?教えてくれ」
「…お父さんから、貰った」
他の子も同じ様子。
「正直なのは良いな。でも普通の旅には移動にも費用が掛かってる。馬車の馬代と餌、御者の人権費、護衛料、水や食料。病気や怪我をしたら薬代も。それらを俺が一括で支払ってるようなもんだ。
それをなんでアレハが人に自慢出来るんだ?」
「ごめん…。僕…」
泣かせてしもた。
「泣くなよこれから遊びに行くのに。何かの形で反省を示したいか」
「う、うん…」
「良く言った!」
大判の白紙を掲げて。
「君たち全員。今日から3日間の滞在中に見た物聞いた事など。海の船、漁師さんや市場の仕事。何でもいいから500字以上の感じたままの感想を書いて。帰って来てから3日以内に俺に提出!」
「えぇ…」
「えぇ、じゃない。その報告書を労働とし。アレハを止めなかった連帯責任とする。未提出だったり白紙で提出した場合。さっきの移動費用の補填として、その親の毎月のお給料を3ヶ月間減額します!減額幅は俺の気分次第」
「そんなぁ…」
「て言うなら迷わず書け。これが仕事ってもんだ。嬉しさの余り旅先で誰かも知らない他人にうっかり口を滑らせてしまう。さっきのアレハの自慢と一緒。
口の軽い奴は誰からも信用されないし。大きな仕事も任せて貰えない。
同じ所属の仲間に自分の手柄を自慢して喧嘩する。そんな事をする奴はアホだ!解ったか!!」
「はい!!」
「返事は良し。沢山遊んで色々な物を見て忘れない内に書き留める。それが仕事の初歩の初歩。文字が書けないなら教え合う。算術が苦手なら出来る子と共に頭を捻る。
それでも駄目なら親に聞く。助け合える仲間や友達は大切にしろ。簡単に群れを作って喧嘩なんかするな。
誰も得しないぞ!」
「はい!」
「よーし。今回は別行動させるが。アレハはトムに後で謝って仲直りをするように」
「はい…」
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夕方前に遊び疲れたトム君たちをハイネに帰し。ペリーニャとの打ち合わせを終えたフィーネとロイドも合流。
レイルたちは市場で顔馴染みになったおっちゃんや班長さんたちと奥さん連中を交えて飲み会を開くそうな。
そっちも楽しそう…。
新転移道具はフィーネとアローマが試し打ちして無事シュルツに授与されたと言う話。これで一安心。
移動は国内限定でも多方に逃げられる手段を得られたのは大きい。本人のテストも一発でクリア。
夕食にフラーメとヤンを招き。食後に帰郷の話を切り出した。
「ヤンは半分仕事で来て貰ってるけど。フラーメの南の話は何処までしてるの?」
「いやそれは。まだ何も」
まだ?全然?一緒じゃない方が良かったのか。
「南の話?なんだいそれは」
「ごめん。聞かれて拙かったなら謝る。ヤンは俺に免じて聞かなかった…ことには出来んよなぁ」
「残念ですが出来ませんね。フラーメは何時もこうなんですよ昔から。自分の秘密は隠す癖に俺には正直者で居ろとか何とか」
「そんなんじゃないって。ちゃんと後から話す積もりだったの」
「いや大事なら事前に話せよ。俺との結婚を断ったのと何か関係有るのか?」
んん?断ったの?
「違うって。もう少し待ってって話をしたでしょ」
「この通り。訳を聞いても教えてくれないんです。半分以上その積もりで。残りは仕事で。覚悟して国を捨てて来たのに。タイラントに来る前と後では大違い。他に好きな男が出来たのか?」
「違う!それだけは違う。これ以上話を拗らせないで」
「落ち着いて下さい。話が先に進みません。お二人の貴重なお時間を割いている事をお忘れ無く」
「済みません。少々熱くなりまして」
「悪かったよ…。ちょっと話がややこしくてね。アローマとヤンにどう切り出せばいいか悩んでる内に今って感じさ」
そう話すと道具袋の中から一通の封書を取り出してテーブルの上に置き。俺の方へ差し出した。
「読み上げていいの?」
「頼むよ。私には意味不明でね。いや、理解したくない」
「そんなに?では指名に預かって」
軽くお茶を飲んで便箋を開いて読み上げた。
「~拝啓。麗しのフラーメ・タタラ嬢~
余はマキシタン・ザムド。
現大統領キタンの三男に当たる。役職は内務大臣次官級である。
貴嬢には記憶に薄いやも知れぬが。幼少期に数回は顔を合せている。
結論。貴嬢は余の許嫁である。
事業に失敗したタタラ家は。当家に莫大な借金を残したまま血縁者だけで国外逃亡した。
借金は当家が消化した故利息も残ってはいない。
しかし誓約書に結ばれた許嫁が生きていたとなっては話は別だ。
クワンジアでの闘技大会。女性部門の準優勝は賛辞に値する。
その賞金では一部にしか満たない。
この書は。嘗ての借金を完済するか、許嫁として余の元に戻るかの督促を兼ねている。
噂では妹君も最近見付かったと聞く。
余も穏便に事を済ませたい。
期日は問わず。一度、来国されたし。
四方や逃亡するとは思わないが懸命な判断を望む」
「それが届いたのがクワンジアを出る三日前さ。
準優勝して。私の名前がペカトーレまで届いちまった。メレディスの奴らが抜けてなければとっくに降りられたのに逆運に恵まれなかったよ」
「私の情報まで嗅ぎ付けられた」
「アローマのは。多分クワンジアで切った元傭兵仲間の報復だろうねぇ。どうせ近付いて来た隠者に小銭で買われたんだろ」
「どうするんだ?」
ヤンが不安げに問うた。
「どうするもこうするも。借用書も無ければ総額も書いてないんだ。一度向こうに行って話をして来る。だからアローマにやんわり話して誰かに運んで貰えれば。後は自分一人でやる積もりだった。
アローマの名前と面はまだ割れてない。犠牲は私だけで済むって寸法さ」
「それでどうやって後から説明する積もりだったんだ!」
ヤンがテーブルを叩き、カップが震えた。
「行く前には話したって」
「そうやって何時も何時も一人で勝手に決めて。スターレン様。お願いします。俺も一緒に連れて行って下さい」
「待て待て。交渉事は熱くなった方が負けるもんだ。まず誓約書。そこに商業ギルドの証印が無ければ無効化出来る可能性が有る。
次に借金の元金と返済期間から利子が正当か不当かを判断する。総額が不当ならそこを突ける。
俺が後ろに付いてるから細かい点は任せて。
熱くなって暴力沙汰にするのは愚の極み。大統領の子息に危害を加えれば一生ペカトーレから出られない。
拷問されてアローマも直ぐに暴かれる。
残念な話。マキシタンと言えばサンタギーナのお姫様が肖像画を見て縁談を断った程の不細工でデブだ。許嫁ってのも捏ち上げの可能性も有る。
誓約書が改竄されたかどうかを見破れる道具も、今借りっぱなしで返してない」
落ち着いた2人が座り直したのを見て。
「フラーメはアローマの大切な姉。ヤンはこれからどんどん仕事をして貰いたい仲間だ。どっちも手放したくない。
大会の準優勝の賞金が共通金貨2万枚。それが総額の一部にも満たないんじゃなくて。一部にしか満たないと書いて有る。ざっと百倍だとしても200万。
その程度なら俺が帳消しにして。ヤンとフラーメが仕事をしながら返してくれればいいんだよ」
「そんな法外な額。返済に何年掛かるか…」
「タイラント内で動いてる大規模な事業案件の殆どに俺とフィーネが関わってて。その主幹金属部品の加工製造を任せたいと考えてる。熟練工がデニーロさんだけじゃとても手が足りない。そう思ったからこそ勧誘したんだ。
軌道に乗るまで数年。乗りさえすれば1年も掛からずチャラさ。それ位の利潤が軽く出せる事業が幾つも始まってるんだ。この国ではね」
「要するにお金で解決出来るなら任せろってことよ」
「拾って貰って。何の役にも立ってないのに。直ぐに頼っちまってもいいのかい?」
「いいっていいって。朝にも俺が子供たちに話したろ。
これからタイラントは世界に先駆けて最先端の独自文化を築いて行く。そんな中で最も重要な機密情報。それをどれだけ守り。漏洩しないさせない信用の置ける人材。その人材を集められるかで命運が決まる。
その一員に2人が成って欲しいと願って。必ず為せると信じてる」
「そんな激流に。飛び込んでいたんですね」
「世界を飲み込む程の大渦さ」
その前に乗り越えなきゃいけない大きな壁が多々有るが。
「出しゃばりました。交渉は不得手ですので俺が行くのは止めます。フラーメの事を頼みます」
「頼まれた。今後フラーメは外でのお酒は控えような。口の滑りが抑えられないなら」
「一生外では飲めないねぇ」
自信持って欲しい。
「じゃ。明日サクッと潰しに行こうか」
「あ、明日!?」
「ちょっと秋に帰って来られるか自信無くなって来たから面倒事は早めに。フラーメ、サマードレス持ってる?」
「ごめん…。一着も、無い。結婚式のドレスはぼんやり考えてたけど。この件でキャンセルしちゃった」
「フラーメ…」
「そっからかぁ。なら明日は止め。身形も交渉の一環だから。豪華に行かないと相手に嘗められる。後、口調と立ち居振る舞いも」
「頑張るよ…。いえ、頑張ります」
「まあ挨拶だけはしっかり練習しといて。交渉は秘書の俺がやるから。アローマは週明けからドレス選びとトーラスさんの店で装飾品選びを手伝ってあげて」
「畏まりました」
「ドレスの色は挑戦的な赤を基調に2着。装飾品は金で揃えて。ヤンはプラチナで結婚指輪を自作。ゴツゴツせず愛を込めて。その指輪で彼女を守れるかもって考えれば製作意欲も増すでしょ」
「小物は初ですが。そんな甘えは捨てて精一杯作ります」
「全部揃ったら。その週の翌々週に伺う旨を商業ギルド経由でキッタントゥーレの首相官邸に送ること。俺は出張中でも待機組のアローマやフィーネから連絡取れるから必ず戻る。そんなとこかな。何か質問は」
フラーメが恐る恐る挙手。
「私、字が下手クソなんですけど…」
「マジでか」
「マジです」
試しに自分の名前と簡単な文章を白紙に書かせてみた。
「初期のレイルの字よりは読める…が」
「子供の字だな。代筆はアローマで」
「お任せ下さい」
「駄目押しに。王都で一番高い香水買って。返信の手紙に微妙に振り掛けること。以上作戦会議終わり!」
「帰ったら忙しくなるから。残り2日たっぷりと満喫してね。喧嘩せずに」
「「はい」」
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今日もラメル君は魚市場で朝からお手伝いと解体補助。メリリー出納帳管理の2次チェック。
主のレイルを呼び出すに至る。
自宅を中継してやって参りましたスフィンスラーの16層。
ギミックが一番簡易で広かった層を選択した。
貴金属を排出したゴーレムがうっかり出ないかと密かに期待してたのは俺だけじゃない筈。
レイルの影から引っ張り出された天然?蛇肌の女体。全身グレーのそいつがプレドラだった。
こちらは既に完全武装で待機。
「私の壁を破るとは。やるわね吸血姫」
「ほぉ。完落ちまでには至って居らんかったか」
出掛けに腹を蹴られたプレドラは腹部を押さえながら飛び退き、大きな蝙蝠の羽を自己で生み出した。
「ここは…迷宮?何処かは知らないけど、好都合。皆殺しにして半魔の女を土産にしてやるわ!!」
丁寧な説明有り難う!!
上にはわんさと倒してないのが目白押しなんですが。
デビルアイのゴッズとかをどうやって倒すお積もりなのでしょう。
やれるもんならやって欲しい。逆に。
真上に飛翔したプレドラは全身各所から炭色の棘を生み出し海胆状に形態を変え、1枚目を放射拡散。
間に浮くレイルは剣と翼で弾き。見物中の俺たちはロープとロイドの銀翼でシールドを展開。
第二波、三波と続き、プレドラが不適に笑い出した。
「さあて。ここには何が居たのかしらね。出なさい!名も知らぬ魔物たちよ!!」
まさかホントに出せるのか!?俄に色めくこちらの6者。
それが焦りだと勘違いした蛇女が高笑い。
無数の棘が突き刺さった地面や側壁に妙な衝撃波を当てた直後。土煙を吸収した表面箇所が蠢き出した。
迫り出し生まれ落ちたこの層の無数のゴーレム。討伐前よりも元気一杯に踊り出した。
やった!素材が出たら大量ゲットだぜ!!
「ゴーレムだったのね!押し潰れるが良いわ!!」
「無機物でも強制したか…」
レイル以外で散開。
俺は聖と風をセットした煉獄剣。クワンは聖と炎をセットしたソラリマ。フィーネはハンマー。ロイドは氷炎斧。グーニャは大きくなって爪と牙。
これがこちらが望んだ状況であると気付いたプレドラが大いに狼狽えた。
「な…。何なのあんたたち!」
ゴーレム再ブレイクに湧く俺たちの中からフィーネを標的に見据え。その背を狙おうと動いた。
が、次の瞬間に開いていたのは己の胸。
「ガハッ」
口から溢れるのは紫色の血。
「妾を置くとは連れんのぉ。馬鹿にするにも程が有るぞよ」
「吸血…姫。何故、人間の味方をしている…」
「味方?」
「あんたに取って。人間は、下賤で矮小な。忌むべき存在の筈…」
開かれた傷口にレイルの左腕が突き刺さった。
「ガァッ…止め…」
「魔石数種と心臓が完全に結合しておるな。道理で剥がれん訳じゃ」
抵抗で生まれる棘を右手の剣で払い退け、プレドラの問いを無視して作業は続行された。
「おね…、止め、て…」
「面倒じゃのぉ。やはり最後はベルの檻を埋めるか。手っ取り早いしの」
右手の剣を浮かせ。小さな檻を取り出し、左腕と交代で檻を突き入れ、胴の中で再構築。
「な…にを…」
「抵抗するだけ痛いぞ」
「ギヒッ…ギャァァァーーー」
「汚らしい声じゃ」
その声が収まると。プレドラの身体を直下の地面に叩き付けて急降下。バウンドで跳ねたプレドラの眉間を持ち替えた剣で刺し貫いた。
白目を剥いて意識を飛ばすプレドラ。
周囲のゴーレムを刻んだレイルは。
「誰が寝て良いと言った。目覚め、そして主の名を告げよ」
全ての傷口が閉じたプレドラは即座に半身を起こし、レイルを前に跪いた。
「お早う御座います。真の主、レイルダール様」
「彼の神の名は告げられぬ様にした。以外。お前の知る情報を全て吐けると誓えるな」
「何なりと。このプレドラ・マウマウ。盟約の名の元にレイルダール様の命に従います」
「今は良い。下が…る前に。再生は後何度出来るのじゃ」
ゴーレムたちが散乱し霧散して行く周囲を見渡し。
「この層では。初期化されるまで二日置きに後三度が限度です。宝の排出確率は徐々に低くなりますが」
「うむ。多少出るならそれで良い。しかし…お前は裸で平気なのかえ」
「長らく全裸で過ごしていたもので。慣れ…ですね」
「裸族か。まあ要らぬ水着と服を貸してやる。下着は後で買いに行くぞよ」
「ハッ!有り難く、拝借致します。…下がらなくても宜しいのですか?」
「さっさと着替えよ。皆に挨拶が先じゃて。もう終わったようじゃしの」
「はい。新たな配下の者たちですね」
「いや。友達じゃ」
出ないと思っていた貴金属をホクホクで回収しながらフィーネと喜び合っていると作業を終えたレイルに呼ばれた。
レイルの後ろで跪き、頭を垂れるプレドラの姿も。
直に見るのは初。あんな姿だったのか。
ダークブラウンの肩までウェーブヘア。レイルに似て透き通る白い肌。タイトな黒ミニワンピの端から覗く水色水着が艶めかしい。
顔を上げた時の瞳の色も焦げ茶色。
「前と随分様子が違うわね」
「性格も真逆で素直に。見た目は妾の好みを加えた。戦闘形態はさっきのじゃな」
「はい。その節は大変なご無礼を。主のご友人のフィーネ様。心まで洗われた様に清々しく、潤沢な幸福感に満ち溢れて居ります」
完全隷属ってこうなるのかぁ。
「へぇ。信用してもいいの?」
「もう妾の従順なペットじゃ。神の名だけ吐けぬ様にした。東に行く時、妾の代わりに連れて盾にでも使えば良い」
「聖剣が怒って飛んで来ない?」
「私も含め。今、東に向かっている部隊も。一度は大陸に渡っています。無用な怒りを買う事は有りません」
「ふーん。色々聞きたい事が山盛りだけど。それは地上でゆっくり聞くとして。さっきの再出現は何度も出来るの?」
「一日に一度切り。この層では二日置きに三度までが限度です。他の層は状況を見てみないと何とも」
ルール破りの裏技だもんな。ベルさんの想定回数とも同じだ。
自己魔力の殆どは芯部魔石から抽出している為。食事や睡眠よりもレイルの影の中で休むのが最も早く充填されると説明してくれた。
「外で飼うと人間二人が嫉妬に狂うてしまう。食事は適当な野菜と果物を影の中に置いてやれば良い」
ちょっと残酷にも聞こえるが。それがレイルなりの配慮なんだろう。
「ブートストライトの果実が大好物です。…スターレン様から匂いがしますので。後で頂けると幸いです」
「嗅覚鋭いな。丁度今日の分配で無くなるから1本だけだぞ」
「はい。因みに種の中の胚も食べられるのはご存じでしたでしょうか」
「マジで?」
「勿論生では食べられた物では有りません。ですが油で揚げたり塩漬けにしたり。一手間加えてやると一変します。
普通の食材が。闇に流れるとお思いですか?」
言われてみれば!
「後で鑑定してみるよ」
「食材に関しても追々ね。情報を整理しながら優先度の高い案件から後で聞くわ。レイルがいいなら手始めに上の15と下の17が何回出来そうか見させたいんだけど」
「ええぞ。暇じゃし、まだ昼前じゃし」
「主のご意向のままに」
結果。15層は後1回。17層は後2回がドロップ限度だそうで。何がどれだけ出るかは倒してみないと不明。
そりゃそうです。
試しに入口から入り直し。人数の増加影響を確認。増えたプレドラの分だけ7色目のゴブリンゴッズ紫が出た。
一度最高設定にされると、難易度は変更されないのが解った。人数判定も入口前と中間層で確定される。
残るは装備判定がどの時点か。これはもう最宮に突入してから探って行くしかない。
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自宅で着替え。王都でプレドラの衣服と衣装ケースを購入してラフドッグに立ち戻り。
ソプランたちとも合流。ラメル君たちがまだ修行中にプレドラから情報を聞き出した。
西大陸の状勢から。
残念ながら指揮系統が分離していて今現在の状況は把握不能。経緯はレイルからの通信を真っ先に傍受したプレドラが慌てて飛んで来た。
西の管理者はプレドラの相方。嘗ての恋人で今は完全なビジネスパートナーのシトルリン・クルイゲラ。
ビジネスかよ…。
中央大陸の現管理者はプレドラ。本来は前勇者と帝国のアンフィスとクインケだったが3人共倒され、急遽着任した形。
北大陸と東大陸襲撃部隊はプレドラ本人が指示を出して動かしたが。各部にリーダー数人を置き。目的を果たすまで西に帰るなと切り離したので現状は未知。
東の目的は俺の動向調査と阻害。に加えて黒竜様の鱗の自力奪取。又は俺の弱みを握って取りに行かせる積もりだった。
東に向かった部隊に優秀な魔道具作成職人を同行させ、竜特効の武装も有りっ丈投入したので必ずしも無謀な挑戦ではないと。
「フィーネ様を捕獲出来ればスターレン様は組織の言い成り。手駒にも生贄にも使える、と考えていましたが。フィーネ様までこれ程手強い相手だったとは。完全に目測誤りで正直驚きました」
「照れるわ」
「俺の方の知名度を上げといたのが上手く働いたな」
中央から西への連絡手段はクエ・イゾルバで破壊されて消失。各地の連絡員が持つ転移具を駆使して直接出向くしか手が無くなった。
俺が聖剣を握る前に本物の凍土の石英と黒竜様の鱗を奪取出来れば、西大陸で儀式を始めて勝敗を決する算段だったと言う内容。
「シトルリンは西から動かないんだな」
「私が墜ちた情報はまだ届いてはいないですから。略単独で動いていました故。それにレイルダール様の娘君。アモン様を抑えるのに必死でそれ処ではないと思われます」
レイルが鼻で笑った。
「嘗め腐りおって」
「申し訳ないとしか…」
南両大陸の教団員は西と東大陸に集約しつつ在り。中央もメレディス方面に逃れた人員が僅かに残るだけだと語った。
「一部除いてこっちの読みと大体同じか。モーランゼアだけスッポリ抜けてるが関わりは無いのか」
「彼の国に関しては詳しく有りません。敵でも味方でもない中立と言えば中立。国の南北に大型の転送装置が有ってクワンジアで敗れた部隊はそれを使いメレディス側へ逃げました。結末を確認する前に捕まったので明言するのは厳しく。
何故使えたのか。強制執行されたのか。内部に入らなければ善しと見做されたのか。
モーランの現世出身であるシトルリンが言うには。あれは人類の救い手でも有り、猛毒でも有る。諸刃の剣だから触れなくて良いと」
含むねぇ。ちょっとした謎掛けだ。
「自分の目で確かめろ、か。流す選択肢は無いな」
「放置するのは不気味ね」
「俺らは行かなくていいんだな」
「初回は逃亡手段を持つ人員だけで。それは変えない。
少なくとも安全確保と確証が得られるまでは。あの国が何を持っていたとしても。この先、中立姿勢を貫いてくれるなら放置でも良いと考えてる。
公式訪問のお誘いを断るのも変だし。招待状の内容如何でまた相談させて」
「了解」
プーリアで宴会に招かれた全員招集も有り得るからな。
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今年の夏休みも残す所3日。
本日にタツリケ隊ご家族と新規招待者を送り返せば後の2日は自分たちの時間。
誰の邪魔も入らず。嫁さんらでサンタギーナに買い物に行ったりスフィンスラーの2,3層目を蹂躙したりした以外は平和に過ごせた。
気になる課題が多い中。ブートストライトの種を幾つか割って鑑定してみた。
名前:ブートストライトの胚
効能:油で揚げる。塩漬けで熟成する等で食用可能
梅酢に漬け込むと最も吸収効率が良い
(漬け込み時間は半日以上)
疲労回復、滋養強壮、魔力回復、思考鮮明、
個人能力向上、精力減退改善、肝機能改善、
万病予防
摂氏50度未満の常温保存で1年は変質無し
以降徐々に劣化
特徴:今日は頑張りたい。そんな方へお勧め
大きな副作用は無くホロ苦い珍味
人間で3歳以上の健康児なら誰でも食べられるが
1日に大量に摂取すると鼻血が出る
(幼児は寝付きが頗る悪くなる為非推奨)
摂取量で効果は変わり無く。1日1粒がお勧め
「おぉ…。強力版のカカオの実って感じだな。揚げた鰻の骨とかと食べると、まんま夜のオヤツだ」
「あらやだ♡」
俺たち以外の大人たちも興味津々。
ラメル君の顔も真っ赤に。
「ま、まあそれぞれ興味有るみたいだから。王都に帰ったら希望者分作ってみるよ。試供品として」
深くは突っ込めない。
各員の顔が朱に染まる中。ロイドだけ浮かない表情。
「私も…。人間の彼氏が欲しいです…」
流れが18禁まっしぐらだ。
「それはとても…。難しい問題だな」
「その話は…。夜にしましょう。うん。2人切りで。ね?」
「お願いします」
ロイドに見合う相手なんて居ないぞ。どしたらええねん。
レイルが軽く咳払い。
「して。迷宮の出物の鑑定は何時するのじゃ」
ナイス路線変更。
「今の所。体格が無視された大型のサーベルと半身鎧と盾と。色々な軟膏に使えるスライムの粘液だけだから。もう少し下層を突破してからにするよ」
「そうかえ」
「何か気になる物でも有った?」
「いや。只の暇潰しじゃ」
「んじゃ。休暇最終日前日の今日は海と川に分けて鮪と鰻釣りに行っちゃおう。行かない人は自由行動で」
だがしかし結局この場の全員参加。
ラメル君が悩ましい。
「どっちも行きたいのですが」
「だったら…。午前鰻釣り。午後は船の周遊で。川釣りもポイントに分かれて皆でアタックすれば早いし。
海深くまで潜れるのはフィーネとグーニャだけで。通常の漁とは懸け離れた物だから参考程度に。デッキから糸垂らせば鰯とか飛魚とか鰹とかも当たるからのんびりと。
今夜はそれらを捌き捲ってお魚パーティーにしよう」
皆さんご納得。
「鮪は何匹目標?一応20匹まではいいよって言われてるけど」
「出張前に北のご様子伺いで献上するから。それを含めて8本以上12前後までにしとこっか」
「そうね。まだ戦闘状態に入ってないみたいだから行くなら今の内だよね。
グーニャを避けつつ。鮪さんを傷付けないように…。頑張ります!」
「ニャ~ン」
蔦の特訓も順調そうで何より。
和気藹々。釣りとクルージングを楽しみ。夜遅くまで飲んで食べて2年目の夏休みは幕を閉じた。
ホテルの食器類を借りてカサゴの丸揚げ、虎河豚の唐揚げと白子焼き、鯛の塩焼きを夕食代わりに鰭酒を嗜む。
実に豪勢な夕食会。
未成年のラメル君にはちょっぴり酒精が入った甘酒を進呈した。
お疲れソプランが。
「やっと終わったぁ、てお前ら昨日もこんな美味えもん食ってたのかよ」
「鯛の塩焼き以外はね。だからちゃんと今日は持ち帰って来たじゃん」
「明日からはタツリケさんたちとクワンジアからの定住者組だから。子供たちだけ固めて遊ばせれば町案内で済むから私たちは全員お休みよ」
「助かるわぁ。いい加減疲れたぜ。鰭酒が染みるぅ」
「監視役も楽ではないですね。ロイド様とクワンティが居なければどうなっていた事やら」
アローマも疲労困憊。
「まあ明日からはゆっくり休んで。そういやアローマはフラーメにあの話はしたの?」
「いえ、まだです。明日こちらに招いてから話そうかと」
「ならヤンも交えて纏めて話するか。新規の車案件で部品発注する可能性大だから。管理棟への挨拶と造船所の見学させる積もりだし」
「そうして頂けると助かります。私だけで話をすると今直ぐ行きたい、とか言い出しそうで」
「短時間、即帰りならクワンに運んで貰って行けん事もないけど…。内容次第かな」
「はい」
「南西へ行くのかえ」
「年内には1回は必ず行くよ。次のモーランゼア遠征前後辺りに」
「ほなら妾たちをサンタギーナに連れて行け」
「あぁ…。あっちの夏トマト?」
「正解じゃ」
満面の笑み。
「どうしよっか」隣のフィーネに。
「ん~。確かに今しか買えないしねぇ。どの道ペカトーレでは最低限の人員で隠密しなきゃだし。同時進行なら私とグーニャで3人をサンタギーナに連れて行くわ。カルも目立つからこっちが良いかも。秋でも良かったら買い物だけ」
「聞いてみてペカトーレ前倒し案は考えよう」
料理が片付き。デザートに竹炭シフォンを提供。
「昨日はバタバタしてて出せなかった竹炭ケーキ。王都に帰ったら同じレシピでラメル君に焼いて貰おう」
「この深くて香ばしい味わい…。勉強させて頂きます」
「炭を混ぜるとこうなるのか。奥が深いのぉ」
「私は絶賛弟ラメル君に対抗心を燃やしてるメリリーさんと何か煮込み料理を作るわ」
「私も頑張らないと。是非ともご教授を」
「食用の魔物肉も使うから。レイルとカルのお口には入らないけど。普通のお肉煮込みの参考にして」
「はい…。食用の魔物肉、ですか?」
「2人は初めてだもんねぇ。別鍋で作るから試してみてよ。口に合わなかったら止めても良いし」
「挑戦してみます」
「私も。ラメルが食べるなら」
「程々にの。お、そうじゃ。プレドラの陥落は成功した。が多少暴れるやも知れぬから。もう一度迷宮へ行く。それも予定に入れて置け」
「意外に早かったな」
「妾を誰じゃと思うておる」
「レイルなら当然か。早めに行けるように調整しとくよ」
外で暴れられても困るしな。
ロンズ宿泊の5人が退出した後。
口数が少なかったロイドが突然。
「スターレン。モーランゼアの件ですが」
「何か有った?」
「出向する人員の予定はどの様に」
「古代樹の杖に似た設備が王都に在るぽいからレイルはアウトでしょ。念の為グーニャもタイラントでお留守番。
ソプランとアローマもお休みさせないと。初回はロイドも待機班か上に戻るか。ペリーニャが私も行くぜってなったら呼ぶかも。
フィーネにも影響有るかもだけど。略人間になってからは平気そうだから問題無いレベルだと考えてる。
自由転移が受理されない可能性も有るから。何にしても俺とフィーネとクワンで物を確認してからだな。ホントに見学だけで終わりそうな気もするし。それが?」
「いえ。そこまでお考えなら何も…」
「私も行かない方がいいの?上の禁忌とかに抵触しないなら先に教えてよ」
「…禁忌とかではなく。1つの懸念です」
「懸念?やっぱ何か有ったんじゃん」
勿体振りやがって。
「怒らないで下さい。モーランゼアに関しては何も見えないのです。只、南端町のプーリアで急遽宴会が催され。数日間拘束されたのが引っ掛かっていて」
「ん…。確かに言われてみれば」
「あれは不自然だったかも。ケイルガード様も早く王都へ帰った方が良くて。私たちも用事が有るからクワンジアへ戻らないといけなかった…」
お皿を下げて貰って打ち合わせ続行。
「俺たちは兎も角。あのレイルが一緒に居て別段何も感じていなかったのを考慮すると」
「クワンジアに居た組織の残党が。北に抜け切るのを待っていた、とか」
「ケイルガード様も含め。中立って言いながらモーランゼアも組織に加担してたって事になるのか」
「王都ハーメリンで、何かしらの罠を張っているのではないのかと」
「考えますニャ~。敵も」
「クワァ…」
クワンは追加で。
「宴会中に南部の町の上を偵察していても怪しい集団は見掛けませんでした。平常時の様子そのもので。付け加えるとプーリアの北側に布陣していた以外。大規模な軍事行動も起きていなかったです」
「代理王をお出迎えするにはお粗末だな。逆手に見ると内通してたからこそ、ケイルガード様のあの余裕振りだったのかも知れない」
「裏取られてるぽいね。私を欺くなんて飛んだペテン師。それとも平常心を保てる道具を身に着けてたのかしら」
「用心に越した事はないかと思いまして」
「良い物あるぜって俺とペリーニャを誘ったんなら。初回は古竜の泪を持ってる俺とクワンだけで行った方が良さそうだな」
「致し方なし。ペリーニャには種回収の時に話して引き留めるわ。それと…浮気したら許さないから」
「もうちょっとだけ信じてよ…。一応モーランゼアは表向き健全な国って言われてるんだしさ」
クワンも一鳴き。
「あたしがしっかり見張って置きますよ。接近する悪い虫のお尻を囓ります」
「お願いね。クワンティ」
そっちの心配の方が優先度高いんかい。
「別のお話ですが。個人的にペリーニャさんから頼まれていた物をお渡ししたいので。フィーネが行く時に連れて行って下さい」
何だろ。こないだの買い物の奴か。
「女同士の秘密です。因みにフィーネにも内緒です」
「えー酷くない?私だけ除け者なんて」
「どうしてもと言うなら御本人にお聞き下さい。答えてはくれないと思いますが」
「そこまでではないよ。誰にだって秘密にしたい事位有るんだし」
人間だもの。俺の秘密は全部ロイドに握られてしまっているのだが…。
「所でロイドとレイルに渡した転移道具はやっぱり使えないの?」
「元が空中では発動しませんし。移動距離に制限が掛かる様です。凡そ1km内。連発して魔力を消費するより翼を広げた方が早く。レイルさんも似た様な物だと」
「上位種族は制限有るんだな。逆に安心したと言うか何と言うか微妙だけど」
「シュルツ分の転移道具は新しく作ろうか。ペリーニャへの用事も出来るだけ纏めて済ませたいし」
「グズグズしてると手遅れになるしな。明日俺が送迎してる間にサクッと作って貰ってよ」
「うん。そうする」
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翌朝お出掛け前に。コンシェルジュさんを呼んで旅行鞄を吟味中。
普通収納の大きな鞄を。
大きさや型はまちまち。色は黒、茶、灰、白、赤の革製品5色。
「なんでまた鞄を?」
「今後も単独出張とか有り得るなと思って。腰巻きバッグだけだと仕事で飛び回ってる感が出ない。クワンが気軽に翼を伸ばせる枕台としても便利かなぁと」
「確かに。じゃあ私も…」
セルジュさんが珍しく先手を。
「申し訳有りません!水色や青皮は何処を探しても見付からず。商品のご用意が困難です。何卒ご容赦を」
「だ、大丈夫ですよ。そんな我が儘言いません。スタンさんが選んだ物以外で選ぶから、早く決めて」
「無難にシックな茶色で。簡易鍵も付いてるし。お仕事感出そう」
「じゃ、私は白で。カルは共用でいいよね?」
「構いません。一般品なら王都でも買えますし」
そうなんです。エリュダー商団製のオリジナル高級品はホテルに泊まらないと買えない(貰えない)んです。
ロンズではやってないサービスだからレイルには内緒。
王都自宅で嫁たちと分かれ。グーニャを頭に乗せ。ソプランを連れてヤンとフラーメを拾い、ハイネへ移動。
ハイマン一家とタツリケ隊ご家族と合流したのだが…。
理由不明で。トム君を筆頭としたギャボン商隊の少年少女とアレハ君率いるタツリケ隊の子供たちが睨み合いの喧嘩を始めていた。
関係者を同じ区域に固めていた弊害か?
集合場所の近くで小競り合いを。
離れて見守るハイマンに事情を尋ねた。
「何これ?なんで喧嘩してるの?」
「これはスターレン様。集合時間間近だと言うのに…。家の馬鹿がご近所の子供たちに自慢をしてしまって。怒ったトム君が友達を集め。アレハも負けじとタツリケ隊の子供たちを。であの有様です」
「あぁ。はいいけど。なんで止めないの?」
「こう言うのは大人が下手に止めると後を引き摺る物なんですよ。殴り合いまではやらせてみようかと」
ふむ。大体事情は把握した。
タツリケ隊の大人たちを振り返り。
「アレハが一番年下に見えるけど。いいの?」
タツリケ氏が。
「後ろは面白がって組んでるだけだな。家の娘はアレハ君を気に入ってるようで。親としては複雑な…。しかし外出ばかりで構ってやれなかった負い目も有って。強くは言えない立場で」
「子育てした事無いから解らんけども。それはこれから取り戻そうよ。今回でも話す時間有るでしょ」
タツリケ氏の奥さんも。
「もっと言ってやって下さいな。娘の事となると天でダメ亭主になってしまって。情けない…」
「それを言わんでくれ」
奥さんと娘に頭が上がらないダメ親父の図。よく有る日常ですな。
先頭に立つトムとアレハが掴み合った所で分立捕縛。
「はい終わりー」
「「スターレン様!?」」
今気付いたんかね。
「トムはここでは先輩だろ。それにラフドッグなら仕事や休暇で何度も行ってるんだし。一々挑発に乗るな。
アレハは罪無い人様に暴力は振わないって俺との約束を忘れたのか?こんな簡単に破るんだな」
「御免なさい。スターレン様に運んで貰えるって自慢されて我慢出来なくて…」
「ごめん…なさい。楽しみで嬉しくて、つい」
調子に乗り易いのも子供らしさ。はて、どうしたもんか。
反対後方で見守っていたトーマスさんを発見。
「トム君夕方迄ラフドッグで遊ばせてもいい?」
「え!?」
「店は人手も増えましたので。一日位なら…て連れて行って貰えるんですか?」
「物は序でさ」
ギャボン商隊の子供たちにも。
「行きたい人。挙手!」
全員即応挙手!
「じゃあ俺の時計で20分待ってるから。なる早で外出許可と着替え一式持って。今日手の空いてる親御さん何人か連れて来て!トムも浜辺で遊ぶなら着替え持って来な」
「はーい!」
ギャボン隊員一時解散。
アレハたちに向き直って。
「トムたちは自分のお小遣いは自分で稼いでる。お店や親の仕事の手伝いをして。アレハの今日のお小遣いはいったい誰が稼いだお金なんだ?教えてくれ」
「…お父さんから、貰った」
他の子も同じ様子。
「正直なのは良いな。でも普通の旅には移動にも費用が掛かってる。馬車の馬代と餌、御者の人権費、護衛料、水や食料。病気や怪我をしたら薬代も。それらを俺が一括で支払ってるようなもんだ。
それをなんでアレハが人に自慢出来るんだ?」
「ごめん…。僕…」
泣かせてしもた。
「泣くなよこれから遊びに行くのに。何かの形で反省を示したいか」
「う、うん…」
「良く言った!」
大判の白紙を掲げて。
「君たち全員。今日から3日間の滞在中に見た物聞いた事など。海の船、漁師さんや市場の仕事。何でもいいから500字以上の感じたままの感想を書いて。帰って来てから3日以内に俺に提出!」
「えぇ…」
「えぇ、じゃない。その報告書を労働とし。アレハを止めなかった連帯責任とする。未提出だったり白紙で提出した場合。さっきの移動費用の補填として、その親の毎月のお給料を3ヶ月間減額します!減額幅は俺の気分次第」
「そんなぁ…」
「て言うなら迷わず書け。これが仕事ってもんだ。嬉しさの余り旅先で誰かも知らない他人にうっかり口を滑らせてしまう。さっきのアレハの自慢と一緒。
口の軽い奴は誰からも信用されないし。大きな仕事も任せて貰えない。
同じ所属の仲間に自分の手柄を自慢して喧嘩する。そんな事をする奴はアホだ!解ったか!!」
「はい!!」
「返事は良し。沢山遊んで色々な物を見て忘れない内に書き留める。それが仕事の初歩の初歩。文字が書けないなら教え合う。算術が苦手なら出来る子と共に頭を捻る。
それでも駄目なら親に聞く。助け合える仲間や友達は大切にしろ。簡単に群れを作って喧嘩なんかするな。
誰も得しないぞ!」
「はい!」
「よーし。今回は別行動させるが。アレハはトムに後で謝って仲直りをするように」
「はい…」
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夕方前に遊び疲れたトム君たちをハイネに帰し。ペリーニャとの打ち合わせを終えたフィーネとロイドも合流。
レイルたちは市場で顔馴染みになったおっちゃんや班長さんたちと奥さん連中を交えて飲み会を開くそうな。
そっちも楽しそう…。
新転移道具はフィーネとアローマが試し打ちして無事シュルツに授与されたと言う話。これで一安心。
移動は国内限定でも多方に逃げられる手段を得られたのは大きい。本人のテストも一発でクリア。
夕食にフラーメとヤンを招き。食後に帰郷の話を切り出した。
「ヤンは半分仕事で来て貰ってるけど。フラーメの南の話は何処までしてるの?」
「いやそれは。まだ何も」
まだ?全然?一緒じゃない方が良かったのか。
「南の話?なんだいそれは」
「ごめん。聞かれて拙かったなら謝る。ヤンは俺に免じて聞かなかった…ことには出来んよなぁ」
「残念ですが出来ませんね。フラーメは何時もこうなんですよ昔から。自分の秘密は隠す癖に俺には正直者で居ろとか何とか」
「そんなんじゃないって。ちゃんと後から話す積もりだったの」
「いや大事なら事前に話せよ。俺との結婚を断ったのと何か関係有るのか?」
んん?断ったの?
「違うって。もう少し待ってって話をしたでしょ」
「この通り。訳を聞いても教えてくれないんです。半分以上その積もりで。残りは仕事で。覚悟して国を捨てて来たのに。タイラントに来る前と後では大違い。他に好きな男が出来たのか?」
「違う!それだけは違う。これ以上話を拗らせないで」
「落ち着いて下さい。話が先に進みません。お二人の貴重なお時間を割いている事をお忘れ無く」
「済みません。少々熱くなりまして」
「悪かったよ…。ちょっと話がややこしくてね。アローマとヤンにどう切り出せばいいか悩んでる内に今って感じさ」
そう話すと道具袋の中から一通の封書を取り出してテーブルの上に置き。俺の方へ差し出した。
「読み上げていいの?」
「頼むよ。私には意味不明でね。いや、理解したくない」
「そんなに?では指名に預かって」
軽くお茶を飲んで便箋を開いて読み上げた。
「~拝啓。麗しのフラーメ・タタラ嬢~
余はマキシタン・ザムド。
現大統領キタンの三男に当たる。役職は内務大臣次官級である。
貴嬢には記憶に薄いやも知れぬが。幼少期に数回は顔を合せている。
結論。貴嬢は余の許嫁である。
事業に失敗したタタラ家は。当家に莫大な借金を残したまま血縁者だけで国外逃亡した。
借金は当家が消化した故利息も残ってはいない。
しかし誓約書に結ばれた許嫁が生きていたとなっては話は別だ。
クワンジアでの闘技大会。女性部門の準優勝は賛辞に値する。
その賞金では一部にしか満たない。
この書は。嘗ての借金を完済するか、許嫁として余の元に戻るかの督促を兼ねている。
噂では妹君も最近見付かったと聞く。
余も穏便に事を済ませたい。
期日は問わず。一度、来国されたし。
四方や逃亡するとは思わないが懸命な判断を望む」
「それが届いたのがクワンジアを出る三日前さ。
準優勝して。私の名前がペカトーレまで届いちまった。メレディスの奴らが抜けてなければとっくに降りられたのに逆運に恵まれなかったよ」
「私の情報まで嗅ぎ付けられた」
「アローマのは。多分クワンジアで切った元傭兵仲間の報復だろうねぇ。どうせ近付いて来た隠者に小銭で買われたんだろ」
「どうするんだ?」
ヤンが不安げに問うた。
「どうするもこうするも。借用書も無ければ総額も書いてないんだ。一度向こうに行って話をして来る。だからアローマにやんわり話して誰かに運んで貰えれば。後は自分一人でやる積もりだった。
アローマの名前と面はまだ割れてない。犠牲は私だけで済むって寸法さ」
「それでどうやって後から説明する積もりだったんだ!」
ヤンがテーブルを叩き、カップが震えた。
「行く前には話したって」
「そうやって何時も何時も一人で勝手に決めて。スターレン様。お願いします。俺も一緒に連れて行って下さい」
「待て待て。交渉事は熱くなった方が負けるもんだ。まず誓約書。そこに商業ギルドの証印が無ければ無効化出来る可能性が有る。
次に借金の元金と返済期間から利子が正当か不当かを判断する。総額が不当ならそこを突ける。
俺が後ろに付いてるから細かい点は任せて。
熱くなって暴力沙汰にするのは愚の極み。大統領の子息に危害を加えれば一生ペカトーレから出られない。
拷問されてアローマも直ぐに暴かれる。
残念な話。マキシタンと言えばサンタギーナのお姫様が肖像画を見て縁談を断った程の不細工でデブだ。許嫁ってのも捏ち上げの可能性も有る。
誓約書が改竄されたかどうかを見破れる道具も、今借りっぱなしで返してない」
落ち着いた2人が座り直したのを見て。
「フラーメはアローマの大切な姉。ヤンはこれからどんどん仕事をして貰いたい仲間だ。どっちも手放したくない。
大会の準優勝の賞金が共通金貨2万枚。それが総額の一部にも満たないんじゃなくて。一部にしか満たないと書いて有る。ざっと百倍だとしても200万。
その程度なら俺が帳消しにして。ヤンとフラーメが仕事をしながら返してくれればいいんだよ」
「そんな法外な額。返済に何年掛かるか…」
「タイラント内で動いてる大規模な事業案件の殆どに俺とフィーネが関わってて。その主幹金属部品の加工製造を任せたいと考えてる。熟練工がデニーロさんだけじゃとても手が足りない。そう思ったからこそ勧誘したんだ。
軌道に乗るまで数年。乗りさえすれば1年も掛からずチャラさ。それ位の利潤が軽く出せる事業が幾つも始まってるんだ。この国ではね」
「要するにお金で解決出来るなら任せろってことよ」
「拾って貰って。何の役にも立ってないのに。直ぐに頼っちまってもいいのかい?」
「いいっていいって。朝にも俺が子供たちに話したろ。
これからタイラントは世界に先駆けて最先端の独自文化を築いて行く。そんな中で最も重要な機密情報。それをどれだけ守り。漏洩しないさせない信用の置ける人材。その人材を集められるかで命運が決まる。
その一員に2人が成って欲しいと願って。必ず為せると信じてる」
「そんな激流に。飛び込んでいたんですね」
「世界を飲み込む程の大渦さ」
その前に乗り越えなきゃいけない大きな壁が多々有るが。
「出しゃばりました。交渉は不得手ですので俺が行くのは止めます。フラーメの事を頼みます」
「頼まれた。今後フラーメは外でのお酒は控えような。口の滑りが抑えられないなら」
「一生外では飲めないねぇ」
自信持って欲しい。
「じゃ。明日サクッと潰しに行こうか」
「あ、明日!?」
「ちょっと秋に帰って来られるか自信無くなって来たから面倒事は早めに。フラーメ、サマードレス持ってる?」
「ごめん…。一着も、無い。結婚式のドレスはぼんやり考えてたけど。この件でキャンセルしちゃった」
「フラーメ…」
「そっからかぁ。なら明日は止め。身形も交渉の一環だから。豪華に行かないと相手に嘗められる。後、口調と立ち居振る舞いも」
「頑張るよ…。いえ、頑張ります」
「まあ挨拶だけはしっかり練習しといて。交渉は秘書の俺がやるから。アローマは週明けからドレス選びとトーラスさんの店で装飾品選びを手伝ってあげて」
「畏まりました」
「ドレスの色は挑戦的な赤を基調に2着。装飾品は金で揃えて。ヤンはプラチナで結婚指輪を自作。ゴツゴツせず愛を込めて。その指輪で彼女を守れるかもって考えれば製作意欲も増すでしょ」
「小物は初ですが。そんな甘えは捨てて精一杯作ります」
「全部揃ったら。その週の翌々週に伺う旨を商業ギルド経由でキッタントゥーレの首相官邸に送ること。俺は出張中でも待機組のアローマやフィーネから連絡取れるから必ず戻る。そんなとこかな。何か質問は」
フラーメが恐る恐る挙手。
「私、字が下手クソなんですけど…」
「マジでか」
「マジです」
試しに自分の名前と簡単な文章を白紙に書かせてみた。
「初期のレイルの字よりは読める…が」
「子供の字だな。代筆はアローマで」
「お任せ下さい」
「駄目押しに。王都で一番高い香水買って。返信の手紙に微妙に振り掛けること。以上作戦会議終わり!」
「帰ったら忙しくなるから。残り2日たっぷりと満喫してね。喧嘩せずに」
「「はい」」
---------------
今日もラメル君は魚市場で朝からお手伝いと解体補助。メリリー出納帳管理の2次チェック。
主のレイルを呼び出すに至る。
自宅を中継してやって参りましたスフィンスラーの16層。
ギミックが一番簡易で広かった層を選択した。
貴金属を排出したゴーレムがうっかり出ないかと密かに期待してたのは俺だけじゃない筈。
レイルの影から引っ張り出された天然?蛇肌の女体。全身グレーのそいつがプレドラだった。
こちらは既に完全武装で待機。
「私の壁を破るとは。やるわね吸血姫」
「ほぉ。完落ちまでには至って居らんかったか」
出掛けに腹を蹴られたプレドラは腹部を押さえながら飛び退き、大きな蝙蝠の羽を自己で生み出した。
「ここは…迷宮?何処かは知らないけど、好都合。皆殺しにして半魔の女を土産にしてやるわ!!」
丁寧な説明有り難う!!
上にはわんさと倒してないのが目白押しなんですが。
デビルアイのゴッズとかをどうやって倒すお積もりなのでしょう。
やれるもんならやって欲しい。逆に。
真上に飛翔したプレドラは全身各所から炭色の棘を生み出し海胆状に形態を変え、1枚目を放射拡散。
間に浮くレイルは剣と翼で弾き。見物中の俺たちはロープとロイドの銀翼でシールドを展開。
第二波、三波と続き、プレドラが不適に笑い出した。
「さあて。ここには何が居たのかしらね。出なさい!名も知らぬ魔物たちよ!!」
まさかホントに出せるのか!?俄に色めくこちらの6者。
それが焦りだと勘違いした蛇女が高笑い。
無数の棘が突き刺さった地面や側壁に妙な衝撃波を当てた直後。土煙を吸収した表面箇所が蠢き出した。
迫り出し生まれ落ちたこの層の無数のゴーレム。討伐前よりも元気一杯に踊り出した。
やった!素材が出たら大量ゲットだぜ!!
「ゴーレムだったのね!押し潰れるが良いわ!!」
「無機物でも強制したか…」
レイル以外で散開。
俺は聖と風をセットした煉獄剣。クワンは聖と炎をセットしたソラリマ。フィーネはハンマー。ロイドは氷炎斧。グーニャは大きくなって爪と牙。
これがこちらが望んだ状況であると気付いたプレドラが大いに狼狽えた。
「な…。何なのあんたたち!」
ゴーレム再ブレイクに湧く俺たちの中からフィーネを標的に見据え。その背を狙おうと動いた。
が、次の瞬間に開いていたのは己の胸。
「ガハッ」
口から溢れるのは紫色の血。
「妾を置くとは連れんのぉ。馬鹿にするにも程が有るぞよ」
「吸血…姫。何故、人間の味方をしている…」
「味方?」
「あんたに取って。人間は、下賤で矮小な。忌むべき存在の筈…」
開かれた傷口にレイルの左腕が突き刺さった。
「ガァッ…止め…」
「魔石数種と心臓が完全に結合しておるな。道理で剥がれん訳じゃ」
抵抗で生まれる棘を右手の剣で払い退け、プレドラの問いを無視して作業は続行された。
「おね…、止め、て…」
「面倒じゃのぉ。やはり最後はベルの檻を埋めるか。手っ取り早いしの」
右手の剣を浮かせ。小さな檻を取り出し、左腕と交代で檻を突き入れ、胴の中で再構築。
「な…にを…」
「抵抗するだけ痛いぞ」
「ギヒッ…ギャァァァーーー」
「汚らしい声じゃ」
その声が収まると。プレドラの身体を直下の地面に叩き付けて急降下。バウンドで跳ねたプレドラの眉間を持ち替えた剣で刺し貫いた。
白目を剥いて意識を飛ばすプレドラ。
周囲のゴーレムを刻んだレイルは。
「誰が寝て良いと言った。目覚め、そして主の名を告げよ」
全ての傷口が閉じたプレドラは即座に半身を起こし、レイルを前に跪いた。
「お早う御座います。真の主、レイルダール様」
「彼の神の名は告げられぬ様にした。以外。お前の知る情報を全て吐けると誓えるな」
「何なりと。このプレドラ・マウマウ。盟約の名の元にレイルダール様の命に従います」
「今は良い。下が…る前に。再生は後何度出来るのじゃ」
ゴーレムたちが散乱し霧散して行く周囲を見渡し。
「この層では。初期化されるまで二日置きに後三度が限度です。宝の排出確率は徐々に低くなりますが」
「うむ。多少出るならそれで良い。しかし…お前は裸で平気なのかえ」
「長らく全裸で過ごしていたもので。慣れ…ですね」
「裸族か。まあ要らぬ水着と服を貸してやる。下着は後で買いに行くぞよ」
「ハッ!有り難く、拝借致します。…下がらなくても宜しいのですか?」
「さっさと着替えよ。皆に挨拶が先じゃて。もう終わったようじゃしの」
「はい。新たな配下の者たちですね」
「いや。友達じゃ」
出ないと思っていた貴金属をホクホクで回収しながらフィーネと喜び合っていると作業を終えたレイルに呼ばれた。
レイルの後ろで跪き、頭を垂れるプレドラの姿も。
直に見るのは初。あんな姿だったのか。
ダークブラウンの肩までウェーブヘア。レイルに似て透き通る白い肌。タイトな黒ミニワンピの端から覗く水色水着が艶めかしい。
顔を上げた時の瞳の色も焦げ茶色。
「前と随分様子が違うわね」
「性格も真逆で素直に。見た目は妾の好みを加えた。戦闘形態はさっきのじゃな」
「はい。その節は大変なご無礼を。主のご友人のフィーネ様。心まで洗われた様に清々しく、潤沢な幸福感に満ち溢れて居ります」
完全隷属ってこうなるのかぁ。
「へぇ。信用してもいいの?」
「もう妾の従順なペットじゃ。神の名だけ吐けぬ様にした。東に行く時、妾の代わりに連れて盾にでも使えば良い」
「聖剣が怒って飛んで来ない?」
「私も含め。今、東に向かっている部隊も。一度は大陸に渡っています。無用な怒りを買う事は有りません」
「ふーん。色々聞きたい事が山盛りだけど。それは地上でゆっくり聞くとして。さっきの再出現は何度も出来るの?」
「一日に一度切り。この層では二日置きに三度までが限度です。他の層は状況を見てみないと何とも」
ルール破りの裏技だもんな。ベルさんの想定回数とも同じだ。
自己魔力の殆どは芯部魔石から抽出している為。食事や睡眠よりもレイルの影の中で休むのが最も早く充填されると説明してくれた。
「外で飼うと人間二人が嫉妬に狂うてしまう。食事は適当な野菜と果物を影の中に置いてやれば良い」
ちょっと残酷にも聞こえるが。それがレイルなりの配慮なんだろう。
「ブートストライトの果実が大好物です。…スターレン様から匂いがしますので。後で頂けると幸いです」
「嗅覚鋭いな。丁度今日の分配で無くなるから1本だけだぞ」
「はい。因みに種の中の胚も食べられるのはご存じでしたでしょうか」
「マジで?」
「勿論生では食べられた物では有りません。ですが油で揚げたり塩漬けにしたり。一手間加えてやると一変します。
普通の食材が。闇に流れるとお思いですか?」
言われてみれば!
「後で鑑定してみるよ」
「食材に関しても追々ね。情報を整理しながら優先度の高い案件から後で聞くわ。レイルがいいなら手始めに上の15と下の17が何回出来そうか見させたいんだけど」
「ええぞ。暇じゃし、まだ昼前じゃし」
「主のご意向のままに」
結果。15層は後1回。17層は後2回がドロップ限度だそうで。何がどれだけ出るかは倒してみないと不明。
そりゃそうです。
試しに入口から入り直し。人数の増加影響を確認。増えたプレドラの分だけ7色目のゴブリンゴッズ紫が出た。
一度最高設定にされると、難易度は変更されないのが解った。人数判定も入口前と中間層で確定される。
残るは装備判定がどの時点か。これはもう最宮に突入してから探って行くしかない。
---------------
自宅で着替え。王都でプレドラの衣服と衣装ケースを購入してラフドッグに立ち戻り。
ソプランたちとも合流。ラメル君たちがまだ修行中にプレドラから情報を聞き出した。
西大陸の状勢から。
残念ながら指揮系統が分離していて今現在の状況は把握不能。経緯はレイルからの通信を真っ先に傍受したプレドラが慌てて飛んで来た。
西の管理者はプレドラの相方。嘗ての恋人で今は完全なビジネスパートナーのシトルリン・クルイゲラ。
ビジネスかよ…。
中央大陸の現管理者はプレドラ。本来は前勇者と帝国のアンフィスとクインケだったが3人共倒され、急遽着任した形。
北大陸と東大陸襲撃部隊はプレドラ本人が指示を出して動かしたが。各部にリーダー数人を置き。目的を果たすまで西に帰るなと切り離したので現状は未知。
東の目的は俺の動向調査と阻害。に加えて黒竜様の鱗の自力奪取。又は俺の弱みを握って取りに行かせる積もりだった。
東に向かった部隊に優秀な魔道具作成職人を同行させ、竜特効の武装も有りっ丈投入したので必ずしも無謀な挑戦ではないと。
「フィーネ様を捕獲出来ればスターレン様は組織の言い成り。手駒にも生贄にも使える、と考えていましたが。フィーネ様までこれ程手強い相手だったとは。完全に目測誤りで正直驚きました」
「照れるわ」
「俺の方の知名度を上げといたのが上手く働いたな」
中央から西への連絡手段はクエ・イゾルバで破壊されて消失。各地の連絡員が持つ転移具を駆使して直接出向くしか手が無くなった。
俺が聖剣を握る前に本物の凍土の石英と黒竜様の鱗を奪取出来れば、西大陸で儀式を始めて勝敗を決する算段だったと言う内容。
「シトルリンは西から動かないんだな」
「私が墜ちた情報はまだ届いてはいないですから。略単独で動いていました故。それにレイルダール様の娘君。アモン様を抑えるのに必死でそれ処ではないと思われます」
レイルが鼻で笑った。
「嘗め腐りおって」
「申し訳ないとしか…」
南両大陸の教団員は西と東大陸に集約しつつ在り。中央もメレディス方面に逃れた人員が僅かに残るだけだと語った。
「一部除いてこっちの読みと大体同じか。モーランゼアだけスッポリ抜けてるが関わりは無いのか」
「彼の国に関しては詳しく有りません。敵でも味方でもない中立と言えば中立。国の南北に大型の転送装置が有ってクワンジアで敗れた部隊はそれを使いメレディス側へ逃げました。結末を確認する前に捕まったので明言するのは厳しく。
何故使えたのか。強制執行されたのか。内部に入らなければ善しと見做されたのか。
モーランの現世出身であるシトルリンが言うには。あれは人類の救い手でも有り、猛毒でも有る。諸刃の剣だから触れなくて良いと」
含むねぇ。ちょっとした謎掛けだ。
「自分の目で確かめろ、か。流す選択肢は無いな」
「放置するのは不気味ね」
「俺らは行かなくていいんだな」
「初回は逃亡手段を持つ人員だけで。それは変えない。
少なくとも安全確保と確証が得られるまでは。あの国が何を持っていたとしても。この先、中立姿勢を貫いてくれるなら放置でも良いと考えてる。
公式訪問のお誘いを断るのも変だし。招待状の内容如何でまた相談させて」
「了解」
プーリアで宴会に招かれた全員招集も有り得るからな。
---------------
今年の夏休みも残す所3日。
本日にタツリケ隊ご家族と新規招待者を送り返せば後の2日は自分たちの時間。
誰の邪魔も入らず。嫁さんらでサンタギーナに買い物に行ったりスフィンスラーの2,3層目を蹂躙したりした以外は平和に過ごせた。
気になる課題が多い中。ブートストライトの種を幾つか割って鑑定してみた。
名前:ブートストライトの胚
効能:油で揚げる。塩漬けで熟成する等で食用可能
梅酢に漬け込むと最も吸収効率が良い
(漬け込み時間は半日以上)
疲労回復、滋養強壮、魔力回復、思考鮮明、
個人能力向上、精力減退改善、肝機能改善、
万病予防
摂氏50度未満の常温保存で1年は変質無し
以降徐々に劣化
特徴:今日は頑張りたい。そんな方へお勧め
大きな副作用は無くホロ苦い珍味
人間で3歳以上の健康児なら誰でも食べられるが
1日に大量に摂取すると鼻血が出る
(幼児は寝付きが頗る悪くなる為非推奨)
摂取量で効果は変わり無く。1日1粒がお勧め
「おぉ…。強力版のカカオの実って感じだな。揚げた鰻の骨とかと食べると、まんま夜のオヤツだ」
「あらやだ♡」
俺たち以外の大人たちも興味津々。
ラメル君の顔も真っ赤に。
「ま、まあそれぞれ興味有るみたいだから。王都に帰ったら希望者分作ってみるよ。試供品として」
深くは突っ込めない。
各員の顔が朱に染まる中。ロイドだけ浮かない表情。
「私も…。人間の彼氏が欲しいです…」
流れが18禁まっしぐらだ。
「それはとても…。難しい問題だな」
「その話は…。夜にしましょう。うん。2人切りで。ね?」
「お願いします」
ロイドに見合う相手なんて居ないぞ。どしたらええねん。
レイルが軽く咳払い。
「して。迷宮の出物の鑑定は何時するのじゃ」
ナイス路線変更。
「今の所。体格が無視された大型のサーベルと半身鎧と盾と。色々な軟膏に使えるスライムの粘液だけだから。もう少し下層を突破してからにするよ」
「そうかえ」
「何か気になる物でも有った?」
「いや。只の暇潰しじゃ」
「んじゃ。休暇最終日前日の今日は海と川に分けて鮪と鰻釣りに行っちゃおう。行かない人は自由行動で」
だがしかし結局この場の全員参加。
ラメル君が悩ましい。
「どっちも行きたいのですが」
「だったら…。午前鰻釣り。午後は船の周遊で。川釣りもポイントに分かれて皆でアタックすれば早いし。
海深くまで潜れるのはフィーネとグーニャだけで。通常の漁とは懸け離れた物だから参考程度に。デッキから糸垂らせば鰯とか飛魚とか鰹とかも当たるからのんびりと。
今夜はそれらを捌き捲ってお魚パーティーにしよう」
皆さんご納得。
「鮪は何匹目標?一応20匹まではいいよって言われてるけど」
「出張前に北のご様子伺いで献上するから。それを含めて8本以上12前後までにしとこっか」
「そうね。まだ戦闘状態に入ってないみたいだから行くなら今の内だよね。
グーニャを避けつつ。鮪さんを傷付けないように…。頑張ります!」
「ニャ~ン」
蔦の特訓も順調そうで何より。
和気藹々。釣りとクルージングを楽しみ。夜遅くまで飲んで食べて2年目の夏休みは幕を閉じた。
10
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