お願いだから俺に構わないで下さい

大味貞世氏

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第176話 宝石探索とお祭り騒ぎ

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久々の~単独任務~♪

のんびりゆったり~。風の趣くままに東へと~。

お弁当の御握りは大切に食べないと。今更ミミズや川魚の躍り食いなんてしたくない。

任務目標は大きな紅いルビー。海賊船の上で打ち割った位の原石が欲しい所。

欲張ってはいけない。今の彫像の一回り大を目指そう。

宝石は山間から川辺の岩場に多いと聞いた。

まずは川の上流を辿り人間が居ない山岳部を探索する。

上空から遙か東に見える大山脈を望む。
あそこまで行ったらモハン・アメリダ。つるっつる滑る苔状の木が生えてる場所。

最終的にはトルーワ・イルメリダへ向かうが産出されると言うだけで大粒が有るとは限らない。

大半採掘されてるだろうし。

手始めにクレコーマインの町を起点にキルワ・アメリダへ入り北上を目指す。

大変大きな目印が東、右翼方向に在るから迷う訳が無い。

キルワの東寄りの上空を旋回。

アッテンハイムに続く細い河が見えた。あれを辿ってみようと思う。

源流近くの岩場。濁った水では川底が見えないから。
探索も晴れた昼間でないと光の反射を見逃してしまう。
天気が崩れたら他の場所を探す。
時差が有るので夜は安全な場所で眠くなったら寝よう。

源流に当たる割と大きな湖が見えた。

付近に人影が無く。動物も疎ら。泳いでる魚も小魚ばかりで丁度良い。ここを起点にしよう。

湖の外周には赤肌の木々が茂り。人が入った形跡の有る獣道が数本。

全く来ない訳では無さそうだ。釣りかな?

木が切り倒され。切り株になっている箇所を発見。人の目的は木だった。

スターレン様も珍しい木や植物を集め出したのであたしも一本。嘴で削り倒して拝借。

だったら先にマードリアンドを探しに行こう。
高度三千mなら大山脈の中腹。どの道今日は時間も半端だし。お腹空いたし。人も少ないだろうし。

幾つもの集落上空を横断。山脈の腹を横から抉るように不時着。したら滑って壁に激突。ちょっぴり痛い。

氷で滑ったのかと思いきや図鑑の絵で見た鮮やかな苔緑の小型の木を見付けた。

どうしてこんな高い場所に?と思える程元気に根を張っていた。

何度も人が居ない事を確認しながら。木の下の氷土を削って木を崖下まで落っことし。五本をパックに収納。収納時も掴めずパックに直付け。

幹の部分までツルツルだなんて…何かの滑台に使えそうな感じ。

湖畔に引き返し。大木の枝の凹みに身体を預け、夕日に染まる湖の水面を眺めた。

木々の赤色も映り込み。相まって血の池みたいに深紅色が揺らめいている。引き摺り込まれそうな怖さと胸の奥が締め付けらるような切なさ。

真にルビー色そのもの。この景色はご主人様たちにも見せてあげたいな。きっと喜んでくれるに違いない。

御握りを半個食べ。あたし専用の口広の水筒から蜜柑ジュースを飲んだ。

ほんのり塩っぱい御握りと甘酸っぱいジュース。相性もバッチリ。モーランゼアでは余り檸檬を栽培してないみたいで少し残念。

今度は蜜柑とオレンジと檸檬を混ぜて貰おう。


暫し目を閉じまた開く。微風に揺れる水面が夜空の星々を映し出した。こっちも良い!

上下の星々。境界は木々だけ。座っていないと何方を飛んでいるのか解らなくなりそう。

動物たちも眠りに入り静けさが増した湖畔。絶対ご主人様を連れて来ようと改めて思う。

上空から眺められる大山脈に続く景色も見せられたらな。

天馬さんの笛かスターレン様の腕輪ならそれも可能かも知れないが何方にも制約が有るのが勿体無い。

ゆったりと流れる星を見下ろしていると。全く動かない星が居る事に気が付いた。

夜光石?夜のお散歩で偶に見掛ける石であたしが勝手に命名した。

昼の光を吸収して夜に輝く。でもあんなに大きな物が沢山集まる場所は初めてだ。

昼間では何の変哲もない唯の石。急いで取りに行こう。

湖の端っこから入り、出来るだけそっと足を掻いた。

光が密集する真上から垂直潜水。大きな物は触らずに中位の物を五つだけ頂戴した。

それでも拾ってみると個々が大きく。スターレン様の掌を越える面積だ。

彫像って…これが素材でも良いのでは?

昼間は普通の石で夜だけ輝く。ルビーで作ると悪い人間が奪いに来る。名案だ!これを素材に提案してみよう。

あぁそうか。女神様のご許可が降りれば素材は何だっていいんだ。

ルビーに拘るのは素材の美しさと硬さと不変性。きっと削り易さや魔力を入れられるのも有る。

ルビー以外も探さなくては。そして夜の景色も見逃してはいけない。遣ること一杯な特別任務だ。

楽しい!使命感で鳩胸一杯。

上空の星々の下。高速ロールで水を切り。大木の凹みであたしは小躍りしながら目を閉じた。




---------------

素材探索二日目。

キルワの湖から北上。

人が居なくなる切れ間を縫いながら。ちょいと際を攻め過ぎたのか数本弓矢が飛んで来た。

自然を愛する温厚な人々でも基本は狩猟民族。生活の糧は必須。だからって丸焼きにされる訳には行かないわ。

任務の嬉しさの余り透明化を怠っていたあたしも悪い。油断は大敵。

高速旋回で途中から透明化を施した。

地上の人々はさぞ驚いただろう。フフッ

「お…おらぁ、なんて事を…。山神様の化身様を矢で射ってしまうなんて…」
ち、違いますけど!?

隣の女性も。
「もう…死んで詫びるしか…」
なんですって!?

ソラリマ!何とかして!
『何とかと言われても…』
今から念を読んであたしの代わりに喋るの!
『まあそれならば』

ソラリマを装備して地に降り。その集団の前で姿を現わした。
「おぉ!化身様が戻られたぞ!さっきよりも白く輝き神々しい…」
「お、お怒りをお鎮め下さい!」
怒ってないのに…。

『我は化身などではない』
「お、お喋りになった!?」
全員その場で平伏した。
『話を聞け。我は別の主を持つ聖獣』
自分で聖獣と名乗るのは恥ずかしい!
「おぉ、なんと!」
『矢で射られた位で怒りはしない。互いに食べて行かねば生きられぬ身。但し、乱獲は止めなさい』
「は、はい!何時も、最低限で!」

『山神様の懐にお邪魔はしているが山を荒らしに来た訳ではない。新しい趣味の一環で。美しく輝く大きな宝石を幾つか頂戴しに来ただけだ』
「ほ、宝石…」
「聖獣様に、その様なご趣味が…」

『放って置くと。人間は根刮ぎ奪い尽くし。金貨、とか言う物に替えてしまう。意味は解らぬが。悪しき欲望に塗れた人間に渡す位なら。我も少し、集めてみようとな』
「な、なるほど…」

『上からのんびり探してはいるが中々無垢の石を見出すのは難しい。人の手が加わり。呪詛で汚された物などは欲しくはない。石の色は問わないから。何処かに原石が集まる場所を知らないか』

「で、でしたら…。こちらの伝承ではありませんが。北方の山奥に宝石の類を好んで飲み込む岩の魔物が棲んでいるそうで。付近を通り掛かった人間や動物まで取り込んでしまうとかで誰も近付けないとか」
良いこと聞いちゃった♡偶には尋ねてみるものね。

隣の女性が。
「名前は確か…。アイアンロック。全身に黒い鋼を纏うとても大きな岩の塊だと。ゴッズ級の魔獣を相手に出来る武具を持った冒険者たちでも倒せなかったと聞いたことが有ります」
まあ何て魅力的。装甲まで硬いなんて。タングステンの塊なのかしら。
『黒い塊なら見付け易い。地中に潜ってなければ少し突いてみようか』

「幾ら聖獣様でも危険では。危を冒さずとも。その近場ならきっとご所望の石が有るのではないかと思います」

『そうとも言えるが。これまで其奴が溜めた物が確実に有るのなら。倒してしまった方が手っ取り早い。生きる者や樹木に害を為す魔獣なら。討伐してしまっても山神様の御心も乱れはすまい。
案ずるな。食べるなら口は開いている。動くなら必ず継ぎ目や隙間は有る。倒す方法は幾らでも有るだろう』

「聖獣様は。賢者様でもあるのですね…」
「聖獣様を。御神体と奉っても宜しいでしょうか」
なんて恥ずかしい!
『為らぬ!山神様とは所属が違うと言うたではないか!御尊を取り違えるな。それから我がアイアンロックに挑みに行ったと流布はするなよ。害悪が居ないと知れればまた人間が荒らしてしまう。発見は時の流れに任せれば良い』

「わ、解りました…」
「大変、失礼しました」

湖畔の南で仕留めた大鹿(お土産)を地面に転がした。
『手間を取らせた詫びだ。血抜きはしてないから早々に持って帰れ』
情報料ね。
「ははぁ!」
「今日は祝宴ね」

『戯けが!今の出来事は忘れ。我の姿を伝承しようものならここから近い村から順に焼き払うと心得よ』
「「心得ました!」」
『まあ宴を開くのは勝手だ。我の話を為ねば良い。それが互いの為になる』
「はい。謹んで感謝と喜びの宴を」

『捧げる相手を間違えるなよ。二度と遭わぬだろうが達者でな』
「せ、責めて聖獣様のお名前を」
『垂れ流す気満々ではないか!!さらばだ』

北に飛んで姿を消した。

ありがとソラリマ。アイアンロック見付けたらまた呼ぶわ。
『うむ。我から二人に伝えれば良いのか』
そうしてくれる?文章で説明するのも手間だし。倒せそうになかったら呼ばなくちゃいけないし。
『容易い。二人はもう二つ目の町に入った。ブーツの性能と相まって。徒歩移動も以前の比ではない』
あらら…。ま、兎に角調べてみるわ。無茶はしなから心配しないでって伝えてね。
『承知』




---------------

四小国内に国境壁は無い。多分谷間や河で棲み分けているんだと思われる。

内部で合戦が行われた痕跡は見当たらないから。仲は悪くなさそう。治安が良いなら往き来もし易いんじゃないかなと印象を受けた。

南部の山間は詳しく調べてないがモハン・アメリダからタイラントへ地上の交易路を結ぶのはかなり難しそうだ。

猫の鉤爪の激流を渡せる船でも有れば…。それでも危険は伴う。普通の人間は飛べないし泳ぐのも困難。

山脈の袂を迂回してマッハリアを経由する道筋も上からでは見えなかったな。

タイラントの闇バザーでもこちらの地方の品が出回ってたらしいから何処かに地下道が通ってる可能性は有る。

スターレン様に報告しなくちゃ。

十中八九コマネさんが知ってそうだけど。


地方の調査はまたにして。今はアイアンロックだ。

キルワを抜けてトルーワ領(と思われる)東寄りを北上中に下方の森で翼を休める野良鳩の集団が居たので聞き込みをしてみた。

「すみませーん。ここから北の辺りで」
「俺の子を孕みに来たのか」
雄って馬鹿ばっかなの?

群れのボスっぽい雄鳩を翼で殴って沈め。近くに居た番さんに聞き直した。
「なんてことをするの!」
「気絶させただけじゃない。鬱陶しいから。あいつ馬鹿そうだから他の雄を探した方がいいわ」
「子供たちの前で適当なこと言わないで!」
「怒らないでよ。ちゃんと生きてるから」
下の地面でピクピクしてる。重傷かな。生きてはいるさ。

「まあ子供たちが巣立ったら考えようかな…」
「それで北方面で。黒くて大きな岩の化け物は見たことないかしら」
「あぁあれね。そいつの近くに美味しい木の実があるんだけど怖くて近付けないのよ。硬い石投げて来るし」
接近し過ぎるのも注意だね。

「方角は真っ直ぐ北でいいの?」
「行くの?方角はここからだと北東向きね。形が良く似た山が二つ並んでて。その真ん中の谷を抜けた先」
「ありがと。倒せたら倒そうと思ってて。木の実も興味が湧いたわ」
「あれを?倒すってあなた本気なの?」
「何事も挑戦よ。失敗したらあたしが死ぬ。それだけでしょ」
「それだけって…」

何か言いたげな番さんを宥めて大きめの蜜柑を五個渡した。
「下のあれが起きる前に皆さんで食べて。西の人間の町で栽培された蜜柑って果物よ。外の皮も食べられるけど苦いだけだから内側の白い薄皮から食べるといいわ。甘酸っぱくて美味しいよ」
「これはご丁寧に、どうも。気を付けて行きなさい。あの黒いのはちょっと手伝えない」

「いいわよ気にしなくて。私には強い味方が何人も居るんだから」
「人?あなた人間に飼われてたのね」
「そんな感じ」

お別れを告げて真っ直ぐ上昇。高度5000m付近から北を見下ろし、視線を東へ移動した。

在る。形がそっくりな双子山が。

あの先にアイアンロックが居る。よし!突撃じゃーするのはご主人様であたしじゃない。

今日は場所を確認して明日挑む。

標的にされてゴッズのように追い掛けられては困る。世の中は広い。無条件転移する魔獣が居たって全く不思議じゃない。中身に何が詰まっているのか解らないんだから。

あの静かな湖畔は守りたい。

接近するのも止めにして。北上しながら徐々に高度を下げて行き。2000m辺りから黒い背を探した。

この距離で岩が飛んで来たら戦闘に入ると決め。

谷間の樹海を抜けた先。ポッカリと開けた空白地帯。

地は崩れ削られ皹割れて。そこに在った筈の木々や沼や土や岩まで飲み込んで。凹んでしまった大地のその真ん中に、黒くて丸い真球体が浮かんでいた…。

何なのアレは…。

ここが迷宮の中ならまだ解る。誰かが創作した魔物なら。

地上にこんな化け物が居たなんて。

離れているのに悪寒が全身を駆け回った。接近するのは危険だと本能が拒絶した。

その姿を目に焼き付け、湖畔に転移して逃げた。


掻き乱された心を静かな景色で癒しながら対策を考えた。

捕食するなら口が有る。それは接近しないと解らない。
動くなら節が有る。それは完全に間違い。
継ぎ目が一切無い金属の球体。最悪変形の可能性を秘めている。

得意の一点突破。弱点が中心に有るかも、ソラリマでも貫通出来るか解らない。
遠くから鑑定して貰う。何の魔石が入っているかも解らず多くの宝石に囲まれていては何も見えないだろう。

斬撃不能。貫通不適。打撃反射、若しくは吸収無効。
弱点属性:聖属性は確定。強いて言えば雷。それ以外は全滅と見るべきだ。

外からの干渉を全捨て。口を開く、飛び込む、内部攻撃。

推定。中は砂、土、水、木、硬度の高い岩、宝石、魔核と魔石。

イメージ的にはスライムと一緒。

飛び込む。内容物で押し潰されて圧死か窒息。

内部から破壊も一瞬の猶予。その一瞬で魔核まで辿り着き粉砕する。

ソラリマのスロットにセットする属性魔石。シザーズリングゴッズから出た風雷の最上位魔石を二つ。

これしか無い!そして…最適者はあたし。

他に有効な武器は大狼様が削った骨槍とレイル様のボナーヘルト以外には浮かばない。

骨槍を装備したロイド様と一緒に突入。幾ら防御力が高くても受け代が大きすぎる。

ボナーヘルトの超震動。到達するまでに何回か死んで下さいとは頼み辛い。事後であたしはレイル様のペットにされてしまう予感がする。

うん!これは自分だけで決めたら怒られる奴だ。

ご主人様に相談しよう。どの道ソラリマのセット魔石を注文した時点で激怒される案件だ。

何だか空の雲行きも怪しいし。合流しよっと…。

メールしてから。




---------------

ザイサルスの宿で。相談希望連絡を送ってくれたクワンと合流して質素な夕食を済ませた後で盛り沢山の報告を聞いた。

グーニャの同時通訳にて。

「成程成程。情報量が半端ないがまずは一言。よくぞ戻ってくれたクワンティ」
「クワッ」
「絶対怒られると思ったニャ」

「怒るどころか泣いちゃうよ私。帰って来てくれてありがとねクワンティ」
「クワァ」

「情報を1つ1つ整理して行こう」

タイラントへの新規交易路。
これは俺も地下道が有ると考えていた。天然の洞窟にしろ何にしろ急ぐ案件ではない。

キルワの赤木とモハンのマードリアンドのゲット。
頼んでなかった物まで取って来てくれて有り難う。マードリアンドの近場に人が居ないなら今後は取り放題だ。
絶滅させてはいけないが。

キルワ東部の昼夕夜全て景色が綺麗な湖。
行ってみたい!

そしてその湖で拾った夜光石…。

「盲点だったぜ。クワン様の言う通り!ルビーに拘る必要性は全くなかった。寧ろそんな高価な物で交換したらモーちゃん家族が狙われる。女神様の許可を得る迄も無くこの石を使わせて貰おう」
「私も物を渡した後の事まで考えてなかった。最近反省ばっかだわ」

「そして問題の黒い球体。今まで出歩いて来た国でそんな不自然な奴が居たなんて読んだ事も聞いた事もない。
小国群内だけで伝わる伝承で。逆を言えばそいつはその場所から一歩も動いてない。自重が異常に重いから動けないのか、浮かされて土地に繋がれているのか。
それは手前の双子山が崩されていない事からも推測出来る」
「吸収量も無限な訳が無いわよね」

「今直ぐに倒せなんてだーれも言ってないけども。内容物には非常に興味が有ります。外装の鋼鉄も含めて」
「私も。だからって欲出して総出で殴り掛かっていい相手じゃない。作戦はクワンティの推論通りだと思うし。それ以外考え付かない」

「ロイドとレイルに死んでくれとは言えないしな。クワン1人を特攻させるのも怖い。レイルに興味有るかとそんな奴知ってたかを聞く前に。明日、離れた場所から鑑定してみよう思うのですが」
「賛成。調べずに話振るのは良くないわ」
「クワッ」
「周辺10km圏内に居るのは小動物と昆虫だけニャン」

「いいねぇ。多少派手に暴れても大丈夫そうだ」
「南側にテント張って。完全武装で行きましょう。念の為カルは呼びます」
「ま、そだね」

呼ばないと怒るよな。
「はい。激怒では済ませませんよ。そして私はその者を存じません」
こわっ。ロイドちゃんでも知らないかぁ。
「私は神ではないもので」




---------------

翌朝早くに町を出てロイドを自宅に呼びに行くと…。

「面白そうな物を相手にするそうじゃな」
レイルが自宅にお越しだった。

「何でまた。ソラリマが伝えたのか?」
『我は何も』

「見ておれば解るじゃろ。別行動のクワンティの方をな」
あらまぁ。
「クワァ…」

「調べてから連絡しようと思ってたのに」
「まだ何も見てないから」

「確証は無いが察しは付いた。妾を連れて行った方が早いぞよ。連れて行かねば飛んで行く」
「解ったって。一緒に連れてくけど。正体知ってるの?」

「妾も実物を見てからじゃ。違う物やも知れぬ」
半信半疑でも興味有りか。


トルーワ東部。双子山の南部の森の合間にコテージを出し全員装備変更。

コテージの中から双眼鏡を構えた。

名前:アイアンロック
特徴:接近すると何でも取り込む魔物
   近場の貴金属や宝石類は勝手に吸引
   攻撃対象には内容物の一部を吐き付ける
   内部空間は超真空状態
   重量・質量に関係無く浮遊
   最初に置かれた場所から移動しない
   現在の収納量:98%

「うわぁ。中身ギッシリ詰まってる。核は中心に有るけど中央に向かって密着してるから内側も隙間無いや」
「しかも超真空って」

「誰が突入しても核に辿り着く前に死ねる」
「クワ…」
「クワンティーでも無理ね」

「あの場から動かないのは確実だから。諦めるかなぁ」
「そうねぇ」

俺が渡した双眼鏡を覗いたレイルが。
「やはりあれじゃったか。魔族時代のベルが拵えた…名前は確か。自動掃除機」
「「掃除機!?」」
「の失敗作じゃな」
お掃除ロボ作ろうとしたのか…。ベルさんも失敗はするんだな。勝手に移動しないだけ良かった。

「近付かなきゃ害は無いから。帰ろうか」

クワンが一鳴き。
「多分北側の森の何処かに美味しい木の実が採れると野良鳩さんから聞きました」
「うーん。木の実欲しさに命賭けるのはなぁ」
「クワァ…」

「倒さんのかえ?」
「倒し方が有るならご教授を」

「妾を誰じゃと。そして、どんな空間だろうとしぶとく生き抜く者が居るじゃろ。のぉプレドラよ」
「ハッ!こちらに」
名を呼ばれ。レイルの後ろに跪いて姿を顕現。

「その手が有ったか!て、なんで全裸!?」
速攻でフィーネに目隠しされた。

「誰が服を脱げと言ったのじゃ!」
「申し訳ありませんレイルダール様。暑かったもので。しかしあれに突入するならどの道服が塵に成るかと…」

「ま、まあな。では行って参れ。中には多くの死骸も入っておるしの。従えて核を破壊せよ」
「仰せのままに!」
元気な声と玄関から出て行く音が聞こえた。

素っ裸で…。警察居たら捕まるぞ!

「スタンはここから双眼鏡で観戦ね」
「えー間近で見たいぃ。どうせプレドラ中入るじゃん」
「ダーメ。出て来たら真っ裸だし」
「チェッ」

俺だけコテージに残されて観戦。

真っ裸(俺の目には服着てる)で野山を疾走するストリーキングことプレドラ。それを各々の移動方法で追い掛ける俺以外。

5分後位に先頭のプレドラが現場に到着。

止まる事無く走り続け。中身を吐かれる前にハイジャンプで球体にタッチダウン。

恐怖心は何処かに置き忘れたようだ。

手が触れた瞬間に外壁に取り込まれ(食べられ)て内部に移動。

砂地や泥を掻き分けて汚泥の中を泳ぐが如く突き進む。

外から中が見えない外野はフィーネの双眼鏡を回して観戦を続けていた。

途中途中で大岩を退かしたり。収納されていた武器を持って暴れてみたり。人間と動物の死骸を合体させて体当たりさせてみたりと結構苦労している様子。

30分程球体内で激闘を繰り返して辿り着いた核手前。

何かの壁が有ったのか近場の武器や死霊を使って手当たり次第に砕き。最後は結構な魔力を武器に注いで核破壊に成功した。

破壊直後に外壁から崩壊が始まり。内容物と一緒にプレドラも地上に落下。上部に在った物に一部身体を傷付けられたが自己再生。

中心付近で立ち上がったプレドラは自分の身体をクンクン嗅いで絶望の表情で何かを叫んだ。多分「臭い!」

それを見たフィーネがバスタブに虹玉の泉を張ってそこへ頭からダイブした。

全身洗浄を終えたプレドラが衣服を着てレイルの影に隠れた段階でフィーネがこちらを向いて両手を振った。

それに手を振り返し、椅子に座ったままで居るとスマホからラブコール。
「返事じゃなくて!こっち来てよ!」
「来るなって言ったり来いって言ったり!どうせ臭いんだろそっち」
「正解!一番大きいバスタブ置きに来て。使えそうな物洗いたいから。鉱石やら貴金属、錆びが入った武器防具、デカい宝石と青砂と硝石と南で採れる金剛石まで有るの。持って帰りたいから許して。お願いダーリン♡」
「許すぜマイハニー!」
チョロい男だぜ俺は。


悪臭漂う中。虹玉を張り替えた大きなバスタブで洗浄作業が始まった。

「レイルはどうすんの?何か持ってく?半分以上プレドラの報酬だけど」
「宝石の原石を貰ってものぉ…。自宅に飾って治安が悪くなるとメリーが困る。宝飾品にしたら幾つか寄越せ。武器や防具は何点か合成に使えそうじゃ。樹脂板とやらは自宅の風呂場に欲しい。詰り今は何も要らん」

「まあ正当な予約だな。解った覚えとく。今日は帰る?ロイドはもうこっちだけど」
「帰るじゃと?」
「レイルも時計が見たいと?」
「解っておるなら聞くでないわ!」
「怒るなよ。小皺が増えて折角の美人が台無しだぞ。王都に戻るのも正規品や硝子細工買ったりするから時間掛けるけどいい?」

「皺なぞは付かん!暇人じゃから付き合ってやろう。工芸品も見たいしの」
「おっけー。レイルも手伝ってくれるなら。樫の木の芯切り出して。その炭も樹脂板の材料だから」
「仕方ないのぉ。妾も後で風呂じゃな。グーニャとクワンティ。指定した樹木を鞭で投げ上げよ」
「ハイニャ!」
「クワッ!」
水魔石はフィーネが溜め込んでるし。樹脂板の材料はこれで揃ったな。


昼過ぎに全ての作業が終わり。コテージの前で水着虹玉露天風呂を堪能。

掃除機区域の北側の森でアーモンドに似た新種の甘い木の実を適度に集め。クワンお勧めの湖畔に移動。

平場にコテージを貼り直して窓の外の景色を眺めながら細やかな打上げ宴会を催した。

洗浄作業しかしてないが…。まあ労働は労働だ。

名前:リゼルモンドの木の実
効能:生で良し、焼いて良し、揚げて良し
   加熱すると甘みが増す
   生だと香りが際立つ
   胃腸虚弱改善、食欲増進、消化機能向上、
   肝機能障害改善
   油脂は化粧品、香水、洗髪料などに使える
   軟膏に混ぜると火傷に効果的
   人体や動物全般にも無害
   美肌効果、体毛保全等全域に使用可能
特徴:油脂は木材との親和性も強く
   艶出し、防腐、着樹などの裏技も有る

「これもメッチャ使い道有る。ココナッツに爽やかさを足したみたいな香りだな」
「全部食べずに栽培してみようよ」
「小型の木だったから時間も掛からなそうだけど…。今プリタ博士に頼むのは酷だから。カメノスさんに丸投げしようか」
「そうね。自分たちで観察してる暇全然無かったわ。化粧品や医薬品ならペルシェさんだし。それで行こう」

栽培に失敗したら数本だけ木を貰いに来よう。

木の実を粗く砕いて肉味噌野菜炒めに和えたら、そりゃあもう絶品のお摘まみに進化。酒でも白飯でも!

「良い拾い物をしたのぉ。やはり妾のペットになら」
「クワッ」
フィーネの膝の上に蹲った。
「嫌だって言ってるでしょ!レ」
「じょ、冗談じゃて」


真っ赤に染まる景色や漆黒に浮かぶ逆星に心奪われて。

クワンも俺たちも少しだけ成長出来た旅の一幕。
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9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

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「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

俺が死んでから始まる物語

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高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

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親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

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