お願いだから俺に構わないで下さい

大味貞世氏

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第193話 試作時計とミーシャペアの縁談話

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必要分の鈴蘭を手に。

お隣からセルダ一家を招いてロロシュ邸を出発。
勿論安全な馬車で。

途中の北城門の兵舎でメドベドとカンナをピック。

ガードナーデ家へ立ち寄り共同墓地参り。

皆各々のお墓の前で祈りを捧げた。

対象が3人なのは俺とフィーネペアのみ。それぞれ丁寧に暮れのご挨拶を。

月命日に伺うのはまだ辛く。

ふざけて生きてはいけないなと心を改めた。


兵舎で仕事が有るメドベドをガードナーデ家前で下ろしてそのままのんびり昼食会に招かれた。

無事にご懐妊が確定したカンナペアが今何処に住んでるのの話題が上がり。ライラが暮らしていた2区の借家だとの回答を得られた。

驚いた俺たちを見てライラが。
「ご安心を。お二人が借りていた家も含め。あの一帯の借家は全て改装されて音漏れ対策は万全です。
軍部の関係者家族しか居ませんし。カンナさんも何か有ればご近所さんに救援を求めて下さいね」
「はい。手厚い配慮を頂けて光栄です」

「体調の良い時にこちらへも気軽に遊びに来て下さいね。暫くは私も常駐ですから」
「ライラ先輩の助言を頂きに伺います。友人として」

「任せない。何ならここへ越しても良いんですよ。部屋は有り余ってるんで」
「それは厚かまし過ぎかと。メドベドも気い使いなもので」
「そうなんですね。意外」
カンナは心中複雑。知らぬはライラばかりなり。

「これも縁やね。俺たちが借りてた方は誰が使ってるの?」
「私も気になる」

「あそこは大人気物件なんですよ。お二人のお陰で。今はギークとエナンシャの組が使ってますね」
「「へぇ」」
身近な人物で固め打ちになってるんだな。

今俺たちは広い方の食堂にお邪魔しているのだが…。部屋の片隅でロロシュ氏とシュルツがアンネちゃんの抱っこ権を奪い合っていた。
「御爺様。早く私も」
「まだ良いだろ。もう少し。血の繋がりは無くともこの子の名を聞くと他人とは思えぬ。連れて帰ろうか」
「名案ですね」
「何を仰ってるんですか!」
ライラちょいオコ。母の荒声を聞いたアンネちゃんがグズり始めた。
「おー良し良し。怖くないぞぉ」
赤ん坊をあやすロロシュ氏。大変貴重な光景だ。きっとギサラ君にもメロメロなんだろう。


庭で遊ぶプラムとソイと少し遊び。木の実拾いが大変ですとお嘆きのセルダさんとお腹が目立つようになったキャライを戦地へ個別便で送還。

後数日の辛抱ですよと伝え。

昨夕。自宅ソファーで戦利品を胸に撃沈していたメリリーなどの様子を見ると相当大変な様子。

自宅裏はもう10粒前後で安定推移。日割りで30。水だけで何処まで持つのやら。


ロロシュ邸に帰った後。ティータイムを挟み。ロロシュ立ち会いの元で試作時計を検分。

斜めにしたり、逆さに返したり。東大陸の獄炎洞窟やスフィンスラー内部に飛んだりして時差修正の機動も確認。

怒濤の懐中時計と1秒標準器を両脇に並べて。

「ちょっと動かしても止まらない。東大陸南部や南東の迷宮内部でも時差修正は懐中時計とピッタリ同じ。戻ってからの針位置もサメリー工房製の時計と同一。
うん。いいな。これで行こう」

前回木組みした時よりも薄くなった時計の背中を開けロロシュ氏に見せた。
「どうです?何かご意見は」
「どうかと問われてもな」
繁々と前や内部を眺め、顎をポリポリ。
「真面に中身を見たのも始めてだ。スターレン君が納得したならそれで良い。元々の分解品を並べてくれ。違いが見たい」
「おっと忘れてた」

フリメニー工房の中型分解品をシュルツが並べてご説明。
「歯車の材質は同じアルミ材です。が!歯はガッタガタで厚みも無駄に分厚く前後の平行も微妙にズレています。
一般には見えない内部なので油断も有るのでしょうが最早怒りを覚えるレベルです。こんな物が金千枚近くで売られていたなんて」
「ほぉ。それは詐欺だな。試作品の背から見ても一目瞭然で丸で別物だ」

「職種違いのヤンさんとデニーロさんの知見と技術が入っただけでここまで縮小出来ました。モーランゼアではいったい何を勉強されているのか疑問です」
「フリメニー工房全体のやる気が低下してるんだよ。売っても売っても下には金が入らなくて。研究や勉強する意欲も失せてさ」
「あんまり苛めないであげて。悪いのは頭のフリーメイなんだから」
「それは解りますけど…」

「利益ばかりを追求して独占しようとすると大概こうなる。良い反面教師だと思うことだな」
「はい…」

「試作品に関して文句は無い。話は変わるが本棟のロビーに置いたのは…」
「解ってます。次行った時に他の最上級買って入替える予定です。あの時は台数無くて取り敢えず」
「ならば良い。金が無いなら入れるが」

「それは大丈夫です。クワンジアのバザーで貰ったのが1割近くも残ってますし。
所でどっちが良いですかね。て、ちょっと自宅に移動しますか。リビング奥に並べた物なんで」
「あれだったか。詳しく見よう」

「私そろそろミーシャ連れて来る」
「宜しく。ロロシュさんに選んで貰ったら俺もメルケル呼ぶから」

作業台の上を片付けて移動。

2つ並んだ状態で吟味。どっちかだけにしてみたり。

「どちらも捨て難いな。サメリー製の最上位は無いのか」
「前回は在庫が無くて。1台柱時計は注文してあります」
「うーむ…。ではそれを見てからにする」
「了解です」

「御爺様。自作品を置くのはどうでしょうか?」
「うむ。それでも良いのだがな。販権も取れていない内から人目に晒して自慢しても。駄目だった場合に言い訳が立たん。自作するなら小型を自室側へ置こう。暇が有ったらで良いぞ」
「はい!」

「じゃあそろそろ出ます。好きなだけ見てって下さい」
「うむ」
また2台の時計に向い合った。

「私は今日の木の実の成分確認しますね」
「頼みます」

リビングテーブルで待機中のソプランに声を掛けてレッツゴーご招待。




---------------

待ち合わせは夕暮れ前。トワイライト真向かいの喫茶店だったのだが。

かなり早い時間に行ったにも関わらず喫茶店の前でソワソワ落ち着き無い男性を発見。

「よ、早いね。メルケル」
「こ、これはスターレン様とソプラン様。ご機嫌麗しゅう御座います」
「「かった」」

「今日はそう言うのいいから。気楽に気楽に」
「その様な訳には参りません。オーナーから絶対に物にしろとプレッシャーを掛けられるわ。お招き預かった場所がロロシュ様の本邸内だとご連絡を受け…。
き、緊張するなと言われる方が無理です!」

「取り敢えず落ち着け。まだ時間有るし。そこでお茶でもしよう」
「はい…」

男3人で茶店に入る。俺にしては珍しい。


王都でも流行り始めた珈琲を注文。

初めて入る店だったからか。カップを運ぶウェイターさんの手が震えて置く時にちょっと溢れた。

「も、申し訳御座いません!直ぐにお取り替えを!」
額でテーブルを突く勢いで。
「君も落ち着け。カップソーサーに溢れただけじゃないか。大丈夫だからお勧めのお茶菓子出して」
「軽い物でな。これから別のとこで会食するから」
ソプランがフォロー。
「はい!布巾と茶菓子のご用意を」

「店では初対面でもあんな事なかったのに。メルケルも私用では緊張しいなんだな」
「それは…まあ。お店では心に鉄仮面を着けてますので。仕事だと割り切って」
その鉄仮面でレイルの睨みに屈しなかったんだから大したもんだよ。

バター感が優しいプレーンとチョコチップの入ったクッキーと真っ白な布巾が運ばれた。

珈琲は薄いアメリカン的なお味。
午後ティーには丁度良い濃さだ。

「お腹に入れれば落ち着くさ」
「は、はい…。そうですね」
1枚食べ2枚食べ。珈琲で飲み下した。

軽く深呼吸して表情も幾分明るくなった。
「落ち着きました。昨夜から何も食べてなくて」
「それは身体に悪いな。会が進んで盛り上がったらお酒は出すよ」
「そちらが出されるかどうかで私の合否判定が…」
「違う違う」
「案外思い込みが激しいな」

「逆効果だから話題を変えよう。将来の焼き肉店に付いて考える。自分が店長をやる前提で。
まず質問その1。店のスタイルは焼いたお肉を提供するのか客が自分で焼くのか、どっち」
「…後者のお客様ご自身でを考えていました」

「当然だね。自分で焼く方が楽しいし、焼き加減も好きに出来る。
ではどんな道具で焼くのか」
「火魔石で網焼きを」

「おー。魔石で煙を抑えに行くのか。再利用出来る利点も有るね。
1つの提案として。俺なら魔石の上に黒炭を並べて網を離すかな」
「黒炭…ですか…。しかし煙が」

「そうだね。店内の排煙や換気は必須になる。
各テーブルの真上に排煙ダクト繋いで風魔石で風の流れを制御したりね」
「風魔石は非常に高価な物で…。提供価格が上昇してしまう原因です」

「まあそこは相談だ。俺たちなら山程持ってる。でも卸すならギルドとも相談しないと。
取り敢えず今はお金の話は無しで。
想定している客層と最大席数は?」
「敢えて絞らず。横並び机で最低でも五十席は確保したいかと」

「フリースタイルかぁ。なら魔石焼きの方がテーブル配置も変え易い。
でもそうすると必然的に客層が男性寄りの中間層になりそうだな」
「酒が入ると喧嘩も起きるぞ。庶民はトワイライトに来る様なお上品な客ばかりとは限らねえ。どっちかで言や血の気が多い」
「確かに…そうですね。大勢でワイワイ仲良くが理想なんですが」

「余計に男性が増えて女性客が来ないな。勿論子供を入れた家族連れも」
「食い散らかす。食べ残しが増えて塵も増える。盛大に床が汚れて最悪ゲロまで吐かれる」
「む…難しいですね。お店の経営とは。スターレン様ならどの様な」

「おーっとタダでは売れないなぁ」
「済みません…」

「今日お見合いでどうしても話に行き詰まったら。お相手さんに聞いてみて。
きっと女性目線の面白い話が聞けるよ。
仕事の話ではなく夢の話として。もしも飲食店を一緒に作るとしたらどんな、とか」
「はい。参考にします」
顔色が大分良くなった。

「オーナーさんは女性だけど根っからの貴族様だから。庶民の意見は見逃しちゃ駄目だぞ」
「ですね。…スターレン様に言われると納得行かない部分も有りますが」
苦笑いで返した。

俺元王族やったわ!

「どう、落ち着いた?」
「はい。かなり」

「じゃそろそろ移動しよっか」
最後の1枚を食べカップを飲み干す。

それを見てソプランが手を挙げた。

の前にウェイターではないナイスガイが現われた。
「ん?会計…。どっかで見た顔だな」
男の顔を見たが覚えていない。
「誰だっけか」

「昨年の品評会で。スターレン様やソプラン様たちが居られたブースの隣ブースに居たケルキーと申します」
「「あぁ」」
とは言え俺は思い出せない…。

ラフドッグのパターンやね。

丁度その時スマホにメールが入った。多分フィーネ。
「ちょっと時間無いんだけど。何?」
「お手間は取らせません。こちらの夜のメニューをご覧頂きご興味がお有りでしたらまたご来店頂けないかと」

自信作が有るよと。
「おぉいいね。どれどれ」

メニュー表を受け取り、お勧め欄を拝見。

チーズフォンデュとチョコレートフォンデュ…おや?

「チョコレートフォンデュ…。ケルキー…。
あぁ思い出した!申請の手紙貰って許可出してたわ。ごめんその類の案件一杯来ててさ」
「思い出して頂けて光栄です。当店の新作は勿論チーズフォンデュの方です。是非最初はスターレン様とフィーネ様にご賞味頂きたく。
ご連絡を送ろうとしていた所。偶然お越しになられたので直接お誘いをと」

「いいね。早い方がいいから明日の日没後は空いてる?」
「早速のご対応感謝致します。何時でもお越し頂ける様、奥の十名席をご用意して居ります。
お二人様でもお連れ様とご一緒でも。ペット様もご自由で」

「完璧。じゃあ明日の夜に」
「ご来店お待ちして居ります」

ヤバいめちゃめちゃ腹減って来た。

ソプランが会計を済ませている間にメールのチェック。

ミーシャは無事ロロシュ邸に入ったと。




---------------

フィーネに小声で。
「明日の夕食行きたい。と言うか勝手に外の店予約しちゃったけど予定大丈夫?」
「えー明日かぁ。久し振りにレーラさん所へ遊びに行こうかなって」
「じゃあトーム一家誘っちゃおう。席は10名まで空いてるから。トモラ君は…短時間だけ預かって貰って」
「うーん微妙。立っちして元気一杯に歩き回る時期だからねぇ。後で話そう」
「おけ」
イヤイヤし出したらお母さん居ないと厳しいかな。

フォンデュもお酒使うから乳幼児には無理。


さて本題の2人。

今回は先に応接室で待つミーシャの所へメルケルを投げ入れるパターン。

挨拶と談笑後に従者用の食堂の片隅でお食事タイム。

将来のアワーグラスの予行演習になるからと侍女も給仕もノリノリだ。

ミーシャの顔を広める意味合いも兼ねていたりする。

先ずはソプランが扉を開き。メルケルを先頭で入らせ立ったまま自己紹介。
「初めまして。飲食業に従事するメルケルと申します」

座っていたミーシャも立ち上がり。
「こちらこそ初めまして。装飾店に従事して居りますミーシャと申します」

お互いの印象は上々な様子。

一礼し合いミーシャの対面席へ着席。

俺たちが下席に座ると同時にアローマが退出。直ぐ後に給仕がお茶を運び入れた。

リゼルオイル入りの紅茶で和む一時。

室内には4人だけとなり主役2人は緊張で顔をチラチラ口を開かず。

お見合いの形式も確立されてないからなぁ。

お話しの切っ掛けとして。俺から。
「喉も潤った所で。実はメルケルとは先日知り合ったばかりで詳しくないんだ。仕事に対する真摯な姿勢を評価してミーシャに紹介しようと思った。彼女居ないって聞いて。
まずは出身や家族構成から教えて。言いたくない所は省いて」

「はい。生まれはラフドッグです。家族構成は妹一人。両親も健在で家族四人。五区の南居住区に十年前から移り住んでいます」
「五区南、でしたか」
「そうです。初対面の方だと余り良い印象を持たれないあの一帯です。元クインザの派閥内。現存するカエザール家の分家、ポローア家で家族揃って半住み込み従者として働いていました。
僕ら家族は運が良く。スターレン様方に解放して頂くまでの間。悪事に手を染める事は有りませんでした。
約五年前から三区に在るトワイライトで妹と一緒に働き、オーナーが変わった今でも引き続き働いて居ります」

ミーシャが俺を見て成程と言う顔をした。
こないだ確認したからな。

「悪い印象は持ちません。淘汰され粛正を経た今でも暮らして居られる皆様ですから。
それに私はタイラントの歴史に詳しくないんです。
ロルーゼの王都出身で。三年と少し前に単身で出稼ぎ労働者募集の一団に混じり来国しました。当時はちゃんとした友好国家関係だったので。
家族は弟一人と両親。今も三人共に向こうの王都に暮らしています。
女の私が出稼ぎに来る位ですから家庭事情はお察し下さい。三年前から超貧乏になりました」
「成程。ご苦労されていたんですね」

「お互い様ですよ。飲食店の皿洗い。宿屋の掃除人。肥溜めの清掃。農地の手伝い。ご遺体を供養する葬儀屋。実家へ仕送りする為に無我夢中で働いて来ました。
悪い男に騙されて酷い目にも遭ったことも。
昨年にお二人との出会いから縁が手伝い。今では五区のロレーヌ装飾工房店で安定した職に就けています。
同情が欲しい訳では有りません。私もお二人に救われた内の一人。運が良いですね。私もメルケルさんも」
「ええ本当に。僕なんて比べ物にならない位にご苦労を重ねて来られた。純粋にミーシャさんを尊敬します」

「素直に有り難う御座います。でもどんな仕事も楽なんて事は無いです。
…お二人には止められましたが敢えて言います」
「ちょ」
そう言ったのはフィーネだが俺も腰を浮かせた。
「私は一時期マッサラの娼館に勤め。文字通り身体を売っていた事が有ります」
サラリと言い切ってしまった。
「…」
言葉を失うメルケル。表情は固いまま。

「軽蔑されても構いません。縁をお断りされるのも当然。
でもそれが私です。嫌な事も苦しい事も悔しい事も含めて全てが経験であり人生だと思っています。

私は実家を出る時に固く心に決めました。人様に嘘だけは吐かないと。それを覆してしまったら。これまでの人生を否定するのと同じ。
私は自分に誇りを持って生きて行きたい。これまでも、これからもずっと」
胸を張って堂々と。一切メルケルから目を逸らさずに。
「強い人だ…」
メルケルはそう漏らした。

俺もそう思う。心の底から格好良いと。正直心が震えた。
多分ミーシャの隣のフィーネも。

「素晴らしい方だ。憧れさえ感じます。尊敬の念は揺らぎません。その決意と誇りをお聞きして尚、お断りなど無礼千万。貴女の人柄に心底惚れました。
こんな気持ちは初めてです。どうか僕を選んで頂きたい」
「選ぶだなんて…私はそんな」

「性急過ぎましたかね。是非今度二人切りでお食事でも。借金がお有りならそのお手伝いでも」
「実家の借金は完済する目処が立ちました。お二人のお力添えで」

出し掛けた手をガックリ垂れた。
「そ、そうですか…。そこの出番は無いのですね。まあお二人のご友人であるなら納得です。
純粋にゆっくりお話でもしましょう」
「ええ。是非」

ちょっと割り込み。
「ではでは。従者用の食堂に食事用意して貰ったけど食べてく?」
「それとも。二人で出掛けちゃう?」

「是非とも頂きたいです。二人切りはその後でも。店のオーナーからも今後の参考になるから絶対食べて来いと言われていまして」
「お言葉に甘えてご一緒します。こちらで食事を頂けるなんて滅多に無い事なので」
ミーシャはこれから増えると思うぞ。




---------------

夕食後。主役を5区の広場まで届けてからの自宅。

「で。予約したのはどんなお店なの?」
「トワイライトの向かい側に在るハーベストってお店。またまた去年の品評会でお隣のブースに居たシェフが店長。
腕は折紙付きでお勧めは新作チーズフォンデュ」

「うおぉ~。この季節にピッタリな魅惑の料理。どうしよう揺れる。…けどモーラちゃんも食べられないじゃん」
「だよねぇ。解ってた。継続メニューにするみたいだからフィーネは予約取って次かな」

「そうする。トームさん追い出すから偶には男衆で行ってみれば?」
「ちょいと遅くなっても良い?」
「エドワンドも行くの?」
「だって店から近いし。偶には」

「しょーがないなぁ。あんまり遅くなるならメールして。トームさんこっちで私が向こうに泊まるから」
「気前が良い!では早速」

反対側で聞いていたソプランが席を立ち。
「予約取れるか聞いて来るぜ!」
走り去った。

「あ…。行ってしまった。私はまだ許可してませんのに」
取り残されたアローマが嘆いていた。
「今は悪酔いなんてしないから偶には許してあげなよ。どうせ俺はフィーネとロイドの2枚看板に監視されるし」
「良くご存じで」
「ですね」

「承知しました…。零時頃迄にはお帰り下さい。夜勤の門番の負担にも成ります故」
「了解です」

入店頻度を増やすと言ったり、ピレリを連れて行くと宣言したり。健全さを確認する予備調査としても。

お隣の手空きのメメット隊にも声を掛けてみよう。

「ちょいとモーランゼア飛んでホテルの予約とエリュトマイズ氏に挨拶して来る。フィーネさんはどうします?」
「あー。あっちはまだ昼過ぎか。私はハーメリンでも馬肉卸してないか市場で聞いてみるわ。カルも行こ」
「はい。私とフィーネは減衰型に着替えましょう」
「大事やね。宜しく~」


ソプランの予約OK返事を聞きハーメリンへ直行。

エリュライズは3週目をぶち抜きで3部屋押さえ、本部でエリュさんに予告と挨拶をした。

オリオン計画の流れに変動は無く、来年に向けての準備が着々と進行中。

「ポム工房の寝具…。私も品評会に、と行きたいのは山々ですがスターレン様の現品持ち込みまで我慢致します。
ジェイカーの量産化も整いましたので次回の時に有りっ丈御購入をと願います」
「それは嬉しい。欲しがる知り合いが多くてさ」

「行く行くは各地で購入して頂ける様展開して参ります。
それと話題を変えますがフリメニー工房に付いての動きを少々」
「頼んでないのにぃ」

「ほんのお気持ちですよ。深く調査しなくとも直ぐご近所の出来事ですので。
まずフリーメイと過剰接収に加担していた幹部数名が更迭と収監。財産差し押さえと下流への再分配。
フリメニー工房は丸々残し。新しく城の工房員が後人育成までの間、工房主代理として着任。
ボロッボロの工房内部を見て愕然とし。任期が延びそうだと泣いていたそうです」
「あらまぁ。収監まで行ったんだ」

「スターレン様に粗悪品を高値で売付けようとしたのが内部告発されまして。それを受けた国が謝罪の意を込め、刑罰を重くしたんだと思います。他の余罪も山の如し。同情の余地は無いのでご安心を」
「ふーん。工房が存続して従業員が放り出されないならこれで一件落着か。直ぐには商品買いたくないけど。
逃げた奥さんと子供は正解だな」

「益々地下の塵を捨てたくなりました。それはまあ良しとして。
逃亡された奥様方なのですが。指し計った様なタイミングに疑惑が持たれ。そちらにも国の調査が入りました。
結果は無罪放免。何でもここに在ったスタプの彫像に手を触れた瞬間。スターレン様が来られる前に子供を連れてお逃げなさいと女神様のお告げを聞いたのだとかで」
「へ、へぇ…」
女神様…。そこまでするなら事前にフリーメイを止めればいいのに。

精霊神のゴルちゃんとの兼ね合いだったりするのかな。

「他に何か変わった事は」
「お伝えしても良いのか悩みますが。スターレン様がフリーメイとの交渉決裂時に紅茶を頭から掛けてカップを床に叩き付けて砕いたと」
「おいおい」

「国中に知れ渡りました。その場に居たケルゲン以下数名が広めたものだとか」
「ひょっとして?」
「ご近所同士の顔馴染みですよ。私も負けっ放しで終わるのは性に合わないもので」

「怖い怖い。寝具の特許はこちらです。奪おうだなんて思わないで下さいね」
「そんな愚かな事はしませんよ。長生きしたいですし。スターレン様とも末永いお付き合いをしたいので。
彫像の御礼も兼ねまして」

軽く笑い合い。最後は何故か握手で終わった。




---------------

帰宅して報告。

「ふむ。釘を刺すのは大切ね。馬肉はハーメリンの精肉店で3頭分の月内予約が取れたわ。ホテル滞在中に卸して貰えるように頼めた。
チョロッとスタンの名前出したら即決で」
「噂の影響だろうね(泣)」
「でしょうねぇ(笑)」

「後やる事は…。
モーランゼア前に鑑定会と本鮪の仕入れとローレライ宅突撃訪問。
モーランゼア後にペカトーレの返事待ちと岩塩お届け。
かなり余裕出て来たな」
「頑張ったもんね。カルは?何か抜け漏れ有るかな」

「…特に。強いて言えばスフィンスラーは余裕の有る1月に回した方が良いかなと。年内に一度はローレンさんにお会いしたいです。
後、アルシェ隊の調査は必ず」
「うん。それはマストで。実家は後半の何処かで、かな」
「御父様。モーランゼアのボトルワイン美味しそうに飲んでたからまたお土産にね」
「そうしましょう」

話が終わり。お風呂を入れ始めた所でクワンが一鳴き。
「カジノへ行くなら幸運グッズは我輩たちが預かるのでロイド様も良ければどうぞニャ」
「クワッ」ウンウン。

「お気持ちは嬉しいのですが。私は素で運気が強いので控えてお留守番します。会員証も作れませんし」
「クワァ~」
「残念ニャ~」

ロイドの場合。各教団で登録すると本物の眷属天使になってしまう懸念が有り登録が出来ていない。

詰り現在身分証を持ってないのだ。

今でもレイルと同じ特別枠。東大陸内に入る事自体は何度か試し問題無い(聖剣が飛んで来ない)のは検証済。

「ド忘れしてたけどロイドとプレドラの身分証問題が残ってたな。全員で最宮に入れるかも検証出来んし」
順番待ちで。
「忘れてたね」
「失念でした」

「うーん。レイルの場合は商業ギルド会員ってだけだし。プレドラの身元保証は無理矢理出来るにしても。完全フリーなロイドはどうすべか。
父上と婚姻結ぶと女神教に入りそうだし。俺たちの従者扱いすると水竜教になりそう。
両ギルドの単独会員だと名前が広がっちゃう」

「適当な偽名ではギルド登録出来ないのでしょうか」
「うーん。レイルは奇跡的に通ったけど。今一ギルドの認証システムが解らないんだよなぁ。
コマネ氏の偽造はもう出来ないぽい。かなり危険な行為だって言ってたし。
ムートン氏やモヘッドに聞く前に。一度偽名使って商業ギルドに申請してみようか。
名前何がいい?」

「名前…。二人に決めて貰って良いですか?自分で付けると嫌な予感しかしないので」

「責任重大やね」
「さてどうしましょ。家名は無しとして」

2人でじっとロイドを見詰めて。
「恥ずかしいですね」
照れたロイドもやっぱ可愛いな。

「考えてる間にお風呂入って。俺入れんし」
「そうね。ゆっくり考えて明日の朝にしましょ」
「ではお先にお風呂頂きますね」

一晩じっくり考えるか。大切な事だしな。
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「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

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俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

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ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

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