お願いだから俺に構わないで下さい

大味貞世氏

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第192話 スフィンスラー迷宮2巡目完結(最下層除き)

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昨日の22時に自分は蕎麦粉を買いに走り。フィーネはペリーニャへの配達を終えた。

普通に眠れた翌朝。

前回同様レイルとメリリーを招待して質素な朝食。

「メリリー。悪いんだけど。カメノス邸の仕事の合間に木の実拾いも手伝ってあげて貰える?今あっち凄い事になっててさ」
「手伝った分だけ試供品沢山貰えるよ。石鹸とか」
「それは遣らねば。楽しみにしてて下さいね。レイル様」
「うむり」

レイル用のお弁当を拵え。軽めのキスを交わして颯爽とカメノス邸に向かった。

出発前の小休止。

満足げなレイルが。
「着替える前に妾にもルーナを見せよ」
「ここで?入ってからじゃなく?」
「入ってからじゃと戦いたくなるからのぉ」
不適な笑みを浮べてらっしゃる。
「それは困ります」

半分脅されてルーナをレイルの前に差し出した。

流石は元上位竜。睨み合っても怯える事は一切無かった。

「数奇なものよのぉ」
「こうなる運命だった。とはまだ受け入れ難いが。その内慣れる。お前もそうだろ」
軽く鼻で笑い。
「まあそうじゃな。妾もフィーネと仮契約中じゃしの」
「ん?あれってまだ続いてたの?」

「切らしてしまっては西大陸で妾は弱体化する。今でも幾らか奪われる。補填がプレドラだけでは足りぬ。此奴も借りたい。でなければ魔王の因子を持つ者に敗北するぞ」
「そんな強いのか。貸し出しは別にいいけど」

「現魔王と蠅を除いて。見える範囲で因子を持つ者は四匹じゃ。その内の誰かがシトルリンに加担しておる。
現魔王に因子を引き継いでしまった娘が抑え込まれているのもその所為じゃ。魔王でも迂闊に手が出せぬ相手。
そう言えば解るかえ」
「大変良く解りました」

「妾には聖剣の加護は付与されん。西ではその背を借りるぞルーナ」
「主の命なら従おう。我の背で暴れる様を指を咥えて見ているが良い」
睨み合いながらお互いに薄く笑っていた。

「まあ程々に仲良くな」
ベルさんには蠅を先に倒すなって忠告されたけど…。その誰かを打つけろって意味なのかな。
「怖ーい話は後にして。目の前の迷宮に集中しましょ」
「だな。準備して行こう」

スフィンスラーに関してはロイドやレイル以外、俺たちの戦闘訓練の位置付け。

プレドラやルーナの手は借りない。予定。


やって参りました第10層。

前回は小型から人間サイズを超える人形を階層主が操っていた。しかし今回は小型からエンペラーサイズをゴッズサイズが操って実に倒し甲斐の有る相手。

木と泥で形成されたような人形たちがカタカタ踊り笑いこちらを挑発している。

30以上の集団が6つ。誰が行くかで喧嘩にはならないが説明する迄も無く。
「競争じゃな!」
先陣を切ったのはレイルさん。

放って置くと全て駆逐されてしまうので後の5名も被らない方向へと散開。


ロイドは骨槍と氷炎斧。銀翼の展開でぶっ放し。
フィーネたちは蔦鞭を広範囲で絡め、ハンマーやソラリマ嘴や爪や牙で前衛から各個撃破。

グーニャは火炎を撒き散らせるが今回は控えている様子。

俺も色々試したい。のでロープを絡めるのは止めた。

氷2つをセットした煉獄で地を叩き、近距離全面凍結。
奥まで氷漬けにされたのを確認して炎2つをセットし直して一撃粉砕。で終了。

左手に居たレイルが。
「卑怯者ーーー!」
叫んでいたが多分俺の事じゃない。

ドロップは初の雷地魔石。タクトと毛糸玉。

名前:操縦のタクト
性能:自身で造り出した人形等を自在に操れる
特徴:同類のスキル持ちでないなら練習有るのみ

名前:意志の毛糸玉
性能:自身で造り出した人形等に自己意志を反映させる
   見た目の外観も創造主を模倣
特徴:近しい人や魂の保有を見抜ける者には即バレ
   普通の人には判別不能
   複数体に適応すると脳みそが焼き切れる
   (1個体を強く推奨)
   首から下は再現しない為、
   エッチな事には使えない(感覚共有無し)

「おお!メタル人形がこれで操れるんだ…。エッチな事て何だよ…」
しょーもない男の妄想が即座に封殺された。

ベルさん、真面目。


他も戦闘を終了した模様。それぞれ同じ物が出ていた。

レイルがカリカリしながら俺の方に歩み寄り。
「卑怯者!」
「え?さっきの俺の事だったの?」
「他に誰が居るのじゃ」
魔石と道具類を乱暴に投げて寄越した。
「孤立した時の対集団戦とか色々考えてるんだよ。これ要らないの?」
「ふんっ。要らんわ。スキルは持っておるしの。類似個体よりも個別の自由意志を持たせた方が楽じゃぞ。面倒になれば破棄するのも簡単じゃし」

「参考にするよ。複製人形は戦闘で使うよりも手が足りない時の交渉役とか影武者とかで使えると思う」
「人間相手の影武者かえ…。それは一理有るのぉ。やっぱり返せ」
「だろ」
渡された物を即座に返却。

現し身の双鏡も人数分出たし。どの道ペッツたちには扱えないからその分は余る。

道具改造とか命を狙われ易い弟とかに渡しても良い。

フィーネさんは軽くストレッチしながら。
「戦闘でも事前に作って置けばお馬鹿さん相手なら軽い目眩ましには使えるでしょ。西大陸では通用しなくても他でならね」
「まあね。俺たちの生身よりは防御力高いしな」
「そうそれ」

何かで盾にはなるさ。


獄炎竜洞窟で拾った怒濤の懐中時計を見ながら小休憩。

「ロイドさん。これ、分解してもいいか聞いて貰える?」
「…構わないと。しかし私も同意見ですが。先に答えを見てしまうと時計の創作の楽しみが半減しませんか?」
「仰る通りで…」
「壊すのは勿体ないよ。どうしても行き詰まったらでいいと思う」
そうしましょ。


30分休憩後に11層へ。

全員苦手な電撃スタジアム。一つ目巨人も取り巻きも全て雷系装備。しかも散開して質が悪い。

避雷針を前衛集団の前に打ち込み。回避道具を持つフィーネが特攻して粉砕。

残り5名は上から観戦。

「回避道具出んかなぁ。有効半径10mじゃ乱戦に対応出来んし。グーニャとか巨大化が無理」
「出てくれるのを祈りましょう」
「痺れるのは嫌じゃ」
「クワッ」
「同じくニャ」


避雷針の位置を移動しながら20分。フィーネがゴッズの目玉を槍で刳り貫き。それを掲げて戦闘終了。

残りの5集団も一斉にフィーネに群がり乱戦模様。真ん中の様子が今一見えなかったが終始押し負ける事は無かった。

最後の1体を倒し切り。数々の魔石と道具が散らばる中心で。
「良い汗掻いたわ!出てないけど!」
槍を突き上げ叫んだ。

「お疲れ~」
戦闘直後で地面でビリビリ走っていたが無視をして。
「お疲れ!意外にスタンやカルならそのまま行けたんじゃない?」
「そうかも。まあ念の為」
嫁が危険な状況まで追い込まれてたら突入してた。

魔石以外のドロップ品。

名前:雷の大鎚  1個
性能:攻撃力3800(+自重、落下加速、遠心力)
   遠心時に周辺に落雷が発生する
   主要属性:雷
特徴:世界の何処かの名工がお遊びで造った大鎚
   単品では落雷が制御不能。故に単独時推奨

「ベルさん…。遊びで造っちゃ駄目やん」
「今度合成してみるわ。そしたら制御出来そう」

名前:電解研磨器(平面型)  3個
性能:冷めた超硬金属でも研げる
   真水でなく属性水を撒くと刃先や表面に薄く付与
   蒸発したら消失。ほんの気持ちレベル
特徴:鍛冶仕事の仕上げにどうぞ
   刃物だけでなく武装の表面処理にも有用
   部品の平面出し等使える範囲は広い

「これは良い。丁度こんなの欲しかった」
「ベースが水属性なら半永久に出来るかもね」
1個はヤンの工房に入れてもいいな。

名前:電解研磨器(溝型)  3個
性能:冷めた超硬金属でも研げる
   刃物類の仕上げに特化
   真打ちなど性能を追求するなら平面型で地道に
特徴:鍛冶仕事の仕上げにどうぞ
   平面型に比べると量産量販品向けの位置付け
   本品を仮形成に使い時短を図るのも良

「大変良いです」
「良いですねぇ」

名前:避雷の改心  6個
性能:全ての電撃、落雷を回避する
   雷撃類完全無効化
   所有者の周囲半径50m内の友軍を保護
   (所有者の認識する者)
   所有者同士が隣接しても排反は起こらない
特徴:突発の雷雨に持つべきはこの道具
   身に着けなくとも所持しているだけで効果有

「前のより性能いいな。これならグーニャでも使える」
「良かったニャ~」
「今持ってる物は誰かに渡すか合成に使うか。要検討ね」
用途は良く考えて。

名前:避雷の杖・真打ち  3本
性能:本品の周囲半径100m内の
   落雷や電撃を無限吸収
   任意発動でそれまで溜めた雷を局所に落とせる
   収納時無反応
特徴:自身や友軍が発動した魔法まで吸収するので注意
   水場で発動すると被害甚大
   有効範囲内に発動するとループして何も起きない
   使用方法は熟慮を望む

「北で拾った物より性能は良いな。武器使用は難しい」
「随分前に拾った雷神のタクトと相性良さそう」
北で拾い今の戦闘で使った杖は有効範囲は広いが任意発動モードが無い。

真打ちが3本も用意されたなら1本はタクトと合成してもいいかも。

名前:雷矢の矢筒  50本入り
性能:単体攻撃力1400
   雷属性を持つ弓やボーガン等と矢筒を
   紐などで結び付けると障害物到達10秒後に
   放たれた矢が矢筒に自動で戻る
   付与した魔力量に応じて攻撃力と
   障害物に与える電撃性能が上昇する
特徴:雷耐性を持たない難敵に特効
   貫通力には欠ける
   着弾させるイメージで放つと良

「半無限の矢だ」
「雷属性の弓が有ればね」
今は明確な付与品が無いな。要検証。

他の武装は雷帝の金棒、雷帝の大盾、濃紺の成人用雷帝のパンツが6着出た。

「ズボンは初めてや」
「突然現われるとビックリね。修正すれば誰でも履けそう」
男の俺でもブカブカサイズ。加工のし甲斐が有る。

改心の石は全員に配布。
フィーネが持つ戒心は鑑定会まで温存。




---------------

激しい運動の後はしっかり休む。で長めの休憩と昼食。

お弁当を食べながら。

「レイルは即死攻撃とか石化とか効かないよね?」
「それが効くなら妾はいったい何なのじゃ。と言う話じゃ」

「聞く迄も無かったぜ。ロイドは?」
「素でも即死は通りません。石化は天使の輪と鎧両方で防げます。只、展開した翼は多少影響を受けそうです。連発されると飛行能力が低下して最悪飛べなくなるかも知れませんね」

「レイルから離れた場所で彫像使って解除するかだな。俺とフィーネとクワンは鎧とソラリマの効果で無効化出来るとして。グーニャだけが孤立化すると微妙だなぁ」
「我輩も即死はフィーネ様の従魔なので効きませんニャ。石化は微妙ニャ~。ベースで格上のゴッズ級の呪詛だと通る気がしますニャン」

「う~ん。ロイドとグーニャは次控えかな」
「はい」
「ハイニャ!」

徐ろにラザーリアで買った岩塩を取り出して砕いて大量の塩を作り始めた。

「まさか…とは思うけど」
「そのまさか。今回は地上からも何か来そうだし。目潰しに使う」

「卑怯じゃのぉ。正々堂々と戦わんのか」
「折角有利に戦えるのに?普通使うっしょ。地上からも攻められた時に反射盾1個じゃ離れた後衛が守れない。
今回はレイルが居るけど最宮では居ないんだからさ。許しておくんなまし」

「仕方ないのぉ。落ちた所を処理…。塵処理かえ」
「13と14はレイルが好きそうなの居るから我慢我慢」

「ならどっちかは妾一人でやるぞよ」
「14の方が空飛ぶ魔物だからそっちがお勧め」
「うむ。そっちじゃな」

大袋3つ分の塩を準備し終え。
「よし出来た。地上班は前回同様盾持ちのフィーネが先頭で俺が後ろから塩撒き。クワンは俺の後ろから湧く奴を排除。でどう?」
「異議無し!」
「クワッ!」片翼を振り上げた。


案の定12層では浮遊する6体の巨大一つ目ゲジゲジの下方の地面に一つ目百足の大群が蠢いていた。

地面に潜ったり出たりで正確な数は不明確。

「思った通り。最速で接近して塩撒き。塩が尽きたら手当たり次第」
「カル。骨槍貸して」
「どうぞ。気を付けて」
フィーネが骨槍を受け取り盾を構えて全力ダッシュ。

その後ろを追走。

途中の地面から湧き出た物はクワンに任せ一目散。

真下からの妨害も踏み潰した。

手前到達。フィーネの肩越しから標的位置を確認。

ロープで大手を作って塩を鷲掴み。
「やっぱり凄いねそのロープ」
「蔦鞭でも虫網みたいに編み込めば同じ事出来るさ」
「練習しなくちゃ」

サイドからロープを伸ばしフィーネの盾の前から上へ。

近距離に居るギョロ目に塩を開いて巨大な平手を目玉に捻じ込む。

耳障りな上の絶叫と共に足場の地面も蠢き出した。

「ごめん。胸当たるかも」
「お好きに」

フィーネの胴元に左腕を回して足場を移動。移動中にも右手のロープ先端を戻して次の準備。

這い出た百足の顎を蹴り上げ即席の足場を形成。

踏み付けた所で塩を掴んでロープを上へ。

上方2体目の目を潰して足場を移動。直後にレイルが落下途中の1体目を刻んだ。

クワンは移動する俺たちの外周を高速旋回。

衝突しない絶妙な距離。俊敏性はクワンの方が上だから心配ご無用。

敵影中段から後方へと抜けながら上の目潰しを繰り返し。仕上げに残りの塩を宙に浮かせてロープ団扇で薙ぎ払って散布した。

「俺左」
「私中央。クワンティ!後方へ!」
「クワッ!」
言われた時にはフィーネの背後。

骨槍に魔力を注ぎ。右足を後ろ軸に前方地面を抉り取る勢いで超低空軌道の骨槍を投げ放った。

赤と紫と白色の直線が地上の百足を左右に分け、密槍を出して右へ突入。

やや送れてレイルは右舷上方。クワンは左舷上方へ。

俺は左手前から奥へと地上でのた打つ百足を駆逐。

残り全ての処理を終えるのに3分と掛からなかった。

「よーし。こんなもんか」
煉獄を地面に突き刺し。土下座姿勢で地に耳を当てた。

…静寂。そして索敵の気配も消えた。

立ち上がって土を払い。
「はい終了!」

フィーネが奥の岸壁に埋まった骨槍を回収。
「虫は苦手だなぁ」と呟いた。

後ろの2名も加えて皆で魔石と道具回収。

即死や呪詛対策グッズが目白押し。それらの鑑定は後日に持ち越し。

フィーネが虹色に輝く拳大の宝石を双眼鏡で眺め。
「スタンさん。多分これじゃないかな。古代樹の杖のメインアイテム」
「どれどれ」

名前:虹色の展開石
性能:合成すると道具や武装の効果を広範囲に展開する
   (効果範囲は注入魔力量に依存)
   単体使用では注入属性魔力を周囲に拡散する
特徴:合わせても良し。使っても良し

「これっぽいな。…1個だけかぁ」
超激レア品てこと。

フィーネがレイルにお強請り。
「ねぇレイル。プレドラ出して何回出来るか聞いてくれないかな」
「むぅ。無駄な様な気もするが」

出されたプレドラは丈の短いベージュのキャミソ姿。
「こちらに。更に進歩しました」
「聞きたいのはそこではない。後何回出せるのじゃ」
何時になったら普通に服を着るのだろう。

周囲を見渡した結果。
「ここも後一回です。虫と悪霊が嫌う塩を盛ってしまいました故。ギョロ目も何体出せるかはやってみないと」
「零でないだけマシかの。良い、やれ。お主らはどっちかの崖の上へ下がれ」

「宜しく~」
言われた通り対岸の上にロープで壁を作り隙間を設けてレイルの奮闘振りを残りの皆で観戦。

出現した5体のイビルアイを正面から睨み合い。

斬り開いた眼球に飛び込み各個撃破し始めた。

フィーネが呆れて。
「あれの何処が正々堂々なの?」
「さあ。正面で向き合う事かな」
「微妙ね。あんなのレイルにしか出来ないし」

気になったのでロイドとグーニャに聞いてみた。
「さっき目玉見て何ともなかった?」
「特に何も」
「無いニャ」

バッグから破邪の十字架を取り出し。
「やっぱこれ有れば大丈夫なのかな」
「あーあったねそれ」
「あぁ…。私も忘れてました」
「ニャ~」
「天使や従魔に適用されるか不安だったけど。これなら同行者全員守れるな」
「さっき1匹も即死しなかったのは?」
「反射盾持ってるのを学習して使わなかったのかと」
「なるほろ」

「石化は常時発動スキルで耐性持ってるから自分は石にならなかったと考えれば一応辻褄は合う」
「ラザーリアの悪霊退治でも御父様たちそれで守れてたのかもね」
「おぉそれかも。もう1個虹色の宝石出たら呪詛防衛系の道具に使おうか考えてたけど。別の使い道も有るな」
「うんうん。てお喋りしてる間に」

「終わったぞい」
同じ目線位置に浮上するレイルがロープを解除すると虹色の展開石と同じ物を投げて寄越した。

「それ以外の収穫は無しじゃ」
「お疲れ」
「お疲れ様。下に行く前に虹玉風呂にしましょ。カルとグーニャ以外ドロッドロだし。特にレイルは」
「じゃのぉ」

中間層で着替えずそのままダイブ。




---------------

全員で風呂に浸かりながら。
「レイルに質問」
髪を掻き上げたセクシーなレイルさん。
「何じゃ」

「俺たちこれまで闇魔の魔石めっちゃ溜め込んでるんだけど使い道無いから別の属性に変更とか出来ないのかな」
「見た事も聞いた事も無いのぉ。もし方法が有るならベルが最終巻に記載しておるじゃろ」
「所謂神の所業ですよ。それは」
とロイドが付け加えた。

「本が先かぁ」
「考え方じゃない?光も闇も。聖も魔も。道具や物は使い方次第。制作者の悪意が載れば何だって悪い物になる。呪いや呪詛が乗り易いだけであって全ての闇魔が悪ではない。
時々お茶目さんだけど優しいレイルって存在が目の前に居て。人間には無関心な黒竜様だって悪ではない。
この私も含めて」
「…」
「そうねぇ。作り手次第かね。正しい使い方。書いてあるといいんだけど」

「きっと何かは書いてるよ。ベルエイガさんなら、必ず」
「かな」
フィーネに諭されて考えるのは止めた。


13層はヒィペノスの大群。

前回と違ったのは軒並み大きく皮膚が硬質化して防御性能が軒並み上昇。

6体のゴッズは硬質化し過ぎてお肌が焦げ茶色。

当然。

そんなカッチカチで激重な戦車に突進された日にゃ。
「ちょ、まっ」
逃げ回るしかない訳で。

前回混乱の坩堝に陥れたフィーネの黒鞭も。
「ごめん!皮膚が分厚すぎて通じない」
訳なんです。

地上班の俺、フィーネ、グーニャで3分割に誘導。
飛翔班の3名でサイの角の付け根を突いて徐々に削って貰った。

ある程度地上に隙間が生まれ反撃開始。

フィーネは雷のハンマーに持ち替え高速スピン。上のレイルが感電した集団を上から突き打ち。

自分は煉獄に雷魔石を2セット。上のロイドと被らない箇所に滑り込んだ。

グーニャは口に雷の最上位を1個丸々含んで火を吹き。上のクワンが逃げ惑うサイの首元を掘削。

どんなに硬かろうとも電撃は通じる。全員個別で避雷石を所持してなかったら撤退も有り得た。

雷属性の弓が有ればもう少し違った戦いも出来たかも知れない。

前段と中段を倒しても奥には焦げ茶色が居る。

フィーネの周囲に敵影が消え。彼女は避雷杖の真打ちを突き立て。その手前でハンマースピン。

何をしようとしているかは明白だった。

溜め時間と敵影距離を稼ぐ為。残りの5名で特攻して脇を擦り抜けゴッズと取り巻きを引き付け後方へ再誘導。

サイだけに。

前にも言った気がします!

フィーネがスピンを止め反響マイクで叫んだ。
「みんな上で出た耳栓して!クワンティとグーニャは中間層まで退避!何とか前3人で凌いで。もうちょい溜めたら打ち込み!!」

慌てて人型3人は走りながら飛びながら最新板の耳栓をセット。

垣間見えたフィーネも耳栓をして両手に雷魔石を握り絞めて発動。

無音の中、バリバリと言う効果音が文字で浮き出るような激しいスパークが背中越しに輝いた。

もうちょいってレベル?

背中の輝きが止んだのを見計らい。前3人で同じポイントでクロス。合流後に更に後方へ。

焦茶が局所に固まった瞬間。

13層は全域真っ白な光に満たされた。

明白な世界が晴れ。振り返ったそこには黒い消炭が山盛りになっていた。

残留していたスパークも炭の霧散と共にサラサラと流れ消え行く。


後に残ったドロップは。

地王の角✕6本。地王の皮(焦茶)✕6体分。
魔石は全損。

最も消耗が激しいのは勿論フィーネ。

耳栓外して地に腰を下ろす彼女に声を掛けた。
「大丈夫か。魔力使い過ぎてない?」
「まだ平気体感半分は残ってる筈」
右腕だけ鱗鎧を外して手を差し出された。
「微妙だな。4割近いぞ」
「え?ヤッバ。魔石ダイレクト発動って想定以上に減っちゃうんだ」

「強制発動だもんなぁ」
「まあいいわ。真打ちの杖もちゃんと使えるの解ったし。次の層はレイル1人でやるんだし。最後まで見守る」

地に降りたレイルがモジモジし出した。
「フィ、フィーネや。皆で…遣らぬかえ?」
「「ん?」」
何が起きた?

「急にどうしたの?今ので体調悪くなった?」
「体調は万全じゃ。魔力もな。次のは今のに羽が生えて飛ぶのじゃろ?」
「サイがカバに変わって。その筈だけど?」
「妾の剣じゃと…目と急所以外刃が通らんでの。ちーっとばっかし面倒なのじゃ」
「「あぁ…」」
相性が悪かったと。

俺が提言。
「さっきの遣り方でいいなら。俺がここで杖に電撃溜め込んで開幕直後に崖上から全滅狙おうか?」
「それがええかのぉ。次来た時は十五の大木を一人で遣らせてくれろ」
自ら譲歩するレイルは初めてだ。


分散していたら困ると思い。真打ち3本共にアホ程溜め込んでみた。

14層を入った崖の上。

グーニャは丁度耳栓が入るまで巨大化。クワンはどうしようもないのでロープで耳元5重巻き。

俺だけグラサンを内蔵。

層内の照明が点灯するまで歩を進め。点いた直後に俺以外が後ろを向いた。

左右上方に2集団。間の集団はのんびり地面で羽を休めて寛いでいる。

きっちり3集団。

俺は何をしようとしているのか。そんな風に勝って嬉しいのか。敢えて申し上げましょう。

大変嬉しいです!

左上方の集団がこちらに気付いた。

左、右、中央下。順に杖を発動。無音の中で広がる白光。

断末魔を上げる間も無く。恐怖に震える間も無く。怒りに燃える間も無く。14層の羽付きカバさんたちは絶滅。

拝啓ベルエイガ様。俺も立派な外道に成りました。
最初から?

振り返りクワンのロープを外し、フィーネの肩をトントン。

「終わったよー」
グーニャの耳栓を外している間に嫁が後の2人を揺り動かした。

「事前に溜めて置けば西でも通用しそうじゃの」
「友軍が居ない荒野のど真ん中でお願いします」
「案ずるな。ルーナやプレドラの耳なら壊れても直ぐに治る」
この人も外道側の吸血姫様でした。

走らせたプレドラを座標にしてしまいそう…。

排出ドロップは。

宙王の羽✕6組。宙王の皮✕6体分。他消失。
「13と14って」
「聞く迄も無いじゃろ」
一応呼ばれたプレドラも。
「述べる迄も有りません。綺麗さっぱり零です」
「「ですよねぇー」」

最後に19層奥の扉が開いているのを確認して2巡目のスフィンスラー迷宮探索が完結した。


残りチャレンジ回数。

1~5層…3回
6層…✕
7~11層…2回
12~14層…✕
15~17層…2回
18~19層…✕
最下層…推定1回

来年2月までに15~17は周回したいと言う希望。
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宝くじを握り締めオレは死んだ。 当選金額は約3億。だがオレが死んだのは神の過失だった! 謝罪と称して3億分の贈り物を貰って転生したら異世界!? おまけで貰った執事と共に異世界を満喫することを決めるオレ。 オレの人生はまだ始まったばかりだ!

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