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第205話 交易路の封印
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増え続ける宿題に辟易しながらも淡々と熟し。減ったと思えばまた増える。年末なんてそんな物。
去年こんなんだったかな。
金椅子は出番無くバッグへ退場。特別室はまたの機会に使う?特殊楽器の練習部屋には適している。
南西案件は1つ潰して3倍になって返って参りました。
ロルーゼの本格調査もアルシェさんの回復待ち。とヒエリンドの調査結果に期待。自分で行くのは考慮外。式典以前にローデンマンと出会すのは拙い。
王都ベルエイガの内状を良く知る病人にストレスを与えてはいけない。本人にはサラッと聴取するに留めましょう。
手術に踏み切るにしろ新薬にしろ。開発準備には時間が掛かる。モーラス、ペルシェ夫妻とヤン頑張れ。この件は来年にずれ込むと予測。
ウィンキーの自力復活の懸念。怖いっちゃ怖いが全く読めません。動向よりも隠しアイテムを掠め取った方が早くて確実。盗賊か俺は…。
大案件で3つ。山脈地下道はマッハリアの式典後。東へ行く前の最後の項目となりそう。冬季で入れるかも疑問。
本日はプレマーレのギルド登録とコマネ氏とティマーンの顔合わせ。
地下道の存在を語らなかった理由も聞きたい。俺から聞かなかったから?とか単純だったり。
手始めに簡単な登録から。メリリーがお隣へ行っている間にサクッと元プレドラを呼び出し身形を整え冒険者ギルドに向かった。
誰が付き添いでも良かったのだが序でにモヘッドとムルシュに挨拶がてら自分とフィーネで。アローマとソプランはマッサラの客人家族を迎えに。
プレマーレの主人はレイル。俺たちの立ち位置は後見人と行った具合。後ろ盾を過剰にすれば手続きも早いんじゃないかと甘い考えを抱きつつ。そんな事は微塵も有りませんでした。
冒険者ギルドは現在フロッグ討伐依頼が流行っていて以前の静けさは無くそれなりの客入り。有名人の登場でギルド内が沸いた。
「本日は…討伐ですか?」
と受付のリリスに問われたが違います。
「今日は連れの登録手続きの付き添いだよ。特にやる事もないからモヘッドに挨拶しようかなって」
「そうでしたか。長は上に居りますよ。ご新規様どーぞぉ」
後ろのプレマーレが歩み出た。
「初めまして。スターレン様とお知り合いの方?」
「何かと縁が有りまして。今はギルド局長の嫁としてここで働き口を」
「まぁそれはそれは」
周囲の野次馬も俺の知り合いと聞いてざわ付いてる。
記入用紙に代表者レイル、登録者プレマーレの名を添えて提出。
「プレマーレ様ですね。作成に多少お時間頂きますので奥のラウンジか外向かいの茶店で御暇潰しなど」
ラウンジ…会議室の更に奥だったか。
「奥で待たせて貰います。外では人目に付きます故」
「ですよねぇ。右手扉奥突き当たりとなってます。後程お茶と茶菓子をお運びしますね」
「そんなサービス始めたの?」
フィーネが驚いて。
「個人的なお知り合いに対してだけですよぉ。お二人の縁者ならお近付きになっても良いかと」
リリスの営業外笑顔にガックリ項垂れたのは周囲の野次馬たち。暇なら仕事しろや。
「へぇ。商業と違って自由でいいわね。上に挨拶したら私もラウンジに行くわ」
「フィーネや」
動きだそうとした時にレイルがフィーネを呼び止めた。
「何?どうしたの?」
「妾も登録しようかの」
こないだまで嫌がってた気がするが。
「気が変わったの?別に構わないけど。代表は…私でいいのよね」
「うむ。カードが有れば色々と便利なのじゃろ。ロイドが作ったなら妾も作るだけ作っても良いかとな」
使わなければ単なる会員証。
今度は代表フィーネで登録者がレイルダールを書き込み。
2人分の申請書がカウンター奥に運ばれ俺たちは上の執務室へ上がった。
モヘッドとムルシュと来れば話の内容は劇団マリーシャ案件のお話。オマケで東大陸本部の話も。
「お久し振りです。その節はどうも」
「我が家に目玉となる仕事を振ってくれて助かった。モヘッド派閥に居るとお前の知り合いでも外聞が悪くてな」
「何の何の。元はムートン卿の忠告が発端だから礼ならそっちに。仕事の配分考えろってさ」
「そうだったんですね。規模が大きくなればオリオン手前に劇場を作ってみたり。城とも健全な橋が出来て随分動き易くなりました」
何時になくモヘッドが饒舌だ。
「何よりだけど初めは量より質でな。来年の晩餐会でショボいの見せたら話も流れる」
「肝に銘じて」
「懐妊中のマリーシャは派手には動けんが。晩餐会の頃には安定期に入る見込みだ。欲を言えばもう一人現場監督役が欲しい所だな」
「来年初めに何本か新しいシナリオをマリーシャさんとペルシェさんに提案しておくわ。助監督はまだ未定」
何人か候補は居るが専属でとなると難しい。フィーネの返事に男3人は唸った。
顔を起こしたモヘッド。
「そちらは追々。別の話で東大陸の北西海域に居た海賊の件にお二人は関わって…」
「るね。バッチリ」
「寧ろ追い込んだのは私たち」
「だと思いました。先日ギルド本部から珍しく問い合わせが舞い込みまして」
デスク隣の棚からムルシュが封書を取り出した。
「見てもいいの?」
「当事者なら別段構いませんとも」
書の内容は一度は放棄されたダンプサイトの町に海賊の残党たちが住み着き、自活を始めて居座っている。今の所大人しくしているが対処に難航。
俺が関わっているなら詳細の回答を求めたい。と冒険者ギルド統括本部長アボラストの署名が入っていた。
「ほむ。本部長はアボラストって名前なんだ」
「ふーん。てっきり秘匿だと思ってた。でも何て答える?正直に言っちゃう?」
まんま答えるのは微妙。
「今全部答えるのはなぁ。この人が敵とつるんでたりして身バレするとか嫌だ」
「それは嫌ね。詳細は直接会ってからにしよっか」
そうしましょう。
「何の事かさっぱり知らんけど。来年のどっかで本部訪ねるから善意で調査協力してもいいよ。て回答でお願い」
「お金で雇われた人たちの半分は解散させた。更に資金の供給元を断ったから枯渇すれば直ぐに撤収する筈。
まだ居座ってるなら純粋な敵組織のメンバーよ」
果たして生き残りは何人居るやら。選りすぐりの精鋭だけの方が対処し易いし人的被害も最少。希望的に。
「了解しました。その様に回答します」
内密な話は終わったので4人で1階ラウンジに下りて7人でお茶を濁しながら新年会どうすんべ問題を話し合った。
重病人を前にカメノス邸で騒ぐのもねぇ。ガードナーデ家が有力になりそう。カメノス氏が既に準備を始めてたら素直に乗っかる方向で。
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うっかり長話で時間が押す押す。急遽マッサラの両家と合流して5区のホテル近くのレストランで昼食会。
トロイヤ家とはそこで一旦お別れ。念の為席は離したが正直どうでも良いのでは思い始める俺が居た。
既に関わってるのは明白だしさ。
ティマーンのみ連れコマネンティ邸へ。レイルとプレマーレを自宅に置き自分、フィーネ、ソプラン、アローマ+ティマーンの5名にて。
本館ではお腹ポッコリなジェシカがお出迎え。
「久し振り」
「順調そうね」
「お久し振りです。年明けには安定期に入るのでそろそろ動かないといけないらしく」
悪阻は大変と嘆きながらもご案内。応接室前でフーリアに入れ替わった。
「私はここで。話を聞いてしまうとストレスになりそうで」
「「でしょうね」」
妊婦さんにストレスは大敵。
「今日の件は私も辞退致します。退席を申し付けられたもので後にお茶淹れをば」
フーリアも?
「そんなに重要な話なのか」
「どうなんでしょう」
お茶が運び入れられ室内にはコマネ氏と俺たち5人。
「聞いたら拙い事だった?」
「むぅ。中々難しい話になる。出来れば従者の二人にも退出願いたいのだが」
「ここまで来て帰れってのは受け入れ難いぜ」
抗議したソプランにアローマも同意。
「昨日ソプランが伺った打ち合わせ時に仰って頂きたかったです」
「昨日は他事に気を取られてつい生返事をな…」
「コマネ氏らしくないな。地下道に俺たちが立ち入ってはいけない理由。それだけでも教えて貰えません?」
存在はするとして。
「済まない、と言った所で手遅れか。ここ王都で開かれたバザーや闇市の流れも見れば一目瞭然。君に目を付けられては腹を括ろう。
私はソーヤンと繋がっていた。つい先日迄な」
「そんなのとっくに気付いてたよ。フィオグラで何度もコマネ氏の関係性を疑ってた。知らない筈が無いってね。
加えてウィンザートで入手した勧誘リストに貴方の名前が載ってた時から」
「…」
「昔からの繋がりを知っていなければ載らないわよねぇ。ティマーンさんとの面識は」
「こちらは初対面の積もりだ」
「お噂と名は兼々。ソーヤンからもウィンキーからも。南東からの脱出時にはソーヤンが世話をしたとか」
コマネ氏が珍しく折れた。
「逃がしてくれた恩人だ。間違い無い。しかし邪教との関係を知ったのは後々。私がタイラントに渡った頃。
最初は信じられ…信じたくなかった。妙得て扱う品は曰く付きの物ばかり。それでも悪用はしないとのソーヤンの言葉を信じた。その頃にはもう私の手はどっぷりと闇に染まっていたのだよ」
引き返せずソーヤンとクインザの言い成りか。
「大体の流れは理解しました。過去は忘れましょう。クインザやフレゼリカに道具を流していたのも俺は忘れた。
ソーヤンとウィンキーや幹部の記憶は消しました。フィオグラとの鎖とシトルリンとの繋がりも断った。
これ以上の懸念が有るなら早めに教えて下さい」
「…道具で記憶を消したのか」
「自我崩壊しない程度に」
暫しの逡巡。
「不充分だと告げて置く」
「不充分?まだ誰か」
「いやそうじゃない。逆側の人間。詰りは私たちがその関係性を記憶している。近しい人物の記憶は消せても遠方に居た行商が一言でも伝えたら。記憶は甦る可能性を秘めている」
「あぁ…」
詳細は知らずとも既知の事実は周囲に残り続ける。
呆れたフィーネが。
「ビクビクしないの。思い出せても戻せない位掻き回せばいいのよ。少なくとも時間は稼げてる。あのレイルが掛けた術式よ。多分シトルリンレベルじゃないと解けない。
そいつも西大陸から出られないなら怖がる必要なんて無いわよ」
「まあねぇ」
未だ見ぬシトルリン。転生を繰り返したその知識量はベルさん並みだと考えて過分じゃない。多分魔力量も本場の魔族と張り合えるレベルだ。
「そのシトルリンだ。山脈下の洞窟を構築したのは」
「おぉなるほどぉ」
「トラップやギミックの詳細を知るのは本人以外に居ないだろう。相互既知問わず踏み込めば本人に筒抜けだと考えた方が良い」
堪らずティマーン。
「では。ソーヤンやウィンキーが何か切り札を中に隠していたとしても手出し出来ないと」
「そう、なるな」
ここでアホの子なおいらは。
「シトルリンに喧嘩売る形で。洞窟丸ごと崩壊させちゃおうぜ。どうせ誰も使ってないんだしさ。住み着いた動物が居たら引っ越しして貰って」
「…」
場の全員反論はしないが絶句。やったぜ。
「人工の建築物なら核や支柱が必ず在る。中から外まで粉に替えて岩盤崩落させればええんやで」
「それは…まあ。こっちは欲しい物なんて無いからね」
「そうと決まれば早速明日ぶっ壊そう」
「あ、明日!?」
善は急げ。
「正気かね」
「正気も正気。丁度明日は暇だから。マッハリア側の出入口の場所教えて。半分だけでも埋めてくる」
「大丈夫?ホントに後悔しない?」
「しないしない。交易路が欲しいなら新しいのを上に掘る」
「そこまで言うなら反対はしないけど…。帰ったら一応相談で」
「へーい」
「今程君が恐ろしいと思った事はないよ」
戸惑いながらもコマネ氏は地図を書き上げてくれた。
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ティマーンには別の(比較的安全な)情報収集を依頼し直しホテルへ帰した。
レイルを誘うと二つ返事でOK。ロイドは苦悶。
「結論を出すのは止めて下さい。上に問い合わせを」
「答えてくれるかなぁ」
期待半分で待機。
黙して目を開いた。
「どうなっても知りませんよ、だそうです。シトルリンの逆鱗に触れる行為だと」
「元から敵対してるじゃん。西から飛んで来るなら大歓迎。先輩風吹かせてこの世界を滅茶苦茶に好き勝手やってお咎め無しだなんてそっちの方がどうかしてる。この俺が老害に引導を渡してやるよ」
俺は既に臨戦態勢。現世の母を殺したフレゼリカ。シトルリンがあいつと共謀したのは揺るぎない事実。どんな理由有ろうと許しはしない。
「スタン落ち着いて。怒り任せじゃ何も産まないわ」
「そうですよ」
「なんでお前が怒ってるのかは知らねえが。責めて西大陸の状況を見てからで良くないか?
今そのシトルリンが退場したらレイルの娘さんの立場が不利になるかもだろ」
「お…」
ソプランの冷静な指摘にレイルと俺が固まった。
「は…反論出来ん。でも折角場所聞いたしなぁ。東側の入口付近だけでも塞ぎたい。プレマーレは地下道何か知らないか」
「詳しくは存じませんね。彼はずっと人間である事に拘って私とは違う道を歩んでいました。モーランゼアとクワンジアを拠点に何を作っていたか迄は何とも。
ですが幾世を重ねて築き上げた場所を壊されて怒らない者が居るでしょうか」
存在意義と使命。それを糧に生きて来たなら。
「居ないよなぁ。ま、探るだけ見て探ろう。クワンはここまで飛べる?」
コマネ氏に書いて貰ったマッハリア西部の地図を広げて。
「クワァ」
「問題無いですニャ」
直ぐにでも行けると。しかしプレマーレは出場を否定。
「レイルダール様は行かれても私は出ない方が良いでしょう。現時点でシトルリンに捕捉されるのは得策ではないかと思います」
「じゃの。妾が居ればシトルリンも手出しはすまい。西大陸以外で戦えば雑魚。所詮は人間じゃ」
西に行けばレイルが弱体化する事を知っている。立場を逆手に利用する狡猾さ。しぶとい爺さんだぜ全く。
個人的復讐は持ち越しだ。今回の最大目標はウィンキーの封印。欲を掻いては何とやら。
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念入りに装備品と冬山登山用品を見直し探索メンバーを選出。
フィーネは問答無用。案内役のクワンとレイルと自分。計4名で決定。ロイドはグーニャと一緒に実家に据え置き。
アローマとソプランは王都待機と雑務。
「こんなもんか。探索から帰ったらペカトーレ出張準備するからその積もりで」
「おぅ。遣り過ぎんなよ」
「トロイヤ様とアルシェ様の件はお任せを。シュルツお嬢様を中心に進めます」
「宜しく頼んだ。一晩寝て落ち着いたから大丈夫。余程危険な物が見付からない限り無闇に破壊はしないさ」
めっちゃ在りそうなんですが。
俺とフィーネの防寒着はジャケットと新作ズボンで完璧。ボンテージ+マント姿のレイルにはやや困った。
「レイルはそれで行ける?」
「冷気耐性はバッチリじゃ。氷山の中でも寝られるぞよ」
「凄いねぇ。羨ましくはないけど」
普通の人は凍傷凍死しますな。
「ロイドはお土産持った?」
「モーランゼアとここ産のお土産を。万全です」
「ラザーリアの調査頑張りますニャ」
今回グーニャが活躍してくれそう。色んな場所に潜り放題だしな。
「もしラザーリアにエルヴィスさんたちが居たらエボニアル山脈の情報聞いといて」
「私は初対面なのですが何か?」
「あ…ごめん。会えたら俺の使いだとでも」
「まあ時間は有るでしょうから遭遇出来れば」
敵拠点に乗り込むと聞いて心配するメリリーをレイルが宥めて出発。
「様子を見るだけじゃ。大昔の因縁を片しにの」
「お気を付けて。皆さんも」
実家に居た父上に挨拶。初対面ではないが久し振りのレイルとの邂逅に少し取り乱した。
「お前の周囲には美女しか置かないのか…」
「ほぉ妾に興味が有るのかえ」
何だろその余裕の笑みが恐ろしい。
「んな事はないですよ。偶然です」
惚ける父の二の腕をロイドが抓った。
「イタッ」
「レイルさんに手を出されては大変な事が起こりますよ。色々な意味で。少なくとも私の目の前では許しません」
「許せ。男の性だ。息子に軽い嫉妬を…。深くはない」
こないだ解禁しちゃったもんね。
少しピリ付いた実家を抜け出し西部地方へ一っ飛び。
マッハリア西部には4つの町が点在している。
ラザーリアから距離順に
ドレイド、フィンドリア、カトドリア、テナリア。
カトドリアが南西に位置しアッテンハイムから最寄り。フィーネが逃亡中に立ち寄った町でもある。
エボニアル山嶺を望める西北西にテナリア。最近岩塩が沢山採れると判明した町。
しかし今回は何処にも寄らずに直行直帰。
新雪を頂きに冠した山々の麓。深い谷間を境に雪原が尾根に続いていた。
テナリアからも離れ人っ子一人皆無。真っ当な行商は通らない。冬季なら尚更。
先行でクワンに偵察させて確認済み。
「壮観な景色にウットリ。絵に描きたいね。さて。地下道の入口はこの谷の奥。準備は」
「オーケー」
「良いぞよ」
「クワッ」
満場一致で突入開始。索敵しても冬眠準備に勤しむ普通熊や小動物しか映らない。フィーネもレイルも不穏な気配は拾わなかった。
熊さんを起こさぬように迂回して谷下り。ロープで階段を造れば超余裕。
天翔ブーツはスパイク無しでも滑らずスイスイ。それは北大陸で実証済みである。
クワンは上空を旋回しピュイーと他の鳥類を威嚇した。それやっぱ鷹やがな…。まあいいや。
一見すると天然洞窟の開口部が現われた。
「ここしか無いな」
「パッと見人工物て感じないね」
相変わらず索敵は無反応。双眼鏡で奥を覗いても…。
「おぉ続いてる続いてる。西方向に蛇行しながら」
「私の双眼鏡だと範囲外まで続いてるわ」
「俺のだとギリで西側の出入り口が見えるな。全長500kmてどんだけ時間掛けたんだ」
「これ埋めるのも一苦労じゃない?」
ご尤も。
入口前で500双眼鏡を使い回し洞窟内部をチェック。
洞窟の中間点辺り。250km付近に3つ。蟻の巣構造のハイブが点在。人気は無いが魔物ぽい何かが動いているのは見えた。
「物を隠すには最適な場所ね」
「あれは…蟻の魔物じゃな。アッテンハイムのキラーアントに似ておる」
「親戚かな。護衛要員で一部を持って来たのかも」
益々怪しい。
下調べは充分。満を持して踏み込んで直ぐ。
…洞窟の天井にぶら下がる監視カメラを発見した。
「あれ、カメラだよな」
「カメラね。どっからどう見ても」
「カメラ?とはなんぞ」
不思議がるレイルに説明。
「遠隔で映像を映し出す鏡みたいなもんかな。こっち側の景色が丸見え」
「ほぉ…」
3人とクワンでカメラを見詰めること数秒。
『未承認者3名と鳥類の侵入を検知。それ以上の進入を禁じます。警告レベル1に該当』
声質の高い機械音声が壁から響いた。
「禁じるって言われてもなぁ」
「西側に行きたいんだけど」
『即時退去されたし。警告レベル2に該当』
こちらの質問には答えない。監視員が居るのか時間でレベルが上がったのかは不明。
試しにカメラに向かって中指を立ててみた。
「ちょっとスタン。お行儀悪いし通じるの?それ」
「さあお試しで」
シトルリンが元地球人でなければ通じない。
プレマーレから聞いた感じだと前世は地球でもフィーネ出身のアーガイアでもない別世界だったらしい。
案の定通じず。
『警告は無視されました。10秒以内の退去を命じます。
警告レベル3に該当』
「シトルリンはアメリカンではない模様」
「うん。知ってた」
「立ち話もなんじゃ。行くぞ」
ノリが悪い警告カメラを無視して無断侵入。
「大体さぁ。ここって私有地でも国有地でもないじゃん。誰が通っても良い訳だ」
「掘った人の物ってルール無いしねぇ」
『未承認者の侵入を確認。殲滅処理を実行。警告レベル4に該当』
物騒なフレーズが聞こえ前方奥からカサカサ音が…。
淡い照明に照らし出されたそれ…は…見紛う事無き巨大Gの姿。
「「ギャァーーー」」
悲鳴を上げたのは俺とフィーネ。
奴は居た。この世界にも存在していた。認めよう。今まで見てなかったから居なかった訳じゃねえ。
昆虫界最強種G。蟻以外にも居やがった。
「どうしたのじゃ。何故逃げる」
出口に逃げようとした俺たちはレイルに掴まれた。
「何故と言われても本能的に」
「衝動的嫌悪感で」
「良く解らぬが。燃やしてしまえば良いじゃろ。あれは良く燃えるぞ」
平気な人がここに。クワンも宙でキョトン顔。
苦手意識を持っているのは俺たちだけなのか!
怒りで嫌悪を塗り替えリニューアル欠月弓を取り出す。
火炎弓と合成した珠玉の名弓。剣魚矢を搭載して一心不乱に撃ち放った。
「使い捨てにするには勿体ないよ!」
「済まん、つい勢いで」
市販の鉄鏃矢に持ち替え無数の巨体Gを繋げて貫いた。
着弾から即座に着火。業火に包まれ併走する黒い波を飲み込み連なるキャンプファイアー。臭い燻る煙に巻かれる前に群れの間を駆け抜けた。
『殲滅未達を確認。警告レベル5に該当。転移禁止区域へ移行。東西開口部を封鎖中…。封鎖しました』
閉じ込められちゃった。
「説明してくれるなんて親切」
「部外者を逃さない気ね」
寧ろ丁度良し。だが酸欠アウトは頂けない。
フィーネに弓と矢筒を渡し中心部に走りながら双眼鏡で天井の薄い部分を探した。
転移不可と言っても全域を閉じるなんて不可能。必ず穴や薄い部分は在る。
「パイルバンカー借りときゃ良かったぜ」
「取りに戻る暇は無さそう」
前方から第二陣。Gの大群が押し寄せ迫っていた。
燃焼でも酸素を消費している。早めに通風口を開けられなければ強制転移で逃げるしかない。イコール敗北。
余程見られたくない物が在る。それを見ずして逃げ帰れませぬ。
薄い岩盤が見えた。と同時に襲い来る目眩。燻る煙は滞留。歩を進める足の動きが鈍く何より眠い。
一か八か。勝算は多分に。ソラリマに風と雷をセット。岩盤の真下に入り魔力を半分捧げてプラズマ空刃を天井に向かって打上げた。
出来上がった大穴。流れ込む新鮮な空気。
『不可侵領域破損。転移禁止は、解除、され…』
親切なアナウンスも壊れてしまったようだ。
空気と一緒に落ち込んだ大きな岩や土の塊をそれぞれの武具で撥ね除け深呼吸。
「うーん生き返る」
「ギリギリねぇ」
「クワァ~」
毎度の事です。
不死王レイルは平静。酸素不足でも死にはしないと。
「魔物を外に出す訳にはいかんから出る時に塞ぐか」
「綺麗に根刮ぎ倒しちゃうか」
こんだけ広いとお掃除も大変。
現在位置は入口から約70km地点。真上には澄み渡る青空。意図せず中奥まで入り込んでしまった。
30分程大穴を起点に迫り来るGの群れを処理し続け、第5波で打ち止め。
「魔石とかも全然出ないね。取りたくないけど」
「同感。アイテムの類も皆無だな」
残った物は残骸や破片のみ。
「主か親玉かだけじゃろ」ふむふむ…まだ居るのかよ。
後は蟻だけにして欲しいと願いつつ奥へ奥へ。進行100km辺りから緩やかな下り坂。
途中の平場で休憩を挟み辿り着いた開けた空間。
最初に確認した250km地点と同じ。ここまで分岐路は無く初めて分岐が現われた。
左手南方向が3つのハイブに続く道。右手北方向の通路先には人が寝泊まり出来る質素な小屋が10棟。調べてみたが長期間使われた形跡は見られなかった。
ベッドや床には塵や埃が山積して誰かが歩いた跡も無い。
小屋の前に集まり立ち話。
「使われた形跡が無い」
「こっちも。通過した闇商の行商はテントでも張ってたのかな」
多分そう。地面にシート敷いて寝た方がマシなベッドて。
「虫の魔物の近くでは安眠出来ぬ、とか」
「あぁそれ有りそ」
70km地点で集めた大岩を積み西側通路を完封。フィーネのリバイブで上乗せ補強。
壊すのではなく封鎖に留めればシトルリンも怒り狂いはしないだろうと。昆虫以外に虫は居ないし。
地上からか左右上方に掘り直せば再利用も可能。
「監視者にはもう誰が来たかバレバレだろうから。堂々と探索したろかね」
「序でに掃除。人が住める程度に」
ここに住む度胸は無いですが。
ハイブに続く通路は識別阻害が施され道具無しの常人には簡単には見えない構造。
竜コンタクトを装着した俺たちには鑑定道具無しでも丸見え。大変に便利な視力補強である。最近じゃ外すのも忘れ付けているのも忘れ着けっぱ。
ソラリマ装備のクワンを通路前に鎮座させ中での討ち漏らしの対処を頼んだ。
煉獄剣を装備していざ行かん。
各ハイブは5~6層構造。各所に軍隊蟻がギッシリと忙しなく隣接層に行き来していた。
手前から順当にお宅意見。手分けしても良かったが不測の事態に備え固まって行動。
一番手前は資材置き場の様相。空っぽの麻袋やガラス瓶が詰められた木箱や干涸らびた何かの薬草や粉等が奥隅に集められ、蟻たちがせっせと持ち上げ運搬。
こちらに気付いた途端に荷物を放り投げて襲い掛かった来たのでさあ大変。
俺とレイルは剣で両断。フィーネは雷ハンマーで後続諸共一撃粉砕。蟻の酸っぱい体液が飛ぶ飛ぶ。
「外に出たら虹風呂だな」
「賛成」
「この臭いは慣れんのぉ」
強酸性の体液を浴び続けるのも困りもの。露出部がヒリヒリしてきた。剣で斬り進むのが面倒になり雷鳴弓に持ち替え乱射。何処に撃っても当ります。
「狡いぃ」
「妾にも貸せ」
「順番にな」
2人にレクチャーしながら下層を目指す。一番手前は特別収穫は無し。ドロップの無しで干涸らびた草は幻覚作用や軽度の痺れ薬の材料やら。この程度なら表で手に入る。
精製すれば麻酔やモルヒネに近い物が作れる。既にカメノス製薬で製作済み。
2つ目のハイブは備品倉庫。初歩的な注射器等の医療器具や小物道具が集まっていた。これらも製作済みで俺たちには不要品。
収集に値する物は見付からず放置決定し3つ目のハイブに移動。そしてこの3つ目が問題だった。
ハイブ3は…研究エリア。無人の中間層に並んでいた物はあの忌まわしきラザーリア地下施設に在った大きな培養ビーカー。
アクリル容器の中には昆虫と人体を合成された腐乱体が濁った養液と一緒に陳列されていた。
酷い腐敗臭が外まで漏れ出ている。
「発端は、シトルリンで確定だ」
全ての根源。魔人製造の開発者。
「スタン。前言撤回する。全部、壊そう」
「先に最下層を見てからな」
「…うん」
一段下層には大量の卵を産み付けたアンティクイーン。蟻の女王が居たが俺たちの敵ではなかった。半奇襲で卵も全て駆逐した。
女王蟻から初ドロップ。闇地の最上魔石と。
名前:女王蟻の体液
効能:強酸薬
他薬剤との組み合わせに因り効果変動
特徴:猛毒、酸性剤、フェロモン剤、幻覚剤等多種多様
毒と薬は紙一重
金角で突くと瓶詰めでドロップした。
特に喜ばしい物ではない。嬉しさは微塵も無く他層の調査を継続。
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暇暇暇で待ち惚け。おやつの木の実を貪りつつ主人たちの帰りを蟻の巣前で待った。
リゼルモンド木の実は消化が良いのに腹持ちも良い。尚且つ美味しい非の打ち所がない万能食。
羽毛の色艶も良い感じだ。
木の実を堪能していると蟻の巣方面ではない後ろ背にした居住エリア方向からカサリと音がした…。主人たちが見逃した?あたしも?
羽音が近付きその場を飛び退いた直後。地面に落ちた木の実の破片が綺麗さっぱり消え去った。
相手は腹を空かせてる。それは解るが姿が丸で見えない。
ソラリマ。何か見えた?
『我にも捕捉出来ん』
異常に素早いか完全透明化のスキル持ちか。何も見えないが何か大きな虫が居るのは間違いない。
こちらも透明化して木の実を数粒地面にバラ撒いた。
カサカサ音と羽音が複数。増えた!敵は一個体じゃない。撒いた木の実が瞬間で消えた。
しかし所詮は本能で動く羽虫。姿は消せても動作音は消し切れない。
木の実を一粒中に放り投げ消える瞬間を狙う。
羽音の接近を頼りに風雷ソラリマに魔力を注いで突き入れ貫通。…手応えは不満だが黄金色の鱗粉が飛散した。
現われ転がる黄金油虫。頭頂の触角が一本分離して地に落ちた。
「ギキィィィ」
仲間をやられて激怒したのか左舷方向から歯軋りが響く。
声出しちゃ駄目だよ。
一体目の残る触角を切り離して見せ付け、透明化が揺らいだ空間に突撃した。
決着の早いスピード勝負。相手が空腹でなければ出て来なかった気もする。
二体目は首元を分離しても暫くの間胴体と頭部が別々に動き続けていた。
しぶとい!流石は油虫。
カタカタと口が動き何か信号を出している。仲間を呼ばれた。がそれはあたしの狙い。
大分目が慣れ敵の姿が見えるようになった。
呼び寄せられた後続は三体。真ん中の腹ぼてがボスで油虫の親と直感。木の実を投げ付け口を寄せた所を一網打尽に駆除完了。
きっと腹の中には大量の卵が入ってる。そちらも斬り開いて稼働させた炎魔石を投入。盛大な火柱が昇り両側にいた仲間を巻き込んだ…。
いや自ら火の中に飛び込んだ。卵を拾い出そうと。
普通虫や動物は火を嫌う筈なのに。
飛んで火に入る哀れな油虫。しばし遠巻きに眺めていると最初に倒した瀕死の一体目がノソノソと地を這い他と同じく火の中へ。
共に死にたいと言わんばかり。
叶えてやろうと尻を叩いて飛び込ませ、二体目の残骸も残らず焼べた。
次は虫でない生命であれ。
あたしはどうなんだろう。もし選べるのなら…。
---------------
夕刻。十七時を過ぎてもマッハリア組は帰って来ない。
「今日はあっちで泊まりかな」
「ですかね」
「…」
主宅リビングでレイルの帰りが遅くなると解って悄気たメリリーに声を掛けた。
「早めに飯食って三人で飲みに行くか。道具の受け渡しも有るし、どうだ」
気分転換になれば。
「はい…。ご一緒させて頂きます。アローマさんが居るなら安心です」
何時もの感じに戻った。
「レイルの連れに手を出す度胸なんざねえよ」
「それ以前に私が許しません」
まあ他の男が寄り付かないように見張ってやるさ。
本棟で食事を済ませデニスの店に入店。主な目的はトロイヤに物品渡しだ。後は無礼講。
旨いハンバーグを摘まみに出す店として客入りは以前の比ではない。それでもピークを避けた事もあり席は半分空いていた。
カウンターにトロイヤの姿を確認すると同時に奥の席にゴンザ、ムルシュ、トームの姿も在った。
声を掛けられたが後でなと断り一人で飲むトロイヤの隣に座った。
ハイネの助っ人姉さんは帰り支度を始めた頃。アローマたちはゴンザ卓の隣卓に。顔見知りの隣で一安心。
「繁盛してんじゃん。水割り三つ。作ってくれたら俺が運ぶぜ」
と先にデニスに声を掛けた。
「済まんな。お陰様で普通に稼げてる」
何も言わずトロイヤの前に小袋を置いた。
「これが?」
「元々ティマーンが持ってた抑制指輪と…」
小声で耳打ち。
「古竜の泪が入ってる」
「こ…」目を剥いて袋を凝視。
「貴重品だからな。無くしたら割と怒られるぞ」
「割と、で済むのか」
「取り戻すのは簡単だからな」捜索コンパス使えば。
「そうか…。素直に凄い」
水割りが出来上がりアローマ卓に運んだ後で。
「その小袋のまんまバッグに入れとけ。取り出さなくても中の道具が使える特注袋だ」
「身に着けなくてもいいのか。御仁が持つ道具は…良い意味で異常だぞ」
「だわな。俺も時々付いてけねえ」
定番のオリーブを水割りで流し。
「他に不安要素は」
「…俺が戻るまで家族を預かって貰えないか。ホテルも城下も治安は良いがどうにも慣れなくてな」
古竜の泪まで渡したんだから即死でなければ無事に帰って来られる。でも万一に備え。
「了解。昼過ぎ辺りに拾えばいいのか?」
「あぁそれで頼む」
匿う場所は初めから決まってる。
今回の依頼で信用出来ればと考えていたが早まった。
「見知らぬ土地で何かと不安だろうし引き受けるなら両家一緒に。
あっちにも聞くが何処に住みたいか相談しといてくれ。マッサラは静かだがロルーゼからの訪問客が多い。お勧めは南のハイネハイネ。あちらは発展途上で賑やかだが他地方の移民組が多くて家賃も格安だ。最近クワンジアの移民も入居したから知り合いとか居たりしてな」
「うむ…。悩ましいが一度訪問してからにしたい」
家族か…。俺たちも何時かは。
受け取りを済ませてトロイヤはさっさとホテルに戻った。
その後。ゴンザたちの卓に混じりそれぞれの家庭事情や子育ての話を聞いた。
特にゴンザは屋敷が女系主導で肩身が狭いだとか。
「偶には愚痴りたくもなる。子供は可愛いが夜泣きは辛い。まあ慣れたが。話は変わるがソプランはどうしてやった事もない執事なんて引き受けたんだ」
「今更だな。何て言うか…その場のノリで。元々去年の晩餐会限定かと思って俺に任せろって言っちまったんだ。
言った手前放り出すのも癪でよ。正直アローマと出会ってなければ逃げ出してたぜ」
「そうだったんですか…」
お隣から。ちゃっかり聞いてやがった。
「単純に給料いいからってのもある。付いて外に行きゃ敵ばっか。話し合いだってのに誰彼構わず喧嘩売り出す。
静かにしてりゃ寄って来る。隣の給料より割高でも釣り合ってんだかないんだか」
「むぅ。最初は羨ましいと思う事も有ったが今では外交官だもんな。相手は大概国同士。おまけに昔の因縁。俺に話が来なくて良かった。と考えてしまうな」
あの堅物がいい意味で丸くなったもんだ。子供が出来て変わったのか。
「俺が断ったらムルシュかトームかだったらしいぜ」
「…何となく聞いたな」
極限に薄い水割りを舐めながらムルシュが答えた。
「俺は何も無かった」
「トームは嫁子が居て候補から外したんじゃね」
「同情されたのか…」
「トームさんよりもレーラさんを心配したのでは?」
隣からアローマが。
「そっちな。気を遣われただけか」
執事で適任なのは俺よりもムルシュの方。口数が少なく義理堅い。今じゃ貴族家の一員だし。
「俺の場合は…。多分酒が飲めないからだと」
「「「あぁ…」」」
人選理由は意外な理由で謎でも何でもなかったようだ。
---------------
製造試験層の下層は資料室。女王を倒したからか蟻もその他も湧かなくなった。
探索が捗る。だがしかし…。
この世界の言語でも地球語でもアーガイア語でも魔族が使う独自言語でもない特殊文字。暗号ぽい文字で書き込まれ誰にも一文すら読めなかった。
ベルさんに読まれたくなかったとか?
ワンチャン、プレマーレなら読めるかも。
燃やしてしまっては著者シトルリンが激怒するのは明白。碌な事は書かれてないだろうが交渉材料には使えそうだと持ち出せる書物は全て押収。
念の為発信器などを探してみたが見付からず。単なるメモ書きの可能性も出て来た。
「西大陸に繋がる物は無さそうだな」
「最下層行ってみよう」
「行こうぞ」
娘さんの件が関わっているからかレイルの表情が何時になく固い。
元気付けられるキザな台詞でも吐ければ良かったがベースの語彙力が低い俺には無理。
横穴も隠し通路も無かったので諦めて下へ行く。
研究ハイブの最下層は最も広く設備も整っていた。そこに在った物は1台の通信器モニターと祭壇のような石棺台が複数。
「彼奴め…。諦めておらんかったのか」
レイルが物憂い気に呟いた。祭壇の類は。
「召喚装置か」
「じゃろうな。妾の時に使われた物に良く似ておる」
「ここで研究してたのね」
通信器の動力は闇と雷魔石。今でも起動可能な状態。
同意を得て起動スイッチを押した。
モニターに映し出された1人の老人。にしては若々しい中年男性。
「…」
男は黙ってこちらを見詰めている。
「初めまして。お前がシトルリンだな」
「久しいのぉ。娘は元気かえ」
「私たちの紹介は不要ね」
モニターのシトルリンは鼻息荒く。
「何故私の計画を邪魔する。スターレン」
「先に喧嘩売って来たのはお前だ馬鹿が」
「ふん…。娘は大切に預かっている。日夜暴れ回るので閉じ込めて今は見せられんが」
「自業自得じゃ。魔族を嘗めるな」
「プレドラは、どうした」
「妾が殺した。訳の解らぬ我が儘を言うのでな」
シトルリンの眉がピクリと動いた。
「…嘘だな。何処でか生きてはいる。簡単には死ねぬ身体だ。貴様と同じで」
元プレドラが不死属性の魔族なのは当然知ってる。
「アモンと交換してやる。こっちに来るなら連れて来い」
「口の利き方を知らぬ様じゃのぉ。そこを動けぬの間違いじゃろ。臆病者め」
怒りを抑えるレイルの腕にそっとフィーネが手を添えた。
挑発には乗らず。
「スターレン。今からでも遅くない。こちら側に来い」
命令口調の安い勧誘。
「お断りだ。フレゼリカが母上を殺した時点でお前らは全員漏れなく敵対者。お前の首を刈るのが今から楽しみで仕方ない」
「ねえ。1つ質問していいかしらお馬鹿さん」
フィーネの質問?
「何だ」
「これだけの研究成果が有るならどうしてさっさと望む世界に行かなかったの?この世界を壊す必要は何処にも」
「…最初は…。もう過ぎた事。結論、女神が邪魔をした。これはあの女への復讐。勝手に引き込んでおいて帰せないとほざく愚かな神へのな」
最初は何だ。真面目にやってたとでも言うのかね。
「誰か一人。神と呼ばれる者の魂さえ手に入れば後は思うがまま」
「お前って神様に成りたいの?アホらし」
「何とでも。貴様らがどう足掻こうと最後に勝つのはこの私だ」
「自信たっぷりだな。その身体は仮初か。じゃなければ延命で魔族の一部を取り込んだ。人型に拘ってたのに人間辞めたのは今世でケリを着ける為。
人質取って俺たちを西に呼び寄せたい様子だがその手には乗らない」
「西に訪問するの…。20年後位にしよっか。ここと同じような設備他にも置いてるだろうから掃除しなきゃだし」
「じゃのぉ。時はたっぷり有るしの」
「…」
「余裕が無いのはお前だバーカ」
反論が来る前に通信器を閉じた。
「さてと。後片付けして帰ろ」
「そうしましょー」
「ふむ。腹も減ったしの」
娘の行方が掴めてある程度満足したらしい。
やる事はたった1つ。フィーネと手を取り合い空き手を通信器モニター前に置いた。
西大陸側の設置場所を捕捉してからの、全力全開意趣返し!
砕けろシトルリン。これ位では死なんだろうが。
これは宣戦布告。俺の復讐は終わってないぜ。
機能を停止した通信機の隣には自爆スイッチぽい物が設置されていたがそこには触れず。上層の試験器エリアから空の容器を1台持ち去りハイブの入口前に戻った。
3人で手分けして水魔石で水を生成し水没。仕上げに氷蝋で上層部分を氷結させて封印完成!
「ここまですれば当分大丈夫っしょ」
「だね」
「じゃな」
ハイブへの通路も岩で完封後番鳥クワンと合流…。何故焚き火を?
「どしたのこれ」
「何が燃えてるの?」
「クワッ」
スマホから。
「金色の大きな油虫が湧いたので倒して燃やしました。仲間たちは自分から飛び込んで盛大に燃えてます」
「「へぇ…」」
「賢いのぉ」
遠目に観賞し燃え滓からゴロンとドロップした物。
地魔石に良く似た黄金色の石塊。
名前:黄昏の大結晶
性能:未知
特徴:未知
「何じゃこれ。全く鑑定出来ん」
「妾にも見えんのぉ」
「ペリーニャに期待ね」
石塊以外にもう1つ。同じく金色のピン留め。
名前:看破のカフス
性能:全ての擬態や透明化も見破り所持者は視認出来る
(固有スキル、上位存在、隠蔽装置全て)
特徴:見える、見えるぞ!
「究極の探査具だ。罠だろうが神様だろうが丸見え」
「いいわね。…透視具じゃないならスタンが持ってて」
「疑り深いなぁ。もし透視出来ても変な事には使わんて」
「どうじゃろな。覗いたら瀕死に追い込むぞ」
「勘弁して下され」
誰からも信用されてない…。
大穴を開けた70km地点に戻り穴埋め。その脇にバスタブを置きすっかり夜中の雪見&月見露天風呂。コテージも出して衣類と装備が乾く迄の間に夕食を。
去年こんなんだったかな。
金椅子は出番無くバッグへ退場。特別室はまたの機会に使う?特殊楽器の練習部屋には適している。
南西案件は1つ潰して3倍になって返って参りました。
ロルーゼの本格調査もアルシェさんの回復待ち。とヒエリンドの調査結果に期待。自分で行くのは考慮外。式典以前にローデンマンと出会すのは拙い。
王都ベルエイガの内状を良く知る病人にストレスを与えてはいけない。本人にはサラッと聴取するに留めましょう。
手術に踏み切るにしろ新薬にしろ。開発準備には時間が掛かる。モーラス、ペルシェ夫妻とヤン頑張れ。この件は来年にずれ込むと予測。
ウィンキーの自力復活の懸念。怖いっちゃ怖いが全く読めません。動向よりも隠しアイテムを掠め取った方が早くて確実。盗賊か俺は…。
大案件で3つ。山脈地下道はマッハリアの式典後。東へ行く前の最後の項目となりそう。冬季で入れるかも疑問。
本日はプレマーレのギルド登録とコマネ氏とティマーンの顔合わせ。
地下道の存在を語らなかった理由も聞きたい。俺から聞かなかったから?とか単純だったり。
手始めに簡単な登録から。メリリーがお隣へ行っている間にサクッと元プレドラを呼び出し身形を整え冒険者ギルドに向かった。
誰が付き添いでも良かったのだが序でにモヘッドとムルシュに挨拶がてら自分とフィーネで。アローマとソプランはマッサラの客人家族を迎えに。
プレマーレの主人はレイル。俺たちの立ち位置は後見人と行った具合。後ろ盾を過剰にすれば手続きも早いんじゃないかと甘い考えを抱きつつ。そんな事は微塵も有りませんでした。
冒険者ギルドは現在フロッグ討伐依頼が流行っていて以前の静けさは無くそれなりの客入り。有名人の登場でギルド内が沸いた。
「本日は…討伐ですか?」
と受付のリリスに問われたが違います。
「今日は連れの登録手続きの付き添いだよ。特にやる事もないからモヘッドに挨拶しようかなって」
「そうでしたか。長は上に居りますよ。ご新規様どーぞぉ」
後ろのプレマーレが歩み出た。
「初めまして。スターレン様とお知り合いの方?」
「何かと縁が有りまして。今はギルド局長の嫁としてここで働き口を」
「まぁそれはそれは」
周囲の野次馬も俺の知り合いと聞いてざわ付いてる。
記入用紙に代表者レイル、登録者プレマーレの名を添えて提出。
「プレマーレ様ですね。作成に多少お時間頂きますので奥のラウンジか外向かいの茶店で御暇潰しなど」
ラウンジ…会議室の更に奥だったか。
「奥で待たせて貰います。外では人目に付きます故」
「ですよねぇ。右手扉奥突き当たりとなってます。後程お茶と茶菓子をお運びしますね」
「そんなサービス始めたの?」
フィーネが驚いて。
「個人的なお知り合いに対してだけですよぉ。お二人の縁者ならお近付きになっても良いかと」
リリスの営業外笑顔にガックリ項垂れたのは周囲の野次馬たち。暇なら仕事しろや。
「へぇ。商業と違って自由でいいわね。上に挨拶したら私もラウンジに行くわ」
「フィーネや」
動きだそうとした時にレイルがフィーネを呼び止めた。
「何?どうしたの?」
「妾も登録しようかの」
こないだまで嫌がってた気がするが。
「気が変わったの?別に構わないけど。代表は…私でいいのよね」
「うむ。カードが有れば色々と便利なのじゃろ。ロイドが作ったなら妾も作るだけ作っても良いかとな」
使わなければ単なる会員証。
今度は代表フィーネで登録者がレイルダールを書き込み。
2人分の申請書がカウンター奥に運ばれ俺たちは上の執務室へ上がった。
モヘッドとムルシュと来れば話の内容は劇団マリーシャ案件のお話。オマケで東大陸本部の話も。
「お久し振りです。その節はどうも」
「我が家に目玉となる仕事を振ってくれて助かった。モヘッド派閥に居るとお前の知り合いでも外聞が悪くてな」
「何の何の。元はムートン卿の忠告が発端だから礼ならそっちに。仕事の配分考えろってさ」
「そうだったんですね。規模が大きくなればオリオン手前に劇場を作ってみたり。城とも健全な橋が出来て随分動き易くなりました」
何時になくモヘッドが饒舌だ。
「何よりだけど初めは量より質でな。来年の晩餐会でショボいの見せたら話も流れる」
「肝に銘じて」
「懐妊中のマリーシャは派手には動けんが。晩餐会の頃には安定期に入る見込みだ。欲を言えばもう一人現場監督役が欲しい所だな」
「来年初めに何本か新しいシナリオをマリーシャさんとペルシェさんに提案しておくわ。助監督はまだ未定」
何人か候補は居るが専属でとなると難しい。フィーネの返事に男3人は唸った。
顔を起こしたモヘッド。
「そちらは追々。別の話で東大陸の北西海域に居た海賊の件にお二人は関わって…」
「るね。バッチリ」
「寧ろ追い込んだのは私たち」
「だと思いました。先日ギルド本部から珍しく問い合わせが舞い込みまして」
デスク隣の棚からムルシュが封書を取り出した。
「見てもいいの?」
「当事者なら別段構いませんとも」
書の内容は一度は放棄されたダンプサイトの町に海賊の残党たちが住み着き、自活を始めて居座っている。今の所大人しくしているが対処に難航。
俺が関わっているなら詳細の回答を求めたい。と冒険者ギルド統括本部長アボラストの署名が入っていた。
「ほむ。本部長はアボラストって名前なんだ」
「ふーん。てっきり秘匿だと思ってた。でも何て答える?正直に言っちゃう?」
まんま答えるのは微妙。
「今全部答えるのはなぁ。この人が敵とつるんでたりして身バレするとか嫌だ」
「それは嫌ね。詳細は直接会ってからにしよっか」
そうしましょう。
「何の事かさっぱり知らんけど。来年のどっかで本部訪ねるから善意で調査協力してもいいよ。て回答でお願い」
「お金で雇われた人たちの半分は解散させた。更に資金の供給元を断ったから枯渇すれば直ぐに撤収する筈。
まだ居座ってるなら純粋な敵組織のメンバーよ」
果たして生き残りは何人居るやら。選りすぐりの精鋭だけの方が対処し易いし人的被害も最少。希望的に。
「了解しました。その様に回答します」
内密な話は終わったので4人で1階ラウンジに下りて7人でお茶を濁しながら新年会どうすんべ問題を話し合った。
重病人を前にカメノス邸で騒ぐのもねぇ。ガードナーデ家が有力になりそう。カメノス氏が既に準備を始めてたら素直に乗っかる方向で。
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うっかり長話で時間が押す押す。急遽マッサラの両家と合流して5区のホテル近くのレストランで昼食会。
トロイヤ家とはそこで一旦お別れ。念の為席は離したが正直どうでも良いのでは思い始める俺が居た。
既に関わってるのは明白だしさ。
ティマーンのみ連れコマネンティ邸へ。レイルとプレマーレを自宅に置き自分、フィーネ、ソプラン、アローマ+ティマーンの5名にて。
本館ではお腹ポッコリなジェシカがお出迎え。
「久し振り」
「順調そうね」
「お久し振りです。年明けには安定期に入るのでそろそろ動かないといけないらしく」
悪阻は大変と嘆きながらもご案内。応接室前でフーリアに入れ替わった。
「私はここで。話を聞いてしまうとストレスになりそうで」
「「でしょうね」」
妊婦さんにストレスは大敵。
「今日の件は私も辞退致します。退席を申し付けられたもので後にお茶淹れをば」
フーリアも?
「そんなに重要な話なのか」
「どうなんでしょう」
お茶が運び入れられ室内にはコマネ氏と俺たち5人。
「聞いたら拙い事だった?」
「むぅ。中々難しい話になる。出来れば従者の二人にも退出願いたいのだが」
「ここまで来て帰れってのは受け入れ難いぜ」
抗議したソプランにアローマも同意。
「昨日ソプランが伺った打ち合わせ時に仰って頂きたかったです」
「昨日は他事に気を取られてつい生返事をな…」
「コマネ氏らしくないな。地下道に俺たちが立ち入ってはいけない理由。それだけでも教えて貰えません?」
存在はするとして。
「済まない、と言った所で手遅れか。ここ王都で開かれたバザーや闇市の流れも見れば一目瞭然。君に目を付けられては腹を括ろう。
私はソーヤンと繋がっていた。つい先日迄な」
「そんなのとっくに気付いてたよ。フィオグラで何度もコマネ氏の関係性を疑ってた。知らない筈が無いってね。
加えてウィンザートで入手した勧誘リストに貴方の名前が載ってた時から」
「…」
「昔からの繋がりを知っていなければ載らないわよねぇ。ティマーンさんとの面識は」
「こちらは初対面の積もりだ」
「お噂と名は兼々。ソーヤンからもウィンキーからも。南東からの脱出時にはソーヤンが世話をしたとか」
コマネ氏が珍しく折れた。
「逃がしてくれた恩人だ。間違い無い。しかし邪教との関係を知ったのは後々。私がタイラントに渡った頃。
最初は信じられ…信じたくなかった。妙得て扱う品は曰く付きの物ばかり。それでも悪用はしないとのソーヤンの言葉を信じた。その頃にはもう私の手はどっぷりと闇に染まっていたのだよ」
引き返せずソーヤンとクインザの言い成りか。
「大体の流れは理解しました。過去は忘れましょう。クインザやフレゼリカに道具を流していたのも俺は忘れた。
ソーヤンとウィンキーや幹部の記憶は消しました。フィオグラとの鎖とシトルリンとの繋がりも断った。
これ以上の懸念が有るなら早めに教えて下さい」
「…道具で記憶を消したのか」
「自我崩壊しない程度に」
暫しの逡巡。
「不充分だと告げて置く」
「不充分?まだ誰か」
「いやそうじゃない。逆側の人間。詰りは私たちがその関係性を記憶している。近しい人物の記憶は消せても遠方に居た行商が一言でも伝えたら。記憶は甦る可能性を秘めている」
「あぁ…」
詳細は知らずとも既知の事実は周囲に残り続ける。
呆れたフィーネが。
「ビクビクしないの。思い出せても戻せない位掻き回せばいいのよ。少なくとも時間は稼げてる。あのレイルが掛けた術式よ。多分シトルリンレベルじゃないと解けない。
そいつも西大陸から出られないなら怖がる必要なんて無いわよ」
「まあねぇ」
未だ見ぬシトルリン。転生を繰り返したその知識量はベルさん並みだと考えて過分じゃない。多分魔力量も本場の魔族と張り合えるレベルだ。
「そのシトルリンだ。山脈下の洞窟を構築したのは」
「おぉなるほどぉ」
「トラップやギミックの詳細を知るのは本人以外に居ないだろう。相互既知問わず踏み込めば本人に筒抜けだと考えた方が良い」
堪らずティマーン。
「では。ソーヤンやウィンキーが何か切り札を中に隠していたとしても手出し出来ないと」
「そう、なるな」
ここでアホの子なおいらは。
「シトルリンに喧嘩売る形で。洞窟丸ごと崩壊させちゃおうぜ。どうせ誰も使ってないんだしさ。住み着いた動物が居たら引っ越しして貰って」
「…」
場の全員反論はしないが絶句。やったぜ。
「人工の建築物なら核や支柱が必ず在る。中から外まで粉に替えて岩盤崩落させればええんやで」
「それは…まあ。こっちは欲しい物なんて無いからね」
「そうと決まれば早速明日ぶっ壊そう」
「あ、明日!?」
善は急げ。
「正気かね」
「正気も正気。丁度明日は暇だから。マッハリア側の出入口の場所教えて。半分だけでも埋めてくる」
「大丈夫?ホントに後悔しない?」
「しないしない。交易路が欲しいなら新しいのを上に掘る」
「そこまで言うなら反対はしないけど…。帰ったら一応相談で」
「へーい」
「今程君が恐ろしいと思った事はないよ」
戸惑いながらもコマネ氏は地図を書き上げてくれた。
---------------
ティマーンには別の(比較的安全な)情報収集を依頼し直しホテルへ帰した。
レイルを誘うと二つ返事でOK。ロイドは苦悶。
「結論を出すのは止めて下さい。上に問い合わせを」
「答えてくれるかなぁ」
期待半分で待機。
黙して目を開いた。
「どうなっても知りませんよ、だそうです。シトルリンの逆鱗に触れる行為だと」
「元から敵対してるじゃん。西から飛んで来るなら大歓迎。先輩風吹かせてこの世界を滅茶苦茶に好き勝手やってお咎め無しだなんてそっちの方がどうかしてる。この俺が老害に引導を渡してやるよ」
俺は既に臨戦態勢。現世の母を殺したフレゼリカ。シトルリンがあいつと共謀したのは揺るぎない事実。どんな理由有ろうと許しはしない。
「スタン落ち着いて。怒り任せじゃ何も産まないわ」
「そうですよ」
「なんでお前が怒ってるのかは知らねえが。責めて西大陸の状況を見てからで良くないか?
今そのシトルリンが退場したらレイルの娘さんの立場が不利になるかもだろ」
「お…」
ソプランの冷静な指摘にレイルと俺が固まった。
「は…反論出来ん。でも折角場所聞いたしなぁ。東側の入口付近だけでも塞ぎたい。プレマーレは地下道何か知らないか」
「詳しくは存じませんね。彼はずっと人間である事に拘って私とは違う道を歩んでいました。モーランゼアとクワンジアを拠点に何を作っていたか迄は何とも。
ですが幾世を重ねて築き上げた場所を壊されて怒らない者が居るでしょうか」
存在意義と使命。それを糧に生きて来たなら。
「居ないよなぁ。ま、探るだけ見て探ろう。クワンはここまで飛べる?」
コマネ氏に書いて貰ったマッハリア西部の地図を広げて。
「クワァ」
「問題無いですニャ」
直ぐにでも行けると。しかしプレマーレは出場を否定。
「レイルダール様は行かれても私は出ない方が良いでしょう。現時点でシトルリンに捕捉されるのは得策ではないかと思います」
「じゃの。妾が居ればシトルリンも手出しはすまい。西大陸以外で戦えば雑魚。所詮は人間じゃ」
西に行けばレイルが弱体化する事を知っている。立場を逆手に利用する狡猾さ。しぶとい爺さんだぜ全く。
個人的復讐は持ち越しだ。今回の最大目標はウィンキーの封印。欲を掻いては何とやら。
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念入りに装備品と冬山登山用品を見直し探索メンバーを選出。
フィーネは問答無用。案内役のクワンとレイルと自分。計4名で決定。ロイドはグーニャと一緒に実家に据え置き。
アローマとソプランは王都待機と雑務。
「こんなもんか。探索から帰ったらペカトーレ出張準備するからその積もりで」
「おぅ。遣り過ぎんなよ」
「トロイヤ様とアルシェ様の件はお任せを。シュルツお嬢様を中心に進めます」
「宜しく頼んだ。一晩寝て落ち着いたから大丈夫。余程危険な物が見付からない限り無闇に破壊はしないさ」
めっちゃ在りそうなんですが。
俺とフィーネの防寒着はジャケットと新作ズボンで完璧。ボンテージ+マント姿のレイルにはやや困った。
「レイルはそれで行ける?」
「冷気耐性はバッチリじゃ。氷山の中でも寝られるぞよ」
「凄いねぇ。羨ましくはないけど」
普通の人は凍傷凍死しますな。
「ロイドはお土産持った?」
「モーランゼアとここ産のお土産を。万全です」
「ラザーリアの調査頑張りますニャ」
今回グーニャが活躍してくれそう。色んな場所に潜り放題だしな。
「もしラザーリアにエルヴィスさんたちが居たらエボニアル山脈の情報聞いといて」
「私は初対面なのですが何か?」
「あ…ごめん。会えたら俺の使いだとでも」
「まあ時間は有るでしょうから遭遇出来れば」
敵拠点に乗り込むと聞いて心配するメリリーをレイルが宥めて出発。
「様子を見るだけじゃ。大昔の因縁を片しにの」
「お気を付けて。皆さんも」
実家に居た父上に挨拶。初対面ではないが久し振りのレイルとの邂逅に少し取り乱した。
「お前の周囲には美女しか置かないのか…」
「ほぉ妾に興味が有るのかえ」
何だろその余裕の笑みが恐ろしい。
「んな事はないですよ。偶然です」
惚ける父の二の腕をロイドが抓った。
「イタッ」
「レイルさんに手を出されては大変な事が起こりますよ。色々な意味で。少なくとも私の目の前では許しません」
「許せ。男の性だ。息子に軽い嫉妬を…。深くはない」
こないだ解禁しちゃったもんね。
少しピリ付いた実家を抜け出し西部地方へ一っ飛び。
マッハリア西部には4つの町が点在している。
ラザーリアから距離順に
ドレイド、フィンドリア、カトドリア、テナリア。
カトドリアが南西に位置しアッテンハイムから最寄り。フィーネが逃亡中に立ち寄った町でもある。
エボニアル山嶺を望める西北西にテナリア。最近岩塩が沢山採れると判明した町。
しかし今回は何処にも寄らずに直行直帰。
新雪を頂きに冠した山々の麓。深い谷間を境に雪原が尾根に続いていた。
テナリアからも離れ人っ子一人皆無。真っ当な行商は通らない。冬季なら尚更。
先行でクワンに偵察させて確認済み。
「壮観な景色にウットリ。絵に描きたいね。さて。地下道の入口はこの谷の奥。準備は」
「オーケー」
「良いぞよ」
「クワッ」
満場一致で突入開始。索敵しても冬眠準備に勤しむ普通熊や小動物しか映らない。フィーネもレイルも不穏な気配は拾わなかった。
熊さんを起こさぬように迂回して谷下り。ロープで階段を造れば超余裕。
天翔ブーツはスパイク無しでも滑らずスイスイ。それは北大陸で実証済みである。
クワンは上空を旋回しピュイーと他の鳥類を威嚇した。それやっぱ鷹やがな…。まあいいや。
一見すると天然洞窟の開口部が現われた。
「ここしか無いな」
「パッと見人工物て感じないね」
相変わらず索敵は無反応。双眼鏡で奥を覗いても…。
「おぉ続いてる続いてる。西方向に蛇行しながら」
「私の双眼鏡だと範囲外まで続いてるわ」
「俺のだとギリで西側の出入り口が見えるな。全長500kmてどんだけ時間掛けたんだ」
「これ埋めるのも一苦労じゃない?」
ご尤も。
入口前で500双眼鏡を使い回し洞窟内部をチェック。
洞窟の中間点辺り。250km付近に3つ。蟻の巣構造のハイブが点在。人気は無いが魔物ぽい何かが動いているのは見えた。
「物を隠すには最適な場所ね」
「あれは…蟻の魔物じゃな。アッテンハイムのキラーアントに似ておる」
「親戚かな。護衛要員で一部を持って来たのかも」
益々怪しい。
下調べは充分。満を持して踏み込んで直ぐ。
…洞窟の天井にぶら下がる監視カメラを発見した。
「あれ、カメラだよな」
「カメラね。どっからどう見ても」
「カメラ?とはなんぞ」
不思議がるレイルに説明。
「遠隔で映像を映し出す鏡みたいなもんかな。こっち側の景色が丸見え」
「ほぉ…」
3人とクワンでカメラを見詰めること数秒。
『未承認者3名と鳥類の侵入を検知。それ以上の進入を禁じます。警告レベル1に該当』
声質の高い機械音声が壁から響いた。
「禁じるって言われてもなぁ」
「西側に行きたいんだけど」
『即時退去されたし。警告レベル2に該当』
こちらの質問には答えない。監視員が居るのか時間でレベルが上がったのかは不明。
試しにカメラに向かって中指を立ててみた。
「ちょっとスタン。お行儀悪いし通じるの?それ」
「さあお試しで」
シトルリンが元地球人でなければ通じない。
プレマーレから聞いた感じだと前世は地球でもフィーネ出身のアーガイアでもない別世界だったらしい。
案の定通じず。
『警告は無視されました。10秒以内の退去を命じます。
警告レベル3に該当』
「シトルリンはアメリカンではない模様」
「うん。知ってた」
「立ち話もなんじゃ。行くぞ」
ノリが悪い警告カメラを無視して無断侵入。
「大体さぁ。ここって私有地でも国有地でもないじゃん。誰が通っても良い訳だ」
「掘った人の物ってルール無いしねぇ」
『未承認者の侵入を確認。殲滅処理を実行。警告レベル4に該当』
物騒なフレーズが聞こえ前方奥からカサカサ音が…。
淡い照明に照らし出されたそれ…は…見紛う事無き巨大Gの姿。
「「ギャァーーー」」
悲鳴を上げたのは俺とフィーネ。
奴は居た。この世界にも存在していた。認めよう。今まで見てなかったから居なかった訳じゃねえ。
昆虫界最強種G。蟻以外にも居やがった。
「どうしたのじゃ。何故逃げる」
出口に逃げようとした俺たちはレイルに掴まれた。
「何故と言われても本能的に」
「衝動的嫌悪感で」
「良く解らぬが。燃やしてしまえば良いじゃろ。あれは良く燃えるぞ」
平気な人がここに。クワンも宙でキョトン顔。
苦手意識を持っているのは俺たちだけなのか!
怒りで嫌悪を塗り替えリニューアル欠月弓を取り出す。
火炎弓と合成した珠玉の名弓。剣魚矢を搭載して一心不乱に撃ち放った。
「使い捨てにするには勿体ないよ!」
「済まん、つい勢いで」
市販の鉄鏃矢に持ち替え無数の巨体Gを繋げて貫いた。
着弾から即座に着火。業火に包まれ併走する黒い波を飲み込み連なるキャンプファイアー。臭い燻る煙に巻かれる前に群れの間を駆け抜けた。
『殲滅未達を確認。警告レベル5に該当。転移禁止区域へ移行。東西開口部を封鎖中…。封鎖しました』
閉じ込められちゃった。
「説明してくれるなんて親切」
「部外者を逃さない気ね」
寧ろ丁度良し。だが酸欠アウトは頂けない。
フィーネに弓と矢筒を渡し中心部に走りながら双眼鏡で天井の薄い部分を探した。
転移不可と言っても全域を閉じるなんて不可能。必ず穴や薄い部分は在る。
「パイルバンカー借りときゃ良かったぜ」
「取りに戻る暇は無さそう」
前方から第二陣。Gの大群が押し寄せ迫っていた。
燃焼でも酸素を消費している。早めに通風口を開けられなければ強制転移で逃げるしかない。イコール敗北。
余程見られたくない物が在る。それを見ずして逃げ帰れませぬ。
薄い岩盤が見えた。と同時に襲い来る目眩。燻る煙は滞留。歩を進める足の動きが鈍く何より眠い。
一か八か。勝算は多分に。ソラリマに風と雷をセット。岩盤の真下に入り魔力を半分捧げてプラズマ空刃を天井に向かって打上げた。
出来上がった大穴。流れ込む新鮮な空気。
『不可侵領域破損。転移禁止は、解除、され…』
親切なアナウンスも壊れてしまったようだ。
空気と一緒に落ち込んだ大きな岩や土の塊をそれぞれの武具で撥ね除け深呼吸。
「うーん生き返る」
「ギリギリねぇ」
「クワァ~」
毎度の事です。
不死王レイルは平静。酸素不足でも死にはしないと。
「魔物を外に出す訳にはいかんから出る時に塞ぐか」
「綺麗に根刮ぎ倒しちゃうか」
こんだけ広いとお掃除も大変。
現在位置は入口から約70km地点。真上には澄み渡る青空。意図せず中奥まで入り込んでしまった。
30分程大穴を起点に迫り来るGの群れを処理し続け、第5波で打ち止め。
「魔石とかも全然出ないね。取りたくないけど」
「同感。アイテムの類も皆無だな」
残った物は残骸や破片のみ。
「主か親玉かだけじゃろ」ふむふむ…まだ居るのかよ。
後は蟻だけにして欲しいと願いつつ奥へ奥へ。進行100km辺りから緩やかな下り坂。
途中の平場で休憩を挟み辿り着いた開けた空間。
最初に確認した250km地点と同じ。ここまで分岐路は無く初めて分岐が現われた。
左手南方向が3つのハイブに続く道。右手北方向の通路先には人が寝泊まり出来る質素な小屋が10棟。調べてみたが長期間使われた形跡は見られなかった。
ベッドや床には塵や埃が山積して誰かが歩いた跡も無い。
小屋の前に集まり立ち話。
「使われた形跡が無い」
「こっちも。通過した闇商の行商はテントでも張ってたのかな」
多分そう。地面にシート敷いて寝た方がマシなベッドて。
「虫の魔物の近くでは安眠出来ぬ、とか」
「あぁそれ有りそ」
70km地点で集めた大岩を積み西側通路を完封。フィーネのリバイブで上乗せ補強。
壊すのではなく封鎖に留めればシトルリンも怒り狂いはしないだろうと。昆虫以外に虫は居ないし。
地上からか左右上方に掘り直せば再利用も可能。
「監視者にはもう誰が来たかバレバレだろうから。堂々と探索したろかね」
「序でに掃除。人が住める程度に」
ここに住む度胸は無いですが。
ハイブに続く通路は識別阻害が施され道具無しの常人には簡単には見えない構造。
竜コンタクトを装着した俺たちには鑑定道具無しでも丸見え。大変に便利な視力補強である。最近じゃ外すのも忘れ付けているのも忘れ着けっぱ。
ソラリマ装備のクワンを通路前に鎮座させ中での討ち漏らしの対処を頼んだ。
煉獄剣を装備していざ行かん。
各ハイブは5~6層構造。各所に軍隊蟻がギッシリと忙しなく隣接層に行き来していた。
手前から順当にお宅意見。手分けしても良かったが不測の事態に備え固まって行動。
一番手前は資材置き場の様相。空っぽの麻袋やガラス瓶が詰められた木箱や干涸らびた何かの薬草や粉等が奥隅に集められ、蟻たちがせっせと持ち上げ運搬。
こちらに気付いた途端に荷物を放り投げて襲い掛かった来たのでさあ大変。
俺とレイルは剣で両断。フィーネは雷ハンマーで後続諸共一撃粉砕。蟻の酸っぱい体液が飛ぶ飛ぶ。
「外に出たら虹風呂だな」
「賛成」
「この臭いは慣れんのぉ」
強酸性の体液を浴び続けるのも困りもの。露出部がヒリヒリしてきた。剣で斬り進むのが面倒になり雷鳴弓に持ち替え乱射。何処に撃っても当ります。
「狡いぃ」
「妾にも貸せ」
「順番にな」
2人にレクチャーしながら下層を目指す。一番手前は特別収穫は無し。ドロップの無しで干涸らびた草は幻覚作用や軽度の痺れ薬の材料やら。この程度なら表で手に入る。
精製すれば麻酔やモルヒネに近い物が作れる。既にカメノス製薬で製作済み。
2つ目のハイブは備品倉庫。初歩的な注射器等の医療器具や小物道具が集まっていた。これらも製作済みで俺たちには不要品。
収集に値する物は見付からず放置決定し3つ目のハイブに移動。そしてこの3つ目が問題だった。
ハイブ3は…研究エリア。無人の中間層に並んでいた物はあの忌まわしきラザーリア地下施設に在った大きな培養ビーカー。
アクリル容器の中には昆虫と人体を合成された腐乱体が濁った養液と一緒に陳列されていた。
酷い腐敗臭が外まで漏れ出ている。
「発端は、シトルリンで確定だ」
全ての根源。魔人製造の開発者。
「スタン。前言撤回する。全部、壊そう」
「先に最下層を見てからな」
「…うん」
一段下層には大量の卵を産み付けたアンティクイーン。蟻の女王が居たが俺たちの敵ではなかった。半奇襲で卵も全て駆逐した。
女王蟻から初ドロップ。闇地の最上魔石と。
名前:女王蟻の体液
効能:強酸薬
他薬剤との組み合わせに因り効果変動
特徴:猛毒、酸性剤、フェロモン剤、幻覚剤等多種多様
毒と薬は紙一重
金角で突くと瓶詰めでドロップした。
特に喜ばしい物ではない。嬉しさは微塵も無く他層の調査を継続。
---------------
暇暇暇で待ち惚け。おやつの木の実を貪りつつ主人たちの帰りを蟻の巣前で待った。
リゼルモンド木の実は消化が良いのに腹持ちも良い。尚且つ美味しい非の打ち所がない万能食。
羽毛の色艶も良い感じだ。
木の実を堪能していると蟻の巣方面ではない後ろ背にした居住エリア方向からカサリと音がした…。主人たちが見逃した?あたしも?
羽音が近付きその場を飛び退いた直後。地面に落ちた木の実の破片が綺麗さっぱり消え去った。
相手は腹を空かせてる。それは解るが姿が丸で見えない。
ソラリマ。何か見えた?
『我にも捕捉出来ん』
異常に素早いか完全透明化のスキル持ちか。何も見えないが何か大きな虫が居るのは間違いない。
こちらも透明化して木の実を数粒地面にバラ撒いた。
カサカサ音と羽音が複数。増えた!敵は一個体じゃない。撒いた木の実が瞬間で消えた。
しかし所詮は本能で動く羽虫。姿は消せても動作音は消し切れない。
木の実を一粒中に放り投げ消える瞬間を狙う。
羽音の接近を頼りに風雷ソラリマに魔力を注いで突き入れ貫通。…手応えは不満だが黄金色の鱗粉が飛散した。
現われ転がる黄金油虫。頭頂の触角が一本分離して地に落ちた。
「ギキィィィ」
仲間をやられて激怒したのか左舷方向から歯軋りが響く。
声出しちゃ駄目だよ。
一体目の残る触角を切り離して見せ付け、透明化が揺らいだ空間に突撃した。
決着の早いスピード勝負。相手が空腹でなければ出て来なかった気もする。
二体目は首元を分離しても暫くの間胴体と頭部が別々に動き続けていた。
しぶとい!流石は油虫。
カタカタと口が動き何か信号を出している。仲間を呼ばれた。がそれはあたしの狙い。
大分目が慣れ敵の姿が見えるようになった。
呼び寄せられた後続は三体。真ん中の腹ぼてがボスで油虫の親と直感。木の実を投げ付け口を寄せた所を一網打尽に駆除完了。
きっと腹の中には大量の卵が入ってる。そちらも斬り開いて稼働させた炎魔石を投入。盛大な火柱が昇り両側にいた仲間を巻き込んだ…。
いや自ら火の中に飛び込んだ。卵を拾い出そうと。
普通虫や動物は火を嫌う筈なのに。
飛んで火に入る哀れな油虫。しばし遠巻きに眺めていると最初に倒した瀕死の一体目がノソノソと地を這い他と同じく火の中へ。
共に死にたいと言わんばかり。
叶えてやろうと尻を叩いて飛び込ませ、二体目の残骸も残らず焼べた。
次は虫でない生命であれ。
あたしはどうなんだろう。もし選べるのなら…。
---------------
夕刻。十七時を過ぎてもマッハリア組は帰って来ない。
「今日はあっちで泊まりかな」
「ですかね」
「…」
主宅リビングでレイルの帰りが遅くなると解って悄気たメリリーに声を掛けた。
「早めに飯食って三人で飲みに行くか。道具の受け渡しも有るし、どうだ」
気分転換になれば。
「はい…。ご一緒させて頂きます。アローマさんが居るなら安心です」
何時もの感じに戻った。
「レイルの連れに手を出す度胸なんざねえよ」
「それ以前に私が許しません」
まあ他の男が寄り付かないように見張ってやるさ。
本棟で食事を済ませデニスの店に入店。主な目的はトロイヤに物品渡しだ。後は無礼講。
旨いハンバーグを摘まみに出す店として客入りは以前の比ではない。それでもピークを避けた事もあり席は半分空いていた。
カウンターにトロイヤの姿を確認すると同時に奥の席にゴンザ、ムルシュ、トームの姿も在った。
声を掛けられたが後でなと断り一人で飲むトロイヤの隣に座った。
ハイネの助っ人姉さんは帰り支度を始めた頃。アローマたちはゴンザ卓の隣卓に。顔見知りの隣で一安心。
「繁盛してんじゃん。水割り三つ。作ってくれたら俺が運ぶぜ」
と先にデニスに声を掛けた。
「済まんな。お陰様で普通に稼げてる」
何も言わずトロイヤの前に小袋を置いた。
「これが?」
「元々ティマーンが持ってた抑制指輪と…」
小声で耳打ち。
「古竜の泪が入ってる」
「こ…」目を剥いて袋を凝視。
「貴重品だからな。無くしたら割と怒られるぞ」
「割と、で済むのか」
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「そうか…。素直に凄い」
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「その小袋のまんまバッグに入れとけ。取り出さなくても中の道具が使える特注袋だ」
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古竜の泪まで渡したんだから即死でなければ無事に帰って来られる。でも万一に備え。
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匿う場所は初めから決まってる。
今回の依頼で信用出来ればと考えていたが早まった。
「見知らぬ土地で何かと不安だろうし引き受けるなら両家一緒に。
あっちにも聞くが何処に住みたいか相談しといてくれ。マッサラは静かだがロルーゼからの訪問客が多い。お勧めは南のハイネハイネ。あちらは発展途上で賑やかだが他地方の移民組が多くて家賃も格安だ。最近クワンジアの移民も入居したから知り合いとか居たりしてな」
「うむ…。悩ましいが一度訪問してからにしたい」
家族か…。俺たちも何時かは。
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お隣から。ちゃっかり聞いてやがった。
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極限に薄い水割りを舐めながらムルシュが答えた。
「俺は何も無かった」
「トームは嫁子が居て候補から外したんじゃね」
「同情されたのか…」
「トームさんよりもレーラさんを心配したのでは?」
隣からアローマが。
「そっちな。気を遣われただけか」
執事で適任なのは俺よりもムルシュの方。口数が少なく義理堅い。今じゃ貴族家の一員だし。
「俺の場合は…。多分酒が飲めないからだと」
「「「あぁ…」」」
人選理由は意外な理由で謎でも何でもなかったようだ。
---------------
製造試験層の下層は資料室。女王を倒したからか蟻もその他も湧かなくなった。
探索が捗る。だがしかし…。
この世界の言語でも地球語でもアーガイア語でも魔族が使う独自言語でもない特殊文字。暗号ぽい文字で書き込まれ誰にも一文すら読めなかった。
ベルさんに読まれたくなかったとか?
ワンチャン、プレマーレなら読めるかも。
燃やしてしまっては著者シトルリンが激怒するのは明白。碌な事は書かれてないだろうが交渉材料には使えそうだと持ち出せる書物は全て押収。
念の為発信器などを探してみたが見付からず。単なるメモ書きの可能性も出て来た。
「西大陸に繋がる物は無さそうだな」
「最下層行ってみよう」
「行こうぞ」
娘さんの件が関わっているからかレイルの表情が何時になく固い。
元気付けられるキザな台詞でも吐ければ良かったがベースの語彙力が低い俺には無理。
横穴も隠し通路も無かったので諦めて下へ行く。
研究ハイブの最下層は最も広く設備も整っていた。そこに在った物は1台の通信器モニターと祭壇のような石棺台が複数。
「彼奴め…。諦めておらんかったのか」
レイルが物憂い気に呟いた。祭壇の類は。
「召喚装置か」
「じゃろうな。妾の時に使われた物に良く似ておる」
「ここで研究してたのね」
通信器の動力は闇と雷魔石。今でも起動可能な状態。
同意を得て起動スイッチを押した。
モニターに映し出された1人の老人。にしては若々しい中年男性。
「…」
男は黙ってこちらを見詰めている。
「初めまして。お前がシトルリンだな」
「久しいのぉ。娘は元気かえ」
「私たちの紹介は不要ね」
モニターのシトルリンは鼻息荒く。
「何故私の計画を邪魔する。スターレン」
「先に喧嘩売って来たのはお前だ馬鹿が」
「ふん…。娘は大切に預かっている。日夜暴れ回るので閉じ込めて今は見せられんが」
「自業自得じゃ。魔族を嘗めるな」
「プレドラは、どうした」
「妾が殺した。訳の解らぬ我が儘を言うのでな」
シトルリンの眉がピクリと動いた。
「…嘘だな。何処でか生きてはいる。簡単には死ねぬ身体だ。貴様と同じで」
元プレドラが不死属性の魔族なのは当然知ってる。
「アモンと交換してやる。こっちに来るなら連れて来い」
「口の利き方を知らぬ様じゃのぉ。そこを動けぬの間違いじゃろ。臆病者め」
怒りを抑えるレイルの腕にそっとフィーネが手を添えた。
挑発には乗らず。
「スターレン。今からでも遅くない。こちら側に来い」
命令口調の安い勧誘。
「お断りだ。フレゼリカが母上を殺した時点でお前らは全員漏れなく敵対者。お前の首を刈るのが今から楽しみで仕方ない」
「ねえ。1つ質問していいかしらお馬鹿さん」
フィーネの質問?
「何だ」
「これだけの研究成果が有るならどうしてさっさと望む世界に行かなかったの?この世界を壊す必要は何処にも」
「…最初は…。もう過ぎた事。結論、女神が邪魔をした。これはあの女への復讐。勝手に引き込んでおいて帰せないとほざく愚かな神へのな」
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「…」
「余裕が無いのはお前だバーカ」
反論が来る前に通信器を閉じた。
「さてと。後片付けして帰ろ」
「そうしましょー」
「ふむ。腹も減ったしの」
娘の行方が掴めてある程度満足したらしい。
やる事はたった1つ。フィーネと手を取り合い空き手を通信器モニター前に置いた。
西大陸側の設置場所を捕捉してからの、全力全開意趣返し!
砕けろシトルリン。これ位では死なんだろうが。
これは宣戦布告。俺の復讐は終わってないぜ。
機能を停止した通信機の隣には自爆スイッチぽい物が設置されていたがそこには触れず。上層の試験器エリアから空の容器を1台持ち去りハイブの入口前に戻った。
3人で手分けして水魔石で水を生成し水没。仕上げに氷蝋で上層部分を氷結させて封印完成!
「ここまですれば当分大丈夫っしょ」
「だね」
「じゃな」
ハイブへの通路も岩で完封後番鳥クワンと合流…。何故焚き火を?
「どしたのこれ」
「何が燃えてるの?」
「クワッ」
スマホから。
「金色の大きな油虫が湧いたので倒して燃やしました。仲間たちは自分から飛び込んで盛大に燃えてます」
「「へぇ…」」
「賢いのぉ」
遠目に観賞し燃え滓からゴロンとドロップした物。
地魔石に良く似た黄金色の石塊。
名前:黄昏の大結晶
性能:未知
特徴:未知
「何じゃこれ。全く鑑定出来ん」
「妾にも見えんのぉ」
「ペリーニャに期待ね」
石塊以外にもう1つ。同じく金色のピン留め。
名前:看破のカフス
性能:全ての擬態や透明化も見破り所持者は視認出来る
(固有スキル、上位存在、隠蔽装置全て)
特徴:見える、見えるぞ!
「究極の探査具だ。罠だろうが神様だろうが丸見え」
「いいわね。…透視具じゃないならスタンが持ってて」
「疑り深いなぁ。もし透視出来ても変な事には使わんて」
「どうじゃろな。覗いたら瀕死に追い込むぞ」
「勘弁して下され」
誰からも信用されてない…。
大穴を開けた70km地点に戻り穴埋め。その脇にバスタブを置きすっかり夜中の雪見&月見露天風呂。コテージも出して衣類と装備が乾く迄の間に夕食を。
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高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
神の加護を受けて異世界に
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親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。
その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。
そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。
神様、ちょっとチートがすぎませんか?
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【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】
未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。
本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!
おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!
僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?
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――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
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本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
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