お願いだから俺に構わないで下さい

大味貞世氏

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第206話 ペカトーレ再交渉

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出張メンバーは前回と同じ。グーニャはラザーリア。

地下道探索を終えた翌朝に自宅に帰りソプランたちとフラーメを呼び出張前の打ち合わせ。

「今回は国賓として行くから俺たちは素の状態で。フラーメは減衰スカーフで偽装する」
「解ったわ」

「レイルたちはサンタギーナでのんびりと散策でも」
「うむ」
「はい。モメットさんと合流すれば良いのですね」
「そうそう。シャインジーネにエリュダンテ在るからそこでもいいし。自分たちで探してもいい」
「私ものんびり買い物したかったなぁ」

「示談交渉と迷宮調査終えてからでも時間は取れるって」
「だといいけど」
迷宮は多少時間取られそう。
「迷宮探索は俺とフィーネとクワンで行く予定。ソプランたちは遺族団体を振り切ってサンタギーナ組と合流って感じでどうかな」

アローマとフラーメは思う所が有りそう…有るわなぁ。
「私たちは…」
「先ずは姉さんを立てて説得出来るならしてみたいと」
「希望を持たせたまんま置いておくのはどうもね。後味が悪いかなって」
「まあねぇ。何時か帰って来るんじゃないかって考えちゃうと…」
「ハッキリ断るのも1つの手だね。後腐れ無く」

説得する方向で打ち合わせを終えた。が終了間際にラメル君が駆け込んで来た。
「僕も一緒に。一週間程休暇を頂きました」
「えぇ…」
不平を漏らしたのはメリリー。
「折角二人切りになれると思ったのに…」
「姉さんばっかり狡いよ。僕だって気が狂いそうなんだ。サンタギーナの料理ももっと勉強したいし」
「仕方ないのぉ」
「はーい。レイル様がそこまで言うなら」

「そっちは前と同じ感じだな。まあ任せる」
「折角の旅行を楽しまなくちゃ」

ペカトーレの方は微妙っす。

打ち合わせを解散しそれぞれの準備。今回はギリングス王国用のお土産だけなので楽勝。

ミラン様からの私的な贈り物以外特に大きな荷物は無し。船の運搬は後追いで発生するかも知れない。

その日は準備に充て明くる昼にサンタギーナに直行。モメットに3人を預けペカトーレへ。偽装するのはフラーメのみでこちらも楽勝。

クワンの報告に有った通りにサンコマイズだけでなく首都キッタントゥーレも大賑わいで大盛況。ペカトーレてこんなに人が居たんだねぇて具合に。

「政権交代の署名お願いしまーす」
「清き一票をー。貴方の一筆で国を変えましょー」
各所で現政権の解散を求める署名を募る人々の群れが出来上がっていた。

国の役人も衛兵たちもそれには傍観。鎮圧事項ではないらしい。だってほら。署名を求めてる中心が巨人族の血筋さんたちだから。

温厚な種族と聞いたが怒らせちゃったの?

「行商さんたちも一筆お願いしまーす」
おっきなお姉さんに声を掛けられたがお断りを。
「自分たちは他国の役人と従者なんで政治には関与出来ないんですよ」
「御免なさいね」
「そうなんですかぁ。残念です」

エリュライトホテルに着く迄に幾つもの団体から勧誘を受けたが同じ言い訳で切り抜けた。勘の良い人も居たようでこちらの素性に気付かれた模様。
「出る時は気を付けなきゃな」
「そうねぇ」
「官邸に行くのも大変そうですね」
「余計な事言い触らした奴殴りてえ」
「同感だよ」
「クワァ~」

かなり疲弊してフロントに滑り込んだ。

部屋は最上階スウィート以外全室満室。
「危なかったな」
「他の宿も全滅ですか?」
フィーネの問いに受付嬢さんが小声で。
「大きな声では言えませんがその通りで。他の町の役人まで押し寄せて来ていまして。今回スターレン様がお越しに為られるとモデロン様より前金でお部屋の確保を」
「お!有り難い」
「やるわねモデロンさん」
後でお礼と返金しないと。

部屋で一息ティータイム。昼は軽めにシャインジーネで済ませて来たので夕食まで余裕が有る。しかし
「この様子じゃ観光は出来そうにないな」
「買い物はソプランに任せよっか」
「しゃーねえな。帰りに魚介買えばいいのか?」
「それで宜しく」

「クワッ」
窓をトントン叩いてスマホから。
「偵察とお散歩して来ます」

この時程鳥になりたいと思う日は無かった…。

人間はお外に出られません。何をするかを協議しコンシェルに娯楽用品を発注。

トランプ、まんまオセロ、チェスに似たボード駒ゲーム、
ジェンガならぬポンガ(積み木崩し)が運ばれた。
「こんなにあるなら各地でも頼めば良かった」
エリュダーが宿泊施設トップを独走する理由の一端に触れた気がする。
「次から必ず聞いてみよー」

昼間からお酒を飲みながら組をシャッフルしてゲームで遊び倒した。

休暇…満喫してる!

ホテルから官邸に到着連絡を送付して到着日はリラックスぐっすり就寝。




---------------

この腐れ外道の屋敷に足を運ぶのも何度目か。
昂ぶる怒りの感情も抑制道具で心配無い。上手く機能しているようで直ぐに心は静まった。

良し、行ける。何時も通りに無感情で。

王都ベルエイガの北部地区。名だたる貴族連中が挙って住む区画。その一角にローデンマンの屋敷は在った。

他に比べればやや小振りな建物。それでも平民には到底届かぬ血税から成る物。反吐が出そうだ。

昔から貴族には縁が有ったが特殊スキルの所為で得をした事など一度も無かった。

クワンジアでもロルーゼでも。しかし…タイラントのパーシェントは別世界だった。

行く度に変貌し貴族を鼻に掛けるいけ好かない人種は居なくなった。

スターレン様の功績が大きいと言う。上流階級と平民の距離がとても近い。身分の違いを忘れる位に。

帰りたい。生まれて初めてそう思えた国だ。

クワンジアも随分様変わりしたと聞く。スターレン様は様子を見ろと仰ったが…あの屑両親が邪魔だな。

まあ良い。それは次の段階だ。今は目の前の処理を。

失敗は許されない。気取られてもいけない。今度は正々堂々タイラントの地を踏む為にも。

門前に立ち、門番に合い言葉を告げた。
「山も海も清らかに揺蕩う…。何度も顔を合せてる気がするが。本当に必要なのか、これは」
「儀式みたいなもんだ。と聞いている。入れ。主は何時もの部屋に」
所詮従者では何も解らぬのだろうな。

本館ではなく中庭を行き過ぎ離れの別館へ足を向けた。

思い返しても本館は入った事が無い。どうせ平民風情には床を踏ませたくないとか小汚い台詞が飛んで来る。

うんざりだ。

何とか長期で離れられる口実を作らないと。

幾つか案は貰ったが何れにしようか。


広くはない庭園を窓から一望出来る一階奥の部屋。そこがローデンマンの別館書斎。何か物書きに成るとか前に聞いたが興味も無ければ読みたいとも思わん。

警備が扉を開け中へ。ローデンマンが目配せして警備は室外。何時もと同じ風景。

立派な黒い口髭を蓄えた初老の男。絶妙に整ってない至って普通の顔立ち。こいつをスターレン様は敵視しているそうだ。

何の因縁が有るのかまでは聞いていないが。

「例の件。報告に上がりました」
「…今日は顔色が良いな。何か良い事でも有ったか」

「私も偶には体調の善き日は有ります。
ご依頼を受け以前より調査して居りましたミーシャとスターレンとの関係性は変わらず灰色。
最近になって王女の近衛や警護の衛兵が増えた様子で勤める店の玄関前が固められ私語は厳禁。当たり障りの無い会話では導き出せず。別段違和感は感じられませんでした」
「詰り、成果は得られなかったと」
「その様に。もう少しお時間を頂きたく」
「むぅ…」
悩ましそうに唸った。

フィオグラとの連絡は途絶えたに違いない。しかしそれを口に出す事は出来ない。そんな所か。

家族が無事と聞けば俺は居なくなる。立場が逆転したなローデンマン。

「調査続行か停止かお決め下さい。成果を上げなければ家族と会わせて貰えないのです。
他の仕事でも構いません。どうか」
俺は何も知らない振りで泣き脅し。
「むぅ」
また唸った。聞くに堪えん雑音。

「調査を継続せよ。一月の末頃にまた報告に参れ」
「制限を設けられても望む成果が得られるかどうか。もっと早く済ませられる仕事を。それと家族の無事を確認させて下さい」
自画自賛で迫真の演技だ。役者に成れるかも知れない。

さっさと諦めろ。

「それは出来ぬ。与えられる仕事も他に無い」
「そんな…。私はどうすれば!無事も解らず依頼は厳しい物ばかり。一般平民が王女に近付ける訳が無い。
あの女に何が有ると言うのですか。見た目も聞いた素性も並みの平民。好い加減に私を解放して下さい!」

「吠えるな野良犬!今のお前は奴隷以下の存在だ」
酷い言われ様だな。
「今ミーシャの家族がタイラントに向け行群中だ。その移民団の中に紛れ込めば王女にも会えるだろう」
「移民…?王女との関係を確かめるだけで済むのですか」
狙い通りだが予定は遅れていると見た。
「それは報告から判断する」

「移民団との顔合わせはどうすれば。私の知る者が居なくては合流が不可能では」
何と言う杜撰な計画。
「安心しろ。隠者はお前も知る人物だ。会えば解る」
「…誰かは教えて頂けないのですか」
ロルーゼ内の顔見知りは少ない。その内の誰かだが直ぐには思い当たらない。
「この場ではな」

「解りました…。パージェントかマッサラで待機します。しかし手持ちでは宿泊費が足りず」
「貧乏人めが」
その金を取り上げたのはお前だ馬鹿め。

「仕方ない。少し分けてやる。一緒に来い」
「何方へ」
「本館の方だ」
ここで初めて本館に入れる。まあ玄関までだろうが。


案の定玄関ホールで待たされた。

総大理石で埋められた味気ない冷たい床。中に居るのか従者の姿も無く静けさだけが空間を漂う。

あいつは何が楽しいんだろう。

ロビー脇の椅子に座り疑問を浮べていると。初対面の妙齢女性が向かい右手の扉から左手へ通り過ぎた。

こちらを一瞥するに留まり会話は無かった。一応立ち上がって礼を返す。

頭を上げた頃には左手の扉に入って行った。俺には微塵も興味が無い様子で。

見た目三十前半。上質な紅白ドレスを着熟していたので上級婦人。ローデンマンの妻かあれが噂の黒幕か。何方にしろ接近するのは危険。少なくとも今は。

と言うかここを出たらもう二度と来ないがな。

奥から出て来たローデンマンが金袋を投げて寄越した。
受け損なって大理石の床に落とし、割と大きな音がホールに響いた。態と。

「喧しい!!」
音に反応したのか先程の女性が左手から飛び出て、立てた音より大きな声で苦情を唱えた。
「申し訳ありません」
袋を取り謝罪して即座に外へ逃げた。

玄関扉が閉じ切る間際。
「貧乏人の臭いがするわ!雑音を聞いて耳も腐った!早く掃除して頂戴」
「直ぐに。少し待ってく…」
あのローデンマンが頭を下げるのが見えた。

どうやら妻のようだ。

後は何時も通り門を出て曲がり角の路地裏から転移した。

預かった古竜の泪の出番は無かった。

とこの時の俺は知らなかった。その路地裏に転移禁止の結界が張られていた事を…。

転移先は都内の女神教寺院近く。ローデンマンから受け取った金袋をそっくり寄付しタイラントへ帰った。

とこの時の俺は気付かなかった。その袋に盗聴器が仕込まれていた事を…。

知らずと二重の罠を回避していた俺は知らぬまま。二度と戻らぬベルエイガを後にした。

この国も何れはクワンジアのように生まれ変われると信じ女神様に心で祈りながら。




---------------

「この馬鹿息子がな。自棄を起こして外部に口を滑らせてしまったのだ」
小さく背中を丸めるマキシタンを隣に置き。開口一番キタンの謝罪から始まった。

示談交渉為らぬ辞退交渉。

知らんがな!
「どうせそんな事だろうと思いました。外の様子を見れば一目瞭然です」
隣のフラーメが呆れて。
「この件は辞退させて頂きます。保証の全額は他の遺族にお渡しを」
「家の復権も蹴るのか」
「どうぞご自由に。今更誰も居ないこの地に何の未練が御座いましょう」
今回は花の種か苗を買いに来ただけだしな。

「取り敢えず完済証明書を発行して下さい。それから金銭の譲渡先も。書いて頂けないなら前宣言通りギルドに契約不履行を告訴します」
「わ、解った。用意する」
金は払わせる。お前らザムド家の腹から。

ふとキタンの後ろの男が気になった。

初顔で見覚えはない青年。彼は室内の女性たちを物色するかの様な目で見回し満足そうにエロい笑みを浮べた。

気持ち悪!なんだこいつ。

別の従者が用紙を取りに退出したので使用人でもない。

「キタン様の後ろに居る方は誰ですか?」
ギョッとした男と目が合った。

ソファー席の後ろに視線を送り。
「何の冗談だ。誰も居ないが」
んん?演技してる風でもないぞ。

「気の所為かな。気配がしたもので」
後ろの男は安堵の表情を浮べ、のそっと横に移動した。

お茶を飲むと見せ掛けティースプーンを手に男の額目掛けて投げ付けた。

悲鳴と共に周囲に飛び散る鮮血。そこで室内の全員が男の存在を認識した。

小袋に入れた看破のカフスの影響だと気付く。

血が流れても透明化したまま逃げようとする男をロープで捕縛し広い床の上で大きくバウンドさせた。
「スキルを解け。絞め殺すぞ」
「解った!止めてくれ!」

その声に聞き覚えが有ったのかキタンとマキシタンは姿を現わす前に声の主の名を口にした。
「リシタン…お前なのか」
「兄上…ここで何を」
マキシタンの兄貴か。

なんて騙されると思ってるのか此奴らは。
「嘘ね」フィーネさんも同じく。
「はぁ…。馬鹿なのかお前ら」
「何だと…」
一国の主が俺の無礼発言に流石にキレた。
「姿や服は消せても体臭や息遣いが消える訳がないだろ。何が狙いだ、言ってみろ。然もなくば何も聞こえなかったとしてそこの男を今直ぐに絞め殺す。
国同士の交渉の場に許可無き者を同席させた。無断で!
これが議場だったらお前はどう責任を取るんだキタン」
「政治家らしいと言えばそれまでだけど…。刺客だとしたらお粗末な人選ね」

「…待って欲しい」
「待てん!何処も年末で忙しい。遣らなきゃいけない事は山積みだ」
「そんな暇無いでしょ?お外の件も有るでしょうし」
「…」
キタンは怒りでプルプル。マキシタンは恐怖でブルブル震えていた。

徐々にロープを絞ってたリシタンは気絶した。
「ま、待て!」
「何をだ!さっさと答えろ!!」
「スリーサウジアに居るお兄さんに脅されてるのかしら。それとも共謀してるの?何方?」
「何故、それを…」
認知はしてる。ケダムが生きている事を。

「下らん兄弟争いに他国を巻き込むな。前回フラーメには関わらないと契った約束は何処に行ったんだ。国の首相が口にした発言を勝手に反故にするとは情けない」
「謝罪は無いの?国際法は無いけれど。我が儘無法が通用するのは自国内限定よ。これは歴とした条約違反」
「そんな事は解っている!」
キタンは一呼吸置き。
「済まない。真に心苦しいとは思う。順に話そう…」

運び込まれた証明書を書いた上で事の概要を話し始めた。

リシタンはケダムの手先で透明化の道具を使い熟す監視要員。自分の息子に裏切られた形。

ケダムは生きていた。それが判明したのは前回俺たちが訪問した後。サンコマイズの跡地から何かを掘り起こしたとリシタン経由でケダムに伝わり興味を持ち、取り戻せと唐突に連絡を官邸に寄越して来た、と言う流れ。

「まさか迷宮で消息を絶った大半がスリーサウジアで能能と生きていようとは夢にも…。いや、その可能性は薄く考慮はしていた。出入した小動物が何匹も別場所で発見された記録も有ったのでな」

フラーメ姉妹生存の事実を漏らしたのはマキシタンだがそれを旧タタラ家派閥や遺族に広めたのは小耳に挟んだリシタンだったと。

「兄上に半分脅されて、仕方なく」
「外で解散署名を募っている巨人族の血筋は旧タタラ家と深い縁が有った者たちだ。彼らは何より縁を重んじる。その温情心をリシタンが煽った。
二十年前の謂れ無き粛正を止められなかった悔恨の念を晴らそうとしているのだろうと思う」
心優しき種族。それは脈々と受け継がれ。
「善い人たちだな。この分だと半数署名が集まるのも早いだろう。いっそ国民の訴えを素直に聞き入れザムド家は退き対抗候補に譲ればどうだ」

「それが拙いのだ。私の支持率はガタ落ち。ザムド家失墜は免れん。解散総選挙中にケダムは私兵とスリーサウジアの義勇兵を引き連れ戦争を仕掛けて来る。
政権移行中では軍が動かし辛い。私に反意を持つ者の足も鈍る。国内士気は低下。南の山間部で食い止められれば良いが現状では無理だ」
「…戦場が南部の町に食い込むって見立てか」
「混乱に乗じて嘗ての派閥を動かし政権奪取。果ては王国再興。当然反乱が起きて国が真っ二つ。狡賢いわね、ケダムって人」

「その通り。あの男は機を読むのが上手い。口上が滑らかで人心に取り入るのも得意。政治に疎いスリーサウジアの部族を騙し扇動させるなぞ造作も無いだろう。差しも起こされる兵の規模は未知数。
地の利はこちらに有るがケダムが相手では紙切れ同然。間に挟まれた国民に及ぶ被害は、計り知れない」

思わず舌打ちしてしまった。
「状況的にフラーメを表に立たせれば国民感情は抑えられる。それがお前の狙いか」
「そうだ。仮にでも復帰して貰いケダムと私が無関係だと説いてくれればと考えてな」
当人は不安を漏らす。
「私に演技や演説を求められても困ります。幼少で記憶も薄く今の政治も無知。公職とは無縁の冒険者生活を送って来ました。
向こうは私を知っていても私は何も知らない。その様な人間の言葉が何処まで届くのでしょうか」

「リシタンとケダムはそれも見越してる。焼け石に水で反国感情を逆撫でし兼ねない。
寧ろそっちの可能性が高い。事実誤認から戦争よりも先に反乱暴動が起きるな」
「他の手を考えましょう。感情論では到底解決しないわ」
最近の嫁さん冷静だなぁ。

惚れ直した所で頭をフル回転…。

ふと床に転がるリシタンが目に入った。
「そこに居るじゃん。打って付けの身代わりが」
「身代わり…とは」
「我が子可愛さを捨てられるなら。リシタンをケダムに連なる戦犯として公開裁判に掛け、その議場で貴方自身が大々的に断罪すればいい。
潔白を証明した上でザムド家は引責退任。中立派閥か無所属。若しくは旧タタラ家の派閥候補者を臨時首相に据え置きケダムの動きを無力化する」

「早期解決すれば良い手だが…。無縁の候補者が居ないのとケダムの無力化が困難だ」
「そこを押し通すのが貴方の仕事だ。そしてそれが出来る人だと俺は思う。例えばモデロン…」
「ええ!?」
突然指名され驚いてる。
「では現政権と近すぎるな。例えばサンコマイズに飛ばしたマホロバはどうかな」
本人に何の断りも無く。
「彼か…。確かに、悪くない。血筋も経歴も知名度も」
「若いのと20年前に粛正する側の家柄だったのを突っ込まれるかも知れないが、彼なら上手く躱せる。ケダムの方は考えが有る」

「考えとは何だね」
「通路にされた転移迷宮を造り変えるのさ。方法は行ってみて考える。入場許可証を出して貰えれば」
「許可証は作成済みだ。入口の構造すら解明されてはいないが君なら遣って退けるのだろうな」
期待半分でお願いします。続けてフィーネが。
「加えて和平の手紙を現地語でスリーサウジアの現地民に先出しを。ケダムは私情で国民を虐殺して逃亡した犯罪者だと正直に伝えれば混乱します。それだけでもかなりの時間は稼げる。敵兵力削減も同様に」

「それは良い手だ!直ぐに出す」
キタンも調子が戻ったよう。
「以前に山猫捜索で遣り合った部族への被害は有ったんですか」
「偶然に割って入った闇組織のお陰でな。共闘して排除しこちらから危害は一切加えていない。だから和解も順当に成立した。彼らなら話を聞いてくれるかも知れないな」
「じゃあそっちにも手紙を。怪しい犯罪者が貴国の領土に入り込んでるって。正確な場所はリシタンが知ってるでしょうし」
「うむ。真に忝いな。色々と」
久々に聞いたぜ、忝い!

「放置して帰ったら貴国は壊滅。サンタギーナまで影響が及んでしまう。そうなれば我が国の王に怒られます」
「何より私は二度も国民を見捨てた悪女だと罵られてしまいます。それでは矜持に堪えません」
後味悪すぎるもんなぁ。このままだと。

完済証明書と履行手形とペリルマット迷宮入場許可証を受け取りフラーメの処遇に付いて協議した。

任意交渉で帰国を促したが見事に断られた。で議決。

リシタンの罪状は叩けば湧いて出る。奴は覗きの常習犯でもあったそうで。何処の国でも犯罪です。

「買い物でサンコマイズに寄るんでマホロバに俺から予告しましょうか?」
「あの性格だと逃げ出すかも知れん。それは私から直接伝えよう。ニーメンも秘書官には最適な人材だからな」
余計な事はしてはいけない。マホロバなら呼び出された時点で気付くと思う。
「了解しました。語気を荒げた無礼はご容赦を」
「失礼致しました」
「何を今更。元は当家の不始末。他国を巻き込む話ではなかった。改めて謝罪する。
再選処か引退する身だ。後腐れは不要」

「余計序でに。貴国の副首相は誰が」
「長男坊のミュシタンだがあれなら心配無い。戦や血を見るのが大の苦手で農民暮らしを好む。退くと言えば大手で喜ぶ事だろう。
お前はどうする?」
隣のマキシタンに顔を向けた。
「どの道国政には戻れません。兄上を手伝って農家をやりながら嫁探しを…。これまでより厳しい状況ですが」
キタンが豪快に笑いマキシタンの背中を叩いた。
「臆するな。落ちる所まで落ちるのだ。私も一緒に畑を耕す。痩せれば多少はマシになるぞ」
「本当ですか」
力強い父の言葉に三男坊が希望を持った。

「誠実に生きればな。スターレン殿に目を付けられぬ程度に。政はもう懲りた」
「将来農園を開いたら買付に来ますよ。何か企んでないかって確認に」
「貴方はまた何かを始める。一所にはじっとして居られないタイプだと」

「これは痛い。言い返せないのがまた辛い所だ」
またガハハと豪快に笑いながらリシタンを蹴り転がした。
「私は裏切り者には容赦はせん。スターレン殿程ではないがな。努々忘れるなマキシタン!」
「は、はい!!」

大丈夫そうだな。

俺は宣言した迷宮の方を何とかしないと。

兄弟の絆と親子の絆。分かち試される再交渉だった。
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登山中に足を滑らせて滑落した私。気が付けば何処かの洞窟に倒れていた。……しかも狼の姿となって。うん、なんで? 色々と試していたらなんか魔法みたいな力も使えたし、此処ってもしや異世界!? ……なら、なんで私の目の前を通る人間の手にはスマホがあるんでしょう? これはなんやかんやあって狼になってしまった私が、気まぐれに人間を助けたりして勝手にワッショイされるお話である。

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