お願いだから俺に構わないで下さい

大味貞世氏

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第211話 ある男の野望の終わりに

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俺の密かな野望はハーレムでした。
「こーら」
軽く触れるようなデコピン。
「違います」

俺たちは帝国に招かれた流離いの料理人。

徹夜でナチュラルハイのまま朝まで粘り勝ち。クランベリーの赤ワインソースは完成。

仄かに甘くほろ苦いこのソースに合う肉料理とは。
ローストビーフ&塩釜焼きポーク。

両方使用部位は腿肉を選択。

調理のポイントは何と言っても肉汁を逃さない事。
何方もタイプ違いの蒸し焼き。

この世界にはアルミシートもパウチ袋も存在しない為ビーフの方の調理が難しい。

塩釜焼きは何度も経験済み。豚肉では初。

オリーブオイルで牛ブロック肉をソテー。香りと風味付けに大蒜、生姜、ローズマリー…は無かったので普通のミントハーブとクミン等の香草。

強火で一気に表面を焼き肉汁を封印。朝市を駆け回っていたら蓮の葉を発見。アルミシート代わりに巻き付け蒸し器に投入。

3ブロック同時に蒸し。10分、15分、20分で順次取り出し平皿の上で休ませる。

手で触れる程度になったら葉を除去。薄切りスライスで断面確認。10分はピンク色が強い。15分は程良い。

20分では加熱が行き過ぎ。15分を採用。

冷やしても良いが北国なので敢えて生温かいまま出す。テーブルに並ぶ頃には冷めるしソースも冷たい。

添え物は茹で野菜。馬鈴薯、人参、カリフラワー。
スイートバジル、大蒜、オリーブオイルの熱々ドレッシングで提供。

スープ類は宮中料理人にお任せ。
パンも帝都で主流の全粒粉の堅焼きパンで。

出勤して来たセルゲイと白月宮の料理番の人を加えて起き抜けのクルシュたち女性陣に朝っぱらから肉を盛り盛り試食して貰った。

何れも曲が薄い食材ばかり。大蒜パンチは苦笑いで返されたが男性には大好評。お馬鹿なアミシャバならば食い付く事受合い。

行ける!と背中を押され、自分たちも遅めの朝食。
2種のお肉にクワン君も大満足。


帝宮を裏から入り1階厨房エリアへ移動。
宮中料理人にも試作品を試食して頂きお墨付きを得て本調理を開始。

レシピを余さず披露しながら用意された食材を使い捲り総仕上げ。蒸し器のみ持参品。厨房使用の代価としてプレゼント。

昼前には完成。
金椅子を指定の主賓席と入替え任務完了。

重量は金そのもの。動かせないし盗めない。
専属の給仕係が個別テーブルの方をスライドさせる。

舞台は整い俺たちは退場。厨房横の従者食堂で料理人さんたちの賄いを頬張った。

雪割りアスパラと北海サーモン巻きが特に美味しかった。
「良いですねこれ。タイラントで真似してもいいですか?」
「良いね。焼いて良し煮ても良し。食事のメインでもお摘まみでも。サーモン買って帰らなきゃ」

「お口に合いましたか」
料理長のパークさんがニッコリ。
「「大変美味しゅう御座います」」

同席していたスタッフの皆さんも笑っていた。

「不思議な物ですなぁ」
物憂い気にパークさんが唸った。
「何がです?」

「国は変わり体制も変わった。辞めたり移動したりする従者も居る中。自分は変わらずここで料理を作ってる。
ずっと変わらないと思ってました。今日までは。
私たち従者や使用人は…。上役の方々と同じ卓を囲んだ事が全く無いんです。
異国の英雄夫妻様が隣に。ご一緒に料理を作り、食べているだなんて。夢のように感じます」

「夢だなんてまたまたぁ」
「私はド平民出身ですよ。彼は違いますが。皆同じ人間です。きっともっと帝国は変わります。来年再来年。
国民の半数以上に選ばれ。その民の事を一番に考えるアストラ様が居る限り。もっともっと」

「変革の時、ですかね」
「真に。急激な変化は思わぬ弊害を生む。上も下も無く時を重ねて着実に。何時か食べられると良いですね」


団欒を夢見る従業者食堂の反対側では…。


「美味い!美味いぞ!もっとだ。この肉料理をもっと出せ。今直ぐに!!」
サーモン料理には目も暮れず。皿を持ち上げ薄切り肉を掻き込む行儀の悪い男の姿。

純白のローブは飛び散るソースで汚し放題。乳児の涎掛けみたく。

「その料理がお好みか。カルロ殿」

「喧しい!誰がカルロだ。騎士団長の分際で。この皇帝アミシャバの食を邪魔するか!!」
「アミシャバ…とは…」

ザワ付く主席宴会場。場内には政府閣僚や統一教会幹部が数多く列席。

「呼捨てにするでない!」
空になった皿を頭上に掲げ。
「我は皇帝アミシャバ!このカルロゾイテの身体を乗っ取った。平伏せ者共!帝の帰還だ!!」
奏でる高笑いは前皇帝のそれ。共に顎肉も波打つ。

アストラは教会幹部を睨み付けた。
「これはいったい何か。答えよ、エイアハム司教殿」
教会筆頭幹部司教を名指し。階級は大司教の次席なのだから仕方が無い。
「私は…何も知らない」
「存じない、だと」
「知らん。この様な男は知らん!」

アストラは席を立ち、声を張り上げ賛同を募った。
「アミシャバが生きていたとは捨て置けん!
この場に集まりし閣僚級。統一教会幹部のお歴々。皆で此奴の決を取る。
ここは宮内。他人を騙り現皇帝を侮辱した狼藉。帝国法では終身刑に相当す。
異を唱える者はこの中に居るか!居るならば挙手を」

誰一人挙げなかった。挙げる事は適わない。
挙手はアミシャバの存在を黙認し、協力していた事を意味するからだ。

幸いにも教会幹部の列席者の中で顔色を変える者は居なかった。

僅かな安堵を得られたアストラは控えの衛士三名に指示を出した。
「最下層の牢屋に繋げよ。貴様が掘らせた穴蔵だ。存分に味わえ、アミシャバ」

黄金色の豪華な椅子から下ろされた後。違う違うとアミシャバは泣き叫んだが。変化を気に留める者は皆無。


哀れな帝国の亡霊はこうして表舞台から消え去った。




---------------

綺麗に磨き上げられた金椅子を返して貰い。成功報酬の指貫を袋詰めで受け取った。

「今年の子持ち鮎って…。冷凍保存なんてしてないですよねぇ?」
「問題解決の次の質問がそれか!」

「お土産がこれだけって言うのは…」
「ちょっとスタン。はしたないよ」

強面のアストラも破顔して笑った。
「笑わせてくれる。君の器は計れん。
鮎の養殖場は帝都襲撃時に一部が破壊されてな。今年のは駄目になった。稚魚は別場所で来年の夏秋には元に戻るだろう」
「残念です。来年は遊びに来られるか解らないので」

「そうか。市場のサーモンで我慢してくれ」
「アストラ様の好物と知って狙ったんですかね」
「かも知れぬな。思えばあの時からアミシャバの影が霞んで見えた」
ショボい事すんなぁ。ガキじゃ有るまいし。

エンバミル氏も笑ってら。
「考え過ぎとも言い切れないな」

「所でラザーリアの戴冠式には何方がご出席で。それとも欠席ですか?」
「おおそれだ。勿論出す。
メレディスへの侵攻は止めだ。恩人の意に反して迄の利は微塵も無い。標的も消えたと言うし。
予定ではエンバミル、クルシュ、レレミィを親善大使と顔役として。護衛はラーランの騎士団から団長含め二十名となる見込みだ。

転移具は手に入れても誰が使えるかも解らぬ。ハルジエの隊以外マッハリアへ入った者も近場に居ない。
転移輸送を頼めるか」

「ご英断感謝を。輸送の件、喜んでお受けします。1月の末頃にお迎えを。予告はこの私鳩で送らせて頂きます」
「うむ。宜しく頼む。私は居残りで来年から山の様に降って来る書類整理だよ」
お疲れ予想のアストラ様に。
「でしたら国ではなく私たちから」

肩凝り解消按摩器と複製呪詛対策指輪を。フィーネから万年筆とインクのセットをプレゼント。

「指輪は自身と周囲の味方に降り掛かる遠距離攻撃や呪詛を回避出来る優れ物。所持するだけで常時発動しますので貴重品袋へどうぞ。後で同じ物をクルシュとレレミィにも渡します。指輪だからと言って誤解無きよう。
按摩器は肩や腰。凝った所にお使い下さい」
「万年筆はインクの消耗軽減が付与。インクは低温乾燥でも固まらない特殊な物。冬場の書類仕事も捗りますよ」

「これは有り難い。返せる物が直ぐには浮かばないが何時か必ず」
脇で見ていたエンバミル氏も。
「万年筆…。私の分は」
「済みません。品切れです。迷宮産なので式典までに出ればその時に」
「迷宮産だったか。是非とも頼む」
必ず出る物でもないけどね。


「突っ込んだ質問宜しいでしょうか」
「まだ何か」
「アストラ様ってご結婚は」
「は?」
エンバミルと顔を見合わせる。
「…エンバミルを父と呼ぶ日も来る…かも知れない。将来的に」
「私はまだ認めて居らぬぞ」

「やっぱり。昨日クルシュさん白月宮の食堂で泣いてましたよ」
「タイラント土産のデザート食べながら」
「なん…だと」
大嘘です!感動の涙を流してました。プリンに。

「エンバミル氏には申し訳無いですが。急いだ方が良いですよぉ。マッハリアの誰かに取られる前に」
「ぬっ!エンバミル。少し、話をしようじゃないか。君らは帰ってくれ」
「くっ…。腹を割ってやろうではないか!」

「邪魔者は」
「帰国致します」


耳を塞いでいたラーランと共に白月宮に寄り、お別れ置き土産(対呪詛指輪)と来年宜しくの挨拶を交わし。市場で緑茶葉とサーモンを大量購入して帰国。

やっとだよ!




---------------

スターレンが導き出した一つの可能性。シトルリンの別人がもう一人。

メリリーをロロシュ邸に預けマッサラの自宅に戻った。

プレマーレと話をする為に。

カーテンを閉め切り家周辺に蝙蝠を配備した。と同時に影からプレマーレを呼び出す。

「何故黙ってたの?」
「…」
黙秘。

「愛って私には良く解らないけど…。未だ未練が有るの?」
「…いえ。消されたんです。冠で記憶を。原本の方に。多分大半の関係者の記憶を消して回ったんだと思います」
成程。
「何時頃から」
「クリケルト時代から遡って。記憶操作系の道具の殆どはシトルリンが製作した物。
レイルダール様に滅ぼされた瞬間。私は恐怖と同時に強い憧れを抱いた。その力に対抗しようと。一歩でも近付こうと私は魔族に。彼は人間を頑なに選び。
何世代か後になって彼は西に居た私に会いに来た。もう一度女神に復讐しようと」
静かな呼吸。諦めの感情も見える。冷静と戸惑い。

「その時はまだ記憶は有った。クリケルトを建国する前。二人で旅し。愛し合った、確かな記憶。私はそれだけでも充分だった。でも彼は満足しなかった。
復讐を遂げ。やがて元居た世界へと帰る為。
今の私には時間が有る。情けか執着か余裕からか。中央へ渡ろうと言う彼の誘いに乗りました」
後悔は半分。

「今のクワンジア。クエ・イゾルバの拠点に着いた時。彼は私に思考能力を引き上げる道具だと騙し。冠を。
彼の真名に繋がる記憶。クリケルトで過ごした半分位。大切にしようと約束した思い出。それらが消えている事に気付き彼を問い詰めました。

この世界で名前は重要な鍵。彼は自分の名を知る者。記録を全て消すのだと答えました。ベルエイガを出し抜くにはそれ以外方法が無いと」
「記憶を復元する道具も有るわ」

「どうでしょう。それも彼が撒いた布石なのかも知れません。根幹は彼が造ったのですから」
「使ってみる?」
「恐らく壊れます。私の脳か魂が。転生はある意味呪い。記憶と魂が直結している。削除するには別の何かも同時に使った筈」
「復元道具だけでは足りないのね」
「確証は無いですが確信は持てます」
面倒な男だ。さっさと天寿で死ねば良いのに。

自分からすると死ねるのは幸せ。

「厄介ね。足跡からすると中央大陸に居る可能性が高い。それとも西の複製の傍。転移道具が使えるなら何処だって行ける。

私が東から出て旅した中では見付からなかった。まだ行ってない国。入れない場所に隠れてる。

其れなりの地位。金と人間を動かせる人物。人間に固執してる振りして今は魔族だったり」
「…有り得ますね」
擬態道具を独自で作り出せば選択肢も増える。

「私の目は誤魔化せない。どんな道具で隠そうと魔力は消せない。人間の魔力は魔族のそれでもない。能力の一部を引き継いでしまう転生者である限りね」
「…はい」
それすら切り離そうとしているかも知れないが。

神の目を欺く所業。
「残念なお知らせいいかしら」
「何でしょうか」
「クリケルトでの私の召喚。あれは失敗ではなく、私を西から外す為の術式だったとしたら。貴女はどうする?」
「……」
プレマーレは拳を震わせ。
「ぶん殴ります。女を騙すとどうなるかを骨の髄まで。刻み付けます!」
「良い返答ね。これからも原本は私から逃げ回る。勘の良いスターレンからも。捕え所が有るとすればそこ。
貴女にも任せるわ。
見極めなさい。同郷の誼で」
「必ずや」

今も震えるその手を取り。
「慰めてあげる。今夜は二人切りよ」
「レイルダール様…」

唇を重ねて抱き締め合った。熱く、強く、切なく。
「雄なんて皆馬鹿よ。特に過去に執着する雄は」
「仰る通りでうっ」
言い終える前にベッドへ押し倒した。




---------------

帰宅直後に酢飯を作り買ってきたばかりのサーモンパーティー。

お刺身、カルパッチョ、オニオンやアボカドトッピング。

ロロシュ氏、シュルツ、長い夜から復帰したソプランペア。ポッコリお腹のミランダとカーネギ。プリタ。
邸内に居たメリリーとラメル。

そして来年産育休に入るミランダの代打候補の3名。
ファーナ、ケイサ、アレシャ。何時だったか木の実拾いのお手伝いに本棟から来ていた侍女たち。

「ファーナと申します。マイリー様と成立し金星を上げ昇格しました」
「ケイサと申します。タタント様の子息タインド様と成立しました。次点に甘んじて」
「アレシャと申します。テッチ様の子息テイナー様と成立しました。今後はこの三人でご出張や産休中の穴を埋めます。自分たちがそうなった場合は本棟担当が補填に。
以後お見知り置きを」

「皆製紙工房とのお見合い成立したんだ」
成婚率100%の看板は未だ揺るがず。
「宜しくね。私たちは外出多いし煩く言わないから適度にお願いします」
「「「宜しくお願い致します!」」」
三様の元気なお返事が聞こえた。

シャリは握らず丼にしてご提供。

初めて刺身を口にする人々の歓喜が吹き荒れる中。帝国での顛末をロロシュ氏とシュルツに報告。

「寸前で踏み留まったか」
「何とか戦争は回避出来ました。これで暫くは帝国も落ち着くでしょう」
「マッハリアの式典にも要人を出すって約束してくれたしねぇ」

ソプランも報告を聞いて胸を撫で下ろした。
「取り逃さなくて良かったぜ。誰も居なけりゃ多分…」
「まあ幸いアローマも軽傷で済んだし。終わり善ければ何とやらだ」
「色々大変だったんだよ。私が居なかったら」
「どうかお許しを。フィーネ様」
「全然気にしてないから大丈夫。あれは忘れて」
何が有ったのか非常に気になる。2人の顔がほんのり赤い。それはお酒の所為として。
「胸の奥の良い思い出に。そもそも道具を貴重品袋の方に入れていた私の落ち度。失念でした」
「今後の準備はより念入りにしよう」
「年内はゆっくり静養しましょ。大きな行事はもう何も無いよね」

「ドルアールの茶葉は無事。今の在庫を全部譲って頂けました。来月中旬にも大袋で二袋は送られて来るそうです」
「それは良かった」
中でもミランダは感慨深げ。
「懐かしいです。我が儘を言えばお茶として少し飲ませては頂けないでしょうか」

「お姉様に譲るのが条件ですのでお姉様次第です」
「沢山頂いちゃったなら、ちょっとはお茶として飲まなきゃね。食後に皆で」
「私がお淹れします。ミランダ。一緒に」
「ええ」
食事終わり前にアローマとミランダが席を立った。

茶葉はシュルツからフィーネへ。プリタはモグモグしながら我が道を行く。

代打候補の3人は先輩の動きを具にチェック。…プリタは除外された模様。

皆真面目やなぁ。
「新装カジノに顔出すのと。米最後だから餅米と一緒に買いに行くのと。レイルにお土産持って行くのと…。お隣の進捗確認と手伝い。ラザーリアに居るロイドとグーニャを仕事を含め持ち帰る」
「そろそろ年始用の準備も始めたいわね」
年明けは各方面のお持て成しと献上品武装の製作が控えてる。

「ミラン様たちのご招待どうっすかなぁ」
悩みの種の1つ。
「メルケルさんとオーナーさんに相談して貸し切りにするとかは」
「うーん。3人が反対しそう。庶民の楽しみ奪ってまでどうかなぁ」
「うん。聞くだけ聞きましょ。予約がすっぽり空の日があるかもと期待して」
人気店だしなぁ…。ま、聞くのは無料。

シュルツが畏まって。
「お兄様の誕生月のお祝いは如何しますか、お姉様」
「あ~。今年はラメル君が近くに居るから恒例のケーキでいいかな。ネタばれ御免」
「いいよいいよ作ってくれるだけで感謝感激。欲を言えば指定してもいい?」
「お。良いですとも」
「南瓜ケーキと甘芋ケーキ。甘さ控え目で。生クリームたっぷりでもいいけど。偶にはガラリと変えて」
「おぉ。自分でも食べたいわ。ラフドッグで仕入れてくる。魚介も買わなきゃいけないし」
「南瓜と甘芋のケーキ…」
ラメル君の目がキラリと光った。
「一緒に作りましょ。レイルの分も」
「是非!」
メリリーも負けじと。
「レイル様の分なら私も手伝います」
「姉さん。ケーキは得意じゃないだろ」
「努力を見せるの!邪魔はしないから」
姉弟間で火花が飛んだ。モテる女は辛いな。

何時の間にかプリタがドルアールのお茶を運び並べた。
候補3人が出遅れた!と何時の間に!の表情。

砂糖無しでも甘酸っぱい紅茶を啜りソプラン。
「新年会の調整は俺とカーネギで進めてる。恒例のお隣とガードナーデ家で分割する方向で。ガードナーデは新設の直通地下道走ってるから上層組。
こっちは隣でボチボチ。お前らは両方顔は出してくれ。
重病人が居るからどうかと思ったが。本人曰く、普通にしてないと気が狂う、だそうだ」
「ほーい」
「お酒は控えさせないとね」

何時飲んでも落ち着くお茶だ。
「ロロシュさん的には何か抜け漏れ有りますか」
「そうだな…。ヘルメンへの報告はわしがサルベと共に行く。散歩がてら久し振りに泣きっ面でも拝みにな。
新たな移民組の案内を忘れるな、と。ラッハマ東は年内に一度進捗を見て置きたい。そちらはシュルツでも構わん」
「私も見たいので行きましょう。ピレリ様とダイテ様もお誘いして」
「む…」ピレリと聞いて一瞬ピク付いた。

「お買い物する時に一緒に行こう」
「はい!」

「ハイネへの案内なら俺らで行く。渡し船の便数も増えたしのんびりと。それよかティマーンは何処に行かせたんだ」
とソプラン。
「あー。ちょっとラッハマまで。ラザーリアの帰りに拾おうと思って。マッハリア間の行商の情報収集をリハビリも兼ねてさ」
「ラッハマ…。確かに北の流通路だが何か心配事か?」
「将来の予防線かな。善い人も悪い人も金の亡者な商売人が温泉郷に押し寄せて来る。美味しい蜜を吸おうって乗っかりたそうな奴居たらチェックをね」
「ロロシュ氏の次の代に寄って来るってか」
「成程…」
シュルツもこれに頷いた。

「怖ーいロロシュさんが退任したら雪崩れ込んで来るに決まってる。俺でもシュルツが代表代行でも。行き成りピレリを立てたら押し潰される。だから予防線と選別」
ロロシュ氏が総括。
「まあ新たな事業には付き物だ。目を血走らせた者共がわんさとな」
「怖いですね…」
怯えるシュルツをフィーネが慰めた。
「私たちが守る。着工がある程度軌道に乗ったら次は経営方針とルールの策定よ。隙を作らないように」
「はい」

シュルツが気を引き締め直した所で夕食会&年末総纏め会はお開き。
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