お願いだから俺に構わないで下さい

大味貞世氏

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第219話 接待と出張色々

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忘れちゃいないぜスフィンスラー迷宮3巡目。

レイルのストレス軽減も兼ねまして。挑み狙うは10層パペットが出す身代わり人形3体目。

泣いても笑っても正真正銘今世でのラスト1回。

結果…出ませんでしたー。

「嘘だ!ベルさんのケチぃーーー」
パペットの残骸が塵と消え行く地面を叩いた。

欲しい物が出なかったのは初めて。
「無い物は出せないのよ、スタンさん」
材料不足だったか…。

「1つはスタルフ。1つは自分。もう1個出たらフィーネに持たせようと思ったのに」
「大丈夫。大怪我しないように頑張るわ」

略1人でパペットの群れを片してスッキリ顔のレイルが降りて来た。
「嘆く程でもないじゃろ。古代樹と世界樹の木片を合成して人形を彫れば良い。この世界にあれ以上の素材が在るのかえ?」
「その手が有ったか!」
どうして気付かなかった俺!

「ちょっとスタン。合成はするけど。私に似せるなら服着せないと怒るよ」
「水着では!」
「何処に気合い入れてんのよ。服ならスリットでも胸元ざっくりでもいいから」
「言いましたねフィーネさん」
「え…。程々って言葉解るよね?ね?」
「さ。帰ってシュルツの工房借りよう」
「聞いてる?ねえ聞いてる?」
嫁の気が変わらない内に。


スフィンスラー迷宮残りチャレンジ回数。

1~5層…3回
6層…✕
7~9層…2回
10層…✕
11層…2回
12~14層…✕
15~16層…2回
17層…1回
18~19層…✕
最下層…推定1回




---------------

今夜はレイルたちを連れトワイライトに行く予定。

気が気ではない嫁は木と木を合せて隣でキーキー言うとりますが気にせず彫刻刀を握ってます。

木屑も貴重品なので作業台にシートを敷いての作業。

昼食後に始めた作業は5分で完了。

「なんで!」
木製フィギュアを握ったフィーネさんの一言目。
「服は着てますが何か?」

胸元ざっくりは臍下まで。左片サイドスリットは腰上まで。
首巻き垂れ下がりロングドレスで肩も背中もガラ空きで実に涼しげ。

「この私は…パンツ履いてるの?」
「捲れる訳じゃないから内緒です」
「裸に首巻きドレスって何処の娼婦よ!」
「俺たちの出会いを思い出すっしょ」
「あの時こんなセクシーじゃなかった」
「バッグの中に入れっ放しになるんだからさ」
「そうだけどさぁ。もぉ。勿体ないからこれでいいけど。次やったら怒るよ。本気で」
それは怖いな。
「はーい、すんませーん」

知りたがりのシュルツが食い付いた。
「お二人の出会いって…」
「あれ?話してなかったっけ」
「あぁそう言われてみれば」
「詳しくは聞いてませんね。娼婦がどうのとかは」
腕組みフィーネは正直に話すか考え。
「シュルツも大きくなったし、いいかな。私、アッテンハイムから逃げる途中。マッハリア西部の町で娼館回って詐欺働いてたの」
「詐欺?」
「お金持ってそうな人を個室に誘って。スリープで眠らせて所持金を半分拝借。次の町で買い物して、て感じ。
その逃亡生活の最後で出会ったのが」
「俺やね」

「それは…犯罪では?」
「犯罪ね。でも1人も怪我させてないし。顔変えて偽名使って暗示掛けて良い夢見させてあげたんだから。魔力も使ったしその労働代金と考えれば…犯罪とも言えないわ」
いいえ立派な犯罪です。

「そ…。危ない事はなかったのですか?」
「この私が普通の人間に負ける訳ないでしょ。でも1人だけ居たかな。軽いスリープに堪えた男。最大スリープで眠らせたんだけど」
「お、そんなの居たんだ。初耳」
「高そうな服着て。今考えるとどっかの御貴族様だったのかな。でも何処にも居なかった」
「式典に来たりはしないですかね」
シュルツの指摘に一瞬固まる。
「だ、大丈夫よ。第一素顔の私は知らないわ。素の私も色々変わったし。何か気になる事でも?」
気になる事だらけだと思います。

「いえ…。午前に後宮に遊びに行った時に。ダリアさんがお二人が激しく口論する姿が見えたと言っていたので」
「ふーん…。式典会場で現われる偽物。スタンの可能性が高いわね」
「まあね。俺の姿が一番スタルフに接近し易いからな」

「問題無いわ。喧嘩する時は口論では収まらないから」
問題…有るんですけど!
「なら良いのですが」
「良くはないぞ」
「スタンと喧嘩するのは…。浮気した時位よ。私はしないし出来ないから」
「安心しました!」
「2人だけで納得すな」

「浮気…するの?」
「するんですか?」
「穢らわしい」ロイドが参戦。
「最低じゃな」レイルが煽る。
「不倫は最悪の結果を招くと」アローマは泣く素振り。

ソプランは外出中。圧倒的不利。そして理不尽!
「しませんて!」

「さて。お喋りはお終い。対呪詛指輪とマウデリンチップは必須として。他に何を合成すればいいかな」
「うーん…。身代わり、だもんな。レイルやルーナの力借りると再生特化になりそう。ロイドは移動系のイメージ。
良く考えると該当品や能力持ってないな」
「妾は同等素材品が作れると言っただけじゃぞ」
「意外と難しいね。水竜様の鱗の欠片入れてみようかしら」

するとピーカーがフィーネのバッグから這い出し。
「無属性の魔石を加えて下さい。僕の能力も付与すればどんな攻撃も無効化出来ます。その大きさなら四分の一欠片も有れば充分です。
一体目と二体目に加えても更なる向上が見込めます」
「ピーカー君天才。無属性攻撃も相殺出来そうだな」
あの不可避攻撃まで無効化出来るなら最強の防衛道具に進化する。
「いいわね。物は試しで」

アローマが遮光カーテンを閉め切り白昼灯を点灯。

「明るい。もしかしてシュルツの新作?」
「はい。銅板回路を考案中に浮かんで作ってみました。
炎魔石を使用しているのと銅線の酸化が激しいので本体は数年と持ちませんが」
「照明器具も旅の必需品よねぇ」
「叔父様の工房で別途作成中で。月内には間に合うと思います」
良く気の付く子やなぁ。

シュルツの有り難い応援を受け。フィギュアの上に道具や欠片を重ねフィーネが手を置いた。

その甲に俺の右手、上にピーカーが乗って発動。

一瞬の閃光も遮光カーテンで安心。

合成は成功した。が、木材がベースなのに…ドレス部に水色が入った。更に…。
「どうしてドレスが水色で透けちゃうの水竜様!!
……だ、駄目じゃないですけど、木目の自分が恥ずかしいです」
おっきな独り言。

木目地肌丸見えのフィーネ人形をそっと受け取る。

名前:身代わり人形・改(フィーネ専用)
性能:全ての攻撃・害的呪詛・大きな環境変化を
   連続3回迄無効化
   所有者本体完全再生機能付随
   (クールタイム:1時間)
特徴:衣服や装備品は別。要注意

「無敵時間は作れるけど…。全裸は困るな」
「ファントム装備が全損するなんて現状有り得んよ」
「そ、そうよね。これは御守りだし」

レイルも手に取り。
「良い物を手に入れたのぉ。フィーネや」
「レイルとは戦わないよ。私飛べないもん」
「飛翔の腕輪。複製してみい」
「しつこーい」
奪い返してバッグに収納。

「複製箱今なら空いてるし複製掛けてみよっか。丁度入りそうだし」
「有るに越した事は無いわね。西には飛行系の敵ウジャウジャ居そうだから」
「訓練なら幾らでも付き合うぞい」
「もー。確かにレイルはこれ以上無い相手だけど今は嫌。
西に行く前に考えさせて」

黒竜様の前にレイルとの模擬戦が入りそう。

普通人形の2体にも無属性石の欠片を合成。
再生機能以外は同等性能に更新された。

「弟君の人形にはマウデリン入れないの?」
「あんま過剰な物渡してもね。悪意じゃなくても欲の無い人間なんて居ない。俺たちは戦う相手が相手だからさ」
「その側面も有るか。権力とお金握るんだもんね」
「そそ。父上としっかり者の嫁さん2人も居るんだから余程大丈夫だとは思うけど。あいつも俺と同じで調子に乗り易い所有るから」
「納得」
あらま皆さんお揃いで。


「看破のカフスの劣化版。質的に見ても最後の1個出来てるけど使い道何がいいかね」
「出来たんだ。…そうねぇ。双眼鏡や眼鏡に入れるのは駄目だし。ペリーニャやダリアには渡せない。一旦カルに預けましょうか。
アローマと別行動でも見破れるように」
「妥当ですね。クワンティと持ち回しで対応範囲が広がりますし」
「クワッ」
比較的あっさり持ち主が決まった。


自宅でお土産用の蓬団子を作りながらメリリーの帰宅を待ちトワイライトへ。




---------------

飛んで数日。1月中旬のある日。
この日はペリーニャ隊を再度招いて合同接待。

昼食会を済ませシュルツの工房を貸し切り溜り溜まった鑑定会を開催。

工房主は中の時計関連物品をバッグに詰め自室待機。

ゼノンたちは全員外の通路で見張り。外の付き添いはソプランで対応。

工房内には自分、フィーネ、ロイドにレイルの4人とペッツのみ。

アローマは自宅と本棟を往復の連絡員。

俺では鑑定不可の黄昏石も含め。集めに集めた物品、道具類を作業台に並べた。

大狼様が研磨した骨槍。古代樹の杖本体。
古代樹と世界樹の木片。黄昏石。無属性魔石。
マウデリンプレート。オリジナルのアンテナ円盤。

「これが現状考え得る関連品。用途が未知数な黄昏石と無属性石はピーカーかピーカーのママさんに聞けばある程度解る。
属性に関しては骨槍1本で闇魔以外揃う。
じっくり見て気になる事有ったら教えて」

「はい……」
並べた全てを手に取り眺め、置き直す。骨槍だけは両手でフンッと。可愛くてちょっと笑ってしまった。

「お恥ずかしい。でもこの槍は冒険者でもない一般女性には重たい部類ですよ」
「ごめんごめん」

「何れも力強い逸品です。関連もきっと。黄昏石は薄ら内容が見えました。ピーカーのママさんが転移トラップに使用したお話を含めると…。
設備の構築。杖本体ではなく、杖を設置する台座を構えるのに適しているようです」
「覚えとくよ」
そっちね。モーランゼアのあれの根本にも使われていると推測。

実物は見なかったが金ゴキは世界各地に隠れ住んでるのかも知れないな…。良い気分はしないっす。

「無属性魔石は正直何も解りません。欠片をお借りしても宜しいでしょうか」
「それは…どうだろう」
作業台の端で転がる綿玉君に問い合わせ。
「お勧めは出来ません。今まで人間がそれに長時間触れた前例が少ないので。余り気持ちの良い提案ではないですが…。
スターレン様の血を吸収したナイフであれば影響は殆ど無いかと思います」
「スターレン様の…血?」
「刺されたんだ。背中からズブッと。芯部は守れたけど傷口の皮膚が治らなくて苦労した」

道具の並びの傍に鞘付きで差し置いた。
「表面上は綺麗に洗ってあるから普通の短剣。気持ち悪かったら直ぐに離して」

一瞬躊躇ったペリーニャだったが直ぐに掴んで鞘から引き抜いた。

見た目はまんま鋼鉄製の鈍銀。その剣身をしばし眺めて鞘へと戻した。
「特に違和感は有りません。フィーネ様の許可が頂けるなら持ち帰りたいです」
「私は構わない。スタンの物だし。人前で出しちゃ駄目よ」
「はい。聖女が短剣を持っていると知れれば大騒ぎですからね。折角武闘派を名乗りましたのに」

無属性短剣は日の目を見る事無くペリーニャの護身用ナイフと化した。彼女にそれを抜かせないよう気を付けなければ。近くに居る時は。

「二つの石を除き。今の段階では足りているのかいないのかは解りません。根幹の結界術式はマウデリンプレートに書き込めますが…。何かが足りない気もします」
レイルが珍しく自分から。欠伸をしながらの助言。
「循環、じゃな。永続的に据え置くならの」

「循環…。そうです。放出された魔力を戻す機能が欠けています。ご助言感謝を。レイルダール様」
「興が乗った。それだけじゃ」
本当に珍しい。

「後は実物を見てみないと何とも」
「循環に関わりそうな物を探して行こう。ペリーニャは成人後に部外者がこっそり入れる方法見付けて」
「はい。いざと為れば私の転移で直接中へ。…女神様に怒られないかと心配ですが」

「それなら問題無い。女神様の側近と連絡が取れるロイドが居るから」
「今の所で。この件に関し上から苦情は来ていません」
ホントは直です。
「それを聞いて安心しました」

彼女は道具と俺たちに深く頭を下げ。女神に感謝の祈りを捧げた。


場を本棟会議室へと移し、モーツァレラの続報。

ロイドとペッツは自宅。レイルはホテルへ。シュルツは工房に荷物を戻しに。

ゼノンとリーゼルを加えた5人で。

ギンガムの襲撃を乗り越えた翌日に覚醒。激しい幼児退行と記憶の混濁が見られたが竜血薬を飲み始めて快方に向かい。身体的不調と共に記憶も回復。

少しずつグリエル様や年配役職者と話し。聴取者間で計算すると過去5年の記憶の欠損が判明。

ギンガムやサファリの記憶も過去で止め。

ケイブラハム卿を見ても。
「老けたな」
「お前もな」

成長したペリーニャと接見し。
「大きく…成られましたな…」
涙を流し、自分が長期間寝ていたのだと理解した。

ゼノンが最終。
「ギンガムやサファリ、パーディの過去を洗い。知人、近しい関係者を虱潰しにしましたが何も得られず。
モーツァレラ卿の屋敷全員に聴取を重ね。今は本人を屋敷に戻し聖職復帰は未定。
代役はケイブラハム卿が兼任。

第一師団の再編は別途調整中。代理団長は副団長のアロルドが勤めています。
聖女様に纏わる機密保持の面でもアロルドがそのまま正式昇格される見込みです」

「あの状態で欠損が5年で済んだなら奇跡だよ。
ケイブラハム卿は何も?」
「誠に。枢機卿は二年前からモーツァレラ卿の異変に気付き何度も問い詰めたそうですがのらりくらりと躱され話しにならず。ペリーニャ様に影響が及んでは拙いと考え静観の立場を貫いたのだと。
自身への接触は一切無かったとお答えを頂きました」

「大体同時に動く人同士で2役は出来ないよね」
フィーネの感想に全員納得。

「サファリに関してはローレライが何か知ってるかも知れない。そっちは来月以降の何処かで聞きに行くよ」
「宜しくお願いします」

他は特に無し。で全員お着替え。

ペリーニャにはフィーネからマウデリンプレート入りブラが授与されたらしい。

色々妄想出来るが女子の秘密には立ち入れませぬ。

付与には俺も携わったのに…。

総合で膝上から全身をカバーする常軌逸した防具ブラが完成した。


城の3姫をご招待。

トワイライトの夕方一般客が捌けるまでロロシュ邸本棟で割と長いお茶会が開かれた。

初対面のミラン様にペリーニャも若干緊張。しかしそこは女子。結構フランクなミラン様がアッテンハイムの話を聞き捲りで直ぐに打ち解けていた。

本棟でも店でも沢山お喋りしてるのに女子の話題は尽きないようで。聞き耳を立てるようなゲスではないので殆どスルー。これに限る。

そして気が付けばここでも男は俺1人!
肩身狭いわぁ…。

食後のミラン様の御講評。
「大変美味しかったです。城でも同じ物が出されるのに外で食すのはまた違いますね。
店の雰囲気。空気。冬の澄み切った夜空。集いし皆。
変わりゆく城下。穏やかに暮らす民。
誰がではなく皆で進む日々。王家も変革すべき時が来ているのかも知れません。ねえメルシャン」
「はい。私もその様に思います。メイザーの頭がもう少し柔らかければ安泰なのですが」

「メイザーの方も育て方を間違えたのかしら…。私の適当さが逆の裏目に…」
適当だったんかーい。




---------------

合同接待日2日前。

ギリングスからお手紙届いたよと城にお呼ばれ。
後宮の陛下私室にて。

ヘルメンちとミラン様の前に置かれた…真っ黒な封筒。
「黒…。と言う事は喪中、でしょうか」
「犠牲者追悼の意味かしら」

「誰が亡くなったかは書いてない。しかし高位の者でなければこんな知らせは送らん。家臣や民に被害が出ているのは周知でお前たちも知る所」
「また何かが起きたのかと心配で」
ミラン様の心配事なら解決せねば。

ヘルメンちはどうでもいい。
「顔に出ているぞ。行った序でに調べるのは構わんが暮れ暮れも深入りはするな。と忠告だ」
恒例のやらかしを心配されている。
「それはまあ」
「プリメラ様次第、と言う事で」

書簡内容は親書でも招待状でもない荷物の授受の案内。
筆跡はプリメラ様の物。

まさかマルシュワ姫の身に何か…。

「今日は丁度空き日ですので」
「早速準備して向かいます」

関係無い人ならまあいいかではなく一度助けた人物に何か有ったら後味悪いでしょと言う話。

軽い胸騒ぎを抱え、赴いたカルツェルク城。

今回も王宮前広場の片隅に転移。
俺とフィーネ(ピーカー)のみの転移だったが着地した瞬間周囲は大勢の衛兵諸君で埋め尽くされていた。

「何?何か有ったの?」
「お呼び出しを頂き参じましたー」
黒い封筒を掲げてフィーネが叫んだ。

「タイラントのシュトルフ夫妻様がお越しだぁぁぁ」
うぉーと外周兵も呼応。前回と全然違う!

衛兵長らしき兵士が前に出て。
「ようこそお出で下さいました。宮内控え室へご案内致します故どうぞこちらへ」
「あ、そう」
足元を良く見ると大枠で赤ラインが敷かれている。
「何これ?」
フィーネが問うと推定衛兵長が。
「転移して来られるであろう場所の単なる目印です。兵が立ち入らぬ様にと」

城内だもんな。枠線位引くかと2人で赤線を跨いで出るとまたしても大きな歓声が上がった。

「なんぞ?」
「何か変なの」
「いえいえお気に為さらずどうぞ」
柔やかな対応に怪しさ一杯。

城内は喪中とは思えぬ明るい雰囲気。兵士たちは腕に喪章を付けてこそ居るが丸で悲しんでいる様子を感じない。

なんだろなぁ、と話しながら控え室で待つ事30分。

玉座の間ではなく最初に俺が単独で来た時の査問会議室に通された。

「ここ最初に来た時の部屋」
「そうなんだ」

室内にはプリメラ女王含め重役(と思われる)たちが並び初見の人が半分。元気そうなマルシュワ姫も女王の隣に座っていた。

プリメラ様を挟んで反対席が…撤去されてる。

「善くぞ来てくれました。スターレン殿、フィーネ嬢。
気になる事は多々有るでしょうが貴殿らには無縁。先ずは寛いでくれると有り難い」
「寛げと仰られましても…」
「喪中、なのではと急ぎ参った次第で」
「追々話します。茶でも飲みながら荷積み授受の件から片しましょう」

出された紅茶は鋭い渋みと酸味が独特なお味。
ドクダミと紫蘇を混ぜたような薬膳茶ぽい。

これはギリングスの特産葉で私の好みの茶だとプリメラ様が付け加えた。人の好みはそれぞれ!

海賊船を解体して出たのは大入り収納袋で30。内15袋を後で広場の一角へ展開する。で即決決済。

「ここからは相談です。現在借用中の対呪詛指輪の一つを当国に納めて欲しい。勿論その代価は用意しました」
貴重なオリジナル品だが1個ならいいかな。

隣のフィーネと小声で相談してOKが出た。

「代品がどの様な物かのご説明を」
「擬態や偽装を破れる道具です。広場の転移地を囲ったあの赤線。今のラザーリアには打って付け、なのでは」
「「欲しいです!」」
声を揃えて有り難し。

同機能の物が最近2つ入手出来て。強力版の青線が描けるラインマーカーを代品に。その線上を跨いだ瞬間に素顔が露呈する代物。

線で囲めば空中だろうと転移通過だろうと破れる国宝級。
固有スキルでも道具でも。只一つ残念なのは入城予定のソプランたちが使えない点。

それは後で考えよう。

「とても助かります。最近擬態する輩が多くて多くて」
「是非交換させて下さい」

「そう言って貰えてこちらも助かる。もう既に娘がチェーンリングを手放さなくて…」
「済みません。借り物と解っていても。どうしても夜に寝付けず。これを首から提げてからはグッスリと」
欲しがったのはマルシュワ姫の方か。

長い間監禁されていたんだから不安だよな。

「同等以上の代価。有り難く頂戴致します」
「この上無き感謝を」

「礼には及びません。貴殿らの功績に比べれば安い物。
擬態破りも線を越えられてから使われると無意味。その点注意をすると良いでしょう」
「侵入が防げるだけで充分です」
「姫様の安眠に役立つのでしたら尚良し」

「道具が見付かった経緯を話します。結論。内通者であった首領メイゼリンが死にました」
「「ええ!!??」」
衝撃が突き抜けた。しかしプリメラ様もマルシュワ姫もニコリと笑ってる…。

夫と父親が亡くなったのに?

「以前より幾つか嫌疑を持ち合わせ。証拠が無くては断罪も出来ぬと長く幽閉状態に置きました。
海賊組織と内通していたのは誰か。マルシュワを引き渡し国を裏切ったのは誰なのか。辿る先は何時も愚王」
だから俺に会わせたくなかったのか。
「昨年の暮れ。北の夜空が紅く輝いた日の翌朝」
「「…」」
俺は何も知らない…。知らないったら知らん。

「貴国から頂いた冷蔵庫を勝手に漁り。未加熱で切り置いた茸を食べ散らかして。虫下りで急死」
そんな毒茸置いたの?
「何とも言い難く」
「も、申し訳無いと言う範疇に入るのやら」
死因も刺激的。

「なので貴殿らとは無縁。馬鹿は死ぬまで馬鹿でした。
死後に立ち入れなかった愚王の私室を探ると。海賊島と繋がる文書や通信具。擬態破りの道具などの物証が得られました。

しかし建前上、王は王。
国葬に燃して今月一杯は喪中とし。今に至ります」
マルシュワ姫が捕捉。
「大々的に発表し。新たな敵が現われるのに期待していましたが何も現われず。首謀者と確定。
この場の上位者を刷新し居なくなった者たちは皆、愚王の子飼だった者です。
これで国内中枢の膿は出し切れたと信じます」

「漸く国が生まれ変われる。その開始点に立てました。
何時か時が許せば貴殿らにも当国の町々を歩いて貰いたい。隣国やタイラントに負けぬ恥じぬ国へと」
「その時は是非」
「是非とも」

「貴国との正式な外事交渉が何時になるかは解りませんが。その時はミラン妃も一緒に連れてくれると有り難い。
個人的にも心置きなく話せる友が少なく。恥を忍んで」
「恥などと。帰り次第、妃へお伝えします」
「今暫くは親書の遣り取りでご自愛を」

「私が居ますよ御母様。スターレン様以上の殿方など早々には見付かりません。それまではお側に」
「それは…生涯独身で居ると言って…」
「そうとも取れますね」
何だか雲行きが。

「ほ、訪問の要件も済みましたのでそろそろ」
「お暇を」

軽く咳払い。
「多忙の中ご苦労でした。このヘイルセッドの茶葉も手土産に。飲めば胃腸を整え、肌に塗れば軽度の解毒作用も持ちます。旅薬に役立てると良いでしょう」
「「頂戴致します」」

「ではサイラス。荷の引き受けと道具のお渡しを」
「ハッ!」
壁際に控えていたサイラスが一歩前に。

彼は朱色の騎士鎧に身を包む。
「騎士団に復帰したんだ」
「漸くに。それもこれも全てお二人のご助力のお陰。他の多くの団員や兵も感謝を口にしています」
悪い気はしませんな。

広場に向かう途次。サイラスに尋ねた。
「サインジョってどうなった?」
「彼には戦没者たちの墓守をさせています。慰霊碑を毎日磨いて。まだ笑顔も無く誰とも話をしたがりませんが。
我らも語り掛け。同じ被害者家族を集め慰安会を開こうと計画しています。
お二人はお会いに為らない方が宜しいかと」

「そっかぁ」
「元気出してくれるといいわね」

恩赦が無事受けられたようで良かった。
恨まれたままでは胸が痛む。でも今は何も出来ない。


若干の心残りとギリングスの明るい展望を胸に。
指輪とラインマーカーと茶葉の袋を受け取り帰国した。




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合同接待日翌日。

この日は父上や実家組を招いて昼食会と打ち合わせ。
そしてペリーニャを引き合わせる非公式会合。

去年はニアミスで終わったが今年は式典絡みで事前に顔合わせが必要と判断。

舞台は勿論俺たちの自宅。

外では聖騎士隊に恐縮する実家の護衛兵たちの姿。
男が半分以上居るがゼノンに握手を求め群がってる。
どっかのアイドルか!

超久々に会う弟は来月成人だけあって大人ぽく成長。
但し外見は。

「自由だぁぁぁ。城の軟禁生活なんて真っ平だぁぁぁ」
とまあこんな感じでリビングに入るなり叫ぶお子様。
「人の家で叫ぶな。上にペリーニャ居るんだぞ」
「あ…。今のは無かった事に」
「出来ねえよ」

父上は後ろで額を押さえプルプル。
婚約者2人も呆れ顔。

「ソプラン。隣行って防音室予約して来て」
「畏まりました。直ぐに戻ります」
ソ、ソプラン…?父上の前だからか。

「防音室?」
「どんなに大声で叫んでも一切音漏れしない部屋。帰る前に連れて行くからもう少し我慢しろ」
「父上!城にもつく」
「そんな無駄金が何処に有る!いいから座れ。聖女様をお待たせするな!」
「は、はい!」

マッハリアの未来が頗る心配だ。

漸く整いフィーネが上からペリーニャを連れ降りた。

椅子を外して膝を着こうとした客4人を制止。
「お止め下さい。ここは人様のお屋敷。私も客の一人。
聖女は象徴であり人の上に立つ者では有りません。
座りましょう。私共もお昼前には帰らねば」

あっちはあっちで出発準備と行事が山盛り。

大人なペリーニャを前に子供なスタルフはマジ凹み。
何時まで経っても男はこんなもん。

俺たち兄弟は父上の足元にも…。
対面に座るロイドにデレデレだった。
これは見なかった事にしよう。

外の護衛を寒空の下で長居させるのも悪いと。
簡単な挨拶と出席予定者がモーツァレラからケイブラハムに変更になったと伝えるに留めた。

顔合わせが終了しフィーネがアッテンハイム組を輸送。
隣からソプランが戻り、午後なら何時でも直接転移OKと回答。

護衛隊を含め本棟での昼食会。その流れで会議室を借りて式典対策案を話し合った。

配布物。

1体目改良身代わり人形:スタルフのポーチ
オリジナル対呪詛指輪2個:チェーンリングにしてハルジエとサン
ラインジットV2:スタルフのポーチ
ペインジットV2:父上のバッグ
軽量マウデリン中盾(城塞と命名):スタルフのポーチに捻じ込み
ギレム工房製双剣金装飾品ナイツ:ハルジエ
ギレム工房製双剣銀装飾品ダイツ:サン
双剣は両方マウデリンプレートを後合成

防具用下着はこの後、女性陣はフィーネとお買い物へ。

「ラインジットは中剣サイズですが不慣れなスタルフ用に短剣レベルまで軽量化も付与して有ります。
自室で取り出す練習をして置く事。
武器類の全てに聖魔石を2連装。柄を握れば少ない魔力で対闇魔性能が向上します。
スタルフに渡した城塞は使用魔力量でカバー範囲が変動するので状況に応じて父上が持った方が良いかも知れません。そこはお任せします。
双剣は贈答品で渡そうと考えていましたが早めに完成したので今。普段はポーチの中でも良いですし。寝る時は枕の下にでも」

「礼を言う。良くここまで揃えてくれた」
ハルジエとサンも続けてお礼を述べて双剣の鞘に頬擦りしていた。仲良しやね。
「いえいえ。家族を守る為なら幾らでも。しかし使えなければ意味が無く。穴は有ります」

「兄上。僕の鎧とかは…」
「主席宴会場で鎧着込む王様が居ると思うか?戦時中なら兎も角」
「居ない…です」

「不安なのは皆同じ。それを隠して堂々と振舞うのが政治家ってもんだ。そして最後に」

ギリングスでゲットした偽装・擬態破りのステッキ(青)

先端が球状の長柄杖。特徴と性能と使用方法を説明して父上に渡した。

「使用魔力は少ないですが広範囲で線引きするなら数日に分けて。ここと城の要所には既に引いて有ります。
効果も1年。既存の結界にも影響無し。難点なのは自分たちが道具を使えないのと線内に入ってから使われると無意味に成る事です」

一つ頷き。
「素晴らしい。部外者、招待者問わず急に容姿が変化する者をその場で捕えてしまえば良い。中に入れるスキル持ちが居たら厄介だが…まあ何とかなるだろう」
「化ける可能性が最も高いのが俺なので。別場所に移動した筈なのに目前にふらりと現われたら容赦無く渡した剣で刺して下さい」
「兄上…」

「本物の俺なら身代わり人形持ってるから問題無い。
人を刺した事が無いお前の実験台になってやるんだから外すなよ」
「そんな平然と」
青くなるスタルフに父は冷静。
「会場で入れ替わるならトイレなどの離席時。仲間が仕事の話をと引き留めれば時は稼げる。
他はスタルフ自身が孤立し易い休憩や模様替えの間。中日の就寝時と要所は限られる。
式宴中なら私たち警護が接近を阻めるが正体が潜り抜ける程の手練れなら。自分の身を守れるのは自分だ」

「広すぎますよ」
「泣き言言うな。会場内で俺とフィーネが揃って居なくなる状況はまず無い。俺が席を外しても嫁さんが何とかする」
「任せなさい。私はスタンよりも素早い。王座に接近する前に仕留めるわ。敵の狙いは大衆の面前で兄が弟に危害を加える事。夜間は低い。
新王女2人の方に近付いても同じ」
「俺は絶対2人に近付かない。ダンスが有っても断る」

「それは残念ですわ」
「ええ…」
ハルジエとサンは不満顔。
「全部終わった後で。身内の席で幾らでも付き合うよ」
「でしたら控えます」
「練習が無駄に終わりませんように」
練習してたんだ。て当たり前か。


続いて招待者の移動に付いて。

帝国組は北外門。アッテンハイム組は西外門。
俺たちタイラント組は南外門。ロルーゼは知らん。

3組をそれぞれ1日ずつズラして輸送する。
最後が自分たち。世間の認知では転移具を使うのは俺だけなんで全輸送は自分が行う。

「ロルーゼに関しては…」
フィーネに目配せ。
「女子はお買い物に。全部私が出すから付いて来て」

訝しむ女性陣を連れて退出。

新しい茶を運んで貰い。室内には俺たち親子だけ。

何かを察した父上に。
「ロルーゼから来る一派の中にローデンマンの関係者が潜んでいます。若しくは本人が」
「やはりか…」
「お気付きでしたか」

「何となくな。奴が逃げ込める先は国内地方かロルーゼしか無い。国内の網には掛からなかった。残るは一つ」

「ローデンマンとは?何者ですか」
何も知らない弟が取り残された。
「母上を守れる立場に居た男だ。毒殺される前に逃亡して大穴を開けてくれた」
「な…」

「スタルフは少し黙っててくれ。その一派と言うのは」
「こちらで集めた確度の高い情報から。現状で動いている疑惑有る勢力が最低3つ。
ロルーゼ偽王政権の完全崩壊を狙うバーミンガム家。
ローデンマンが何者かの援助を受ける派閥。
もう1つの情報は掴み切れていません」

「バーミンガム家は知っている。偽王本人は動かないが直下の役人も。
出席を表明しているのは派閥括りで五つは有るな。
内二つの何方かに奴の縁者が居るのか…」
「多いですね」
もう少し時間が有れば。

「聖女様が参加を発表為されてから増えた。女神教主体のロルーゼに希望者が多いのは当然。来客全てを聴取するのは難しい。上手く隠れた物だ」
「疚しい心を持つ者なら大抵ペリーニャが見抜きます。
遠巻きに眺め直接的な接触を避ける人物。それもまた大勢居ますが彼女は俺たちで守ります」

「元よりアッテンハイムとタイラントは隣卓の配置だ。そちらは任せる」
「マッハリア内の手引き者の要人が1人」

「ランディスだな」
流石っす。
「あれだけ大々的にお前との接触を避け続けているんだ。猿でも解る」
「…僕は全く気付きませんでした。単なる馬鹿だと」
「お人好しか!俺に食って掛かって来た頃を思い出せ」
「頑張ります…」
こいつ1人になったら簡単に騙されそう。

「猿は兎も角として。ランディスと親しく接する者たちから洗って行く。水際で全ては処理出来ん」

「因みにモーランゼアとメレディス他からの予定者は」
「モーランゼアとクワンジアの王はお前の意を汲んで早々に辞退した。信者はアッテンハイムに行けば済む。
メレディスは返答も無ければ団体で動いてもいない。
距離も有り帝国を通過出来ないのでは動き様も無いがな」

ちゃんと聞いてくれたんだ。直接話したケイルガード様とは違いピエールとは別段式典の話をしていないのにも関わらず。

ソーヤンを躱し続けた手腕は伊達じゃない。

「そこで1つ提案が」
「どんなだ」

「実はメレディス人だけを遠方に飛ばせる固定式の転移装置を持ってるんです。
一般のメレディスの民が巻き込まれてはいけないので。
ロルーゼ国境付近の廃村とか廃棄された砦とかに設置したいなと」

過去にゲットした故障品2つをシュルツの力を借りて先日修理したばかり。実験台は勿論ギークで。

何に反応してるのかは謎のままだが他の人間には無反応でギークだけが移動する様はかなり面白かった。

「掛かるかどうかは盛大な賭けだが。廃棄砦にしよう。
そこなら確実に一般人は入れない。
早急に候補を挙げロイド嬢に伝える」
「お願いします」
賭けでも何でも掛かってくれたら有り難い。
俺たちの絶運を信じる。完全に運任せ。


打ち合わせ終了後。弟を防音室に数分放り込み。
ロイドを呼び出し父上と共にラザーリアへお届け。

衣装持ちのソプランたちはこの3日後に合流させる。

後はギレム工房の残りの完成とヒエリンドの帰還を待つばかり。

それとも現在フラジミゼールに居るのでモーちゃんに会う序でに迎えに行くか。
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