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第252話 南東遠征準備・2
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ラザーリア緊急訪問の翌日。
シュルツからアローマとソプラン用のシャツが出来ましたとの連絡を受け工房でお披露目。
「私も失念して居りました。エプロンドレスでは冒険には向いていないと昨日の連絡を受けるまで」
「まあシュルツは実戦経験が少ないからね」
「私も忘れてたもん。エプロンが宙に浮いてるって」
「はい。そこでアローマさんを引き上げるとソプランさんとの能力差が開き。連携が上手く行かないのではと考え。
アローマさん用のロングブラウスとソプランさん用のロングシャツに分けて仕立て直しを」
シュルツが保存袋から取り出した新作シャツ2枚。男性女性それぞれ1点物。
「基本ベースは清浄布を解した繊維で全体の型を起こし。
女性用はフリルのレースと丸襟。男性用は波模様のストライプと角襟に抜き出した大狼様の柔毛を余さず折り込み白ロープの細糸で縫い合わせ。
通気性防水性防汚。大狼様の御加護。防御性能と魔法耐性は分量を減らしても変わりません。
伸縮性に加え破られても自動で修復。防寒と内部温度も調整されますので山でも海でも何処ででも通年で着続けられます」
「お嬢様…。これを一日で?」
「普通の衣装屋が廃業するぜ…」
「表では売らない従者専用装備ですから使える物は全て出し切ります」
と言って腰の白ロープを指先から10本出し。その先端で更に両手の形を作り出し。全部違う動きを見せた。
レイルもこれには驚いた。いや全員。
「何じゃ…その数は…」
「最近始めた瞑想中にふと。あ!素手で触らなければ良いではないですか!!と浮かんだ時。
これが出来るように成りました。なのでカタリデ様にロープで触れさせて下さい。お願いします!」
「俺のロープ捌きが霞んだよ…。どうカタリデ?ロープなら大丈夫そう?」
「私もその存在を忘れてたわ。スターレン専用だと思い込んでて。うん、それなら大丈夫。但し顔は10cm以上は離してね。約束出来る?」
「出来ます!この命を賭けてでも。お兄様が遠征に出られるとまた一月以上離れ離れ。その苦しみを考えれば。舌を噛み抜いてでも堪えて見せます!」
「重いってシュルツ。途中でもちょいちょい帰るし」
「どっちも駄目よ」
「根負けね。情熱と言うよりも執念。接近し過ぎたら私が空刃で弾くからフィーネが背中を支えて」
「解った。でもこの工房大丈夫なの?」
「そこは調整するわよ。シュルツちゃんを傷付けないように柔らかく」
念願のご対面と間接接触。10本手で弄られるカタリデ。
「おぉこれが…これがカタリデ様」
「わぁ凄い。感覚無いのに人間時代の全身マッサージを思い出すわ」
シュルツはサラサラと涙し自分のハンカチで拭った。
「さあやっと満足が出来ました。これで二年二ヶ月は楽勝で凌げます」
「切り替えも天才級に早い!?」
「シュルツちゃんはドライだねぇ」
「今日スフィンスラーに行かれるとお姉様に伺い。実戦で着用されている姿を見学したいのでが!工事案件が山積みですので今回は辞退します。
レイル様とプレマーレ様の分も予め魔石粉を繊維に練り込めばグレーシャツの作成は可能です。如何致しましょう」
「作るが良いぞ。デザインはシンプルで」
「他に類を見ない突飛なシャツですが一着保存するのは良いのかなと」
「では。憎らしい程豊満なバストサイズを測定しますのでお隣の資材室へどうぞ」
「気にしてたんだ…」
「シュルツ。まだまだこれから成長するわ。スタンが描いたあの未来予想図を思い出して」
「はい!」
3人はお隣の部屋。
ソプランたちは新作シャツを前に当て。
「おぉ…。股下までの長さ」
「すっげえ。当てただけでも身体が軽いぞこれ」
かなり羨ましいが高望みは駄目だ。重要なのは従者2人の安全と能力の底上げ。
測定終わりに俺たちの自宅で各自の装備品に着替え。
目指すはスフィンスラー11層。の上の10層。
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空きの14層でシュルツとピーカー君が魔改造したリフォームコテージを…。
「いやぁ…家ですな」
「立派な家…。2階建てロッジ?ペンション?」
「頑張りました!後はソプラン様の大地の叫びで排水溝と水溜を作り出せば水も使い放題です。
内部空間はクルードルフ家とレイル様のご自宅の中間辺りです!」
「実戦じゃなくて固定地面の加工に使うとは…。ここで気絶したら頼むぜアローマ」
「はい」
新コテージから離れた場所に座り。地面とコテージを何度も見比べ短剣を地面に突き刺した。
座った場所を起点にコテージ設置分隆起させ排水溝を右手方向へ構築。
「あれ?思ったよりも…使わない?
スターレン。今のでどれ位減ったか見てくれ」
「はいよー」
双眼鏡で観察。
「3600から3500。100しか使ってない。てか何時の間にかベース容量増えてる」
「あ?上限じゃなかったのかよ」
「定期的に竜肉食べてるからじゃないかな。俺たちはもう無理ぽいけど。アローマも5500越えてる。スリーサイズも俺好みに」
「てめぇ何見てんだ!」
嫁にも後頭部叩かれた。アローマはお顔を赤くしただけで許してくれたようだ。
「冗談だって。水溜まで作ってみて」
排水溝の先に深い円形窪地を形成。
「どーだ?」
「今ので150消費。形を複雑にすると増えるみたい。
剣抜いてみて」
短剣を引き抜いても地形は保持。
「いいね。次は形成解除って念じてみて」
「おぅ」
直後に地形が元に戻った。
「それぞれ半分。合計125が返還された」
「これ使えるわ姐さん」
「だから言うたじゃろ。試してみよと」
「すんませんした!」
もう一度形成し直してコテージを設置。
昼休を挟んで16層へ。
今回はカタリデを抜かずに俺とグーニャで高みの見物。
「ソプランたちが危なくなったらカタリデ抜くから。各自自由散開で被らないように注意でお任せー」
「はーい」
初見のベージュゴーレム軍団にソプランたちも果敢に挑み各個撃破。
ソプランが前方ゴーレムの足場を崩し転倒させ。形成された壁を足場にアローマが大ジャンプ。何と1度目にして天井付近まで到達。
反射盾と鬼人小太刀で敵頭上からの落下攻撃。更に着地後の衝撃を上乗せした鬼人で足元から斬り上げ。
ソプランはアローマの背後に回ったゴーレムたちを余裕で破壊。
2人にはピッタリな対戦相手だった。
クワンは鉄球を上空から投下投擲後高速旋回して繰り返し鉄球の帰還速度を確認。
レイルは逆刃でストレス発散。
ロイドは壁際に数体追い込み投擲斧で両断。
結局フィーネがメインで持つ事になった乱戦槍をプレマーレ目掛けて投擲。
「何をするんですか!」
「だって他の人じゃ試せないじゃない」
「じゃあ次は私です。フィーネ様を狙いますから!」
「どうぞ。もし刺さったら素手で泣くまで殴り合いよ」
「望む所です!」
極一部の2人だけが一触即発。
各員危なげ無く試し斬りを終えた。
今回も貴金属と宝石を大量ゲット。
「これだけ出るとここも次は少ないな」
「どうしよっか。シュルツも金銀はあんまり使わないし」
「ん~。とは言ってもギルドや市場には卸せないしな。持ってても無意味」
「南東の富豪さんに売付けるのは?交渉材料とか」
「あぁ~有りっちゃ有りか。皆どうする?換金して均等割する?」
「俺たちはロロシュ氏から特別報酬たんまり貰ってる」
「ええ。お金は不要です」
「妾とプレマーレもじゃ。使い切れん程。留守番代とかの」
「はい」
「益々悩ましいなこれ。取り敢えずフィーネと俺で半々で保管しよか」
「そだねぇ」
ロイドが。
「各地の寺院に寄付して回るのは」
「それを今の俺たちがやっちゃうとタイラントに物乞いが大挙して押し寄せる。悪い事じゃないんだけど」
「あ…駄目ですね」
やっぱり金銀はフィーネと半々で。宝石類はレイルが一括預かり。他の金属はシュルツに移譲。
カタリデのご意見。
「お馬鹿みたいな金属の案山子作って斬り込みとか打撃模擬に使えばいいじゃない。ストレス解消に。何時でも溶かせるんだし」
「おお!」
全員納得。
「それいい。その線で使って行こう」
「壁際に置けば皆好きに使えるし。形成だけならソプランでもプレマーレでも。小さな物なら私でも作れる」
「俺の練習にも成るし一石二鳥だな」
「今日の所は上のコテージの土台確認して終了かな。俺たち5人とペッツは早朝出発だし」
「土台って…あ!ヤベえ。全解除か」
「多分ね」
上に戻って全員あぁ~と溜息。
コテージは地に降り下地が水浸し。コテージの中は幸いにして無事だった。
ピーカー君だけ得意気。
「耐震性もバッチリです。まさかここで落下試験をするとは想定外でしたが…」
「これぞ棚からぼた餅?」
「よっ。天才建築家ピーカー君。シュルツの前ではとても言えないけど」
「しっかし個別で切り分ける練習しねえと土台は無理だな」
「焦らず練習しよう。普通の地面でも小さくコツコツ」
「だな」
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自宅でソプランたちも仮眠させ。アッテンハイム首都時間の深夜にペリーニャへ連絡後。特別歓待室に転移。
訪問前日深夜のペリーニャとカタリデのご対面。
カタリデを抱き締めるペリーニャを羨ましそうに隣で見詰めるグリエル様。
「カタリデ様…。どうして私は触れられないのでしょうか」
「何を言っているの?貴方は女神ちゃんの直轄。御告げを直接受け取れる配下が元別神だった私に触れられるとでも言いたいのかしら。
流石の女神ちゃんも臍を曲げてしまうわ」
「な、成程…」
「本殿の女神像の前でも膝は着かせない。スターレンたちは全員水竜教だから。1人は違うけど特例よ。
無作法だろうと同格の私が居れば女神ちゃんは怒らない。宜しくて?」
「解りました…。呼び立てたのはこちらの我が儘です故」
「直ぐ後に帝国へも行かなきゃいけないの。本殿への挨拶と朝食会以外に何か御用は有る?正直に」
「特には御座いません」
「良かったわ」
フィーネから。
「ペリーニャ。お願いしてた物は」
「はい。依頼の特産物。粒胡椒と粒山椒はしっかりと」
「ありがと。買い物に出られないのはホント不便」
「半年一年過ぎれば各地も静まりますよ。人は飽き易い生き物です」
「そうなって欲しいわ」
各自明日の着替えを準備。
寝間着に着替えて打ち合わせ。
「ラザーリアの北部砦でハルジエと合流したら。そこでロイドとグーニャはお別れ。もう1人で城へも入れるから父上とお話するも良し。ちょっと買い物して帰るも良し。
翌朝までにタイラントの自宅で合流。滞在延長したいならお早めにどうぞ」
「悩みますね…。北部の人目を回潜りながら考えます」
「おけ。調整仮眠して朝を待ちますかー」
「調整が爆睡に成りそう」
優しきカタリデさん。
「誰かは呼びに来るし。全員寝過ごしてたら私が起こしてあげるわよ。目覚まし代わりにされるのは嫌だけど」
「ごめーんフウ。もしもの時はお願い」
何とか日の出前に自力起床。
人気が少ない内に本殿参拝。膝着きは無いまでも皆で一礼。
ロイドのみ白いワンピース。何処となく女神様が笑っている気がした。
役職者同席の朝食会。少しだけお喋りしてラザーリア北部砦へ移動。
ハルジエ隊と合流。ロイドだけ1室を借りお着替え。
砦前でグーニャセットでお別れ。
帝城壁内の白月宮前広場へ。
白月からも他からも人が出て来て手厚い歓迎。
ハルジエの護衛隊を隣接棟に置き。白月でお茶をしているとアストラ皇帝とエンバミル氏とラーラン隊が直々に迎えに来た。
「帝宮内へ伺う物かと」
「冒険者ギルドも置かない帝国領に勇者を招いた前例は無いのでな。
対等な立場の一帝国代表者として当然の事。態々謁見室に来て貰うのも面倒。
小煩い統一教会の連中が歯軋りをしているが無視で良い。
何気に予感は有ったが。まさか本当に聖剣を持ち得る人間だったとは皆も驚いたよ。
お初に。カタリデ様」
「初めまして。貴方も腰に事務仕事の疲れが溜まっているわ。偶には剣でも振り為さい」
「耳が痛い…。お言葉は胸に。慣れない事ばかりで隣のエンバミルに毎日怒られています。
帝国内の状勢は落ち着いた。今は闇組織の活動も皆無。
何処かへ退避したか隣のメレディスに隠れたか。その内乱中のメレディスからの難民は殆ど無い。
南部革命軍のリーダーの女は何と言ったか…」
隣のエンバミル氏が。
「クワンジア闘技大会女性部優勝者のニャンチョーと言う名の格闘家だったと。二人は知っているのでは?」
「「ニャンチョー!?」」
「あの人生きてたんだ」
「普通死ぬレベルの重傷だったのにね」
「何が有ったかは聞かないがメレディス人はしぶとい。
どの道落ち着くまでこちらも静観。首領が決まるまでは話も出来ん。
持て成しは夕食会だけだ。その後にスターレン殿に少し質問事項と。時間が許すなら宝物庫内の鑑定不能品を見ては貰えないだろうか」
「お!面白そう。時間は大丈夫ですよ。今日はここへ泊まる積もりで来たので。カタリデと一緒に拝見します」
「それは助かる。夕食準備が整うまでハルジエを借りて隣で調整会をしたい。
土産は少ないがゆっくりして行ってくれ」
「「はい…」」
帝国とは思えない柔軟な対応に多少戸惑う俺たち。
ここ何処だっけ?急に宝物庫に入れるとは…。
救出後の北大陸の話。花畑を闇組織の兵隊に荒らされ大狼様が激怒したとか。それを直しに行ったとか。大狼様の口の中に入って歯間をブラッシングしたんだとかの話で盛り上がり時は流れ。
ハルジエ隊をラザーリアへ送り返した後。
観客の多い夕食会。統一教会の幹部が突然乱入して排除されるハプニングも有ってそれはそれで楽しかった。
ハーレム状態の白月にソプランをぶち込み。俺たち夫婦とカタリデで帝宮内別室へ。
「質問は簡単。二月にラザーリア遠征…まあ君に運んで貰ったのだから出張か。
あれから帰国後。誰か転移具を使える者は居ないかと探してみた所。ラーランが安定して使える事が判明した」
後ろ控えのラーランが一礼。
「それは良かった。1人でも使える人が居るならハルジエの送り迎えとかも楽に成りますね」
「うむ。スタルフ王やヘルメン王にも許可を取れば会いに行き易くなる。実は既に両王に許可を得てラーランの隊で転移試験を何度か実施した」
「ほぉ」
この流れは…。
「ラザーリア全域に張った巨大な逆転移結界。あれは君らが張ったのではないかね」
「良く、お気付きで」
皇帝は軽快に笑った。
「そんな芸当が出来るのは君らしか居ないだろう。スタルフ王やローレン殿には回答して貰えなかったが」
「一応秘匿事項なので」
「ここからは相談なのだが。この帝城内にも張れないだろうか。報酬はこれから見に行く鑑定不能品で」
「うーん。魅力的では有りますが…。白月宮前だけを抜いてですよね?」
「出来る物ならそうして欲しい」
フィーネも俺もカタリデも。
「厳しい相談です」
「ラザーリアはベースの通常結界がドーム状に掛かっていたんで上書き出来たと言うだけで。ここも同じ半円型なら一部を抜くのは至難の業です」
「私にも無理よ。局所除外なんて」
アストラはエンバミルと相談すると言って後方に移動。
丁度その時ロイドさんより。
「少しだけローレン様とお話をしてもう自宅へ帰りました。長居をすると際限が無いので楽しみはまた次回で」
おっけー。この騒ぎが落ち着いたら気軽に行けるんだけどねぇ。
「それに尽きますね」
こっちは予定通り1泊だからまた明日。
「また明日に」
「ロイドはもう自宅に帰ったって」
「そかぁ。周りが騒がしいもんね。今は」
2人の相談も終わり再び着席。
「恥を晒して申し訳無いが…。現状の通常結界の形を知る者はアミシャバだけだった」
「わーお現状の調査からでしたか」
「済まない…。結界具は謁見室の真上の天宮室であるのは解っている。鍵を持って来るので同行してくれるか」
「仕方無いですね。ラザーリアの秘匿もバラしてしまいましたし」
「今回は時間が有るので」
「特別よ」
3人が一礼を返す。帝国人が頭を下げるのは多分此れっ切りだろうな。
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帝宮中央塔。謁見の間横の螺旋回廊から上へ。
恐らく部外者が立ち入るのは初めて。
最上階天宮層の扉をアストラ皇帝自らが開いた。
中央の台座上の結界具を除けば帝都が四方に一望出来る素晴らしく美しい場所。
夜間で帝都の町明かりが人々の生活を表わし彩りと華を添えていた。
「勿体ない景色ですね」
「冷たい風が気持ち良いぃ」
「絶景ね。私もここからの景色は初めて」
「ここより高い建物は無い。建てもしないが我々も滅多に入らない」
「中間の見晴し台位は設けても良いかも知れぬな」
「勿体ない。スターレン様のお言葉が胸に染みます」
感動と感想は一入に結界具の確認。
「触らないと上手く見えないのでこのシールド外して貰えますか」
「シールド?防御層は一体化している筈なのだが」
「へ?でもこれ…」
シールドが歪に見える…。
「取り敢えず確認してみましょう」
「頼む」
カタリデを引き抜き傍らに自立させ結界具の球体に右手を添えた。
「あ…やっぱり」
「壊れてるわね。これ」
「なん…だと」
フィーネが諦め。
「修理からですね。これも公開したくはなかったですが私の復元術を使います。口外される恐れが有るなら背中を向けて頂けますか」
3人は目を合わせ数歩下がって背を向けた。
「私も付与する?」
「フウはまだいい。行き過ぎると本体に触れなくなる」
「それもそうね」
マウデリンチップを上に乗せ。合成&リバイブ。
一瞬の輝き。溢れるフィーネの吐息。
「出来たわ。もう大丈夫です」
アストラが前に出て自前の眼鏡で確認。
「素人目には前後の違いが解らないな」
「内面的な物ですから」
「ここって前の襲撃で集中砲火浴びてませんでした?」
「「「あ…」」」
心当りが有る様子。
「狙われてましたね。下の玉座に押し込める振りをして」
「くっ…。狙いは宝物庫だけじゃなかったか」
「過ぎた話です。手前で食い止められたなら勝ちって事でもう1度読みます」
再び右手を添えた。
脳裏に浮かんだイメージは帝城を外側まですっぽり覆う正方形のキューブ型。
「お、珍しい正方形の箱型ですね。範囲は城壁の外まで囲んでます。これなら行けるかも」
「おぉ…」
双眼鏡で白月宮前を捉え。脳裏のイメージを合わせ。真上の天井に穴を空け切辺を下ろし地中深くまで。
「出来ました。後で偽装破りの青色マーカーで線を描くので広さに不満が有るなら明日の午前に修正を加えます。
内部から逆転移結界を全面に張るのでそれも昼間明るい内に施します」
「結構な明るさで輝きます故」
「では明日もう一度だな。…偽装破りとは」
「最近の敵は透明化したり他人に化けたりするんで。その偽装を線を跨いだ瞬間に解く防衛道具です。
他にも張りたいならそれは帰る前に」
「有り難い。修復の上にそこまでしてくれるとは」
「外門に引けば検問が楽に成る。早急に希望箇所を洗い出そう」
「その報酬は…。末永いマッハリアとの和平でお返しを」
「手厳しいな。善処…ではなく約束としよう。タイラントの外交官と聖剣の前で誓う。
自分の世代で終わらせぬように」
「ふむ。長生きせねば…」
扉をきっちり閉め。夜間の修復作業は終了。
突然現われた青色線に戸惑う人々の前で効果を実践。
俺たち愛用の減衰スカーフ改を巻いて出たり入ったり。
何故か盛大な拍手を受けた。いやなんで?
「こんな感じです。広さはどうですか?」
「どうだラーラン。不満が有るなら今だぞ」
枠の中心で四方を見渡したラーランが。
「問題有りません陛下。人数制限も有る故広すぎる位。
クルシュ様方の花壇や植木からも離れ目印も多い。スターレン様。何か注意事項は御座いますか」
「周りの景色も当然。地面の敷石も重要。舗装や補修で大幅に張り替えると俺たちが上手く行かなくなるんで。
ラーランが近距離で試し。違和感を感じたならこちらにも連絡を」
「了解した。ではもう一度あの場所へ」
天宮層の結界装置の上に投影器をセット。
今回はクワンが居ないが代打に相応しいカタリデが居る。
上位武装は不要。
「こちらを見ても構いませんが。空を見ていた方が面白いですよ」
「成功すると全面輝きます」
「な、悩ましいが…。ここからでも外は見える。私は見届けたい」
エンバミル氏とラーランも悩んだが手元の投影器の見学を選択した。
抜き身のカタリデが宙に浮き。
「私も初めてだからこっち。何時でもどーぞ」
「「ではでは」」
投影器を包むように両手を置き。フィーネがその上に手を重ねた。
キューブの内面に張り巡らせるイメージで一念。
手元の箱は輝かない。代わりに外の景色が淡く輝き数秒後にフワリと消えた。
俺もフィーネも瞬間魔力損失は2割程度で収まった。
結界具に手を置き直し。
「成功です。綺麗に張れました。
天井対面の地下深くまで…あら?地下まで?」
「あぁだからラザーリアの時。馬鹿みたいに魔力を消費したのね」
今更納得。
「やっぱあんたら似た者夫婦だわ」
カタリデに突っ込まれ何気に恥ずかしい。
見学者3人は拍手。
「素晴らしい。この高さの対比なら余裕で宝物庫を越え下水路までも囲えたに違いない」
「天に召されたらアミシャバを足蹴に罵ってやろうぞ」
「私も良い思い出が出来ました。感謝します」
「ゆっくり見たいので宝物庫は朝食後でも良いですか?」
「勿論だとも。時が許す限り存分に」
オマケでカタリデが。
「ここの外側に聖属性の結界1枚張り付けた。建て替えでこれ動かすと消え去るから注意して」
「将来性までとは有り難い。もう二度と遅れは取らぬと重ねて誓いましょう」
皆様大満足で一旦解散。
白月宮前での別れ際。ラーランがソプランを見て。
「お帰りに為る前に。訓練場で手合わせを願えませんでしょうか」
「俺?」
「勇者様の側近がどれ程の者か。今の自分がどの程度なのかを試したくて」
「スターレンがいいなら構わないが」
「いいじゃん。俺が前に手合わせした時はロープ柱を障害物に使っちゃったし。現帝国騎士最強が相手ならソプランも良い経験になると思う」
「おー臨時模擬戦か。そりゃ気合い入れないとな。形式は何で行く」
「可能なら標準防具で。木剣は多種に有るのでソプラン殿の得意な双剣でも。私は木製の小盾と長型の木剣で参ります」
「了解。替えは持ってるから着替えとく」
アローマも挙手。
「私も宜しいでしょうか。小盾と小剣で。他の代表者がお手空きならば」
「良いですね。何名か呼んで置きます」
レレミィはラーランを応援。
「兄様の前で無様は許しませんよラーラン。結果はどうであれ。不甲斐なければあのお話は有り得ません」
「これは壁が高い。良いでしょう。全力で行かせて頂きます」
目付きがガラリと変わった。
「面白くなって来た」
「ねぇ。白熱しそう」
「好きだねえ」
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中央塔地下へ向かう途中から皇帝が1人で先頭を歩く。
「良いのですか?お一人で背中を見せて」
「正面を向いても勝てないのだから背を向けても変わりはしない。宝物庫も人数制限が有るしな」
軽く笑って肩を竦めた。
「ここも3人までだったり?」
「そうだな。…何処も同じなのだろうか」
「大体人数制限は付いてますね」
「3人て微妙な人数。別に理由でも有るのかな」
「さてさて。最も安全性が保たれる人数なのかもね」
カタリデは何か知っているようだが定番だと言われるとそれまで。
生体認証式の大扉を潜り抜けると広い空間に一面の道具や装備類。
「おぉ中々」
「見事な品揃え」
「ふむふむ。悪くないわね」
「カタリデ様を除き。君らの武装や東大陸の一流冒険者よりは数段劣るがこれでも軍事大国を名乗る国。この程度は当然」
奥階段から更に下の階層へ。
2層の最奥へ向かうと思いきや。その手前の左手棚の最下段を指差した。
「そこに在る長方形の物体だ。集めた収納リストにも載っていない。ここの鑑定具では何も見えず。持っても投げても踏んでも何も起きない。意味不明な品」
「解らないのに大胆な事しますね」
「アミシャバの遺品か、と思えば損在にもなる」
割り切った考え方だ。
「あらら。また私にも見えないわ。最近多いわね」
カタリデは残念そう。
「では失礼して」
清浄手袋を嵌め。更にグラサン装着で両手で掴んだ。
まあまあの重量物。
北極点アイスキャッスルの解放鍵(偽物)
勇者のみ鑑定可能。彼の者との交渉に使うべし。
私がそんな生温い物を残す訳が無いだろ。交渉方法を君に解くのは無粋。ガンガン行こう。
「ベルさん!何でここに隠しちゃうの!」
「お茶目な人だねぇ。相変わらず」
「悪戯大好きベル」
「北極点に何が建っているのだ」
「英雄ベルエイガが建造した氷の城です。周囲に接近した全ての異物を取り込んで粉に成るまで分解してしまう世にも恐ろしい定点掃除器ですね」
「お、恐ろしいな…。これ以上は聞かないで置こう」
「それが賢明です」
困った人だ。ベルさん…。
暫し庫内を見学させて貰い地上へ帰還。
エンバミル氏とラーランとも合流した後。
「スターレン殿の従者と模擬戦をやるらしいなラーラン」
「はい。そのお約束を」
「うむ。私も見物する。その前にもう少しだけスターレン殿らと別室で与太話をさせてくれ。役に立つかは不明だがカタリデ様にもお耳に入れたい話が一つ有る」
「面白そうな話じゃないですか」
「どうして昨日の夕食会でお話されなかったのですか?」
「隠すようなお話?」
「統一教会絡みでな。乱入が有ったので控えていた」
「あぁそれで。是非ともお伺いしましょう」
「致しましょう」
ロイドさん。帰りが遅くなりそうです。
「ガンガン行きましょう」
乗るなら勢いと余裕が有る内に!
帝宮内の1室で緑茶を飲みながら。
「カタリデ様はご存じだとは思うが。南東大陸の何処かで正統な勇者が聖剣を引き抜くと篝火のように燃え出す一本木が存在する」
「勿論知ってるわ。現レンブラント公国北部の山岳地ね。
スターレンたちには入国前に話そうと考えてた。勇者と私が繋がった事を示す篝火で特別な物でも無い」
「伝え聞く伝承と同じだな。実は遠く離れた縁も所縁も無いこの帝国領内で同様の一本木が発見された」
「…それは知らないわ」
「カタリデ様が引き抜かれたと言う号外がこちらに届く数日前の事。恐らく抜いたのと同時なのだと思う。
この帝都から北東の港町レンスブーケ」
懐から1枚の地図を取出し机上に広げ指し示した。
「その町全体が統一教会の管轄区だった。嘗てのカルロゾイテが統治者。詰りは乗っ取ったアミシャバが町長。
君らの助力で見事投獄した後。奴自身が考案した拷問を惜しみなく処方していた最中。終盤でこう呟いた。
「あの木を切るな。掘り起こすな」と」
「ほぉ」
話はエグいが面白い。
「何の事だと問い正しても以降は答えず絶命。だが木と聞いて真っ先に浮かんだのはその孤島の一本木。罪人の所有物として孤島と奴の屋敷を没収。
取り敢えず屋敷を掠ったが特に何も出ず。孤島の方は何が起きるか解らないので放置していたら燃え出した、と言う訳だ」
「成程」
「南東の方は燃え始めて3ヶ月は燃え続けるわ。こちらの木もそうなの?」
「鎮火したと言う報告は上がっていない。監視役としてトッドの部隊を駐留させ軍船も数隻置いて有る」
「それで見掛けなかったんですね」
「てっきり都内の警備に出ているのかと」
「君が持つ転移具なら鳩で座標を捉えればその場に飛べると噂で聞いた」
「ええ、まあ」
今更否定しても無駄。
「それが本当なら帰国する前に寄って欲しい。船は何れでも使えるよう伝文は書く。何か恐ろしい魔物が出るなら叩き潰してくれ。
漁師たちが怯え切っているのでな。君に関わっていそうで遠距離攻撃もしていない」
「片付けましょう」
「立ち会い人付きでしょうか。余り私たちの本気武装は披露したくないのですが」
「不要だとも。船は空にして常時メンテしてある。潜んでいる者が居たら誰であろうと遠い北海にでも投げててくれて構わない」
「「承知しました」」
試合前の2人とクワンを集めて帰国延期を説明。
「またかよ…。どうして何時も何時もお前らは」
「しょーがないじゃん。向こう側からどんどん寄って来るんだから」
「レイル様には…。ソラリマ様経由で伝わっているのでしょうか」
『うむ。気に成る事は潰して置けと』
超小声で。
「クワンティはレンスブーケの位置把握してる?」
「クワ」
「西大陸と南極大陸以外の地上は全て網羅してます」
通訳ピーカー君も超小声。
「それはそれで驚きだ」
「昼食もここで頂いて港へ行こう。ソプランたちが手に負えそうもない相手だったらクワンティでタイラントまで退避させます」
「まあ海上戦だったら役立たずだからな」
「フル装備で泳ぐ訓練をしなくては…」
「そこまではまだいいって。海の中はフィーネに任せろ」
「適材適所よ。今は模擬戦に集中集中」
「はい」
--------------
午後の件がチラ付いて集中力に欠けるがそんなもんは言い訳だ。
前方に対峙するのは帝国一の騎士。
こちらは勇者の側近で指名された。互いに無様は晒せないし。ラーランは闘志剥き出し。
ゼファー先生並の達人級が放つ闘気に近い物を全身から放ってやがる。
装備頼みじゃなく生身を鍛えろ。先生の言葉。
何時も正しい。中身の俺はまだ足元にも及んでない。
今の俺は帝国の軽装鎧。ブーツも普通の物に履き替えたんで特殊なのはインナーだけ。
首を回して軽くステップ…。
「ちょっと待ってくれ」
そう告げて普通ブーツを脱ぎ捨て靴下も脱いだ。
裸足で地面を掴む。懐かしい感覚。
ガキの頃。冬でも裸足だったスラム時代を思い出す。
多少大きな砂利を踏んで血が滲む感じも懐かしい痛み。
「待たせた」
「…いいえ」
再びステップを踏み。左足を前に両手の小木剣を逆手に左手を顎下。右を胸の前。
定番スタイルで腰を落とし。試合開始の合図待ち。
「始め!!」
合図と共に互いに真っ正面へ走り出す。
ラーランの右手の木剣が中段からの突きを放つ姿勢に見えた。
衝突寸前で瞬歩で右間横に回避…。しかしラーランも間横に移動。
瞬歩に付いて来た。
この驚きと寒気は聖騎士ゼノンと手合わせした時以来。
ラーランは追うのを途中で止め。俺の左へ回り無動作の突きを放つ。
バックステップで回避した所に小盾の突進。
その盾面に両足を乗せ中段後方回避。受け身の後転で膝当て地面を擦り衝撃吸収。
距離を詰めに来たラーランを応戦。瞬歩で小盾の死角に潜り込み…。
盾を傾け死角を無くされ目が合った。
見下ろすラーラン。低姿勢の俺。圧倒的不利な体勢。
振り降ろされる盾の端と右中段からの下ろし突き。
間違い無い。こいつはゼノンクラスの化け物だ。
全部読み澄ました行動手順。双剣潰し。
右手の木剣を下に擦らせスピードを変え。それを起点に右側転と見せ掛けラーランの軸足が左へ移った所で脛当てに五割の左剣を当て背後に回る。
反転軌道の振り降ろし木剣の先端部に双剣を合わせバランスを崩させた。
反対軌道から飛ばされた小盾を肘当てで弾き。ガラ空きの背中を蹴り付け距離を取る。
「馬鹿野郎が!!」
「な…にを。今首を取れたのに」
「帝国人ってのは冒険者を嘗めるのが好きなのか!」
「何を言っているのか」
「じゃあその両手両足の重りは何だ。言ってみろ!!」
「…」
「中断!それを外せ。
俺を小馬鹿にするのも大概にしろ。胸糞悪い。
遣り直しだ」
その場に尻を着きレガースを外し始めたラーランを尻目に砕けた木剣を投げ捨て。小剣サイズ二本を手に取り重さを確かめた。
軽いんだよなぁ木剣は。
鉛入りのレガースとガントレットを場外に投げたラーランが俺に尋ねる。
「何時から?」
「一歩目から。闘志剥き出しなのに踏み出しが遅れた。
それに力半分の打撃で樫の木剣が砕けるのは可笑しい。
最後の二回反転。バランスも悪かったし。鉛でも入ってなきゃ腕一本の閃撃があんな重い訳がねえ」
「最初から、でしたか。それにあれで力半分…」
「無駄話は後。アローマも控えてるし。昼から急用が出来て暇じゃねえ。
お前は槍が得意だよな」
「…図星です」
「刺突剣でもないのに刺突に拘り過ぎだ。
スターレンはここまで我流の剣技を重ねて来た。正統派と手合わせしたのも過去数回。
帝国仕込みの剣技とやらをあいつに見せてやってくんねえかな。重りを仕込んだ事を悪いと思うならよ」
「適わないなぁ貴方には。重りを仕込んだ理由は後にしてお見せ致しましょう。
初動を解り易くするので小剣を合わせて下さい」
「助かるぜ。防戦の方が遣り易い。俺の勉強にも成る」
ラーランは細く笑い返し長型の木剣のみを持ち離れた。
先程と同じ間合いで構える。
俺は順手で小剣二本持ち。ラーランは両手剣持ちで胸の前に柄を置く眼前構え。
闘志は相変わらずだが冷静さが宿った。
「再開!!」
防戦の方がと言ったが間違いだった。
防戦しか出来なかった。軌道は見えても速過ぎて。
生身だと格上はゴロゴロ居るもんだな。
最後の最後。ラーランの中段からの突き上げを左肩当てに乗せ。俺は右小剣をラーランの首元に当てた。
「ひ、引き分け!!」
割れんばかりの拍手の中。ラーランと握手を交わし。
「いってぇー。ちょい手洗い場まで肩貸してくんね?」
再試合中に大粒の砂利を踏んで足裏から結構な血が。
「幾らでも。実質私の負けですし」
手洗い場で手と顔を洗い足も綺麗に砂利を流した。
脇の砂場に座り。浄化布で拭き上げ消毒剤と傷薬を塗り込み暫く放置。
訓練場内では俺の足跡の掃除が始まっていた。
帝国鎧を脱いでいるとラーランも隣で鎧を外し。
「どうして裸足に?」
「最近ずっと極上のブーツ履き放しだったからな。生身の感覚取り戻してたんだよ」
「成程。…鉛入りにしていたのは。スターレン様に指摘されたからなんです。前に手合わせをした時。スピードに頼り過ぎで他が追い付いてないと」
「あいつの所為だったのかよ。偉そうに」
てっきりハンデかと思ったぜ。
「実際自覚は有ったんで。装備全体を重くしてみたり鉛入りにしたり色々と。やっている内にその重りに何時の間にか頼っていた。
まだまだです」
会場内の掃除が終わり。嫁と対戦相手が入場した。
「最初の試合。初手の横回避の時。俺に追い付けてたのに途中で止めて切り替えただろ。作戦かと思ったがあの時足だけ残ってたぜ」
「はぁ…。仰る通りで」
「まあなんだ。見えてても対処出来るかは別問題。生身じゃ勝てない奴はゴロゴロ居る。
アローマも見てみろ。有り得ない動きするから」
「それは見逃せません」
ラーランが目を向けた時が試合開始と重なった。
アローマは開始早々縮地で距離を詰め。側面に回って膝裏を木剣で叩き。膝を着かせて背面から首元に剣を当て置いた。
一瞬の決着。
「面白いだろ」
「面白い…。と言うより何ですかあの、挙動無しの瞬間移動は」
「縮地ってスキルだ。あれは俺にも読みようが無い。攻撃を捨てた体術の達人でもないと避けるのは無理だな」
「上には上が居るもんだ…」
「お前。凄え勿体ない事してるぞ」
「何をですか?」
「ラザーリアでの空き時間。スターレンが今でも生身じゃ勝てないと言わしめる聖騎士ゼノンが目の前に居たのに手合わせ頼んでねえだろ」
「……あぁ~。何て勿体ない…」
大の字に成って転がった。
「来年辺り。ロルーゼや俺たちの騒ぎが収まれば。五国会合をラザーリア主催でやるだろう。その時聖女様も遊びに来てたらゼノンも来る。それに期待するこったな」
「…鍛え直します。それまでにもっと」
会場内では三人目の対戦相手が秒殺され。嫁は実に不満げな顔で俺を見た。
「お疲れ。足治ったから昼食頂こうぜ」
「はーい。先に着替えて待ってます」
「え?もう治ったんですか?」
「前にあいつらがここに置いてった傷薬より格段に進化してるぞ、これ」
「ほ、欲しい…」
「皇帝陛下経由で頼んでみな。出掛ける前に」
「急がねば」
俺の分の鎧も抱えて皇帝の元へと全力走。
しかし辿り着いた先で待っていたのは皇帝の鉄拳制裁。
哀れなりラーラン。俺も努力するぜ。
シュルツからアローマとソプラン用のシャツが出来ましたとの連絡を受け工房でお披露目。
「私も失念して居りました。エプロンドレスでは冒険には向いていないと昨日の連絡を受けるまで」
「まあシュルツは実戦経験が少ないからね」
「私も忘れてたもん。エプロンが宙に浮いてるって」
「はい。そこでアローマさんを引き上げるとソプランさんとの能力差が開き。連携が上手く行かないのではと考え。
アローマさん用のロングブラウスとソプランさん用のロングシャツに分けて仕立て直しを」
シュルツが保存袋から取り出した新作シャツ2枚。男性女性それぞれ1点物。
「基本ベースは清浄布を解した繊維で全体の型を起こし。
女性用はフリルのレースと丸襟。男性用は波模様のストライプと角襟に抜き出した大狼様の柔毛を余さず折り込み白ロープの細糸で縫い合わせ。
通気性防水性防汚。大狼様の御加護。防御性能と魔法耐性は分量を減らしても変わりません。
伸縮性に加え破られても自動で修復。防寒と内部温度も調整されますので山でも海でも何処ででも通年で着続けられます」
「お嬢様…。これを一日で?」
「普通の衣装屋が廃業するぜ…」
「表では売らない従者専用装備ですから使える物は全て出し切ります」
と言って腰の白ロープを指先から10本出し。その先端で更に両手の形を作り出し。全部違う動きを見せた。
レイルもこれには驚いた。いや全員。
「何じゃ…その数は…」
「最近始めた瞑想中にふと。あ!素手で触らなければ良いではないですか!!と浮かんだ時。
これが出来るように成りました。なのでカタリデ様にロープで触れさせて下さい。お願いします!」
「俺のロープ捌きが霞んだよ…。どうカタリデ?ロープなら大丈夫そう?」
「私もその存在を忘れてたわ。スターレン専用だと思い込んでて。うん、それなら大丈夫。但し顔は10cm以上は離してね。約束出来る?」
「出来ます!この命を賭けてでも。お兄様が遠征に出られるとまた一月以上離れ離れ。その苦しみを考えれば。舌を噛み抜いてでも堪えて見せます!」
「重いってシュルツ。途中でもちょいちょい帰るし」
「どっちも駄目よ」
「根負けね。情熱と言うよりも執念。接近し過ぎたら私が空刃で弾くからフィーネが背中を支えて」
「解った。でもこの工房大丈夫なの?」
「そこは調整するわよ。シュルツちゃんを傷付けないように柔らかく」
念願のご対面と間接接触。10本手で弄られるカタリデ。
「おぉこれが…これがカタリデ様」
「わぁ凄い。感覚無いのに人間時代の全身マッサージを思い出すわ」
シュルツはサラサラと涙し自分のハンカチで拭った。
「さあやっと満足が出来ました。これで二年二ヶ月は楽勝で凌げます」
「切り替えも天才級に早い!?」
「シュルツちゃんはドライだねぇ」
「今日スフィンスラーに行かれるとお姉様に伺い。実戦で着用されている姿を見学したいのでが!工事案件が山積みですので今回は辞退します。
レイル様とプレマーレ様の分も予め魔石粉を繊維に練り込めばグレーシャツの作成は可能です。如何致しましょう」
「作るが良いぞ。デザインはシンプルで」
「他に類を見ない突飛なシャツですが一着保存するのは良いのかなと」
「では。憎らしい程豊満なバストサイズを測定しますのでお隣の資材室へどうぞ」
「気にしてたんだ…」
「シュルツ。まだまだこれから成長するわ。スタンが描いたあの未来予想図を思い出して」
「はい!」
3人はお隣の部屋。
ソプランたちは新作シャツを前に当て。
「おぉ…。股下までの長さ」
「すっげえ。当てただけでも身体が軽いぞこれ」
かなり羨ましいが高望みは駄目だ。重要なのは従者2人の安全と能力の底上げ。
測定終わりに俺たちの自宅で各自の装備品に着替え。
目指すはスフィンスラー11層。の上の10層。
--------------
空きの14層でシュルツとピーカー君が魔改造したリフォームコテージを…。
「いやぁ…家ですな」
「立派な家…。2階建てロッジ?ペンション?」
「頑張りました!後はソプラン様の大地の叫びで排水溝と水溜を作り出せば水も使い放題です。
内部空間はクルードルフ家とレイル様のご自宅の中間辺りです!」
「実戦じゃなくて固定地面の加工に使うとは…。ここで気絶したら頼むぜアローマ」
「はい」
新コテージから離れた場所に座り。地面とコテージを何度も見比べ短剣を地面に突き刺した。
座った場所を起点にコテージ設置分隆起させ排水溝を右手方向へ構築。
「あれ?思ったよりも…使わない?
スターレン。今のでどれ位減ったか見てくれ」
「はいよー」
双眼鏡で観察。
「3600から3500。100しか使ってない。てか何時の間にかベース容量増えてる」
「あ?上限じゃなかったのかよ」
「定期的に竜肉食べてるからじゃないかな。俺たちはもう無理ぽいけど。アローマも5500越えてる。スリーサイズも俺好みに」
「てめぇ何見てんだ!」
嫁にも後頭部叩かれた。アローマはお顔を赤くしただけで許してくれたようだ。
「冗談だって。水溜まで作ってみて」
排水溝の先に深い円形窪地を形成。
「どーだ?」
「今ので150消費。形を複雑にすると増えるみたい。
剣抜いてみて」
短剣を引き抜いても地形は保持。
「いいね。次は形成解除って念じてみて」
「おぅ」
直後に地形が元に戻った。
「それぞれ半分。合計125が返還された」
「これ使えるわ姐さん」
「だから言うたじゃろ。試してみよと」
「すんませんした!」
もう一度形成し直してコテージを設置。
昼休を挟んで16層へ。
今回はカタリデを抜かずに俺とグーニャで高みの見物。
「ソプランたちが危なくなったらカタリデ抜くから。各自自由散開で被らないように注意でお任せー」
「はーい」
初見のベージュゴーレム軍団にソプランたちも果敢に挑み各個撃破。
ソプランが前方ゴーレムの足場を崩し転倒させ。形成された壁を足場にアローマが大ジャンプ。何と1度目にして天井付近まで到達。
反射盾と鬼人小太刀で敵頭上からの落下攻撃。更に着地後の衝撃を上乗せした鬼人で足元から斬り上げ。
ソプランはアローマの背後に回ったゴーレムたちを余裕で破壊。
2人にはピッタリな対戦相手だった。
クワンは鉄球を上空から投下投擲後高速旋回して繰り返し鉄球の帰還速度を確認。
レイルは逆刃でストレス発散。
ロイドは壁際に数体追い込み投擲斧で両断。
結局フィーネがメインで持つ事になった乱戦槍をプレマーレ目掛けて投擲。
「何をするんですか!」
「だって他の人じゃ試せないじゃない」
「じゃあ次は私です。フィーネ様を狙いますから!」
「どうぞ。もし刺さったら素手で泣くまで殴り合いよ」
「望む所です!」
極一部の2人だけが一触即発。
各員危なげ無く試し斬りを終えた。
今回も貴金属と宝石を大量ゲット。
「これだけ出るとここも次は少ないな」
「どうしよっか。シュルツも金銀はあんまり使わないし」
「ん~。とは言ってもギルドや市場には卸せないしな。持ってても無意味」
「南東の富豪さんに売付けるのは?交渉材料とか」
「あぁ~有りっちゃ有りか。皆どうする?換金して均等割する?」
「俺たちはロロシュ氏から特別報酬たんまり貰ってる」
「ええ。お金は不要です」
「妾とプレマーレもじゃ。使い切れん程。留守番代とかの」
「はい」
「益々悩ましいなこれ。取り敢えずフィーネと俺で半々で保管しよか」
「そだねぇ」
ロイドが。
「各地の寺院に寄付して回るのは」
「それを今の俺たちがやっちゃうとタイラントに物乞いが大挙して押し寄せる。悪い事じゃないんだけど」
「あ…駄目ですね」
やっぱり金銀はフィーネと半々で。宝石類はレイルが一括預かり。他の金属はシュルツに移譲。
カタリデのご意見。
「お馬鹿みたいな金属の案山子作って斬り込みとか打撃模擬に使えばいいじゃない。ストレス解消に。何時でも溶かせるんだし」
「おお!」
全員納得。
「それいい。その線で使って行こう」
「壁際に置けば皆好きに使えるし。形成だけならソプランでもプレマーレでも。小さな物なら私でも作れる」
「俺の練習にも成るし一石二鳥だな」
「今日の所は上のコテージの土台確認して終了かな。俺たち5人とペッツは早朝出発だし」
「土台って…あ!ヤベえ。全解除か」
「多分ね」
上に戻って全員あぁ~と溜息。
コテージは地に降り下地が水浸し。コテージの中は幸いにして無事だった。
ピーカー君だけ得意気。
「耐震性もバッチリです。まさかここで落下試験をするとは想定外でしたが…」
「これぞ棚からぼた餅?」
「よっ。天才建築家ピーカー君。シュルツの前ではとても言えないけど」
「しっかし個別で切り分ける練習しねえと土台は無理だな」
「焦らず練習しよう。普通の地面でも小さくコツコツ」
「だな」
--------------
自宅でソプランたちも仮眠させ。アッテンハイム首都時間の深夜にペリーニャへ連絡後。特別歓待室に転移。
訪問前日深夜のペリーニャとカタリデのご対面。
カタリデを抱き締めるペリーニャを羨ましそうに隣で見詰めるグリエル様。
「カタリデ様…。どうして私は触れられないのでしょうか」
「何を言っているの?貴方は女神ちゃんの直轄。御告げを直接受け取れる配下が元別神だった私に触れられるとでも言いたいのかしら。
流石の女神ちゃんも臍を曲げてしまうわ」
「な、成程…」
「本殿の女神像の前でも膝は着かせない。スターレンたちは全員水竜教だから。1人は違うけど特例よ。
無作法だろうと同格の私が居れば女神ちゃんは怒らない。宜しくて?」
「解りました…。呼び立てたのはこちらの我が儘です故」
「直ぐ後に帝国へも行かなきゃいけないの。本殿への挨拶と朝食会以外に何か御用は有る?正直に」
「特には御座いません」
「良かったわ」
フィーネから。
「ペリーニャ。お願いしてた物は」
「はい。依頼の特産物。粒胡椒と粒山椒はしっかりと」
「ありがと。買い物に出られないのはホント不便」
「半年一年過ぎれば各地も静まりますよ。人は飽き易い生き物です」
「そうなって欲しいわ」
各自明日の着替えを準備。
寝間着に着替えて打ち合わせ。
「ラザーリアの北部砦でハルジエと合流したら。そこでロイドとグーニャはお別れ。もう1人で城へも入れるから父上とお話するも良し。ちょっと買い物して帰るも良し。
翌朝までにタイラントの自宅で合流。滞在延長したいならお早めにどうぞ」
「悩みますね…。北部の人目を回潜りながら考えます」
「おけ。調整仮眠して朝を待ちますかー」
「調整が爆睡に成りそう」
優しきカタリデさん。
「誰かは呼びに来るし。全員寝過ごしてたら私が起こしてあげるわよ。目覚まし代わりにされるのは嫌だけど」
「ごめーんフウ。もしもの時はお願い」
何とか日の出前に自力起床。
人気が少ない内に本殿参拝。膝着きは無いまでも皆で一礼。
ロイドのみ白いワンピース。何処となく女神様が笑っている気がした。
役職者同席の朝食会。少しだけお喋りしてラザーリア北部砦へ移動。
ハルジエ隊と合流。ロイドだけ1室を借りお着替え。
砦前でグーニャセットでお別れ。
帝城壁内の白月宮前広場へ。
白月からも他からも人が出て来て手厚い歓迎。
ハルジエの護衛隊を隣接棟に置き。白月でお茶をしているとアストラ皇帝とエンバミル氏とラーラン隊が直々に迎えに来た。
「帝宮内へ伺う物かと」
「冒険者ギルドも置かない帝国領に勇者を招いた前例は無いのでな。
対等な立場の一帝国代表者として当然の事。態々謁見室に来て貰うのも面倒。
小煩い統一教会の連中が歯軋りをしているが無視で良い。
何気に予感は有ったが。まさか本当に聖剣を持ち得る人間だったとは皆も驚いたよ。
お初に。カタリデ様」
「初めまして。貴方も腰に事務仕事の疲れが溜まっているわ。偶には剣でも振り為さい」
「耳が痛い…。お言葉は胸に。慣れない事ばかりで隣のエンバミルに毎日怒られています。
帝国内の状勢は落ち着いた。今は闇組織の活動も皆無。
何処かへ退避したか隣のメレディスに隠れたか。その内乱中のメレディスからの難民は殆ど無い。
南部革命軍のリーダーの女は何と言ったか…」
隣のエンバミル氏が。
「クワンジア闘技大会女性部優勝者のニャンチョーと言う名の格闘家だったと。二人は知っているのでは?」
「「ニャンチョー!?」」
「あの人生きてたんだ」
「普通死ぬレベルの重傷だったのにね」
「何が有ったかは聞かないがメレディス人はしぶとい。
どの道落ち着くまでこちらも静観。首領が決まるまでは話も出来ん。
持て成しは夕食会だけだ。その後にスターレン殿に少し質問事項と。時間が許すなら宝物庫内の鑑定不能品を見ては貰えないだろうか」
「お!面白そう。時間は大丈夫ですよ。今日はここへ泊まる積もりで来たので。カタリデと一緒に拝見します」
「それは助かる。夕食準備が整うまでハルジエを借りて隣で調整会をしたい。
土産は少ないがゆっくりして行ってくれ」
「「はい…」」
帝国とは思えない柔軟な対応に多少戸惑う俺たち。
ここ何処だっけ?急に宝物庫に入れるとは…。
救出後の北大陸の話。花畑を闇組織の兵隊に荒らされ大狼様が激怒したとか。それを直しに行ったとか。大狼様の口の中に入って歯間をブラッシングしたんだとかの話で盛り上がり時は流れ。
ハルジエ隊をラザーリアへ送り返した後。
観客の多い夕食会。統一教会の幹部が突然乱入して排除されるハプニングも有ってそれはそれで楽しかった。
ハーレム状態の白月にソプランをぶち込み。俺たち夫婦とカタリデで帝宮内別室へ。
「質問は簡単。二月にラザーリア遠征…まあ君に運んで貰ったのだから出張か。
あれから帰国後。誰か転移具を使える者は居ないかと探してみた所。ラーランが安定して使える事が判明した」
後ろ控えのラーランが一礼。
「それは良かった。1人でも使える人が居るならハルジエの送り迎えとかも楽に成りますね」
「うむ。スタルフ王やヘルメン王にも許可を取れば会いに行き易くなる。実は既に両王に許可を得てラーランの隊で転移試験を何度か実施した」
「ほぉ」
この流れは…。
「ラザーリア全域に張った巨大な逆転移結界。あれは君らが張ったのではないかね」
「良く、お気付きで」
皇帝は軽快に笑った。
「そんな芸当が出来るのは君らしか居ないだろう。スタルフ王やローレン殿には回答して貰えなかったが」
「一応秘匿事項なので」
「ここからは相談なのだが。この帝城内にも張れないだろうか。報酬はこれから見に行く鑑定不能品で」
「うーん。魅力的では有りますが…。白月宮前だけを抜いてですよね?」
「出来る物ならそうして欲しい」
フィーネも俺もカタリデも。
「厳しい相談です」
「ラザーリアはベースの通常結界がドーム状に掛かっていたんで上書き出来たと言うだけで。ここも同じ半円型なら一部を抜くのは至難の業です」
「私にも無理よ。局所除外なんて」
アストラはエンバミルと相談すると言って後方に移動。
丁度その時ロイドさんより。
「少しだけローレン様とお話をしてもう自宅へ帰りました。長居をすると際限が無いので楽しみはまた次回で」
おっけー。この騒ぎが落ち着いたら気軽に行けるんだけどねぇ。
「それに尽きますね」
こっちは予定通り1泊だからまた明日。
「また明日に」
「ロイドはもう自宅に帰ったって」
「そかぁ。周りが騒がしいもんね。今は」
2人の相談も終わり再び着席。
「恥を晒して申し訳無いが…。現状の通常結界の形を知る者はアミシャバだけだった」
「わーお現状の調査からでしたか」
「済まない…。結界具は謁見室の真上の天宮室であるのは解っている。鍵を持って来るので同行してくれるか」
「仕方無いですね。ラザーリアの秘匿もバラしてしまいましたし」
「今回は時間が有るので」
「特別よ」
3人が一礼を返す。帝国人が頭を下げるのは多分此れっ切りだろうな。
--------------
帝宮中央塔。謁見の間横の螺旋回廊から上へ。
恐らく部外者が立ち入るのは初めて。
最上階天宮層の扉をアストラ皇帝自らが開いた。
中央の台座上の結界具を除けば帝都が四方に一望出来る素晴らしく美しい場所。
夜間で帝都の町明かりが人々の生活を表わし彩りと華を添えていた。
「勿体ない景色ですね」
「冷たい風が気持ち良いぃ」
「絶景ね。私もここからの景色は初めて」
「ここより高い建物は無い。建てもしないが我々も滅多に入らない」
「中間の見晴し台位は設けても良いかも知れぬな」
「勿体ない。スターレン様のお言葉が胸に染みます」
感動と感想は一入に結界具の確認。
「触らないと上手く見えないのでこのシールド外して貰えますか」
「シールド?防御層は一体化している筈なのだが」
「へ?でもこれ…」
シールドが歪に見える…。
「取り敢えず確認してみましょう」
「頼む」
カタリデを引き抜き傍らに自立させ結界具の球体に右手を添えた。
「あ…やっぱり」
「壊れてるわね。これ」
「なん…だと」
フィーネが諦め。
「修理からですね。これも公開したくはなかったですが私の復元術を使います。口外される恐れが有るなら背中を向けて頂けますか」
3人は目を合わせ数歩下がって背を向けた。
「私も付与する?」
「フウはまだいい。行き過ぎると本体に触れなくなる」
「それもそうね」
マウデリンチップを上に乗せ。合成&リバイブ。
一瞬の輝き。溢れるフィーネの吐息。
「出来たわ。もう大丈夫です」
アストラが前に出て自前の眼鏡で確認。
「素人目には前後の違いが解らないな」
「内面的な物ですから」
「ここって前の襲撃で集中砲火浴びてませんでした?」
「「「あ…」」」
心当りが有る様子。
「狙われてましたね。下の玉座に押し込める振りをして」
「くっ…。狙いは宝物庫だけじゃなかったか」
「過ぎた話です。手前で食い止められたなら勝ちって事でもう1度読みます」
再び右手を添えた。
脳裏に浮かんだイメージは帝城を外側まですっぽり覆う正方形のキューブ型。
「お、珍しい正方形の箱型ですね。範囲は城壁の外まで囲んでます。これなら行けるかも」
「おぉ…」
双眼鏡で白月宮前を捉え。脳裏のイメージを合わせ。真上の天井に穴を空け切辺を下ろし地中深くまで。
「出来ました。後で偽装破りの青色マーカーで線を描くので広さに不満が有るなら明日の午前に修正を加えます。
内部から逆転移結界を全面に張るのでそれも昼間明るい内に施します」
「結構な明るさで輝きます故」
「では明日もう一度だな。…偽装破りとは」
「最近の敵は透明化したり他人に化けたりするんで。その偽装を線を跨いだ瞬間に解く防衛道具です。
他にも張りたいならそれは帰る前に」
「有り難い。修復の上にそこまでしてくれるとは」
「外門に引けば検問が楽に成る。早急に希望箇所を洗い出そう」
「その報酬は…。末永いマッハリアとの和平でお返しを」
「手厳しいな。善処…ではなく約束としよう。タイラントの外交官と聖剣の前で誓う。
自分の世代で終わらせぬように」
「ふむ。長生きせねば…」
扉をきっちり閉め。夜間の修復作業は終了。
突然現われた青色線に戸惑う人々の前で効果を実践。
俺たち愛用の減衰スカーフ改を巻いて出たり入ったり。
何故か盛大な拍手を受けた。いやなんで?
「こんな感じです。広さはどうですか?」
「どうだラーラン。不満が有るなら今だぞ」
枠の中心で四方を見渡したラーランが。
「問題有りません陛下。人数制限も有る故広すぎる位。
クルシュ様方の花壇や植木からも離れ目印も多い。スターレン様。何か注意事項は御座いますか」
「周りの景色も当然。地面の敷石も重要。舗装や補修で大幅に張り替えると俺たちが上手く行かなくなるんで。
ラーランが近距離で試し。違和感を感じたならこちらにも連絡を」
「了解した。ではもう一度あの場所へ」
天宮層の結界装置の上に投影器をセット。
今回はクワンが居ないが代打に相応しいカタリデが居る。
上位武装は不要。
「こちらを見ても構いませんが。空を見ていた方が面白いですよ」
「成功すると全面輝きます」
「な、悩ましいが…。ここからでも外は見える。私は見届けたい」
エンバミル氏とラーランも悩んだが手元の投影器の見学を選択した。
抜き身のカタリデが宙に浮き。
「私も初めてだからこっち。何時でもどーぞ」
「「ではでは」」
投影器を包むように両手を置き。フィーネがその上に手を重ねた。
キューブの内面に張り巡らせるイメージで一念。
手元の箱は輝かない。代わりに外の景色が淡く輝き数秒後にフワリと消えた。
俺もフィーネも瞬間魔力損失は2割程度で収まった。
結界具に手を置き直し。
「成功です。綺麗に張れました。
天井対面の地下深くまで…あら?地下まで?」
「あぁだからラザーリアの時。馬鹿みたいに魔力を消費したのね」
今更納得。
「やっぱあんたら似た者夫婦だわ」
カタリデに突っ込まれ何気に恥ずかしい。
見学者3人は拍手。
「素晴らしい。この高さの対比なら余裕で宝物庫を越え下水路までも囲えたに違いない」
「天に召されたらアミシャバを足蹴に罵ってやろうぞ」
「私も良い思い出が出来ました。感謝します」
「ゆっくり見たいので宝物庫は朝食後でも良いですか?」
「勿論だとも。時が許す限り存分に」
オマケでカタリデが。
「ここの外側に聖属性の結界1枚張り付けた。建て替えでこれ動かすと消え去るから注意して」
「将来性までとは有り難い。もう二度と遅れは取らぬと重ねて誓いましょう」
皆様大満足で一旦解散。
白月宮前での別れ際。ラーランがソプランを見て。
「お帰りに為る前に。訓練場で手合わせを願えませんでしょうか」
「俺?」
「勇者様の側近がどれ程の者か。今の自分がどの程度なのかを試したくて」
「スターレンがいいなら構わないが」
「いいじゃん。俺が前に手合わせした時はロープ柱を障害物に使っちゃったし。現帝国騎士最強が相手ならソプランも良い経験になると思う」
「おー臨時模擬戦か。そりゃ気合い入れないとな。形式は何で行く」
「可能なら標準防具で。木剣は多種に有るのでソプラン殿の得意な双剣でも。私は木製の小盾と長型の木剣で参ります」
「了解。替えは持ってるから着替えとく」
アローマも挙手。
「私も宜しいでしょうか。小盾と小剣で。他の代表者がお手空きならば」
「良いですね。何名か呼んで置きます」
レレミィはラーランを応援。
「兄様の前で無様は許しませんよラーラン。結果はどうであれ。不甲斐なければあのお話は有り得ません」
「これは壁が高い。良いでしょう。全力で行かせて頂きます」
目付きがガラリと変わった。
「面白くなって来た」
「ねぇ。白熱しそう」
「好きだねえ」
--------------
中央塔地下へ向かう途中から皇帝が1人で先頭を歩く。
「良いのですか?お一人で背中を見せて」
「正面を向いても勝てないのだから背を向けても変わりはしない。宝物庫も人数制限が有るしな」
軽く笑って肩を竦めた。
「ここも3人までだったり?」
「そうだな。…何処も同じなのだろうか」
「大体人数制限は付いてますね」
「3人て微妙な人数。別に理由でも有るのかな」
「さてさて。最も安全性が保たれる人数なのかもね」
カタリデは何か知っているようだが定番だと言われるとそれまで。
生体認証式の大扉を潜り抜けると広い空間に一面の道具や装備類。
「おぉ中々」
「見事な品揃え」
「ふむふむ。悪くないわね」
「カタリデ様を除き。君らの武装や東大陸の一流冒険者よりは数段劣るがこれでも軍事大国を名乗る国。この程度は当然」
奥階段から更に下の階層へ。
2層の最奥へ向かうと思いきや。その手前の左手棚の最下段を指差した。
「そこに在る長方形の物体だ。集めた収納リストにも載っていない。ここの鑑定具では何も見えず。持っても投げても踏んでも何も起きない。意味不明な品」
「解らないのに大胆な事しますね」
「アミシャバの遺品か、と思えば損在にもなる」
割り切った考え方だ。
「あらら。また私にも見えないわ。最近多いわね」
カタリデは残念そう。
「では失礼して」
清浄手袋を嵌め。更にグラサン装着で両手で掴んだ。
まあまあの重量物。
北極点アイスキャッスルの解放鍵(偽物)
勇者のみ鑑定可能。彼の者との交渉に使うべし。
私がそんな生温い物を残す訳が無いだろ。交渉方法を君に解くのは無粋。ガンガン行こう。
「ベルさん!何でここに隠しちゃうの!」
「お茶目な人だねぇ。相変わらず」
「悪戯大好きベル」
「北極点に何が建っているのだ」
「英雄ベルエイガが建造した氷の城です。周囲に接近した全ての異物を取り込んで粉に成るまで分解してしまう世にも恐ろしい定点掃除器ですね」
「お、恐ろしいな…。これ以上は聞かないで置こう」
「それが賢明です」
困った人だ。ベルさん…。
暫し庫内を見学させて貰い地上へ帰還。
エンバミル氏とラーランとも合流した後。
「スターレン殿の従者と模擬戦をやるらしいなラーラン」
「はい。そのお約束を」
「うむ。私も見物する。その前にもう少しだけスターレン殿らと別室で与太話をさせてくれ。役に立つかは不明だがカタリデ様にもお耳に入れたい話が一つ有る」
「面白そうな話じゃないですか」
「どうして昨日の夕食会でお話されなかったのですか?」
「隠すようなお話?」
「統一教会絡みでな。乱入が有ったので控えていた」
「あぁそれで。是非ともお伺いしましょう」
「致しましょう」
ロイドさん。帰りが遅くなりそうです。
「ガンガン行きましょう」
乗るなら勢いと余裕が有る内に!
帝宮内の1室で緑茶を飲みながら。
「カタリデ様はご存じだとは思うが。南東大陸の何処かで正統な勇者が聖剣を引き抜くと篝火のように燃え出す一本木が存在する」
「勿論知ってるわ。現レンブラント公国北部の山岳地ね。
スターレンたちには入国前に話そうと考えてた。勇者と私が繋がった事を示す篝火で特別な物でも無い」
「伝え聞く伝承と同じだな。実は遠く離れた縁も所縁も無いこの帝国領内で同様の一本木が発見された」
「…それは知らないわ」
「カタリデ様が引き抜かれたと言う号外がこちらに届く数日前の事。恐らく抜いたのと同時なのだと思う。
この帝都から北東の港町レンスブーケ」
懐から1枚の地図を取出し机上に広げ指し示した。
「その町全体が統一教会の管轄区だった。嘗てのカルロゾイテが統治者。詰りは乗っ取ったアミシャバが町長。
君らの助力で見事投獄した後。奴自身が考案した拷問を惜しみなく処方していた最中。終盤でこう呟いた。
「あの木を切るな。掘り起こすな」と」
「ほぉ」
話はエグいが面白い。
「何の事だと問い正しても以降は答えず絶命。だが木と聞いて真っ先に浮かんだのはその孤島の一本木。罪人の所有物として孤島と奴の屋敷を没収。
取り敢えず屋敷を掠ったが特に何も出ず。孤島の方は何が起きるか解らないので放置していたら燃え出した、と言う訳だ」
「成程」
「南東の方は燃え始めて3ヶ月は燃え続けるわ。こちらの木もそうなの?」
「鎮火したと言う報告は上がっていない。監視役としてトッドの部隊を駐留させ軍船も数隻置いて有る」
「それで見掛けなかったんですね」
「てっきり都内の警備に出ているのかと」
「君が持つ転移具なら鳩で座標を捉えればその場に飛べると噂で聞いた」
「ええ、まあ」
今更否定しても無駄。
「それが本当なら帰国する前に寄って欲しい。船は何れでも使えるよう伝文は書く。何か恐ろしい魔物が出るなら叩き潰してくれ。
漁師たちが怯え切っているのでな。君に関わっていそうで遠距離攻撃もしていない」
「片付けましょう」
「立ち会い人付きでしょうか。余り私たちの本気武装は披露したくないのですが」
「不要だとも。船は空にして常時メンテしてある。潜んでいる者が居たら誰であろうと遠い北海にでも投げててくれて構わない」
「「承知しました」」
試合前の2人とクワンを集めて帰国延期を説明。
「またかよ…。どうして何時も何時もお前らは」
「しょーがないじゃん。向こう側からどんどん寄って来るんだから」
「レイル様には…。ソラリマ様経由で伝わっているのでしょうか」
『うむ。気に成る事は潰して置けと』
超小声で。
「クワンティはレンスブーケの位置把握してる?」
「クワ」
「西大陸と南極大陸以外の地上は全て網羅してます」
通訳ピーカー君も超小声。
「それはそれで驚きだ」
「昼食もここで頂いて港へ行こう。ソプランたちが手に負えそうもない相手だったらクワンティでタイラントまで退避させます」
「まあ海上戦だったら役立たずだからな」
「フル装備で泳ぐ訓練をしなくては…」
「そこまではまだいいって。海の中はフィーネに任せろ」
「適材適所よ。今は模擬戦に集中集中」
「はい」
--------------
午後の件がチラ付いて集中力に欠けるがそんなもんは言い訳だ。
前方に対峙するのは帝国一の騎士。
こちらは勇者の側近で指名された。互いに無様は晒せないし。ラーランは闘志剥き出し。
ゼファー先生並の達人級が放つ闘気に近い物を全身から放ってやがる。
装備頼みじゃなく生身を鍛えろ。先生の言葉。
何時も正しい。中身の俺はまだ足元にも及んでない。
今の俺は帝国の軽装鎧。ブーツも普通の物に履き替えたんで特殊なのはインナーだけ。
首を回して軽くステップ…。
「ちょっと待ってくれ」
そう告げて普通ブーツを脱ぎ捨て靴下も脱いだ。
裸足で地面を掴む。懐かしい感覚。
ガキの頃。冬でも裸足だったスラム時代を思い出す。
多少大きな砂利を踏んで血が滲む感じも懐かしい痛み。
「待たせた」
「…いいえ」
再びステップを踏み。左足を前に両手の小木剣を逆手に左手を顎下。右を胸の前。
定番スタイルで腰を落とし。試合開始の合図待ち。
「始め!!」
合図と共に互いに真っ正面へ走り出す。
ラーランの右手の木剣が中段からの突きを放つ姿勢に見えた。
衝突寸前で瞬歩で右間横に回避…。しかしラーランも間横に移動。
瞬歩に付いて来た。
この驚きと寒気は聖騎士ゼノンと手合わせした時以来。
ラーランは追うのを途中で止め。俺の左へ回り無動作の突きを放つ。
バックステップで回避した所に小盾の突進。
その盾面に両足を乗せ中段後方回避。受け身の後転で膝当て地面を擦り衝撃吸収。
距離を詰めに来たラーランを応戦。瞬歩で小盾の死角に潜り込み…。
盾を傾け死角を無くされ目が合った。
見下ろすラーラン。低姿勢の俺。圧倒的不利な体勢。
振り降ろされる盾の端と右中段からの下ろし突き。
間違い無い。こいつはゼノンクラスの化け物だ。
全部読み澄ました行動手順。双剣潰し。
右手の木剣を下に擦らせスピードを変え。それを起点に右側転と見せ掛けラーランの軸足が左へ移った所で脛当てに五割の左剣を当て背後に回る。
反転軌道の振り降ろし木剣の先端部に双剣を合わせバランスを崩させた。
反対軌道から飛ばされた小盾を肘当てで弾き。ガラ空きの背中を蹴り付け距離を取る。
「馬鹿野郎が!!」
「な…にを。今首を取れたのに」
「帝国人ってのは冒険者を嘗めるのが好きなのか!」
「何を言っているのか」
「じゃあその両手両足の重りは何だ。言ってみろ!!」
「…」
「中断!それを外せ。
俺を小馬鹿にするのも大概にしろ。胸糞悪い。
遣り直しだ」
その場に尻を着きレガースを外し始めたラーランを尻目に砕けた木剣を投げ捨て。小剣サイズ二本を手に取り重さを確かめた。
軽いんだよなぁ木剣は。
鉛入りのレガースとガントレットを場外に投げたラーランが俺に尋ねる。
「何時から?」
「一歩目から。闘志剥き出しなのに踏み出しが遅れた。
それに力半分の打撃で樫の木剣が砕けるのは可笑しい。
最後の二回反転。バランスも悪かったし。鉛でも入ってなきゃ腕一本の閃撃があんな重い訳がねえ」
「最初から、でしたか。それにあれで力半分…」
「無駄話は後。アローマも控えてるし。昼から急用が出来て暇じゃねえ。
お前は槍が得意だよな」
「…図星です」
「刺突剣でもないのに刺突に拘り過ぎだ。
スターレンはここまで我流の剣技を重ねて来た。正統派と手合わせしたのも過去数回。
帝国仕込みの剣技とやらをあいつに見せてやってくんねえかな。重りを仕込んだ事を悪いと思うならよ」
「適わないなぁ貴方には。重りを仕込んだ理由は後にしてお見せ致しましょう。
初動を解り易くするので小剣を合わせて下さい」
「助かるぜ。防戦の方が遣り易い。俺の勉強にも成る」
ラーランは細く笑い返し長型の木剣のみを持ち離れた。
先程と同じ間合いで構える。
俺は順手で小剣二本持ち。ラーランは両手剣持ちで胸の前に柄を置く眼前構え。
闘志は相変わらずだが冷静さが宿った。
「再開!!」
防戦の方がと言ったが間違いだった。
防戦しか出来なかった。軌道は見えても速過ぎて。
生身だと格上はゴロゴロ居るもんだな。
最後の最後。ラーランの中段からの突き上げを左肩当てに乗せ。俺は右小剣をラーランの首元に当てた。
「ひ、引き分け!!」
割れんばかりの拍手の中。ラーランと握手を交わし。
「いってぇー。ちょい手洗い場まで肩貸してくんね?」
再試合中に大粒の砂利を踏んで足裏から結構な血が。
「幾らでも。実質私の負けですし」
手洗い場で手と顔を洗い足も綺麗に砂利を流した。
脇の砂場に座り。浄化布で拭き上げ消毒剤と傷薬を塗り込み暫く放置。
訓練場内では俺の足跡の掃除が始まっていた。
帝国鎧を脱いでいるとラーランも隣で鎧を外し。
「どうして裸足に?」
「最近ずっと極上のブーツ履き放しだったからな。生身の感覚取り戻してたんだよ」
「成程。…鉛入りにしていたのは。スターレン様に指摘されたからなんです。前に手合わせをした時。スピードに頼り過ぎで他が追い付いてないと」
「あいつの所為だったのかよ。偉そうに」
てっきりハンデかと思ったぜ。
「実際自覚は有ったんで。装備全体を重くしてみたり鉛入りにしたり色々と。やっている内にその重りに何時の間にか頼っていた。
まだまだです」
会場内の掃除が終わり。嫁と対戦相手が入場した。
「最初の試合。初手の横回避の時。俺に追い付けてたのに途中で止めて切り替えただろ。作戦かと思ったがあの時足だけ残ってたぜ」
「はぁ…。仰る通りで」
「まあなんだ。見えてても対処出来るかは別問題。生身じゃ勝てない奴はゴロゴロ居る。
アローマも見てみろ。有り得ない動きするから」
「それは見逃せません」
ラーランが目を向けた時が試合開始と重なった。
アローマは開始早々縮地で距離を詰め。側面に回って膝裏を木剣で叩き。膝を着かせて背面から首元に剣を当て置いた。
一瞬の決着。
「面白いだろ」
「面白い…。と言うより何ですかあの、挙動無しの瞬間移動は」
「縮地ってスキルだ。あれは俺にも読みようが無い。攻撃を捨てた体術の達人でもないと避けるのは無理だな」
「上には上が居るもんだ…」
「お前。凄え勿体ない事してるぞ」
「何をですか?」
「ラザーリアでの空き時間。スターレンが今でも生身じゃ勝てないと言わしめる聖騎士ゼノンが目の前に居たのに手合わせ頼んでねえだろ」
「……あぁ~。何て勿体ない…」
大の字に成って転がった。
「来年辺り。ロルーゼや俺たちの騒ぎが収まれば。五国会合をラザーリア主催でやるだろう。その時聖女様も遊びに来てたらゼノンも来る。それに期待するこったな」
「…鍛え直します。それまでにもっと」
会場内では三人目の対戦相手が秒殺され。嫁は実に不満げな顔で俺を見た。
「お疲れ。足治ったから昼食頂こうぜ」
「はーい。先に着替えて待ってます」
「え?もう治ったんですか?」
「前にあいつらがここに置いてった傷薬より格段に進化してるぞ、これ」
「ほ、欲しい…」
「皇帝陛下経由で頼んでみな。出掛ける前に」
「急がねば」
俺の分の鎧も抱えて皇帝の元へと全力走。
しかし辿り着いた先で待っていたのは皇帝の鉄拳制裁。
哀れなりラーラン。俺も努力するぜ。
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