黒い天使と白い悪魔

ユイ

1

　今夜ショウはユイの家へとやって来ていた。と言っても生身の彼は此処にはいない。眠りについた後いつもの様に自分の夢から抜け出して此処へと飛んできた。
「これじゃまるで生霊だな。いや本当に生霊か？TVでやってた時はストーカーみたいな感じで気持ち悪いものって言われてたよな。」
自分は違うと思いたかったが、どう取り繕っても自分自身に言い聞かせるには至らず、
「まあ今の俺も似たようなものか。」
結局ショウは開き直った。

　ユイの家はショウの家の三件隣にあり、昼間も学校からの帰り道にユイの家の前を通っていた。彼女はたしか一人っ子の筈だった。ユイの部屋はあの辺りだろうか二階の窓の中の様子を伺うが、ユイの様子は確認できなかった。ユイの様子どころか、昼間だというのにユイの家自体静まり返っている様子だった。

「一体俺は何をしているんだ！」
ショウは思わず叫びたくなった。夜な夜な一人でやって来た自分自身を非難した言葉で頭の中はいっぱいだった。　

立ち尽くしているとショウの視界には自然とユイの家の窓が目に入った。

「これはやっぱり生霊というかストーカーだよな。人に見られない事を良いことに他人の家を覗こうとするならまるでストーカーだよな。俺って卑怯だ。」
ずっと同じような言葉がショウの中でグルグル回っていた。

そうして何度、自分自身の行いを否定しても何度自己嫌悪に苛まれてもショウはそれを辞める気にはならなかった。

　ショウとユイは幼稚園から一緒だった。一緒とはいっても住んでいたのは大都会にある住宅地。いくら家の近くて同い年という間柄でも親同士交流があるわけでもなく、2人の関係は幼稚園で会うたくさんいるお友達の1人でしかなかった。送迎もそれぞれの親が自宅から幼稚園まで直接送り迎えしていたので、ショウとユイが2人きりになるような環境は無かった。
　お互いの関係が変わったのは小学生に上がってからだ。親の送迎は無くなり、近くの生徒同士が班を作って集団登校するようになっていた。家が近い2人は当然同じ班になった。他の学年の生徒も同じ班にいたので2人きりではなかったが、同じ学年は2人だけだったので、登校時には自然と2人だけで言葉を交わすようになった。そんな生活は6年間続くこととなる。