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しおりを挟む「そうえいば、春樹くんはお元気?」
「うん、相変わらず元気だよ」
櫻子は、ほんのり顔を赤くしている。
それはほんの些細な変化で、誰もそれには気がつかない。
そんな櫻子と春樹が大学内で出会ったことは、たったの一度しかない。
構内を歩いていた時に、柑菜と春樹が偶然会った時だった。
あの日は、桜が散り始めて、ちょうど桜の花びらが風によって舞っていた時だった。
春の美しい日。
その日が、櫻子にとっては特別な日となった。
「よし、とりあえず、柑菜は一言でもいいから話しかけてみるのが課題」
「そうね、まずはそこからだわ」
ほんのり赤かった頰は、もうすでに元に戻っていた。
そして再び、柑菜の恋の行方を本気で考えている。
櫻子と亜紀から柑菜に与えられた課題は、彼女とっては大きな壁のように感じるものだった。
柑菜は、家のソファに座りながら考え事をしていた。
春樹に、恋のことを話すかどうか。
櫻子と亜紀の提案どうり、もし2人でケーキ屋に行っても、春樹がなにも話しかけなければ2人で行く意味がない。
でも、好きな人のことを春樹に話してしまうのもどこか躊躇してしまう。
しばらく考え込んでいると、春樹が帰宅した音が聞こえた。
「お、お帰り」
「ただいま」
外から帰ってきた春樹は、喉が渇いているのか冷蔵庫からオレンジジュースを取り出して柑菜の隣に座りながらそれを飲む。
柑菜はその春樹をちらちらと見た。
分かりやすく横目で見てくるその視線に気づき、柑菜から少し距離を取る春樹。
「なんで逃げるの?」
逃げる春樹の腕を柑菜は掴んだ。
「ちらちら見てきて気持ち悪いからだろ」
事実のことに反論できない柑菜は、何も発せずに、じっと春樹の目を見た。
「ねえ、ケーキ屋行った?」
とりあえず、ケーキ屋に行ったのか行っていないかを確認する。
「まだだけど」
それを聞いて、一安心する柑菜。
「そう……あのさ…………一緒に行かない?」
「まあ、いいけど」
ここまでの会話は難度1で、誰でも乗り越えられる。
問題はここから先の話で、しかし柑菜は未だに春樹に打ち明けるかどうかを悩んでいた。
「ねえ、春樹は……その……好きな、人、いる?」
歯切れの悪い柑菜を、怪しい目で見る春樹。
「なにいきなり。つか、今までそんなこと聞いてこなかっただろ」
「まあ、そうなんだけれど」
柑菜は、どうしたらよいか分からずに、黙ってしまう。
沈黙が、リビングに流れて、なんとも居心地の悪い雰囲気が漂う。
そのとき、その沈黙を破るように春樹が口を開いた。
「ケーキ屋となんか関係あるわけ?」
「きょ、協力してほしいの!」
「協力?」
双子の2人の仲は、悪いものではなく、むしろ周りから見たら仲の良い分類に入る。
それは、当の本人同士もそう感じてはいるし、それに対して嫌悪感を抱くこともない。
しかし、恋愛が絡む場合それはまた違ってくる。
「多分、そこのケーキ屋のオーナーなんだけど、私まだ話したことなくて、春樹から少しでもいいから世間話してほしいなって、男の人同士なら不自然じゃないでしょ?」
柑菜は、2人からのアドバイスを自分なりの言葉で春樹に伝えた。
「べつに、男同士じゃなくてもいいと思うけど……」
春樹はぼそっと面倒臭そうにそう呟いた。
「そうなんだけど、ねっ、お願い」
そんな春樹に、手を合わせてお願いをする柑菜に、春樹はため息をつきながら渋々返事をした。
「分かったよ」
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