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5話
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しおりを挟むーーまさか、こんなことになるなんて……。
柑菜が選んだ道は、まさかの美鈴と秋斗が選んだ道と同じだった。
なんとなく気まずい柑菜は、美鈴と秋斗の後ろを歩く。
「柑菜ちゃん、そんなに離れてないでこっちきなよ」
後ろでトボトボと歩く柑菜に気づいた美鈴は、柑菜の手首を掴んで引き寄せた。
その力が案外強くて、柑菜は転びそうになるも、なんとか堪える。
「ねえ、柑菜ちゃんは、大学院来る気はない? 教育じゃなくて、絵画専攻の」
「え? 私がですか?」
柑菜には予想もしていない話題だった。
まさか、このタイミングで大学院の話を聞くなんて想像もしていなかった。
その時頭に浮かんだものは、涼が何かを美鈴に話したんだなということ。
「そんな、私にはそんな才能ないし……」
「才能って? それって自分で決めるものかな?」
いつもは明るくて接しやすい美鈴が、今は少し厳しさを持っているようだ。
「それは……」
柑菜は、その言葉の意味を理解している。
それは初めて絵で賞を取った時から、感じていたことで、自分で自分に満足したり自分で勝手にできないと決めたり、それはただの自己満足にすぎないこと。
「ごめんね、ただ、柑菜ちゃんの絵が私は好きだからさ。もし、そういう環境があるならば大学院で絵を専門的に学んでほしいって思ったんだ。もちろん、教育に比べて厳しい言葉だって飛んでくるし、展覧会では一般の人に評価してもらえないことだってある。だけど、それも作品を生み出すには大事なことだし、柑菜ちゃんにはもっと揉まれてその絵のセンスをより磨いてほしいって、一ファンの声です」
『ファン』と言った時の美鈴は照れていて、その顔を見た柑菜は、心の奥底で何かが少しずつ動いているような感覚を覚えた。
そして初めて、美鈴のことが好きだと思った。
それまでは、秋斗という人物を通してしか美鈴を見たことがなかったから。
「先輩、ありがとうございます。……考えてみます、大学院のこと」
「本当? よかった」
その2人の横で話を聞いていた秋斗の顔は、2人の表情と比べ、どこか曇りがかっていた。
一言も2人の会話に参加しようとせずに、じっと前を見ながら何かを考えているようだった。
「水の流れる音がする」
少し歩くと、木々の葉がざわめく音の中にサラサラという音が重なる。
それは、歩くほどに大きくなっていき、少し歩いた先で光が水に反射しているのが見えた。
「あ、橋だ」
3人で歩く中で、初めて秋斗が口を開く。
美鈴は、子供のようにはしゃいでおり、1人走って川のほうへ向かおうとするも落ちている枝に足を取られ、転びそうになる。
「危ない」
その声がした瞬間、柑菜の目の前で秋斗が美鈴の身体を抱き寄せた。
柑菜は思わずその光景から目を逸らした。
柑菜にとって、美鈴は背中を押してくれた尊敬する先輩で、だけどその美鈴は同時に恋のライバルで、そのことはどうしても受け入れることができない。
ーーごめんなさい……。
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