ケーキ屋の彼

みー

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6話

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「春樹さん、いいですねその花火」

 春樹が持っているものは、線香花火を大きくしたようなもののスパーク花火。

 線香花火よりも華々しく光が飛び散って、その場を照らす。

 それはまるで、雪の結晶のような模様を作り出し夏の夜に輝いている。

 その横で、秋斗も違う種類の花火を楽しんでいた。

「秋斗さんのも綺麗ですよ」

 秋斗の持っている花火は、様々に色を変えながら燃えている。

 変わっていく色に、目が離せない。

 赤に黄色、淡い青色とこの夜の暗さに様々な色をもたらす。

 2人の強い光を放つ花火は、あるものを引き寄せた。

「あ、虫だ」

 2人が持っている花火の光に吸い寄せられるように、虫が寄ってくる。

 春樹はそれを見て、まるで美鈴に吸い寄せられている自分のようだと感じていた。

「櫻子ちゃん、柑菜ちゃんこっち見て」

 いつの間にかカメラを持った美鈴は、カメラマンかのように2人に指示を出していた。

 カメラを通して、2人を見ている。

 2人は、線香花火を持ちながらレンズを見る。

「うん、いいね」

 美鈴はそういいながら、写真を撮っていく。

「次、双子さんも並んで!」

 春樹と柑菜を並べ、海をバックにシャッターを切った。

 撮った写真を見て、「うん、いいかんじ」と自己満足する美鈴。

「先輩、見せてくださいよ」

「いいわよ」

 美鈴がカメラの画面を春樹に見せると、「俺、半目じゃないですか」と突っ込みいれる。

「撮るならちゃんと撮ってくださいよ、しかも海もほとんど映ってないじゃないですか」

 そう呆れたふりをする春樹に

「生意気な後輩ですこと」

 と軽く流す美鈴。

 そのやりとりを見ていた櫻子は「仲良しですね」と羨ましそうな顔をしていた。

 皆が楽しむ中、怪しく亜紀が柑菜のもとに近寄って、釘を打つように耳元でささやいた。

「恋の邪魔、しちゃだめだよ?」

 先ほどのキャンディの一部始終を、亜紀は実は見ていた。

 あくまでも穏やかな声で諭すような声の亜紀。

 しかし、それは着実に柑菜の心を蝕んでいた。

「うん……分かってるよ」

 ーー言われなくたって、秋斗さんにとって美鈴さんが特別な存在だってことくらい分かる……。だって、どうでもいい人に自分のお店を手伝ってほしいとは、私だったら思わないもの。

 柑菜は、ポケットに入っているキャンディをぎゅっと握った。

 それでも、好きという気持ちを消すことはできないから、その思いをこのキャンディにぶつけるのだ。

 亜紀は、どこか満足気な顔をして美鈴に話しかけに行った。

 亜紀の異常な空気を感じ取っていた櫻子は、すぐに柑菜のもとに駆け寄る。

「柑菜ちゃん、大丈夫?」

「大丈夫だよ。なんでもない」

「そう……」

 ざあっと聞こえてくる波の音は、何か大切なものを奪っていくように、柑菜の耳に聞こえるのだった。
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