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8話
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しおりを挟む「明日も実は3人で来るんです、その時に買おうかな……」
「うん、そうだね。明日の楽しみにするのもいいかも」
柑菜は秋斗の方に顔を向け、笑顔を浮かべた。
柑菜はその自分の笑顔が、秋斗をどうさせるかなんて、もちろん知らない。
無邪気な柑菜の隣で、彼女に対する思いがどんどんと変化していく秋斗は、自分の思いに戸惑っていた。
「秋斗さん……?」
柑菜が色々なチョコレートを見ている間、人混みの中で立ちすくむ秋斗は、柑菜の声ではっとする。
「あ、ごめんごめん」
秋斗が柑菜の元に行こうとした時、その腕が誰かに掴まれる。
「秋斗」
秋斗を呼ぶ、女の人の声。
「真莉、仕事は?」
「休憩時間をもらったの」
にやっと口元を上げて笑う真莉の顔は、まるで小悪魔のように柑菜の目に映る。
秋斗をつかむ腕は固く、なかなか柑菜の元に行くことを許してくれない。
秋斗が困った顔をし何も話さずにいると、ようやく真莉はその手を離した。
「ねえ、今日の夜とか東京を案内してくれない?」
「今日……?」
秋斗は、柑菜の顔を見ると「ごめん、今日は彼女との約束があるから」とその誘いを断る。
柑菜は、どうしていいか分からずに、つい余計なことを口にしてしまった。
「い、いいですよ。私はいつでも秋斗さんに会えますし。……真莉さんも東京を見たいと思うから」
「そう? ありがとう柑菜さん」
でも……という秋斗だったが、結局首を縦に振らざるをえなかった。
柑菜は、自分よりも大人で顔も綺麗で体型もいい真莉を見て、秋斗がこんな正反対な自分を好きなになるはずなんてないよね、と心の中で思う。
恋愛のことになると、いつも否定的になる自分のことが、柑菜は好きではなかった。
「じゃあ、7時に東京駅の前で待ち合わせしましょ」
「……ああ」
それを言い残すと、真莉はどこかへ行ってしまった。
「柑菜さん、今日は本当にごめん」
建物から出て、川沿いにあるベンチに腰をかける2人。
「……せっかく再会できたんですから、きっと思い出話しに花が咲きますね」
せめて、秋斗の前では否定的な自分を隠そうと、明るく振る舞う柑菜。
「そう……だね」
しかし心の中で柑菜は、このことを後悔する日が来るかもしれないなあと空を見ながら思った。
もっと女の子らしく『行かないでほしいです』とか『私だってもっとそばにいたいんです』と言える性格だったら、どんなに楽だったんだろう。
柑菜は、心の中でため息をついた。
「でも、……どうして別れたんですか?」
「フランスのケーキ屋で修業をしていたんだ。でも、その厳しさに耐えきれなくなった僕はふさぎ込むようにアパートから出られなくなった、そのうち、フランスにいることも嫌になって帰国したんだ。その流れで、なんとなく縁が切れてしまったのかな……なんでも中途半端で自分が嫌になる」
秋斗は力強く自分の左手を右手で握る。
秋斗の自分に対する怒りが、その手に込められている。
「でも、ケーキからは逃げてないじゃないですか、あんなに美味しいケーキ、作りたくたって作れるものじゃないです」
秋斗の潤んだ眼が柑菜を捉え、その瞬間、無意識に自分の腕を柑菜の身体に回していた。
秋斗の胸の中にいる柑菜は、小さくか細い声で秋斗を呼ぶ。
秋斗の体温が、柑菜に伝わってくる。
「秋斗さん……?」
「ご、ごめん」
我に返った秋斗は、素早く柑菜から離れた。
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