ケーキ屋の彼

みー

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9話

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 そこにいたのは、柑菜と同い年くらいに見える男の人。

 その人は柑菜の顔を見ると、はっとした表情を一瞬見せて、また元通りになる。

「あ、私退きますね」

「いや……いいんです…………あの、実は僕ここのケーキ屋来るの初めてで、どれがおすすめですか?」

 柑菜は突然そう言われて驚いたが、「えっと、どれも美味しいので迷ってしまいます……」と返す。

 男の人は照れくさそうに「そうなんですね」とこぼれる笑みを浮かべてそう言った。

「当店のおすすめですか?」
 
すると、秋斗が2人のもとにきて、柑菜と話している男の人にそう尋ねた。

「はい」

「今でしたら、モンブランとかどうでしょう? 秋ですし、おすすめですよ」

 秋斗は笑顔を浮かべているが、内心は穏やかではなかった。

 男の人が柑菜に話しかけた瞬間から、いつ2人のもとに行くかとずっと考えていた。

 その人に笑顔で話しかける柑菜の顔を見ると、もやもやが募っていく。

 それに、秋斗は早く柑菜に見せたいものがあった。

 一分でも一秒でも早く……。

「柑菜さん、あとで少しいいですか?」

 いつもなら、知り合いがきてもこうやって個人的に話しかけたりしない秋斗。

 でも、今日は違った。

「は、はい」

 柑菜の隣に立つ男の人は、その柑菜の表情の変化を見て、ピンとくる。

 ーー彼女は、この人に惚れているんだ。

「あの、もしかしてですけど、○○大ですか?」

「あ、はい、そうです」

「僕もなんですよ、もしよかったら今度大学で会いませんか?」

「お客様、どういたしますか?」

 秋斗は2人の会話を遮るように、男の人に話しかけた。

「じゃあ、おすすめのモンブランにします」

 柑菜は、2人の顔を交互に見ながらいつもと違う秋斗に困惑している。

 いつも優しさ100パーセントのような秋斗が、妙に人に絡む。

 柑菜から見る秋斗の目の奥は、笑っていないように見えた。

 それは、初めて柑菜が見る秋斗だった。

 店内から、柑菜以外のお客様がいなくなる。

 ケーキ屋には柑菜と秋斗の2人、今日は美鈴はいない。

 その静かな店内に、柑菜の名前を呼ぶ秋斗の声。

「柑菜さん、これ」

 秋斗は、ひとつの小さな箱を柑菜に手渡した。

「柑菜さんのおかげで、僕は一歩前に進むことができたから……それのお礼。家に帰ったら見てみて」

「あ、ありがとうございます」

「あ、あと……なんだかさっきはごめん。会話の邪魔して……」

「い、いえ!」

 照れる秋斗の顔を見て、柑菜はそれが移ったのか同じように照れてしまう。

 赤く染まる2人の顔は、夕日によってより赤く見えた。

 カランカラン……。

 2人だけの空間が、その音によって終わりを告げる。

「あ、これ、ください」

 小さく可愛らしいかごに入れていたクッキーを秋斗に渡した。

 柑菜は、ケーキ屋に来た人にその照れた顔がばれないように、ずっと下を向いていた。
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