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9話
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しおりを挟む今日の大学は、いつもよりも何倍も人で溢れていて、その構内は香ばしい匂いが充満していた。
今日から、一般公開の学祭が始まった。
柑菜たち教育は、ミニ体験授業を開催している。
幼い子供が、絵の具を持ちながら思い思いに絵を描いていた。
しかし、そこにはもちろん子供達だけではなく、学生や大人も訪れている。
「あ、この前の……」
「土橋さんって言うんだ」
「土橋、柑菜です」
文化祭のために胸に付けているネームプレートを見て、あのケーキ屋で会った男の人は柑菜の名前を初めて知る。
「僕、渡辺空。音楽学部の作曲専攻です。……君に一目惚れしたんだ」
「ちょ、ちょっと待って」
突然空から降って来た言葉に、頭が回らない柑菜は、空の言葉を一旦止める。
一目惚れ……一目見てその人を好きになること。
柑菜は言葉の意味を考えるも、それ以上の意味が出てこなかった。
「連絡先交換しない? 僕、本気だよ」
「え、あ、はい」
さすが音楽学部、とでもいうようにテンポ良く話を繋げていく。
柑菜は考える暇もなく流されるように空と連絡先を交換した。
「土橋さん、そろそろ交代の時間です」
タイミングが悪いのか良いのか、同じ教育の後輩に言われて、柑菜はネームプレートを外す。
特に何もすることがなくなった柑菜は、どうしようと考える。
特に何もしようとはしない柑菜に対して、空は「一緒に回らない?」と思いついたように言った。
「え……っと」
ーー急に言われても、まだ会ったばかりだし、それに私のこと……一目惚れだって言うし……
。
今日に限って、櫻子と亜紀はどこかに行ってしまっていた。
「ね、行こう」
迷っている柑菜の腕を掴んで、空は教室から出る。
まるでハーフのような外見をした空は、目立っていた。
様々な人の視線が2人に注がれ、柑菜はその視線に耐え切れずに視線を下に逸らす。
「あ、ごめん」
いきなり歩くのを止める空に、その動きについていけずに柑菜は空の背中にぶつかってしまった。
「ああ、僕ったら本当にごめん。突然連れ出したりして、それに……顔、大丈夫?」
急にアップになる空の顔に、その美しさに耐えきれず柑菜は恥ずかしくて顔を横に向けた。
秋斗とは違って、はっきりとした顔の空。
まるで、教室に飾られている彫刻のよう。
「だ、大丈夫です」
「そっか、よかった!」
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