妖の木漏れ日カフェ

みー

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始まりの夏

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「ただいま戻りました」

 カフェに来ると、魚を焼いたような香ばしい匂いや漬物のような発酵の良い匂いが漂ってきて、ますますお腹が空いてしまう。

「ご飯、2人分頼むよ」

「はいはい」

 空いている席に来ると、ハトリさんはわざわざ椅子を引いてくれて私を座らせる。

 なんというか、1つ1つの所作に品があって、素敵な大人というものを感じさせるオーラ。

 ハトリさんだけじゃなくて、カイさんにも大人な余裕の雰囲気があって、だからかな、こんな知らない土地に来てもどこか落ち着いた気持ちでいられるのは。

「ハトリさんは、なんの仕事をしているんですか?」

「僕は医者だよ。何かあったらいつでも診るから言ってね」

「あ、はいっ」

 まさか、お医者さんだっとは。





 十数分後。

「はいよっ」

「ありがとうございます」

 運ばれてきた料理を見ると、焼き魚に具だくさんのお味噌汁、お浸し、おにぎり、漬物、と和食の定番といったものが並べられていた。

「美味しそうです」

「ここのカフェはね、ハーブティーと和食を出しているんだよ。ヘルシーで女性に人気なんだ」

 確かに、店内を見渡すとほとんどが女の人で、中にはカイさんを見て顔をほんのりと染めている人もいた。

「それでは早速、いただきます」

 まずはお味噌汁を一口。

 豆腐と大根と人参と油揚げが入っていて、大根のシャキシャキした食感が美味しい。味噌の香りにほっとしてしまうのはきっと、日本人だからかな。

 お米は色がついていて、穀米が混ざっていて、噛めば噛むほど甘さが増す。中には梅干しが入っていて、その梅干しもほんのりと甘さがあって、お米によく合う。

 お魚は鮭、かな?

 塩がほんのり効いていて、お魚の素材の味もしっかりとしている。

「本当に美味しいですっ」

「でしょう? ああ見えても、料理はうまいんだよね、カイ」

 カイさんを見ると料理に集中していて、私の視線には気が付かない。

「あとは、ハーブティー。食後に飲むこれがまたいいんだよね。あとは朝とか」

「いいですね。……カイさんとハトリさんは、お友達なんですか?」

「うん、そうだねえ。幼い頃からずっと一緒。腐れ縁ってやつかな?」

「いいですね、そういう人がいるって」

「まあ、たまに鬱陶しくも感じる時はあるよ。そんな時は1週間会わないとかもあるし」

 カイさんのことを話す時のハトリさんの顔は愛おしそうだった。

 もちろんそれは恋愛とかそんなんじゃなくて、家族愛とかそういうもの。

 って、私が勝手に感じているものだけれど。

「カイになんかされたらすぐに言うんだよ?」

「そ、そんな」

「ははっ、まあ、そんなことはないだろうけどね」

 ハトリさんの話を聞いていると、ふと思い出す自分の家族や友達のこと。

 これから1年会えないんだと思うと、急に底無しの空虚感が襲ってくる。

 おじいちゃん、元気かな。無理してないかな。

「帰りたい?」

「あ、えっと」

「いいんだよ、分かるから。こんなところに来て不安だよね」

「でも、ハトリさんやカイさんと出会えて良かったです」

 この言葉に嘘はない。もしもっと怖い人に見つかっていたら、今頃どうなっていたか。本当に、初めに会ったのがハトリさんで良かった。

「ありがとう」
 





 夜、眠りにつく前に考える。

 もしかして、お婆ちゃんが消えたのは同じようにこの世界に来てしまったからではないか、と。

 もしそうならば、まだこの世界にお婆ちゃんがいるかもしれない、そう考えると胸が高まって、余計に目が覚めてくる。

 でも、もし違ったときのことを考えると余計に落胆してしまいそうだから、過度な期待は持たないようにしないと。

 でももしお婆ちゃんに会うことができたら…………もう1度抱きしめて欲しい。

 久しぶりにお婆ちゃんの体温を感じたい。

 そう思いながら、目を閉じた。
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