48 / 74
進みゆく秋
47
しおりを挟む
ハトリさんの音とは違う、少し高めの下駄が床を叩く音が近付いてくる。
それは、厨房の前で止まった。
「さあさあ、どのような感じかな?」
姿を現したのは、怪しく笑うシドウさん。
「やあ、真由さん。……ああ、すごく美味しそうじゃない。これは皆も喜ぶ。料理というよりは芸術……。御膳というのもまたいい」
言葉の内容は褒めるものだけど、その声質は冷たい。
「御膳は真由のアイディアです。いかに皆さんに料理を楽しんでもらえるか、真由はそのことだけを考えていたんですよ」
「へえ……そうなの。それはありがとう、真由さん。おかげで今年も満足いく宴が開催できそうだよ」
シドウさんが近づいてきて、彼の長く細い指が頬に触れる。
キキョウさんの手とは違って、氷のように冷たいその手に、びくっと肩が跳ねた。
「ああ、ごめんね。僕、冷え性で」
「あ、いえ、少し驚いただけで……」
「そう……拒否したわけじゃ、ないんだね?」
目の奥から伝わってくる、冷たさや残虐性とは違う、哀愁さ。
「はい、本当に、冷たさに体が反応してしまっただけですよ」
試されている、全ての言動にそう思ってしまう。少しでも拒絶するような態度を見せてしまったらきっと全てが終わってしまう。
でも、なんだろう、それだけじゃない。
「宴の時、僕の所には真由さんが料理を運んできてくれるかな?」
「はい」
シドウさんが何を考えているのか、砂が指の間をするすると落ちていくように、全く掴めない。とにかく今は、彼の言葉に一切否定を示さないのが得策。
満足したのか、シドウさんは厨房から姿を消した。
「真由……大丈夫か?」
「はい」
「あの方は、何を考えているのか本当に分からない。そこが恐ろしくある。決して、無理はしないんだよ?」
長年近くで見てきたカイさんのお父さんが言うんだから、その言葉は絶対に疎かにしていけない。
「はい、ありがとうございます」
宴が始まる。
御膳は全て準備できた。カフェの親しみやすい料理とは違う、高級感の溢れたそれら。
同じ食材なのに、調子の仕方でこんなにも見せる表情が異なるなんて、料理はすごく奥が深いと思う。
「さあ、それでは宴の始まりです。料理をお運びしましょう」
着物を着た女の人たちが数人入って来て、一人一膳を持って宴の間に向かう。私もその後についていく。
カイさんはこの場にはいなくて、漠然とした不安で押しつぶされそうになる。
この前の場所と同じ……。部屋の中に入ると、そこには雅やかな雰囲気が流れていて、宴に参加している皆は上品さを醸し出している。
「やあ、真由さん。ありがとう」
一礼をしてシドウさんの前から立ち去ろうとした時だった。
それは、厨房の前で止まった。
「さあさあ、どのような感じかな?」
姿を現したのは、怪しく笑うシドウさん。
「やあ、真由さん。……ああ、すごく美味しそうじゃない。これは皆も喜ぶ。料理というよりは芸術……。御膳というのもまたいい」
言葉の内容は褒めるものだけど、その声質は冷たい。
「御膳は真由のアイディアです。いかに皆さんに料理を楽しんでもらえるか、真由はそのことだけを考えていたんですよ」
「へえ……そうなの。それはありがとう、真由さん。おかげで今年も満足いく宴が開催できそうだよ」
シドウさんが近づいてきて、彼の長く細い指が頬に触れる。
キキョウさんの手とは違って、氷のように冷たいその手に、びくっと肩が跳ねた。
「ああ、ごめんね。僕、冷え性で」
「あ、いえ、少し驚いただけで……」
「そう……拒否したわけじゃ、ないんだね?」
目の奥から伝わってくる、冷たさや残虐性とは違う、哀愁さ。
「はい、本当に、冷たさに体が反応してしまっただけですよ」
試されている、全ての言動にそう思ってしまう。少しでも拒絶するような態度を見せてしまったらきっと全てが終わってしまう。
でも、なんだろう、それだけじゃない。
「宴の時、僕の所には真由さんが料理を運んできてくれるかな?」
「はい」
シドウさんが何を考えているのか、砂が指の間をするすると落ちていくように、全く掴めない。とにかく今は、彼の言葉に一切否定を示さないのが得策。
満足したのか、シドウさんは厨房から姿を消した。
「真由……大丈夫か?」
「はい」
「あの方は、何を考えているのか本当に分からない。そこが恐ろしくある。決して、無理はしないんだよ?」
長年近くで見てきたカイさんのお父さんが言うんだから、その言葉は絶対に疎かにしていけない。
「はい、ありがとうございます」
宴が始まる。
御膳は全て準備できた。カフェの親しみやすい料理とは違う、高級感の溢れたそれら。
同じ食材なのに、調子の仕方でこんなにも見せる表情が異なるなんて、料理はすごく奥が深いと思う。
「さあ、それでは宴の始まりです。料理をお運びしましょう」
着物を着た女の人たちが数人入って来て、一人一膳を持って宴の間に向かう。私もその後についていく。
カイさんはこの場にはいなくて、漠然とした不安で押しつぶされそうになる。
この前の場所と同じ……。部屋の中に入ると、そこには雅やかな雰囲気が流れていて、宴に参加している皆は上品さを醸し出している。
「やあ、真由さん。ありがとう」
一礼をしてシドウさんの前から立ち去ろうとした時だった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた
しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。
すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。
早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。
この案に王太子の返事は?
王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる