妖の木漏れ日カフェ

みー

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終わらない冬

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「やあ」

 次の日、朝食を食べてすぐにお屋敷に向かった。

 シドウさんはまるで私たちが来るのを予感していたかのように、門のすぐ近くで雲のかかった白色の空を眺めていた。

「シドウさん、お見せしたいものがあります」

 前置きなしに言いたいことを真っ直ぐに伝えた。

「ここじゃあなんだし、お茶でも飲みながら見せてもらおう」

 勿体ぶらなくてもいいのに、と思ったけれど、誰かに見られてしまうことを想定してのことなのかと思い私はその言葉に頷いた。

 宴が開かれたあの部屋に来ると、すぐにお茶が出される。

 紫色に輝くラベンダーティー。

「それで、何かな?」

 既に察しているような表情をしながら言うシドウさんの表情は、この状況を楽しんでいるように見える。

「キセキバナの種、持ってきました」

「へえ、本当に見付けられたんだ」

「これです」

 光るその種をシドウさんに渡した。シドウさんは「これがキセキバナの種ねえ」と長い指で小さな種を持つ。

 その種を一通り見たあと、テーブルの上に置いた。

「分かった。真由さんの本気、伝わったよ」

 その瞬間、シドウさんの言葉を吸い込んだかのように種から芽が出て茎がのび、大きな金色の花が開く。

「これ……」

 圧倒されるほどの、汚れのない美しさ。

「へえ、それがキセキバナ……ねえ、真由さん。僕はね」

 シドウさんの表情から、鋭利さが消えた。

 その目から感じられるのは哀愁。初めてシドウさんのことが弱く脆く儚く見える。

「僕はね、ペットとしてある家族に飼われたんだ。そこの息子がどうしてもペットが欲しいと駄々をこねて選ばれたのが僕さ。でもね……僕は家の中でいつも1人だった。初めの2、3日だけさ。皆が僕を見ていたのは。きっと直ぐに飽きたんだろう。僕はずっと家族を見つめていた。その輪の中に入りたいって、僕も家族の一員にして欲しいって心の底から願った。でも、叶わなかった。体が大きくなると、いよいよ僕を邪魔だと思ったんだろう。家族は僕を山に捨てた。僕は完全に1人になった。その瞬間、心が死んでいくのが分かった。そこからは覚えていない。多分死んだんだろう。人間は冷たい。酷く冷たい。それが僕の頭の中から消えなくなった。……でも、真由さんは違った。あんな家族とは比べ物にならないほどに優しい心を持っている」

 シドウさんの目から、一筋の涙が溢れる。

「……寂しかったんですね?」

「そうだね、僕は、ずっと寂しかったんだ」

 大きなシドウさんの体が、細かく震えている。小さな子供みたいに。

「ごめんなさい」

  その家族の代わりに、私がシドウさんに謝りたい。

「寂しい思いさせて、ごめんなさい」

 謝らなければと心の中の自分が叫んでいる。

「真由さん……ありがとう。さあ、行って」

 柔らかい笑顔をシドウさんはむけてくれる。

「真由さん。祠に行こう」

「はいっ。シドウさん、ありがとうございます」

「……真由さん、今度またハーブティを飲ませてくれる?」

 何度でも。

「もちろんですっ」

 花びらが1枚でも落ちてしまわないようにそっと持つ。早く、早く祠に。

「あ、地図……」

「僕が持ってるよ。さあ、あっちだ」

 キキョウさんは山の方を指さす。空は今にも雨か雪が降りだしそうで、先ほどの白色から黒色ににっていた。

 天候が荒れてしまう前に祠に行きたい。

「あっ」

 興奮しすぎるあまり、脚が絡まり転びそうになる。でも、キキョウさんが大きな体でそれを阻止してくれた。

「ゆっくり、行こう」

 キキョウさんは、目の前で深呼吸をして私の呼吸を整えてくれた。

「はい」

 山に着くと、道なき道を、なんとか植物を掻き分けながら進んでいく。

 植物の刺が時折刺さり、痛い。蜘蛛の巣が私たちの行く道を邪魔するように大きく張っている。

 それに、厚い雲のせいでこの土地全体が鬱蒼として不気味さを感じる。

 地図があるとはいえ、本当にこの道が正しいのかどうか不安になってしまうけれど、キキョウさんの笑顔を見るとその不安も消え去る。

「あともう少しだから、頑張って」

「はい」

 遠くの方に、祠らしきものが見えて来た。多分、あそこだ。

 数分後、私たちの目の前には祠がある。

「……着いた」

「よし、置こう」

 心臓がありえないほどに早く動く。

 眩いほどに光るキセキバナ。

「はいっ」

 キセキバナの花をそうっと置いた。その瞬間、祠全体が輝きを放ち、空が澄み渡るほどの水色に変わっていく。

 そして1つの鍵が目の前に現れた。

「これは……?」

「これは、人間界との扉の鍵。選ばれた者のみに与えられる。これがあればいつでも人間界とこの世界との行き来が出来ることになる。あなたが人間界に帰られるようになったその日から、使えるようになる」

「え……誰?」

 その声が消えると同時に、全ての光も共に消えていった。

「とりあえず……災いは終息したようだね。よかった、真由さん、本当にありがとう」

 キキョウさんが私に抱きついて来た。

 ぎゅっと力強く抱きしめられて、ちょっと痛いって感じるけれど、それ以上に嬉しい。

「戻ろう。カイさんのところに」

「はい、戻りましょう」



 

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