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終わらない冬
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ベリーが胃に入っていく。
耳の奥で色んな音が混ざって聞こえてくる。
耳を塞ぎたくなるようなきいいいいっという金切り声のようなもの、ごおおおおっと地割れを起こしそうなほどの低い音。誰かのもがくような声。
でも、その音を包み込むように、何か優しい音が聞こえてきた。
笛のような、刺のない音。涙が自然と溢れてくる。
すっと霧が消えていく。
「真由っ」
カイさんが呼んでる。
「カイ、さん」
「真由さん」
キキョウさんの顔には1つの大きな傷が出来ていて、それを見ると心苦しい。
私のせいでできてしまった傷……。
声を出すこともできず、脚に力が入らずにその場にしゃがみ込んでしまった。
でも……手を見ると元の肌色に戻っていて、お婆さんの顔を見ると微笑んでいるように見える。
あれ、この顔……。
「よくやったねえ。これで、全て消えた。時が来たら、お前さんは人間界に帰ることが出来る。……ありがとうねえ。真由、お爺ちゃんの言葉を守ってくれて、ありがとう」
この声……大好きなお婆ちゃんの声。
「お婆ちゃんっ」
「真由、本当に頑張ったよ。動物たちも幸せだ」
「待って、お婆ちゃん! 行かないで!!」
もっともっと話をしたい。お婆ちゃんとハーブティー、飲みたいよ。
お婆ちゃんは私の体を包み込む。懐かしい、幼い頃のお婆ちゃんとの記憶が脳内を駆け巡る。
「お婆ちゃんはもう行くね」
ぱあっと光に包まれて、建物もお婆ちゃんも玉の破片も無くなった。
最後、お婆ちゃんが消えるときの表情は慈愛に満ちていた。
「お婆ちゃん……」
お婆ちゃんはきっと、ここの動物たちの苦しみを救ってあげようとして……。
ありがとう、お婆ちゃん。
「よくやった。真由」
ああ、これで終わったんだ……。
それから数日は少し休養をし、久々にカフェに立つ。
「やあ、真由さん」
「シドウさん」
晴れやかな表情をしたシドウさんの姿は、以前とは別人のようにも見えた。
心の重い重い鉛のような寂しさからようやく解放された。
「真由さんのおかげで、屋敷にも笑顔が咲くようになったんだ。僕もとても心が軽い。真由さんがこの世界に来てくれて、本当に感謝しているよ。ありがとう」
「いえ……元はと言えば人間が悪いんです。立場の弱い動物を虐めて……」
言葉にするだけでも心が締め付けられる。
人は、自分よりも弱いものを見つけて傷付けるという一面を持っていて、私もふとした瞬間にそちらの側に回ってしまうかもしれない。
「真由さん、ラベンダーティー淹れてくれるかな?」
「はいっ」
シドウさんのホットココアのような温かみ溢れる表情に、目の奥が熱くなる。
「おはよう、真由ちゃん」
「スミレさんっ」
久しぶりに会うスミレさんはやっぱり美しくて、私の憧れの存在。
「私にもラベンダーティーくれる?」
「ぜひ」
スミレさんはシドウさんの隣に座った。
シドウさんを見ると、落ち着かない様子でスミレさんのことをちらちらと何度も見ている。
「ふふっ」
その姿につい声が漏れた。
平和を感じる。この流れる空気に。お婆ちゃんが守ってくれたんだ、命を掛けて。
「2人とも、ハーブティーだけじゃなくてなんか食べてけよな?」
「そうねえ、最近は真由ちゃんが淹れるハーブティーが人気だものね」
私を指名してくれる人もいて、その度に気合が入る。
自分が淹れたものを飲んでくれるだけでも心は満たされるのに、それ以上の評価をしてくれるなんて。
「じゃあ、モーニングを頂けるかな」
「私も」
「はいよ」
いいな、この3人の雰囲気。
久しぶりに恋しくなる、元の世界の家族や友人のことを。
早く会いたい。
そう感じるとともに、また別の思いも湧き上がってくる。
ここにいたい、もっと皆との仲を深めたい、このカフェで働きたいって。
それに、お婆ちゃんがいる気がするの。この世界のどこかに。
耳の奥で色んな音が混ざって聞こえてくる。
耳を塞ぎたくなるようなきいいいいっという金切り声のようなもの、ごおおおおっと地割れを起こしそうなほどの低い音。誰かのもがくような声。
でも、その音を包み込むように、何か優しい音が聞こえてきた。
笛のような、刺のない音。涙が自然と溢れてくる。
すっと霧が消えていく。
「真由っ」
カイさんが呼んでる。
「カイ、さん」
「真由さん」
キキョウさんの顔には1つの大きな傷が出来ていて、それを見ると心苦しい。
私のせいでできてしまった傷……。
声を出すこともできず、脚に力が入らずにその場にしゃがみ込んでしまった。
でも……手を見ると元の肌色に戻っていて、お婆さんの顔を見ると微笑んでいるように見える。
あれ、この顔……。
「よくやったねえ。これで、全て消えた。時が来たら、お前さんは人間界に帰ることが出来る。……ありがとうねえ。真由、お爺ちゃんの言葉を守ってくれて、ありがとう」
この声……大好きなお婆ちゃんの声。
「お婆ちゃんっ」
「真由、本当に頑張ったよ。動物たちも幸せだ」
「待って、お婆ちゃん! 行かないで!!」
もっともっと話をしたい。お婆ちゃんとハーブティー、飲みたいよ。
お婆ちゃんは私の体を包み込む。懐かしい、幼い頃のお婆ちゃんとの記憶が脳内を駆け巡る。
「お婆ちゃんはもう行くね」
ぱあっと光に包まれて、建物もお婆ちゃんも玉の破片も無くなった。
最後、お婆ちゃんが消えるときの表情は慈愛に満ちていた。
「お婆ちゃん……」
お婆ちゃんはきっと、ここの動物たちの苦しみを救ってあげようとして……。
ありがとう、お婆ちゃん。
「よくやった。真由」
ああ、これで終わったんだ……。
それから数日は少し休養をし、久々にカフェに立つ。
「やあ、真由さん」
「シドウさん」
晴れやかな表情をしたシドウさんの姿は、以前とは別人のようにも見えた。
心の重い重い鉛のような寂しさからようやく解放された。
「真由さんのおかげで、屋敷にも笑顔が咲くようになったんだ。僕もとても心が軽い。真由さんがこの世界に来てくれて、本当に感謝しているよ。ありがとう」
「いえ……元はと言えば人間が悪いんです。立場の弱い動物を虐めて……」
言葉にするだけでも心が締め付けられる。
人は、自分よりも弱いものを見つけて傷付けるという一面を持っていて、私もふとした瞬間にそちらの側に回ってしまうかもしれない。
「真由さん、ラベンダーティー淹れてくれるかな?」
「はいっ」
シドウさんのホットココアのような温かみ溢れる表情に、目の奥が熱くなる。
「おはよう、真由ちゃん」
「スミレさんっ」
久しぶりに会うスミレさんはやっぱり美しくて、私の憧れの存在。
「私にもラベンダーティーくれる?」
「ぜひ」
スミレさんはシドウさんの隣に座った。
シドウさんを見ると、落ち着かない様子でスミレさんのことをちらちらと何度も見ている。
「ふふっ」
その姿につい声が漏れた。
平和を感じる。この流れる空気に。お婆ちゃんが守ってくれたんだ、命を掛けて。
「2人とも、ハーブティーだけじゃなくてなんか食べてけよな?」
「そうねえ、最近は真由ちゃんが淹れるハーブティーが人気だものね」
私を指名してくれる人もいて、その度に気合が入る。
自分が淹れたものを飲んでくれるだけでも心は満たされるのに、それ以上の評価をしてくれるなんて。
「じゃあ、モーニングを頂けるかな」
「私も」
「はいよ」
いいな、この3人の雰囲気。
久しぶりに恋しくなる、元の世界の家族や友人のことを。
早く会いたい。
そう感じるとともに、また別の思いも湧き上がってくる。
ここにいたい、もっと皆との仲を深めたい、このカフェで働きたいって。
それに、お婆ちゃんがいる気がするの。この世界のどこかに。
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