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終わらない冬
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ミコトさんとも心の距離を縮められたような気がする。
もしかしたら、私の片思いかもしれないけれど。
それでも、ミコトさんが最後の一滴まで私の淹れたハーブティーを飲んでくれたことに、心がじいんとした。
すごく充実した1日を過ごすことが出来た。
部屋に戻ると目に入ってくる。
「あ、あれ……?」
短刀を閉まっている場所から光が漏れている。もしかして……。
高鳴る胸で、その扉をゆっくりと開けていく。
「あ……光ってる」
外を見ると夜はもう更けていて、今からあの山に行くのは流石に尻込みをする。
「カイさんっ、あの、明日の朝早くちょっと出かけてもいいですか?」
日が昇る時間と共にあのお婆さんと会ったところに出向こう。でも、会えるのだろうか。ぱあっと跡形もなく消えてしまったあの人に。
「俺も行く。真由1人にこれ以上重荷を掛けたくない」
「カイさん……」
カイさんの声は、今までに聞いたことのないほどに落ち着いていて芯が籠っていた。
「……はい」
だから、拒否できなかった。本当はもう迷惑なんて掛けたくない。自分1人で解決できるならば、そうしたい。
空が深い青色からオレンジへとなりかけて来たその時、家を出た。
「真由、この実をもし何かがあった時に食べるんだ」
それはブルーベリーのような濃い紫色の実で、どこかで見たことがある。
あ、パジュベリーの実だ。
「ありがとうございますっ」
森に着くと遠くの方に見えた、この前と同じ建物が。
一歩一歩近づくほどに、心臓の鼓動の音が大きく耳に入ってくる。そして速度も一気に上がる。
あまりの緊張で体の感覚がどんどんと抜けていく。
これで、皆の苦しみが消える。さあ、行くの。
硬くなった脚を拳で叩く。大丈夫、私には皆がついている。
建物の前に着くとひとりでに扉がゆっくりと、まるで私のことを待っていたかのように開いた。中は暗い。だけど分かる、お婆さんの気配。
「よく来たね。2人とも中にお入りなさい」
片足を建物の中に入れた瞬間に感じる冷気。外の方が寒いはずなのに、この建物中はそれ以上に温度が低い。
目の前にある3つの玉。
「さあ、割りなさい」
「はいっ」
短刀を両手で持って、思いっきり腕を上げて真ん中の玉を目掛けて突き刺す。
カンッと音が響き渡る。
だけど、割れない。
「どうして……?」
短刀は光っている。何が足りないの?
何度も何度も突き刺すのに、玉にはヒビが生えるどころか傷一つ付かない。
もうだめかも、と心が折れかけそうになった時だった。
「一緒に割ろう」
「キキョウさんっ」
短刀を持つ私の手をキキョウさんが包んでくれて、この上ない安心感を覚える。
「さあ」
私の目を見て頷く。
「はいっ」
もう1度、力を込めて、短刀を玉に突き刺した。
「あっ」
割れた。
真ん中だけでなく、刀の触れていない左右の玉にもひびが生えてぱあんっと音を出して割れた。
その瞬間、中に渦巻く霧が私を飲み込む。
ここにキキョウさんの姿はない。
痛い、まるで何千もの針を肌に一気に刺されたかのように、痛い。それに、苦しい。頭の中に入ってくる憎しみや悲しみの感情。
頭が割れそうっ。
「ああっ!!」
体が裂けているみたい。痛い痛い痛い。この前刺された背中の痛みなんて比にならないほどの痛さ。
見える手の色が青黒く変色していく。もう、助からない……。
意識が遠のいていくなかで聞こえてくるカイさんの声。
「真由! 実を口の中に入れるんだ」
ああ、そうだ。あのベリーの実を……。
もしかしたら、私の片思いかもしれないけれど。
それでも、ミコトさんが最後の一滴まで私の淹れたハーブティーを飲んでくれたことに、心がじいんとした。
すごく充実した1日を過ごすことが出来た。
部屋に戻ると目に入ってくる。
「あ、あれ……?」
短刀を閉まっている場所から光が漏れている。もしかして……。
高鳴る胸で、その扉をゆっくりと開けていく。
「あ……光ってる」
外を見ると夜はもう更けていて、今からあの山に行くのは流石に尻込みをする。
「カイさんっ、あの、明日の朝早くちょっと出かけてもいいですか?」
日が昇る時間と共にあのお婆さんと会ったところに出向こう。でも、会えるのだろうか。ぱあっと跡形もなく消えてしまったあの人に。
「俺も行く。真由1人にこれ以上重荷を掛けたくない」
「カイさん……」
カイさんの声は、今までに聞いたことのないほどに落ち着いていて芯が籠っていた。
「……はい」
だから、拒否できなかった。本当はもう迷惑なんて掛けたくない。自分1人で解決できるならば、そうしたい。
空が深い青色からオレンジへとなりかけて来たその時、家を出た。
「真由、この実をもし何かがあった時に食べるんだ」
それはブルーベリーのような濃い紫色の実で、どこかで見たことがある。
あ、パジュベリーの実だ。
「ありがとうございますっ」
森に着くと遠くの方に見えた、この前と同じ建物が。
一歩一歩近づくほどに、心臓の鼓動の音が大きく耳に入ってくる。そして速度も一気に上がる。
あまりの緊張で体の感覚がどんどんと抜けていく。
これで、皆の苦しみが消える。さあ、行くの。
硬くなった脚を拳で叩く。大丈夫、私には皆がついている。
建物の前に着くとひとりでに扉がゆっくりと、まるで私のことを待っていたかのように開いた。中は暗い。だけど分かる、お婆さんの気配。
「よく来たね。2人とも中にお入りなさい」
片足を建物の中に入れた瞬間に感じる冷気。外の方が寒いはずなのに、この建物中はそれ以上に温度が低い。
目の前にある3つの玉。
「さあ、割りなさい」
「はいっ」
短刀を両手で持って、思いっきり腕を上げて真ん中の玉を目掛けて突き刺す。
カンッと音が響き渡る。
だけど、割れない。
「どうして……?」
短刀は光っている。何が足りないの?
何度も何度も突き刺すのに、玉にはヒビが生えるどころか傷一つ付かない。
もうだめかも、と心が折れかけそうになった時だった。
「一緒に割ろう」
「キキョウさんっ」
短刀を持つ私の手をキキョウさんが包んでくれて、この上ない安心感を覚える。
「さあ」
私の目を見て頷く。
「はいっ」
もう1度、力を込めて、短刀を玉に突き刺した。
「あっ」
割れた。
真ん中だけでなく、刀の触れていない左右の玉にもひびが生えてぱあんっと音を出して割れた。
その瞬間、中に渦巻く霧が私を飲み込む。
ここにキキョウさんの姿はない。
痛い、まるで何千もの針を肌に一気に刺されたかのように、痛い。それに、苦しい。頭の中に入ってくる憎しみや悲しみの感情。
頭が割れそうっ。
「ああっ!!」
体が裂けているみたい。痛い痛い痛い。この前刺された背中の痛みなんて比にならないほどの痛さ。
見える手の色が青黒く変色していく。もう、助からない……。
意識が遠のいていくなかで聞こえてくるカイさんの声。
「真由! 実を口の中に入れるんだ」
ああ、そうだ。あのベリーの実を……。
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