魔法世界の物語

夜の桜

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第十五話 作戦開始

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(さて…行くか)

朔真が気配を消し、歩き出す。

「絶対成功させるよ!」

美羽が飛翔して、目的地へ向かう。

「やるで!」

逸平が左掌を右こぶしで叩く。

「僕も頑張ろう」

信輔が深呼吸をして、先へ進む。

「さぁ!行くわよ!」

楓が一気に走り出す。

「……」

舞が静かに動き出す。

六人がそれぞれが動き出したのを確認して、さゆりが

「現地メンバー、全員行動開始しました!レオナルドさん、リンカさん、バックアップお願いします!」

ギルドハウスの指揮室から、指示を出すさゆり。

朔真たち現地メンバーのバックアップを担うレオナルドとその補佐をするリンカ。

そして、即座に医療対応できるように現地近くのロッジで待機しているアリス。

今回の作戦については二日前に全員で共有している。



今から二日前

「今回の任務は各個対応することになります」

さゆりが真剣な顔で朔真たち全員を見回す。

「調査した段階では組織の人数は十数人ほどで、その中で何人が戦えるかは不明です」

「他のギルドからのチームアップはなしか?」

一つの組織の拠点を攻めるとなれば、他のギルドと協力する選択は最も必要となる。

レオナルドの質問にさゆりが答える。

「残念ながら、チームアップは無いです」

「厳しい任務になりそうやなぁ」

「特殊魔法物が関係するんですか?」

さゆりの答えに逸平が苦笑し、朔真が質問する。

「そうですね…元々、相手の組織は特殊魔法物を悪用しようとしてる組織ですから」

「その組織って名前は何て言うんですか?」

信輔が訊く。

「今まで正式な名前は聞いたことがなかったんですが、今回、来栖さんが取り調べで【裁きの使徒さばきのしと】と名乗ったのを聞いたと言っていました……この組織【裁きの使徒】を知るギルドにも協力要請はしてあるんですが…来るのは難しいそうです」


そもそも、【裁きの使徒】を知っていて、それを追っているギルド自体がほとんどいない現状である。

現に組織の名前も先の来栖から取り調べができたから、初めて知ることができたのだ。

存在自体が不確かで犯罪にどう関与しているか判らないことがほとんどであった。


「今回、拠点の廃村近くでが行われた痕跡があります!それがどういったものかまでは、完全に把握はできていませんが、特殊魔法物である可能性が高いです!」

明らかに不自然な魔法痕、来栖の証言、【トリニティ魔法薬研究所】の失踪した女性が出入りしていることなどから、リンカでおこなっていたようにカーラが代償を背負い異界召喚されたものがいる可能性もあると踏んでいる。

「……魔導士以外の…敵がいる…かも」

舞の言葉にさゆりが頷く。

「【裁きの使徒】のが完了して、拠点を移動される前に今夜、舞、逸平さん、楓さん、美羽さん、信輔さん、朔真さんは近くの街フィクスに前乗りして、準備してください!ホテルは押さえてあります」

朔真たちが頷く。

「そして、アリスさんは明日、組織の拠点近くのロッジを押さえましたので、そこに向かっていつでも治療できるように備えてください」

「了解よ!」

アリスが笑顔で応答する。

「レオナルドさんとリンカさんは私と残って、みんなのバックアップをお願いします」

「分かりました!」

「任せな!」

「今回の任務は大変ですが、皆さん、よろしくお願いします!」

さゆりが頭を下げる。

「任せて…」

「了解だよ!」

「任せてください!」

「よろしくされたで!」

「任せなさい!」

「やれることをやります」

「頑張ります!」

舞、美羽、信輔、逸平、楓、朔真、リンカがそれぞれ言葉を返し、レオナルドが親指を立てて返し、アリスが笑顔を返すのだった。



【シンフォニア】が作戦会議をしてる時と同じく

「もう少しですね」

暗がりの中でもマルスが呟く。

マルスの目の前には巨大な影があった。

「召喚の次はこちらですか」

【トリニティ魔法薬研究所】で朔真たちを案内した女性がマルスの横で言う。

「召喚の方は一定の成果を得られましたからね…次はです」

マルスが笑みを浮かべるのだった。



【シンフォニア】の作戦は早朝に開始された。

美羽が拠点の上空を旋回、索敵偵察しつつ、拠点に近付く。

他のメンバーは各方角から山中を通り、拠点の廃村を包囲しつつ拠点は潜入することになっている。

人数が少ないため、隠密メインの行動を主体としているが、必要とあれば戦闘して制圧する。

最も警戒が薄れる早朝での全方位からの隠密奇襲。

もちろん、メンバーが弱くては作戦は失敗に終わる。

メンバーの強さを信頼しているからこその奇襲作戦である。

北側から朔真が“心眼”を使いつつ駆ける。

南側から楓が脚に竜化魔法を使い走り跳ぶ。

東側から舞が一気に疾走する。

北西側から信輔が瞬間的に焔魔法を使い走る。

南東から逸平が“縮地”を所々使いながら移動する。

美羽が上空から見て、人がいなそうな北東へ飛翔する。

そして、廃村に到着後、舞が早くも敵に接触する。

「よぉ!また会ったな!」

舞が出会ったのは、【トリニティ魔法薬研究所】で対峙した武豪であった。

「わざわざ、こんな所まで来るとは思ってなかったぜ!さぁ!この間の続きをしようぜ!!」

「……遊ぶ時間は…ない」

武豪が構えるのを見て、舞も氷の刀を創り構える。


「おや?貴方ははじめましてであるな」

廃村の入り口で信輔と向き合うクラスト。

「あなたは組織の人ですか?」

信輔が警戒しつつ、確認する。

「そうだ…と言ったら?」

「倒して拘束させてもらう!」

クラストはニヤッと笑みを浮かべ、

「それは楽しみである!」

信輔に攻撃を仕掛けた。


廃村に到着後、怪しい地下への入り口から出てきた敵に楓が奇襲攻撃を仕掛けた。

その敵は楓の竜脚りゅうきゃくの蹴りを受けても、少し後ずさっただけだった。

「あんたは何者よ?」

大抵の者なら先程の蹴りで気絶している。

それを無傷でいる相手に楓は問う。

「ワレか?ワレは堅蔵 デイビットけんぞう デイビット!!」

筋肉質な身体に肌が色黒の男、堅蔵が高らかに名乗る。

(ここにいるってことは【裁きの使徒】の人間ね)

「関係者ね!」

「如何にも!つまり!」

堅蔵が両足を広げ、腰を落とし、拳を構える。

「侵入者の君を!倒させてもらう!」


「舞嬢、轟鬼とどろき、楓嬢が敵に接触!楓嬢が廃村の地下への入り口を発見した!」

レオナルドが現況を報告する。

「地下ですか…全員に地下に拠点があることを共有お願いします!」

さゆりがレオナルドの報告を聞き、指示を出す。

「拠点は廃村の地下にあるそうです!」

リンカが全員に通信して、伝える。


「つまり……コイツらが出てくるってことは、いるって証拠やな!」

廃村から少し離れた木々に囲まれた場所で、廃村に向かっていた逸平を囲むように異質な魔物が集まっている。

中には朔真が『夕闇の森』で倒した巨大化したマガツグモも混ざっている。

「異界召喚に魔物改造…この調子ならまだ何かありそうやな」

そう言って、逸平が槍を構える。


「地下ってここか?」

朔真が廃村の入り口近くにある祠から地下に行ける入り口を見つける。

しかし……

「“心眼”を使ってないとまず見つからないな」

祠の奥のさらに隠し扉により隠された入り口で人が通った形跡はなかった。

「ひとまず、拠点が地下ならここから行けるかもな」

そう呟き、朔真はその入り口から入っていった。


上空から廃村中心の建物に侵入した美羽。

「ここから地下に行けそうだね!」

その建物の地下室から、さらに地下へ降りる階段を見つけた。

「楓ちゃんと信輔しん、逸平さんが敵と戦っているなら、今のうちに拠点を奇襲できれば良いよね!」

朔真さくも地下に侵入できたかな?)

地下にある拠点を奇襲するにしても一人と二人では話が変わってくる。

『朔真さんも地下へ侵入したみたいです!美羽さんと朔真さんで地下拠点捜索をお願いします!』

ちょうど、さゆりから情報共有と指示がイヤリング型の通信機から飛んでくる。

「了解だよ!」

返答と同時に美羽も地下へ入っていく。
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