魔法世界の物語

夜の桜

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第十六話 楓vs堅蔵

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「予想通り、みんなバラけたな…」

 全員の現況報告をして、レオナルドがこぼす。

「誰かが合流できれば、良いんですけどね」

 さゆりがマップで全員の位置と状況を確認する。



 舞たちが武豪たちと接触した頃

「侵入者…また【シンフォニア】です……すでに武豪、クラスト、堅蔵が各所で敵と接触……あと改造魔物が南東方面へ集まってます」

【トリニティ魔法薬研究所】で木村と名乗っていた女性、眼鏡に黒髪ロングヘアのワン・レイシュンが落ち着いた声でマルスに報告する。

「またですか…よくここを見つけましたね」

 マルスは呆れるよう言いつつ、思考する。

が動かせるまでは時間を稼ぎたいですね)

「【シンフォニア】は人数が少ないので、今いる面子で迎撃指示を出してください……あと、レイシュンも迎撃補佐に行きなさい」

「分かりました…すぐに指示し迎撃に向かいます」

 マルスの指示にレイシュンは無表情に最低限の返答だけして動き出す。

(これだけ、各包囲から来るということは、増援でも頼みましたかね?私達の存在を知るところは多くないはずですが……)

 マルスは組織の存在を知っているギルドを思い起こす。

(どのギルドも一癖二癖あり、新鋭ギルドの【シンフォニア】と簡単にチームアップするとは考えにくい……となると……)

【シンフォニア】のメンバーの顔ぶれを思い出す。

 マルスは情報屋から大体のギルド情報を仕入れており、そこには【シンフォニア】に関する情報もある。

 しかも、【トリニティ魔法薬研究所】の件から【シンフォニア】に関しては再度、情報を調べ直していた。

「ギルドマスターが……まさか、古河 毅一郎こが きいちろうと繋がっている?」


 魔法庁の幹部まで実力のみで登り詰め、今ではフォーレ支部局長にいるのが、さゆりの父、古河 毅一郎である。


「それならば、新鋭ギルドで私達の存在を追えるのにも納得できますね」

 マルスは冷笑を浮かべる。

(だからといって、簡単にワタシ達【裁きの使徒】を捕らえられるわけじゃないですけどね)



「なによ!?こいつ!」

 堅蔵と戦っている楓が叫ぶ。

「ワレは!堅蔵だ!!」

 堅蔵が高らかに名乗る。

「そういう……事じゃないわよ!!」

 楓が竜の爪で堅蔵を叩き斬る。

 しかし、

 ギャリギャリギギギ……

 堅蔵の身体は斬られることなく、楓の竜爪りゅうそうを受け止めた。

「無駄だ!!」

 堅蔵は楓の竜爪を掴み、投げ飛ばす。

「くっ」

 楓は身体を捻り、堅蔵の背後に着地する。

 先程からこのようなやり取りが何度か続いていた。

 楓が何度攻撃しようと堅蔵は全ての攻撃を無傷で受けきっていた。

「今度は!こっちの番だ!!」

 堅蔵が振り向き、着地した楓に一気に近付き殴りかかる。

 楓は竜化した腕で堅蔵の拳を防御する。

 バキャッ!!

 激しい衝突音が響き、楓が顔をしかめる。

 竜化した腕の竜麟りゅうりんにヒビが入る程の硬さと膂力りょりょくを持つ堅蔵。

「ワレの硬化魔法にここまで耐えるのは珍しいぞ!!」

 堅蔵が楓を褒める。

(このままだとキツいわね)

楓が堅蔵の言葉を無視して、思案する。

(硬化魔法と重ねて、朔真みたいに魔力流動で強化してるアイツは並みの攻撃は通らない)

正面からの真向勝負だと堅蔵が上手だと楓は認識する。


朔真と模擬戦をした時に楓は、魔力流動の奥深さを知った。

朔真が【シンフォニア】に加入してから、楓は魔力流動を基礎から学び直した。

「魔力流動って、無意識にみんな使ってるんですが、あえて意識をして使う事でただの身体強化も変わってくるんです」

朔真が楓に説明しながら、魔力流動で左手を手刀にして振る。

ビュン

「これはただ魔力を纏っただけの無意識で使った場合です……そして、これが」

ヒュッ

「魔力を鋭くしたイメージで魔力流動を使った場合です……別に実際に切れるようになるわけではないですが、鋭い振りになりますし、威力も変わります」

基本的にほとんどの人は魔法を使えるため、魔力流動で魔力をイメージするよりも魔法を使うイメージを優先する。

そのため、魔力流動の使い方は朔真が先に述べたように、無意識で魔力を纏う事で身体強化をするという形になるのである。

ちなみに朔真が来る前は、【シンフォニア】で“縮地”が使える逸平に魔力流動を教えてもらおうとしたことがあったが……

「ギュッとやって、バッや!」

逸平が感覚派過ぎて、理解できなかった。


(魔力を鋭くイメージ……)

楓が竜爪に魔力を纏う。

魔法を使いながら、魔力流動を意識して使うのは右手で箸で食事をしながら、左で絵を描くのを同時にするような事で、練習して、できるようになり、慣れるまでは集中力が必要となる。

「ふぅぅう……」

堅蔵が楓の様子が変わったことに気付く。

「なにやら!やろうとしているようだが!ワレの筋肉と硬化魔法には効かぬ!」

堅蔵が両拳を顎の下に持ってくるピーカブースタイルで、腰を落として構える。

楓は間合いを詰め、構えている堅蔵に対して右の竜爪で上から下に振り下ろした。

堅蔵は頭を下げ、両腕で上からの楓の竜爪を防御する体勢を取る。

ザシュッ!

堅蔵の防御した両腕が竜爪により、切り傷を負う。

「むっ!」

堅蔵は顔をしかめ、左の竜爪で追撃する楓を体当たりしてぶっ飛ばす。

「うっ…」

楓が後ろにぶっ飛びながら転がる。

「汝!!何をした!?」

今まで無傷で防いできた攻撃による突然のダメージに堅蔵が動揺する。

楓が起き上がり、

「本気を出しただけよ!」

何をしたかは言わずに、強気に返す。

(実戦で使うにはまだまだね…けど)

楓は堅蔵についた腕の傷を見て、

(これなら攻撃が通る!)

確信し、再び魔力流動を使おうと集中する。

そんな楓を見て、堅蔵は

「ならば!ワレも!本気を出そう!」

そう叫び、全身に力を込める。

明らかに魔力の放出が増え、色黒の肌がさらに黒くなり、筋肉が盛り上がる。

楓と堅蔵がお互いに睨み合う。

パキ……

近くの木の枝が折れる音。

その音と同時に楓と堅蔵が動き出す。

現在、楓が竜化魔法で竜化しているのは両腕と両脚。

先程は両腕のみに魔力流動を使ったが、今回は両脚にも魔力流動を使っている。

そのため、今までとは地を蹴り、移動する速度が違う。

堅蔵は楓が急に速くなったことで対応が遅れる。

「むぅっ!」

腕による防御が間に合わず、楓の竜爪による突きを左肩に受ける。

バキンッ

壊れる音ともに楓の竜爪が折れ、堅蔵の左肩から出血する。

堅蔵が蹴りを放ち、楓に反撃する。

楓がバックステップで堅蔵の蹴りをかわす。

「“竜爪”」

距離を置いた楓は竜化魔法で竜爪を再び具現化させる。


楓の竜化魔法は実際に肉体を変化させるわけではなく、竜を具現化させて纏う魔法である。

竜の力や特徴を使うことはできるが、肉体を変化させる魔法と比べると、実物の竜そのものの力を100%使える肉体変化させる魔法に比べると劣る。

しかし、メリットとして実際に竜化した部分にダメージを受けた際に自身の肉体へのダメージが少ないのと、破壊されたとしても今のように再度、具現化させることができる。


「っつ…」

堅蔵の左肩への攻撃した時に堅蔵の硬化が予想以上であったため、手首を痛めていた。

「ワレの肉体に!傷をつけるとは!やるではないか!」

堅蔵が左肩の出血を筋肉と硬化で無理やり止血する。

「まだ足りないわね…」

楓が歯軋りする。

「汝の力は!理解した!そろそろ!終わらせよう!!」

堅蔵が一気に楓に詰め寄り、怪我を負っている両腕で楓をラッシュする。

楓は両腕の竜麟を強化し、上半身も竜化して、堅蔵のラッシュに対抗する。

激しい衝撃音が響く。

パッと見、楓と堅蔵は拮抗しているように見える。

しかし、徐々に差が出てくる。

硬化魔法を最大限使い、驚異的な硬度で殴り続ける堅蔵と竜化魔法で竜化した腕と上半身、魔力流動を駆使して対抗する楓。

(魔力が…足りない)

慣れない魔力流動に上半身への竜化魔法で楓の魔力は底が見え始めていた。

このままでは、押し切られるのは目に見えている。

「もう!終わりかぁ!?」

堅蔵が押し始めたのを機に叫ぶ。

(尽きる前に何か……)



「楓は真っ直ぐすぎやねん」

逸平と訓練した時に逸平から言われた言葉。

「色々考えるの、苦手なのよ」

楓が開き直るように言う。

「楓の竜化魔法は大抵のヤツなら、それでも十分やが、その魔法はもっと色々できるやろ?」



(色々……)

少し前の逸平とのやり取りを思い出す。

その時、

バキッ

楓の竜腕りゅうわんが砕け、楓は体勢を崩した。

「ワレも!ギリギリだったぞ!!」

そう言って、堅蔵が楓に右腕を振りかぶり、渾身の一撃を放った。

ドギャッ!!

鈍い音が堅蔵の右脇から響く。

「!?……ごふっ!」

堅蔵が呻きながら、吹き飛んでいく。

そして、楓もその場で崩れ落ちる。

楓のお尻辺りには竜の尻尾、竜尾りゅうびが具現化されていた。
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