魔法世界の物語

夜の桜

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第三話 モーニング

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「お見事…」

マガツグモが絶命し、崩れ落ちる。

ぱちぱち……

舞が小さく拍手する。

舞の周りの虫は全て凍結して無力化されていた。

「そっちこそ、見事ですね」

朔真が刀を鞘に納める。

ふぅ~と息を吐き、倒したマガツグモを見る。

「それにしても、でかいですね……」

「……調査依頼を出す」

舞も近くに来て確認する。


ダンジョンや魔物などに異変と思われることが起きた際は、安全のため公的な専門機関に報告や調査依頼を行うことになっている。


「【魔導士協会まどうしきょうかい】ですか……彼ら苦手なんですよね」

朔真が苦笑する。

「…私も……でも、仕事だから……」

そう言って舞は通信機を出して、連絡する。

「……そう…………大丈夫……よろしく……」

最小限の言葉で連絡を終えて、

「ここはもう大丈夫…」

そう言って、10センチ四方の模様が描かれた箱を取り出す。


収納箱コンパクトボックス…無生物を収納することができる魔法で作られた箱である。

箱の中は拡張空間があり、箱の大きさを超える容量でも収納して持ち歩くことが可能。

容量は値段によって様々であり、この世界では一般的に使われている。


舞が収納箱コンパクトボックスにマガツグモの死体を収納し、箱を手持ちの鞄にしまう。

「帰る…」

朔真を見て、一言告げて歩き出す。

朔真も舞のあとを追う。




「……魔法、使わなかった…」

『夕闇の森』から出るまでの間に舞が朔真を見て言った。

「美羽と信輔からは聞いてないんですね」

舞の言葉に朔真は納得する。

「俺は魔法を使えないんです」

「…………並みの冒険者より強い…」

舞は多少の間はあったが、特に驚くこともなく素直な意見を言う。

「……驚いたり、同情したりしないんですね」

「?……必要?」

(あぁ……この人は純粋なんだな…)

「ふっ…ははは……」

朔真は笑う。

「……何かおかしい?」

朔真の笑いに舞は首をかしげる。

「いや、いい人なんだと思ってね」

「……さゆりにも同じことを言われた」

更に首をかしげる舞。

「さゆり?その人がギルドリーダーですか?」

始めて聞く名前に朔真が笑うのを止めて訊く。

こくんと舞が頷く。

そこでダンジョンの出口に辿り着く。

もう外は日が暮れて、街の明かりが灯り始めていた。

「詳しくは……明日…連絡する」

「了解です…お疲れ様です」

「ん……お疲れさま」

連絡先を交換して、二人は別れ、その場をあとにした。



「あれだけ動いたのも、久しぶりだったな」

朔真は寝起きの伸びをして昨日の事を思い返す。

(よくよく考えれば、特殊なマガツグモをソロで討伐って試験はハードすぎないか?)

ソロで戦うにはハードルが高い相手であるが、過去にそれよりハードなことをやらされたことを考えると

「あの人の修行というやつに比べれば、問題ないか」

そう一人呟くのだった。



カラン…カラン……

「いらっしゃい…って、朔真か……いつものか?」

この街に三ヶ月前に戻ってから、いつもの行きつけの喫茶店【こもれび】のマスターが、朔真がいつも頼んでいるコーヒーを淹れようとしながら訊く。

「いや、今日はモーニングセットでよろ…「朔真さく~!やっと来た~!」」

朔真がよろしくと言い終わる前に、横から美羽の声が響く。

美羽が朔真の横に立つ。

「遅い!マスターがいつもは今より一時間は早く来るって言ってたよ!」

プリプリ怒る美羽の後ろのテーブル席に信輔と舞が座っている。

信輔はにこやかに手を振り、舞は黙々とフレンチトーストを食べていた。

「そうは言ってもな…久々にダンジョンに入ったのと、試験が思いの外、ハードだったと思うけどな……それより、よくここが分かったな」

「それはそうだけど、朔真さくなら大丈夫!」

「無責任な「大丈夫!」だな……」

美羽の言葉に朔真が呆れる。

「ここは僕たちも行きつけでね…それでマスターに昨日の依頼を受けたのが朔真か確認したってわけ」

朔真の疑問に信輔が答える。

朔真はモーニングセットを用意しているマスターを見る。

「元々隠してるとは聞いてないからな……常連でお前の知り合いで、聞かれたから話しただけだ」

白い皿に乗る目玉焼きと焼いたウィンナーの横に添えたケチャップとマスタード、クロワッサンとトーストが入ったバスケット、ミニサラダそして、ホットコーヒーがついたモーニングセット。

そのモーニングセットを朔真に提供しながら、当然のようにマスターが言う。

「普通は守秘義務とかで言わないもんだろ」

朔真の言葉にマスターはニヤッと笑い、背を向ける。

「お前にとっては言った方が有意義だと思ってな!他のやつなら言わねぇよ」

「俺でも言うなよ!……まぁ今回は良いけどな……」

(マスターに心配させてたってことか……)

朔真はため息をつき、フォークを持ってモーニングセットを食べようとする。

「せっかくだから、あっちで食べようよ♪」

それを美羽が止める。

美羽が舞と信輔が座っているテーブルを指す。

朔真は小さくため息をつき、モーニングセットのトレーを持ってテーブルに移動する。

信輔の横に座り、コーヒーを一口飲み、

「それで昨日の今日だけど、話があってきたんだよな?」

朔真が美羽たち三人に訊く。

「そう…」

「どんなギルドか詳しく説明してなかったからね」

「あー……再会して盛り上がって、いきおいのまま試験したからな」

信輔の言葉に朔真は納得する。

「まぁ、美羽と信輔が入ってるギルドならヤバイことはしてないだろうから、気にしてなかったな」

「信用してくれるのは良いけど、どんなギルドかは気にした方がいいよ」

信輔が苦笑する。

「わたしたちのギルドはね……あることの調査をしているギルドだよ」

美羽がやや声のトーンを落として、真剣な顔で言う。

「調査?古代遺跡とかダンジョンか?」

「ここでは…言えない」

朔真の疑問への舞の答えに美羽と信輔も頷く。

「……つまり、一度ギルドに来てほしいってことか」

「そう」

舞が肯定する。

「行くのは良いけど、これを食ってからでいい?」

朔真が少し冷めたモーニングセットを見て聞いたのを三人は、

「「「いい」」」

と笑って答えた。



「そういえば、ギルド名を聞いてなかったけど、なんてギルドなんだ?」

ギルドの事務所に歩いて向かいながら、朔真が尋ねた。

「ギルド名は【シンフォニア】だよ♪」

美羽が嬉しそうに答える。

「……あまり聞いたことないな」

「まだ創設してそんなに経ってないからね」

「半年くらい…」

「半年!?本当に最近、創設したんだな……」

信輔と舞の言葉に朔真は驚く。

「三人はギルド創設からのメンバーになるのか?」

「このギルドの創設はさゆりさんと舞さんで、僕と美羽は創設1ヶ月後に勧誘されたんだ」

信輔の言葉に美羽がうんうんと頷く。

「……美羽も信輔も学園卒業後は違うギルドに行かなかったか?」

朔真の記憶では二人とも別々のギルドに加入していた。

(どちらも討伐や救命などをこなす前線のギルドだったはず)

「私とさゆりで勧誘した」

「ギルドメンバーの勧誘はよく聞くけど、よく二人はギルドを移ったな」

数年いて内情を理解している安定したギルドをやめて、創設1ヶ月の新参ギルドに行くならそれなりの理由があることが多い。

朔真の疑問ももっともである。

「ん~…本当に必要としてくれたから、やってみようって思ったんだよ♪」

「僕は自分がどこまでやれるか試したいと思ってね」

美羽と信輔の答えに朔真は、

「二人ともそういうところは全然変わってないな」

そう言って笑みを溢した。

「そうかな?」

「そうかもね」

首をかしげる美羽に肯定する信輔。

そう話しながら、四人は少し街から外れた森の湖畔の近くに大きめなログハウスに到着する。

「……ずいぶんお洒落なギルドハウスだな」

朔真が驚いたように

「静かで良いところだよ」

「中もすごいよ♪」

信輔と美羽が笑顔で言う。

「ようこそ……【シンフォニア】へ」

舞が朔真をギルドハウスへ招き入れた。
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