魔法世界の物語

夜の桜

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第十三話 おはよう

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「お母さん!!」

リンカの悲痛な叫びが病室に響く。

桃色ロングヘアのリンカと同じ髪色でショートカットの女性がベッドに横たわっている。

彼女がリンカの母親、カーラ・フィンドールである。

カーラもリンカと同様、組織に利用され、大きな代償を負い、現在は保護され入院している。

母親と再会できて良かったです」

朔真が複雑な顔で言う。

完全に無事とはいえずとも、生きて母親と再会できたのは幸いではあった。

希少魔法を利用された魔導士が死んで発見されることはよくある話である。

そういう意味でのではある。



「フィンドール家は昔、召喚魔法の家系で有名だったけど、暴走事故が起きたことで血を薄める決断をして、身内同士での結婚もなくなったわ」

リンカとカーラが再会する前日にアリスがギルドメンバーにフィンドール家について話をしていた。

元々、魔法は人それぞれの個性に近く本来は血筋や家系に関係がないものであったが、召喚魔法のように希少魔法を残すことを目的に召喚魔法を使える者同士で結婚し、子供を作ることで召喚魔法を使える子供が生まれやすくなるという発見から、魔法を存続させること、更に強くすることを目的とした家系が一部存在していた。

今ではほぼなくなったとはいえ、ごく一部の家系は変わらず、魔法を残し強くしよう継続しているところも存在する。


「カーラさんは召喚魔法を使えたみたいだけど、今まで使うことなく隠して生活していたみたいね。元々、カーラさんの場合は召喚魔法と言っても契約した動物を喚ぶことができるだけで、異界からの召喚はできなかったみたい」

「そこを来栖に騙されて、本人も子供も利用されて今に至ると……」

アリスの話にレオナルドが呆れと怒りを半々にしながら、ため息をつく。

「そもそも、リンカちゃんの父親は何してるのよ?」

楓がみんなが気になっていた事を訊く。

「リンカさんの父親は5年前に亡くなっています…父親も組織の関係者か調査しましたが、旦那さんは一般人で職場でカーラさんに一目惚れだったみたいです」

さゆりが疑ったことを申し訳なさそうに答える。

「父親は何で亡くなったんですか?」

「ご病気だったみたいですね」

朔真の質問にさゆりが答える。

「父親も召喚魔法の使い手だったんか?」

「父親は召喚魔法を使えなかったわ…ただ……召喚魔法よりも希少な転移魔法を使えたのよ」

逸平の問いに答えたアリスの言葉にさゆりを除く全員が驚愕する。

「は!?転移魔法って世界でも十人位しか使えるやつおらんやろ!?」

「その十人位の一人がリンカちゃんの父親だったってこと!?」

「そんなことあるんだね~」

「はは……すごい確率だね」

「世の中何が起こるか分からねぇな」

逸平、楓、美羽、信輔、レオナルドが驚きを口々に発する。

さゆりはあらかじめ聞いていたから今は驚きはしなかったが、朔真と舞は口にこそしないが驚きの表情を示す。

「カーラさんがいつ目覚めるか分からない以上、リンカさんは保護施設に預けられることになります。ただし、もし、リンカさんが望むなら……」



「お母さんは…もう目が覚めないの?」

「召喚されたモノがいなくなれば、目が覚める可能性はあるわ」

リンカの問いに答えたのはアリス。

「今はカーラさんは無理な召喚魔法によって、悪い夢の中を彷徨っている状態なの……起こすには召喚されたモノを還さなければいけないの」

優しい口調で丁寧に説明する。

「それは……いつになるの?」

「私達も全力で召喚されたモノを探して、還すように尽くします……そして、リンカちゃんに私から提案です」

さゆりがリンカの目を真っ直ぐに見て、

「私達のギルド【シンフォニア】に来ませんか?」

と提案した。


この事は前日にギルドメンバー全員に話している。

「カーラさんがいつ目覚めるか分からない以上、リンカさんは保護施設に預けられることになります。ただし、もし、リンカさんが望むなら……私達のギルドに加入して貰おうと思っています!」

さゆりの提案に今度は舞を除いた全員が一瞬、唖然とする。

舞が即答で、

「さゆりが…望むなら」

レオナルドが頭をかきながら、

「まぁ、さゆり嬢が決めたなら従うぜ」

逸平がニヤッと笑みを浮かべ、

「無茶振りはいつものことやんな!」

楓がはぁ~とため息をつきつつ、

「しょうがないマスターよね!」

アリスが明るい声で、

「アタシはいつでも良いわよ♪」

信輔がはにかみながら、

「僕も問題ないです」

美羽が笑顔で、

「大丈夫!」

朔真が

「これが【シンフォニア】ですよね」

最後にまとめた。

「なんで、朔真がまとめてるのよ?」

楓がツッコミを入れ、穏やかな空気になったのだった。


そのため、リンカに付き添った、さゆり、アリス、朔真は静かにリンカの答えを待った。

「お母さんは一緒に来れる?」

リンカの言葉にさゆりは首を横に振る。

「残念ですが、カーラさんはここで治療保護して貰うのが一番安全です。【シンフォニア】に来ても安全に守るのは難しいんです」

さゆりが悲しそうに伝える。

「カーラさんと共に施設で保護して貰い、カーラさんが目覚めるのを待つ選択もあります。だけど、リンカさんが【シンフォニア】に加入して貰えれば、リンカさんが自分の身を守る術を教えます!」

示された選択に悩むリンカ。

(悩むのは当然だ…そもそも、母親と引き離されて実験に利用されて間もない)

その上、リンカは14歳である。

教育学園は拉致されてから、通えていない。

簡単に決められる事ではない。

「わたしが...…わたしが強くなれば、お母さんを助けられる?」

5分ほど考えた後、リンカが訊く。

「それは、リンカさん次第です」

さゆりが優しい口調で厳しく答える。

「……今回、わたしは何もできなくて、すごく悔しかった……だから!今度はわたしがお母さんを助けたい!!」

涙と共にリンカからの力強い言葉が病室に響いた。

その言葉にアリスが

「リンカちゃんは強い力を秘めているから、きっと助けられるわ」

安心感のある声で告げる。

「俺も教えられることは教えるよ」

朔真も「まぁ、俺が教えられることは少ないがな」と付け加え、茶化すように言う。

「すでにリンカさんの部屋も用意してあるので、ギルドハウスへ帰ったらゆっくり休んでくださいね」

こうして、【シンフォニア】にリンカ・フィンドールが新しく加入することとなった。



「んっ……」

リンカが目を覚ます。

(そっか…昨日から【シンフォニア】にいるんだっけ)


カーラと再会してから数日間は気持ちの整理のために、今までカーラと住んでいた家に行ったり、必要なものを揃える準備をした。

もちろん、【シンフォニア】のメンバーが常に一緒にいて、護衛と親睦を深めていた。

カーラと住んでいた小さな家はすでに空き家になっていたが、建物はそのまま残っていた。

この時に一緒にいたレオナルドとアリスが、

「良い家だな」

「ホントね…家族が笑顔で過ごすための場所ね」

そう言ってくれたのが、少し嬉しかった。

この家はお父さんとお母さんが考えて建てた家だから。

この家がこのまま残っているのは、さゆりが手を回していたらしい。

そして、昨日からリンカは【シンフォニア】のギルドハウスの自分の部屋に入ったのだった。


昨夜はリンカの歓迎会で大騒ぎだったのを思い出し、クスッと笑う。

(今日から頑張ろう!)

気持ち新たにリンカは食堂に向かう。

リンカりーちゃんおはよう」

「おはよう、リンカ嬢」

「みんな、おはようございます!」

「おはよ~」

「リンカちゃん!おはよ!」

「おはようさん!」

食堂に着くとアリス、レオナルド、信輔、美羽、楓、逸平がそれぞれ挨拶をする。

「おはようございます!」

キッチンからは朝ごはんを作る匂いが漂ってくる。

キッチンからできた朝食を運ぶ朔真と舞。

「おう、おはよう!」

「おはよう」

朔真と舞の後からさゆりも出てきて、

「おはようございます」

笑顔で挨拶する。

各々、それぞれ挨拶をしている間に朝食が用意される。

「「「「「「「「いただきます!」」」」」」」」

リンカが加入した【シンフォニア】の新しい朝が始まったのだった。
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