3 / 26
戦夜
しおりを挟む
「これは……」
それを見て思わず呟く私。
夜の九時くらい。
私は世界夜にいるッス。
街自体はいつもどおり。
大通りには背広姿の大人たちを中心に多くの人が行きかっているッスが、何とも不思議な感じの夜獣さんがいるッス。
漆黒のタキシード姿に白い手袋、黒光りする革靴を履いた、随分と紳士的な雰囲気の夜獣さんが歩いているッス。
それだけでも昨日のオオカミ型夜獣さんと違うッスが、一番の特徴は頭が無いこと。
頭があったら身長は百八十センチくらいはあると思うッス。
一体だけとはいえ注目度抜群の格好ッスが、みなさん、見えてないんでスルーしてるッス。
「ジュマ、いままでこんな夜獣さん、いたッスか?」
私は足元にいる相棒に訊いてみたッス。
「ジュ、ジュマー?」
首を傾げて答えるジュマ。
なるほど、無かったみたいッスね。
ニュースで、これは世界夜に影響が出るかもと思っていたッスが、予想どおりッス。
これは新型ウィルスの不安から生まれた夜獣さんだと考えられるッス。
あるのは分かっているんで夜獣として具現化されるが、未知ゆえどんなものか分からないし頭の形も不明。
だから頭が無い、て感じじゃないッスかね。
タキシードなのは、正装ってことではなく、特別なものという認識だからだと思うッス。
「────とはいえ、やることは一緒ッスけどね。ジュマ」
「ジュマ!」
声をかけると、私の右手に愛用のコルトパイソン357マグナム・スピールカスタムが現れたッス。
ジュマの空間倉庫。
これのおかげで荷物を持ち歩くことがなくて便利ッス。
装填されている六個の魔法も同じ。
あとは必要に応じて変えればいいッス。
「!」
見ると新しい夜獣さん、向かってくる母子に右手を突き出そうとしてるッス!
「だめッス!」
叫びながら反射的に引き金を引いた私。
女神が詩を読むような銃声を響かせ、金聖魔法が新しい夜獣さんの右腕にヒット。
着点の威力と金色の炎が悪意を与えるそれを吹き飛ばし、燃やし尽くしたッス。
事務系の仕事をしている風の三十代くらいの母親と五歳くらいの男の子が、夜獣さんに気づくことなく笑顔でその横を通り過ぎていく。
そして夜獣さん。
よくも邪魔したなと言わんばかりに体をこちらに向け、全身から存在力を消費して右腕を再生すると、今度は私に手のひらを見せたッス。
「くっ!」
放たれる黒い霧のような粒の塊。
スプレーみたいに飛ぶそれは、精神体に触れればたちまち悪意に染まり、現実世界の本人に影響を及ぼすッス。
浴びれば私もただではすまないッス。
私は横っ飛びで金聖魔法を撃ち、その霧を焼き払う。
一気に燃え広がって焼き尽くすんで、その点はいいッスね。
対処できるッス。
ただ、それを見て夜獣さん、これはどうだという感じで、次々と放ってきたッス!
ここは大通り。
私の背後には普通に人が通っていくッス。
そして、私と夜獣さんの間には一方通行の車道があって、自動車が走っているッス。
下手に前へ出れば自動車に轢かれてしまうッス。
つまり、このままでは防戦一方で埒が明かない状態ッス。
────こうなれば。
私はタイミングを見計らって金聖魔法から分身魔法に切りかえ、銃を頭の右側につけて引き金を引いたッス。
自殺のような格好ッスが違うッスよ。
魔法で私の身体から弾き出されるようにして、もう一人の私が姿を現したッス。
そのもう一人の私、分身にパイソンを投げ渡して霧の迎撃を任せ、本体たる私が攻めに出るッス。
「ジュマ! 頼むッス」
ジュマが頷いて答えると、私の目の前に効果筒が出現。
簡単にいえば、呪文が刻印された魔法金属製の空薬莢ッスね。
それを口にくわえて、夜獣さんに飛び込むッス!
魔力を込めた跳躍で歩道の柵を超え、車道を越えて、六メートルの距離を一飛び。
夜獣さんの背後に回ったッス。
背中合わせから振り向きざまに、夜獣さんの背中にキス。
と言っても魔力を込めた効果筒越しのキスッスけどね。
これはパイソンに装填されているのと同じ、金聖魔法の効果筒。
魔法が発動し、夜獣さんの身体から黄金の炎が噴きあがる。
勢いよく夜空へと揺らめく炎が夜獣さんの存在力を奪っていくッス。
私はバックステップで離れると、夜獣さん、やりやがったな、てな感じでゆっくり振り向こうとしたッス。
でも夜獣さん、忘れてないッスか。
私はいま一人じゃないッスよ。
反対側の歩道から続けざまに三発の金聖魔法が夜獣さんにヒット。
放ったのは私の分身。
迎撃するものがなくなったんで、ストレートに夜獣さんを攻撃したッス。
ガクッと膝を落とし、そのまま炎に包まれて消えていく夜獣さん。
今回はこんな感じッスけど、次に現れるときはウィルスの分析も進んで、夜獣さんの姿が変わるかもしれないッスね。
炎とともに夜獣さんが完全に消えるのを見届けた私。
ひとまず終わりッス。
私は右手をパチンと鳴らして魔法を解くと、分身は音もなく消えていったッス。
「ジュマ!」
残ったパイソンをジュマが空間倉庫に収納すると、そのまま私の所へ駆け寄ってきたッス。
まあ、来る途中、自動車にビビッて一歩引いてからの猛ダッシュだったのはご愛敬ッス。
「ジュマ!」
到着しました、という風に敬礼のポーズをするジュマ。
「ご苦労様ッス」
本来であればここで居住空間へ帰るところッスが、今夜はちょっとそんな気にならないッスね。
────母子を見たせいかもしれないッスが。
「ジュマ、パトロールでもないッスが、少し街を歩くッスよ」
「ジュマ!」
元気よく答えるジュマを見て微笑む私。
そして、何気なく夜空を見上げ、ふと思い出したッス。
家族を……。
それを見て思わず呟く私。
夜の九時くらい。
私は世界夜にいるッス。
街自体はいつもどおり。
大通りには背広姿の大人たちを中心に多くの人が行きかっているッスが、何とも不思議な感じの夜獣さんがいるッス。
漆黒のタキシード姿に白い手袋、黒光りする革靴を履いた、随分と紳士的な雰囲気の夜獣さんが歩いているッス。
それだけでも昨日のオオカミ型夜獣さんと違うッスが、一番の特徴は頭が無いこと。
頭があったら身長は百八十センチくらいはあると思うッス。
一体だけとはいえ注目度抜群の格好ッスが、みなさん、見えてないんでスルーしてるッス。
「ジュマ、いままでこんな夜獣さん、いたッスか?」
私は足元にいる相棒に訊いてみたッス。
「ジュ、ジュマー?」
首を傾げて答えるジュマ。
なるほど、無かったみたいッスね。
ニュースで、これは世界夜に影響が出るかもと思っていたッスが、予想どおりッス。
これは新型ウィルスの不安から生まれた夜獣さんだと考えられるッス。
あるのは分かっているんで夜獣として具現化されるが、未知ゆえどんなものか分からないし頭の形も不明。
だから頭が無い、て感じじゃないッスかね。
タキシードなのは、正装ってことではなく、特別なものという認識だからだと思うッス。
「────とはいえ、やることは一緒ッスけどね。ジュマ」
「ジュマ!」
声をかけると、私の右手に愛用のコルトパイソン357マグナム・スピールカスタムが現れたッス。
ジュマの空間倉庫。
これのおかげで荷物を持ち歩くことがなくて便利ッス。
装填されている六個の魔法も同じ。
あとは必要に応じて変えればいいッス。
「!」
見ると新しい夜獣さん、向かってくる母子に右手を突き出そうとしてるッス!
「だめッス!」
叫びながら反射的に引き金を引いた私。
女神が詩を読むような銃声を響かせ、金聖魔法が新しい夜獣さんの右腕にヒット。
着点の威力と金色の炎が悪意を与えるそれを吹き飛ばし、燃やし尽くしたッス。
事務系の仕事をしている風の三十代くらいの母親と五歳くらいの男の子が、夜獣さんに気づくことなく笑顔でその横を通り過ぎていく。
そして夜獣さん。
よくも邪魔したなと言わんばかりに体をこちらに向け、全身から存在力を消費して右腕を再生すると、今度は私に手のひらを見せたッス。
「くっ!」
放たれる黒い霧のような粒の塊。
スプレーみたいに飛ぶそれは、精神体に触れればたちまち悪意に染まり、現実世界の本人に影響を及ぼすッス。
浴びれば私もただではすまないッス。
私は横っ飛びで金聖魔法を撃ち、その霧を焼き払う。
一気に燃え広がって焼き尽くすんで、その点はいいッスね。
対処できるッス。
ただ、それを見て夜獣さん、これはどうだという感じで、次々と放ってきたッス!
ここは大通り。
私の背後には普通に人が通っていくッス。
そして、私と夜獣さんの間には一方通行の車道があって、自動車が走っているッス。
下手に前へ出れば自動車に轢かれてしまうッス。
つまり、このままでは防戦一方で埒が明かない状態ッス。
────こうなれば。
私はタイミングを見計らって金聖魔法から分身魔法に切りかえ、銃を頭の右側につけて引き金を引いたッス。
自殺のような格好ッスが違うッスよ。
魔法で私の身体から弾き出されるようにして、もう一人の私が姿を現したッス。
そのもう一人の私、分身にパイソンを投げ渡して霧の迎撃を任せ、本体たる私が攻めに出るッス。
「ジュマ! 頼むッス」
ジュマが頷いて答えると、私の目の前に効果筒が出現。
簡単にいえば、呪文が刻印された魔法金属製の空薬莢ッスね。
それを口にくわえて、夜獣さんに飛び込むッス!
魔力を込めた跳躍で歩道の柵を超え、車道を越えて、六メートルの距離を一飛び。
夜獣さんの背後に回ったッス。
背中合わせから振り向きざまに、夜獣さんの背中にキス。
と言っても魔力を込めた効果筒越しのキスッスけどね。
これはパイソンに装填されているのと同じ、金聖魔法の効果筒。
魔法が発動し、夜獣さんの身体から黄金の炎が噴きあがる。
勢いよく夜空へと揺らめく炎が夜獣さんの存在力を奪っていくッス。
私はバックステップで離れると、夜獣さん、やりやがったな、てな感じでゆっくり振り向こうとしたッス。
でも夜獣さん、忘れてないッスか。
私はいま一人じゃないッスよ。
反対側の歩道から続けざまに三発の金聖魔法が夜獣さんにヒット。
放ったのは私の分身。
迎撃するものがなくなったんで、ストレートに夜獣さんを攻撃したッス。
ガクッと膝を落とし、そのまま炎に包まれて消えていく夜獣さん。
今回はこんな感じッスけど、次に現れるときはウィルスの分析も進んで、夜獣さんの姿が変わるかもしれないッスね。
炎とともに夜獣さんが完全に消えるのを見届けた私。
ひとまず終わりッス。
私は右手をパチンと鳴らして魔法を解くと、分身は音もなく消えていったッス。
「ジュマ!」
残ったパイソンをジュマが空間倉庫に収納すると、そのまま私の所へ駆け寄ってきたッス。
まあ、来る途中、自動車にビビッて一歩引いてからの猛ダッシュだったのはご愛敬ッス。
「ジュマ!」
到着しました、という風に敬礼のポーズをするジュマ。
「ご苦労様ッス」
本来であればここで居住空間へ帰るところッスが、今夜はちょっとそんな気にならないッスね。
────母子を見たせいかもしれないッスが。
「ジュマ、パトロールでもないッスが、少し街を歩くッスよ」
「ジュマ!」
元気よく答えるジュマを見て微笑む私。
そして、何気なく夜空を見上げ、ふと思い出したッス。
家族を……。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
月弥総合病院
御月様(旧名 僕君☽☽︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる