【完結】カラスとすずらん ~意識低い系冒険者パーティの台所を預かっています~平凡なわたしと、闇を抱えた彼の恋の話~

天草こなつ

文字の大きさ
2 / 385
【第1部】1章 花と少女

1話 あやしいバイト

しおりを挟む
「きいてよーメイちゃん! 昨日、お兄さんに会えちゃったの!」

 翌日、メイちゃんにお兄さんのことを報告する。

「ほえー、よかったじゃん。……で、ちょっとくらい話できたの?」
「ええーっ、話しかけるなんてできないよー! 何話していいかわかんないし、仕事の邪魔になっちゃうし」
「いつもいつも見てるだけよりマシじゃん。な~んにも進展しないよ、それじゃ」
「もーっ メイちゃん! そういうのじゃないんだってばー! 見てるだけでいいの! 目の保養なの!」
「あのねぇ、そんなんじゃいつまで経っても彼氏なんかできないよ? 物語のヒロインじゃないんだよー。自分からアターックしなきゃ!」
「う……」

 ヒロインじゃないっていうのは分かってる。でも、だからこそ話しかけられずにいるんだけど……。

(話せるものなら話したいよぉ……)

 ――きっかけが欲しい。
 でも、そんなのどうやって見つけたらいいやら……。


 ◇


「おっ、学生さん」
「こんにちはー」

 放課後、わたしは冒険者ギルドに足を運んだ。
 "冒険者ギルド"といっても、わたしが何か冒険をするわけじゃない。
 わたしは学校で、薬草の調合師――薬師になるための勉強をしている。今日は、作った薬草を売りに来たのだ。

 世の中には魔法を使える人と使えない人がいて、それは生まれつき魔法の資質が備わっているかで決まる。
 わたしは回復魔法を使う癒し手になりたかったんだけど、残念ながら魔法の資質はなかった。だから、そういう人のための職業が薬師。
 回復術師が存在するから薬はいらないだろう――なんてことはない。
 癒やしの術をかけてもらうのにも、回復術師を雇うのにも、そこそこのお金がかかる。
 癒やしの術より薬草の方が効果を発揮する場面もあるし、薬草にも薬師にもちゃんと需要があるのだ。

 わたしはまだ薬師じゃないけど、簡単な薬草だったら資格がなくても作れるし、売ることもできる。
 ただ、売ることができるのは冒険者ギルドに限られるけど……。

「今週は、2セット持ってきましたー」
「はいはい、ご苦労さん、ちょっと計算するから待っててよ」
「はーい」

 ギルドの荷物受付係の人が薬草を数えている間、掲示板に貼られている依頼の紙を眺める。
 手紙、荷物の配達、護衛に魔物退治、宝物の散策、傭兵任務……冒険者の任務は様々だ。
 
「……ん?」

『給仕係募集 週2 金・土 泊まりがけで料理を作ってくれる人』

「変わった依頼だなぁ……」

 ちょっと異色の依頼に、わたしは首をかしげる。
 冒険が絡まなそうだし、任務・依頼というか、どちらかというと求人の募集? アルバイト?

 「金・土泊まりがけだと休日潰れちゃうなー。レストランの住み込みとかかな?」

 さらに下に目をやると、学生可、給料は月20万とある。

「に、にじゅうまん!? ……ん? 待って……」

『アットホームな職場です』

「ア、アットホーム……!」

 ――これは、すごくダメなあれで有名な……?
 しかも、その文言は後から書き足したような走り書きだった。
 
「はいよ、お待たせ学生さ~ん」

 わたしが求人の依頼に目を取られていると、ギルドの人が計算を終えてやってきた。

「あ、あ、はい!」
「今回の量だと、1500になるね。……お? その依頼かい」
「えっと……はい。20万ってすごいなって」
「ハハハ、やめときな! それな、先月くらいからあってすぐにみんな行きたがるんだけど、長続きしねぇんだってよ」
「そうなんですか……すごく厳しい仕事なのかな?」
「さぁねぇ……。んで、最初はたしか5万だったかな? 人がやめる度にだんだんつり上がってその値段よ。オークションみてぇだろ? ハハッ」
「あはは。ブラック……なんですかねぇ」

 わたしは「アットホーム」という言葉を見つめながら、半ば独り言のように尋ねる。

「なんか前行った女子学生は青ざめた顔して一言『無理!』つってたらしいぜ」
「ふ……ふーん……」
 
 
 ◇
 

「えっと……ここ曲がって……」

 ギルドをあとにしたわたしは、なぜかその「無理」な求人を片手に、そこに記された住所に向かっていた。
 ――お金につられました。

(20万……すごく欲しいわけじゃないけど、行ってみるだけでも……)

 ――ほんとに危なそうな依頼なら、ギルドに貼りだしてないんじゃないかな。
 わたし、危機感なさすぎ……?
 ドキドキしながら歩く。
 
 住所は、街の郊外にある森だった。

(ここらへんは、"貸し砦"かな?)

 傭兵が数日間の依頼をこなすために、国では宿屋に連泊するよりも安い「砦」を貸し出している。
 旅行用のコテージよりも丈夫な作りで、内装は冒険者用に武器防具のメンテ設備があったり、魔法使いの瞑想部屋、戦士達の修練場があったりする。
 大酒飲みが多い冒険者や傭兵が数日泊まると一般の宿泊客が寄りつかなくなったりするので、こういうものができたとか。

「ここ……かな」

 30分ほど歩いて、小さめの貸し砦に辿り着いた。
 簡素な造りだ。大規模な傭兵団や冒険者パーティがいるわけではなさそう。
 
「こんにちはー。あのー、ギルドで求人を見た者ですけどー」

 ちょっと緊張しながら、砦の呼び鈴を鳴らす。

「……誰?」
「えっ」
 
 気づくと、後ろに女の子が立っていた。
 小柄で、肩にかからない少しボサボサの髪。
 色は森の木漏れ日が反射して薄桃色に見えたり、薄紫色に見えたりする。
 眼は深い青色。淡い髪色がその深みを際立たせる。
 ……不思議な雰囲気の子だ。手には魔石の腕輪をつけている。

(魔法を使うための――なんだっけ、魔器ルーンってやつかな? この子は魔法使いなのかな……)

「えぇと、わたし、この求人を見て――」
「……入って」
「あ、はい」

 女の子はあまりわたしの話を聞かず、砦内へ促す。


 
 小規模で簡素とはいえ、しっかりした造りの砦だ。
 キョロキョロ見回しながら女の子に着いていくと、やがて大きな部屋に辿り着いた。

「……ここ」

 女の子はドアを開け促す。

「あ、はい」
「ここで待っていて」

 中に入るやいなや女の子はそう告げ、ピシュンと姿を消した。

「き、消えた……!?」

 ――今の、瞬間移動ってやつ!? 初めて見た!
 でも転移魔法ってなんかすごい魔力がいるって聞いたような気がするけど……呪文を唱えたりしないのかな?? 魔力がすごい人はいらないのかな?

「魔法使いって、すごい……」

 思わず呟く。

(いいな、わたしも魔法使ってみたかった……)

 ちょっとしょげながら、案内された部屋を見回す。
 大きめの机と少し立派な椅子が置いてある。作り付けの本棚に、本が丁寧に並べられている。
 ここが傭兵団ならリーダーの使う部屋かな。

(傭兵団のリーダーって、どんな人だろう? ムキムキで傷だらけで半裸のおじさんとかだったらどうしよう……)
 
 そんなことを考えていると、廊下から足音が聞こえてきた。
 足音はこの部屋で止まり、ドアが開き、男の人が入ってきた。長身に黒髪、白い肌……。

「……えっ?」
「……ん?」
「あ、と……図書館の」

 入ってきたのは、あの図書館の司書のお兄さんだった。
 いつもメガネをかけているけど、今日はかけていない。服も白いシャツとダボッとした茶色のパンツとラフな格好だ。

「君は……君が、アルバイト希望の?」
「は、はい……レイチェル・クラインといいます。18歳です」
 
 ――こんな所で出会えるなんて……やだ、運命!?

 あまりの偶然にわたしは内心ドギマギしてしまう。

「……そうか。俺は、グレン。グレン・マクロードだ。名乗るのは初めてだったな。よろしく」

 図書館での淡々としたやりとりとはちがい、少しフランクなしゃべり方で彼は名前を名乗った。

(グレン・マクロードさん……)
 
「それで、仕事の内容はそこに書いてある通りで、金・土と泊まり込みで俺たちの飯を作って欲しいんだ」
「はい」
「以上」
「えっ」

 説明ともいえない簡単すぎる説明に、わたしは司書のお兄さん――グレン・マクロードさんを見上げる。
 
「……ん?」
「あの、あの……質問しても、いいでしょうか」
「はい、どうぞ」
「……ええと、ごはんというのは晩ごはんだけでしょうか? 朝と昼も? ごはん作る以外に何かやることがあるんでしょうか? 例えば掃除とか……」
「掃除は必要ないな。朝はあればありがたいけど、昼は必要ない。冒険に出ているから」
「それじゃ、みなさんが冒険に出ている間、わたしは何をしていれば……」
「ん? そうだな。飯さえ用意してあれば、あとは別に自由にしていてくれて構わない。遊びに行ってもいいし。給料は、えー……50万、だったかな?」
「ごじゅっ!? えっ、えっ、ここには、20万とありますが……!」

 わたしは驚き、グレン・マクロードさんに求人の紙の給料の所を指差して見せる。
 ――変な声出ちゃった! でも、50万はおかしすぎるでしょ……!

「え、そうだっけか? 適当に釣り上げてたから忘れて……ああ、ほんとだ。君、正直だな。はは」

 グレン・マクロードさんは求人を見ながら頭をかき少し笑う。
 
(ええー……)

 初めて見た笑顔はかっこいいけど、随分いい加減な感じだな……大丈夫かな?
 ……そんな時、扉を開ける音が聞こえ、さっきの女の子が入ってきた。
 
「あ、さっきの……」
「ああ、紹介する。この子は――」
「お兄ちゃま。今度はこの人に来てもらうのね」
「おに……!?」
「……ちょっ」

 空気が凍りつく。

 ――お兄ちゃま!?
 お兄ちゃま って言ったの、今!?
 この子は妹さん?
 でもお兄ちゃまって……シスコン?
 えー……。
 
「ルカ! その呼び方はやめろと何度も言ってるだろう!?」

 グレン・マクロードさんは血の気が引いたような顔でルカという少女に必死に呼びかける。

「お兄ちゃまは、お兄ちゃまだわ」
「だから違うって何度言えば――、って」

 彼がまずいといった表情でこちらを振り返る。

「え……あ、はは……」

 わたしは必死に平静を取り繕おうとするけどひきつった不自然な笑顔になってしまい、ドン引きしたのが余計に際立ってしまう。

「あ……えー……」

 何か弁解するつもりなのか、彼は目を泳がせ何か唸っている。意外と表情豊かなんだ。
 でもお兄ちゃまって、お兄ちゃまって……。
 
「…………」
「…………」
 
「というわけで、来週から来てくれるかな?」
「あ……えと……はい」

(……強引にごまかした……)
 
 ――そんな感じで、わたしは来週からアルバイトをはじめることになった。
しおりを挟む
感想 109

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

仕事で疲れて会えないと、恋人に距離を置かれましたが、彼の上司に溺愛されているので幸せです!

ぽんちゃん
恋愛
 ――仕事で疲れて会えない。  十年付き合ってきた恋人を支えてきたけど、いつも後回しにされる日々。  記念日すら仕事を優先する彼に、十分だけでいいから会いたいとお願いすると、『距離を置こう』と言われてしまう。  そして、思い出の高級レストランで、予約した席に座る恋人が、他の女性と食事をしているところを目撃してしまい――!?

美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ

さら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。 絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。 荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。 優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。 華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

処理中です...