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【第1部】1章 花と少女
1話 あやしいバイト
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「きいてよーメイちゃん! 昨日、お兄さんに会えちゃったの!」
翌日、メイちゃんにお兄さんのことを報告する。
「ほえー、よかったじゃん。……で、ちょっとくらい話できたの?」
「ええーっ、話しかけるなんてできないよー! 何話していいかわかんないし、仕事の邪魔になっちゃうし」
「いつもいつも見てるだけよりマシじゃん。な~んにも進展しないよ、それじゃ」
「もーっ メイちゃん! そういうのじゃないんだってばー! 見てるだけでいいの! 目の保養なの!」
「あのねぇ、そんなんじゃいつまで経っても彼氏なんかできないよ? 物語のヒロインじゃないんだよー。自分からアターックしなきゃ!」
「う……」
ヒロインじゃないっていうのは分かってる。でも、だからこそ話しかけられずにいるんだけど……。
(話せるものなら話したいよぉ……)
――きっかけが欲しい。
でも、そんなのどうやって見つけたらいいやら……。
◇
「おっ、学生さん」
「こんにちはー」
放課後、わたしは冒険者ギルドに足を運んだ。
"冒険者ギルド"といっても、わたしが何か冒険をするわけじゃない。
わたしは学校で、薬草の調合師――薬師になるための勉強をしている。今日は、作った薬草を売りに来たのだ。
世の中には魔法を使える人と使えない人がいて、それは生まれつき魔法の資質が備わっているかで決まる。
わたしは回復魔法を使う癒し手になりたかったんだけど、残念ながら魔法の資質はなかった。だから、そういう人のための職業が薬師。
回復術師が存在するから薬はいらないだろう――なんてことはない。
癒やしの術をかけてもらうのにも、回復術師を雇うのにも、そこそこのお金がかかる。
癒やしの術より薬草の方が効果を発揮する場面もあるし、薬草にも薬師にもちゃんと需要があるのだ。
わたしはまだ薬師じゃないけど、簡単な薬草だったら資格がなくても作れるし、売ることもできる。
ただ、売ることができるのは冒険者ギルドに限られるけど……。
「今週は、2セット持ってきましたー」
「はいはい、ご苦労さん、ちょっと計算するから待っててよ」
「はーい」
ギルドの荷物受付係の人が薬草を数えている間、掲示板に貼られている依頼の紙を眺める。
手紙、荷物の配達、護衛に魔物退治、宝物の散策、傭兵任務……冒険者の任務は様々だ。
「……ん?」
『給仕係募集 週2 金・土 泊まりがけで料理を作ってくれる人』
「変わった依頼だなぁ……」
ちょっと異色の依頼に、わたしは首をかしげる。
冒険が絡まなそうだし、任務・依頼というか、どちらかというと求人の募集? アルバイト?
「金・土泊まりがけだと休日潰れちゃうなー。レストランの住み込みとかかな?」
さらに下に目をやると、学生可、給料は月20万とある。
「に、にじゅうまん!? ……ん? 待って……」
『アットホームな職場です』
「ア、アットホーム……!」
――これは、すごくダメなあれで有名な……?
しかも、その文言は後から書き足したような走り書きだった。
「はいよ、お待たせ学生さ~ん」
わたしが求人の依頼に目を取られていると、ギルドの人が計算を終えてやってきた。
「あ、あ、はい!」
「今回の量だと、1500になるね。……お? その依頼かい」
「えっと……はい。20万ってすごいなって」
「ハハハ、やめときな! それな、先月くらいからあってすぐにみんな行きたがるんだけど、長続きしねぇんだってよ」
「そうなんですか……すごく厳しい仕事なのかな?」
「さぁねぇ……。んで、最初はたしか5万だったかな? 人がやめる度にだんだんつり上がってその値段よ。オークションみてぇだろ? ハハッ」
「あはは。ブラック……なんですかねぇ」
わたしは「アットホーム」という言葉を見つめながら、半ば独り言のように尋ねる。
「なんか前行った女子学生は青ざめた顔して一言『無理!』つってたらしいぜ」
「ふ……ふーん……」
◇
「えっと……ここ曲がって……」
ギルドをあとにしたわたしは、なぜかその「無理」な求人を片手に、そこに記された住所に向かっていた。
――お金につられました。
(20万……すごく欲しいわけじゃないけど、行ってみるだけでも……)
――ほんとに危なそうな依頼なら、ギルドに貼りだしてないんじゃないかな。
わたし、危機感なさすぎ……?
ドキドキしながら歩く。
住所は、街の郊外にある森だった。
(ここらへんは、"貸し砦"かな?)
傭兵が数日間の依頼をこなすために、国では宿屋に連泊するよりも安い「砦」を貸し出している。
旅行用のコテージよりも丈夫な作りで、内装は冒険者用に武器防具のメンテ設備があったり、魔法使いの瞑想部屋、戦士達の修練場があったりする。
大酒飲みが多い冒険者や傭兵が数日泊まると一般の宿泊客が寄りつかなくなったりするので、こういうものができたとか。
「ここ……かな」
30分ほど歩いて、小さめの貸し砦に辿り着いた。
簡素な造りだ。大規模な傭兵団や冒険者パーティがいるわけではなさそう。
「こんにちはー。あのー、ギルドで求人を見た者ですけどー」
ちょっと緊張しながら、砦の呼び鈴を鳴らす。
「……誰?」
「えっ」
気づくと、後ろに女の子が立っていた。
小柄で、肩にかからない少しボサボサの髪。
色は森の木漏れ日が反射して薄桃色に見えたり、薄紫色に見えたりする。
眼は深い青色。淡い髪色がその深みを際立たせる。
……不思議な雰囲気の子だ。手には魔石の腕輪をつけている。
(魔法を使うための――なんだっけ、魔器ってやつかな? この子は魔法使いなのかな……)
「えぇと、わたし、この求人を見て――」
「……入って」
「あ、はい」
女の子はあまりわたしの話を聞かず、砦内へ促す。
小規模で簡素とはいえ、しっかりした造りの砦だ。
キョロキョロ見回しながら女の子に着いていくと、やがて大きな部屋に辿り着いた。
「……ここ」
女の子はドアを開け促す。
「あ、はい」
「ここで待っていて」
中に入るやいなや女の子はそう告げ、ピシュンと姿を消した。
「き、消えた……!?」
――今の、瞬間移動ってやつ!? 初めて見た!
でも転移魔法ってなんかすごい魔力がいるって聞いたような気がするけど……呪文を唱えたりしないのかな?? 魔力がすごい人はいらないのかな?
「魔法使いって、すごい……」
思わず呟く。
(いいな、わたしも魔法使ってみたかった……)
ちょっとしょげながら、案内された部屋を見回す。
大きめの机と少し立派な椅子が置いてある。作り付けの本棚に、本が丁寧に並べられている。
ここが傭兵団ならリーダーの使う部屋かな。
(傭兵団のリーダーって、どんな人だろう? ムキムキで傷だらけで半裸のおじさんとかだったらどうしよう……)
そんなことを考えていると、廊下から足音が聞こえてきた。
足音はこの部屋で止まり、ドアが開き、男の人が入ってきた。長身に黒髪、白い肌……。
「……えっ?」
「……ん?」
「あ、と……図書館の」
入ってきたのは、あの図書館の司書のお兄さんだった。
いつもメガネをかけているけど、今日はかけていない。服も白いシャツとダボッとした茶色のパンツとラフな格好だ。
「君は……君が、アルバイト希望の?」
「は、はい……レイチェル・クラインといいます。18歳です」
――こんな所で出会えるなんて……やだ、運命!?
あまりの偶然にわたしは内心ドギマギしてしまう。
「……そうか。俺は、グレン。グレン・マクロードだ。名乗るのは初めてだったな。よろしく」
図書館での淡々としたやりとりとはちがい、少しフランクなしゃべり方で彼は名前を名乗った。
(グレン・マクロードさん……)
「それで、仕事の内容はそこに書いてある通りで、金・土と泊まり込みで俺たちの飯を作って欲しいんだ」
「はい」
「以上」
「えっ」
説明ともいえない簡単すぎる説明に、わたしは司書のお兄さん――グレン・マクロードさんを見上げる。
「……ん?」
「あの、あの……質問しても、いいでしょうか」
「はい、どうぞ」
「……ええと、ごはんというのは晩ごはんだけでしょうか? 朝と昼も? ごはん作る以外に何かやることがあるんでしょうか? 例えば掃除とか……」
「掃除は必要ないな。朝はあればありがたいけど、昼は必要ない。冒険に出ているから」
「それじゃ、みなさんが冒険に出ている間、わたしは何をしていれば……」
「ん? そうだな。飯さえ用意してあれば、あとは別に自由にしていてくれて構わない。遊びに行ってもいいし。給料は、えー……50万、だったかな?」
「ごじゅっ!? えっ、えっ、ここには、20万とありますが……!」
わたしは驚き、グレン・マクロードさんに求人の紙の給料の所を指差して見せる。
――変な声出ちゃった! でも、50万はおかしすぎるでしょ……!
「え、そうだっけか? 適当に釣り上げてたから忘れて……ああ、ほんとだ。君、正直だな。はは」
グレン・マクロードさんは求人を見ながら頭をかき少し笑う。
(ええー……)
初めて見た笑顔はかっこいいけど、随分いい加減な感じだな……大丈夫かな?
……そんな時、扉を開ける音が聞こえ、さっきの女の子が入ってきた。
「あ、さっきの……」
「ああ、紹介する。この子は――」
「お兄ちゃま。今度はこの人に来てもらうのね」
「おに……!?」
「……ちょっ」
空気が凍りつく。
――お兄ちゃま!?
お兄ちゃま って言ったの、今!?
この子は妹さん?
でもお兄ちゃまって……シスコン?
えー……。
「ルカ! その呼び方はやめろと何度も言ってるだろう!?」
グレン・マクロードさんは血の気が引いたような顔でルカという少女に必死に呼びかける。
「お兄ちゃまは、お兄ちゃまだわ」
「だから違うって何度言えば――、って」
彼がまずいといった表情でこちらを振り返る。
「え……あ、はは……」
わたしは必死に平静を取り繕おうとするけどひきつった不自然な笑顔になってしまい、ドン引きしたのが余計に際立ってしまう。
「あ……えー……」
何か弁解するつもりなのか、彼は目を泳がせ何か唸っている。意外と表情豊かなんだ。
でもお兄ちゃまって、お兄ちゃまって……。
「…………」
「…………」
「というわけで、来週から来てくれるかな?」
「あ……えと……はい」
(……強引にごまかした……)
――そんな感じで、わたしは来週からアルバイトをはじめることになった。
翌日、メイちゃんにお兄さんのことを報告する。
「ほえー、よかったじゃん。……で、ちょっとくらい話できたの?」
「ええーっ、話しかけるなんてできないよー! 何話していいかわかんないし、仕事の邪魔になっちゃうし」
「いつもいつも見てるだけよりマシじゃん。な~んにも進展しないよ、それじゃ」
「もーっ メイちゃん! そういうのじゃないんだってばー! 見てるだけでいいの! 目の保養なの!」
「あのねぇ、そんなんじゃいつまで経っても彼氏なんかできないよ? 物語のヒロインじゃないんだよー。自分からアターックしなきゃ!」
「う……」
ヒロインじゃないっていうのは分かってる。でも、だからこそ話しかけられずにいるんだけど……。
(話せるものなら話したいよぉ……)
――きっかけが欲しい。
でも、そんなのどうやって見つけたらいいやら……。
◇
「おっ、学生さん」
「こんにちはー」
放課後、わたしは冒険者ギルドに足を運んだ。
"冒険者ギルド"といっても、わたしが何か冒険をするわけじゃない。
わたしは学校で、薬草の調合師――薬師になるための勉強をしている。今日は、作った薬草を売りに来たのだ。
世の中には魔法を使える人と使えない人がいて、それは生まれつき魔法の資質が備わっているかで決まる。
わたしは回復魔法を使う癒し手になりたかったんだけど、残念ながら魔法の資質はなかった。だから、そういう人のための職業が薬師。
回復術師が存在するから薬はいらないだろう――なんてことはない。
癒やしの術をかけてもらうのにも、回復術師を雇うのにも、そこそこのお金がかかる。
癒やしの術より薬草の方が効果を発揮する場面もあるし、薬草にも薬師にもちゃんと需要があるのだ。
わたしはまだ薬師じゃないけど、簡単な薬草だったら資格がなくても作れるし、売ることもできる。
ただ、売ることができるのは冒険者ギルドに限られるけど……。
「今週は、2セット持ってきましたー」
「はいはい、ご苦労さん、ちょっと計算するから待っててよ」
「はーい」
ギルドの荷物受付係の人が薬草を数えている間、掲示板に貼られている依頼の紙を眺める。
手紙、荷物の配達、護衛に魔物退治、宝物の散策、傭兵任務……冒険者の任務は様々だ。
「……ん?」
『給仕係募集 週2 金・土 泊まりがけで料理を作ってくれる人』
「変わった依頼だなぁ……」
ちょっと異色の依頼に、わたしは首をかしげる。
冒険が絡まなそうだし、任務・依頼というか、どちらかというと求人の募集? アルバイト?
「金・土泊まりがけだと休日潰れちゃうなー。レストランの住み込みとかかな?」
さらに下に目をやると、学生可、給料は月20万とある。
「に、にじゅうまん!? ……ん? 待って……」
『アットホームな職場です』
「ア、アットホーム……!」
――これは、すごくダメなあれで有名な……?
しかも、その文言は後から書き足したような走り書きだった。
「はいよ、お待たせ学生さ~ん」
わたしが求人の依頼に目を取られていると、ギルドの人が計算を終えてやってきた。
「あ、あ、はい!」
「今回の量だと、1500になるね。……お? その依頼かい」
「えっと……はい。20万ってすごいなって」
「ハハハ、やめときな! それな、先月くらいからあってすぐにみんな行きたがるんだけど、長続きしねぇんだってよ」
「そうなんですか……すごく厳しい仕事なのかな?」
「さぁねぇ……。んで、最初はたしか5万だったかな? 人がやめる度にだんだんつり上がってその値段よ。オークションみてぇだろ? ハハッ」
「あはは。ブラック……なんですかねぇ」
わたしは「アットホーム」という言葉を見つめながら、半ば独り言のように尋ねる。
「なんか前行った女子学生は青ざめた顔して一言『無理!』つってたらしいぜ」
「ふ……ふーん……」
◇
「えっと……ここ曲がって……」
ギルドをあとにしたわたしは、なぜかその「無理」な求人を片手に、そこに記された住所に向かっていた。
――お金につられました。
(20万……すごく欲しいわけじゃないけど、行ってみるだけでも……)
――ほんとに危なそうな依頼なら、ギルドに貼りだしてないんじゃないかな。
わたし、危機感なさすぎ……?
ドキドキしながら歩く。
住所は、街の郊外にある森だった。
(ここらへんは、"貸し砦"かな?)
傭兵が数日間の依頼をこなすために、国では宿屋に連泊するよりも安い「砦」を貸し出している。
旅行用のコテージよりも丈夫な作りで、内装は冒険者用に武器防具のメンテ設備があったり、魔法使いの瞑想部屋、戦士達の修練場があったりする。
大酒飲みが多い冒険者や傭兵が数日泊まると一般の宿泊客が寄りつかなくなったりするので、こういうものができたとか。
「ここ……かな」
30分ほど歩いて、小さめの貸し砦に辿り着いた。
簡素な造りだ。大規模な傭兵団や冒険者パーティがいるわけではなさそう。
「こんにちはー。あのー、ギルドで求人を見た者ですけどー」
ちょっと緊張しながら、砦の呼び鈴を鳴らす。
「……誰?」
「えっ」
気づくと、後ろに女の子が立っていた。
小柄で、肩にかからない少しボサボサの髪。
色は森の木漏れ日が反射して薄桃色に見えたり、薄紫色に見えたりする。
眼は深い青色。淡い髪色がその深みを際立たせる。
……不思議な雰囲気の子だ。手には魔石の腕輪をつけている。
(魔法を使うための――なんだっけ、魔器ってやつかな? この子は魔法使いなのかな……)
「えぇと、わたし、この求人を見て――」
「……入って」
「あ、はい」
女の子はあまりわたしの話を聞かず、砦内へ促す。
小規模で簡素とはいえ、しっかりした造りの砦だ。
キョロキョロ見回しながら女の子に着いていくと、やがて大きな部屋に辿り着いた。
「……ここ」
女の子はドアを開け促す。
「あ、はい」
「ここで待っていて」
中に入るやいなや女の子はそう告げ、ピシュンと姿を消した。
「き、消えた……!?」
――今の、瞬間移動ってやつ!? 初めて見た!
でも転移魔法ってなんかすごい魔力がいるって聞いたような気がするけど……呪文を唱えたりしないのかな?? 魔力がすごい人はいらないのかな?
「魔法使いって、すごい……」
思わず呟く。
(いいな、わたしも魔法使ってみたかった……)
ちょっとしょげながら、案内された部屋を見回す。
大きめの机と少し立派な椅子が置いてある。作り付けの本棚に、本が丁寧に並べられている。
ここが傭兵団ならリーダーの使う部屋かな。
(傭兵団のリーダーって、どんな人だろう? ムキムキで傷だらけで半裸のおじさんとかだったらどうしよう……)
そんなことを考えていると、廊下から足音が聞こえてきた。
足音はこの部屋で止まり、ドアが開き、男の人が入ってきた。長身に黒髪、白い肌……。
「……えっ?」
「……ん?」
「あ、と……図書館の」
入ってきたのは、あの図書館の司書のお兄さんだった。
いつもメガネをかけているけど、今日はかけていない。服も白いシャツとダボッとした茶色のパンツとラフな格好だ。
「君は……君が、アルバイト希望の?」
「は、はい……レイチェル・クラインといいます。18歳です」
――こんな所で出会えるなんて……やだ、運命!?
あまりの偶然にわたしは内心ドギマギしてしまう。
「……そうか。俺は、グレン。グレン・マクロードだ。名乗るのは初めてだったな。よろしく」
図書館での淡々としたやりとりとはちがい、少しフランクなしゃべり方で彼は名前を名乗った。
(グレン・マクロードさん……)
「それで、仕事の内容はそこに書いてある通りで、金・土と泊まり込みで俺たちの飯を作って欲しいんだ」
「はい」
「以上」
「えっ」
説明ともいえない簡単すぎる説明に、わたしは司書のお兄さん――グレン・マクロードさんを見上げる。
「……ん?」
「あの、あの……質問しても、いいでしょうか」
「はい、どうぞ」
「……ええと、ごはんというのは晩ごはんだけでしょうか? 朝と昼も? ごはん作る以外に何かやることがあるんでしょうか? 例えば掃除とか……」
「掃除は必要ないな。朝はあればありがたいけど、昼は必要ない。冒険に出ているから」
「それじゃ、みなさんが冒険に出ている間、わたしは何をしていれば……」
「ん? そうだな。飯さえ用意してあれば、あとは別に自由にしていてくれて構わない。遊びに行ってもいいし。給料は、えー……50万、だったかな?」
「ごじゅっ!? えっ、えっ、ここには、20万とありますが……!」
わたしは驚き、グレン・マクロードさんに求人の紙の給料の所を指差して見せる。
――変な声出ちゃった! でも、50万はおかしすぎるでしょ……!
「え、そうだっけか? 適当に釣り上げてたから忘れて……ああ、ほんとだ。君、正直だな。はは」
グレン・マクロードさんは求人を見ながら頭をかき少し笑う。
(ええー……)
初めて見た笑顔はかっこいいけど、随分いい加減な感じだな……大丈夫かな?
……そんな時、扉を開ける音が聞こえ、さっきの女の子が入ってきた。
「あ、さっきの……」
「ああ、紹介する。この子は――」
「お兄ちゃま。今度はこの人に来てもらうのね」
「おに……!?」
「……ちょっ」
空気が凍りつく。
――お兄ちゃま!?
お兄ちゃま って言ったの、今!?
この子は妹さん?
でもお兄ちゃまって……シスコン?
えー……。
「ルカ! その呼び方はやめろと何度も言ってるだろう!?」
グレン・マクロードさんは血の気が引いたような顔でルカという少女に必死に呼びかける。
「お兄ちゃまは、お兄ちゃまだわ」
「だから違うって何度言えば――、って」
彼がまずいといった表情でこちらを振り返る。
「え……あ、はは……」
わたしは必死に平静を取り繕おうとするけどひきつった不自然な笑顔になってしまい、ドン引きしたのが余計に際立ってしまう。
「あ……えー……」
何か弁解するつもりなのか、彼は目を泳がせ何か唸っている。意外と表情豊かなんだ。
でもお兄ちゃまって、お兄ちゃまって……。
「…………」
「…………」
「というわけで、来週から来てくれるかな?」
「あ……えと……はい」
(……強引にごまかした……)
――そんな感じで、わたしは来週からアルバイトをはじめることになった。
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