32 / 385
4章 少年と竜騎士
8話 5年
しおりを挟む
「ここ来んのも、久しぶりだ」
「うん……」
わたしが住んでいる――かつてジャミルも住んでいたカルムの街、その東に位置するミロワール湖。
ロレーヌ王国と竜騎士団領を隔てている。
カイルがここで行方をくらまして、今日で五年。
ジャミルは今日は冒険に行かず、休みを取って二人でここに来ていた。
湖のほとりに花と「ドラゴン肉まん」を供えて目を閉じてお祈りをする――彼は生きてるって信じてるけど。
「……行こうぜ」
「うん」
◇
「……っと……うーん、ないなぁ」
湖をあとにして、わたしは探しものの為に一度家に帰ってきていた。
「あらレイチェルちゃん、今日はバイトお休み――って、あら! まあまあ、ジャミルちゃん!?」
「……どうも」
お母さんが、一緒についてきていたジャミルに懐かしそうに話しかける。
「久しぶりねぇジャミルちゃん、元気だった? まあまあ、立派になっちゃって」
「……オレもう20になるし、『ちゃん』はやめてよ、おばちゃん」
「そうね、そうね。ところで今日はどうしたの? 同じ傭兵団でアルバイトしてるって聞いたけど?」
「今日は、バイト休みもらったんだ。ちっと、ミロワール湖に行こうって」
「ミロワール湖……そう」
お母さんが湖の名前を聞いて少し沈んだ顔になる。
「お母さーん、アルバムってどこにしまったか分かるー?」
「アルバム? ロフトにしまったかしらね」
「ロフトかぁ」
「アルバム? なんでそんなもん探してんだ?」
「ちょっと確かめたいことがあって。ちょっと待っててね」
◇
「……あった!」
10年前の日付のアルバムを取り出し、ページをめくる。
「……やっぱり!」
ロフトから飛び降りるように急いで降り、ジャミルの元へ。
「ほら、ほら、ジャミル、見てよこれ!」
「あーん? これ、竜騎士団領に行った時のやつか? なんでまた……」
首の後ろをポリポリと掻きながら興味なさげに写真を見るジャミル。
「ほら、この人! 竜騎士の人! これクライブさんじゃない?」
「あ……マジだ。へぇ……」
写真に写っていたのは、確かにクライブさんだった。
「そーいや、あん時の竜も『シーザー』って呼ばれてたっけか……こんな偶然あるんだな」
今の余裕のあるさわやかな笑みとは違い、少しぎこちない笑顔。あの時は大人のお兄さんだと思ってたけど、多分今のわたし達と同い年くらいだ。
「運命の再会……」
「あ?」
「ううん、なんでもない!」
◇
「ふんふんふーん」
「あれ? グレンさん」
砦に帰ってくると、グレンさんが謎の鼻歌を歌いながら何か作っていた。……珍しい。
「ん? 来たのか。休んでていいのに」
「何作ってるんですか? 珍しいですね」
「いや、ただのココア」
「ただのココア……?」
ただの――と言う割にはカップの底に粉以外に何やら妙な物が入っていてデロデロになっている。色も何やら真っ黒で……。
(のりの佃煮みたい……何が入ってるんだろ??)
「飲むか?」
「ええっ!」
「先輩直伝の『エクストリームココア』だぞ」
「先輩ってクライブさんですか? ていうか『エクストリーム』って……」
まるで男児が考え出しそうなネーミングだ……クライブさんかっこいいけどグレンさんの友達だし、やっぱりちょっとボケボケなのかな……?
正直言って遠慮したいんだけどせっかくだからもらってみることに。
謎の黒いヘドロのような塊にお湯が注がれると、匂いだけはココアのそれの飲み物がわたしの目の前に……。
「じゃあ、いただきます……」
わたしはココアを一口飲ん「ゴフッ!!」
――予想通りにまずい。っていうか。マッッッッッッッッッズ……。
「『ゴフッ』って……」
「ゲホッゲホッ……、なに笑ってるんですかー! これ、何ですかこれ!? マッズイ! 信じられないーもー!」
むせにむせながら半笑いのグレンさんに抗議すると、彼はその激マズココアをまるでお風呂上がりのビールのごとくゴクゴクと飲む。
「の、飲んでる……!」
「そりゃ、飲むよ」
「体壊しますよ……」
エクストリームなココアはあっという間に彼の胃袋に入ってしまった。
「……それ、クライブさんが本当に考えたんですか?」
「ああ。……いや、何かレシピと違うかもな。味噌とか入ってなかったような?」
「み、味噌……!」
「色が似てるから。これかなーと思って」
「そんなに似てませんよ!?」
多分きっと、絶対レシピと違う……!
「ウイ――ッス 戻った……あっ、グレン! 厨房で何も作るなって言っただろ、劇物ばっか作りやがって! ぶっ殺すぞ!!」
一足遅く戻ってきたジャミルが大憤慨しながらグレンさんのお尻あたりにスパァンと蹴りを一発入れた。
リーダーは、厨房を荒らす者を許さない……。
「痛っ! ……なんでココア作っただけで殺されないといけないんだか……」
「……でも、ホントに何も作らない方がいいと思います……あと、クライブさん考案とか言わない方が」
「誰も俺の味方をしてくれない……」
グレンさんがショボンとして飲み終わったカップをシンクに置いた。
名前はともかくとして、この劇物みたいなココアはクライブさん考案のものじゃなかった。
(……良かった。さわやかイケメン感は守られたわ!)
それにしても、昔会った竜騎士さんとまた会うなんて。
今度、この写真のことで話しかけてみようかな~?
「うん……」
わたしが住んでいる――かつてジャミルも住んでいたカルムの街、その東に位置するミロワール湖。
ロレーヌ王国と竜騎士団領を隔てている。
カイルがここで行方をくらまして、今日で五年。
ジャミルは今日は冒険に行かず、休みを取って二人でここに来ていた。
湖のほとりに花と「ドラゴン肉まん」を供えて目を閉じてお祈りをする――彼は生きてるって信じてるけど。
「……行こうぜ」
「うん」
◇
「……っと……うーん、ないなぁ」
湖をあとにして、わたしは探しものの為に一度家に帰ってきていた。
「あらレイチェルちゃん、今日はバイトお休み――って、あら! まあまあ、ジャミルちゃん!?」
「……どうも」
お母さんが、一緒についてきていたジャミルに懐かしそうに話しかける。
「久しぶりねぇジャミルちゃん、元気だった? まあまあ、立派になっちゃって」
「……オレもう20になるし、『ちゃん』はやめてよ、おばちゃん」
「そうね、そうね。ところで今日はどうしたの? 同じ傭兵団でアルバイトしてるって聞いたけど?」
「今日は、バイト休みもらったんだ。ちっと、ミロワール湖に行こうって」
「ミロワール湖……そう」
お母さんが湖の名前を聞いて少し沈んだ顔になる。
「お母さーん、アルバムってどこにしまったか分かるー?」
「アルバム? ロフトにしまったかしらね」
「ロフトかぁ」
「アルバム? なんでそんなもん探してんだ?」
「ちょっと確かめたいことがあって。ちょっと待っててね」
◇
「……あった!」
10年前の日付のアルバムを取り出し、ページをめくる。
「……やっぱり!」
ロフトから飛び降りるように急いで降り、ジャミルの元へ。
「ほら、ほら、ジャミル、見てよこれ!」
「あーん? これ、竜騎士団領に行った時のやつか? なんでまた……」
首の後ろをポリポリと掻きながら興味なさげに写真を見るジャミル。
「ほら、この人! 竜騎士の人! これクライブさんじゃない?」
「あ……マジだ。へぇ……」
写真に写っていたのは、確かにクライブさんだった。
「そーいや、あん時の竜も『シーザー』って呼ばれてたっけか……こんな偶然あるんだな」
今の余裕のあるさわやかな笑みとは違い、少しぎこちない笑顔。あの時は大人のお兄さんだと思ってたけど、多分今のわたし達と同い年くらいだ。
「運命の再会……」
「あ?」
「ううん、なんでもない!」
◇
「ふんふんふーん」
「あれ? グレンさん」
砦に帰ってくると、グレンさんが謎の鼻歌を歌いながら何か作っていた。……珍しい。
「ん? 来たのか。休んでていいのに」
「何作ってるんですか? 珍しいですね」
「いや、ただのココア」
「ただのココア……?」
ただの――と言う割にはカップの底に粉以外に何やら妙な物が入っていてデロデロになっている。色も何やら真っ黒で……。
(のりの佃煮みたい……何が入ってるんだろ??)
「飲むか?」
「ええっ!」
「先輩直伝の『エクストリームココア』だぞ」
「先輩ってクライブさんですか? ていうか『エクストリーム』って……」
まるで男児が考え出しそうなネーミングだ……クライブさんかっこいいけどグレンさんの友達だし、やっぱりちょっとボケボケなのかな……?
正直言って遠慮したいんだけどせっかくだからもらってみることに。
謎の黒いヘドロのような塊にお湯が注がれると、匂いだけはココアのそれの飲み物がわたしの目の前に……。
「じゃあ、いただきます……」
わたしはココアを一口飲ん「ゴフッ!!」
――予想通りにまずい。っていうか。マッッッッッッッッッズ……。
「『ゴフッ』って……」
「ゲホッゲホッ……、なに笑ってるんですかー! これ、何ですかこれ!? マッズイ! 信じられないーもー!」
むせにむせながら半笑いのグレンさんに抗議すると、彼はその激マズココアをまるでお風呂上がりのビールのごとくゴクゴクと飲む。
「の、飲んでる……!」
「そりゃ、飲むよ」
「体壊しますよ……」
エクストリームなココアはあっという間に彼の胃袋に入ってしまった。
「……それ、クライブさんが本当に考えたんですか?」
「ああ。……いや、何かレシピと違うかもな。味噌とか入ってなかったような?」
「み、味噌……!」
「色が似てるから。これかなーと思って」
「そんなに似てませんよ!?」
多分きっと、絶対レシピと違う……!
「ウイ――ッス 戻った……あっ、グレン! 厨房で何も作るなって言っただろ、劇物ばっか作りやがって! ぶっ殺すぞ!!」
一足遅く戻ってきたジャミルが大憤慨しながらグレンさんのお尻あたりにスパァンと蹴りを一発入れた。
リーダーは、厨房を荒らす者を許さない……。
「痛っ! ……なんでココア作っただけで殺されないといけないんだか……」
「……でも、ホントに何も作らない方がいいと思います……あと、クライブさん考案とか言わない方が」
「誰も俺の味方をしてくれない……」
グレンさんがショボンとして飲み終わったカップをシンクに置いた。
名前はともかくとして、この劇物みたいなココアはクライブさん考案のものじゃなかった。
(……良かった。さわやかイケメン感は守られたわ!)
それにしても、昔会った竜騎士さんとまた会うなんて。
今度、この写真のことで話しかけてみようかな~?
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
62
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる