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4章 少年と竜騎士
12話 名前の"色"
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「これ借りていきます」
「ああ」
月曜日はお決まりで、図書館で本を借りる。
今日はサッと借りてサッと帰っちゃおう。
本もサラッと簡単に読める、『レモン色の初恋』だもんね!
『レモン色の初恋』シリーズはキャンディ・ローズ先生による少女向けの甘酸っぱいときめき恋愛小説で挿絵もキラキラで超かわいいの!
これでも読んでキュンキュンして昨日の憶測なんか忘れちゃお「……昨日」
「へっ!?」
突然グレンさんに「はい、これ」以外の言葉をかけられてわたしはマヌケな声を上げてしまう。
「昨日、ルカは何か言ってたか?」
(き、きたー……!)
「いえ! 特に何もっ!」
直立不動で両手をビシッと揃えてハキハキと返事をする。……不自然極まりない。
「そうか。ならいい」
「はい!!」
「……声が大きいな」
「す、すいません」
「……で、どこまで聞いた?」
「えっ!? どどどどどこまでとは……」
グレンさんは貸し出し表を手に、無言でわたしを見る。
どこまでって何!? 何も聞いてないって言ったのにどういうこと?? ひぃぃ……。
「いえっ! あの、本当の名前までは聞いてませんから安心してくださいっ!」
「…………」
!!
(ひ、ひ――――!)
すっごい大声ですっごい白状してしまい、わたしは口を抑える。
お、怒られるー!?
「……嘘つくのが下手すぎないか?」
グレンさんは苦笑いで呆れたようにため息をつく。
どうやら怒られない……? それは良かった……けど。
「ゆ、誘導尋問は卑怯です……」
「……どこが誘導だか」
「ル、ルカが何も聞いてないのに喋りだしたんです……」
「だろうな」
「『だろうな』って、分かってたんですか?」
「大勢に喋るよりは、一人だけに喋って被害を最小限に食い止めようかと思って。あいつレイチェルの言うことなら聞くから」
「えー! じゃあルカに瞬間移動で送らせたのってそのため……?」
「ああ」
「ひ、ひどい……」
「悪いな。俺も持て余してるもんで」
「ううう……」
あなたが持て余してるのをわたしがなんとかできると思いませんけど! という言葉をなんとかこらえて、わたしは気になっていた事を質問することにした。
「わたし、そのぉ……クライブさんが偽名だって知って、どうすればいいんでしょう?」
「別に、普通にしてればいい」
「ふ、普通……ですか。うう……難しい……。あの、グレンさん」
「ん?」
「グレンさんも……ルカみたいに、名前を偽ってるっていうのは見て分かるんですか」
「……まあ、うん」
「それって、どういう風に……ルカは『水が合ってない』って言ってましたけど」
「まあ、同じようなもんだ。色が違うっていうか」
「……色」
「違和感がある。絶対その名前じゃないだろうっていうか」
「へえ……」
「分かりやすく言えば」
と言いながら、わたしが借りようとしている『レモン色の初恋 キャンディ・ローズ著』の表紙をわたしの前に突き出した。
「キャンディ・ローズ先生はレモン色だ」
「ふぇっ」
「……で、キャンディ・ローズ先生はレモン色であるのに、偽名を名乗ることで青い色がまとわりついて見えるみたいな……。『いやあなたレモン色なのにその名前は青色ですよ』と、そんな感じ。……分かる?」
「わ、分かったような、分からないような……」
聞いておきながらなんだけど、大真面目な顔で何を淡々と言っているのか……ルカと同じく独特の世界観をお持ちで……。
……ていうか。
「あの、あの、恥ずかしいのであまり『キャンディ・ローズ』『レモン色』と連呼しないでください……」
「ん? なんで」
「こ、子供っぽいって思われちゃうから」
『レモン色の初恋』シリーズは実は13~15歳くらいの女の子が読むような小説。
周りには小さい子供や年配の方ばかりで多分聞かれてはいないとはいえ、そういうのを18歳のわたしが借りていることが今更猛烈に恥ずかしくなってきて赤面してしまう。
「そうなのか? これ俺も読んでるけど」
「ええっ! ……グレンさんが?」
「割と面白いから」
「……い、意外です。あの、グレンさん……」
「ん?」
「グレンさんって、まるで」
少女向け小説を読んで、甘いもの――特にチョコレートが大好きで辛いものがちょっと苦手。お酒が無理。
そして人には見えない何かが見える不思議な能力があって、だけど魔法はちょっとヘタッピ(ルカ談)だなんて、まるで……。
「……魔法少女みたいですよね」
と言うと、グレンさんは飲んでいたココアを盛大に吹き出した。
「あっ、汚い……」
「ゲホッゲホッ、いやだって、魔法少女って」
「ご、ごめんなさい」
先週とは逆にグレンさんが盛大にむせながら、こぼしたココアを拭く。『レモン色の初恋』は無事だ。
「はぁ……、はい、これ。……キャンディ・ローズ先生の他作品は『すみれ色の純愛』シリーズもオススメです」
「あ、はい……って、そっちも読んでるんですか。20冊くらいあるのに」
「ここの仕事、暇だから」
「なるほど……」
『司書のお兄さんかっこいい! 何読んでるのかな??』とか思ってたけど、まさかそんなのを読んでるとは……。
でもおかげで『こんなの読んでるのか』って馬鹿にされなかったし。
その後わたしからは『ネーブル・ロマンス』をオススメしておいたら、それは知らなかったようで『今度読む』って言ってくれた。
――なんだか、クライブさんが偽名なことよりもキャンディ・ローズ先生の話ばっかりしてたような気が……??
楽しかったからいいけど……って、こんなことならもっと早くに話しかけてればよかったなー。
(……ん?)
なんだろう? こんなこと考えるなんて、変だな。
だけど、なんだかワクワクして嬉しい気分。
うーん。この図書館が好きで、馬鹿にされがちなキャンディ・ローズ先生の話まで共有できたんだもん、テンション上がるのもしょうがないよね。
「ああ」
月曜日はお決まりで、図書館で本を借りる。
今日はサッと借りてサッと帰っちゃおう。
本もサラッと簡単に読める、『レモン色の初恋』だもんね!
『レモン色の初恋』シリーズはキャンディ・ローズ先生による少女向けの甘酸っぱいときめき恋愛小説で挿絵もキラキラで超かわいいの!
これでも読んでキュンキュンして昨日の憶測なんか忘れちゃお「……昨日」
「へっ!?」
突然グレンさんに「はい、これ」以外の言葉をかけられてわたしはマヌケな声を上げてしまう。
「昨日、ルカは何か言ってたか?」
(き、きたー……!)
「いえ! 特に何もっ!」
直立不動で両手をビシッと揃えてハキハキと返事をする。……不自然極まりない。
「そうか。ならいい」
「はい!!」
「……声が大きいな」
「す、すいません」
「……で、どこまで聞いた?」
「えっ!? どどどどどこまでとは……」
グレンさんは貸し出し表を手に、無言でわたしを見る。
どこまでって何!? 何も聞いてないって言ったのにどういうこと?? ひぃぃ……。
「いえっ! あの、本当の名前までは聞いてませんから安心してくださいっ!」
「…………」
!!
(ひ、ひ――――!)
すっごい大声ですっごい白状してしまい、わたしは口を抑える。
お、怒られるー!?
「……嘘つくのが下手すぎないか?」
グレンさんは苦笑いで呆れたようにため息をつく。
どうやら怒られない……? それは良かった……けど。
「ゆ、誘導尋問は卑怯です……」
「……どこが誘導だか」
「ル、ルカが何も聞いてないのに喋りだしたんです……」
「だろうな」
「『だろうな』って、分かってたんですか?」
「大勢に喋るよりは、一人だけに喋って被害を最小限に食い止めようかと思って。あいつレイチェルの言うことなら聞くから」
「えー! じゃあルカに瞬間移動で送らせたのってそのため……?」
「ああ」
「ひ、ひどい……」
「悪いな。俺も持て余してるもんで」
「ううう……」
あなたが持て余してるのをわたしがなんとかできると思いませんけど! という言葉をなんとかこらえて、わたしは気になっていた事を質問することにした。
「わたし、そのぉ……クライブさんが偽名だって知って、どうすればいいんでしょう?」
「別に、普通にしてればいい」
「ふ、普通……ですか。うう……難しい……。あの、グレンさん」
「ん?」
「グレンさんも……ルカみたいに、名前を偽ってるっていうのは見て分かるんですか」
「……まあ、うん」
「それって、どういう風に……ルカは『水が合ってない』って言ってましたけど」
「まあ、同じようなもんだ。色が違うっていうか」
「……色」
「違和感がある。絶対その名前じゃないだろうっていうか」
「へえ……」
「分かりやすく言えば」
と言いながら、わたしが借りようとしている『レモン色の初恋 キャンディ・ローズ著』の表紙をわたしの前に突き出した。
「キャンディ・ローズ先生はレモン色だ」
「ふぇっ」
「……で、キャンディ・ローズ先生はレモン色であるのに、偽名を名乗ることで青い色がまとわりついて見えるみたいな……。『いやあなたレモン色なのにその名前は青色ですよ』と、そんな感じ。……分かる?」
「わ、分かったような、分からないような……」
聞いておきながらなんだけど、大真面目な顔で何を淡々と言っているのか……ルカと同じく独特の世界観をお持ちで……。
……ていうか。
「あの、あの、恥ずかしいのであまり『キャンディ・ローズ』『レモン色』と連呼しないでください……」
「ん? なんで」
「こ、子供っぽいって思われちゃうから」
『レモン色の初恋』シリーズは実は13~15歳くらいの女の子が読むような小説。
周りには小さい子供や年配の方ばかりで多分聞かれてはいないとはいえ、そういうのを18歳のわたしが借りていることが今更猛烈に恥ずかしくなってきて赤面してしまう。
「そうなのか? これ俺も読んでるけど」
「ええっ! ……グレンさんが?」
「割と面白いから」
「……い、意外です。あの、グレンさん……」
「ん?」
「グレンさんって、まるで」
少女向け小説を読んで、甘いもの――特にチョコレートが大好きで辛いものがちょっと苦手。お酒が無理。
そして人には見えない何かが見える不思議な能力があって、だけど魔法はちょっとヘタッピ(ルカ談)だなんて、まるで……。
「……魔法少女みたいですよね」
と言うと、グレンさんは飲んでいたココアを盛大に吹き出した。
「あっ、汚い……」
「ゲホッゲホッ、いやだって、魔法少女って」
「ご、ごめんなさい」
先週とは逆にグレンさんが盛大にむせながら、こぼしたココアを拭く。『レモン色の初恋』は無事だ。
「はぁ……、はい、これ。……キャンディ・ローズ先生の他作品は『すみれ色の純愛』シリーズもオススメです」
「あ、はい……って、そっちも読んでるんですか。20冊くらいあるのに」
「ここの仕事、暇だから」
「なるほど……」
『司書のお兄さんかっこいい! 何読んでるのかな??』とか思ってたけど、まさかそんなのを読んでるとは……。
でもおかげで『こんなの読んでるのか』って馬鹿にされなかったし。
その後わたしからは『ネーブル・ロマンス』をオススメしておいたら、それは知らなかったようで『今度読む』って言ってくれた。
――なんだか、クライブさんが偽名なことよりもキャンディ・ローズ先生の話ばっかりしてたような気が……??
楽しかったからいいけど……って、こんなことならもっと早くに話しかけてればよかったなー。
(……ん?)
なんだろう? こんなこと考えるなんて、変だな。
だけど、なんだかワクワクして嬉しい気分。
うーん。この図書館が好きで、馬鹿にされがちなキャンディ・ローズ先生の話まで共有できたんだもん、テンション上がるのもしょうがないよね。
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