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◇7-8章 幕間:番外編・小話
憂鬱な帰郷―ベルナデッタ(前)
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「ベルは優しいよねぇ」
――違うわ。
「だって、ジャミルが辞めてからも都度都度彼のこと心配してる風だから」
――違うの、そういうのじゃない。
あたしは、ただ卑怯なだけ――。
11月、風が冷たくなってきたある日。
あたしはサンチェス伯爵領に帰ることになり、荷造りをしているところだった。
帰ると言っても永遠に帰るわけじゃない。
癒やしの力を持っているあたしは、魔法の修行の為に3年ほどの外遊が許可されている。
ずっと帰らないわけには行かないから、顔出し程度の帰郷。
普通は貴族令嬢が一人でぶらぶら旅に出て冒険者パーティーに気軽に入るなんてありえない。
通常はお供の者をみんな連れている。だけどあたしにはいない。
ロクな資源も収入源も確保されていない、サンチェス伯爵領。護衛を付けるお金もない。
だから冒険者パーティーについていって護衛してもらいなさいと父に言われたの。めちゃくちゃよね。
結果、それで楽しく過ごさせてもらっているからいいけど。
(……帰りたく、ないな)
荷造りする手の進みは遅い。
あたしの両親は仲が良くない。あたしも両親とは仲が良くない。
カイルさんやレイチェル、フランツの家族の話を聞くと羨ましくて仕方がない。
仲が良い家族って、どういうの? いいなあ、いいなあ、羨ましい。
こんな感じであたしは相変わらず人を羨んでいる。
――特に、レイチェル。
最近隊長と付き合い始めたの。全然そんな素振りなかったように思うけど、隊長のことを密かに想っていたんだって。
隊長はそれに気付いて逃げようとしたけど、ぶつかっていったんだって。
それでめでたく、両思い。いいなあ。
付き合い始めてからのレイチェル、すごくかわいい。隊長のこと好きなのが全身から伝わってくる。
それに、隊長も。
あんなに優しい目でレイチェルのことを見てる。本当に好きなんだ。愛しいんだ。
恋愛ってすごい。人をあんなに変えるんだ。あたし、あたしもそんな恋を――。
(無理ね……)
あたしの中は、未だに彼への気持ちがくすぶっている。
だけど何をどうしようという気持ちがない。告白しようという気持ちも、諦めようという気持ちも。
レイチェルみたいにぶつかっていくなんてできない。あたしがあの子だったら、きっと泣いて終わりだわ。
(……ジャミル君)
彼に告白されてお断りして、そして彼が去って、3ヶ月経とうとしている。
人の気持ちが動くには、十分な時間。
最初冷やかしてきていた隊長もカイルさんも、全くしてこなくなった。
ラーメン夜会にジャミル君が現れることもない。
もう過去のものと割り切って、次に好きな人ができちゃったのかも。
あたしだけが、ずっと彼への気持ちを抱えて置き去りにされている。
そして「ジャミル君に会ったの?」「ジャミル君の魔法見た?」なんて、レイチェルに探りを入れている。
レイチェルは隊長と付き合っていて、彼に特別の感情を抱いていないことくらい分かっているくせに。
……何やってるんだろう、あたし。みっともない。
4歳年下の女の子に、お門違いの嫉妬。
◇
だらだらと荷造りをして出発、ポルト市街へやってきた。
サンチェス領までは冒険者ギルドの転移魔法専門の術師に王都まで転送してもらい、そこから迎えの馬車に乗る。
転移魔法はすごく魔力を使うから、転送は1時間に1回。
時刻表を見ると転送はついさっき、そんなわけで転送してもらえるのは1時間後。出鼻をくじかれた。ただでさえ、行く気がないというのに。
(ダルいわね……どこかで何か食べようかしら)
「いらっしゃ~い」
ギルドの近くにある酒場にやってきた。ここには来たことがないなぁ。
昼から夕方にかけての時間帯は、お客もまばらだ。
窓辺の席に案内され、ぼんやりメニューを眺める。
(『海の幸パスタ』……これにしようかなぁ)
テーブルに置いてある呼び鈴をチーンと鳴らすと、店員さんの「ハーイ」という返事と、足音が聞こえる。
「お待たせしました」
「えー……」
メニューに目を落としたままでいると、店員さんが指でテーブルをコンコンと叩いた。
(……?)
「え……!」
「よう」
顔を上げると、ジャミル君が立っていた。
(わ、わ、わ……!)
――心臓が一気に跳ね上がる。
どうしよう、どうしよう、嬉しい。ずっと会いたかった。話をしたかった。
でも……でも、今だけは会いたくなかった。
「あ、久しぶり……ここ、キミの店だったの?」
「知ってて来たんじゃねえのか。……言ったことあったろ?」
「そ、そうでしたかしら……ていうか、コックさんなのに何故注文を?」
「今の時間帯ヒマだから、ウェイターは休憩に行ってんだ。だからオレとマスターだけで回してる」
「へえ……」
「で、ご注文は」
「あ、えっと、海の幸パスタを」
「海の幸パスタ。ラーメンじゃねえのか」
「えっ、あるの?」
「ない」
「ないの~!」
あたしがツッコむと彼はイタズラっぽくニヤリと笑った。
彼の笑顔を見て胸がキュンとなってしまう。
(駄目、駄目だってば)
――これから実家に帰るの。否が応でも婚約の話が出るわ。
心を無にして挑みたいのに、それなのに今彼を前にしてあたしは胸が踊っている。
行きたくない。行きたくないなぁ……。
「海の幸パスタ一つ っと……飲み物は?」
「じゃあレモンスカッシュを」
「ん。……今日は? なんかデカイ荷物持ってっけど」
「……あの、ちょっと実家に帰るの」
「…………へえ」
「…………」
注文を取る手が少し止まったように見えたのは……あたしの、期待し過ぎだろうか――。
――違うわ。
「だって、ジャミルが辞めてからも都度都度彼のこと心配してる風だから」
――違うの、そういうのじゃない。
あたしは、ただ卑怯なだけ――。
11月、風が冷たくなってきたある日。
あたしはサンチェス伯爵領に帰ることになり、荷造りをしているところだった。
帰ると言っても永遠に帰るわけじゃない。
癒やしの力を持っているあたしは、魔法の修行の為に3年ほどの外遊が許可されている。
ずっと帰らないわけには行かないから、顔出し程度の帰郷。
普通は貴族令嬢が一人でぶらぶら旅に出て冒険者パーティーに気軽に入るなんてありえない。
通常はお供の者をみんな連れている。だけどあたしにはいない。
ロクな資源も収入源も確保されていない、サンチェス伯爵領。護衛を付けるお金もない。
だから冒険者パーティーについていって護衛してもらいなさいと父に言われたの。めちゃくちゃよね。
結果、それで楽しく過ごさせてもらっているからいいけど。
(……帰りたく、ないな)
荷造りする手の進みは遅い。
あたしの両親は仲が良くない。あたしも両親とは仲が良くない。
カイルさんやレイチェル、フランツの家族の話を聞くと羨ましくて仕方がない。
仲が良い家族って、どういうの? いいなあ、いいなあ、羨ましい。
こんな感じであたしは相変わらず人を羨んでいる。
――特に、レイチェル。
最近隊長と付き合い始めたの。全然そんな素振りなかったように思うけど、隊長のことを密かに想っていたんだって。
隊長はそれに気付いて逃げようとしたけど、ぶつかっていったんだって。
それでめでたく、両思い。いいなあ。
付き合い始めてからのレイチェル、すごくかわいい。隊長のこと好きなのが全身から伝わってくる。
それに、隊長も。
あんなに優しい目でレイチェルのことを見てる。本当に好きなんだ。愛しいんだ。
恋愛ってすごい。人をあんなに変えるんだ。あたし、あたしもそんな恋を――。
(無理ね……)
あたしの中は、未だに彼への気持ちがくすぶっている。
だけど何をどうしようという気持ちがない。告白しようという気持ちも、諦めようという気持ちも。
レイチェルみたいにぶつかっていくなんてできない。あたしがあの子だったら、きっと泣いて終わりだわ。
(……ジャミル君)
彼に告白されてお断りして、そして彼が去って、3ヶ月経とうとしている。
人の気持ちが動くには、十分な時間。
最初冷やかしてきていた隊長もカイルさんも、全くしてこなくなった。
ラーメン夜会にジャミル君が現れることもない。
もう過去のものと割り切って、次に好きな人ができちゃったのかも。
あたしだけが、ずっと彼への気持ちを抱えて置き去りにされている。
そして「ジャミル君に会ったの?」「ジャミル君の魔法見た?」なんて、レイチェルに探りを入れている。
レイチェルは隊長と付き合っていて、彼に特別の感情を抱いていないことくらい分かっているくせに。
……何やってるんだろう、あたし。みっともない。
4歳年下の女の子に、お門違いの嫉妬。
◇
だらだらと荷造りをして出発、ポルト市街へやってきた。
サンチェス領までは冒険者ギルドの転移魔法専門の術師に王都まで転送してもらい、そこから迎えの馬車に乗る。
転移魔法はすごく魔力を使うから、転送は1時間に1回。
時刻表を見ると転送はついさっき、そんなわけで転送してもらえるのは1時間後。出鼻をくじかれた。ただでさえ、行く気がないというのに。
(ダルいわね……どこかで何か食べようかしら)
「いらっしゃ~い」
ギルドの近くにある酒場にやってきた。ここには来たことがないなぁ。
昼から夕方にかけての時間帯は、お客もまばらだ。
窓辺の席に案内され、ぼんやりメニューを眺める。
(『海の幸パスタ』……これにしようかなぁ)
テーブルに置いてある呼び鈴をチーンと鳴らすと、店員さんの「ハーイ」という返事と、足音が聞こえる。
「お待たせしました」
「えー……」
メニューに目を落としたままでいると、店員さんが指でテーブルをコンコンと叩いた。
(……?)
「え……!」
「よう」
顔を上げると、ジャミル君が立っていた。
(わ、わ、わ……!)
――心臓が一気に跳ね上がる。
どうしよう、どうしよう、嬉しい。ずっと会いたかった。話をしたかった。
でも……でも、今だけは会いたくなかった。
「あ、久しぶり……ここ、キミの店だったの?」
「知ってて来たんじゃねえのか。……言ったことあったろ?」
「そ、そうでしたかしら……ていうか、コックさんなのに何故注文を?」
「今の時間帯ヒマだから、ウェイターは休憩に行ってんだ。だからオレとマスターだけで回してる」
「へえ……」
「で、ご注文は」
「あ、えっと、海の幸パスタを」
「海の幸パスタ。ラーメンじゃねえのか」
「えっ、あるの?」
「ない」
「ないの~!」
あたしがツッコむと彼はイタズラっぽくニヤリと笑った。
彼の笑顔を見て胸がキュンとなってしまう。
(駄目、駄目だってば)
――これから実家に帰るの。否が応でも婚約の話が出るわ。
心を無にして挑みたいのに、それなのに今彼を前にしてあたしは胸が踊っている。
行きたくない。行きたくないなぁ……。
「海の幸パスタ一つ っと……飲み物は?」
「じゃあレモンスカッシュを」
「ん。……今日は? なんかデカイ荷物持ってっけど」
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「…………へえ」
「…………」
注文を取る手が少し止まったように見えたのは……あたしの、期待し過ぎだろうか――。
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