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8章 不穏の足音
2話 貧乏くじを引く副隊長(前)
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「クライブさん、あんたに頼みがあって」
「頼み? 何だろう」
ある日ギルドで仕事を探していたらギルドマスターから声をかけられた。
6年冒険者をやっていればこうやって名指しで依頼されることも少なくない。
「……数日前に死んだ冒険者ロブの足跡を追って欲しいという依頼なんだ」
「へえ……何か、深刻なやつだね」
先日見かけた、酒場で断罪劇を繰り広げたパーティのリーダー格の男だった。
出ていった新メンバーの女術師を追って旅に出て……それからわずか数日後、洞窟内で変死体で見つかった。
「とりあえず2週間ほどで、どんな些細なことでもいいから報告して欲しい。旅費も出るから」
「そうか。俺もそのロブの変死事件は少し気になっていたし、いいよ」
「助かるよ。件の洞窟に一番近いのはヒースコートの街だ。連絡して宿も取っておくから」
「ヒースコート! 湖畔の町の」
「そうそう。湖で穫れる魚がうまいんだよなぁ」
「あ、ああー……」
――実は俺は昔湖で溺れて死にかかったので、それ以来水辺がとにかく苦手だった。
昔は泳ぐのが得意だったが今は多分泳げない。まず入ろうと思わない。
水辺には近づきたくないし、あまり水も浴びたくない。風呂がギリギリセーフなくらいだ。
あと俺は記憶にないんだが、湖に落ちた日は大雨も降っていたらしくこちらも苦手だ。
そんな俺の気持ちを反映してか、飛竜のシーザーも雨の日は飛ばない。竜騎士やってた頃は頑張ってくれてたのになぁ……。
聞いていたら断っていたのに、人の話を最後まで聞かないのは俺の悪い癖だ。
というか、今度ギルドに提出しようとしていた「規定」に「水辺の仕事お断り」って書いていたところなのに、なんともタイミングが悪い。
(どうしよう……グレンに拝み倒して代わりに行ってもらえないかな……?)
◇
そんなわけで、グレンにお食事券とかクーポンとか色々持たせて頼み込んで行ってもらい、俺が隊長室でグレンの報告を受けているわけだが……。
「こんにちわぁ。あなたが隊長さんですかぁ?」
レイチェルが連れてきた、パーティ加入希望の魔術師らしい女の子。
一応隊長のグレンがいないから、一応副隊長の俺が応対することになってしまった。
「アタシは、レテです。レテ・スティクスといいまぁす。17歳でぇす。こう見えてもぉ、やり手の魔術師なんですよぉ」
そう言いながら女の子――レテは顔を斜めに傾け、両手の人差し指を頬に当ててウインクをする。
「あ、いや、隊長はちょっと出かけていて。俺は副隊長のクライブ・ディクソン。せっかくだけどうちはメンバーの募集はしていなくて――」
「ええええっ、そおなんですかぁ?」
レテは思い切り広げた手のひらを口に当てて、口を尖らせて眉根を下げ、目をうるうるさせる。
黒髪に灰色の目。ノルデン人だ。
ツインテールみたいな、ちょっとだけまとめて括った髪。ツーサイドアップっていうんだっけか。
身長がかなり低いので常に上目遣い。小柄な割に胸が大きく、それを強調させるようなコルセットみたいなベストを着ている。
フリルのミニスカートはかなり短く、裾からフリフリのスパッツ? みたいのが見えていて……まあ、そういうのが好きな男はたくさんいるだろう。
だが身振り手振りや間延びする言動、そこらじゅうに着けたいちごの飾りなど、俺は正直しんどい。
場所を変えて食堂で面接というか面談をしているわけだが、さっきからレイチェルとルカの視線が冷たい気がする。
さっさと切り上げて帰ってもらいたい。
「そういうわけだから、残念だけど」
「魔法使いさんが不足していたりとか、しないですかぁ?」
「いやあ、せっかくだけど――」
「レテはぁ、ただの魔法使いさんとはひと味もふた味も違うんですよぉ。なんとぉ、回復魔法だって使えちゃうんですぅ」
「……回復魔法。へえ、それは珍しいね」
通常魔術師は攻撃魔法に特化したものが多く、僧侶は補助・回復・治癒に特化した術を使う。
グレンやルカは攻撃特化、ベルナデッタは回復特化。
陰と陽とか、なんか考え方があるらしいけど詳しくは知らない。
攻撃が陽で回復が陰だっけか? 陽に偏ると陰は使えない、とかそんなんだったような。
まあとにかく、彼女のように中庸でどちらも使えるのは珍しい。
「あ、でもぉ、使えるって言っても全然大したことないんですけどぉ……」
「はは、そんな謙遜しなくても」
謙遜のつもりで言っているのかもしれないが、キッチンで野菜を剥いているレイチェルが少しムッとした顔をしている。
癒やしの術を使いたかった彼女の前で、禁句だろう。
あと「ただの魔法使いさん」と称されたルカも……表情は少ない彼女ではあるが、明らかにムッとしている。
……これはまずい。早く帰らせた方がいい。
しかし、攻撃と回復が使える、か。……最近崩壊したあの冒険者パーティの新メンバーもそうだったっけな。
(いや、まさかね……)
言っちゃ悪いが、こんなのに男どもが夢中になってパーティ崩壊なんて考えられない。
本当は帰ってもらいたいけど……でもちょっと聞くだけ聞いてみようか。
「頼み? 何だろう」
ある日ギルドで仕事を探していたらギルドマスターから声をかけられた。
6年冒険者をやっていればこうやって名指しで依頼されることも少なくない。
「……数日前に死んだ冒険者ロブの足跡を追って欲しいという依頼なんだ」
「へえ……何か、深刻なやつだね」
先日見かけた、酒場で断罪劇を繰り広げたパーティのリーダー格の男だった。
出ていった新メンバーの女術師を追って旅に出て……それからわずか数日後、洞窟内で変死体で見つかった。
「とりあえず2週間ほどで、どんな些細なことでもいいから報告して欲しい。旅費も出るから」
「そうか。俺もそのロブの変死事件は少し気になっていたし、いいよ」
「助かるよ。件の洞窟に一番近いのはヒースコートの街だ。連絡して宿も取っておくから」
「ヒースコート! 湖畔の町の」
「そうそう。湖で穫れる魚がうまいんだよなぁ」
「あ、ああー……」
――実は俺は昔湖で溺れて死にかかったので、それ以来水辺がとにかく苦手だった。
昔は泳ぐのが得意だったが今は多分泳げない。まず入ろうと思わない。
水辺には近づきたくないし、あまり水も浴びたくない。風呂がギリギリセーフなくらいだ。
あと俺は記憶にないんだが、湖に落ちた日は大雨も降っていたらしくこちらも苦手だ。
そんな俺の気持ちを反映してか、飛竜のシーザーも雨の日は飛ばない。竜騎士やってた頃は頑張ってくれてたのになぁ……。
聞いていたら断っていたのに、人の話を最後まで聞かないのは俺の悪い癖だ。
というか、今度ギルドに提出しようとしていた「規定」に「水辺の仕事お断り」って書いていたところなのに、なんともタイミングが悪い。
(どうしよう……グレンに拝み倒して代わりに行ってもらえないかな……?)
◇
そんなわけで、グレンにお食事券とかクーポンとか色々持たせて頼み込んで行ってもらい、俺が隊長室でグレンの報告を受けているわけだが……。
「こんにちわぁ。あなたが隊長さんですかぁ?」
レイチェルが連れてきた、パーティ加入希望の魔術師らしい女の子。
一応隊長のグレンがいないから、一応副隊長の俺が応対することになってしまった。
「アタシは、レテです。レテ・スティクスといいまぁす。17歳でぇす。こう見えてもぉ、やり手の魔術師なんですよぉ」
そう言いながら女の子――レテは顔を斜めに傾け、両手の人差し指を頬に当ててウインクをする。
「あ、いや、隊長はちょっと出かけていて。俺は副隊長のクライブ・ディクソン。せっかくだけどうちはメンバーの募集はしていなくて――」
「ええええっ、そおなんですかぁ?」
レテは思い切り広げた手のひらを口に当てて、口を尖らせて眉根を下げ、目をうるうるさせる。
黒髪に灰色の目。ノルデン人だ。
ツインテールみたいな、ちょっとだけまとめて括った髪。ツーサイドアップっていうんだっけか。
身長がかなり低いので常に上目遣い。小柄な割に胸が大きく、それを強調させるようなコルセットみたいなベストを着ている。
フリルのミニスカートはかなり短く、裾からフリフリのスパッツ? みたいのが見えていて……まあ、そういうのが好きな男はたくさんいるだろう。
だが身振り手振りや間延びする言動、そこらじゅうに着けたいちごの飾りなど、俺は正直しんどい。
場所を変えて食堂で面接というか面談をしているわけだが、さっきからレイチェルとルカの視線が冷たい気がする。
さっさと切り上げて帰ってもらいたい。
「そういうわけだから、残念だけど」
「魔法使いさんが不足していたりとか、しないですかぁ?」
「いやあ、せっかくだけど――」
「レテはぁ、ただの魔法使いさんとはひと味もふた味も違うんですよぉ。なんとぉ、回復魔法だって使えちゃうんですぅ」
「……回復魔法。へえ、それは珍しいね」
通常魔術師は攻撃魔法に特化したものが多く、僧侶は補助・回復・治癒に特化した術を使う。
グレンやルカは攻撃特化、ベルナデッタは回復特化。
陰と陽とか、なんか考え方があるらしいけど詳しくは知らない。
攻撃が陽で回復が陰だっけか? 陽に偏ると陰は使えない、とかそんなんだったような。
まあとにかく、彼女のように中庸でどちらも使えるのは珍しい。
「あ、でもぉ、使えるって言っても全然大したことないんですけどぉ……」
「はは、そんな謙遜しなくても」
謙遜のつもりで言っているのかもしれないが、キッチンで野菜を剥いているレイチェルが少しムッとした顔をしている。
癒やしの術を使いたかった彼女の前で、禁句だろう。
あと「ただの魔法使いさん」と称されたルカも……表情は少ない彼女ではあるが、明らかにムッとしている。
……これはまずい。早く帰らせた方がいい。
しかし、攻撃と回復が使える、か。……最近崩壊したあの冒険者パーティの新メンバーもそうだったっけな。
(いや、まさかね……)
言っちゃ悪いが、こんなのに男どもが夢中になってパーティ崩壊なんて考えられない。
本当は帰ってもらいたいけど……でもちょっと聞くだけ聞いてみようか。
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