【完結】カラスとすずらん ~意識低い系冒険者パーティの台所を預かっています~平凡なわたしと、闇を抱えた彼の恋の話~

天草こなつ

文字の大きさ
137 / 385
8章 不穏の足音

2話 貧乏くじを引く副隊長(前)

しおりを挟む
「クライブさん、あんたに頼みがあって」
「頼み? 何だろう」
 
 ある日ギルドで仕事を探していたらギルドマスターから声をかけられた。
 6年冒険者をやっていればこうやって名指しで依頼されることも少なくない。
 
「……数日前に死んだ冒険者ロブの足跡を追って欲しいという依頼なんだ」
「へえ……何か、深刻なやつだね」

 先日見かけた、酒場で断罪劇を繰り広げたパーティのリーダー格の男だった。
 出ていった新メンバーの女術師を追って旅に出て……それからわずか数日後、洞窟内で変死体で見つかった。

「とりあえず2週間ほどで、どんな些細なことでもいいから報告して欲しい。旅費も出るから」
「そうか。俺もそのロブの変死事件は少し気になっていたし、いいよ」
「助かるよ。件の洞窟に一番近いのはヒースコートの街だ。連絡して宿も取っておくから」
「ヒースコート! 湖畔の町の」
「そうそう。湖で穫れる魚がうまいんだよなぁ」
「あ、ああー……」
 
 ――実は俺は昔湖で溺れて死にかかったので、それ以来水辺がとにかく苦手だった。
 昔は泳ぐのが得意だったが今は多分泳げない。まず入ろうと思わない。
 水辺には近づきたくないし、あまり水も浴びたくない。風呂がギリギリセーフなくらいだ。
 あと俺は記憶にないんだが、湖に落ちた日は大雨も降っていたらしくこちらも苦手だ。
 そんな俺の気持ちを反映してか、飛竜のシーザーも雨の日は飛ばない。竜騎士やってた頃は頑張ってくれてたのになぁ……。
 
 聞いていたら断っていたのに、人の話を最後まで聞かないのは俺の悪い癖だ。
 というか、今度ギルドに提出しようとしていた「規定」に「水辺の仕事お断り」って書いていたところなのに、なんともタイミングが悪い。
 
(どうしよう……グレンに拝み倒して代わりに行ってもらえないかな……?)
 
 
 ◇
 
 
 そんなわけで、グレンにお食事券とかクーポンとか色々持たせて頼み込んで行ってもらい、俺が隊長室でグレンの報告を受けているわけだが……。
 
「こんにちわぁ。あなたが隊長さんですかぁ?」

 レイチェルが連れてきた、パーティ加入希望の魔術師らしい女の子。
 一応隊長のグレンがいないから、一応副隊長の俺が応対することになってしまった。
 
「アタシは、レテです。レテ・スティクスといいまぁす。17歳でぇす。こう見えてもぉ、やり手の魔術師なんですよぉ」

 そう言いながら女の子――レテは顔を斜めに傾け、両手の人差し指を頬に当ててウインクをする。

「あ、いや、隊長はちょっと出かけていて。俺は副隊長のクライブ・ディクソン。せっかくだけどうちはメンバーの募集はしていなくて――」
「ええええっ、そおなんですかぁ?」
 
 レテは思い切り広げた手のひらを口に当てて、口を尖らせて眉根を下げ、目をうるうるさせる。
 黒髪に灰色の目。ノルデン人だ。
 ツインテールみたいな、ちょっとだけまとめて括った髪。ツーサイドアップっていうんだっけか。
 身長がかなり低いので常に上目遣い。小柄な割に胸が大きく、それを強調させるようなコルセットみたいなベストを着ている。
 フリルのミニスカートはかなり短く、裾からフリフリのスパッツ? みたいのが見えていて……まあ、そういうのが好きな男はたくさんいるだろう。
 だが身振り手振りや間延びする言動、そこらじゅうに着けたいちごの飾りなど、俺は正直しんどい。
 
 場所を変えて食堂で面接というか面談をしているわけだが、さっきからレイチェルとルカの視線が冷たい気がする。
 さっさと切り上げて帰ってもらいたい。
 
「そういうわけだから、残念だけど」
「魔法使いさんが不足していたりとか、しないですかぁ?」
「いやあ、せっかくだけど――」
「レテはぁ、ただの魔法使いさんとはひと味もふた味も違うんですよぉ。なんとぉ、回復魔法だって使えちゃうんですぅ」
「……回復魔法。へえ、それは珍しいね」
 
 通常魔術師は攻撃魔法に特化したものが多く、僧侶は補助・回復・治癒に特化した術を使う。
 グレンやルカは攻撃特化、ベルナデッタは回復特化。
 陰と陽とか、なんか考え方があるらしいけど詳しくは知らない。
 攻撃が陽で回復が陰だっけか? 陽に偏ると陰は使えない、とかそんなんだったような。
 まあとにかく、彼女のように中庸でどちらも使えるのは珍しい。

「あ、でもぉ、使えるって言っても全然大したことないんですけどぉ……」
「はは、そんな謙遜しなくても」

 謙遜のつもりで言っているのかもしれないが、キッチンで野菜を剥いているレイチェルが少しムッとした顔をしている。
 癒やしの術を使いたかった彼女の前で、禁句だろう。
 あと「ただの魔法使いさん」と称されたルカも……表情は少ない彼女ではあるが、明らかにムッとしている。
 ……これはまずい。早く帰らせた方がいい。
 
 しかし、攻撃と回復が使える、か。……最近崩壊したあの冒険者パーティの新メンバーもそうだったっけな。

(いや、まさかね……)

 言っちゃ悪いが、こんなのに男どもが夢中になってパーティ崩壊なんて考えられない。
 本当は帰ってもらいたいけど……でもちょっと聞くだけ聞いてみようか。
しおりを挟む
感想 109

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

仕事で疲れて会えないと、恋人に距離を置かれましたが、彼の上司に溺愛されているので幸せです!

ぽんちゃん
恋愛
 ――仕事で疲れて会えない。  十年付き合ってきた恋人を支えてきたけど、いつも後回しにされる日々。  記念日すら仕事を優先する彼に、十分だけでいいから会いたいとお願いすると、『距離を置こう』と言われてしまう。  そして、思い出の高級レストランで、予約した席に座る恋人が、他の女性と食事をしているところを目撃してしまい――!?

美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ

さら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。 絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。 荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。 優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。 華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

処理中です...