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10章 "悲嘆"
11話 風が吹く
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「アリ、シア……?」
"アリシア"――彼が呼んだ名前に、胸が熱くなって、涙があふれる。
さっきからずっと泣いていたのに、もっともっと涙が出て止められない。
だけどさっきまでの涙とは違う。心が熱い……味わったことのない感覚に身体が震える。
彼を見ると、時間が止まったように動かない。今自分が言った言葉に驚いているのか、眼を見開いたまま手で口を覆っている。
だけどわたしが"アリシア"と復唱したのを聞いて、ハッとしたようにまた口を開いた。
「……そうだ、そうだよ……やっと、思い出した、君の、名前は」
「――ルカ。悪魔の囁きに耳を貸してはいけない」
「!!」
微笑を浮かべながら司教ロゴスは紋章の光を強める。
また頭の中に不快な高音が響き始め、わたしの名前を呼んだ彼もまた頭を抱えてうずくまった。
「いや……っ!!」
「う、ぐ……!」
「この子はちょうど"収穫"の時期なんだ。邪魔をしないでもらいたいな」
「収、穫? ……何を、言ってるんだ……」
「この誤った世界を創り直す礎になってもらうんだよ。ここまで育てるのにはかなりの刻を要したが……その分、収穫の喜びもひとしおというところだ」
「ヒッ……!」
司教ロゴスはわたしを後ろから抱きしめ、その手でわたしのあごを持ち自分の方へ向かせる。
「外界から隔絶され、ただ神のみを信じて生きた穢れなき天使をヒトの世に放つ……そこで彼らはヒトの営みを、喜びと楽しみを知る。そしてやがて、大きな怒りと悲しみも知るだろう……そこで彼らは外界の汚さに傷つけられ、初めて絶望を味わうんだ。そうなった天使達の魂は純白にして虚無。肉体から切り離しやすくなる――獲り頃というわけだ。その魂を吸い上げ創った"血の宝玉"は熟成されたワインのように、より一層香り高いものになる……」
「な、なにを、何を……言って」
「ああ……なんて美しく脆く、そして儚いのだろう。天使ルカ。僕は、君が好きだよ……」
「…………っ!」
彼の額の紋章が再び輝き、わたしの身体が宙に浮き上がる。
怖い、怖い、怖い。
言っていることが全然理解できない。だって、光の塾でそんなこと教わっていない。
この人の目を見ていると底なしの穴に吸い込まれそうな感覚を覚える。怖くて目をそらしたいのに、紋章の力なのかわたしはそこから目が離せない。
「い、いや……おに、ちゃ……たすけて……」
「もうおしゃべりは終わりにしようか、ルカ。僕の、天使……」
「やめろ、その子は天使じゃない、人間だ! ルカなんて名前でもない、……アリシアだ、僕の妹……"アリシア・ワイアット"だ!!」
「!!」
――その名前を呼ばれた瞬間ガラスが割れるような音がして、自分を覆う"何か"がパラパラと剥がれ落ちていった。
司教ロゴスの紋章の光は消え、宙に浮いていた身体が地面に落ちる。
身体が軽い。今まで何が憑いていたんだろう?
でも身体の軽さに反して頭が重い。
激流のように、頭の中に記憶が流れ込んでくる。
子供の頃のほんの少しの、幸せな家族との記憶。
お父さんがいて、お母さんがいて、それで……、
『アリシア! これ、あげる。プレゼントだよ』
『プレゼント? なあに?』
「ぼくが作ったんだ。きっとアリシアに似合うよ」
「わあ、すごい! きれい!」
「ほら、おいで。ぼくがつけてあげる。うん、やっぱり似合うなぁ……アリシアは、ぼくのお姫様だね」
――そう言って、ニコニコ笑いながらわたしの頭にお花の冠を載せてくれた。
ずっと、夢に見ていたの。
アルノー・ワイアット――わたしのお兄ちゃま。
お兄ちゃまが、泣いているわたしのところによろめきながら駆け寄ってくる。
「…………お兄ちゃま」
わたしが呼びかけると、彼は顔をくしゃくしゃにして笑ってみせた。
そして涙を流しながら唇を震わせ、わたしの顔を手で覆う――温かい。紋章の、ぬくもり……。
お兄ちゃまの胸に飛び込むと、彼も抱きかえしてくれる。
――神様はいない。でも、お兄ちゃまはいる。
夢じゃない。心の中だけじゃない。信仰なんかしなくても、お祈りなんてしなくても、ちゃんとそこにいるの。
「おにぃ、ちゃま……う、うう……」
「アリシア、アリシア……!」
「……真名を呼ぶとはね……」
「!!」
抱き合うわたし達の頭上から、声とともにロゴスの冷たい目線が注がれた。
絶えず浮かべていた笑みは消えている。
「無能に近い紋章使いには何もできまいとタカをくくってしまったな……絆というものだろうか」
目線は空をさまよい、誰へともなく一人で何か呟いている。
「色も元に戻ってしまった。……こうまで自分を取り戻してしまっては、もう何も収穫れない」
(色……?)
「……ふふ、これでは我らが神に罰せられてしまうな。さて、どうしようか……」
そこまで言ったところで彼は目線をわたし達二人に戻した。
「あ……」
――殺される……!
お兄ちゃまもそう思ったのか、わたしを抱く力を強める。
けれどそんなわたし達を見て、ロゴスはいつものように笑った。
「何も怖がることはないよ」
「え……」
「君はもはや、ただのヒトだ。……僕はもはや、君に興味を持たない。殺すほどにこだわりもないから……好きにするといい」
「…………」
「さようなら、天使ルカ。穢れにまみれた現世で苦しみもがいて生きるといい。それがヒトに堕ちた君への、何よりの罰……」
そう呟くと、彼は光に包まれる。
またあの微笑みをたたえながら、ロゴスは光とともに消えていった――。
◇
「……か、帰ったん、だろうか、あの男は……」
「…………」
ロゴスが去ったあと、わたし達二人はその場から動けずにいた。
彼のあの恐ろしさは言葉にできないものだった。去って行ったあとの方がより一層恐ろしく感じてしまう。
「ああ、ああああ……」
お兄ちゃまがため息まじりに大きく声を出して、顔を手で覆う。
「よかった……よかっ、た……」
「……だいじょうぶ?」
「大……丈夫とは言えないかな……はは……、ほら、震えてる」
わたしの肩を持つ手が震えている――そんなに怖かったんだ。それなのに、わたしのためにロゴスと言い合ってくれた。
「……お兄ちゃま……どうやって、わたしを見つけたの」
「分からないんだ……ここ数日ずっと、君に謝らないと、どうやって会おうかって考えてた。それで……仕事帰りの町中を歩いてたはずが、気づいたらこんな森の中で……君がまたあの男についていこうとしているのが見えたんだ」
「…………」
お兄ちゃまはわたしを捜していた。わたしもひょっとしたら、また会いたいと思っていたのかもしれない。
わたしは未だ震えるお兄ちゃまの左手を取った。――手袋の上から、手の甲がぼんやりと緑色に光っているのが見える。
「紋章が、わたし達を引き会わせてくれた……」
「そう……だといいね。はは……」
お兄ちゃまは力なく笑う。しばらくして、わたしの肩を持って「アリシア」と呼びかけてきた。
「なに?」
「さっきも言った通り……父さんはもうどこにいるか分からないんだ。それに母さんは施設にいる……会うことはできるけど、心が壊れてしまっているから……君のことが分からないかもしれないんだ」
「お父さん、お母さん……」
「急に会いに行っても傷つくだけになるかもしれない。だから、少しずつ……時間をかけて前に進んでいこう」
「うん……」
「これからのことだけど……ごめん、今すぐ一緒に暮らすことはできないんだ。僕はあまり稼ぎがないから……生活基盤とか家とか……準備が整ったら迎えに行くから」
「うん。わたし、待ってる……みんなの所で。……また、みんなに謝らないといけない」
また勝手にいなくなって、きっとみんな心配している。
ジャミルのことを『悪魔』なんて言って噛みついて引っ掻いてしまった。
そのことを言うと、お兄ちゃまはわたしの手を握って笑う。
「……大丈夫だよ、僕が一緒に謝ってあげる。僕もジャミルに謝らないとだし」
「うん……ありがとう、お兄ちゃま……」
「……うん。…………」
「……お兄ちゃま?」
「……あのね……お兄ちゃまって、恥ずかしいな……って」
「でも、お兄ちゃまはお兄ちゃまだわ。本当のお兄ちゃまなのに、お兄ちゃまって呼ぶのは駄目なの?」
「お、お兄ちゃまって言い過ぎだよ……昔も恥ずかしかったけど、今は大人だからもっと……」
「アリシアはこれからもお兄ちゃまをお兄ちゃまって呼ぶわ」
「う、うう……」
――それから少ししてから、二人で手を繋いで森を歩いた。
お兄ちゃまもわたしも今いる所がどこなのか分からないし、転移魔法も使えないまま。
だけどひたすら歩いて、街の灯りを探した。
前フランツがわたしを見つけてくれた時は、彼がわたしの手を引っ張ってくれた。
そして今、同じようにわたしを見つけてくれたお兄ちゃまと手を繋いでいる――恐ろしさのあまり腰が抜けて立てないという彼を、わたしが引っ張り起こした。
わたしのお兄ちゃまはグレンのように剣や魔法を使えない、戦う力のない弱い人。
子供のフランツよりも心が弱い、臆病な人。
でもわたしはそれが全部嬉しい。
お兄ちゃまが言うように、苦しいことばかりで何も幸せじゃないのかもしれない。
でもこれからは、こうやって手を取り合って生きていける。
砦のみんながわたしを守ってくれた。同じようにわたしは大切な人を、物を守りたい。
――風が吹く。
冷たく寒い、冬の風。
でもそれが、停滞していた時間が動いたことを教えてくれている。
"アリシア"――彼が呼んだ名前に、胸が熱くなって、涙があふれる。
さっきからずっと泣いていたのに、もっともっと涙が出て止められない。
だけどさっきまでの涙とは違う。心が熱い……味わったことのない感覚に身体が震える。
彼を見ると、時間が止まったように動かない。今自分が言った言葉に驚いているのか、眼を見開いたまま手で口を覆っている。
だけどわたしが"アリシア"と復唱したのを聞いて、ハッとしたようにまた口を開いた。
「……そうだ、そうだよ……やっと、思い出した、君の、名前は」
「――ルカ。悪魔の囁きに耳を貸してはいけない」
「!!」
微笑を浮かべながら司教ロゴスは紋章の光を強める。
また頭の中に不快な高音が響き始め、わたしの名前を呼んだ彼もまた頭を抱えてうずくまった。
「いや……っ!!」
「う、ぐ……!」
「この子はちょうど"収穫"の時期なんだ。邪魔をしないでもらいたいな」
「収、穫? ……何を、言ってるんだ……」
「この誤った世界を創り直す礎になってもらうんだよ。ここまで育てるのにはかなりの刻を要したが……その分、収穫の喜びもひとしおというところだ」
「ヒッ……!」
司教ロゴスはわたしを後ろから抱きしめ、その手でわたしのあごを持ち自分の方へ向かせる。
「外界から隔絶され、ただ神のみを信じて生きた穢れなき天使をヒトの世に放つ……そこで彼らはヒトの営みを、喜びと楽しみを知る。そしてやがて、大きな怒りと悲しみも知るだろう……そこで彼らは外界の汚さに傷つけられ、初めて絶望を味わうんだ。そうなった天使達の魂は純白にして虚無。肉体から切り離しやすくなる――獲り頃というわけだ。その魂を吸い上げ創った"血の宝玉"は熟成されたワインのように、より一層香り高いものになる……」
「な、なにを、何を……言って」
「ああ……なんて美しく脆く、そして儚いのだろう。天使ルカ。僕は、君が好きだよ……」
「…………っ!」
彼の額の紋章が再び輝き、わたしの身体が宙に浮き上がる。
怖い、怖い、怖い。
言っていることが全然理解できない。だって、光の塾でそんなこと教わっていない。
この人の目を見ていると底なしの穴に吸い込まれそうな感覚を覚える。怖くて目をそらしたいのに、紋章の力なのかわたしはそこから目が離せない。
「い、いや……おに、ちゃ……たすけて……」
「もうおしゃべりは終わりにしようか、ルカ。僕の、天使……」
「やめろ、その子は天使じゃない、人間だ! ルカなんて名前でもない、……アリシアだ、僕の妹……"アリシア・ワイアット"だ!!」
「!!」
――その名前を呼ばれた瞬間ガラスが割れるような音がして、自分を覆う"何か"がパラパラと剥がれ落ちていった。
司教ロゴスの紋章の光は消え、宙に浮いていた身体が地面に落ちる。
身体が軽い。今まで何が憑いていたんだろう?
でも身体の軽さに反して頭が重い。
激流のように、頭の中に記憶が流れ込んでくる。
子供の頃のほんの少しの、幸せな家族との記憶。
お父さんがいて、お母さんがいて、それで……、
『アリシア! これ、あげる。プレゼントだよ』
『プレゼント? なあに?』
「ぼくが作ったんだ。きっとアリシアに似合うよ」
「わあ、すごい! きれい!」
「ほら、おいで。ぼくがつけてあげる。うん、やっぱり似合うなぁ……アリシアは、ぼくのお姫様だね」
――そう言って、ニコニコ笑いながらわたしの頭にお花の冠を載せてくれた。
ずっと、夢に見ていたの。
アルノー・ワイアット――わたしのお兄ちゃま。
お兄ちゃまが、泣いているわたしのところによろめきながら駆け寄ってくる。
「…………お兄ちゃま」
わたしが呼びかけると、彼は顔をくしゃくしゃにして笑ってみせた。
そして涙を流しながら唇を震わせ、わたしの顔を手で覆う――温かい。紋章の、ぬくもり……。
お兄ちゃまの胸に飛び込むと、彼も抱きかえしてくれる。
――神様はいない。でも、お兄ちゃまはいる。
夢じゃない。心の中だけじゃない。信仰なんかしなくても、お祈りなんてしなくても、ちゃんとそこにいるの。
「おにぃ、ちゃま……う、うう……」
「アリシア、アリシア……!」
「……真名を呼ぶとはね……」
「!!」
抱き合うわたし達の頭上から、声とともにロゴスの冷たい目線が注がれた。
絶えず浮かべていた笑みは消えている。
「無能に近い紋章使いには何もできまいとタカをくくってしまったな……絆というものだろうか」
目線は空をさまよい、誰へともなく一人で何か呟いている。
「色も元に戻ってしまった。……こうまで自分を取り戻してしまっては、もう何も収穫れない」
(色……?)
「……ふふ、これでは我らが神に罰せられてしまうな。さて、どうしようか……」
そこまで言ったところで彼は目線をわたし達二人に戻した。
「あ……」
――殺される……!
お兄ちゃまもそう思ったのか、わたしを抱く力を強める。
けれどそんなわたし達を見て、ロゴスはいつものように笑った。
「何も怖がることはないよ」
「え……」
「君はもはや、ただのヒトだ。……僕はもはや、君に興味を持たない。殺すほどにこだわりもないから……好きにするといい」
「…………」
「さようなら、天使ルカ。穢れにまみれた現世で苦しみもがいて生きるといい。それがヒトに堕ちた君への、何よりの罰……」
そう呟くと、彼は光に包まれる。
またあの微笑みをたたえながら、ロゴスは光とともに消えていった――。
◇
「……か、帰ったん、だろうか、あの男は……」
「…………」
ロゴスが去ったあと、わたし達二人はその場から動けずにいた。
彼のあの恐ろしさは言葉にできないものだった。去って行ったあとの方がより一層恐ろしく感じてしまう。
「ああ、ああああ……」
お兄ちゃまがため息まじりに大きく声を出して、顔を手で覆う。
「よかった……よかっ、た……」
「……だいじょうぶ?」
「大……丈夫とは言えないかな……はは……、ほら、震えてる」
わたしの肩を持つ手が震えている――そんなに怖かったんだ。それなのに、わたしのためにロゴスと言い合ってくれた。
「……お兄ちゃま……どうやって、わたしを見つけたの」
「分からないんだ……ここ数日ずっと、君に謝らないと、どうやって会おうかって考えてた。それで……仕事帰りの町中を歩いてたはずが、気づいたらこんな森の中で……君がまたあの男についていこうとしているのが見えたんだ」
「…………」
お兄ちゃまはわたしを捜していた。わたしもひょっとしたら、また会いたいと思っていたのかもしれない。
わたしは未だ震えるお兄ちゃまの左手を取った。――手袋の上から、手の甲がぼんやりと緑色に光っているのが見える。
「紋章が、わたし達を引き会わせてくれた……」
「そう……だといいね。はは……」
お兄ちゃまは力なく笑う。しばらくして、わたしの肩を持って「アリシア」と呼びかけてきた。
「なに?」
「さっきも言った通り……父さんはもうどこにいるか分からないんだ。それに母さんは施設にいる……会うことはできるけど、心が壊れてしまっているから……君のことが分からないかもしれないんだ」
「お父さん、お母さん……」
「急に会いに行っても傷つくだけになるかもしれない。だから、少しずつ……時間をかけて前に進んでいこう」
「うん……」
「これからのことだけど……ごめん、今すぐ一緒に暮らすことはできないんだ。僕はあまり稼ぎがないから……生活基盤とか家とか……準備が整ったら迎えに行くから」
「うん。わたし、待ってる……みんなの所で。……また、みんなに謝らないといけない」
また勝手にいなくなって、きっとみんな心配している。
ジャミルのことを『悪魔』なんて言って噛みついて引っ掻いてしまった。
そのことを言うと、お兄ちゃまはわたしの手を握って笑う。
「……大丈夫だよ、僕が一緒に謝ってあげる。僕もジャミルに謝らないとだし」
「うん……ありがとう、お兄ちゃま……」
「……うん。…………」
「……お兄ちゃま?」
「……あのね……お兄ちゃまって、恥ずかしいな……って」
「でも、お兄ちゃまはお兄ちゃまだわ。本当のお兄ちゃまなのに、お兄ちゃまって呼ぶのは駄目なの?」
「お、お兄ちゃまって言い過ぎだよ……昔も恥ずかしかったけど、今は大人だからもっと……」
「アリシアはこれからもお兄ちゃまをお兄ちゃまって呼ぶわ」
「う、うう……」
――それから少ししてから、二人で手を繋いで森を歩いた。
お兄ちゃまもわたしも今いる所がどこなのか分からないし、転移魔法も使えないまま。
だけどひたすら歩いて、街の灯りを探した。
前フランツがわたしを見つけてくれた時は、彼がわたしの手を引っ張ってくれた。
そして今、同じようにわたしを見つけてくれたお兄ちゃまと手を繋いでいる――恐ろしさのあまり腰が抜けて立てないという彼を、わたしが引っ張り起こした。
わたしのお兄ちゃまはグレンのように剣や魔法を使えない、戦う力のない弱い人。
子供のフランツよりも心が弱い、臆病な人。
でもわたしはそれが全部嬉しい。
お兄ちゃまが言うように、苦しいことばかりで何も幸せじゃないのかもしれない。
でもこれからは、こうやって手を取り合って生きていける。
砦のみんながわたしを守ってくれた。同じようにわたしは大切な人を、物を守りたい。
――風が吹く。
冷たく寒い、冬の風。
でもそれが、停滞していた時間が動いたことを教えてくれている。
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