96 / 118
5章 薄氷の上
28話 熱情(1)
しおりを挟む
「魔力供給」は、口づけを介して行う。
魔力を注ぎ終えるまでの時間は5秒ほど。
そのやりとりには〝終わり〟がある。
だが今している行為に、終わりはない――。
「ふっ、ん……」
舌が絡み合う水音、お互いの吐息と掠れ声――それしか聞こえてこない。
熱い。身体が痺れる。立っていられない。
「あ……」
唇が離れた。
またすぐに唇を合わせるのだろうか、それともさっきみたいに耳を舐めたりするのだろうか。
どっちでもいい。もっと求められたい。
よく見ると、彼の目も少し潤んでいる。
今の僕と同じ気持ちなのだろうか?
そうだったら、嬉しい――……。
(ちがう……)
――「嬉しい」なんて、そんな綺麗で純粋な気持ちじゃない。
「興奮する」の方が適切な気がする。
何を考えているんだろう、僕は。
頭がおかしい。変態なんじゃないのか……。
「トモミチ……」
頬を持って、彼の名を呼ぶ。
呼んだのはいいが、続く言葉を考えていない。
何を言えばいい?
「好きだ」はさっき言った。
何か褒めた方がいい?
「かっこいい」とか「素敵だ」とか?
……違うな。変だな、それは。
「トモ、ミチ……」
「なに? どうした」
「あの……」
もっとキスして欲しい。抱きしめて欲しい。
もっと、もっと、僕を――……。
「気持ち、いい……」
吐息まじりにそう漏らすと、彼の顔から表情が消えた。
また言葉選びを失敗してしまったのだろうか、と焦ったのも束の間……。
「んっ……」
再度唇を塞がれ、舌を差し込まれる。
肩を抱く手の力が最初よりも強い。その状態で後頭部を持って、舌を絡めながら時折舌を吸われ……。
「ん、んっ……」
応えたいのに、うまく舌を動かせない。
それを楽しんでいるかのように彼はフッと目を細める。
〝キス〟という行為をしたことがないから全然分からないが、もしかしてトモミチはキスがすごく上手いんじゃないだろうか?
身体が溶かされそうだ――さっきからずっと足に力が入らず、1歩、2歩と後ずさりしてしまっている。
この庵にある居室は全部狭い。
今僕がいる部屋も同様だ。テーブルの近くに衝立が置いてあり、そのすぐ向こうにベッドがある。
「あっ……」
後ずさりしているうちに膝裏がベッドにぶつかり、後ろに倒れ込んでしまった。
その拍子に寝間着がめくれ上がり、腹部が少し露わになる。
隠そうと手をやると、その手をトモミチにつかまれた。
身体の側面が少し沈む感覚がする。トモミチがベッドに膝で乗り上げてきているからだ。
トモミチは自分の靴と僕の靴を剥ぎ取って、ベッドの下にコン、と投げ置いた。
すぐに僕の顔の横に手が置かれ、彼が上にのしかかってくる。
「っ……」
――どうしよう。
この状態でキスをしたら、もう後ろに下がれない。
魔力供給と違ってキスには終わりがない。この状態でのキスは、逃げ場がない。
もうひたすらに、彼を受け入れることしか……。
唇を合わせるため、彼が顔をまた近づけてくる。
睫毛が長くて、綺麗だ。「色気がある」って、こういうのを言うんだろうか。
「ひゃっ……!?」
頬にキスするのと同時にトモミチが、先ほどめくれ上がった服の裾に手を差し込んでくる。
腹を撫でたかと思うと指でへそをスルッとなぞり、それを繰り返しながらまた耳を食み、舐める。
「あ、あ……」
変な声が出るのを抑えられない。
たまらず手で口を覆うとトモミチがその手を払いのけ、唇を軽く重ねてきた。
すぐに離れてしまってもどかしい。
ねだるような目でトモミチを見上げると、彼は目を細め口角を上げた。
その仕草にも胸が高鳴る。
「と、トモ、ミチ……」
「舌、出して」
そう言って彼が顔を近づけてきたので、要求通りに舌を少し出した。
また深いキスが出来る、と期待したが、彼の反応は僕が想定しないものだった。
「ん……どうしよっかな」
「え?」
「なんか遠慮がちじゃない? そんなんでいいんかな」
「な、なに……」
「キスしたい?」
唇を噛みしめて何回もうなずいたが、唇が重ねられることはない。
「あかんわ。『キスしたい』ってちゃんと言うてよ」
「な、なに、なんでそんなこと、言う――」
「キスしたい?」
「……っ、し、したい。キスしたい。……ばか、トモミチ。なんで」
「ゴメンなあ。オレ、こうやねん」
そう言ってトモミチはまた笑い、顔を近づけてくる。
が、僕はとっさに彼の両頬を持って阻止した。
「……どした? 怒った?」
「違う。あの……」
「ん?」
トモミチは首をかしげ、キョトンとしている。
――心臓がバクバクと音を立てる。
いいだろうか、今の希望を伝えても……。
「キス……もっと激しく、してほしい」
震える声でそうつぶやくとトモミチは目を最大限くらいに見開いた。
「激しく って? どう――」
「前やったみたいに、強く……。……押さえつけたって、いいから、あの……」
「え、マジで? そういうのが好きなん?」
「…………」
心底驚いた顔でそう問われ、気持ちが萎縮してしまう。
「ダメ、なのか」
「や、ちょっとビックリしただけ。ロラン君……意外とドMやねんな」
「ど……?」
「いじめられるのが好きな変態ってこと」
「……っ」
からかうように言われたその言葉に顔がカーッと熱くなり、思わずトモミチの肩を拳で叩く。
「……僕は悪くない! トモミチが僕をこうしたんじゃないか! 僕がそういうの好きだって、トモミチが」
「そっか、分かった。……ゴメンな。責任取るから」
「んっ……!」
ベッドについた手で顔を抱え込まれ、舌を差し込まれる。
顔を動かせない。彼のキスを受け入れるしかできない。
僕の要求通りにトモミチは貪るように口内を荒々しく探り、時折僕の舌を強く舐る。
「う、ん、んっ、……はぁ……」
――気持ちいい。
心に抱いていた希望が、全部全部叶えられている。
トモミチが好きだ。
抱きしめてほしい、キスしてほしい。
優しくなくていい――もちろん、そっちだって好きだけれど。
それより、強引に押さえつけて、自由を制限して、激しく求めて欲しいんだ。
だってその方が、興奮するから。
僕は……トモミチに奪われるのが、たまらなく好きだ――。
魔力を注ぎ終えるまでの時間は5秒ほど。
そのやりとりには〝終わり〟がある。
だが今している行為に、終わりはない――。
「ふっ、ん……」
舌が絡み合う水音、お互いの吐息と掠れ声――それしか聞こえてこない。
熱い。身体が痺れる。立っていられない。
「あ……」
唇が離れた。
またすぐに唇を合わせるのだろうか、それともさっきみたいに耳を舐めたりするのだろうか。
どっちでもいい。もっと求められたい。
よく見ると、彼の目も少し潤んでいる。
今の僕と同じ気持ちなのだろうか?
そうだったら、嬉しい――……。
(ちがう……)
――「嬉しい」なんて、そんな綺麗で純粋な気持ちじゃない。
「興奮する」の方が適切な気がする。
何を考えているんだろう、僕は。
頭がおかしい。変態なんじゃないのか……。
「トモミチ……」
頬を持って、彼の名を呼ぶ。
呼んだのはいいが、続く言葉を考えていない。
何を言えばいい?
「好きだ」はさっき言った。
何か褒めた方がいい?
「かっこいい」とか「素敵だ」とか?
……違うな。変だな、それは。
「トモ、ミチ……」
「なに? どうした」
「あの……」
もっとキスして欲しい。抱きしめて欲しい。
もっと、もっと、僕を――……。
「気持ち、いい……」
吐息まじりにそう漏らすと、彼の顔から表情が消えた。
また言葉選びを失敗してしまったのだろうか、と焦ったのも束の間……。
「んっ……」
再度唇を塞がれ、舌を差し込まれる。
肩を抱く手の力が最初よりも強い。その状態で後頭部を持って、舌を絡めながら時折舌を吸われ……。
「ん、んっ……」
応えたいのに、うまく舌を動かせない。
それを楽しんでいるかのように彼はフッと目を細める。
〝キス〟という行為をしたことがないから全然分からないが、もしかしてトモミチはキスがすごく上手いんじゃないだろうか?
身体が溶かされそうだ――さっきからずっと足に力が入らず、1歩、2歩と後ずさりしてしまっている。
この庵にある居室は全部狭い。
今僕がいる部屋も同様だ。テーブルの近くに衝立が置いてあり、そのすぐ向こうにベッドがある。
「あっ……」
後ずさりしているうちに膝裏がベッドにぶつかり、後ろに倒れ込んでしまった。
その拍子に寝間着がめくれ上がり、腹部が少し露わになる。
隠そうと手をやると、その手をトモミチにつかまれた。
身体の側面が少し沈む感覚がする。トモミチがベッドに膝で乗り上げてきているからだ。
トモミチは自分の靴と僕の靴を剥ぎ取って、ベッドの下にコン、と投げ置いた。
すぐに僕の顔の横に手が置かれ、彼が上にのしかかってくる。
「っ……」
――どうしよう。
この状態でキスをしたら、もう後ろに下がれない。
魔力供給と違ってキスには終わりがない。この状態でのキスは、逃げ場がない。
もうひたすらに、彼を受け入れることしか……。
唇を合わせるため、彼が顔をまた近づけてくる。
睫毛が長くて、綺麗だ。「色気がある」って、こういうのを言うんだろうか。
「ひゃっ……!?」
頬にキスするのと同時にトモミチが、先ほどめくれ上がった服の裾に手を差し込んでくる。
腹を撫でたかと思うと指でへそをスルッとなぞり、それを繰り返しながらまた耳を食み、舐める。
「あ、あ……」
変な声が出るのを抑えられない。
たまらず手で口を覆うとトモミチがその手を払いのけ、唇を軽く重ねてきた。
すぐに離れてしまってもどかしい。
ねだるような目でトモミチを見上げると、彼は目を細め口角を上げた。
その仕草にも胸が高鳴る。
「と、トモ、ミチ……」
「舌、出して」
そう言って彼が顔を近づけてきたので、要求通りに舌を少し出した。
また深いキスが出来る、と期待したが、彼の反応は僕が想定しないものだった。
「ん……どうしよっかな」
「え?」
「なんか遠慮がちじゃない? そんなんでいいんかな」
「な、なに……」
「キスしたい?」
唇を噛みしめて何回もうなずいたが、唇が重ねられることはない。
「あかんわ。『キスしたい』ってちゃんと言うてよ」
「な、なに、なんでそんなこと、言う――」
「キスしたい?」
「……っ、し、したい。キスしたい。……ばか、トモミチ。なんで」
「ゴメンなあ。オレ、こうやねん」
そう言ってトモミチはまた笑い、顔を近づけてくる。
が、僕はとっさに彼の両頬を持って阻止した。
「……どした? 怒った?」
「違う。あの……」
「ん?」
トモミチは首をかしげ、キョトンとしている。
――心臓がバクバクと音を立てる。
いいだろうか、今の希望を伝えても……。
「キス……もっと激しく、してほしい」
震える声でそうつぶやくとトモミチは目を最大限くらいに見開いた。
「激しく って? どう――」
「前やったみたいに、強く……。……押さえつけたって、いいから、あの……」
「え、マジで? そういうのが好きなん?」
「…………」
心底驚いた顔でそう問われ、気持ちが萎縮してしまう。
「ダメ、なのか」
「や、ちょっとビックリしただけ。ロラン君……意外とドMやねんな」
「ど……?」
「いじめられるのが好きな変態ってこと」
「……っ」
からかうように言われたその言葉に顔がカーッと熱くなり、思わずトモミチの肩を拳で叩く。
「……僕は悪くない! トモミチが僕をこうしたんじゃないか! 僕がそういうの好きだって、トモミチが」
「そっか、分かった。……ゴメンな。責任取るから」
「んっ……!」
ベッドについた手で顔を抱え込まれ、舌を差し込まれる。
顔を動かせない。彼のキスを受け入れるしかできない。
僕の要求通りにトモミチは貪るように口内を荒々しく探り、時折僕の舌を強く舐る。
「う、ん、んっ、……はぁ……」
――気持ちいい。
心に抱いていた希望が、全部全部叶えられている。
トモミチが好きだ。
抱きしめてほしい、キスしてほしい。
優しくなくていい――もちろん、そっちだって好きだけれど。
それより、強引に押さえつけて、自由を制限して、激しく求めて欲しいんだ。
だってその方が、興奮するから。
僕は……トモミチに奪われるのが、たまらなく好きだ――。
10
あなたにおすすめの小説
強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない
砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。
自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。
ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。
とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。
恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。
ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。
落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!?
最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。
12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
魔法使い、双子の悪魔を飼う
よんど
BL
「僕、魔法使いでよかった」
リュシーは宮廷専属の優秀な魔法使い。
人が寄りつけない程強い自身の力のせいで常に孤独なリュシーは、ある日何気なく街を歩いていた際に闇商人の話を聞いてしまう。貴重で価値ある''モノ''を高値で買い取る悪趣味な会が近くであるらしく気になったリュシーは其処で不思議な双子と出逢いを果たす。
本の見よう見まねで無償の愛を与え続けるリュシーに育てられた双子はいつしか胸の内に何とも言えない感情を抱く様になり...
独りぼっちだった魔法使いが出逢いを通して彼等と関係を紡いでいき幸せを知る微闇要素有りのBLファンタジー。
(※) 過激描写のある話に付けています。
*** 攻め視点
※不定期更新です。
※誤字脱字の報告助かるので嬉しいです。
※何でもOKな方のみ拝読お願いします。
扉絵
YOHJI@yohji_fanart様
(無断転載×)
行き遅れ王女、重すぎる軍団長に肉で釣られる
春月もも
恋愛
25歳、独身、第四王女システィーナ。
夜会でも放置されがちな行き遅れ王女の前に、ある夜突然現れたのは、ローストビーフを差し出す重すぎる第三軍団長だった。
形のない愛は信じない。
でも、出来立ての肉は信じてしまう。
肉に釣られ、距離を詰められ、気づけば下賜され、そして初夜へ。
これは、行き遅れ王女が重たい愛で満たされるまでの、ちょっとおかしなお話。
終焉の晩餐会:追放される悪役令息は、狂欲の執事と飢えた庭師を飼い慣らす
河野彰
BL
かつて、ローゼンベルグ家の庭には白薔薇が咲き誇っていた。嫡男リュシアンは、そのバラのように繊細で、風が吹けば折れてしまいそうなほど心優しい青年だった。しかし、名門という名の虚飾は、代々の放蕩が積み上げた「負の遺産」によって、音を立てて崩れようとしていた。
悪役になり切れぬリュシアンと彼を執拗にいたぶる執事のフェラム、純粋な愛情を注ぐ?庭師のルタムの狂気の三重奏。
可哀想は可愛い
綿毛ぽぽ
BL
平民、ビビり、陰キャなセシリオは王立魔術学園へ入学を機に高校デビューを目指したが敢え無く失敗し不良のパシリをさせられる毎日。
同室者の男にも呆れられ絶望するセシリオに天使のような男が現れるが、彼もかなりイカれた野郎のようで……?セシリオは理想の平和な学園生活を送る事が出来るだろうか。また激重感情を抱えた男から逃げられるだろうか。
「むむむ無理無理!助けて!」
━━━━━━━━━━━
ろくな男はいません。
世界観がごちゃごちゃです。余り深く考えずに暖かい目で読んで頂けたら、と思います。
表紙はくま様からお借りしました。
過保護な父の歪んだ愛着。旅立ちを控えた俺の身体は、夜ごとに父の形で塗り潰される
中山(ほ)
BL
「パックの中、僕の形になっちゃったね」
夢か現か。耳元で囁かれる甘い声と、内側を執拗に掻き回す熱。翌朝、自室で目覚めたパックに、昨夜の記憶はない。ただ、疼くような下腹部の熱だけが残っていた。
相談しようと向かった相手こそが、自分を侵食している張本人だとも知らずに、パックは父の部屋の扉を開く。
このお話はムーンライトでも投稿してます〜
定時後、指先が覚えている
こさ
BL
職場で長く反目し合ってきた二人。
それでも定時後の時間だけは、少しずつ重なっていく。
触れるはずのなかった指先。
逸らさなかった視線。
何も始まっていないのに、
もう偶然とは呼べなくなった距離。
静かなオフィスでゆっくりと近づいていく、
等身大の社会人BL。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる