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6章 最後の1枚
4話 非常事態
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「……待たせた。出発しよう」
図書館に返す本、それと薬草をいくつか持ってビクトル達の元へ戻った。
「レミ、夕食の用意はいらないから」
「はい。あの……ご、ご無事で」
「ありがとう」
「では、行きましょうか。まずはザビーネ様の元へ向かいます。……皆、私のそばに」
ビクトルの言葉を受け、彼の近くに寄る。
全員集まったのを確認するとビクトルは目を閉じ、念じた。
ほどなくして足下に大きな円が広がり、白い光を放ち始める。
転移魔法だ――意識をグッと掴まれるような感覚を覚えると同時に、厨房の景色が消えた――。
「……まあ、ロラン。あなたも来てくれたのね」
景色がどこかの部屋に切り替わった。目の前にザビーネが立っている。
その手に、電話の取っ手――〝受話器〟というものを持っている。以前僕達を迎え入れたときと違い、表情が険しい。
「ザビーネ様。どうです、彼の様子は」
ビクトルが尋ねるとザビーネはうつむいて首を振り、受話器を電話の上に置いた。
「……よくないわね。電話が切れてしまった」
「よ……よくないというのは? デンワが切れたら、何がどう……」
「電話は魔力で動いているのよ。途中で切れるということはあの子の魔力が尽きたか、もしくは……」
「…………」
あとに続く言葉を想像して、体温が下がる感覚を覚える。
魔力で動く電話で、会話を維持できなくなる理由――魔力が尽きて倒れたか、他者の物理的な〝力〟によって絶たれたか……。
「なぜ……その団体は、屍霊術師を憎んでいるんじゃないのか? トミーを襲って、そいつらに何の利益がある!?」
思わず声を荒げると、両肩に何か置かれる感覚を覚えた。
「……先生。気持ちは分かるけれど、少し落ち着きましょう」
アンソニーが後ろから僕の肩に手を置いてきていた。
何も返せずただ口を引き結んでいると彼は微笑を浮かべ、ザビーネ達の方を向いて口を開いた。
「ザビーネ先生、相手の情報はあるのかしら? 人数とか、どういう武器を持っているとか」
「分からないわ。さすがのあの子も、冷静さを欠いていたから」
「……無理もないわね。カレ、どー見ても『戦う人』ってカンジじゃないもの」
「分かることといえば、そう――『今、地下室にいる』ということくらいかしら」
「……地下室があるのですか? 屍霊術師でもないのに、珍しいですね」
「私達と異世界人では、〝地下〟に対する認識が違うのよ。彼らにとってはそれほど忌むべきものではないらしいわ」
「…………」
――ビクトルとザビーネのやりとりを聞いて1人、安堵と不安に襲われている。
ニライ・カナイ現地人の住居や施設に地下室は存在しない。
ニライ・カナイの地下には底の海、そして黒の大河が存在する。いずれも、〝清廉〟でない魂が流れる場所。
この世界に於いて〝地下〟は、〝死〟に属するところ。不吉で忌むべき場所だ。
住居に地下室を設けるニライ・カナイ人は、屍霊術師のみ。
地下室には作成途中のホロウや、ホロウを作るための泥を保管している。
屍霊術師にとっても地下室は〝死人のための場所〟なのだ。
よって、生まれて以来屍霊術に関連を持ってこなかったニライ・カナイの現地人には、「地下に逃げる」「地下を探す」という考え自体がない。
トミーは地下にいる。彼が相手取っている人間がニライ・カナイの者なら無事にやり過ごせるだろう。
だが、空の連盟の構成員は異世界人だ。
地下へ逃げたところで安全を確保できるとは思えない……。
「……話している途中で声が途切れ途切れになって、『外に秘密の出口が』って言ったところで電話が切れてしまった」
「そこで倒れたってことかしら。なんにせよ、現地へ急いだ方がよさそうね」
アンソニーの言葉に皆がうなずく。
相手の人数も武器も把握できないなら、作戦の立てようがない。
現地へ行って確かめるしかない。
「……ザビーネ様、私は彼の住居を知らないので飛べません。ザビーネ様の魔法で飛ばすことはできますか」
「任せてちょうだい。けど、地下には転移魔法の力は及ばないから、地上……あの子の家の近くの、隠れられそうなところへ飛ばすわね」
そう言うとザビーネは目を閉じ、僕らに向けて両手のひらを突き出して念じ始めた。
キーンという音を立てながら、足下に光の円が拡がる。
「お願いするわね、みんな。……あの子を助けたら、すぐに逃げるのよ。無益な戦いはしないように――」
そこまで聞き届けたところでザビーネと彼女の部屋の景色が消えた――。
「……え……?」
次の瞬間現れた景色に、全員が息を呑んだ。
赤い光が辺りを明るく照りつけ、熱風が僕達を包む。
パキ、パキ、と、木材が割れる音が聞こえてくる。
大きな大きな炎が、トミーの家を覆い隠していた――。
図書館に返す本、それと薬草をいくつか持ってビクトル達の元へ戻った。
「レミ、夕食の用意はいらないから」
「はい。あの……ご、ご無事で」
「ありがとう」
「では、行きましょうか。まずはザビーネ様の元へ向かいます。……皆、私のそばに」
ビクトルの言葉を受け、彼の近くに寄る。
全員集まったのを確認するとビクトルは目を閉じ、念じた。
ほどなくして足下に大きな円が広がり、白い光を放ち始める。
転移魔法だ――意識をグッと掴まれるような感覚を覚えると同時に、厨房の景色が消えた――。
「……まあ、ロラン。あなたも来てくれたのね」
景色がどこかの部屋に切り替わった。目の前にザビーネが立っている。
その手に、電話の取っ手――〝受話器〟というものを持っている。以前僕達を迎え入れたときと違い、表情が険しい。
「ザビーネ様。どうです、彼の様子は」
ビクトルが尋ねるとザビーネはうつむいて首を振り、受話器を電話の上に置いた。
「……よくないわね。電話が切れてしまった」
「よ……よくないというのは? デンワが切れたら、何がどう……」
「電話は魔力で動いているのよ。途中で切れるということはあの子の魔力が尽きたか、もしくは……」
「…………」
あとに続く言葉を想像して、体温が下がる感覚を覚える。
魔力で動く電話で、会話を維持できなくなる理由――魔力が尽きて倒れたか、他者の物理的な〝力〟によって絶たれたか……。
「なぜ……その団体は、屍霊術師を憎んでいるんじゃないのか? トミーを襲って、そいつらに何の利益がある!?」
思わず声を荒げると、両肩に何か置かれる感覚を覚えた。
「……先生。気持ちは分かるけれど、少し落ち着きましょう」
アンソニーが後ろから僕の肩に手を置いてきていた。
何も返せずただ口を引き結んでいると彼は微笑を浮かべ、ザビーネ達の方を向いて口を開いた。
「ザビーネ先生、相手の情報はあるのかしら? 人数とか、どういう武器を持っているとか」
「分からないわ。さすがのあの子も、冷静さを欠いていたから」
「……無理もないわね。カレ、どー見ても『戦う人』ってカンジじゃないもの」
「分かることといえば、そう――『今、地下室にいる』ということくらいかしら」
「……地下室があるのですか? 屍霊術師でもないのに、珍しいですね」
「私達と異世界人では、〝地下〟に対する認識が違うのよ。彼らにとってはそれほど忌むべきものではないらしいわ」
「…………」
――ビクトルとザビーネのやりとりを聞いて1人、安堵と不安に襲われている。
ニライ・カナイ現地人の住居や施設に地下室は存在しない。
ニライ・カナイの地下には底の海、そして黒の大河が存在する。いずれも、〝清廉〟でない魂が流れる場所。
この世界に於いて〝地下〟は、〝死〟に属するところ。不吉で忌むべき場所だ。
住居に地下室を設けるニライ・カナイ人は、屍霊術師のみ。
地下室には作成途中のホロウや、ホロウを作るための泥を保管している。
屍霊術師にとっても地下室は〝死人のための場所〟なのだ。
よって、生まれて以来屍霊術に関連を持ってこなかったニライ・カナイの現地人には、「地下に逃げる」「地下を探す」という考え自体がない。
トミーは地下にいる。彼が相手取っている人間がニライ・カナイの者なら無事にやり過ごせるだろう。
だが、空の連盟の構成員は異世界人だ。
地下へ逃げたところで安全を確保できるとは思えない……。
「……話している途中で声が途切れ途切れになって、『外に秘密の出口が』って言ったところで電話が切れてしまった」
「そこで倒れたってことかしら。なんにせよ、現地へ急いだ方がよさそうね」
アンソニーの言葉に皆がうなずく。
相手の人数も武器も把握できないなら、作戦の立てようがない。
現地へ行って確かめるしかない。
「……ザビーネ様、私は彼の住居を知らないので飛べません。ザビーネ様の魔法で飛ばすことはできますか」
「任せてちょうだい。けど、地下には転移魔法の力は及ばないから、地上……あの子の家の近くの、隠れられそうなところへ飛ばすわね」
そう言うとザビーネは目を閉じ、僕らに向けて両手のひらを突き出して念じ始めた。
キーンという音を立てながら、足下に光の円が拡がる。
「お願いするわね、みんな。……あの子を助けたら、すぐに逃げるのよ。無益な戦いはしないように――」
そこまで聞き届けたところでザビーネと彼女の部屋の景色が消えた――。
「……え……?」
次の瞬間現れた景色に、全員が息を呑んだ。
赤い光が辺りを明るく照りつけ、熱風が僕達を包む。
パキ、パキ、と、木材が割れる音が聞こえてくる。
大きな大きな炎が、トミーの家を覆い隠していた――。
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