23 / 118
2章 ロランと泥の人形
12話 倫理:ただ、なんでもない話を
しおりを挟む
「そういや、飲みもんないな。そこに自販機あるし、買ってくるわ。……何がいい?」
「あったかいのやったら何でもイイです」
「ん。ちょっと待ってな」
「外でこっそり食べる」という田中君に付き合うため、近くの公園に場所を移した。
ベンチに田中君を座らせ、自販機で飲み物を2つ買う。
「お待たせ~。ほいっ」
買った飲み物を田中君に投げてよこす。
モノを確認すると、田中君は戸惑うような表情で眼鏡を上げた。
「……おしるこ?」
「あれっ? 嫌い?」
「や、嫌いじゃないですけど……」
「うまいよな」
「おいしいですけど、ハンバーガーには合わんでしょ」
「なんでよ、イケるて」
「ええ……」
「ほんで、何食う? パイの他はな~、海老カツバーガーと~、あと、とろたまチーズバーガーがあるで~」
言いながら紙袋からハンバーガーとパイを出して次々と並べる。実はもう1個あるのだが、これは内緒だ。
「あれ? ……そっちは?」
田中君が袋の中に潜むもう1つのバーガーを指さしてきた。隠蔽工作は失敗だ――だがこれは譲れない。
「……あ~、見つかったかー。ゴメンやけど、これは先生が食うヤツな。期間限定の"ゆず胡椒ギョウザバーガー"やで」
「へえ……」
「アカンで!?」
「なんも言うてませんよ。……っていうか、ギョウザバーガーにおしるこて……」
「イケるって。知らんな~?」
「知りませんよ。おしるこ好きなだけでしょ」
「好きやで。昔ばあちゃんがよう作ってくれてんよな~」
「自分で作ったりとかするんスか」
「ハハッ! 作るわけないやんそんなん、めんどくさい」
「ええ……」
「ほんで、何食う? って、2回目やなこれ」
「……ほな、アップルパイで」
「オッケー。ほいっ」
「ありがとうございます」
「他のヤツは一旦直しとこかな~。また食べたなったら言ってな」
言いながら紙袋にバーガーとパイを突っ込み、ゆず胡椒ギョウザバーガーの箱を取り出した。
箱を開けると、餃子の香ばしい匂いのする湯気がもわりと立つ。
「うまそう~。ほな、食べよか。いただきま~す」
「いただきます」
田中君がアップルパイを口に入れるのと同時に、自分もハンバーガーにかぶりつく。
千切りレタスの上に焼きギョウザを3つ乗せ、ゆず胡椒を溶いたポン酢を振りかけてバンズで挟んだ悪魔的な一品だ。
「う~ん、めひゃめひゃうまい……ホフホフ」
「熱いんですか」
「あふい……おふぃるこふぃかない……」
「『おしるこしかない』……。……あっ! あっちに水飲めるやつありますよ?」
「ふぉっ!?」
田中君の指さす方向に水飲み台があった。天の助けとばかりに、ホフホフ言いながらそこへ駆け寄って水を飲み、火傷しそうな口を冷やす。
「いや~、危なかった。一気にかぶりついたのがアカンかった、な……」
「………………っ」
「田中君……?」
ベンチに戻ると、田中君が食べかけのアップルパイの箱を膝に置いて涙を流していた。
隣に座って背中をさすってやると、田中君は眼鏡を外して嗚咽し始める。
「……どないした? 大丈夫?」
「すいません、……すいません……」
「謝らんでええよ」
「こんな風に人と話すの、久しぶりで、笑ったりとかも全然してなくて……」
「うん」
「ずっと誰かと、なんでもいいから話したいって、思って……」
「…………」
それから、田中君が夏から今までにあったことを話してくれた。
あの日彼が母親に「お前の言動のせいで誰もいなくなった」と言っていた通り、彼の調子がどんどん落ち込んでいったのは、ほとんどが母親の言動と行動によるものだった。
聞くことしかできないことを詫びると田中君は少し笑って、「いいんです。それだけで十分です」と言ってくれた。
その後、田中君がアップルパイを、倫理がハンバーガーを食べきったところで話を切り上げて解散した。
「今日はホンマ、ありがとうございました。いっぱい奢ってもろて」
「気にせんでええよ。田中君……元気でな。オレはその……田中君がいっぱい頑張ってたこと、ちゃんと知ってるから」
そう言うと田中君は顔をくしゃくしゃにして笑って、「ありがとうございました」と言って頭をガバッと下げた。
倫理が田中君の顔を見たのはそれが最後だった。
結局連絡先も交換しないままだった。
今彼はどうしているのだろう? 元気でいるだろうか?
行きたい高校にちゃんと行けただろうか、親との関係は修復できただろうか。
――あれから、どれくらいの月日が流れただろうか……。
「あったかいのやったら何でもイイです」
「ん。ちょっと待ってな」
「外でこっそり食べる」という田中君に付き合うため、近くの公園に場所を移した。
ベンチに田中君を座らせ、自販機で飲み物を2つ買う。
「お待たせ~。ほいっ」
買った飲み物を田中君に投げてよこす。
モノを確認すると、田中君は戸惑うような表情で眼鏡を上げた。
「……おしるこ?」
「あれっ? 嫌い?」
「や、嫌いじゃないですけど……」
「うまいよな」
「おいしいですけど、ハンバーガーには合わんでしょ」
「なんでよ、イケるて」
「ええ……」
「ほんで、何食う? パイの他はな~、海老カツバーガーと~、あと、とろたまチーズバーガーがあるで~」
言いながら紙袋からハンバーガーとパイを出して次々と並べる。実はもう1個あるのだが、これは内緒だ。
「あれ? ……そっちは?」
田中君が袋の中に潜むもう1つのバーガーを指さしてきた。隠蔽工作は失敗だ――だがこれは譲れない。
「……あ~、見つかったかー。ゴメンやけど、これは先生が食うヤツな。期間限定の"ゆず胡椒ギョウザバーガー"やで」
「へえ……」
「アカンで!?」
「なんも言うてませんよ。……っていうか、ギョウザバーガーにおしるこて……」
「イケるって。知らんな~?」
「知りませんよ。おしるこ好きなだけでしょ」
「好きやで。昔ばあちゃんがよう作ってくれてんよな~」
「自分で作ったりとかするんスか」
「ハハッ! 作るわけないやんそんなん、めんどくさい」
「ええ……」
「ほんで、何食う? って、2回目やなこれ」
「……ほな、アップルパイで」
「オッケー。ほいっ」
「ありがとうございます」
「他のヤツは一旦直しとこかな~。また食べたなったら言ってな」
言いながら紙袋にバーガーとパイを突っ込み、ゆず胡椒ギョウザバーガーの箱を取り出した。
箱を開けると、餃子の香ばしい匂いのする湯気がもわりと立つ。
「うまそう~。ほな、食べよか。いただきま~す」
「いただきます」
田中君がアップルパイを口に入れるのと同時に、自分もハンバーガーにかぶりつく。
千切りレタスの上に焼きギョウザを3つ乗せ、ゆず胡椒を溶いたポン酢を振りかけてバンズで挟んだ悪魔的な一品だ。
「う~ん、めひゃめひゃうまい……ホフホフ」
「熱いんですか」
「あふい……おふぃるこふぃかない……」
「『おしるこしかない』……。……あっ! あっちに水飲めるやつありますよ?」
「ふぉっ!?」
田中君の指さす方向に水飲み台があった。天の助けとばかりに、ホフホフ言いながらそこへ駆け寄って水を飲み、火傷しそうな口を冷やす。
「いや~、危なかった。一気にかぶりついたのがアカンかった、な……」
「………………っ」
「田中君……?」
ベンチに戻ると、田中君が食べかけのアップルパイの箱を膝に置いて涙を流していた。
隣に座って背中をさすってやると、田中君は眼鏡を外して嗚咽し始める。
「……どないした? 大丈夫?」
「すいません、……すいません……」
「謝らんでええよ」
「こんな風に人と話すの、久しぶりで、笑ったりとかも全然してなくて……」
「うん」
「ずっと誰かと、なんでもいいから話したいって、思って……」
「…………」
それから、田中君が夏から今までにあったことを話してくれた。
あの日彼が母親に「お前の言動のせいで誰もいなくなった」と言っていた通り、彼の調子がどんどん落ち込んでいったのは、ほとんどが母親の言動と行動によるものだった。
聞くことしかできないことを詫びると田中君は少し笑って、「いいんです。それだけで十分です」と言ってくれた。
その後、田中君がアップルパイを、倫理がハンバーガーを食べきったところで話を切り上げて解散した。
「今日はホンマ、ありがとうございました。いっぱい奢ってもろて」
「気にせんでええよ。田中君……元気でな。オレはその……田中君がいっぱい頑張ってたこと、ちゃんと知ってるから」
そう言うと田中君は顔をくしゃくしゃにして笑って、「ありがとうございました」と言って頭をガバッと下げた。
倫理が田中君の顔を見たのはそれが最後だった。
結局連絡先も交換しないままだった。
今彼はどうしているのだろう? 元気でいるだろうか?
行きたい高校にちゃんと行けただろうか、親との関係は修復できただろうか。
――あれから、どれくらいの月日が流れただろうか……。
12
あなたにおすすめの小説
強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない
砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。
自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。
ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。
とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。
恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。
ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。
落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!?
最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。
12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生
終焉の晩餐会:追放される悪役令息は、狂欲の執事と飢えた庭師を飼い慣らす
河野彰
BL
かつて、ローゼンベルグ家の庭には白薔薇が咲き誇っていた。嫡男リュシアンは、そのバラのように繊細で、風が吹けば折れてしまいそうなほど心優しい青年だった。しかし、名門という名の虚飾は、代々の放蕩が積み上げた「負の遺産」によって、音を立てて崩れようとしていた。
悪役になり切れぬリュシアンと彼を執拗にいたぶる執事のフェラム、純粋な愛情を注ぐ?庭師のルタムの狂気の三重奏。
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
過保護な父の歪んだ愛着。旅立ちを控えた俺の身体は、夜ごとに父の形で塗り潰される
中山(ほ)
BL
「パックの中、僕の形になっちゃったね」
夢か現か。耳元で囁かれる甘い声と、内側を執拗に掻き回す熱。翌朝、自室で目覚めたパックに、昨夜の記憶はない。ただ、疼くような下腹部の熱だけが残っていた。
相談しようと向かった相手こそが、自分を侵食している張本人だとも知らずに、パックは父の部屋の扉を開く。
このお話はムーンライトでも投稿してます〜
魔法使い、双子の悪魔を飼う
よんど
BL
「僕、魔法使いでよかった」
リュシーは宮廷専属の優秀な魔法使い。
人が寄りつけない程強い自身の力のせいで常に孤独なリュシーは、ある日何気なく街を歩いていた際に闇商人の話を聞いてしまう。貴重で価値ある''モノ''を高値で買い取る悪趣味な会が近くであるらしく気になったリュシーは其処で不思議な双子と出逢いを果たす。
本の見よう見まねで無償の愛を与え続けるリュシーに育てられた双子はいつしか胸の内に何とも言えない感情を抱く様になり...
独りぼっちだった魔法使いが出逢いを通して彼等と関係を紡いでいき幸せを知る微闇要素有りのBLファンタジー。
(※) 過激描写のある話に付けています。
*** 攻め視点
※不定期更新です。
※誤字脱字の報告助かるので嬉しいです。
※何でもOKな方のみ拝読お願いします。
扉絵
YOHJI@yohji_fanart様
(無断転載×)
行き遅れ王女、重すぎる軍団長に肉で釣られる
春月もも
恋愛
25歳、独身、第四王女システィーナ。
夜会でも放置されがちな行き遅れ王女の前に、ある夜突然現れたのは、ローストビーフを差し出す重すぎる第三軍団長だった。
形のない愛は信じない。
でも、出来立ての肉は信じてしまう。
肉に釣られ、距離を詰められ、気づけば下賜され、そして初夜へ。
これは、行き遅れ王女が重たい愛で満たされるまでの、ちょっとおかしなお話。
可哀想は可愛い
綿毛ぽぽ
BL
平民、ビビり、陰キャなセシリオは王立魔術学園へ入学を機に高校デビューを目指したが敢え無く失敗し不良のパシリをさせられる毎日。
同室者の男にも呆れられ絶望するセシリオに天使のような男が現れるが、彼もかなりイカれた野郎のようで……?セシリオは理想の平和な学園生活を送る事が出来るだろうか。また激重感情を抱えた男から逃げられるだろうか。
「むむむ無理無理!助けて!」
━━━━━━━━━━━
ろくな男はいません。
世界観がごちゃごちゃです。余り深く考えずに暖かい目で読んで頂けたら、と思います。
表紙はくま様からお借りしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる