26 / 118
3章 変調
1話 違和
しおりを挟む
「おはよ~、ロラン君~」
「っ……早く、降ろせ……」
「うん。おはよ――って」
「く……」
5日目の朝。
今日もトモミチの身体の上でがっちりと抱きしめられている。
腕が解かれる気配がない――やはり、挨拶をしなければ解放されないらしい……。
「おは……よう」
「はい、おはよう」
トモミチが僕の背中を軽く叩き、腕の拘束を解く。
「…………」
――最近の僕はおかしい。
魔力供給のあと、毎回顔と身体が上気したように熱い。
「早く腕を離せ」と言いながら、そうされると何か落ち着かない……。
(違う、そんなこと今はどうでもいい……)
考えを振り払うように頭を振り、立ち上がる。
早く立ち去りたいが、今日はこいつに話さなければいけないことがある。
「おい、お前。……食事を摂っていないそうじゃないか」
僕の言葉にトモミチは「ああー……」と、あくびか返事か分からない声を出しながら起き上がり、バツが悪そうに頭を掻く。
「……ハハッ、バレたかー」
昨夜トモミチに魔力供給をしたあとアンソニーが僕の部屋にやってきて、「トモミチが水以外の物を摂取していないようだ」と報告してきた。
アンソニーはニヤついた顔とふざけた態度が標準装備の男だが、職務には忠実だ。
契約時に「特別な用事がない限り僕のところに来るな」と告げたらそれを守り、本当に報告すべきことがあるときだけ僕の部屋にやってくる。
内容は〝泥人形〟の状態が悪いとか、溶けたとか、良くないものが大半だ。
今回のこれも良くないことに入ると判断してのことだろう。
しかし、ホロウが食事を摂らないのは別に珍しいことではない。むしろそれが標準だ。
10日を経るまでホロウは〝人型の泥〟でしかない。魔力の供給さえしっかり受けていれば、生命維持のための食事は必要ない。
そう説明するもアンソニーは何か納得がいかないようで、「本人から話を聞いてやれ」と言ってきた。
「……なぜ、私が。お前が聞けばいいだろう」
「だって先生が一番カレと話してるじゃない」
「は……話していない。あれはあの男が一方的に喋っているだけで」
「とにかくお願いねぇ。アタシってば、とーっても多忙なのよぉ~」
「あ、おい……!」
僕の返事など聞かず、アンソニーは舞うようにその場を立ち去っていった……。
…………
……
そういうわけで、僕がこいつに事情聴取をする羽目になってしまった。
話すと長いし抜け出せないから、接触は最低限にしたいのに。
大体、「話を聞け」と言われても何を聞けばいいのか……。
「……なぜ、食べない。理由があるのか」
「うーん、食欲全然なくてさ~。……食べなヤバいかな、やっぱ」
「魔力の供給さえ受けていれば問題はないが」
「そっか」
「…………」
「…………」
「…………」
――会話が終了してしまった。
いつもいらない情報をペラペラペラペラとよく喋るのに。
(……別に、それでいいじゃないか?)
トモミチは食欲がないから食事をしない。魔力供給を受けていれば、食事をしなくとも問題はない。
ゴーチエだって、ホロウの食事の管理などしていなかった。
10日を経て人間となったあとも食事をしなければ健康を損なうだろうが、それは僕が知ったことではない。
僕は静かに過ごしたい。
ここで会話が終わるなら、願ったり叶ったりじゃないか――?
「しょ……、食欲が、湧かない、……理由はあるのか」
「え?」
「食べなくとも問題はないが、その……、レミとアンソニーが、お前が食事をしないことを気にしている」
「そっかあ……うーん」
ベッドから足を下ろすと、トモミチは膝に肘をついて口元に手を当て考え込む。
しばらくの間のあと、言いにくそうに口を開いた。
「あのー……、色がさあ……」
「色?」
「うん。青が多いやん? あれが、どうもな……」
トモミチの言う通り、ニライ・カナイの食べ物は青系統が多い。肉も魚も野菜も卵もほとんど全てだ。
しかしトモミチの住む国においてそれらは毒々しく、かつ食欲を削ぐ色に分類されるらしい。
「……食文化否定してんとちゃうんやで。ただどうしても、食う気起こらんくて」
「どんな色ならそう感じないんだ」
「せやなあ、茶色とか赤とか黄とか、あとは白とか?」
「…………」
――こちらからすれば、それらの色の方がよほどに毒々しい。
食べろと言われたら躊躇する――つまりトモミチは今、同じ心境なのだろう。
ニライ・カナイには異世界人の暮らす街が多数ある。その街の食材店へ行けば、ある程度は用意できるはずだが……。
「っ……早く、降ろせ……」
「うん。おはよ――って」
「く……」
5日目の朝。
今日もトモミチの身体の上でがっちりと抱きしめられている。
腕が解かれる気配がない――やはり、挨拶をしなければ解放されないらしい……。
「おは……よう」
「はい、おはよう」
トモミチが僕の背中を軽く叩き、腕の拘束を解く。
「…………」
――最近の僕はおかしい。
魔力供給のあと、毎回顔と身体が上気したように熱い。
「早く腕を離せ」と言いながら、そうされると何か落ち着かない……。
(違う、そんなこと今はどうでもいい……)
考えを振り払うように頭を振り、立ち上がる。
早く立ち去りたいが、今日はこいつに話さなければいけないことがある。
「おい、お前。……食事を摂っていないそうじゃないか」
僕の言葉にトモミチは「ああー……」と、あくびか返事か分からない声を出しながら起き上がり、バツが悪そうに頭を掻く。
「……ハハッ、バレたかー」
昨夜トモミチに魔力供給をしたあとアンソニーが僕の部屋にやってきて、「トモミチが水以外の物を摂取していないようだ」と報告してきた。
アンソニーはニヤついた顔とふざけた態度が標準装備の男だが、職務には忠実だ。
契約時に「特別な用事がない限り僕のところに来るな」と告げたらそれを守り、本当に報告すべきことがあるときだけ僕の部屋にやってくる。
内容は〝泥人形〟の状態が悪いとか、溶けたとか、良くないものが大半だ。
今回のこれも良くないことに入ると判断してのことだろう。
しかし、ホロウが食事を摂らないのは別に珍しいことではない。むしろそれが標準だ。
10日を経るまでホロウは〝人型の泥〟でしかない。魔力の供給さえしっかり受けていれば、生命維持のための食事は必要ない。
そう説明するもアンソニーは何か納得がいかないようで、「本人から話を聞いてやれ」と言ってきた。
「……なぜ、私が。お前が聞けばいいだろう」
「だって先生が一番カレと話してるじゃない」
「は……話していない。あれはあの男が一方的に喋っているだけで」
「とにかくお願いねぇ。アタシってば、とーっても多忙なのよぉ~」
「あ、おい……!」
僕の返事など聞かず、アンソニーは舞うようにその場を立ち去っていった……。
…………
……
そういうわけで、僕がこいつに事情聴取をする羽目になってしまった。
話すと長いし抜け出せないから、接触は最低限にしたいのに。
大体、「話を聞け」と言われても何を聞けばいいのか……。
「……なぜ、食べない。理由があるのか」
「うーん、食欲全然なくてさ~。……食べなヤバいかな、やっぱ」
「魔力の供給さえ受けていれば問題はないが」
「そっか」
「…………」
「…………」
「…………」
――会話が終了してしまった。
いつもいらない情報をペラペラペラペラとよく喋るのに。
(……別に、それでいいじゃないか?)
トモミチは食欲がないから食事をしない。魔力供給を受けていれば、食事をしなくとも問題はない。
ゴーチエだって、ホロウの食事の管理などしていなかった。
10日を経て人間となったあとも食事をしなければ健康を損なうだろうが、それは僕が知ったことではない。
僕は静かに過ごしたい。
ここで会話が終わるなら、願ったり叶ったりじゃないか――?
「しょ……、食欲が、湧かない、……理由はあるのか」
「え?」
「食べなくとも問題はないが、その……、レミとアンソニーが、お前が食事をしないことを気にしている」
「そっかあ……うーん」
ベッドから足を下ろすと、トモミチは膝に肘をついて口元に手を当て考え込む。
しばらくの間のあと、言いにくそうに口を開いた。
「あのー……、色がさあ……」
「色?」
「うん。青が多いやん? あれが、どうもな……」
トモミチの言う通り、ニライ・カナイの食べ物は青系統が多い。肉も魚も野菜も卵もほとんど全てだ。
しかしトモミチの住む国においてそれらは毒々しく、かつ食欲を削ぐ色に分類されるらしい。
「……食文化否定してんとちゃうんやで。ただどうしても、食う気起こらんくて」
「どんな色ならそう感じないんだ」
「せやなあ、茶色とか赤とか黄とか、あとは白とか?」
「…………」
――こちらからすれば、それらの色の方がよほどに毒々しい。
食べろと言われたら躊躇する――つまりトモミチは今、同じ心境なのだろう。
ニライ・カナイには異世界人の暮らす街が多数ある。その街の食材店へ行けば、ある程度は用意できるはずだが……。
19
あなたにおすすめの小説
強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない
砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。
自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。
ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。
とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。
恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。
ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。
落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!?
最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。
12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
魔法使い、双子の悪魔を飼う
よんど
BL
「僕、魔法使いでよかった」
リュシーは宮廷専属の優秀な魔法使い。
人が寄りつけない程強い自身の力のせいで常に孤独なリュシーは、ある日何気なく街を歩いていた際に闇商人の話を聞いてしまう。貴重で価値ある''モノ''を高値で買い取る悪趣味な会が近くであるらしく気になったリュシーは其処で不思議な双子と出逢いを果たす。
本の見よう見まねで無償の愛を与え続けるリュシーに育てられた双子はいつしか胸の内に何とも言えない感情を抱く様になり...
独りぼっちだった魔法使いが出逢いを通して彼等と関係を紡いでいき幸せを知る微闇要素有りのBLファンタジー。
(※) 過激描写のある話に付けています。
*** 攻め視点
※不定期更新です。
※誤字脱字の報告助かるので嬉しいです。
※何でもOKな方のみ拝読お願いします。
扉絵
YOHJI@yohji_fanart様
(無断転載×)
行き遅れ王女、重すぎる軍団長に肉で釣られる
春月もも
恋愛
25歳、独身、第四王女システィーナ。
夜会でも放置されがちな行き遅れ王女の前に、ある夜突然現れたのは、ローストビーフを差し出す重すぎる第三軍団長だった。
形のない愛は信じない。
でも、出来立ての肉は信じてしまう。
肉に釣られ、距離を詰められ、気づけば下賜され、そして初夜へ。
これは、行き遅れ王女が重たい愛で満たされるまでの、ちょっとおかしなお話。
終焉の晩餐会:追放される悪役令息は、狂欲の執事と飢えた庭師を飼い慣らす
河野彰
BL
かつて、ローゼンベルグ家の庭には白薔薇が咲き誇っていた。嫡男リュシアンは、そのバラのように繊細で、風が吹けば折れてしまいそうなほど心優しい青年だった。しかし、名門という名の虚飾は、代々の放蕩が積み上げた「負の遺産」によって、音を立てて崩れようとしていた。
悪役になり切れぬリュシアンと彼を執拗にいたぶる執事のフェラム、純粋な愛情を注ぐ?庭師のルタムの狂気の三重奏。
可哀想は可愛い
綿毛ぽぽ
BL
平民、ビビり、陰キャなセシリオは王立魔術学園へ入学を機に高校デビューを目指したが敢え無く失敗し不良のパシリをさせられる毎日。
同室者の男にも呆れられ絶望するセシリオに天使のような男が現れるが、彼もかなりイカれた野郎のようで……?セシリオは理想の平和な学園生活を送る事が出来るだろうか。また激重感情を抱えた男から逃げられるだろうか。
「むむむ無理無理!助けて!」
━━━━━━━━━━━
ろくな男はいません。
世界観がごちゃごちゃです。余り深く考えずに暖かい目で読んで頂けたら、と思います。
表紙はくま様からお借りしました。
【完結】ここで会ったが、十年目。
N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化)
我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。
(追記5/14 : お互いぶん回してますね。)
Special thanks
illustration by おのつく 様
X(旧Twitter) @__oc_t
※ご都合主義です。あしからず。
※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。
※◎は視点が変わります。
氷の檻に閉じ込められた月~兄上のすべては、私のもの~
春野ふぶき
BL
『兄上は私のものだ。魂も、肉体も。永遠に―—』
アーヴェント侯爵家の長男ライカは、妾腹として正妻に虐げられ続けてきた。
唯一の救いは、次期当主を目される異母弟カイエンの存在。
美しく聡明で、氷の騎士と呼ばれる彼だけは、常にライカの味方だった。
だが、その愛情は兄を守るものではなく、深く歪んだ執着だった。
母を排除し、兄を囲い込み、逃げれば鎖で捕らえる。
そしてついに、ライカの心身は限界に追い詰められていく。
——カイエンが下す「最後の選択」とは。
ふたりが辿る結末は、幸福か、それとも狂気の果てか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる