愛を知らない空っぽ屍霊術師は、泥の人形に泡沫の恋をする

天草こなつ

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3章 変調

19話 不安(前)

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「ちょっと気になっててんけど、屍霊術師しれいじゅつしってロラン君以外にもいてんの?」
 
 あのあともう一度イスに座らされ、またトモミチと向かい合わせになっている。
 僕の他に屍霊術師がいるかいないかなど知ってどうするのだろう。
 こいつは僕をどうする気なんだ……?
 
「……いる。皆大体、この森のような人里離れたところに住んでいる」
「ふーん。ほな、あんま交流とかしたことない感じ?」
「ない。『技術を盗まれるから話をするな』と言って、禁じられていた」
「うわぁ……。1回くらい他の屍霊術師の人とはなししてみてもエエんちゃう? ケチつけられることも、もうないわけやし」
「なぜそんなことを? 必要がない」
 
 そう言うとトモミチは僕を無言で一瞥し、すぐに目を伏せて口の端を少し上げた。
 彼が今考えていることが分かった気がして顔が熱くなってくる。
『それってロラン君の考えてること? ゴーチエさんの言葉そのまま言うてない?』――きっと、そう思っている。
 
「……ほな、たとえばやで? オレがなんで最初っから〝完成体〟とかいうやつやったかとか、完成体やのになんで味覚と嗅覚が未だに復活せえへんのかとかって分かる? 前例あった?」
「それは……」
「そーいうの、他の屍霊術師の人に聞いてみたら案外簡単に答え見つかるんちゃうかな。術の新しい見解も得られるかもしれんで?」
 
 ――確かに今回の反魂組成はんごんそせいは分からないことだらけだ。
 トモミチは最初から完成体で現れた。おそらく彼の潜在魔力が高いからだと思われるが、あくまで予測であり確証はない。
 味覚と嗅覚にしてもそうだ。なぜ完成体で現れたのにそれらが全く失せてしまっているのか。戻るならいつ復活するのか。
 過去そういう事例はあったのか、あるならどう対処をすれば良いか。
 そもそも、僕の反魂組成に落ち度があったからこうなっているのではないか――明確な答えが存在するのならきちんと知っておきたい。だが……。
 
「で……」
「まーた『でも』が出てくるー。何? なんかある?」
「僕は、……嫌われているから」
「嫌われてる? オッサンが勝手にそう言うてるんやなくて?」
「普通に話をしているのに、途中で相手が怒り出して」
「……普通に? いやあ、たぶんちがうと思うで」
 
 思わぬ返答に顔を上げトモミチの方を見ると、目が合うや否や彼は腕組みをしてのけぞり、鼻を「フン」と鳴らした。そして――。
 
「『今のが魔力の供給だ。夜は必ず私の元に来い。そうしなければお前は死ぬ、覚えておけ』」
「!!」
「『お前の身体は泥で出来ている。見た目こそ人間の形だが、今はまだ死体と同じだ』」
 
 ……声色を少し変えてそう言い、僕をまっすぐに指さしてきた。
 それらは僕が数日前トモミチに投げた言葉――顔が熱くなると同時に、背中に嫌な汗がにじむ。ゴーチエの物言いとそっくりだったからだ。
 言い終わると同時にトモミチは膝に手をついて前傾姿勢を取り、据わった目で僕をのぞき込むように見上げてきた。
 
「……誰? こんなん言うたん」
「う……」
「これってゴーチエのオッサンの喋り方? アカンでホンマ。直した方がええて、割とマジで。……ゴーチエのコピー目指してる?」
 
 その質問に大きくかぶりを振る。
 僕はゴーチエが嫌いだ。憎いし、怒りを覚える。そのゴーチエと同じ人間になんてなりたくない。
 だが僕の言動はすでに、ゴーチエのそれに染まってしまっている。今指摘されるまで全く気付いていなかったくらいだ。

 でも、と口を開くとトモミチはまた渋い顔をして口の端をわずかに上げた。だが、今度は何も言わない。
 僕の言葉を待っているのか――そういえばトモミチは僕が「でも」と言ったことに対し渋い反応はするが、ゴーチエのように僕の話を遮ってそれ以後聞かない、というようなことはしない。
 必ず僕の話を聞き、その上で自分の考えを言ってくる。
 続きを言っても、いいだろうか――。
 
「そ……そうならないために、何をどうすればいいのか……」
「んー? せやなあ、やっぱ『横の繋がり』って大事やと思うねんな。さっきも言うたけど、ゴーチエ以外の屍霊術師さんと話してみたら? ……どんな人がいるかとか全然知らん?」
「……1人だけ」
 
 思い起こされるのは先日南の都で出会った「ビクトル・メサ」という男――技術を盗むため近づいて来たのだと思い冷たくあしらったが、彼の目的は僕への忠告だった。敵意はなかったように思う。
 ……しかし……。
 
「……どう話していいか分からんとか?」
「!」
 
 本当になぜ、考えていることが分かってしまうのか。
 心を読む能力でもあるのかと思ったが、僕の思考はまだ「どう話していいか」というところにまで行き着いていない。
 僕の反応を見てトモミチが「ちょっと待ってな」と言って立ち上がり、壁に寄せてあった机を持ち上げ僕の前へ運んできた。そして僕の対面に置いてあるベッドにまた腰掛け、引き出しから紙とペンを取り出す。
 金属で出来た不思議な構造のペンだ――トモミチがそのペンの上部を数回カチカチと押すと、下部から黒く細い棒が出てきた。
 
「ほなちょっと、一緒に考えていこか」
「……なぜ?」
「ん?」
「なぜお前が、そんなことをする必要がある。お前に何の利益もないじゃないか」
「『利益』てキミ……。ないけどさあ」
「なら――」
「正直、ほっとかれへんねんよな。今日色々やってくれたし、そのお礼ってことでひとつ。オレ、キミよりだいぶと年上やし、分かること色々あると思う」
「『だいぶと』……?」
 
 〝だいぶと〟という単語の意味が分からず聞き返したのだがトモミチは違う意味に受け取ったようで、「そう」と言って苦笑いをした。
 
「思い出してん。オレこの前自分の年『22歳』って言ったけど、ちごててん。ホンマは28歳やったわ」
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