愛を知らない空っぽ屍霊術師は、泥の人形に泡沫の恋をする

天草こなつ

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4章 悲しむこと

11話 不調

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 7日目、朝の魔力供給。
 どうしても昨夜のことを思い出してしまい、なかなか唇を合わせられない。
 
(大丈夫、大丈夫だ……)
 
 トモミチがあんな行動に出たのは魔力供給が足りていなかったからだ。生存本能と同じだ。
 不足分は十分補えたはずだから、今日はあんなことにはならない――心でそう言い聞かせ、深呼吸をしてからトモミチの顔の横に手をつき、唇を合わせる。
 数秒後トモミチは目を開けたが、今日も抱きしめてくることはなかった。
 僕が顔を離すと唸りながら身を起こし、うつむいて顔を手で覆う。
 
「……おはよう」
「お、……おは、よう」
「……ごめん、昨日」
「…………」
 
 ――謝らないでほしい。まるであれが過ちだったみたいじゃないか。
 
「……今日また、どっか行くんやっけ」
「ああ。ビクトルと共に、北の大森林に住んでいる〝ザビーネ〟という魔女に会いに行く」
「そっか」
「……と、トモミチ」
「ん?」
「その、だ、大丈夫……か」
「なにが? なんで?」
「頭が痛いのかと……思って」
 
 トモミチがいつまでも手で顔を覆ったままなので気になって尋ねると、トモミチは顔を上げて少し笑った。
 気怠そうな顔をしている。昨日のことを気にしているのか、僕と目を合わせることはない。
 
「ん、せやな……ちょっと、体ダルくて。今日は寝て過ごすわ」
「無理はするな。〝完成体〟といっても、万全ではないのだから」
 
 ――「寝て過ごす」と言うが、眠れるのだろうか。
 眠れたとして、その間に見た夢が重大な記憶に繋がりはしないだろうか。
 気になるが、「寝るな」というわけにもいかないし正直どうしようもない。
 
「……それじゃあ、僕はもう行く、から……?」
 
 立ち去ろうと身を翻すのと同時にトモミチが僕の手首を持って引っ張ってきて、身体が後ろにのけぞった。
 驚きトモミチの方を向くと、彼自身も驚いた顔をしていた。
 
「……トモミチ?」
「あ……ゴメン。何やってんねやろ」
 
 そう言いながらもトモミチは手首を離さない。
 握る力はそこまで強くないから振り払うのは容易い。だがなんとなくそうしてはいけない気がしたので、トモミチの次の動きを待つことにした。
 しかしトモミチはいつまでも何も言わないし何もしない。
 僕が何らかの動きを取るべきだろうかと思ったのと同時に、トモミチが「あのさ……」と口を開いた。
 
「……『行かんといて』って、……言ったら……」
「えっ……?」
 
 予想外の言動――その言葉に僕が思考を巡らせるよりも前にトモミチが首を振って「ごめん」とつぶやく。
 
「何……言ってんねやろな。……アタマどうかしてる。ホンマ、ごめ……」
「気にしていない。ごめんごめんって、そんなに何回も謝るな」
「ハハ……ホンマやな。……行ってらっしゃい。気ぃ付けて」
 
 力なく笑い、トモミチが小さく手を振る。

(……トモミチ……)

 今日も様子がおかしいままだ。
 レミとのいさかい以外に、確実に何かある。
 魔力供給が足りなかったせいで精神が乱れ、そのせいで死に繋がる〝何か〟を取り戻してしまった――そうとしか思えない。
 一体何があったのだろう?
 聞いてはいけないだろうか。踏み込んではいけないだろうか。
 彼の心の、おそらく傷になっている部分を知りたいと望むのは、浅ましいことだろうか……。
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