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「いやぁ‥どうだろ」

「日にちはまだ決まってないんだけどさ、また決まり次第連絡するから。予定が空いてたら来てくれよな」

「まぁ‥」

矢島、と後ろから肩を叩かれ、「それじゃあ」と握手を求められる。

俺は「あ、うん」と力無く握手を返すと、その後ろのクラスメイトが複雑そうな顔で俺の事を見ていた。

やめとけよ
なんで?

という会話が聞こえてくる。

本当に勘弁してほしい。
このクラス委員長であり、サッカー部の期待の新人でもある矢島は、クラスメイト全員が友人といった感覚を持っているようで、彼と親しくなりたい奴や高校生活で友人を作りたい奴にはいい事かもしれないが、三年間平穏に過ごしたい俺に取っては本当に勘弁願いたい。

「あいつさ—‐」

同じクラスの名前もわからないクラスメイトが身振り手振りで矢島に語りかけている。

内容のおおよその検討はつく。

あいつ、俺たちのことを見下してるじゃん

そう、前にクラスメイトが話しているのを聞いた。

事実無根である、なんて言うつもりはない。

実際、俺は周りを見下している。

本当なら俺はこんな学校に行く筈じゃなかった。

綾姉が通っていた高校に行く。
それが、疎遠になった綾姉との唯一の繋がりになるかもしれない。

そんな浅はかで情けない妄想をしていた。

クラスメイト達はそれぞれ夏休みの予定を立てて楽しそうにしている。

なんだか無性に自分が情けなくなり、俺は席を立ち上がった。

「夢野くーん」

一人の女子生徒が俺の名前を呼んで教室内を見渡す。

俺と目が合ったにも関わらず、そのまま素通りする。

名前すら覚えられていない。

俺はまたもや惨めな気持ちになった。再び俺と目が合うと、あっという声を出して俺を手招きした。

俺はゆっくりと立ち上がって女子生徒がいるドアの前まで歩く。

「彼女が、夢野くんに用だって」

それじゃ、と名前がわからないクラスメイトは廊下は出て行った。

俺も人のことを言えた義理はないな。

「夢野くんですか?」

「そうだけど」

眼鏡をかけたショートボブの女子生徒は俺の記憶が正しければ初対面のはずだった。
身長は俺より随分と低い。150センチ前半だろうか。

「夢野、勘定かんじょうくん」

しかし相手は俺のフルネームまで知っている。

不信感から不快感へと変わる。

下の名前は嫌いだ。
勘定なんて名前、どういう気持ちを込めてつけたのか。

唯一嬉しい瞬間は、綾姉から『カンちゃん』と呼ばれる時くらいだ。

「初対面だよね?」

「はい、そうです。早速、お願いがあるんですけど—‐」

「まてまて、まってくれ」

話し始める彼女の目の前で手で制止した。

「聞き間違いかな。初対面、なんだよね?」

「‥どこかで会ったことありました?」

あぁ、この子はきっと、ネジが外れてるんだな。
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