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「それで、君は何をお願いしたいって?綾姉が何を言ったか知らないけれど俺に出来ることがあるとは思えない」

自分で言うのは何だが、そう取り柄がある人間じゃない。

「あ、そうですね。お願いというのは‥祖父の秘密を暴いて欲しいんです」

「ちょっと何を言っているのか分からないな」

昨日から何度目だろうか。彼女と言葉のやり取りが出来ていないと感じたのは。

「順を追って説明します。ですがまず、私の祖父の話を聞いてください」

こうして、日高さんの話は始まった。

——————

私は、一人娘としてこの世に生まれました。父は私が物心つく頃に事故で亡くなったと聞いています。
一人っ子でしたが、カンジョーくんもよくご存知の綾姉が従姉妹でいたのでそこまで寂しく無かったです。
ただそれでも、父が居ないという現実は、色々なところで私に複雑な心境を抱かせました。
その最たるものが、学校行事でしたね。
父の日に、似顔絵を描こうは特にキツかったです。運動会も中々に辛いものがありましたね。
母も私を育てる為身を粉にして働いてましたし。行事に来れない日もありました。
そんな時、来てくれたのが祖父です。
祖父はどんな時でも駆けつけてくれました。母は祖父に溺愛されていた、なんて笑いながら言いますが、自分で言うのもなんですが孫の私も相当可愛がられていたと思います。
私に取って祖父は、父親代わりだったんです。
真面目で少し不器用で、でも優しい祖父が大好きでした。
そんな祖父が、去年の12月に体調を崩し、病院に行ったところ癌が見つかりました。

ステージ4の末期癌。余命は半年と言われました。
最初のうちは私も見舞いに行ってたのですが、あの元気で優しかった祖父が段々と衰えていく姿を見て、それ以上見舞いに行くことが出来なくなりました。
逃げたんですよ。
でも、私立受験の日、私は綾姉から祖父が急変したと連絡を貰いました。流石に居ても立っても居られなくなった私は、受験をそっちのけで祖父の元へと走って行きました。
結果、祖父は生きていて、そこには綾姉がいました。
綾姉は私が受験であることをすっかり抜けていたようで、何度も謝りましたが。
そんなことは瑣末なことなんで、別にいいです。受験には落ちましたが。

その時、祖父は寝ているようでした。私は綾姉と二人で一旦部屋の外へ出て、近況も含め話しました。
祖父を勇気づけてほしいと言われた私は、久しぶりに二人きりの空間で祖父の前に座りました。
祖父はもう起きており窓を見ていました。

おじいちゃん、と私が言っても返事がありません。

もう一度、口を開けかけると祖父が被せるように言葉を遮りました。

「この秘密は、墓場まで持っていく。誰にも、言うつもりはない。」と。

その言葉は、独り言のようにも、そして、誰かに向けてるようにも聞こえ、とても奇妙でした。
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