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第2章
ロッケン部、始動!
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ブーブーピピピっとスマホのアラームが鳴り続けるとともに階段をとてとてと上がってくる音で俺は嫌々目を覚ます。
窓のカーテンから朝日が漏れてなんとも鬱陶しい。
今日は敷島とモックに行って新しい部活を作ると話したその翌日。
しばらくボーッとしてると自室のドアがガタっと音を立てて勢いよく開いた。
目をやるとそこには俺とよく似た赤茶色の髪をポニーテールしてそれをゆらゆら揺らし、にーっと笑う妹の汐波(きよは)が立っていた。
「紀晴ちゃんおはよー!」
「はいはいおはよー。」
「うわー素っ気ない、、、、。」
じと目でベッドで薄っすらと目を開けボーッとしている俺に向かって言う。
「起こしに来た妹ちゃんにはもっと優しくしてくださーい!」
ったく朝からしかも寝起きでそんなテンション上げれるかよ。
「ほら朝ごはんできてるから早く食べて!冷めちゃうし遅刻しちゃうよ?私が」
「ほーい」
また自転車で送れって事か。
っていうか別に一人で学校行ってもいいんだよ?
俺を待たなくてもいいんだよ?
俺は嫌々体を起こし階段をのそのそと降り洗面所で顔を洗いテーブルに座る。
今日の朝ごはんはパンではなく和食テイストだ。
白いご飯に焼き魚、厚焼き玉子に味噌汁とサラダ。
俺はもしゃもしゃと朝ごはんを食べながら今日の朝刊をチェック。
っていうか厚焼き玉子うま。
と一人、心の中で呟きながら刻々と時間は過ぎていく。
「あ、紀晴ちゃんテレビ欄見せて!ドラマの再放送何やってるかチェックしたいから!」
「はいよ」
言って俺は隣で同じく朝ごはんを食べる汐波に新聞を手渡す。
なんかこのやり取り昨日もしなかった?
っていうか受験生なのにそんなのんびりでいいのか妹よ。
俺と同じ高校にくるなら尚更のことだよ?
「そういえば今日は塾の帰りに友達と晩御飯食べて帰るから紀晴ちゃん今日は適当に食べてね?パパとママも帰り遅いから紀晴ちゃん一人だから。」
え?そうなの?マジかー。自分で作るのは面倒だからあれだな今日はピザだな。
ド○ノに決定。
アメリカンがめちゃうまなんだよな。
生地はもちろんウルトラクリスピークラスト。
あのサクッとした食感がたまらない。
サイドメニューのポテナゲとドリンクはコーラだね。
よしそれで決まりだ。
っていうかド○ノってピザもうまいけどサイドメニューのナゲットが一番うまい。
あのジュワッとしたジューシーさが食欲をそそるんだよね。
バーベキューソースもうまいし。
あー早く食べたい。
そんなこんなで朝ごはんを食べ終えまだ制服に着替えてなかったので着替えに自室へ向かう。
着替え終えてもう一度テーブルに戻り鞄に汐波が作った弁当を入れた。
よしあとは汐波を学校まで送って自分の学校へ向かうだけだ。
「汐波ー。そろそろ行くぞー。」
「はーい!」
無事に汐波を学校へ送り届け俺も自分が通う学校に何のトラブルも無くたどり着き教室でアホの高野と話す。
「で?お前部活のことどうなったの?昨日敷島と話したんだろ?」
「あぁまあな」
っていうかなんでこいつこんな部活のこと気にしてんの?
と思っていた矢先に教室の扉がガラッと開きそこから青みがかった黒髪のロングヘアーを靡かせ大きな瞳で笑顔がよく似合うその辺のアイドル顔負けの美少女、姫野杏果(ひめのきょうか)が俺の方へとやってきた。
「蒼山くん、高野くんおはよう♡」
「あっ、、お、おはよう、、、。」
なんとも美しく柔らかな声!
いきなり姫野に挨拶されて俺の返事がぎこちなくてちょっとキモいと思われたかもしれないが姫野は顔色を変えずにニコッと微笑みかけてくれた。
あー姫野たんマジ天使やわぁーー。
でも挨拶は俺だけじゃなくアホの高野にも言っていたのが癪に触る。
姫野は悪くないからねぇ~。悪いのはここにいるアホの高野だからねぇ~。
こいつさえ居なければぁぁぁぁぁーーーーーーーーー‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎
「蒼山くん昨日の話はどうなったの?」
鞄を自分の机にかけ戻ってきた姫野が言う。
「あーそれなんだけど今日の昼休みに敷島から説明されると思う」
思わず姫野に見惚れて顔が緩みそうだったがグッとこらえ俺は答えた。
「おぉ!マジか!どんな内容かめちゃくちゃ気になるな!!」
いやお前に言ったんじゃないんだよ高野よ。
まだああだこうだと俺の隣で言っている高野は放っておき俺は姫野に昨日敷島から聞かされた内容を軽く説明した。
「なるほど、わかった!じゃあ詳しい事は敷島さんから聞くね。ありがとう蒼山くん!」
百点満点の超絶スマイルで姫野は俺に礼を言った。
なんか姫野のために頑張ったみたいですげぇ達成感がある。
頑張ってよかったよ。
いやほんとマジで。
✖️ ✖️ ✖️
小中高と長々と学校生活を送っていると1限目から昼休みまでの時間は果てしなく長く感じるものだ。
朝ご飯をしっかりと食べたはずなのに3限目あたりから空腹を我慢することが日課となっている。
そういえば今日のお弁当は何かな?
汐波の奴いつも中身を教えてくれないからお兄ちゃんはいつもわくわくしながら昼休みを待ってるんだよてへぺろ。
なんて下らない事を考えてる自分に気づきイラッとしたところで4限目終了のチャイムが鳴り響く。
あーやっと昼休みだ。
今日も俺頑張ったな。
さ、飯だ飯。
俺は机の横に掛けてあった鞄から弁当を取り出して丁寧に包んであった風呂敷の結び目をササっと解き弁当箱の蓋に手をかけ開けようとした途端
背後からとてとてと軽めのフットワークで近づいてくる足音が聞こえてきた。
それが俺の真後ろで不自然な止まり方をしたせいで俺は自然と振り返る。
そこには何やらもじもじしながら体を捩らせ視線を合わせようとせず俯いたままの敷島が立っていた。
そうだ、空腹と格闘していたせいでこいつの部活の話の事をすっかり忘れていた。
「あの、、えっと、、、。」
などと敷島は口にしているがほとんど言葉にはなっていない。
昨日二人でモックへ行った時は普通に話していたのに教室でクラスの皆んなが居るとえらい違いだ。
もーほんっとこの子はキャラがころころ変わる子なんだからぁ。
「あーもしかして姫野に部活の事言いたいのか?」
呆れてため息混じりで俺は問いかけると
敷島の表情はすぐさま明るくなり表面にはあまり出さないが口元が薄らと微笑んだ。
わかりやすいというかなんというか。
まあ素直でよろしいとだけ言っておこう。
「あの、、、その、、呼んで欲しいんだけど、、、、。」
下を向きながらぼそぼそと敷島が言う。
「え、俺が姫野を?」
俺は敷島の言葉に返事をしたがどうも気が進まない。
だって姫野たんに声かけるのすっごく緊張するんだもんてへぺろ。
マジ声とか裏返ったりしたら恥ずかしいしキモいとか思われたら嫌じゃん?
だがまるで天使、いや女神のような姫野はそんな事絶対に思わないと思うけどね‼︎‼︎
それはさておき
何やらクラスメイトと微笑ましく談笑中の姫野に申し訳ないという意思を込め俺は彼女に呼びかけた。
彼女って別に彼氏彼女の間柄のそれではなく一個人を呼称するために使った言葉だからね!
いやでも前者の間柄ならどんなに嬉しいことか、、、、。
「お、お~い姫野ぉ~」
と若干小さめに呼びかけた俺の声に姫野はちらりと反応を示しクラスメイトに一言
「ちょっとごめんね」なとど一旦会話を止め俺の方へとてけてけと少しかけ足でやってきた。
その姿も美しい‼︎
「ごめんね。クラスの子と話をしてて時間取らせちゃって。本当ならすぐに蒼山君と敷島さんの所へ行くつもりだったんだけど数学の課題について質問されていたから」
と小さく手を合わせハニカミながら申し訳なさそうに姫野は言った。
「い、いや全然大丈夫。こっちこそすまん。無理矢理呼び出してしまって」
などとありきたりな返答を俺は返した。
ちょっと噛みかけたけどね!
まあそれはさておき
「ほらお前から説明するんだろ?」
と姫野がこちらにやって来てから顔を赤くしもじもじと下を向いている敷島に向かって俺は問いかけた。
「う、うん、、、。」
と敷島は短めに返事をし一旦自身の机に戻り何やらノートを持ってこちらへとやってきた。
その様子を姫野はやや心配そうに眺め、俺も机に頬杖をつき姫野と同様に敷島が話すのをじっと待つ。
「あ、あの、、、その、、、えっと、、、、。」
敷島が下を向きながら思い口を開くように話し始めた。
「敷島さんゆっくりでいいからね。」
姫野が優しく敷島のペースに合わせ話の先を促す。
無理もないだろう。敷島は好意を寄せている姫野に対してだけではなくクラスメイトにすら自ら話しかけた事は無いだろうから緊張するのも理解できる。
の割には俺に対しては結構ガツガツ来てた気もするが、、、、。
「あの、、これ、、、呼んで欲しいの、、、、。」
そう言って敷島は下を向いたまま姫野に自身が持っていたノートを両手をピンっと前へ伸ばし渡した。
「ここに全部書いてあるから、、、。」
言った敷島の声は何故か震えていえ今にも泣きそうな声だ。
そこまで緊張するのだから敷島の姫野に対する想いは本物なんだろう。
「ありがとう。じゃあ読ませてもらうね。」
大方のザックリとした内容は俺が姫野に話しているので大体の事は把握しているだろう。
だが姫野はにこやかに、そして優しく返事をして敷島のノートを受け取り流し読みする訳でもなくそのノートをじっくりと読み始める。
敷島は顔を真っ赤にして下を向いているがチラチラと姫野がノートを読む様子を伺っている。
盗み見する訳ではないが俺はちらりとノートを見やるとそこには昨日モックで敷島が俺に話した部活についての事が事細かく書かれていた。
にしてもノートをチラ見するだけで姫野との距離が近いせいか変な汗が額から滲み出るのがわかる。
大丈夫かな?キモいとか思われてないかな?
大丈夫だよね⁉︎
そんな事を考え、ふと我にかえったころで姫野がノートを読み終え口を開いた。
「ありがとう敷島さん。内容はわかったわ。」
敷島の顔を見ながら姫野は優しく言った。
その返事として敷島も軽く頷いた。
すると姫野はゆっくりと、そして優しく敷島の手を取った。
いきなりの事でびっくりしたのか敷島はほんの数日では見た事がないくらい顔を真っ赤にさせ一瞬だけ体を強張らせていた。
すると姫野は敷島の目をじっと見つめまるで子供に言い聞かせるように優しく話し始めた。
「それで敷島さんはこのノートを私に読ませてどうするつもりなの?」
決して冷たくあしらう態度ではなく柔らかで優しさに満ち溢れる口調だ。
姫野はおそらくこの後、敷島が言おうとしている事を理解しているうえでたずねたのだろう。だが姫野は初めて敷島が自ら自身に心を開き頼ろうとしている事が嬉しかったのだろう。
だからその後の言葉は敷島自身の口から聞きたかったのがわかる。
「あの、、、い、、一緒にこの部活をやってほしい、、、、姫野さんに、、、、。」
ゆっくりと敷島はその問いに答えた。
ぎこちないながらもその言葉は率直に、姫野に伝わるように。
「もちろん!」
姫野はそう明るく答えた。
その時一瞬だけ敷島は顔を明るくして小さくガッツポーズをしてみせた。
なんだ。やればできるじゃねーか。
姫野にだってそんな表情見せるんだからきっと大丈夫だな。
敷島の緊張感を感じとったせいか俺も自然と体に力が入っていたが今の状況を見て安心したせいかスーッと身体中の力が抜けていった。
そして誰にも気付かれないよう小さく溜息を吐いた。
「私ね、小学生の頃からずっと敷島さんが初めて私に頼ってくれてとても嬉しいの。」
言って姫野は敷島の手をもう一度取り彼女の頭をそっと撫でた。
普通男同士の友人ならこんな事をすれば気持ち悪いと思うが女の子同士ならこれも許せるのだろう。
だって俺がもし高野にこんなことされたら気持ち悪くて全力でキレるもんね。
「じゃあそうと決まれば早速、中条先生に言いに行きましょう敷島さん!」
姫野がそう言うと各々返事をした。
時計を見やるとまだあと20分かそこらの時間が残っていたから俺たち3人は教室を出て職員室へと向かうことにした。
✖️ ✖️ ✖️
職員室前へ到着すると姫野が先頭をきって扉を開けてくれた。
一同は「失礼します。」とありふれた挨拶を交わし職員室の1番奥、窓際の席に座る中条先生のもとへとテクテク向かう。
中条愛未(なかじょうつぐみ)先生。
栗色のロングヘアーを靡かせ清楚で落ち着いた服装と可愛らしい垂れ目が特徴のなんだか少しほんわかした雰囲気を持つ美人。
そう、俺たち2年A組の担任である。
中条先生は珍しい組み合わせの三人が近付いたのに気付き少し驚いた表情を見せた。
まあ確かにこの三人は異色だよな。
学級委員長、なんの変哲もない男子高校生、無口な文学少女。
てんでバラバラだ。
「あら?姫野さん蒼山くん敷島さんどうしたの?三人で珍しいわね。」
俺たちが先生の席に到着すると同時に先生は言った。
「うっす。」
俺は軽く返す。
姫野も敷島も言葉や口調は違えど同じような反応だ。
「あのー。中条先生にお願いがありまして。その件について敷島からお話が。」
俺は先生に向かって言った。
その瞬間敷島がハッとした表情を浮かべ何やらあたふたし始めた。
中条先生の表情からハテナマークが頭に沢山浮かび上がっているのが見て取れる。
「あの、、ぶ、部活を、、新しく始めたいんです、、、。」
言った敷島は顔を明るくし俯いていた。
職員室が静かなせいかその小さな声が室内に響き渡る。
「部活?」
中条先生が答える。
その表情は先程と同様、疑問にあふれている。
「はい。世の中には色んな音楽で溢れていて音楽の素晴らしさを皆に広めて知ってもらえるようにレポートにまとめて紹介したりするような部活を始められたらなと考えています。部活の名前はROCK研究部、略してロッケン部という名前なんですけど、、、。」
言葉に詰まった敷島をフォローするように姫野が答えた。
すると中条先生は顎に手をやり何かを考え始める。
「あの、なんかこういうのって俺たち生徒の交流にも繋がると思うんですよ。音楽を通じてのコミュニケーションというかなんというか、、、。」
咄嗟に俺は適当な言葉を並べ口走っていた。
「なるほどねー。」
中条先生が感心したかのように頷く。
なんというか、適当に言った言葉で感心してもらえるとなんだか嬉しい気分になるな。
「そのロッケン部の顧問を中条先生にお願いしたくて三人でお伺いしました。」
少し先生の顔色を伺うように姫野が言った。
「それは良いんだけどぉー。」
え、良いの?そんないい加減な部活認めてくれんの?
進学校だけど大丈夫なのこの高校⁉︎
「一応この学校はあなた達生徒の自主性を尊重するっていうのが方針だから反対はしないんだけど、、、。」
反対しないけどなんなの⁉︎
早く答えてよぉ~愛未ちゃ~んお願いぃ~三百円あげるからぁ~‼︎
「部室がね、、、元々文芸部だった教室があるんだけど今は文芸部の部室が図書室に変わっちゃったからその教室使ってなくて倉庫になってるの。だからその片付けをしてもいいと言うのなら私が顧問になってあげる♡」
てへへー☆みたいなテンションで中条先生が言った。
いや可愛いけどね‼︎
マジかよ。
おいおいまた面倒な事になっちまったな、、、、。
流石にそんなこと言われたら諦めるだろうと敷島の方を見やると目をキラキラさせ中条先生を見ていた。
その光景に俺は思わずじと目になってしまう。
だが敷島さんが喜んでいらっしゃるなら仕方ありませんね。
「しゃーねーな。じゃあやるか。」
溜息まじりで言って俺は姫野と敷島の方を向く。
彼女達もそれに気付き返事の代わりに頷いた。
「じゃあ放課後になったらまた私のところに来て。」
中条先生が俺達三人に向かって言った。
「本当にありがとうございます中条先生。」
三人を代表して姫野が先生に向かって礼を言う。
俺と敷島もそれに合わせて軽く会釈をし職員室を後にした。
てか早く昼飯食っちまわないと昼休みが終わっちまうよ。
まあ人生で一番姫野と話す時間が長かったから俺的には良いんだけどね。
三人並んで教室へ戻ろうと校舎の廊下を歩く。
まだ昼休みで何やら別のクラスの生徒達が友人が居るらしいクラスへと小走りで足を運んだり廊下で立ち話をしている生徒達の喧噪で溢れていた。
まあ高校と限らず学校の休み時間なんていつもこんなもんだなと考えながら右隣を歩く敷島に自然と目が行ってしまった。
こういう騒がしいのが苦手なのだろうか彼女は少し俯いて歩いている。
だがほんのちょっぴり嬉しそうな表情だった。
まあそりゃそうだろうな。
敷島の更に右隣には姫野も一緒に歩いているしその憧れの姫野と同じ部活を作れるなんて彼女にとってこんなに嬉しいことはないだろう。
最初は面倒な事だと思ってはいたがこうやってあからさまに嬉しそうにされると人のために何かをする事は良い事なのだなと実感する。
敷島のその嬉しそうな表情と姫野が歩く横顔はちょうど窓から日の光が差しこんでいてとても幻想的に見えた。
「部活、よかったね。」
不意に姫野が話す。
こくりと敷島が頷いた。
「姫野さんと紀晴のおかげ。」
短かくてわかりにくいが敷島の今の精一杯のありがとうという言葉なのだろう。
「まああれだ。気にすんな」
「そうよ?これからは困った時はもっと私に頼ってね?」
敷島の顔を覗き込み優しい笑みで姫野は言った。
照れているのか敷島は少し体を捩らせこくりこくりとまたもや頷いた。
ほんとお前あれだからな姫野にこんなこと言われてお前ほんと幸せ者だからな?
俺だって言われてみてーよ。
っていうか大事なこと聞くの忘れていた。
部長は誰がやんだよ。
と思い俺は敷島に問いかける。
「そういえばロッケン部の部長はお前でいいのか?敷島。」
「うん。」
言った俺の言葉に敷島は短く返事をした。
「そうか。まあなんかあったら俺もお前を手伝うからあんま気を張るな。」
「う、うん、、、。」
てかお前姫野の前だとどんだけ喋らないんだよ‼︎
まあ別にいいけどね。
そんな俺達二人のやりとりを見ていたずらに姫野が微笑み口を開いた。
「蒼山くん、敷島さんをこれからもよろしくね?」
いや待ってよ姫野さん。
その不意打ちは予想してなかったわ。
ほんとそんな笑みで言われると好きになっちゃうよ?何あなた小悪魔?
まあ実際中学の頃からずっとあなたに片想いしてるんですけどね‼︎‼︎
まあそれはさておき。
「ああ。一応俺もこいつの友達だからな。」
とかカッコつけて言ってるけど大丈夫かな?俺っち敷島に友達って認識してもらえてんのかな?
自分が姫野と関われるよう良いように使えるただの奴隷とか思われてたらどうしよ⁉︎
とチラリと敷島を見やると俯き顔を真っ赤にさせていた。
いや何それ可愛い。
いやいかんいかん。
多分こいつのこの反応は友達と認識しているのだろうけどあくまで友達だからね⁉︎
俺には姫野が居るんだからね⁉︎
ま、どうせこいつも俺のこと実際ただの友達とくらいにしか思ってないだろけど。
そんなこんなで他愛もない会話とは言わないが敷島と姫野と肩を並べ喋りながら歩いているとあっという間に俺達の教室2-Aの前まで来ていた。
俺はガラリと教室の扉を開けて中へ入り敷島と姫野も後に続く。
「あの、、また、、、放課後に、、、、その、、、あり、、がとう、、、、。」
言って敷島は正面に立つ俺と姫野を交互に見ていた。
「ああ。また後でな」
「こちらこそ楽しみにしてるね?部活。」
俺と姫野は敷島の言葉に各々返事を返しそれぞれ自分の席へと戻って行った。
おっとやべーもうちょっとで昼休みが終わっちまう。
さっさと弁当食っちまわないとな。
俺は残り僅かな時間の昼休みに猛スピードで弁当をたいらげた。
ふーなんとか間に合ったぜ☆
その後すぐに昼休み終了のチャイムが鳴り響き午後の授業が開始された。
あ、そういえば高野も部活の話を聞きたいって言ってたの忘れてた。
ま、いっか。
️ ✖️ ✖️ ✖️
淡々と時間は過ぎていき午後の授業もあと一齣となっていた。
授業開始前の少しばかりの休憩時間。腕を天井へ向けて大きく伸びをしてみせた。
それと同時に無意識に欠伸が出てしまった。
ふと離れた斜め右の席の方を見やるとそこは姫野の席で俺の視線に気が付いたのか姫野もこちらに振り返り目が合ってしまった。
俺の大きな欠伸を見たせいか姫野はニコッと微笑みかけ軽く会釈してくれた。
俺は軽く咳払いをし恥ずかしさを誤魔化した。
おいおい俺なんか今めちゃくちゃ恥ずかしいとこ見られてたじゃん。
しかもあの見た者全てを虜にするであろう姫野スマイル。
その不意打ちはほんとやめてね?
心臓に悪いから。
良い意味で‼︎‼︎
今日の最後の授業は物理だ。
授業中は教師の声、シャーペンの芯を出すカチャカチャ音、ノートに文字を書く音などシーンとした中にも授業中ならではの物音で溢れている。
一応我が校は進学校だから皆真面目に授業に集中して私語をかわす輩も居ないのだ。
あのアホの高野でさえも授業中の顔は真剣そのものである。
普段アホなのにね。
だからみんなも授業は真面目に受けようね‼︎
そんなこんなで授業終了のチャイムが校内に鳴り響く。
はーやっと今日も一日授業をおえたな。
ホームルームを終え俺、敷島、姫野の三人はまだ教室に残っていた中条先生のもとへ向かう。
「みんな集まったね。じゃあ行こっか。」
言って中条先生は俺達三人を誘導し始めた。
先生が先頭を歩き俺達は軽く返事をし、特に会話もないままその後を着いていく。
俺達が通う桜並木高等学校は普通教室や学生食堂があるのが新校舎で理科室や音楽室や図書室など特別教室があるのが旧校舎と分かれていて今俺達が歩く連絡通路の先が旧校舎だ。
旧校舎はモダンな造りの新校舎とは違い暖かみのある木を基調としたなんとも懐かしい雰囲気のある建物となっている。
その旧校舎に元々文芸部の部室だったと言われる倉庫があるのだそうだ。
「ここよ。」
表示プレートには何も書かれていない教室の前で中条先生が足を止めその教室の鍵を開錠しガラガラっと音を立て引き戸を開けた。
ふとその教室前の廊下を見やるとあらかじめ中条先生が用意しておいたのであろう雑巾、バケツ、モップ、箒などの掃除用具が置かれてある。
俺達は教室の中に入る。
教室の中からは埃っぽさが感じられもう使われていない学習机やら学習椅子やら会議で使っていたのであろう長机や何かが詰め込まれている段ボールがびっしりとその教室を埋め尽くしていた。
その埃っぽさなのか「くしゅん。」と敷島の子猫みたいなくしゃみが聞こえる。
うわぁ~これを今から三人で片付けなきゃいけなのか~。
ってかそんなに大きくない教室によくもまあこれだけの物がパズルのように詰め込めるもんだ。
「じゃあとりあえずやりますか。」
俺に続き他の二人も「うん。」と軽く返事をしまずは机類を外へ出していく。
その様子を見て中条先生はほわわんとした雰囲気を漂わせ微笑んでいる。
いやいや先生手伝ってよ‼︎
まあこっちからお願いしてる事だから別にいいけど。
「じゃあ倉庫に入ってる物は使いたい物が有れば自由に使っても構わないからねぇ~。とりあえず私はまだ仕事が残ってるから職員室に戻りまぁ~す☆」
とニコッと可愛らしい笑みを浮かべ中条先生は逃げるように教室を後にした。
いや可愛いけども‼︎
なんか俺達先生の良いように使われてるくない?
ほんとはこれ中条先生が頼まれてたけど俺らに押し付けたんじゃない?
そんな考えがジワジワと湧き出てくる。
「それにしてもここまで物が多いとは思わなかったね。」
埃っぽいせいか少し咳き込みながら姫野が言う。
「ああ。二人ともあんま無理すんなよ。重たいもんがあったら俺に言ってくれ。」
なんか今の俺の台詞って超かっこよくない?
「ありがとう蒼山くん!」
ほらほら見てみろよ姫野も喜んでるじゃん。
言ってよかったマジで‼︎
それから俺達三人は黙々と片付けを続ける。
ふと敷島の方を見やると何やら重いのだろうか段ボールと格闘していた。
「ほらあぶねーから俺が運ぶよ。」
「あ、、ありがと、、、。」
敷島は顔を赤くし礼を言いながら一歩後ろへ下がる。
俺はその段ボールを持とうとするがびくともしない。
おいおいこいつこんな思い物を一人で運ぼうとしてたのかよ。
「ねぇねぇ敷島さん。」
俺は後ろに立つ彼女を呼ぶ。
「な、何?」
敷島は不審そうに返事をする。
「手伝って?」
言った俺の声は半泣きで震えていた。
カッコつけて運ぶとは言ったものの運べないとわかると女子に助けを求めるなんてこんなにも情けないことはない。
ごめんねヘタレで(号泣)。
敷島は呆れた様子でじと目でこちらを見ている。
やめてその目‼︎
今その目をされるとほんとに泣いちゃうから俺‼︎
「わかった。」
クスっと小さく笑い声をあげその笑みを隠すよう手を口元にやり敷島は短く返事をした。
笑わないでお願い‼︎
その様子をニコニコと姫野が眺めている。
いや違うから姫野さん!
なんかこの二人良い雰囲気☆みたいな空気出すのやめて?
ほんとそんなんじゃないんだからね‼︎
敷島は段ボールを持とうとかがむ俺の向かいに来る。
そして俺と同じ様に敷島もかがんで段ボールに手をやる。
「よし。そんじゃあ行くぞ。力入れ過ぎてぎっくり腰になんなよ。」
「紀晴に言われたくないんだけど、、、。」冗談混じりで言った俺に苦笑混じりで敷島が返す。
いや、ほんと傷付くから。
俺ガラスのハートだから。
ほんと泣いちゃうから。
「じゃあせーの!」
泣きそうになるのを我慢して俺は敷島に合図をし段ボールを二人で持ち上げた。
かなりの重量の割に段ボールが小さい。
そのせいで向かい合う敷島との距離が近い。
なんかじわじわと変な汗かいてきたよ。
敷島もなんか気まずそうに俯いてるし。
なんかすごく良い匂いするし。
いやほんと何このラブコメ展開。
敷島がダメというわけではない。むしろこいつも誰もが振り返るであろう美少女だ。
だが姫野とこのシチュエーションになってほしかったな(涙)
っていうか作業中に何変なこと考えてんだよ俺。
そんなに広くない教室なのに無駄に廊下までの距離が遠く感じる。
「き、紀晴、、、。」
不意に敷島が俺の名を呼ぶ。
正直こちらは健全な男子高校生だからこんなに近い距離に女子が居るとまともに会話なんてできないよ?
「な、なんだよ。」
言った俺はドギマギしているのが自分でもわかる。
「その、、手伝ってくれて、、あり、、がと、、、。」
敷島は照れを隠すよう俯き俺に礼を言った。
「いやまあそのあれだ、気にするな。」
俺はそう答えるのが精一杯だ。
ちょっと姫野さーんあなたも居るんだから無理に二人だけの空間みたいなの作らなくていいから‼︎
いやまあ確かに普通に考えたら良い雰囲気なのかもしれないがこいつは姫野のことが好きで俺も姫野のことが好きなのでなんとももどかしい心境である。
そんなことよりも片付けに集中しろ俺!
ようやく二人で運んでいた段ボールを廊下まで持ってくることができた。
「それにしてもこれ何入ってたんだよ。そこまでデカくない段ボールなのに重過ぎるだろ。」
「気になるなら蒼山くん開けてみたら?」
言った俺に教室から姫野がひょこっと顔を出して言う。ふいに姫野に顔を覗き込まれたもんだからびっくりして一歩下がったじゃないか。
「まあ確かにそうだよな。開けてみっか。」
言って俺はしゃがみこみ段ボールに貼り付けてあったガムテープをベリベリと剥がし開けてみた。
「こ、こんなの一杯入ってたら流石に重いよね、、、。」
箱の中身を覗き込み敷島が言う。
中にはおそらく書道部で使われていたであろう硯(すずり)が何かのパズルみたいにびっしりと入っていた。
何これ新しいテト○ス?
てかどんだけ芸術的な収納の仕方してんのこれ。
こんなびっしり入れなくても段ボールを分けて入れれば良いじゃん。
そりゃ重いわ。
しかもこれ天然硯だろ。
なんかもっと軽いセラミック製とかの人工硯にしとけよ。
何ちょっとここに無駄な金使ってんの⁉︎
どんだけ本格的なんだよ!
おかげで女子二人にかっこ悪いとこ見せちゃったじゃん⁉︎
あーあもう泣いていいかな?
✖️ ✖️ ✖️
そんなこんなで俺たち三人はひとしきり教室にある余分な荷物を廊下に出すことができた。
後は埃やらなんやらを掃除して俺たち部員が使う分の机を教室に戻せば部室として使えるな。
教室から窓の外を覗くと夕陽が出始めていてスマホの時計を見ると十七時を過ぎようとしていた。
うちの学校の完全下校時刻は十九時だ。
あと2時間もあれば掃除は終わるだろ。
「二人ともあともう一息だ。最後の掃除を済ませようぜ。パパッとやっちまわないと完全下校の時間になる。」
ひと段落終えて少しばかり休憩している二人に言った。
「そうね。みんなで頑張りましょう!」
その俺の言葉に返事をするように敷島の手をぎゅっと握り姫野が言った。
「が、頑張ろう、、、。」
それが恥ずかしかったのか敷島は体を捩らせ返事をする。
あーあ羨ましい。
俺も姫野に手を握られたい‼︎
「んじゃ、敷島は掃き掃除で俺は色んなところ雑巾がけする。姫野は窓を拭いてくれ。」
「わかったわ。」
姫野は明るく返事をし、敷島はこくりと頷いた。
俺はスクールロッカーの上に埃が積もっていたのでそれを雑巾で拭き始める。
っていうかこの教室いつから倉庫になってんだろ。
確か俺らが去年入学した頃にはもう文芸部の部室は図書室だったはずだ。
「なあ、そう言えばこの教室っていつから倉庫なのか知ってるやついるか?」
黙々と掃除している二人に向かって俺は言う。
「うーん。確か五年ほど前だって私は聞いた気がする。文芸部って幽霊部員も多いって聞いたしほとんど部活に参加しないから実際に部室に来るのは三人程度みたいだから、わざわざ部室を使う必要がないってことで図書室になったって前に国語の先生が言ってたの。」
顎に手をやり少し考えるよう姫野が答えた。
何その仕草かわいい。
「まあそりゃ5年も使ってなかったらこんだけ埃にまみれるわな。」
姫野の言葉に軽く答えるよう俺は言ってまた拭き掃除に戻る。
そっけない返しだと思われるだろうが姫野と話すのはものすっごく緊張するのでこれが俺の精一杯の返答である。
俺はひとしきりの拭き掃除を終えていた。
辺りを見渡すと敷島が床の掃き掃除を半分ほど終えていたようなので俺はそこから雑巾がけする事にしよう。
と思ったのだが。
今しゃがんで雑巾がけすると二人のアレが見えてしまう事に気がついた。
そうドラ○ンボー○のウー○ンが神○にお願いして手に入れたアレだ。
何度も言うが俺は健全なる男子高校生だ。
なので見たくないわけがないのだ。
このまま成り行きで床を雑巾がけするフリして見ることも可能なのだ。
いや待て待て待て待て待て待て待て。
理性を保つのだ蒼山紀晴よ。
それは流石に犯罪行為である。
人生の何かを失ってまで見たくはない。
あ、そういえばモップがあったよな。
俺は廊下に置き去りにされていたモップを取りに行った。
持ってきたモップを水が入っているバケツにジャバジャバとつけ濡らし床の拭き掃除を開始。
モップで床を拭くザーザーというような音が教室に響く。
結構汚れているな。
「あら蒼山くん仕上げの床拭きをやってくれてありがとう。それが終われば後は使う物を教室に戻して掃除は完了ね!」
モップをかけていた俺に姫野が笑顔で近づいてきて言った。
近い近い近い‼︎
俺の心臓は今張り裂けそうなほどバクバクしてて思わず鼻の下が伸びそうになる。
「お、おう、、そ、そ、そうだな。」
平静を装った俺だが語気は焦りを隠せなかった。
「ん?どうしたの蒼山くん?」
姫野は不思議そうに俺を見つめ更に距離を詰める。
ちょっとあなたそれほんとに天然でやってる?
それとも俺をからかってるの?
小悪魔ですか?
全身の汗腺から汗が噴き出てくるのがわかる。
「凄い汗だよ?大丈夫?具合でも悪いの?」
更に追い討ちをかけるよう姫野は言う。
その大きな瞳は俺の眼をじっと見つめていた。
心配してくれるのはとてもありがたいのだが原因はあなたなのですよ姫野さん。
俺は緊張に耐えられなくなり一歩後ろへ下がった。
「い、いや、、なんでもない。た、た、ただ暑いだけだ。し、心配してくれてありがとう。」
噛み噛みだが俺はなんとか適当な言葉を並べて誤魔化そうとする。
「なんだぁ!そうだったのね、よかったぁー!」
姫野は心配を浮かべる表情から大きくリアクションをとり髪を揺らし、ぱぁっと明るい笑顔に変わった。
その際にふわりといい香りがしてまたもや俺は鼻が伸びそうになった。
あーあ姫野には敵わないなまったく、、、。
ふと後ろを振り返り見やると敷島がジト目で俺を見ていた。
敷島は俺と目が合うとプイッとそっぽ向いてしまった。
おやおや敷島さん悔しいのかな?
あれ、もしかして俺今敷島よりリードしてんじゃね?
と顔が自然とドヤ顔になっていた。
「紀晴めっちゃヘタレっぽい、、、、。」
敷島がボソっと呟いた。
な、な、ん、、だと、、、。
この子はほんとサラッと男子の心に突き刺さる言葉を言うんだからー、、、。
いやほんと真面目に傷付くからやめてね?(大号泣)
ねーねー姫野さん今の敷島さんの言葉聞いてましたかー?この子こういう子ですよー?
と姫野がいた方に視線を戻すと彼女はとっくに俺の側を離れ元の場所に戻り拭き掃除を再開させ先程の敷島の発言を全く聞いていなかった。
「わ、悪かったなヘタレで‼︎」
俺は敷島にそれしか言い返せなかった。
すると敷島はクスクスと笑い。
「紀晴、ヘタレ、、、。」
と、とても小さな声でダジャレを言った途端手で顔を覆い肩をプルプルと震わせ始めた。
おい。笑ってるのバレバレだかんなお前。
てかお前の笑いのツボは一体どうなってんだよ。
そんな下らないダジャレで笑うとかお前界王様かよ。
あーそうですとも俺は好きな女子の前では挙動不審になるヘタレですよーだ!
あまりにも下らな事を言われて思わず自分でも笑ってしまった。
それに釣られ敷島も声を上げ二人で笑い合う。
「い、いやお前そのダジャレは無いわ!」
「そ、そんなこと言われたってツボに入ったんだから、、し、仕方ないよ!」
言った俺の言葉に敷島も笑いながら答える。
それにしてもお前笑いすぎじゃね?
そんな俺と敷島の笑い合う光景を見て姫野はきょとんとしていた。
「どうしたの?二人とも。敷島さんもこんなに笑うなんて珍しい。あ、もしかして私には内緒の話ぃ~?☆」
茶化すように姫野が言う。
「い、いやそんなんじゃなくて!こ、こいつがさ、、下らないダジャレ言うから思わず笑っちゃって!」
俺は腹筋が崩壊するのではないかというくらい笑いながら姫野の質問に答えた。
っていうかあんなので爆笑している俺も俺だがな。
「敷島さんがダジャレ?でもなんか意外な一面を見られて私はちょっと嬉しい!」
姫野が言うと敷島は顔を赤くし俯いた。
「今度からは私にも色んなダジャレ聞かせてね?」
姫野は敷島に近づき彼女の手を取り言った。
その言葉に敷島は恥ずかしそうに体を捩らせこくりこくりと頷いた。
その後「ねぇどんなダジャレだったの?」と姫野が敷島に問いそのダジャレを言った後姫野はクスクスと俺に申し訳なさそうに控えめに笑うが肩は尋常じゃないほどプルプルと震えていた。
女子の笑いのツボが俺にはわからん。
っていうか姫野も俺のことヘタレって思ってたの⁉︎
いやなんかほんとに、まあ姫野が笑ってくれたからいいけど恥ずかしいから今度ダジャレを言う時は違うネタにしてね?
だがこうして敷島が姫野との距離を縮めるのは良いことだと俺は思う。
こいつの全てを知った訳ではない。
だが普段は誰とも関わろうとしなかった彼女が俺に相談をしてこうやって一歩を踏み出したのは一つの進歩なのだと俺は思う。
例えLOVEの方の好きであってもまずは姫野と友達になれるよう歩み寄る姿勢を見ていると俺も心の中の何かを動かされている気がする。
いつか敷島が姫野とまともに会話ができる日が来ると良いなと俺は切実に思う。
普通とは何なのか正解なんて17年しか生きていない俺には経験不足過ぎてまだまだ何もわからないが、少なくとも敷島にも他の生徒たちと同様に普通の女の子の学生生活を親友と呼べる存在の人と過ごしてほしい。
いつかは俺も敷島も姫野もついでにアホの高野もこの学校を卒業して別々の日々を送り、楽しかった日々は無くなるのだろう。
だけど敷島にはその時の楽しかった日々の全ての瞬間を大切にしてほしい。
こんな他愛もない会話も敷島にとっての大切な思い出に。
こいつにもみんなと平等に楽しい学校生活を送る権利がある。
スタートが遅れたとかそういう事を言う奴も居るだろう、だがそんなんはどうだっていい。
俺に相談したあの日からこいつの日々は変わったのだ。
今はそれで充分だ。
そしてこれからも変わり続けるのだと俺は思う。
だから俺は敷島にこの部活でもっともっと姫野と楽しい思い出を作ってほしい。
そう願う。
ただの綺麗事だと言われればそれまでだ。
実際問題そうだと自分でも思う。
それでも信じたい。
敷島を。これから始まるロッケン部を。
こいつの人生の一部に足を突っ込んだ以上は俺も敷島が姫野と仲良くなれるように全力でサポートしなければならない。
俺にはその責任がある。
最初は嫌々だったがほんの数日、敷島と関わる中で俺は勝手にそんな事を思うようになっていた。
そして知らないうちに敷島へ尊敬の念を抱いていた。
刻々と時間は過ぎていき気が付けば全ての掃除を終えていた。
時計を見やれば十八時三十分を過ぎた頃だった。
窓の外は夕陽が落ち始めすっかり暗くなっていた。
「んじゃ最後の仕上げといきますか。あと三十分程度しかないからさっさとやっちまおうぜ。使う机はどれが良い敷島?」
額の汗をハンカチで拭う敷島に問う。
そりゃこんだけ掃除してりゃ汗もかくわな。
ご苦労様です部長。
「うーん、、、。会議用の長机が良い、、、。」
ゆっくり考え敷島は言う。
「はいよ。じゃあ二人とも運ぶの手伝ってくれ。」
言った俺に敷島と姫野は返事をして廊下に出る俺に着いてきた。
「最後のもう一踏ん張り頑張ろうね!」
姫野が俺と敷島に向かって笑顔で言う。
彼女も疲れているだろうに嫌な顔ひとつせず最後まで頑張ろうとするなんてほんとにいい子だな。
思わず顔が緩みそうになる。
俺たち三人は廊下に出て長机を持ち運び始める。
長机は折り畳み式の天板が茶色で足の部分が黒というよくあるデザインの物だ。
そんなに重くはないが大きさが大きさだけに一人で持つのは少々面倒な為三人で運ぶ。
女子に運ぶの手伝ってもらってダサいなとか思ってるそこの君。
時にはプライドを捨てる事も大事なのだよ?
まあそれはさておき。
黙々と杖を運び教室に並べること約十分か十五分が経過していただろう。
我がロッケン部の部室は教室の真ん中に長机を向かい合わせに二つくっつけて配置し、人数分の椅子を配置というレイアウトになった。
なんとも質素というか殺風景というか。
まあ部室なんてこんなもんなのかな?
知らんけど。
「やっと部室が完成したね敷島さん!」
姫野が敷島に向かって笑顔で言う。
「う、、うん、、、。あの、、、その、、、、二人ともほんとに、、、あり、、、がと、、、、。」
敷島はその言葉の返事と共に俺たち二人に礼を言う。
彼女は顔を赤くし体を捩らせているがその表情は嬉しさで溢れているようだった。
「敷島さんが喜んでるなら、私はそれで充分だよ。」
敷島の手を取り姫野が言う。
それに反応するかのように敷島は体を少しビクっとさせて頷く。
あーあなんかもう羨ましいなお前。
「部活、楽しみましょうね!」
姫野は言って敷島もその言葉に軽く頷き二人は窓の外を眺めていた。
そんな二人の姿を俺は何も言わずにただじっと眺めていた。
片付けやらなんやらで電気を点けるのをすっかり忘れ、廊下の明かりと窓からさす月明かりだけが部室を照らしその光の反射で埃はダイヤモンドダスが舞うようにキラキラと輝いていた。
普段埃って汚ぇ~のにこういう時に綺麗だとか思っちゃう俺って変なのかな?
その二人の光景はとても美しく幻想的だ。
出来る事ならこの空間だけを切り取り時間を止めてずっと眺めていたいと思うほどだ。
その二人の姿に見惚れているとガラガラっと教室の引き戸を開ける音がした。
その方を見やると中条先生が下校時刻だと俺たち三人に言いに来ていた。
「あら、綺麗になったのね。ご苦労様~☆。じゃあ明日から部室として使ってくれてもいいからねぇ~☆」
となんだかほわほわした雰囲気で先生は言う。
先生もこんな時間までお仕事お疲れ様です。
「中条先生、色々とありがとうございました。」
姫野が軽く会釈し中条先生に礼を言う。
それに釣られて俺と敷島も軽く頭を下げた。
っていうか敷島よ。
お前が部長なんだからほんとはお前が先生に礼を言わなぎゃダメなんだゾォ~?
「私は何もしていないわ。頑張ったのは君たち三人だよ!」
中条先生はニコっと笑い言った。
こんな事を言うあたり良い先生なんだろうなと感じた。
まあ実際ほんとに良い先生だけど。
美人だしね‼︎
「じゃあそろそろ完全下校の時間だからみんな気をつけて帰ってね。教室の鍵は先生が閉めて職員室に返しておくからー。」
言いながら先生は羽織っている薄手のカーディガンのポケットからこの教室のものであろ鍵をチャリチャリと揺らし、にこぱーっと微笑んでいる。
なんとも可愛いらしい先生だ。
この人が俺と同じ歳で同じ学校だったら間違いなく心底惚れているだろう。
まあそれはさておき。
「んじゃ帰るか。先生ありがとうございました。それじゃさよならー。」
言って俺は先生に軽く会釈し姫野と敷島も礼を言ってその後に続く。
「はいさようならー。また明日ねー☆」
言って先生は俺たち三人をニコニコっと手を振りながら見送った。
俺たち三人は正門がある新校舎へと繋がる連絡通路をとぼとぼと歩く。
そういえばこの時間まで学校に居るなんて初めてかもしれない。
あーあ、こりゃ汐波にどやされるな。
などと一人考え事をしていると気付けば下駄箱で靴を履き替え駐輪場に着いていた。
「じゃあまた明日な。二人とも気を付けて帰れよ。」
俺は姫野と敷島に向かって言った。
「うん。ありがとう蒼山くん。」
姫野はその言葉に返事を返し、敷島も軽く頷く。
姫野に礼を言ってもらえるなんて、こんな遅くまで学校にいた甲斐があるな。
そして敷島と姫野は同じ方向へ行き、俺はそれとは反対方向へ向かい学校を後にした。
帰り道。今日は歩いて帰りたい気分だったので俺は自転車をガラガラと押しながら歩いていると、明らかに俺の後を追うように足音が聞こえて来る。
ちょ。え?何?ストーカー?
たびたび俺が足を止めると後ろの足音も止まる。
確信犯だなこりゃ。
俺は意を決して後ろを振り返るとそこには十五分ほど前に姫野と一緒に帰ったはずの敷島が立っていた。
「ちょっ。お前何してんの?」
びっくりして電柱に身を隠す敷島に問うた。
てか何で隠れるんだよ。
いやもうバレバレだからなお前。
だが敷島は何も答えようとしない。
「おいもう帰るぞ。」
少し気怠い感じで俺は言う。
すると彼女は電柱からひょいっと体を出してもじもじとし始める。
ここ何日かこいつを見ているとなんとなくこういう時は何か言いたい時なのだと俺はわかるようになってきた。
俺は溜息混じりに敷島の顔を見ると彼女は俯いていた。
その眼には涙を溜めて今にも泣きそうだ。
え?え?え?え?何?なんなの⁉︎
もしかして俺がダルそうに帰るぞって言ったせい⁉︎
そんなに嫌な感じで言ってた⁉︎
いやほんとそれは謝るからさぁ~‼︎
だからそんな顔しないでよ‼︎
すると突然、彼女の口が開いた。
「きょ、、今日はほんとに、、、あり、、がとう、、、。紀晴が居なかったら私、、、何も出来なかった、、、、。」
言った敷島の頬にツーッと涙がつたう。
街灯に照らされ立ちすくみ、涙を流す彼女の姿を俺は呆然と見ることしかできなかった。
ほんの数日。そう、ほんの数日だ。
中学の頃から俺は敷島の事を知っている。
だがほんの数日前からしか俺は彼女と話したことがない。
知っているというよりかは敷島の存在を知っていた、という言い方が正しいだろう。
だからまさか敷島のこのような姿を見るなんて中学の頃の俺は想像もつかないだろう。
現に俺は今、驚きを隠せないでいる。
彼女が今何を思い泣いているのかは俺にはわからない。
嬉しさか?それとも自分が無力だと思う悔しさだろうか?
その両方だろうか?
「おいおい別に泣くことはないだろ。それにお前は一歩踏み出して姫野の事を俺に相談したろ?何もできなかったわけじゃない。お前は行動を起こしたんだよ敷島。」
妙な沈黙に嫌気がさし、俺は言葉を重ねる。
だが俺の言っている言葉は本心だ。
「でも、、でも‼︎」
敷島はそれを認めまいと俺の言葉を遮る。
「それに、まだ本格的に部活は始まっていない。お前の今の目標は姫野と仲良くなる事だろ?まだまだ先は長いんだ。お前は充分頑張ってる。偉そうな言い方だけど。だからほら、とりま拭けよ。」
俺は鞄からポケットティッシュを取り出して敷島に手渡した。
ごめんねハンカチ持ってないからこれで許してね。
「うん、、。ありがとう、、、。」
言って敷島は手を伸ばしポケットティッシュを受け取った。
「とりあえずほら、、まあ、、なんかあれだ、明日は本格的に部活が始まるから気合い入れないとな。それに今日はもう遅い。帰ろうぜ。」
たとえこいつが一人暮らしでもあまり遅い時間まで居ると何があるかわかんないからな。
そう。世の中は常に危険と隣り合わせなのである。
「わかった。じゃあ、、また明日。」
敷島はふるふると小さく手を振る。
「ああ。またな。」
言って俺は敷島に背を向け歩き始める。
すると敷島がまたもや駆け足で近付いてきて制服のセンターベントをクッと掴み俺が歩くのを阻止する。
「ちょいちょい。破れる破れる。どうした?」
言って俺は振り返る。
敷島は体を捩らせキョロキョロと辺りを見渡している。
「道が、、わからないの、、、。」
言って彼女は分が悪そうにチラチラと俺の顔色を伺う。
「おいおい。お前俺を追いかけて来たんだからわかるんじゃねーのかよ。」
俺は苦笑混じりで言った。
「それは、、その、、紀晴に着いて行ったから迷わなかったの、、、。」
はいはいそうですかそうですか、わかりましたよわかりましたとも。
「んじゃもうこんな時間だし一人で帰らすのもあれだから送ってく。とりあえず学校の前まで戻るからそっからお前の家まで案内してくれ。」
もーほんっとにこの子は手がかかる子なんだからー。
「それはその、、下心とか、、、あるの?」
またもやいつぞやか聞いた事のある質問を疑わしい目つきで敷島は問うてくる。
「いやだからねぇっつうの‼︎そんなくだらねーこと言ってると置いて帰るぞ。」
敷島の質問に答え俺はそそくさと帰ろうとする。
「あ、待って!」
言った敷島の方へ振り返る。
「ほら行くぞ。」
なんだか敷島を揶揄うのが可笑しく思い半ば笑いながら俺は言った。
「あ、うん、、、。」
敷島も軽く返事をして俺達は歩き始めた。
✖️ ✖️ ✖️
俺たち二人は校門前まで着いたところで敷島がこっちだと言わんばかりにちょいちょいっと小さく指差す方向へと向かい再び歩き始める。
そもそもこいつ俺と同じ中学なら俺ん家の近所じゃねえのかよ。
「そういやお前いつもどうやって学校来てんだよ。俺と同じ中学だろ?だったら学校の最寄りから帰れるじゃねえか。昨日モック行った帰りは電車で帰ってたし。」
素朴な疑問を投げかける。
「私、高校に入ってから一人暮らしの為に学校近くのマンションに越してきたから歩きだよ。それにモックは学校の最寄よりも3駅も離れてるよ、、、。だから昨日は電車で帰ったの。」
そう言われてみればそうだな。
学校近くの駅とか言っといて実際モックは学校から少し離れている場所にある。
いやほら俺、自転車だからあんまそんな事気にしないからさ。
なんかごめんね(笑)
「昨日、紀晴が近くって言ってたけど、え?これで近いの?って思ったよ。」
言って敷島はジト目で俺を見る。
「いや悪かったって。でも騙すつもりはなかったんだよ全く。」
言った俺はへらへらしていた。
それに反応して敷島は少しむすっとした表情に変わる。
「別に、、いいけど、、、美味しかったし、、、、。」
チラリと敷島の方を見やると照れ笑いを隠すよう俯いていた。
モックを気に入ってもらえて何よりです。
いや誰目線だよ俺。
「姫野と一緒に帰んなくて良かったのか?」
俺は敷島に問う。
姫野と一緒に駅まで行けば仲良くなるチャンスが増えていたのに。
俺なんかに礼を言うが為にそのチャンスを逃していると思うと少し申し訳ないと思ってしまう。
「うん、、。ちゃんと紀晴にお礼が言いたくて、、、それに明日から部活でいっぱい姫野杏果と話すチャンスはあるから!」
パッと一際明るい表情を見せ敷島は言った。
「てか前から思ってたけど何で姫野のことフルネームなんだよ。」
俺は敷島に問うた。
「え?わかんないよ。でもなんか本人の前以外で姫野さんって言うのが照れくさいから、、、。」
言いながら段々と敷島の語気が弱まる。
「意味わかんねーし。まあ別にいいけど。」
言った俺は半ば笑っていた。
まあなんかわからんでもないような気はするな。
俺も家では母さんって呼んでるけど高野とか他のクラスメイトの前では照れくさくて中二臭くお袋とか言ってるし。
それと同じようなことだろう。
え?違う?
まあそれはさておき。
「てゆーかお前、俺のこと下の名前で呼ぶのは照れくさくないのかよ。」
俺は揶揄うように言う。
「それは、、その、、、なんとも思わないよ?友達だと思ってるから。それに紀晴は私にとって初めての友達だし、、。へん、、かな?」
俺の顔を覗き込む仕草を見せて敷島が言う。
急にそんな仕草でそんな事言われたもんだから逆に俺の方が照れくさくなって目を逸らしてしまう。
いくら友達だからといって軽々しくそんな事するもんじゃありません‼︎
勘違いしちゃうでしょうがぁぁぁ‼︎‼︎
「いや、別に変ってわけじゃねぇけど。女子から下の名前で呼ばれたことねぇからな。せいぜい異性で俺の下の名前を呼ぶなんて母親か妹くらいしか居ねぇから。」
俺は照れを誤魔化すよう頬を人差し指でぽりぽりと掻きながら言った。
「妹に下の名前で呼ばせてるなんて、、紀晴ってもしかして、、、シスコン?」
ジト目で俺の顔を見て彼女は言う。
「いや、ちげぇから。勝手に妹が呼んでんだよ。紀晴お兄ちゃん略して紀晴ちゃんなんだとさ。」
俺が全力で否定していると敷島はクスクスっといたずらに笑ってみせた。
そんな仕草を見てるともし俺が姫野の事を知らなければこいつの事を好きになってたのかもしれないとその時思った。
嘘嘘ごめん姫野。
俺は姫野だけだよぉ~?
片想いだけど、、、、。
「てゆうかお前、俺にこんだけ話せるなら姫野の前でももっと喋れるだろ!」
言った俺の語気は焦りを誤魔化すよう少し荒ぶっていたかもしれない。
「うん、、頑張る‼︎」
言って敷島は小さくガッツポーズをした。
「あぁ。頑張れ。俺も頑張るから。」
「え、何を?」
俺の言ったことに彼女は問うてきた。
「いやまあれだよ。色々な。」
俺も姫野と仲良くなる為に頑張ると言いたいところだが今は心にしまっておこう。
ま、特に意味は無いんだけど。
そんなこんな他愛もない会話が続き敷島は急に足を止めた。
「ここだよ。」
と彼女が指差す方向に目が行く。
そこに建っていたのは俺たちが通う学校の窓からも見えているここいらでは恐らく有名であろう高級タワーマンションだった。
見上げる限りだが推定40階以上はあるだろうか。
こいつ、けしからん‼︎‼︎
そういやこいつの親は確か医者とか言ってたな。
え、医者ってそんな儲かんの?
それにしても娘の、しかもまだ高校生の一人暮らしにこんな高級マンションに住まわせるのはいくらなんでもやりすぎじゃね?
やっぱこいつ、けしからん‼︎‼︎
俺の親父なんて俺たち家族が住まう二世帯住宅のローン払うのに毎日毎日サラリーマンとして働いて何かの抜け殻みたいになって帰宅してくるよ?
俺は呆気にとられ、ただただ呆然とそのマンションを見上げていた。
「紀晴?」
敷島の呼ぶ声でふと俺は我にかえる。
「い、いや。お前すげぇとこに住んでんだなって思って、、、。」
いや実際そうとしか言いようがない。
これを見ると誰だってそう言うと思う。
「お父さんがね、セキュリティーがちゃんとしてるからここにしろって。でも、、大袈裟だよね、、、。」
言った敷島の語気は弱く、何故か寂しげな表情を浮かべている。
俺は暫く何も言えないまま妙な沈黙が続く。
そんな空気の中、彼女がまた口を開く。
「なんか、わかんないけど。もっと普通が良い、、、。」
世間から見てみれば親が医者の金持ちで高校生にも関わらずこんなに良いマンションに一人暮らしで住まわせてくれる何不自由ない生活の様に見える。
だが敷島は何か不満がある様子だ。
不満?それだけなのだろうか。
昨日モックへ行く途中も彼女は親との仲があまり良くない素振りを見せていた。
それにこいつは昨日も"普通"という言葉を口にしている。
そう。家族の事に関してはやけに"普通"という事にこだわっているように思う。
だが今俺が考えたところで答えが出るわけでもなく、それについて軽く返事をするのも無責任な気がして必死に言葉を探す。
「まあ、お前の言う普通ってのが俺にはわからんが、、、俺はお前のこと普通だと思う。良い意味でな。」
言った俺の言葉に敷島は驚きと疑問の表情を浮かべる。
「まああれだ、、。普通に学校に通って、相手は女子で色々なんかあれだがその子に恋して仲良くなろうと頑張る普通の女の子だよ、お前は。」
茶化すつもりもなく、ストレートに思った事を言った。
「なんか、、、あれだが多いね、、、、。」
言って敷島はクスっと笑い、少し表情が和らいでいた。
「なんだよ!あーあなんか言って損した気分だぜまったく。」
俺はジト目で彼女を見ながら冗談混じりに言う。
「うそうそ、ありがとう。」
いたずらに笑ってみせて敷島は俺に礼を言った。
なんか照れるわ‼︎
敷島はスマホの時計を確認してマンションを見上げる。
「あ、そろそろ帰らないと。」
言った彼女の言葉に釣られて俺も腕時計を見ると二十時三十分を過ぎていた。
「ああそうだな。部活うまく行くといいな。んじゃまた明日な。」
言って俺は敷島に向かって軽く手を挙げた。
「うん!その、、送ってくれてありがとう。また明日!」
敷島も俺の言葉に返すよう言ってふるふると手を振り、てけてけと駆け足でマンションの入り口へと入って行った。
俺はそれを見送った後、自転車に乗り家路についた。
️ ✖️ ✖️ ✖️
自宅に着き玄関のドアをガチャリと開けるとちょうど自分の部屋へ戻るのか目の前の階段を登ろうとする妹の汐波と出くわした。
もうこんな時間のせいか風呂に入った後の様子で、ポニーテールだった髪を下ろし水色の生地で胸の辺りに可愛らしいひよこのプリントがされてあるTシャツと白いモコモコ素材でウエストの辺りに小さなリボンがあしらわれたショーパンといういつものルームウェアを着用していた。
「あ、紀晴ちゃんおかえりー。てか帰ってくるの遅いよ!」
汐波は両手をブンブンと振りながら怒る。
帰ってくるやいなやいきなり妹に叱られるなんとも情けない兄である。
「あー悪い悪い。ほら昨日言ってた部活の事で遅くなっちまった。」
汐波の頭を手のひらでぽんぽんと軽く叩きながらサラッとあしらいリビングの扉をガチャリと開けソファーにかけた。
なんか背後から「あーそういや昨日そんな事言ってたね。ていうか紀晴ちゃん手洗ってないのに!汚いぃーーー!!」とか聞こえてきたが気にしない気にしない。
ソファでくつろいでいると汐波がひょいと廊下からリビングに顔を出してきた。
「ご飯、テーブルの上に置いてあるから適当に食べてね?ママとパパは明日も早いからもう部屋で休んでるよ。私ももう部屋に行くから。あ、ご飯食べる時はちゃんと手洗ってから食べてね?汚いから。」
「はいよ。」
俺の返事を聞くと妹はリビングの扉を閉め、てとてと階段を登り自分の部屋へ戻って行った。
ていうか汚いって何回も言われると流石にお兄ちゃん傷つくよ?
あーあ汐波がうるせぇから手洗うか。
風呂場の前にある洗面所へ向かいジャバジャバガラゴロと手洗いうがいを早急に済ませ、まだ制服のままだった俺はついでに部屋着に着替えて再びリビングのソファに戻る。
とりあえず腹減ったから飯だな。
俺はソファから立ち上がりテーブルに置いてある夕飯をレンジでチンして食す。
部室を確保する為に片付けやら掃除やら色々働かされたせいか今日はいつもより飯が美味く感じる。
これが労働の喜びというやつだろうか。
夕食を食べ終えこのまま自室のベッドへDive To Blueしたいところだったが流石に風呂に入らない訳にはいかない。明日も学校があるからとか言う以前に明日も姫野と会うからだ。
女子が一番嫌うのは不潔な男子だ。
爪が長かったりアブラっぽかったり臭かったり。とにかく不潔な男子が一番嫌われるのだ。
だから俺はいつだって人前に出る時、身だしなみは綺麗にしている。
そこのモテない男性諸君、覚えておこう‼︎
ま、別に俺もモテないんだけど(大号泣)
風呂から上がり俺は頭をタオルでわしゃわしゃ拭きながら階段を上がり自室を目指す。
あぁ~すっきりすっきりぃ~~。
ガチャリと扉を開け自室へ入りベッドに座る。
あー今日はほんと疲れたなぁー。
とか考えながらスマホを手に取り開くと敷島からラインが入っていた。
メッセージの内容は『こんばんは。夜遅くにごめんね。明日、部活で使いたいから何かロックバンドとかのCDが家にあるなら持ってきてほしの。』
と書かれていた。
CD?何に使うんだ?
まあロックバンドのCDなら俺の部屋に腐るほどあるけど。
その殆どが何年かかけてブックオフをハシゴしてCDの100円コーナーと500円コーナーでコツコツと集めてきた物だ。
邦楽から洋楽。ジャンルも豊富に取り揃えております。
ツタヤごっこできるぞ多分。
俺は立ち上がり四段のカラーボックスにびっしりと並べられているCDをあさる。
んーどれにしようかなー。
正直こんだけあると何を持っていくのか悩むな。
しかもこういうのってセンスが問われるだろ?下手にマニアックなバンドのCDとか持っていくと白い目で見られそうだしな。
しかもロックバンドって言ってもバンドによってジャンルは無数に存在するのだからこれまた厄介だ。
まあでも考え込んでいても仕方はない。
「とりあえずこれだな。」
と独り言を言いつつ俺はカラーボックスに並ぶCDの中から一枚選び手に取った。
何のCDかは明日の部活までのお・た・の・し・み♡
俺はそのCDを鞄の中にしまう。
時計を見やるともう午前0時をすっかり過ぎていた。
本当に今日を含めここ二、三日色んな事がありすぎだ。
敷島から初めて話しかけられたと思ったらとんでもない相談を受けて新たに部活を設立。
おまけに"あの"敷島とファストフード店に行ったりあいつを家まで送ったりと今までの俺には考えられない。
正直頭ん中はごちゃごちゃだ。
中学の頃は一応俺も囲碁将棋部に所属していたがその部活に参加したことは一度たりとも無い。そんな俺が初めてまともに参加しようとしている部活が適当な理由をこじつけて設立されたロッケン部。
しかもメンバーは理由はあれど敷島と姫野。
そして敷島のサポート役として何故か俺。
いや、確かに姫野と一緒の部活に入れるなんて今までの俺にとっては絶好のチャンス以外の何者ではないのだが、まさかこんな形だなんて、、、、。
正直敷島と気まずくなりそうだよ?
なんか姫野が「私を取り合って喧嘩するのはやめて‼︎‼︎」的な展開になったりするのだろうか、、、、、。
いやでも現時点での敷島の目標は"姫野と仲良くなって友達になる"だ。
そのためのロッケン部なのだ。
そこに関しては良い部活なのだと俺は思う。
だから俺も敷島に負けぬよう姫野と仲良くなって友達になろう‼︎
自室で一人、握り拳を天井に突きつけ気合いを入れる俺である。
あれ?もしかしてなろう系ライトノベルの作家さんはこういう感じで作品を書いてるのかな?
いや絶対違うな(笑)
そんなこんなで今日はもう遅い。
それにもうヘトヘトだ。
とりあえず明日を楽しみにして寝るとしよう。
俺は部屋の灯りを消してベットにダイブし眠りについた。
———翌日
何事もなく今日の授業は終えて残すところは帰りのホームルームとなっていた。
窓際に座る敷島を見やるといつものようにむすっとした表情で本を読んでいる。
てか何で教室ではいつもそんな顔なんだよ。
まったく。ホームルームが終わったら初の部活動だというのに緊張感の無い奴だ。
って言うよりかは本を読んで緊張を誤魔化しているのか?
俺も人のことは言えないが姫野を前にすると凄まじい程にテンパるからなアイツ。
緊張はしているがホームルームには特に興味無しって感じか。
今のところ俺の知っている敷島は姫野と食べる事に関して以外は全くもって興味がないように見えるからな。
そんな事を考えながら敷島を眺めていると彼女の足元に段ボールが置かれている事に気が付いた。
眺めているっつってもストーカーじゃないからね?その辺はっきりしとかないとね。
なんだ?あれ。
部活に使う何かが入ってんのか?
そんな何か使うような部活じゃないだろ。
ま、後でわかる事だがな。
帰りのホームルームも終えたところで敷島が段ボールを両手で抱え、てけてけとこちらへやってきた。
「よう。んじゃ姫野呼んでさっそく部活に行くか。てかお前それなんだよ?」
軽く敷島に挨拶を交わして問う。
「あ、これ?CDラジカセ。部活でロックバンドのCDを流すのに持ってきたの。あ、そういえばCD持ってきてくれた?」
CDラジカセってお前、、、。今のご時世スマホを直接繋いで音楽を聴けるスピーカーがあるってのになんともまあ懐かし物を持ってきたもんだ。
そのために俺にCD持ってこいって言ったのかこいつ。
「ああ、持ってきた。とりま重いだろ。ほら貸せよ。」
言って俺は敷島の前へ軽く両手を差し伸べた。
「これぐらい持てるから大丈夫だよ。そんなに重くないし。」
照れを隠すよう少し俯きながら彼女は言う。
「わーったよ。そんじゃ行くぞ。」
言って俺たちは姫野と合流し部室へと向かい始めた。
途中、職員室へ部室の鍵を借りに行き旧校舎へ向かい部室へと辿り着いた。
昨日、廊下へ出した荷物などは無くなっている。
あの後、先生達が校舎裏のゴミ捨て場かどっかに持って行ったのだろう。
「じゃあ、開けるね!二人とも心の準備はいい?」
何やら楽しそうに姫野が俺と敷島に向かって言う。
何それかわいー。
てか心の準備ってなんだよ。
「お、おう、、!」
姫野がそんな無駄な緊張感を煽るから俺も何かドキドキしてきたじゃん。
いやこのドキドキは姫野が居るからか?
俺の返事を合図と思ったのか姫野は施錠されていた部室の鍵をガチャリと解錠し、扉をガラガラっと開け三人は中へと入る。
姫野が電灯のスイッチをパチンっと入れて灯りをつけた。
いよいよだ。
敷島念願のロッケン部。
「とりあえずあれだな。お前が持ってるそのCDラジカセを箱から出して机に置くか。」
言って俺は敷島が持っている段ボールを指差した。
「うん。」
敷島は小さく返事をして持っていた段ボールを一旦机に置いてガムテープをベリベリっと剥がし中から小さなCDラジカセを取り出した。
「まぁ可愛い♡それに懐かしい!小学生の頃こういうのでよく音楽聴いてた!」
姫野がそれを見て反応している。
「家にこれしか持って来れるものが無くて、、、。本当は、、家に置いてある大きなコンポ持ってこようって思ったんだけど一人じゃ持ってこれなかった、、、、。」
言って敷島は申し訳なさそうに俯く。
「いや別にそこまでしなくてもいいだろ。」
笑いながら俺は突っ込んだ。
「あのコンポでクラシックとか聴くと凄く色んな音が聴こえるから楽しいよ?だから、、ロックの音楽をあれで聴いたら凄く良いだろうなって、、、。」
言った敷島は少し残念そうだった。
てかこいつクラシックとか聴くのかよ。
なんか意外だな。音楽には特に興味無いと思ってた。
そもそもそれで聴くと色んな音が聴こえるってこいつ普段どんなコンポ使ってんだよ。めちゃくちゃデカくて値段も高いやつだろ。
「まあ良いだろこれで。そにしてもこのCDラジカセここの机からコンセントに届くのか?」
俺は素朴な質問を敷島に投げかける。
多少は線の長さはあるかもしれないが、机からコンセントの差し込み口まではまあまあの距離だ。
「一度試してみましょう?」
姫野が敷島に向かって言う。
敷島はその言葉に頷き線を伸ばして差し込み口を目指す。
するとほんのニ、三十センチ足りない事が発覚した。
だが敷島は頑張って差し込み口に差そうとする。
するとCDラジカセは机からガタガタと動き今にも落ちそうになっていた。
「いやお前そんな無理矢理やったら線が切れる切れる。それにCDラジカセが落ちそうだぞ。」
半ば呆れ口調で俺は言う。
「あ。」
敷島はCDラジカセの方を見やり言った。
いや「あ。」じゃねーよ。天然かお前は。
その様子を姫野はニコニコしながら見ている。
いや姫野さんもなんか言ってあげて⁉︎
「とりあえずこれじゃ届かねぇから。校舎裏にでもまだ昨日ここにあった机が残ってんだろ。それ持ってくればいいじゃねぇか。」
言った俺に対して敷島は一瞬「え?紀晴が取りに行ってくれるの?」みたいな顔で俺をチラッと見る。
はいはい。わかりましたよ。行けばいいんでしょーが‼︎
「まあいいとりあえず二人はここで待っててくれ俺が机をここまで運んでくるから。」
言って俺は部室を出ようとする。
「その、、ありがとう、、、。」
言った敷島は恥ずかしそうにもじもじしている。
いやお前それ天然じゃなくて計算してるだろ。
ほんっとにもぅ最近の子は‼︎
「ああ。気にすんな。」
言った俺は二人に軽く手を挙げ部室を出た。
部室からとぼとぼと階段を降りて校舎裏のゴミ捨て場に辿り着くこと約十五分。
意外と遠いなここ。
辺りを見渡すと昨日、俺達が廊下に出した机やら何やらがびっしりと置かれていた。
俺はそのうちの学生机を一台両手で抱えて運び始める。
これ抱えて来た道戻るのか、、、。
来た道を半分ほどまで戻って来たあたりで見覚えのある奴とすれ違う。
「あれ?紀晴お前、何やってんだよ。」
高野だ。
面倒な時にこいつと出くわしてしまった。
「いやほら前に言ってただろ。敷島と姫野が新しく部活やるって。それにこの机使うから今運んでんだよ。」
俺は気だるく答えた。
すると高野は何か思い出したようにこう返してきた。
「おいお前!そういや部活の話し俺にもするって約束しただろ⁉︎何で言ってくれなかったんだよ‼︎」
あ、忘れてた。と言いたいところだが、そんな事を言うもんならおそらくこいつはこの場を解放してくれないだろう。
「あーすまん。とりあえずほらまた今度話すからとりあえず二人が待ってるから早く行かねーと。またな。」
俺が言うと高野は「絶対だかんな!」と言葉を返していたが軽くあしらう事にした。
ようやく部室の前まで辿り着くことができた。
机を運んでいたせいか校舎裏まで行くより帰ってくる時間の方が掛かった気がする。
両手が塞がっているので俺は二人を呼ぶ。
「おーい。敷島、姫野。机持ってきたぞー。誰か開けてくれー。」
すると部室の引き戸がガラガラっと開く音がして姫野が出迎えてくれていた。
「重かったでしょ?ありがとう、お疲れ様ー⭐︎」
と、いつもの姫野スマイルで言う。
これで姫野に出迎えてもらえておまけに労いの言葉のオプションまで付いてくるならお安い御用だ。
「ああ姫野か。すまん、助かる。」
本当ならば嬉しさで飛び上がりたいところだが平静を装い机を抱えたままよっこいせと部室内へ入る。
さてさてやっとこさ戻って参りました。
道のりは果てしなく長かった。
「おい敷島。この辺で大丈夫か?」
俺はコンセントの差し込み口がある部室の窓際辺りに机を置き敷島に尋ねる。
その机の上に敷島がCDラジカセをセットして確認する。
ま、見るからに線は届くから確認するまでもないのだが。
一応、尋ねてみた俺である。
「うん。大丈夫。」
コンセントプラグを差し込み口へ挿入し、敷島は答えた。
「じゃあさっそくCDをかけてみましょう!」
言って姫野はぱちぱちと笑顔で拍手していた。
「はいよ。ほれ、持って来たCDだぞ。」
言って俺は鞄をガザガサとあさり中からCDを取り出し、敷島に手渡した。
敷島はそれを受け取りジャケットを眺める。
「これは何のCDなの?」
それを横から覗き込み、人差し指を顎にやり少し首を傾け姫野が問う。
か、可愛い、、、。
「ああ、これか?hideのPSYENCE(サイエンス)ってアルバムだよ。」
言った俺は少しドヤ顔だったかもしれない。
「hide?」
更に姫野が俺に問いかける。
hide(ヒデ)。
本名、松本秀人(まつもとひでと)。
神奈川県横須賀市出身のアーティストだ。
そう、俺がロックを聴くきっかけとなった人物である。
X JAPANのギタリストとしても活動しておりその時の名前の表記は大文字で読みは同じのHIDEである。
彼の楽曲は独創的なものが多く、現代のロックバンドと比べても色褪せていないサウンドが特徴で90年代の楽曲とは思えないほどだ。
そして俺が今日持ってきたCD、PSYENCEは一九九六年九月ニ日に発売された彼のソロとしてはニ枚目のアルバムである。
本作はシングル曲が多く収録されておりもちろんその曲達も名曲揃いだが、このアルバムの為に制作された楽曲も捨て曲は一切無いだろうと言うほど良いアルバムである。
ちなみにこのアルバムのタイトルPSYENCEとはPSYCHO(精神病・サイケデリック)とSCIENCE(科学)を足した、hideによる造語なのだ。
姫野が既に席に座っていたので俺はその向かいに座る。
「どれを流せばいい?」
するとCDを入れカチャカチャとCDラジカセをいじる敷島が俺に問うた。
「んーそうだなぁ。ここは無難に十五曲目のMISERY(ミザリー)だな。」
俺は少し考え敷島の問いに答えた。
「うん。わかった。」
またもや彼女はCDラジカセをカチャカチャっといじり曲を選択し、MISERYを流し始めた。そして敷島も少し小走りで姫野の隣に座る。
hideの楽曲はとしてはとりわけポップなナンバーであり、疾走感のあるテンポで優しい歌詞と歌メロが特徴的な彼自身の人柄の良さが滲み出ているように思える楽曲だ。
特にフェイザーがかけられたイントロのギターフレーズやベンチャーズを連想させるギターソロなどhide独自の発想が詰め込まれている。
この曲のドラムはX JAPANのマニピュレーターでありhideのソロ活動にも制作、ライブなどに参加しているINAと共同で打ち込まれたものでありhide曰く「生のように聴こえるドラム」であり当時でここまでリアルに打ち込むのは比較的珍しい。
このアルバムにはMISERY(remix version)というタイトルで収録されておりhideの五枚目のシングル、MISERYのリマスタリング版でありシングルのものとはサウンドも少し違っており一番の違いはイントロが追加されているところだろう。
また、彼のファンである難病を抱えた少女との交流がきっかけで制作された楽曲でもある。
元々はX JAPANの四枚目のアルバムDAHLIAに収録される予定であったため同バンドのボーカル、ToshIがこの楽曲を歌っているデモテープが存在すると言われている。
だが残念ながら没になったのでhideがソロ活動の楽曲として歌う事となったそうだ。
ちなみにPSYENCEの七曲目にFLAMEという楽曲が収録されているがその曲はMISERYの姉妹曲であるのでそちらもおすすめだ。
気が付けば俺達三人はMISERYをフルコーラスで聴き込んでいた。
「すごく、、良い曲だった!その、、クラシックとは全然違うけど、、、とても優しさが伝わる曲だと思う。」
初めてhideの曲を聴いて感動しているのか目をキラキラさせながら敷島は言った。
その目にはうっすらと涙を浮かべているようにも見える。
そう、この楽曲は涙が出てしまいそうなほど優しく温かさを感じる曲なのだ。
「ほんと!ロックってすごいね!」
姫野もお気に入りの様子だ。
いやぁーお二人に気に入ってもらって俺も感無量だわ。
「ロックって音楽はそのバンドによって曲調や色んな表現があるから好きなんだ。まだまだ二人の知らないバンドが沢山いるし、まだまだ良い曲が沢山ある。」
言った俺はあまり同じ年齢の奴らと音楽の趣味が合わなかったせいか二人に興味を持ってもらえて嬉しい気持ちだった。
「このアルバム、、もっと、、、流してもいい?」
敷島は俺と姫野に向かって問う。
「ああ。好きなだけ聴けよ。おすすめの曲教えてやる。」
俺が言うと敷島はぱぁっと明るい表情を見せ、hideのPSYENCEを一曲目から流し始めた。
ちなみに俺が二人におすすめした曲はアルバム三曲目の限界破裂だ。
️ ✖️ ✖️ ✖️
そんなこんなでPSYENCEの曲を全て流し終えCDラジカセの再生が止まった。
時計を見やるとアルバム一枚聴き終えるのに一時間ほど経過していた。
まあアルバム一枚をフルで聴いたらそんなもんだよね。
「どれもかっこよくて良い曲ばっかりだったね!」
姫野が敷島の手を取り言った。
それにびっくりしたのか敷島は顔を赤くし体を捩らせた。
「うん、、凄く、、、良かった!」
それでも敷島はアルバムの感想を素直に述べる。
「敷島さんはどの曲が一番良かった?」
姫野が敷島に問う。
「私は、、、七曲目が一番良かった、、、。」
七曲目はFLAMEだ。
敷島はちゃんと姫野の問いに答えるがまだ彼女の前では緊張している様子だ。
「私もその曲が一番良いと思ったよ!」
姫野は一際、明るい笑顔で敷島に向かって言う。
なんだよ敷島。お前羨ましいぞ。
まあ確かにFLAMEめっちゃ良い曲だけど。
むしろ俺もhideの曲の中で一、二を争うほど好きな曲だ。
ていうかなんかこの空気、俺が蚊帳の外みたいな感じもしなくもないが、、、。
まあそれはさておき。
俺は少し照れながらこちらに注目を集めるよう軽く咳払いをした。
すると二人はこちらに「どうしたの?」というような表情でこちらに振り向く。
「その、、なんだ。ロックも案外悪くないだろ?」
俺は二人に問うた。
「うん!あの、、明日も、、、何かCD持って来てくれる?」
敷島がまたもや目をキラキラさせて俺に尋ねる。
「ああ、いいぞ。てか明日と言わずどうせ毎日部活動すんだから俺のCD、毎日ロッケン部に提供する。楽しみにしとけ?」
俺が言うと敷島はぱぁっと明るい表情を見せ、両手は小さくガッツポーズをとっていた。
え?そんなに嬉しいの?(笑)
こりゃ完全にロックにハマりましたね敷島さん。
「よかったね敷島さん?」
言って姫野がニコニコと敷島の顔を覗き込む。
「うん!」
自然となのか意識しているのか、はたまた音楽の力なのか姫野に返事をするその瞬間の敷島は彼女に対する緊張が少しはマシになっている気がした。
その光景を見ていると「音楽は心を繋ぐ」なんて誰が言い出したのかわからない言葉は本当なのかもしれないと思ってしまう。
「あ!もうこんな時間。」
時計を見上げ姫野が言った。
俺もその言葉に釣られ時計を見上げると十八時を過ぎていた。
「今日は楽しかったね!」
俺と敷島に向かってにこぱっと姫野が言う。
「そう、、だね。なんか、、、新しい発見ができた気がする。」
それに敷島も答える。
「お二人にロックを気に入ってもらえて光栄です。」
俺は二人に向かって背筋をぴんと伸ばし、掌を自分の胸に当て言った。
「でも、蒼山君のこと中学の頃から知ってたけどロックが好きだなんて知らなかったから、、なんか意外だった。」
俺に向かって姫野はニコニコっと言う。
「いやまあ、あんまり音楽の話で他の皆と合わなかったから言うのが恥ずかしかったってのはあるかな。」
っていうか俺あんまり中学の頃、姫野と話した事ないからだと思う、、、。
照れを隠すよう姫野から視線を逸らし、人差し指で頬をぽりぽりと掻きながら俺は言った。
可愛すぎてあんまり顔を直視できねぇ、、、。
「でもこれで一つ、蒼山君のこと知れたね!」
俺の顔を机越しから覗き込み姫野は言う。
まさか姫野の口からそんな事が聞けるなんて思ってもいなかった。だから俺は嬉しさの反面、驚きが勝っていた。
その言葉には深い意味など無いのかもしれない。だが意外だった。
これは、これはもしかして。
俺のこと、好きなのかもしれん。
いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや結論を出すのは早すぎる。
落ちつけ蒼山紀晴。
そんな事を考え、ぼーっと姫野の顔をただただ見ているとふと姫野の隣に座る敷島と目が合った。
敷島はむすっとした表情で俺の事を見ている。
あ、ごめんごめん敷島。
と言わんばかりに俺は自然と高らかにドヤ顔をキメこんでいた。
「蒼山君どうしたの?」
そんな俺を見て姫野が不思議そうな顔で言った。
「あ、いや。なんでも、、ない、、、。気にするな。」
言って俺は姫野から目を逸らしてしまった。
なんか今の俺、敷島みたいだな。
「へんなのぉー。」
そう言って姫野はいたずらに笑っていた。
「と、とにかく今日のところは解散といこうぜ!二人とも明日はどんなCDか楽しみにしとけよ?」
俺は姫野に変な一面を見られ恥ずかしさを押し殺すよう半ば強引に解散を持ちかけた。
「そうね。楽しみにしてるよ!明日もあるし今日は帰りましょうか!」
姫野が言うと俺達三人は席を立ち帰り支度を始めた。
俺達は部室を出て姫野が鍵を施錠した。
すると敷島がおもむろに口を開いた。
「あ、あの、、姫野さん、、駅まで帰る方向一緒だから、その、、、一緒に、、、帰ろ、、、?」
鞄の持ち手を両手でぎゅっと力強く握りしめ顔を真っ赤にさせて敷島は言った。
お、こいつまた一歩踏み出したじゃないか。
「いいよ!一緒に帰ろう!」
姫野は明るく答えた。
言われた敷島は顔を真っ赤にさせたまま「ありがとう、、、。」と言っていた。
「んじゃ、部室の鍵は俺が返しておくから二人は先に帰ってもいいぞ。」
俺は姫野が手に持つ部室の鍵を指差し言った。
「ほんと?ありがとう!じゃあお言葉に甘えて。また明日ね!」
言って姫野は俺に鍵を手渡してきた。
「ありがとう紀晴。じゃあ、、また明日。」
敷島もそう言って俺に小さく手を振った。
「ああ。じゃあな。」
俺が言うと敷島と姫野はとことこと肩を並べ帰って行った。
その二人の背中を俺は見送る。
かくして記念すべきロッケン部の第一回目の部活動はお開きとなった。
まあただCD聴いてただけだからこれを部活動と言うと色々あれだがな、、、。
だが少しずつ敷島と姫野の距離も縮まっているのは確かだ。よかったな敷島。
ふと職員室へ鍵を返しに行く途中で窓の外を見やるとちょうど敷島と姫野が外を歩いているのが見えた。
もうすぐ沈む夕陽に照らされる敷島の表情は、いつも姫野の前では緊張していた様子が少しは無くなっているように見えた。
了
窓のカーテンから朝日が漏れてなんとも鬱陶しい。
今日は敷島とモックに行って新しい部活を作ると話したその翌日。
しばらくボーッとしてると自室のドアがガタっと音を立てて勢いよく開いた。
目をやるとそこには俺とよく似た赤茶色の髪をポニーテールしてそれをゆらゆら揺らし、にーっと笑う妹の汐波(きよは)が立っていた。
「紀晴ちゃんおはよー!」
「はいはいおはよー。」
「うわー素っ気ない、、、、。」
じと目でベッドで薄っすらと目を開けボーッとしている俺に向かって言う。
「起こしに来た妹ちゃんにはもっと優しくしてくださーい!」
ったく朝からしかも寝起きでそんなテンション上げれるかよ。
「ほら朝ごはんできてるから早く食べて!冷めちゃうし遅刻しちゃうよ?私が」
「ほーい」
また自転車で送れって事か。
っていうか別に一人で学校行ってもいいんだよ?
俺を待たなくてもいいんだよ?
俺は嫌々体を起こし階段をのそのそと降り洗面所で顔を洗いテーブルに座る。
今日の朝ごはんはパンではなく和食テイストだ。
白いご飯に焼き魚、厚焼き玉子に味噌汁とサラダ。
俺はもしゃもしゃと朝ごはんを食べながら今日の朝刊をチェック。
っていうか厚焼き玉子うま。
と一人、心の中で呟きながら刻々と時間は過ぎていく。
「あ、紀晴ちゃんテレビ欄見せて!ドラマの再放送何やってるかチェックしたいから!」
「はいよ」
言って俺は隣で同じく朝ごはんを食べる汐波に新聞を手渡す。
なんかこのやり取り昨日もしなかった?
っていうか受験生なのにそんなのんびりでいいのか妹よ。
俺と同じ高校にくるなら尚更のことだよ?
「そういえば今日は塾の帰りに友達と晩御飯食べて帰るから紀晴ちゃん今日は適当に食べてね?パパとママも帰り遅いから紀晴ちゃん一人だから。」
え?そうなの?マジかー。自分で作るのは面倒だからあれだな今日はピザだな。
ド○ノに決定。
アメリカンがめちゃうまなんだよな。
生地はもちろんウルトラクリスピークラスト。
あのサクッとした食感がたまらない。
サイドメニューのポテナゲとドリンクはコーラだね。
よしそれで決まりだ。
っていうかド○ノってピザもうまいけどサイドメニューのナゲットが一番うまい。
あのジュワッとしたジューシーさが食欲をそそるんだよね。
バーベキューソースもうまいし。
あー早く食べたい。
そんなこんなで朝ごはんを食べ終えまだ制服に着替えてなかったので着替えに自室へ向かう。
着替え終えてもう一度テーブルに戻り鞄に汐波が作った弁当を入れた。
よしあとは汐波を学校まで送って自分の学校へ向かうだけだ。
「汐波ー。そろそろ行くぞー。」
「はーい!」
無事に汐波を学校へ送り届け俺も自分が通う学校に何のトラブルも無くたどり着き教室でアホの高野と話す。
「で?お前部活のことどうなったの?昨日敷島と話したんだろ?」
「あぁまあな」
っていうかなんでこいつこんな部活のこと気にしてんの?
と思っていた矢先に教室の扉がガラッと開きそこから青みがかった黒髪のロングヘアーを靡かせ大きな瞳で笑顔がよく似合うその辺のアイドル顔負けの美少女、姫野杏果(ひめのきょうか)が俺の方へとやってきた。
「蒼山くん、高野くんおはよう♡」
「あっ、、お、おはよう、、、。」
なんとも美しく柔らかな声!
いきなり姫野に挨拶されて俺の返事がぎこちなくてちょっとキモいと思われたかもしれないが姫野は顔色を変えずにニコッと微笑みかけてくれた。
あー姫野たんマジ天使やわぁーー。
でも挨拶は俺だけじゃなくアホの高野にも言っていたのが癪に触る。
姫野は悪くないからねぇ~。悪いのはここにいるアホの高野だからねぇ~。
こいつさえ居なければぁぁぁぁぁーーーーーーーーー‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎
「蒼山くん昨日の話はどうなったの?」
鞄を自分の机にかけ戻ってきた姫野が言う。
「あーそれなんだけど今日の昼休みに敷島から説明されると思う」
思わず姫野に見惚れて顔が緩みそうだったがグッとこらえ俺は答えた。
「おぉ!マジか!どんな内容かめちゃくちゃ気になるな!!」
いやお前に言ったんじゃないんだよ高野よ。
まだああだこうだと俺の隣で言っている高野は放っておき俺は姫野に昨日敷島から聞かされた内容を軽く説明した。
「なるほど、わかった!じゃあ詳しい事は敷島さんから聞くね。ありがとう蒼山くん!」
百点満点の超絶スマイルで姫野は俺に礼を言った。
なんか姫野のために頑張ったみたいですげぇ達成感がある。
頑張ってよかったよ。
いやほんとマジで。
✖️ ✖️ ✖️
小中高と長々と学校生活を送っていると1限目から昼休みまでの時間は果てしなく長く感じるものだ。
朝ご飯をしっかりと食べたはずなのに3限目あたりから空腹を我慢することが日課となっている。
そういえば今日のお弁当は何かな?
汐波の奴いつも中身を教えてくれないからお兄ちゃんはいつもわくわくしながら昼休みを待ってるんだよてへぺろ。
なんて下らない事を考えてる自分に気づきイラッとしたところで4限目終了のチャイムが鳴り響く。
あーやっと昼休みだ。
今日も俺頑張ったな。
さ、飯だ飯。
俺は机の横に掛けてあった鞄から弁当を取り出して丁寧に包んであった風呂敷の結び目をササっと解き弁当箱の蓋に手をかけ開けようとした途端
背後からとてとてと軽めのフットワークで近づいてくる足音が聞こえてきた。
それが俺の真後ろで不自然な止まり方をしたせいで俺は自然と振り返る。
そこには何やらもじもじしながら体を捩らせ視線を合わせようとせず俯いたままの敷島が立っていた。
そうだ、空腹と格闘していたせいでこいつの部活の話の事をすっかり忘れていた。
「あの、、えっと、、、。」
などと敷島は口にしているがほとんど言葉にはなっていない。
昨日二人でモックへ行った時は普通に話していたのに教室でクラスの皆んなが居るとえらい違いだ。
もーほんっとこの子はキャラがころころ変わる子なんだからぁ。
「あーもしかして姫野に部活の事言いたいのか?」
呆れてため息混じりで俺は問いかけると
敷島の表情はすぐさま明るくなり表面にはあまり出さないが口元が薄らと微笑んだ。
わかりやすいというかなんというか。
まあ素直でよろしいとだけ言っておこう。
「あの、、、その、、呼んで欲しいんだけど、、、、。」
下を向きながらぼそぼそと敷島が言う。
「え、俺が姫野を?」
俺は敷島の言葉に返事をしたがどうも気が進まない。
だって姫野たんに声かけるのすっごく緊張するんだもんてへぺろ。
マジ声とか裏返ったりしたら恥ずかしいしキモいとか思われたら嫌じゃん?
だがまるで天使、いや女神のような姫野はそんな事絶対に思わないと思うけどね‼︎‼︎
それはさておき
何やらクラスメイトと微笑ましく談笑中の姫野に申し訳ないという意思を込め俺は彼女に呼びかけた。
彼女って別に彼氏彼女の間柄のそれではなく一個人を呼称するために使った言葉だからね!
いやでも前者の間柄ならどんなに嬉しいことか、、、、。
「お、お~い姫野ぉ~」
と若干小さめに呼びかけた俺の声に姫野はちらりと反応を示しクラスメイトに一言
「ちょっとごめんね」なとど一旦会話を止め俺の方へとてけてけと少しかけ足でやってきた。
その姿も美しい‼︎
「ごめんね。クラスの子と話をしてて時間取らせちゃって。本当ならすぐに蒼山君と敷島さんの所へ行くつもりだったんだけど数学の課題について質問されていたから」
と小さく手を合わせハニカミながら申し訳なさそうに姫野は言った。
「い、いや全然大丈夫。こっちこそすまん。無理矢理呼び出してしまって」
などとありきたりな返答を俺は返した。
ちょっと噛みかけたけどね!
まあそれはさておき
「ほらお前から説明するんだろ?」
と姫野がこちらにやって来てから顔を赤くしもじもじと下を向いている敷島に向かって俺は問いかけた。
「う、うん、、、。」
と敷島は短めに返事をし一旦自身の机に戻り何やらノートを持ってこちらへとやってきた。
その様子を姫野はやや心配そうに眺め、俺も机に頬杖をつき姫野と同様に敷島が話すのをじっと待つ。
「あ、あの、、、その、、、えっと、、、、。」
敷島が下を向きながら思い口を開くように話し始めた。
「敷島さんゆっくりでいいからね。」
姫野が優しく敷島のペースに合わせ話の先を促す。
無理もないだろう。敷島は好意を寄せている姫野に対してだけではなくクラスメイトにすら自ら話しかけた事は無いだろうから緊張するのも理解できる。
の割には俺に対しては結構ガツガツ来てた気もするが、、、、。
「あの、、これ、、、呼んで欲しいの、、、、。」
そう言って敷島は下を向いたまま姫野に自身が持っていたノートを両手をピンっと前へ伸ばし渡した。
「ここに全部書いてあるから、、、。」
言った敷島の声は何故か震えていえ今にも泣きそうな声だ。
そこまで緊張するのだから敷島の姫野に対する想いは本物なんだろう。
「ありがとう。じゃあ読ませてもらうね。」
大方のザックリとした内容は俺が姫野に話しているので大体の事は把握しているだろう。
だが姫野はにこやかに、そして優しく返事をして敷島のノートを受け取り流し読みする訳でもなくそのノートをじっくりと読み始める。
敷島は顔を真っ赤にして下を向いているがチラチラと姫野がノートを読む様子を伺っている。
盗み見する訳ではないが俺はちらりとノートを見やるとそこには昨日モックで敷島が俺に話した部活についての事が事細かく書かれていた。
にしてもノートをチラ見するだけで姫野との距離が近いせいか変な汗が額から滲み出るのがわかる。
大丈夫かな?キモいとか思われてないかな?
大丈夫だよね⁉︎
そんな事を考え、ふと我にかえったころで姫野がノートを読み終え口を開いた。
「ありがとう敷島さん。内容はわかったわ。」
敷島の顔を見ながら姫野は優しく言った。
その返事として敷島も軽く頷いた。
すると姫野はゆっくりと、そして優しく敷島の手を取った。
いきなりの事でびっくりしたのか敷島はほんの数日では見た事がないくらい顔を真っ赤にさせ一瞬だけ体を強張らせていた。
すると姫野は敷島の目をじっと見つめまるで子供に言い聞かせるように優しく話し始めた。
「それで敷島さんはこのノートを私に読ませてどうするつもりなの?」
決して冷たくあしらう態度ではなく柔らかで優しさに満ち溢れる口調だ。
姫野はおそらくこの後、敷島が言おうとしている事を理解しているうえでたずねたのだろう。だが姫野は初めて敷島が自ら自身に心を開き頼ろうとしている事が嬉しかったのだろう。
だからその後の言葉は敷島自身の口から聞きたかったのがわかる。
「あの、、、い、、一緒にこの部活をやってほしい、、、、姫野さんに、、、、。」
ゆっくりと敷島はその問いに答えた。
ぎこちないながらもその言葉は率直に、姫野に伝わるように。
「もちろん!」
姫野はそう明るく答えた。
その時一瞬だけ敷島は顔を明るくして小さくガッツポーズをしてみせた。
なんだ。やればできるじゃねーか。
姫野にだってそんな表情見せるんだからきっと大丈夫だな。
敷島の緊張感を感じとったせいか俺も自然と体に力が入っていたが今の状況を見て安心したせいかスーッと身体中の力が抜けていった。
そして誰にも気付かれないよう小さく溜息を吐いた。
「私ね、小学生の頃からずっと敷島さんが初めて私に頼ってくれてとても嬉しいの。」
言って姫野は敷島の手をもう一度取り彼女の頭をそっと撫でた。
普通男同士の友人ならこんな事をすれば気持ち悪いと思うが女の子同士ならこれも許せるのだろう。
だって俺がもし高野にこんなことされたら気持ち悪くて全力でキレるもんね。
「じゃあそうと決まれば早速、中条先生に言いに行きましょう敷島さん!」
姫野がそう言うと各々返事をした。
時計を見やるとまだあと20分かそこらの時間が残っていたから俺たち3人は教室を出て職員室へと向かうことにした。
✖️ ✖️ ✖️
職員室前へ到着すると姫野が先頭をきって扉を開けてくれた。
一同は「失礼します。」とありふれた挨拶を交わし職員室の1番奥、窓際の席に座る中条先生のもとへとテクテク向かう。
中条愛未(なかじょうつぐみ)先生。
栗色のロングヘアーを靡かせ清楚で落ち着いた服装と可愛らしい垂れ目が特徴のなんだか少しほんわかした雰囲気を持つ美人。
そう、俺たち2年A組の担任である。
中条先生は珍しい組み合わせの三人が近付いたのに気付き少し驚いた表情を見せた。
まあ確かにこの三人は異色だよな。
学級委員長、なんの変哲もない男子高校生、無口な文学少女。
てんでバラバラだ。
「あら?姫野さん蒼山くん敷島さんどうしたの?三人で珍しいわね。」
俺たちが先生の席に到着すると同時に先生は言った。
「うっす。」
俺は軽く返す。
姫野も敷島も言葉や口調は違えど同じような反応だ。
「あのー。中条先生にお願いがありまして。その件について敷島からお話が。」
俺は先生に向かって言った。
その瞬間敷島がハッとした表情を浮かべ何やらあたふたし始めた。
中条先生の表情からハテナマークが頭に沢山浮かび上がっているのが見て取れる。
「あの、、ぶ、部活を、、新しく始めたいんです、、、。」
言った敷島は顔を明るくし俯いていた。
職員室が静かなせいかその小さな声が室内に響き渡る。
「部活?」
中条先生が答える。
その表情は先程と同様、疑問にあふれている。
「はい。世の中には色んな音楽で溢れていて音楽の素晴らしさを皆に広めて知ってもらえるようにレポートにまとめて紹介したりするような部活を始められたらなと考えています。部活の名前はROCK研究部、略してロッケン部という名前なんですけど、、、。」
言葉に詰まった敷島をフォローするように姫野が答えた。
すると中条先生は顎に手をやり何かを考え始める。
「あの、なんかこういうのって俺たち生徒の交流にも繋がると思うんですよ。音楽を通じてのコミュニケーションというかなんというか、、、。」
咄嗟に俺は適当な言葉を並べ口走っていた。
「なるほどねー。」
中条先生が感心したかのように頷く。
なんというか、適当に言った言葉で感心してもらえるとなんだか嬉しい気分になるな。
「そのロッケン部の顧問を中条先生にお願いしたくて三人でお伺いしました。」
少し先生の顔色を伺うように姫野が言った。
「それは良いんだけどぉー。」
え、良いの?そんないい加減な部活認めてくれんの?
進学校だけど大丈夫なのこの高校⁉︎
「一応この学校はあなた達生徒の自主性を尊重するっていうのが方針だから反対はしないんだけど、、、。」
反対しないけどなんなの⁉︎
早く答えてよぉ~愛未ちゃ~んお願いぃ~三百円あげるからぁ~‼︎
「部室がね、、、元々文芸部だった教室があるんだけど今は文芸部の部室が図書室に変わっちゃったからその教室使ってなくて倉庫になってるの。だからその片付けをしてもいいと言うのなら私が顧問になってあげる♡」
てへへー☆みたいなテンションで中条先生が言った。
いや可愛いけどね‼︎
マジかよ。
おいおいまた面倒な事になっちまったな、、、、。
流石にそんなこと言われたら諦めるだろうと敷島の方を見やると目をキラキラさせ中条先生を見ていた。
その光景に俺は思わずじと目になってしまう。
だが敷島さんが喜んでいらっしゃるなら仕方ありませんね。
「しゃーねーな。じゃあやるか。」
溜息まじりで言って俺は姫野と敷島の方を向く。
彼女達もそれに気付き返事の代わりに頷いた。
「じゃあ放課後になったらまた私のところに来て。」
中条先生が俺達三人に向かって言った。
「本当にありがとうございます中条先生。」
三人を代表して姫野が先生に向かって礼を言う。
俺と敷島もそれに合わせて軽く会釈をし職員室を後にした。
てか早く昼飯食っちまわないと昼休みが終わっちまうよ。
まあ人生で一番姫野と話す時間が長かったから俺的には良いんだけどね。
三人並んで教室へ戻ろうと校舎の廊下を歩く。
まだ昼休みで何やら別のクラスの生徒達が友人が居るらしいクラスへと小走りで足を運んだり廊下で立ち話をしている生徒達の喧噪で溢れていた。
まあ高校と限らず学校の休み時間なんていつもこんなもんだなと考えながら右隣を歩く敷島に自然と目が行ってしまった。
こういう騒がしいのが苦手なのだろうか彼女は少し俯いて歩いている。
だがほんのちょっぴり嬉しそうな表情だった。
まあそりゃそうだろうな。
敷島の更に右隣には姫野も一緒に歩いているしその憧れの姫野と同じ部活を作れるなんて彼女にとってこんなに嬉しいことはないだろう。
最初は面倒な事だと思ってはいたがこうやってあからさまに嬉しそうにされると人のために何かをする事は良い事なのだなと実感する。
敷島のその嬉しそうな表情と姫野が歩く横顔はちょうど窓から日の光が差しこんでいてとても幻想的に見えた。
「部活、よかったね。」
不意に姫野が話す。
こくりと敷島が頷いた。
「姫野さんと紀晴のおかげ。」
短かくてわかりにくいが敷島の今の精一杯のありがとうという言葉なのだろう。
「まああれだ。気にすんな」
「そうよ?これからは困った時はもっと私に頼ってね?」
敷島の顔を覗き込み優しい笑みで姫野は言った。
照れているのか敷島は少し体を捩らせこくりこくりとまたもや頷いた。
ほんとお前あれだからな姫野にこんなこと言われてお前ほんと幸せ者だからな?
俺だって言われてみてーよ。
っていうか大事なこと聞くの忘れていた。
部長は誰がやんだよ。
と思い俺は敷島に問いかける。
「そういえばロッケン部の部長はお前でいいのか?敷島。」
「うん。」
言った俺の言葉に敷島は短く返事をした。
「そうか。まあなんかあったら俺もお前を手伝うからあんま気を張るな。」
「う、うん、、、。」
てかお前姫野の前だとどんだけ喋らないんだよ‼︎
まあ別にいいけどね。
そんな俺達二人のやりとりを見ていたずらに姫野が微笑み口を開いた。
「蒼山くん、敷島さんをこれからもよろしくね?」
いや待ってよ姫野さん。
その不意打ちは予想してなかったわ。
ほんとそんな笑みで言われると好きになっちゃうよ?何あなた小悪魔?
まあ実際中学の頃からずっとあなたに片想いしてるんですけどね‼︎‼︎
まあそれはさておき。
「ああ。一応俺もこいつの友達だからな。」
とかカッコつけて言ってるけど大丈夫かな?俺っち敷島に友達って認識してもらえてんのかな?
自分が姫野と関われるよう良いように使えるただの奴隷とか思われてたらどうしよ⁉︎
とチラリと敷島を見やると俯き顔を真っ赤にさせていた。
いや何それ可愛い。
いやいかんいかん。
多分こいつのこの反応は友達と認識しているのだろうけどあくまで友達だからね⁉︎
俺には姫野が居るんだからね⁉︎
ま、どうせこいつも俺のこと実際ただの友達とくらいにしか思ってないだろけど。
そんなこんなで他愛もない会話とは言わないが敷島と姫野と肩を並べ喋りながら歩いているとあっという間に俺達の教室2-Aの前まで来ていた。
俺はガラリと教室の扉を開けて中へ入り敷島と姫野も後に続く。
「あの、、また、、、放課後に、、、、その、、、あり、、がとう、、、、。」
言って敷島は正面に立つ俺と姫野を交互に見ていた。
「ああ。また後でな」
「こちらこそ楽しみにしてるね?部活。」
俺と姫野は敷島の言葉に各々返事を返しそれぞれ自分の席へと戻って行った。
おっとやべーもうちょっとで昼休みが終わっちまう。
さっさと弁当食っちまわないとな。
俺は残り僅かな時間の昼休みに猛スピードで弁当をたいらげた。
ふーなんとか間に合ったぜ☆
その後すぐに昼休み終了のチャイムが鳴り響き午後の授業が開始された。
あ、そういえば高野も部活の話を聞きたいって言ってたの忘れてた。
ま、いっか。
️ ✖️ ✖️ ✖️
淡々と時間は過ぎていき午後の授業もあと一齣となっていた。
授業開始前の少しばかりの休憩時間。腕を天井へ向けて大きく伸びをしてみせた。
それと同時に無意識に欠伸が出てしまった。
ふと離れた斜め右の席の方を見やるとそこは姫野の席で俺の視線に気が付いたのか姫野もこちらに振り返り目が合ってしまった。
俺の大きな欠伸を見たせいか姫野はニコッと微笑みかけ軽く会釈してくれた。
俺は軽く咳払いをし恥ずかしさを誤魔化した。
おいおい俺なんか今めちゃくちゃ恥ずかしいとこ見られてたじゃん。
しかもあの見た者全てを虜にするであろう姫野スマイル。
その不意打ちはほんとやめてね?
心臓に悪いから。
良い意味で‼︎‼︎
今日の最後の授業は物理だ。
授業中は教師の声、シャーペンの芯を出すカチャカチャ音、ノートに文字を書く音などシーンとした中にも授業中ならではの物音で溢れている。
一応我が校は進学校だから皆真面目に授業に集中して私語をかわす輩も居ないのだ。
あのアホの高野でさえも授業中の顔は真剣そのものである。
普段アホなのにね。
だからみんなも授業は真面目に受けようね‼︎
そんなこんなで授業終了のチャイムが校内に鳴り響く。
はーやっと今日も一日授業をおえたな。
ホームルームを終え俺、敷島、姫野の三人はまだ教室に残っていた中条先生のもとへ向かう。
「みんな集まったね。じゃあ行こっか。」
言って中条先生は俺達三人を誘導し始めた。
先生が先頭を歩き俺達は軽く返事をし、特に会話もないままその後を着いていく。
俺達が通う桜並木高等学校は普通教室や学生食堂があるのが新校舎で理科室や音楽室や図書室など特別教室があるのが旧校舎と分かれていて今俺達が歩く連絡通路の先が旧校舎だ。
旧校舎はモダンな造りの新校舎とは違い暖かみのある木を基調としたなんとも懐かしい雰囲気のある建物となっている。
その旧校舎に元々文芸部の部室だったと言われる倉庫があるのだそうだ。
「ここよ。」
表示プレートには何も書かれていない教室の前で中条先生が足を止めその教室の鍵を開錠しガラガラっと音を立て引き戸を開けた。
ふとその教室前の廊下を見やるとあらかじめ中条先生が用意しておいたのであろう雑巾、バケツ、モップ、箒などの掃除用具が置かれてある。
俺達は教室の中に入る。
教室の中からは埃っぽさが感じられもう使われていない学習机やら学習椅子やら会議で使っていたのであろう長机や何かが詰め込まれている段ボールがびっしりとその教室を埋め尽くしていた。
その埃っぽさなのか「くしゅん。」と敷島の子猫みたいなくしゃみが聞こえる。
うわぁ~これを今から三人で片付けなきゃいけなのか~。
ってかそんなに大きくない教室によくもまあこれだけの物がパズルのように詰め込めるもんだ。
「じゃあとりあえずやりますか。」
俺に続き他の二人も「うん。」と軽く返事をしまずは机類を外へ出していく。
その様子を見て中条先生はほわわんとした雰囲気を漂わせ微笑んでいる。
いやいや先生手伝ってよ‼︎
まあこっちからお願いしてる事だから別にいいけど。
「じゃあ倉庫に入ってる物は使いたい物が有れば自由に使っても構わないからねぇ~。とりあえず私はまだ仕事が残ってるから職員室に戻りまぁ~す☆」
とニコッと可愛らしい笑みを浮かべ中条先生は逃げるように教室を後にした。
いや可愛いけども‼︎
なんか俺達先生の良いように使われてるくない?
ほんとはこれ中条先生が頼まれてたけど俺らに押し付けたんじゃない?
そんな考えがジワジワと湧き出てくる。
「それにしてもここまで物が多いとは思わなかったね。」
埃っぽいせいか少し咳き込みながら姫野が言う。
「ああ。二人ともあんま無理すんなよ。重たいもんがあったら俺に言ってくれ。」
なんか今の俺の台詞って超かっこよくない?
「ありがとう蒼山くん!」
ほらほら見てみろよ姫野も喜んでるじゃん。
言ってよかったマジで‼︎
それから俺達三人は黙々と片付けを続ける。
ふと敷島の方を見やると何やら重いのだろうか段ボールと格闘していた。
「ほらあぶねーから俺が運ぶよ。」
「あ、、ありがと、、、。」
敷島は顔を赤くし礼を言いながら一歩後ろへ下がる。
俺はその段ボールを持とうとするがびくともしない。
おいおいこいつこんな思い物を一人で運ぼうとしてたのかよ。
「ねぇねぇ敷島さん。」
俺は後ろに立つ彼女を呼ぶ。
「な、何?」
敷島は不審そうに返事をする。
「手伝って?」
言った俺の声は半泣きで震えていた。
カッコつけて運ぶとは言ったものの運べないとわかると女子に助けを求めるなんてこんなにも情けないことはない。
ごめんねヘタレで(号泣)。
敷島は呆れた様子でじと目でこちらを見ている。
やめてその目‼︎
今その目をされるとほんとに泣いちゃうから俺‼︎
「わかった。」
クスっと小さく笑い声をあげその笑みを隠すよう手を口元にやり敷島は短く返事をした。
笑わないでお願い‼︎
その様子をニコニコと姫野が眺めている。
いや違うから姫野さん!
なんかこの二人良い雰囲気☆みたいな空気出すのやめて?
ほんとそんなんじゃないんだからね‼︎
敷島は段ボールを持とうとかがむ俺の向かいに来る。
そして俺と同じ様に敷島もかがんで段ボールに手をやる。
「よし。そんじゃあ行くぞ。力入れ過ぎてぎっくり腰になんなよ。」
「紀晴に言われたくないんだけど、、、。」冗談混じりで言った俺に苦笑混じりで敷島が返す。
いや、ほんと傷付くから。
俺ガラスのハートだから。
ほんと泣いちゃうから。
「じゃあせーの!」
泣きそうになるのを我慢して俺は敷島に合図をし段ボールを二人で持ち上げた。
かなりの重量の割に段ボールが小さい。
そのせいで向かい合う敷島との距離が近い。
なんかじわじわと変な汗かいてきたよ。
敷島もなんか気まずそうに俯いてるし。
なんかすごく良い匂いするし。
いやほんと何このラブコメ展開。
敷島がダメというわけではない。むしろこいつも誰もが振り返るであろう美少女だ。
だが姫野とこのシチュエーションになってほしかったな(涙)
っていうか作業中に何変なこと考えてんだよ俺。
そんなに広くない教室なのに無駄に廊下までの距離が遠く感じる。
「き、紀晴、、、。」
不意に敷島が俺の名を呼ぶ。
正直こちらは健全な男子高校生だからこんなに近い距離に女子が居るとまともに会話なんてできないよ?
「な、なんだよ。」
言った俺はドギマギしているのが自分でもわかる。
「その、、手伝ってくれて、、あり、、がと、、、。」
敷島は照れを隠すよう俯き俺に礼を言った。
「いやまあそのあれだ、気にするな。」
俺はそう答えるのが精一杯だ。
ちょっと姫野さーんあなたも居るんだから無理に二人だけの空間みたいなの作らなくていいから‼︎
いやまあ確かに普通に考えたら良い雰囲気なのかもしれないがこいつは姫野のことが好きで俺も姫野のことが好きなのでなんとももどかしい心境である。
そんなことよりも片付けに集中しろ俺!
ようやく二人で運んでいた段ボールを廊下まで持ってくることができた。
「それにしてもこれ何入ってたんだよ。そこまでデカくない段ボールなのに重過ぎるだろ。」
「気になるなら蒼山くん開けてみたら?」
言った俺に教室から姫野がひょこっと顔を出して言う。ふいに姫野に顔を覗き込まれたもんだからびっくりして一歩下がったじゃないか。
「まあ確かにそうだよな。開けてみっか。」
言って俺はしゃがみこみ段ボールに貼り付けてあったガムテープをベリベリと剥がし開けてみた。
「こ、こんなの一杯入ってたら流石に重いよね、、、。」
箱の中身を覗き込み敷島が言う。
中にはおそらく書道部で使われていたであろう硯(すずり)が何かのパズルみたいにびっしりと入っていた。
何これ新しいテト○ス?
てかどんだけ芸術的な収納の仕方してんのこれ。
こんなびっしり入れなくても段ボールを分けて入れれば良いじゃん。
そりゃ重いわ。
しかもこれ天然硯だろ。
なんかもっと軽いセラミック製とかの人工硯にしとけよ。
何ちょっとここに無駄な金使ってんの⁉︎
どんだけ本格的なんだよ!
おかげで女子二人にかっこ悪いとこ見せちゃったじゃん⁉︎
あーあもう泣いていいかな?
✖️ ✖️ ✖️
そんなこんなで俺たち三人はひとしきり教室にある余分な荷物を廊下に出すことができた。
後は埃やらなんやらを掃除して俺たち部員が使う分の机を教室に戻せば部室として使えるな。
教室から窓の外を覗くと夕陽が出始めていてスマホの時計を見ると十七時を過ぎようとしていた。
うちの学校の完全下校時刻は十九時だ。
あと2時間もあれば掃除は終わるだろ。
「二人ともあともう一息だ。最後の掃除を済ませようぜ。パパッとやっちまわないと完全下校の時間になる。」
ひと段落終えて少しばかり休憩している二人に言った。
「そうね。みんなで頑張りましょう!」
その俺の言葉に返事をするように敷島の手をぎゅっと握り姫野が言った。
「が、頑張ろう、、、。」
それが恥ずかしかったのか敷島は体を捩らせ返事をする。
あーあ羨ましい。
俺も姫野に手を握られたい‼︎
「んじゃ、敷島は掃き掃除で俺は色んなところ雑巾がけする。姫野は窓を拭いてくれ。」
「わかったわ。」
姫野は明るく返事をし、敷島はこくりと頷いた。
俺はスクールロッカーの上に埃が積もっていたのでそれを雑巾で拭き始める。
っていうかこの教室いつから倉庫になってんだろ。
確か俺らが去年入学した頃にはもう文芸部の部室は図書室だったはずだ。
「なあ、そう言えばこの教室っていつから倉庫なのか知ってるやついるか?」
黙々と掃除している二人に向かって俺は言う。
「うーん。確か五年ほど前だって私は聞いた気がする。文芸部って幽霊部員も多いって聞いたしほとんど部活に参加しないから実際に部室に来るのは三人程度みたいだから、わざわざ部室を使う必要がないってことで図書室になったって前に国語の先生が言ってたの。」
顎に手をやり少し考えるよう姫野が答えた。
何その仕草かわいい。
「まあそりゃ5年も使ってなかったらこんだけ埃にまみれるわな。」
姫野の言葉に軽く答えるよう俺は言ってまた拭き掃除に戻る。
そっけない返しだと思われるだろうが姫野と話すのはものすっごく緊張するのでこれが俺の精一杯の返答である。
俺はひとしきりの拭き掃除を終えていた。
辺りを見渡すと敷島が床の掃き掃除を半分ほど終えていたようなので俺はそこから雑巾がけする事にしよう。
と思ったのだが。
今しゃがんで雑巾がけすると二人のアレが見えてしまう事に気がついた。
そうドラ○ンボー○のウー○ンが神○にお願いして手に入れたアレだ。
何度も言うが俺は健全なる男子高校生だ。
なので見たくないわけがないのだ。
このまま成り行きで床を雑巾がけするフリして見ることも可能なのだ。
いや待て待て待て待て待て待て待て。
理性を保つのだ蒼山紀晴よ。
それは流石に犯罪行為である。
人生の何かを失ってまで見たくはない。
あ、そういえばモップがあったよな。
俺は廊下に置き去りにされていたモップを取りに行った。
持ってきたモップを水が入っているバケツにジャバジャバとつけ濡らし床の拭き掃除を開始。
モップで床を拭くザーザーというような音が教室に響く。
結構汚れているな。
「あら蒼山くん仕上げの床拭きをやってくれてありがとう。それが終われば後は使う物を教室に戻して掃除は完了ね!」
モップをかけていた俺に姫野が笑顔で近づいてきて言った。
近い近い近い‼︎
俺の心臓は今張り裂けそうなほどバクバクしてて思わず鼻の下が伸びそうになる。
「お、おう、、そ、そ、そうだな。」
平静を装った俺だが語気は焦りを隠せなかった。
「ん?どうしたの蒼山くん?」
姫野は不思議そうに俺を見つめ更に距離を詰める。
ちょっとあなたそれほんとに天然でやってる?
それとも俺をからかってるの?
小悪魔ですか?
全身の汗腺から汗が噴き出てくるのがわかる。
「凄い汗だよ?大丈夫?具合でも悪いの?」
更に追い討ちをかけるよう姫野は言う。
その大きな瞳は俺の眼をじっと見つめていた。
心配してくれるのはとてもありがたいのだが原因はあなたなのですよ姫野さん。
俺は緊張に耐えられなくなり一歩後ろへ下がった。
「い、いや、、なんでもない。た、た、ただ暑いだけだ。し、心配してくれてありがとう。」
噛み噛みだが俺はなんとか適当な言葉を並べて誤魔化そうとする。
「なんだぁ!そうだったのね、よかったぁー!」
姫野は心配を浮かべる表情から大きくリアクションをとり髪を揺らし、ぱぁっと明るい笑顔に変わった。
その際にふわりといい香りがしてまたもや俺は鼻が伸びそうになった。
あーあ姫野には敵わないなまったく、、、。
ふと後ろを振り返り見やると敷島がジト目で俺を見ていた。
敷島は俺と目が合うとプイッとそっぽ向いてしまった。
おやおや敷島さん悔しいのかな?
あれ、もしかして俺今敷島よりリードしてんじゃね?
と顔が自然とドヤ顔になっていた。
「紀晴めっちゃヘタレっぽい、、、、。」
敷島がボソっと呟いた。
な、な、ん、、だと、、、。
この子はほんとサラッと男子の心に突き刺さる言葉を言うんだからー、、、。
いやほんと真面目に傷付くからやめてね?(大号泣)
ねーねー姫野さん今の敷島さんの言葉聞いてましたかー?この子こういう子ですよー?
と姫野がいた方に視線を戻すと彼女はとっくに俺の側を離れ元の場所に戻り拭き掃除を再開させ先程の敷島の発言を全く聞いていなかった。
「わ、悪かったなヘタレで‼︎」
俺は敷島にそれしか言い返せなかった。
すると敷島はクスクスと笑い。
「紀晴、ヘタレ、、、。」
と、とても小さな声でダジャレを言った途端手で顔を覆い肩をプルプルと震わせ始めた。
おい。笑ってるのバレバレだかんなお前。
てかお前の笑いのツボは一体どうなってんだよ。
そんな下らないダジャレで笑うとかお前界王様かよ。
あーそうですとも俺は好きな女子の前では挙動不審になるヘタレですよーだ!
あまりにも下らな事を言われて思わず自分でも笑ってしまった。
それに釣られ敷島も声を上げ二人で笑い合う。
「い、いやお前そのダジャレは無いわ!」
「そ、そんなこと言われたってツボに入ったんだから、、し、仕方ないよ!」
言った俺の言葉に敷島も笑いながら答える。
それにしてもお前笑いすぎじゃね?
そんな俺と敷島の笑い合う光景を見て姫野はきょとんとしていた。
「どうしたの?二人とも。敷島さんもこんなに笑うなんて珍しい。あ、もしかして私には内緒の話ぃ~?☆」
茶化すように姫野が言う。
「い、いやそんなんじゃなくて!こ、こいつがさ、、下らないダジャレ言うから思わず笑っちゃって!」
俺は腹筋が崩壊するのではないかというくらい笑いながら姫野の質問に答えた。
っていうかあんなので爆笑している俺も俺だがな。
「敷島さんがダジャレ?でもなんか意外な一面を見られて私はちょっと嬉しい!」
姫野が言うと敷島は顔を赤くし俯いた。
「今度からは私にも色んなダジャレ聞かせてね?」
姫野は敷島に近づき彼女の手を取り言った。
その言葉に敷島は恥ずかしそうに体を捩らせこくりこくりと頷いた。
その後「ねぇどんなダジャレだったの?」と姫野が敷島に問いそのダジャレを言った後姫野はクスクスと俺に申し訳なさそうに控えめに笑うが肩は尋常じゃないほどプルプルと震えていた。
女子の笑いのツボが俺にはわからん。
っていうか姫野も俺のことヘタレって思ってたの⁉︎
いやなんかほんとに、まあ姫野が笑ってくれたからいいけど恥ずかしいから今度ダジャレを言う時は違うネタにしてね?
だがこうして敷島が姫野との距離を縮めるのは良いことだと俺は思う。
こいつの全てを知った訳ではない。
だが普段は誰とも関わろうとしなかった彼女が俺に相談をしてこうやって一歩を踏み出したのは一つの進歩なのだと俺は思う。
例えLOVEの方の好きであってもまずは姫野と友達になれるよう歩み寄る姿勢を見ていると俺も心の中の何かを動かされている気がする。
いつか敷島が姫野とまともに会話ができる日が来ると良いなと俺は切実に思う。
普通とは何なのか正解なんて17年しか生きていない俺には経験不足過ぎてまだまだ何もわからないが、少なくとも敷島にも他の生徒たちと同様に普通の女の子の学生生活を親友と呼べる存在の人と過ごしてほしい。
いつかは俺も敷島も姫野もついでにアホの高野もこの学校を卒業して別々の日々を送り、楽しかった日々は無くなるのだろう。
だけど敷島にはその時の楽しかった日々の全ての瞬間を大切にしてほしい。
こんな他愛もない会話も敷島にとっての大切な思い出に。
こいつにもみんなと平等に楽しい学校生活を送る権利がある。
スタートが遅れたとかそういう事を言う奴も居るだろう、だがそんなんはどうだっていい。
俺に相談したあの日からこいつの日々は変わったのだ。
今はそれで充分だ。
そしてこれからも変わり続けるのだと俺は思う。
だから俺は敷島にこの部活でもっともっと姫野と楽しい思い出を作ってほしい。
そう願う。
ただの綺麗事だと言われればそれまでだ。
実際問題そうだと自分でも思う。
それでも信じたい。
敷島を。これから始まるロッケン部を。
こいつの人生の一部に足を突っ込んだ以上は俺も敷島が姫野と仲良くなれるように全力でサポートしなければならない。
俺にはその責任がある。
最初は嫌々だったがほんの数日、敷島と関わる中で俺は勝手にそんな事を思うようになっていた。
そして知らないうちに敷島へ尊敬の念を抱いていた。
刻々と時間は過ぎていき気が付けば全ての掃除を終えていた。
時計を見やれば十八時三十分を過ぎた頃だった。
窓の外は夕陽が落ち始めすっかり暗くなっていた。
「んじゃ最後の仕上げといきますか。あと三十分程度しかないからさっさとやっちまおうぜ。使う机はどれが良い敷島?」
額の汗をハンカチで拭う敷島に問う。
そりゃこんだけ掃除してりゃ汗もかくわな。
ご苦労様です部長。
「うーん、、、。会議用の長机が良い、、、。」
ゆっくり考え敷島は言う。
「はいよ。じゃあ二人とも運ぶの手伝ってくれ。」
言った俺に敷島と姫野は返事をして廊下に出る俺に着いてきた。
「最後のもう一踏ん張り頑張ろうね!」
姫野が俺と敷島に向かって笑顔で言う。
彼女も疲れているだろうに嫌な顔ひとつせず最後まで頑張ろうとするなんてほんとにいい子だな。
思わず顔が緩みそうになる。
俺たち三人は廊下に出て長机を持ち運び始める。
長机は折り畳み式の天板が茶色で足の部分が黒というよくあるデザインの物だ。
そんなに重くはないが大きさが大きさだけに一人で持つのは少々面倒な為三人で運ぶ。
女子に運ぶの手伝ってもらってダサいなとか思ってるそこの君。
時にはプライドを捨てる事も大事なのだよ?
まあそれはさておき。
黙々と杖を運び教室に並べること約十分か十五分が経過していただろう。
我がロッケン部の部室は教室の真ん中に長机を向かい合わせに二つくっつけて配置し、人数分の椅子を配置というレイアウトになった。
なんとも質素というか殺風景というか。
まあ部室なんてこんなもんなのかな?
知らんけど。
「やっと部室が完成したね敷島さん!」
姫野が敷島に向かって笑顔で言う。
「う、、うん、、、。あの、、、その、、、、二人ともほんとに、、、あり、、、がと、、、、。」
敷島はその言葉の返事と共に俺たち二人に礼を言う。
彼女は顔を赤くし体を捩らせているがその表情は嬉しさで溢れているようだった。
「敷島さんが喜んでるなら、私はそれで充分だよ。」
敷島の手を取り姫野が言う。
それに反応するかのように敷島は体を少しビクっとさせて頷く。
あーあなんかもう羨ましいなお前。
「部活、楽しみましょうね!」
姫野は言って敷島もその言葉に軽く頷き二人は窓の外を眺めていた。
そんな二人の姿を俺は何も言わずにただじっと眺めていた。
片付けやらなんやらで電気を点けるのをすっかり忘れ、廊下の明かりと窓からさす月明かりだけが部室を照らしその光の反射で埃はダイヤモンドダスが舞うようにキラキラと輝いていた。
普段埃って汚ぇ~のにこういう時に綺麗だとか思っちゃう俺って変なのかな?
その二人の光景はとても美しく幻想的だ。
出来る事ならこの空間だけを切り取り時間を止めてずっと眺めていたいと思うほどだ。
その二人の姿に見惚れているとガラガラっと教室の引き戸を開ける音がした。
その方を見やると中条先生が下校時刻だと俺たち三人に言いに来ていた。
「あら、綺麗になったのね。ご苦労様~☆。じゃあ明日から部室として使ってくれてもいいからねぇ~☆」
となんだかほわほわした雰囲気で先生は言う。
先生もこんな時間までお仕事お疲れ様です。
「中条先生、色々とありがとうございました。」
姫野が軽く会釈し中条先生に礼を言う。
それに釣られて俺と敷島も軽く頭を下げた。
っていうか敷島よ。
お前が部長なんだからほんとはお前が先生に礼を言わなぎゃダメなんだゾォ~?
「私は何もしていないわ。頑張ったのは君たち三人だよ!」
中条先生はニコっと笑い言った。
こんな事を言うあたり良い先生なんだろうなと感じた。
まあ実際ほんとに良い先生だけど。
美人だしね‼︎
「じゃあそろそろ完全下校の時間だからみんな気をつけて帰ってね。教室の鍵は先生が閉めて職員室に返しておくからー。」
言いながら先生は羽織っている薄手のカーディガンのポケットからこの教室のものであろ鍵をチャリチャリと揺らし、にこぱーっと微笑んでいる。
なんとも可愛いらしい先生だ。
この人が俺と同じ歳で同じ学校だったら間違いなく心底惚れているだろう。
まあそれはさておき。
「んじゃ帰るか。先生ありがとうございました。それじゃさよならー。」
言って俺は先生に軽く会釈し姫野と敷島も礼を言ってその後に続く。
「はいさようならー。また明日ねー☆」
言って先生は俺たち三人をニコニコっと手を振りながら見送った。
俺たち三人は正門がある新校舎へと繋がる連絡通路をとぼとぼと歩く。
そういえばこの時間まで学校に居るなんて初めてかもしれない。
あーあ、こりゃ汐波にどやされるな。
などと一人考え事をしていると気付けば下駄箱で靴を履き替え駐輪場に着いていた。
「じゃあまた明日な。二人とも気を付けて帰れよ。」
俺は姫野と敷島に向かって言った。
「うん。ありがとう蒼山くん。」
姫野はその言葉に返事を返し、敷島も軽く頷く。
姫野に礼を言ってもらえるなんて、こんな遅くまで学校にいた甲斐があるな。
そして敷島と姫野は同じ方向へ行き、俺はそれとは反対方向へ向かい学校を後にした。
帰り道。今日は歩いて帰りたい気分だったので俺は自転車をガラガラと押しながら歩いていると、明らかに俺の後を追うように足音が聞こえて来る。
ちょ。え?何?ストーカー?
たびたび俺が足を止めると後ろの足音も止まる。
確信犯だなこりゃ。
俺は意を決して後ろを振り返るとそこには十五分ほど前に姫野と一緒に帰ったはずの敷島が立っていた。
「ちょっ。お前何してんの?」
びっくりして電柱に身を隠す敷島に問うた。
てか何で隠れるんだよ。
いやもうバレバレだからなお前。
だが敷島は何も答えようとしない。
「おいもう帰るぞ。」
少し気怠い感じで俺は言う。
すると彼女は電柱からひょいっと体を出してもじもじとし始める。
ここ何日かこいつを見ているとなんとなくこういう時は何か言いたい時なのだと俺はわかるようになってきた。
俺は溜息混じりに敷島の顔を見ると彼女は俯いていた。
その眼には涙を溜めて今にも泣きそうだ。
え?え?え?え?何?なんなの⁉︎
もしかして俺がダルそうに帰るぞって言ったせい⁉︎
そんなに嫌な感じで言ってた⁉︎
いやほんとそれは謝るからさぁ~‼︎
だからそんな顔しないでよ‼︎
すると突然、彼女の口が開いた。
「きょ、、今日はほんとに、、、あり、、がとう、、、。紀晴が居なかったら私、、、何も出来なかった、、、、。」
言った敷島の頬にツーッと涙がつたう。
街灯に照らされ立ちすくみ、涙を流す彼女の姿を俺は呆然と見ることしかできなかった。
ほんの数日。そう、ほんの数日だ。
中学の頃から俺は敷島の事を知っている。
だがほんの数日前からしか俺は彼女と話したことがない。
知っているというよりかは敷島の存在を知っていた、という言い方が正しいだろう。
だからまさか敷島のこのような姿を見るなんて中学の頃の俺は想像もつかないだろう。
現に俺は今、驚きを隠せないでいる。
彼女が今何を思い泣いているのかは俺にはわからない。
嬉しさか?それとも自分が無力だと思う悔しさだろうか?
その両方だろうか?
「おいおい別に泣くことはないだろ。それにお前は一歩踏み出して姫野の事を俺に相談したろ?何もできなかったわけじゃない。お前は行動を起こしたんだよ敷島。」
妙な沈黙に嫌気がさし、俺は言葉を重ねる。
だが俺の言っている言葉は本心だ。
「でも、、でも‼︎」
敷島はそれを認めまいと俺の言葉を遮る。
「それに、まだ本格的に部活は始まっていない。お前の今の目標は姫野と仲良くなる事だろ?まだまだ先は長いんだ。お前は充分頑張ってる。偉そうな言い方だけど。だからほら、とりま拭けよ。」
俺は鞄からポケットティッシュを取り出して敷島に手渡した。
ごめんねハンカチ持ってないからこれで許してね。
「うん、、。ありがとう、、、。」
言って敷島は手を伸ばしポケットティッシュを受け取った。
「とりあえずほら、、まあ、、なんかあれだ、明日は本格的に部活が始まるから気合い入れないとな。それに今日はもう遅い。帰ろうぜ。」
たとえこいつが一人暮らしでもあまり遅い時間まで居ると何があるかわかんないからな。
そう。世の中は常に危険と隣り合わせなのである。
「わかった。じゃあ、、また明日。」
敷島はふるふると小さく手を振る。
「ああ。またな。」
言って俺は敷島に背を向け歩き始める。
すると敷島がまたもや駆け足で近付いてきて制服のセンターベントをクッと掴み俺が歩くのを阻止する。
「ちょいちょい。破れる破れる。どうした?」
言って俺は振り返る。
敷島は体を捩らせキョロキョロと辺りを見渡している。
「道が、、わからないの、、、。」
言って彼女は分が悪そうにチラチラと俺の顔色を伺う。
「おいおい。お前俺を追いかけて来たんだからわかるんじゃねーのかよ。」
俺は苦笑混じりで言った。
「それは、、その、、紀晴に着いて行ったから迷わなかったの、、、。」
はいはいそうですかそうですか、わかりましたよわかりましたとも。
「んじゃもうこんな時間だし一人で帰らすのもあれだから送ってく。とりあえず学校の前まで戻るからそっからお前の家まで案内してくれ。」
もーほんっとにこの子は手がかかる子なんだからー。
「それはその、、下心とか、、、あるの?」
またもやいつぞやか聞いた事のある質問を疑わしい目つきで敷島は問うてくる。
「いやだからねぇっつうの‼︎そんなくだらねーこと言ってると置いて帰るぞ。」
敷島の質問に答え俺はそそくさと帰ろうとする。
「あ、待って!」
言った敷島の方へ振り返る。
「ほら行くぞ。」
なんだか敷島を揶揄うのが可笑しく思い半ば笑いながら俺は言った。
「あ、うん、、、。」
敷島も軽く返事をして俺達は歩き始めた。
✖️ ✖️ ✖️
俺たち二人は校門前まで着いたところで敷島がこっちだと言わんばかりにちょいちょいっと小さく指差す方向へと向かい再び歩き始める。
そもそもこいつ俺と同じ中学なら俺ん家の近所じゃねえのかよ。
「そういやお前いつもどうやって学校来てんだよ。俺と同じ中学だろ?だったら学校の最寄りから帰れるじゃねえか。昨日モック行った帰りは電車で帰ってたし。」
素朴な疑問を投げかける。
「私、高校に入ってから一人暮らしの為に学校近くのマンションに越してきたから歩きだよ。それにモックは学校の最寄よりも3駅も離れてるよ、、、。だから昨日は電車で帰ったの。」
そう言われてみればそうだな。
学校近くの駅とか言っといて実際モックは学校から少し離れている場所にある。
いやほら俺、自転車だからあんまそんな事気にしないからさ。
なんかごめんね(笑)
「昨日、紀晴が近くって言ってたけど、え?これで近いの?って思ったよ。」
言って敷島はジト目で俺を見る。
「いや悪かったって。でも騙すつもりはなかったんだよ全く。」
言った俺はへらへらしていた。
それに反応して敷島は少しむすっとした表情に変わる。
「別に、、いいけど、、、美味しかったし、、、、。」
チラリと敷島の方を見やると照れ笑いを隠すよう俯いていた。
モックを気に入ってもらえて何よりです。
いや誰目線だよ俺。
「姫野と一緒に帰んなくて良かったのか?」
俺は敷島に問う。
姫野と一緒に駅まで行けば仲良くなるチャンスが増えていたのに。
俺なんかに礼を言うが為にそのチャンスを逃していると思うと少し申し訳ないと思ってしまう。
「うん、、。ちゃんと紀晴にお礼が言いたくて、、、それに明日から部活でいっぱい姫野杏果と話すチャンスはあるから!」
パッと一際明るい表情を見せ敷島は言った。
「てか前から思ってたけど何で姫野のことフルネームなんだよ。」
俺は敷島に問うた。
「え?わかんないよ。でもなんか本人の前以外で姫野さんって言うのが照れくさいから、、、。」
言いながら段々と敷島の語気が弱まる。
「意味わかんねーし。まあ別にいいけど。」
言った俺は半ば笑っていた。
まあなんかわからんでもないような気はするな。
俺も家では母さんって呼んでるけど高野とか他のクラスメイトの前では照れくさくて中二臭くお袋とか言ってるし。
それと同じようなことだろう。
え?違う?
まあそれはさておき。
「てゆーかお前、俺のこと下の名前で呼ぶのは照れくさくないのかよ。」
俺は揶揄うように言う。
「それは、、その、、、なんとも思わないよ?友達だと思ってるから。それに紀晴は私にとって初めての友達だし、、。へん、、かな?」
俺の顔を覗き込む仕草を見せて敷島が言う。
急にそんな仕草でそんな事言われたもんだから逆に俺の方が照れくさくなって目を逸らしてしまう。
いくら友達だからといって軽々しくそんな事するもんじゃありません‼︎
勘違いしちゃうでしょうがぁぁぁ‼︎‼︎
「いや、別に変ってわけじゃねぇけど。女子から下の名前で呼ばれたことねぇからな。せいぜい異性で俺の下の名前を呼ぶなんて母親か妹くらいしか居ねぇから。」
俺は照れを誤魔化すよう頬を人差し指でぽりぽりと掻きながら言った。
「妹に下の名前で呼ばせてるなんて、、紀晴ってもしかして、、、シスコン?」
ジト目で俺の顔を見て彼女は言う。
「いや、ちげぇから。勝手に妹が呼んでんだよ。紀晴お兄ちゃん略して紀晴ちゃんなんだとさ。」
俺が全力で否定していると敷島はクスクスっといたずらに笑ってみせた。
そんな仕草を見てるともし俺が姫野の事を知らなければこいつの事を好きになってたのかもしれないとその時思った。
嘘嘘ごめん姫野。
俺は姫野だけだよぉ~?
片想いだけど、、、、。
「てゆうかお前、俺にこんだけ話せるなら姫野の前でももっと喋れるだろ!」
言った俺の語気は焦りを誤魔化すよう少し荒ぶっていたかもしれない。
「うん、、頑張る‼︎」
言って敷島は小さくガッツポーズをした。
「あぁ。頑張れ。俺も頑張るから。」
「え、何を?」
俺の言ったことに彼女は問うてきた。
「いやまあれだよ。色々な。」
俺も姫野と仲良くなる為に頑張ると言いたいところだが今は心にしまっておこう。
ま、特に意味は無いんだけど。
そんなこんな他愛もない会話が続き敷島は急に足を止めた。
「ここだよ。」
と彼女が指差す方向に目が行く。
そこに建っていたのは俺たちが通う学校の窓からも見えているここいらでは恐らく有名であろう高級タワーマンションだった。
見上げる限りだが推定40階以上はあるだろうか。
こいつ、けしからん‼︎‼︎
そういやこいつの親は確か医者とか言ってたな。
え、医者ってそんな儲かんの?
それにしても娘の、しかもまだ高校生の一人暮らしにこんな高級マンションに住まわせるのはいくらなんでもやりすぎじゃね?
やっぱこいつ、けしからん‼︎‼︎
俺の親父なんて俺たち家族が住まう二世帯住宅のローン払うのに毎日毎日サラリーマンとして働いて何かの抜け殻みたいになって帰宅してくるよ?
俺は呆気にとられ、ただただ呆然とそのマンションを見上げていた。
「紀晴?」
敷島の呼ぶ声でふと俺は我にかえる。
「い、いや。お前すげぇとこに住んでんだなって思って、、、。」
いや実際そうとしか言いようがない。
これを見ると誰だってそう言うと思う。
「お父さんがね、セキュリティーがちゃんとしてるからここにしろって。でも、、大袈裟だよね、、、。」
言った敷島の語気は弱く、何故か寂しげな表情を浮かべている。
俺は暫く何も言えないまま妙な沈黙が続く。
そんな空気の中、彼女がまた口を開く。
「なんか、わかんないけど。もっと普通が良い、、、。」
世間から見てみれば親が医者の金持ちで高校生にも関わらずこんなに良いマンションに一人暮らしで住まわせてくれる何不自由ない生活の様に見える。
だが敷島は何か不満がある様子だ。
不満?それだけなのだろうか。
昨日モックへ行く途中も彼女は親との仲があまり良くない素振りを見せていた。
それにこいつは昨日も"普通"という言葉を口にしている。
そう。家族の事に関してはやけに"普通"という事にこだわっているように思う。
だが今俺が考えたところで答えが出るわけでもなく、それについて軽く返事をするのも無責任な気がして必死に言葉を探す。
「まあ、お前の言う普通ってのが俺にはわからんが、、、俺はお前のこと普通だと思う。良い意味でな。」
言った俺の言葉に敷島は驚きと疑問の表情を浮かべる。
「まああれだ、、。普通に学校に通って、相手は女子で色々なんかあれだがその子に恋して仲良くなろうと頑張る普通の女の子だよ、お前は。」
茶化すつもりもなく、ストレートに思った事を言った。
「なんか、、、あれだが多いね、、、、。」
言って敷島はクスっと笑い、少し表情が和らいでいた。
「なんだよ!あーあなんか言って損した気分だぜまったく。」
俺はジト目で彼女を見ながら冗談混じりに言う。
「うそうそ、ありがとう。」
いたずらに笑ってみせて敷島は俺に礼を言った。
なんか照れるわ‼︎
敷島はスマホの時計を確認してマンションを見上げる。
「あ、そろそろ帰らないと。」
言った彼女の言葉に釣られて俺も腕時計を見ると二十時三十分を過ぎていた。
「ああそうだな。部活うまく行くといいな。んじゃまた明日な。」
言って俺は敷島に向かって軽く手を挙げた。
「うん!その、、送ってくれてありがとう。また明日!」
敷島も俺の言葉に返すよう言ってふるふると手を振り、てけてけと駆け足でマンションの入り口へと入って行った。
俺はそれを見送った後、自転車に乗り家路についた。
️ ✖️ ✖️ ✖️
自宅に着き玄関のドアをガチャリと開けるとちょうど自分の部屋へ戻るのか目の前の階段を登ろうとする妹の汐波と出くわした。
もうこんな時間のせいか風呂に入った後の様子で、ポニーテールだった髪を下ろし水色の生地で胸の辺りに可愛らしいひよこのプリントがされてあるTシャツと白いモコモコ素材でウエストの辺りに小さなリボンがあしらわれたショーパンといういつものルームウェアを着用していた。
「あ、紀晴ちゃんおかえりー。てか帰ってくるの遅いよ!」
汐波は両手をブンブンと振りながら怒る。
帰ってくるやいなやいきなり妹に叱られるなんとも情けない兄である。
「あー悪い悪い。ほら昨日言ってた部活の事で遅くなっちまった。」
汐波の頭を手のひらでぽんぽんと軽く叩きながらサラッとあしらいリビングの扉をガチャリと開けソファーにかけた。
なんか背後から「あーそういや昨日そんな事言ってたね。ていうか紀晴ちゃん手洗ってないのに!汚いぃーーー!!」とか聞こえてきたが気にしない気にしない。
ソファでくつろいでいると汐波がひょいと廊下からリビングに顔を出してきた。
「ご飯、テーブルの上に置いてあるから適当に食べてね?ママとパパは明日も早いからもう部屋で休んでるよ。私ももう部屋に行くから。あ、ご飯食べる時はちゃんと手洗ってから食べてね?汚いから。」
「はいよ。」
俺の返事を聞くと妹はリビングの扉を閉め、てとてと階段を登り自分の部屋へ戻って行った。
ていうか汚いって何回も言われると流石にお兄ちゃん傷つくよ?
あーあ汐波がうるせぇから手洗うか。
風呂場の前にある洗面所へ向かいジャバジャバガラゴロと手洗いうがいを早急に済ませ、まだ制服のままだった俺はついでに部屋着に着替えて再びリビングのソファに戻る。
とりあえず腹減ったから飯だな。
俺はソファから立ち上がりテーブルに置いてある夕飯をレンジでチンして食す。
部室を確保する為に片付けやら掃除やら色々働かされたせいか今日はいつもより飯が美味く感じる。
これが労働の喜びというやつだろうか。
夕食を食べ終えこのまま自室のベッドへDive To Blueしたいところだったが流石に風呂に入らない訳にはいかない。明日も学校があるからとか言う以前に明日も姫野と会うからだ。
女子が一番嫌うのは不潔な男子だ。
爪が長かったりアブラっぽかったり臭かったり。とにかく不潔な男子が一番嫌われるのだ。
だから俺はいつだって人前に出る時、身だしなみは綺麗にしている。
そこのモテない男性諸君、覚えておこう‼︎
ま、別に俺もモテないんだけど(大号泣)
風呂から上がり俺は頭をタオルでわしゃわしゃ拭きながら階段を上がり自室を目指す。
あぁ~すっきりすっきりぃ~~。
ガチャリと扉を開け自室へ入りベッドに座る。
あー今日はほんと疲れたなぁー。
とか考えながらスマホを手に取り開くと敷島からラインが入っていた。
メッセージの内容は『こんばんは。夜遅くにごめんね。明日、部活で使いたいから何かロックバンドとかのCDが家にあるなら持ってきてほしの。』
と書かれていた。
CD?何に使うんだ?
まあロックバンドのCDなら俺の部屋に腐るほどあるけど。
その殆どが何年かかけてブックオフをハシゴしてCDの100円コーナーと500円コーナーでコツコツと集めてきた物だ。
邦楽から洋楽。ジャンルも豊富に取り揃えております。
ツタヤごっこできるぞ多分。
俺は立ち上がり四段のカラーボックスにびっしりと並べられているCDをあさる。
んーどれにしようかなー。
正直こんだけあると何を持っていくのか悩むな。
しかもこういうのってセンスが問われるだろ?下手にマニアックなバンドのCDとか持っていくと白い目で見られそうだしな。
しかもロックバンドって言ってもバンドによってジャンルは無数に存在するのだからこれまた厄介だ。
まあでも考え込んでいても仕方はない。
「とりあえずこれだな。」
と独り言を言いつつ俺はカラーボックスに並ぶCDの中から一枚選び手に取った。
何のCDかは明日の部活までのお・た・の・し・み♡
俺はそのCDを鞄の中にしまう。
時計を見やるともう午前0時をすっかり過ぎていた。
本当に今日を含めここ二、三日色んな事がありすぎだ。
敷島から初めて話しかけられたと思ったらとんでもない相談を受けて新たに部活を設立。
おまけに"あの"敷島とファストフード店に行ったりあいつを家まで送ったりと今までの俺には考えられない。
正直頭ん中はごちゃごちゃだ。
中学の頃は一応俺も囲碁将棋部に所属していたがその部活に参加したことは一度たりとも無い。そんな俺が初めてまともに参加しようとしている部活が適当な理由をこじつけて設立されたロッケン部。
しかもメンバーは理由はあれど敷島と姫野。
そして敷島のサポート役として何故か俺。
いや、確かに姫野と一緒の部活に入れるなんて今までの俺にとっては絶好のチャンス以外の何者ではないのだが、まさかこんな形だなんて、、、、。
正直敷島と気まずくなりそうだよ?
なんか姫野が「私を取り合って喧嘩するのはやめて‼︎‼︎」的な展開になったりするのだろうか、、、、、。
いやでも現時点での敷島の目標は"姫野と仲良くなって友達になる"だ。
そのためのロッケン部なのだ。
そこに関しては良い部活なのだと俺は思う。
だから俺も敷島に負けぬよう姫野と仲良くなって友達になろう‼︎
自室で一人、握り拳を天井に突きつけ気合いを入れる俺である。
あれ?もしかしてなろう系ライトノベルの作家さんはこういう感じで作品を書いてるのかな?
いや絶対違うな(笑)
そんなこんなで今日はもう遅い。
それにもうヘトヘトだ。
とりあえず明日を楽しみにして寝るとしよう。
俺は部屋の灯りを消してベットにダイブし眠りについた。
———翌日
何事もなく今日の授業は終えて残すところは帰りのホームルームとなっていた。
窓際に座る敷島を見やるといつものようにむすっとした表情で本を読んでいる。
てか何で教室ではいつもそんな顔なんだよ。
まったく。ホームルームが終わったら初の部活動だというのに緊張感の無い奴だ。
って言うよりかは本を読んで緊張を誤魔化しているのか?
俺も人のことは言えないが姫野を前にすると凄まじい程にテンパるからなアイツ。
緊張はしているがホームルームには特に興味無しって感じか。
今のところ俺の知っている敷島は姫野と食べる事に関して以外は全くもって興味がないように見えるからな。
そんな事を考えながら敷島を眺めていると彼女の足元に段ボールが置かれている事に気が付いた。
眺めているっつってもストーカーじゃないからね?その辺はっきりしとかないとね。
なんだ?あれ。
部活に使う何かが入ってんのか?
そんな何か使うような部活じゃないだろ。
ま、後でわかる事だがな。
帰りのホームルームも終えたところで敷島が段ボールを両手で抱え、てけてけとこちらへやってきた。
「よう。んじゃ姫野呼んでさっそく部活に行くか。てかお前それなんだよ?」
軽く敷島に挨拶を交わして問う。
「あ、これ?CDラジカセ。部活でロックバンドのCDを流すのに持ってきたの。あ、そういえばCD持ってきてくれた?」
CDラジカセってお前、、、。今のご時世スマホを直接繋いで音楽を聴けるスピーカーがあるってのになんともまあ懐かし物を持ってきたもんだ。
そのために俺にCD持ってこいって言ったのかこいつ。
「ああ、持ってきた。とりま重いだろ。ほら貸せよ。」
言って俺は敷島の前へ軽く両手を差し伸べた。
「これぐらい持てるから大丈夫だよ。そんなに重くないし。」
照れを隠すよう少し俯きながら彼女は言う。
「わーったよ。そんじゃ行くぞ。」
言って俺たちは姫野と合流し部室へと向かい始めた。
途中、職員室へ部室の鍵を借りに行き旧校舎へ向かい部室へと辿り着いた。
昨日、廊下へ出した荷物などは無くなっている。
あの後、先生達が校舎裏のゴミ捨て場かどっかに持って行ったのだろう。
「じゃあ、開けるね!二人とも心の準備はいい?」
何やら楽しそうに姫野が俺と敷島に向かって言う。
何それかわいー。
てか心の準備ってなんだよ。
「お、おう、、!」
姫野がそんな無駄な緊張感を煽るから俺も何かドキドキしてきたじゃん。
いやこのドキドキは姫野が居るからか?
俺の返事を合図と思ったのか姫野は施錠されていた部室の鍵をガチャリと解錠し、扉をガラガラっと開け三人は中へと入る。
姫野が電灯のスイッチをパチンっと入れて灯りをつけた。
いよいよだ。
敷島念願のロッケン部。
「とりあえずあれだな。お前が持ってるそのCDラジカセを箱から出して机に置くか。」
言って俺は敷島が持っている段ボールを指差した。
「うん。」
敷島は小さく返事をして持っていた段ボールを一旦机に置いてガムテープをベリベリっと剥がし中から小さなCDラジカセを取り出した。
「まぁ可愛い♡それに懐かしい!小学生の頃こういうのでよく音楽聴いてた!」
姫野がそれを見て反応している。
「家にこれしか持って来れるものが無くて、、、。本当は、、家に置いてある大きなコンポ持ってこようって思ったんだけど一人じゃ持ってこれなかった、、、、。」
言って敷島は申し訳なさそうに俯く。
「いや別にそこまでしなくてもいいだろ。」
笑いながら俺は突っ込んだ。
「あのコンポでクラシックとか聴くと凄く色んな音が聴こえるから楽しいよ?だから、、ロックの音楽をあれで聴いたら凄く良いだろうなって、、、。」
言った敷島は少し残念そうだった。
てかこいつクラシックとか聴くのかよ。
なんか意外だな。音楽には特に興味無いと思ってた。
そもそもそれで聴くと色んな音が聴こえるってこいつ普段どんなコンポ使ってんだよ。めちゃくちゃデカくて値段も高いやつだろ。
「まあ良いだろこれで。そにしてもこのCDラジカセここの机からコンセントに届くのか?」
俺は素朴な質問を敷島に投げかける。
多少は線の長さはあるかもしれないが、机からコンセントの差し込み口まではまあまあの距離だ。
「一度試してみましょう?」
姫野が敷島に向かって言う。
敷島はその言葉に頷き線を伸ばして差し込み口を目指す。
するとほんのニ、三十センチ足りない事が発覚した。
だが敷島は頑張って差し込み口に差そうとする。
するとCDラジカセは机からガタガタと動き今にも落ちそうになっていた。
「いやお前そんな無理矢理やったら線が切れる切れる。それにCDラジカセが落ちそうだぞ。」
半ば呆れ口調で俺は言う。
「あ。」
敷島はCDラジカセの方を見やり言った。
いや「あ。」じゃねーよ。天然かお前は。
その様子を姫野はニコニコしながら見ている。
いや姫野さんもなんか言ってあげて⁉︎
「とりあえずこれじゃ届かねぇから。校舎裏にでもまだ昨日ここにあった机が残ってんだろ。それ持ってくればいいじゃねぇか。」
言った俺に対して敷島は一瞬「え?紀晴が取りに行ってくれるの?」みたいな顔で俺をチラッと見る。
はいはい。わかりましたよ。行けばいいんでしょーが‼︎
「まあいいとりあえず二人はここで待っててくれ俺が机をここまで運んでくるから。」
言って俺は部室を出ようとする。
「その、、ありがとう、、、。」
言った敷島は恥ずかしそうにもじもじしている。
いやお前それ天然じゃなくて計算してるだろ。
ほんっとにもぅ最近の子は‼︎
「ああ。気にすんな。」
言った俺は二人に軽く手を挙げ部室を出た。
部室からとぼとぼと階段を降りて校舎裏のゴミ捨て場に辿り着くこと約十五分。
意外と遠いなここ。
辺りを見渡すと昨日、俺達が廊下に出した机やら何やらがびっしりと置かれていた。
俺はそのうちの学生机を一台両手で抱えて運び始める。
これ抱えて来た道戻るのか、、、。
来た道を半分ほどまで戻って来たあたりで見覚えのある奴とすれ違う。
「あれ?紀晴お前、何やってんだよ。」
高野だ。
面倒な時にこいつと出くわしてしまった。
「いやほら前に言ってただろ。敷島と姫野が新しく部活やるって。それにこの机使うから今運んでんだよ。」
俺は気だるく答えた。
すると高野は何か思い出したようにこう返してきた。
「おいお前!そういや部活の話し俺にもするって約束しただろ⁉︎何で言ってくれなかったんだよ‼︎」
あ、忘れてた。と言いたいところだが、そんな事を言うもんならおそらくこいつはこの場を解放してくれないだろう。
「あーすまん。とりあえずほらまた今度話すからとりあえず二人が待ってるから早く行かねーと。またな。」
俺が言うと高野は「絶対だかんな!」と言葉を返していたが軽くあしらう事にした。
ようやく部室の前まで辿り着くことができた。
机を運んでいたせいか校舎裏まで行くより帰ってくる時間の方が掛かった気がする。
両手が塞がっているので俺は二人を呼ぶ。
「おーい。敷島、姫野。机持ってきたぞー。誰か開けてくれー。」
すると部室の引き戸がガラガラっと開く音がして姫野が出迎えてくれていた。
「重かったでしょ?ありがとう、お疲れ様ー⭐︎」
と、いつもの姫野スマイルで言う。
これで姫野に出迎えてもらえておまけに労いの言葉のオプションまで付いてくるならお安い御用だ。
「ああ姫野か。すまん、助かる。」
本当ならば嬉しさで飛び上がりたいところだが平静を装い机を抱えたままよっこいせと部室内へ入る。
さてさてやっとこさ戻って参りました。
道のりは果てしなく長かった。
「おい敷島。この辺で大丈夫か?」
俺はコンセントの差し込み口がある部室の窓際辺りに机を置き敷島に尋ねる。
その机の上に敷島がCDラジカセをセットして確認する。
ま、見るからに線は届くから確認するまでもないのだが。
一応、尋ねてみた俺である。
「うん。大丈夫。」
コンセントプラグを差し込み口へ挿入し、敷島は答えた。
「じゃあさっそくCDをかけてみましょう!」
言って姫野はぱちぱちと笑顔で拍手していた。
「はいよ。ほれ、持って来たCDだぞ。」
言って俺は鞄をガザガサとあさり中からCDを取り出し、敷島に手渡した。
敷島はそれを受け取りジャケットを眺める。
「これは何のCDなの?」
それを横から覗き込み、人差し指を顎にやり少し首を傾け姫野が問う。
か、可愛い、、、。
「ああ、これか?hideのPSYENCE(サイエンス)ってアルバムだよ。」
言った俺は少しドヤ顔だったかもしれない。
「hide?」
更に姫野が俺に問いかける。
hide(ヒデ)。
本名、松本秀人(まつもとひでと)。
神奈川県横須賀市出身のアーティストだ。
そう、俺がロックを聴くきっかけとなった人物である。
X JAPANのギタリストとしても活動しておりその時の名前の表記は大文字で読みは同じのHIDEである。
彼の楽曲は独創的なものが多く、現代のロックバンドと比べても色褪せていないサウンドが特徴で90年代の楽曲とは思えないほどだ。
そして俺が今日持ってきたCD、PSYENCEは一九九六年九月ニ日に発売された彼のソロとしてはニ枚目のアルバムである。
本作はシングル曲が多く収録されておりもちろんその曲達も名曲揃いだが、このアルバムの為に制作された楽曲も捨て曲は一切無いだろうと言うほど良いアルバムである。
ちなみにこのアルバムのタイトルPSYENCEとはPSYCHO(精神病・サイケデリック)とSCIENCE(科学)を足した、hideによる造語なのだ。
姫野が既に席に座っていたので俺はその向かいに座る。
「どれを流せばいい?」
するとCDを入れカチャカチャとCDラジカセをいじる敷島が俺に問うた。
「んーそうだなぁ。ここは無難に十五曲目のMISERY(ミザリー)だな。」
俺は少し考え敷島の問いに答えた。
「うん。わかった。」
またもや彼女はCDラジカセをカチャカチャっといじり曲を選択し、MISERYを流し始めた。そして敷島も少し小走りで姫野の隣に座る。
hideの楽曲はとしてはとりわけポップなナンバーであり、疾走感のあるテンポで優しい歌詞と歌メロが特徴的な彼自身の人柄の良さが滲み出ているように思える楽曲だ。
特にフェイザーがかけられたイントロのギターフレーズやベンチャーズを連想させるギターソロなどhide独自の発想が詰め込まれている。
この曲のドラムはX JAPANのマニピュレーターでありhideのソロ活動にも制作、ライブなどに参加しているINAと共同で打ち込まれたものでありhide曰く「生のように聴こえるドラム」であり当時でここまでリアルに打ち込むのは比較的珍しい。
このアルバムにはMISERY(remix version)というタイトルで収録されておりhideの五枚目のシングル、MISERYのリマスタリング版でありシングルのものとはサウンドも少し違っており一番の違いはイントロが追加されているところだろう。
また、彼のファンである難病を抱えた少女との交流がきっかけで制作された楽曲でもある。
元々はX JAPANの四枚目のアルバムDAHLIAに収録される予定であったため同バンドのボーカル、ToshIがこの楽曲を歌っているデモテープが存在すると言われている。
だが残念ながら没になったのでhideがソロ活動の楽曲として歌う事となったそうだ。
ちなみにPSYENCEの七曲目にFLAMEという楽曲が収録されているがその曲はMISERYの姉妹曲であるのでそちらもおすすめだ。
気が付けば俺達三人はMISERYをフルコーラスで聴き込んでいた。
「すごく、、良い曲だった!その、、クラシックとは全然違うけど、、、とても優しさが伝わる曲だと思う。」
初めてhideの曲を聴いて感動しているのか目をキラキラさせながら敷島は言った。
その目にはうっすらと涙を浮かべているようにも見える。
そう、この楽曲は涙が出てしまいそうなほど優しく温かさを感じる曲なのだ。
「ほんと!ロックってすごいね!」
姫野もお気に入りの様子だ。
いやぁーお二人に気に入ってもらって俺も感無量だわ。
「ロックって音楽はそのバンドによって曲調や色んな表現があるから好きなんだ。まだまだ二人の知らないバンドが沢山いるし、まだまだ良い曲が沢山ある。」
言った俺はあまり同じ年齢の奴らと音楽の趣味が合わなかったせいか二人に興味を持ってもらえて嬉しい気持ちだった。
「このアルバム、、もっと、、、流してもいい?」
敷島は俺と姫野に向かって問う。
「ああ。好きなだけ聴けよ。おすすめの曲教えてやる。」
俺が言うと敷島はぱぁっと明るい表情を見せ、hideのPSYENCEを一曲目から流し始めた。
ちなみに俺が二人におすすめした曲はアルバム三曲目の限界破裂だ。
️ ✖️ ✖️ ✖️
そんなこんなでPSYENCEの曲を全て流し終えCDラジカセの再生が止まった。
時計を見やるとアルバム一枚聴き終えるのに一時間ほど経過していた。
まあアルバム一枚をフルで聴いたらそんなもんだよね。
「どれもかっこよくて良い曲ばっかりだったね!」
姫野が敷島の手を取り言った。
それにびっくりしたのか敷島は顔を赤くし体を捩らせた。
「うん、、凄く、、、良かった!」
それでも敷島はアルバムの感想を素直に述べる。
「敷島さんはどの曲が一番良かった?」
姫野が敷島に問う。
「私は、、、七曲目が一番良かった、、、。」
七曲目はFLAMEだ。
敷島はちゃんと姫野の問いに答えるがまだ彼女の前では緊張している様子だ。
「私もその曲が一番良いと思ったよ!」
姫野は一際、明るい笑顔で敷島に向かって言う。
なんだよ敷島。お前羨ましいぞ。
まあ確かにFLAMEめっちゃ良い曲だけど。
むしろ俺もhideの曲の中で一、二を争うほど好きな曲だ。
ていうかなんかこの空気、俺が蚊帳の外みたいな感じもしなくもないが、、、。
まあそれはさておき。
俺は少し照れながらこちらに注目を集めるよう軽く咳払いをした。
すると二人はこちらに「どうしたの?」というような表情でこちらに振り向く。
「その、、なんだ。ロックも案外悪くないだろ?」
俺は二人に問うた。
「うん!あの、、明日も、、、何かCD持って来てくれる?」
敷島がまたもや目をキラキラさせて俺に尋ねる。
「ああ、いいぞ。てか明日と言わずどうせ毎日部活動すんだから俺のCD、毎日ロッケン部に提供する。楽しみにしとけ?」
俺が言うと敷島はぱぁっと明るい表情を見せ、両手は小さくガッツポーズをとっていた。
え?そんなに嬉しいの?(笑)
こりゃ完全にロックにハマりましたね敷島さん。
「よかったね敷島さん?」
言って姫野がニコニコと敷島の顔を覗き込む。
「うん!」
自然となのか意識しているのか、はたまた音楽の力なのか姫野に返事をするその瞬間の敷島は彼女に対する緊張が少しはマシになっている気がした。
その光景を見ていると「音楽は心を繋ぐ」なんて誰が言い出したのかわからない言葉は本当なのかもしれないと思ってしまう。
「あ!もうこんな時間。」
時計を見上げ姫野が言った。
俺もその言葉に釣られ時計を見上げると十八時を過ぎていた。
「今日は楽しかったね!」
俺と敷島に向かってにこぱっと姫野が言う。
「そう、、だね。なんか、、、新しい発見ができた気がする。」
それに敷島も答える。
「お二人にロックを気に入ってもらえて光栄です。」
俺は二人に向かって背筋をぴんと伸ばし、掌を自分の胸に当て言った。
「でも、蒼山君のこと中学の頃から知ってたけどロックが好きだなんて知らなかったから、、なんか意外だった。」
俺に向かって姫野はニコニコっと言う。
「いやまあ、あんまり音楽の話で他の皆と合わなかったから言うのが恥ずかしかったってのはあるかな。」
っていうか俺あんまり中学の頃、姫野と話した事ないからだと思う、、、。
照れを隠すよう姫野から視線を逸らし、人差し指で頬をぽりぽりと掻きながら俺は言った。
可愛すぎてあんまり顔を直視できねぇ、、、。
「でもこれで一つ、蒼山君のこと知れたね!」
俺の顔を机越しから覗き込み姫野は言う。
まさか姫野の口からそんな事が聞けるなんて思ってもいなかった。だから俺は嬉しさの反面、驚きが勝っていた。
その言葉には深い意味など無いのかもしれない。だが意外だった。
これは、これはもしかして。
俺のこと、好きなのかもしれん。
いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや結論を出すのは早すぎる。
落ちつけ蒼山紀晴。
そんな事を考え、ぼーっと姫野の顔をただただ見ているとふと姫野の隣に座る敷島と目が合った。
敷島はむすっとした表情で俺の事を見ている。
あ、ごめんごめん敷島。
と言わんばかりに俺は自然と高らかにドヤ顔をキメこんでいた。
「蒼山君どうしたの?」
そんな俺を見て姫野が不思議そうな顔で言った。
「あ、いや。なんでも、、ない、、、。気にするな。」
言って俺は姫野から目を逸らしてしまった。
なんか今の俺、敷島みたいだな。
「へんなのぉー。」
そう言って姫野はいたずらに笑っていた。
「と、とにかく今日のところは解散といこうぜ!二人とも明日はどんなCDか楽しみにしとけよ?」
俺は姫野に変な一面を見られ恥ずかしさを押し殺すよう半ば強引に解散を持ちかけた。
「そうね。楽しみにしてるよ!明日もあるし今日は帰りましょうか!」
姫野が言うと俺達三人は席を立ち帰り支度を始めた。
俺達は部室を出て姫野が鍵を施錠した。
すると敷島がおもむろに口を開いた。
「あ、あの、、姫野さん、、駅まで帰る方向一緒だから、その、、、一緒に、、、帰ろ、、、?」
鞄の持ち手を両手でぎゅっと力強く握りしめ顔を真っ赤にさせて敷島は言った。
お、こいつまた一歩踏み出したじゃないか。
「いいよ!一緒に帰ろう!」
姫野は明るく答えた。
言われた敷島は顔を真っ赤にさせたまま「ありがとう、、、。」と言っていた。
「んじゃ、部室の鍵は俺が返しておくから二人は先に帰ってもいいぞ。」
俺は姫野が手に持つ部室の鍵を指差し言った。
「ほんと?ありがとう!じゃあお言葉に甘えて。また明日ね!」
言って姫野は俺に鍵を手渡してきた。
「ありがとう紀晴。じゃあ、、また明日。」
敷島もそう言って俺に小さく手を振った。
「ああ。じゃあな。」
俺が言うと敷島と姫野はとことこと肩を並べ帰って行った。
その二人の背中を俺は見送る。
かくして記念すべきロッケン部の第一回目の部活動はお開きとなった。
まあただCD聴いてただけだからこれを部活動と言うと色々あれだがな、、、。
だが少しずつ敷島と姫野の距離も縮まっているのは確かだ。よかったな敷島。
ふと職員室へ鍵を返しに行く途中で窓の外を見やるとちょうど敷島と姫野が外を歩いているのが見えた。
もうすぐ沈む夕陽に照らされる敷島の表情は、いつも姫野の前では緊張していた様子が少しは無くなっているように見えた。
了
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