閃き輝く異世界無敵語り/行きて帰りたい物語

横山剛衛門

文字の大きさ
5 / 20
「異世界の楽園」編

4.二か月後

しおりを挟む
 五色の魔力を得た次の日。俺は島中を飛び回り、魔力のから素材を集めてきた。
 森の巨木の先端に生えた枝。
 山の火口で燃えながら固まった溶岩。
 底なし沼の底に埋もれていた太古の骨。
 川の流れで延々と磨かれ続けた石。
 平野で長年陽の光を浴びた鉱物の欠片。
 いずれもたっぷりと魔力を含んでいて、魔宝アーティファクト造りには最高の材料となるそうだ。
 集めたモノをビビアナに渡すと、彼女は島の奥にひっそりと立っていた塔に俺を連れて行った。こんなところにこんなモノがあるなんて、これまで気付かなかったぞ。

「ワシがいいと言うまで、中に入ってはいかんぞ」

 ビビアナはそう強く命じると、素材を持って一人で塔に篭ってしまった。
 それから早うん十日。毎日様子を伺いに行ったが、塔の中からカンカンギンギンと音が響いてくるばかりで、なんの音沙汰もない。
 なのでその間、俺は俺で魔術や剣術の鍛錬に明け暮れた。そうしてビビアナの蔵書も読み尽くし、いよいよやることがなくなった頃。
 焚き火で夜飯の準備をしていたところに、ようやくビビアナが帰ってきた。

「おお、終わったのか。何が出来たんだ?」

「……うむ」

 俺は軽い口調で出迎えたが、暗がりから現れたビビアナの足取りは重く、今にも倒れそうなくらい生気がなかった。

「お、おい! 大丈夫か、しっかりしろ」

 そして案の定倒れ込んだ彼女を、慌てて抱きとめる。

「師匠、まさか飲まず食わずで……? 食べる物は毎日置きに行っていたのに……!」

 そう呟いた俺の腕の中で、ビビアナはかすかに笑い、懐から五つの指環を取り出した。

「忘れたか……ワシは元々一度死した身。食おうが食うまいが意味はない。ただ……終わりが来たというだけのことじゃ」

「……! 前に言っていた『時間は有限』というのは、このことか……」

 見れば、ビビアナの手の先は黒く濁り、もはや体にも力が入らないようだ。
 俺は彼女が差し出した指環を受け取り、その手を握る。

「そんな……すまない、こんなことになっているとは……だったら俺のためなんかじゃなく、自分のやりたいことをやらせてあげればよかった……」

 そう言った俺に、ビビアナはまた美しい笑顔を見せて、かすかに握り返してくれた。

「何を言う。それこそがなのじゃよ。かつて全てを諦めたワシには、もはやこの世に未練などなかった。しかし、お主という可能性を見て、まだこの手でやるべきことがあると知れたのじゃ。お主はワシの希望、ワシの愛しい魂そのものよ」

 そうして、五つの指環を俺の左手の指の一本一本にはめてくれる。

「ワシの全力を注いで造り上げたこの指環には、この島を離れようが、それぞれの色の魔力を喚び出せる魔法言語を刻み込んである。これこそ、我が人生をかけて辿り着いた秘術そのものと言えるじゃろう。叶うなら、お主にはこの指環を受け継いでほしい。そしてこれらをよく『見て』『理解』すれば、きっと再現することもできるはずじゃて」

「もちろんだ、ありがたく、受け取るよ」

「そう、か……古来、指環は男から……女に、贈るもの……じゃがな……今回は、特別ぞ」

 そう言ってまた笑うビビアナ。しかし、俺は彼女の冗談に上手く笑うことができない。

「さあ、いよいよの、ようじゃ……すまんが、約束通り、ワシの魂を、送り出して、くれんか……万が一アンデッドにでもなったらじゃでな」

 苦しげな息遣いで頼むビビアナに、俺は頷いて、左手の薬指にはめた白い指環の魔法陣を起動させる。
 なぜ、こんなに心揺さぶられるのだろう。ビビアナと一緒に過ごしたのは、ほんのわずかな時間にすぎないというのに。

 「……いや。違う……ビビアナこそ、俺の魂の支えだったんだ」

 彼女がいなければ、俺はこの世界に来た初日に渇きで死んでいた。彼女がいなければ、知識を得ることも青の魔力を得ることもなく、この島から出ていけるようになることもなかった。ビビアナは、俺の命を守り育ててくれた母のような恩人なのだ。
 それだけではない。彼女は、俺が現世に出現させた、いわば我が子。そして、人を寄せ付けぬこの島で孤独を分かち合った友でもある。
 そんなビビアナもまた、俺を希望と呼んだ。
 共有した時間の多寡など関係がないほどに、俺達の運命は深く絡み合っていたのだ。
 そんな彼女と、これからの旅を共に乗り越えていくものだと、俺は勝手に思い込んでいた。この世に永遠などないのに、なんて浅はかさだろう。

「君がいなくなるのは寂しいよ」

 正直な思いを告げて、また手を握る。ビビアナも三度微笑むが、今度は握り返してくれない。
 失うことを恐れてはいけない。「死は馬鹿でかい何かではない」。地球にいた頃に聞いた、どこかの詩人の言葉だ。意味も知らずになぜか頭の片隅に残り続けたこの言葉が、今は勇気をくれる。

「……最期に、一つ、忠告を。いくらお主に、計り、知れん……才能があるとはいえ、世界は広い。決して、侮るでないぞ……」

「ああ、心に刻んでおくよ」

 そうして、ビビアナが見つめ合っていた目を閉じる。
 俺は白の魔力を用いて、彼女をこの世に縛り付けていた呪いを解いた。
 眩しい光の中、ビビアナの体はどこかへと消え去っていく。
 俺はその光景を目に焼き付けながら、ただじっと見送った。

 ***

 失って初めて得られるものは、確かにある。それなら、俺はまたビビアナのような魂の伴侶を得ることができるのだろうか。分からない。
 彼女がいなくなった次の日から、俺は島の奥に立つ塔に篭り、ビビアナが残した指環の秘術を解読していった。
 それは、この指環についてのみならず、魔宝アーティファクトという五色の魔術の外にある理を学ぶこととなった。
 完全に身に付けるにはかなりの時間を要したが、ついに俺は成し遂げた。この島でやることは、もうない。

「さあ、行くか」

 いよいよ、今日島を旅立つと決めた。俺の目的はあくまで元の世界に帰ることだが、それまでには何が待っているのだろう。なんであれ、成し遂げよう。ビビアナの魂にかけて。
 「飛行術」で浮かび上がった俺は、最後に上空から島を見下ろして、世話になったこの土地に別れを告げようとした。
 その時。

 プオオォォォンンーーーー

 突如、眼下の海が爆発したように盛り上がり、その中から鯨なんて目じゃないほど巨大な魚が現れる。

「うおおぉぉぉ⁉︎」

 これほどのサイズの生物がいるなんて……さすがは異世界……
 と、驚愕していたのは一瞬のこと。なんたることか、この世界のスケールはこんなものではなかった。


 ゴオオオオオオオオオォォォンンンンーーーーーーーー

 鰐のような鮫のような姿の怪物が海面から飛び出したかと思いきや、その巨大魚をひと口で呑み込み、海底へと消えていったのだ。
 牙の一本でビルほどもあったし、いわんや全長は今までいた島とどっこいどっこいだった。

「……『侮るな』ってのは、こういうことね……」

 俺は息を呑みながら、なぜあれほどの力を持つ師匠が、船で海を渡って帰ろうとしなかったかを理解した。

 この世界は広い。それは確かだ。それでも、やることは変わらない。やるならやらねば、だ。
 空にもあんな怪物がいないとは限らないので、十分気を付けながら行こうと覚悟した俺は、地図で見た大陸のある方角に向かって飛行を始めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。 何も成し遂げることなく35年…… ついに前世の年齢を超えた。 ※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。 ※この小説は他サイトにも投稿しています。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

剣ぺろ伝説〜悪役貴族に転生してしまったが別にどうでもいい〜

みっちゃん
ファンタジー
俺こと「天城剣介」は22歳の日に交通事故で死んでしまった。 …しかし目を覚ますと、俺は知らない女性に抱っこされていた! 「元気に育ってねぇクロウ」 (…クロウ…ってまさか!?) そうここは自分がやっていた恋愛RPGゲーム 「ラグナロク•オリジン」と言う学園と世界を舞台にした超大型シナリオゲームだ そんな世界に転生して真っ先に気がついたのは"クロウ"と言う名前、そう彼こそ主人公の攻略対象の女性を付け狙う、ゲーム史上最も嫌われている悪役貴族、それが 「クロウ•チューリア」だ ありとあらゆる人々のヘイトを貯める行動をして最後には全てに裏切られてザマァをされ、辺境に捨てられて惨めな日々を送る羽目になる、そう言う運命なのだが、彼は思う 運命を変えて仕舞えば物語は大きく変わる "バタフライ効果"と言う事を思い出し彼は誓う 「ザマァされた後にのんびりスローライフを送ろう!」と! その為に彼がまず行うのはこのゲーム唯一の「バグ技」…"剣ぺろ"だ 剣ぺろと言う「バグ技」は "剣を舐めるとステータスのどれかが1上がるバグ"だ この物語は 剣ぺろバグを使い優雅なスローライフを目指そうと奮闘する悪役貴族の物語 (自分は学園編のみ登場してそこからは全く登場しない、ならそれ以降はのんびりと暮らせば良いんだ!) しかしこれがフラグになる事を彼はまだ知らない

【完結】異世界で神の元カノのゴミ屋敷を片付けたら世界の秘密が出てきました

小豆缶
ファンタジー
父の遺したゴミ屋敷を片付けていたはずが、気づけば異世界に転移していた私・飛鳥。 しかも、神の元カノと顔がそっくりという理由で、いきなり死刑寸前!? 助けてくれた太陽神ソラリクスから頼まれた仕事は、 「500年前に別れた元恋人のゴミ屋敷を片付けてほしい」というとんでもない依頼だった。 幽霊になった元神、罠だらけの屋敷、歪んだ世界のシステム。 ポンコツだけど諦めの悪い主人公が、ゴミ屋敷を片付けながら異世界の謎を暴いていく! ほのぼのお仕事×異世界コメディ×世界の秘密解明ファンタジー

処理中です...