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3.神話級アイテムが強すぎて無双する

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 悪魔の商人が消え去った部屋で、グライクはそそくさと残されたアイテムを回収した。すぐさま鑑定しなかったのは、この部屋にいると今にもあの悪魔の商人が戻ってきそうで恐ろしかったからである。
 そうは言っても、一つだけ鑑定を済ませたアイテムがある。


【古代エルフの四次元袋アイテムバッグ 】
 等級:伝説レア
 解説:袋の口を通るものであれば、いくらでも異空間に収納することができる。それらは収納時の状態のまま保存される。ただし生き物は除く。


 想像した通りの道具だったことに、グライクは小躍りする。これがなければ、多くのアイテムを抱えて危険な迷宮の中をえっちらおっちら歩かなければならないところだった。

「やっぱり収納系魔具か。でもそこらのとは全然違う!」

 こうした収納系魔具の存在はそれなりに一般的であるが、これはレベルが桁違いだ。量は無制限で、サイズもかなりのものまでいける。買取に出そうとしても、大抵の店では値段がつけられないだろう。
 グライクはこのアイテムでズーニーの指輪以外の七つのアイテムを収納し、運び出したのであった。

「こんなにすごいものが九つも……ヤバい、ヤバすぎる。どうしよう、一回迷宮の外に出るか?」

 扉を開きながら独りごつグライクだったが、部屋から出た瞬間、その呟きを断つような不協和音が響いた。
 ビインッと壁に突き立ったそれは、先程までグライクを追い回していたフライングソードであった。

「うわ、忘れてた! こいつ、まだこんなところで待ち構えていたなんて!」

 扉に隔てられても執念深くグライクを狙い続けていたフライングソードは、舌舐めずりをするようにゆっくりと突き刺さっていた壁から抜け出て、再び飛び掛かってくる。

「くそっ! でもさっきとは違うぞ! 出ろ、七死刀!」

 グライクが四次元袋の中に突っ込んだ手を引き出すと、そこには古代の神刀が握られていた。

「でええい!」

 ブンブンと回転しながら斬りつけてきたフライングソードを、七死刀が迎え撃つ。
 ヂャリンッ、と低い音が鋭く響き――哀れフライングソードは空中で真っ二つとなった。

「……さすが!」

 地面に落ちたフライングソードの残骸は、大部分の刀身と、わずかに刀身の根元が残った柄とに分かれている。柄の方を持ち上げてみると、鑑定結果はこうなった。


【折れた呪剣】
 攻撃力:+1
 等級:普遍コモン
 解説:悪霊が取り憑いて魔物となっていた剣の残骸。わずかに悪霊の呪いが残っており、近くに敵がいると一人でに襲いかかる。


「ほほー。このままだと使えないけど、一応持っていくか」

 グライクは拾った柄をアイテムバッグに放り込み、歩き出した。
 しばらくさまよううちに、様々な魔物が襲いかかってくる。そしてその全てが七死刀で斬り伏せられ、刀の錆となった。
 こうしていくうちにいくつかのドロップ品がたまり、グライクはこれらを使って、混沌の壺を試してみることにした。

「えーと、さっきのコレに最初の折れた剣、あとアレとソレもいけるか」

 合成できるのは同じ種類のものだけなので、まずは剣に絞ってアイテムを取り出していく。


【鉄の長剣】
 攻撃力:+3 
 等級:普遍コモン
 解説:鉄を鋳造した剣。重いがその分だけ頑丈。


【木剣】
 攻撃力:+1
 等級:普遍コモン
 解説:木を削って作られた剣。脆いが、素人にも扱いやすい形と重さ。


【毒の剣】
 攻撃力:+2
 等級:普遍コモン
 解説:動きを鈍らせる程度の弱い毒が染み付いた剣。


 これらにフライングソードのドロップ品を加えて、混沌の壺に入れる。すると、わずかに怪しい光が漏れた後、壺の中に新たな剣が生まれた。


【呪剣・無名】
 攻撃力:+7
 等級:稀代アンコモン
 解説:複数の剣が合成されて出来たアイテム。鉄の硬さ・木の軽さ・弱毒・自動迎撃の力を併せ持つ。この剣は所有者が自由に命名できる。


 見た目は、合成させた剣のどれとも似ているようでどれとも違う。持ってみると鉄の硬さを感じるが、振ってみれば確かに木刀のように軽い。色はいかにも毒がありそうな黄と黒で、呪いのせいか妙な雰囲気がある。

「おおお! こんなに高性能だったら、この階層の魔物相手なら余裕だな。神話級のアイテムを使っているところを誰かに見られたら面倒だし、当分はこれをメインで使うか」

 もちろん神話級の武器と比べればだいぶ格は落ちるとはいえ、実は恐るべき魔剣が誕生したのであるが、グライクはまだそのことには気づけていない。

「とりあえず今日のところはこれで帰ろうかな。いやー、信じられないくらいの大成功だ!」

 そんな油断真っ最中のグライクの背後に近づく影があった。
 あまりに迂闊。冒険は帰るまでが冒険なのである。
 その影はグライクの背中にピタリと張り付くようにして、腰の道具袋に手を伸ばした。
 その時。

「っ!?」
「どわっ!?」

 無名がするりと鞘から抜け出て、背後の影を斬りつけた。合成された特性が早速役立ったのだ。

「だ、誰!? 何するんだ!」
「待って待って! 違う違う! 誤解だから! ろうとなんかしてないってばやだなぁ」

 誰何するグライクに対し、のうのうと嘘をつく影の正体は――赤髪赤目の女獣人であった。
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