「落ちこぼれ扱い」だった新人冒険者、悪魔の商人からぶっ壊れ性能アイテムを手に入れて無双する/ロー・グライクの奇妙な迷宮探索記

横山剛衛門

文字の大きさ
5 / 39

4.女獣人、仲間(諸説あり)になる

しおりを挟む

「いやー、こんなところに一人でいるから、大丈夫かニャ? と思ってさー。声をかけてあげようとしたわけ。なんかごめんね? ビックリさせちゃったみたいで」

 女獣人のそんな言い訳をそのまま鵜呑みにするほど、グライクもお人好しではない。かといって今の雰囲気から丁々発止も辞さない詰問に持ち込めるほどの強引さもない。
 そういうわけで、グライクはとりあえず今の出来事をうやむやにすることに決めた。

「ああ、そういうことでしたかなるほどなるほど。でも大丈夫デス、問題ナイデス。ではそういうことなんでこれで……」

 適当にあしらってそそくさと去ろうとするグライクだったが、そうは問屋が卸さない。

「ま、ま、ま。一旦待ちニャって。ここで知り合ったのも何かの縁。あたし、あなたについて行ってあげるよ。こう見えて頼り甲斐があるよ?」
「いや結構です間に合ってますそれでは」
「まあまあまあまあそう言わず」
「いやホントに結構です」
「まあまあまあ」

 女獣人としても、追い剥ぎはしくじったが、それを言いふらされてはたまらないので必死で取り繕おうと食い下がる。
 しばらく押し問答が続いた末、出された結論は……

「じゃあ、とりあえずこれから外に出るまで一緒にってことで! よろしく! あたしの名前はファムファ・タール! 気軽にファムファって呼んでニャ!」
「とりあえずじゃなくてもうそれっきりですけど、はい、まあよろしくです。俺はロー・グライクです」

 ファムファが語ったところによると、彼女は他の迷宮の攻略経験もある冒険者で、今日がこの迷宮でのデビューだったらしい。
 猫科の獣人であるので夜目と地獄耳、それから俊敏な身体操作をウリとしており、得物はナイフとのことだ。

「これね、あたしのとっておきのナイフ! 見てて……」

 そう言うとファムファは、赤い刀身のナイフを通路の奥の暗闇に投げつけた。
 すぐにずぶりという鈍い音が聞こえ、次いで何かがどさりと倒れたのが分かった。
 音のした方に近づいていくと、迷宮最弱の魔物であるゴブリンが絶命していた。その首には先程の赤いナイフが刺さっている。

「じゃじゃーん! こんな感じで、必中の効果があるんだよね」
「おお、すごいですね! 差し支えなければ見せてもらってもいいですか?」
「……いやいや、悪いニャア、あたしのとっておきなもんで! なんか見せびらかしたみたいで悪いね!」

 やけにすげなく断るファムファの態度を、グライクが怪しむ間もなく、彼女はこう続けた。

「んー、でもぉ、あたしってばさっき君にちょっと悪いことしたしぃ、その穴埋めってわけじゃないんだけどぉ……これ、君の持ち物と交換してあげても、いいよぉ?」

 妙に甘ったるい口調での提案に、グライクは呆気にとられて反応できない。

「ほら、例えばその剣とかぁ?」

 ファムファの視線は、グライクが腰にさした無名に注がれている。

(なるほど、これが狙いか。うーん、どうしよう)

 無名は作ろうと思えばまた作れるものだし、必中の効果を持つ武器は何かと使い道がある。交換も悪くないが……何か怪しい。

「そんなこと言っちゃって。実はそのナイフの効果じゃなくて、単にファムファの腕が良いだけなんでしょ?」

 グライクとしてはお世辞のつもりだったこの言葉に、ファムファはギクリと体を硬ばらせる。

「……あれ……もしかして、図星?」
「んにゃー! そ、そんなことニャいから! 確かにあたしの腕もアレだけど、うん、このナイフはよく当たるんだって!」

 微妙に先程と主張が変わっているファムファ。実際、赤く塗っただけのただのナイフなのであった。そして『必中ストロークス』は彼女自身のスキルである。
 適当なことを言ってナイフの効果を誤認させ、交換を申し出て相手の高価なアイテムを巻き上げるのが、ファムファのいつもの手口であった。

(こいつ、なかなかやるニャア。最初に見た時は、運良くやたら良い装備を拾っただけのぼーっとした新人かと思ったけど……うまく利用できるかもしれないニャ)

 偶然の産物であったが、自分が騙くらかしてやろうとしたのを見抜かれたと思い、彼女はグライクの見方を改めた。
 そして、もうしばらく彼に付きまとい、様子を見ることに決めたのだった。

(この人、全然信用ならないな……でも、あの暗闇の中にいた魔物の急所にビシッと命中させたってことだ。それなら腕前はかなり頼りになるか? いやいや、キメラ身中の虫って言うし、不安要素を抱えるのは……うーん)

 グライクもファムファの腕に感心しつつ、裏切られる不安を秤に載せ、心の中の天秤がグラグラと揺れている。
 冒険者はそれぞれにそれぞれの目的があり、その達成のために自分の周りにあるものをどう利用すべきかが重要となる。そしてリスクを取らなければリターンはない。

「えっと、お申し出はありがたいけどなんだか申し訳ないし、交換は丁重にお断りさせてもらいますね」
「そ、それならしょうがないニャ~」

 お互いにお互いを値踏みし、気まずい二人であった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

レベル上限5の解体士 解体しかできない役立たずだったけど5レベルになったら世界が変わりました

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
前世で不慮な事故で死んだ僕、今の名はティル 異世界に転生できたのはいいけど、チートは持っていなかったから大変だった 孤児として孤児院で育った僕は育ての親のシスター、エレステナさんに何かできないかといつも思っていた そう思っていたある日、いつも働いていた冒険者ギルドの解体室で魔物の解体をしていると、まだ死んでいない魔物が混ざっていた その魔物を解体して絶命させると5レベルとなり上限に達したんだ。普通の人は上限が99と言われているのに僕は5おかしな話だ。 5レベルになったら世界が変わりました

俺、何しに異世界に来たんだっけ?

右足の指
ファンタジー
「目的?チートスキル?…なんだっけ。」 主人公は、転生の儀に見事に失敗し、爆散した。 気づいた時には見知らぬ部屋、見知らぬ空間。その中で佇む、美しい自称女神の女の子…。 「あなたに、お願いがあります。どうか…」 そして体は宙に浮き、見知らぬ方陣へと消え去っていく…かに思えたその瞬間、空間内をとてつもない警報音が鳴り響く。周りにいた羽の生えた天使さんが騒ぎたて、なんだかポカーンとしている自称女神、その中で突然と身体がグチャグチャになりながらゆっくり方陣に吸い込まれていく主人公…そして女神は確信し、呟いた。 「やべ…失敗した。」 女神から託された壮大な目的、授けられたチートスキルの数々…その全てを忘れた主人公の壮大な冒険(?)が今始まる…!

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。 それは、最強の魔道具だった。 魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく! すべては、憧れのスローライフのために! エブリスタにも掲載しています。

処理中です...