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12.モンスターハウスの攻略に持てるアイテムと知恵をフル動員する
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グライクがまず行うべきは、自分の持つアイテムの再認識であった。
そうして、如何にそれらを使うかの作戦を練ることが、唯一生き残る道と言えた。
「魔精の指環は最終手段として……」
最初に思いついたのは、かつて絶体絶命の状況から救ってくれた魔具のことだ。
魔精という、恐らくは最上位の精霊であるズーニーを呼び出して助けを願うのが、最も手っ取り早そうに思える。
しかし、それも確実ではないので、グライクは他の手を考え続ける。
(七死刀やヤオヨロズで一体ずつ倒す、っていうのはゴリ押しすぎるよな。荒鬼霊主の靴があっても、体力は無限じゃないし)
ここで安易な攻撃を避けたのは賢明であった。
グライクは知らなかったが、体が肉によって構成されていない精霊種の中には、物理攻撃が極めて効きにくいタイプもいる。
また、肉の体を持たないからには、当然目や鼻といった感覚器官があるわけではなく、魔力を読み取って周囲を認識する。
幸か不幸か、今のグライクはごく弱い魔力しか持たないため、すぐさま部屋中の精霊が集ってきたりはしなかった。
かといって悠長に考えている暇はない。
実際、一番近くにいた火の精霊はグライクに気付き、今にも襲い掛からんとしている。
(うぅ、どうする!? ……そうだ! アレがあった!)
土壇場で打つ手を閃いたのは幸運か、それとも実力か。
いずれにしろ、グライクが四次元袋から取り出したのは――
「出ろ、漆黒の睡蓮!」
魔力濃き原始の時代の環境の中で咲き誇ったこの睡蓮は、いわば魔力の塊である。その魔力の巨大さに、それこそ大広間中の精霊が瞬時に反応し、殺到してくる。
「それ!」
その黒睡蓮を、グライクはなるべく遠くに放り投げた。すると精霊たちはそれを追い、結果的に彼から離れていく。
「いくら優秀な魔具があっても、今の俺にあれだけの精霊を倒せるかは分からないし、ここは三十六億計逃げるに如かずってね」
精霊というのはただでさえとても強力で、しかも召喚陣から現れた場合、通常この階層に出現するレベルよりも強大な種がいても不思議ではない。
ヤオヨロズや七死刀がいくら強くても、肝心のそれを操るグライクの腕はまだまだ発展途上。分が悪い勝負はなるべく避けるのが冒険の鉄則である。
「少しもったいないけど、命には替えられない。今のうちに……」
気を逸らすことに成功したとはいえ、いつ精霊たちが戻ってくるか分からない。一刻も早く脱出路を見つける必要があった。
幸いなことに、大広間からの出口はすぐ近くに見つかった。グライクはそろそろと息を潜めて通路に抜け出て、しばらく離れた所で一息つく。
と、そこへ背後から何者かの気配が近付いてきた。
「うわっ!? ――ああ、なんだ」
「若様、ご無事でしたか!」
「やっと見つけたニャ……!」
見れば、そこにいたのはヤマトナとファムファであった。はぐれたグライクを第二階層中を駆けずり回って捜していたのである。
ほとんど半狂乱になっていたヤマトナは、主従の関係も忘れてグライクにひしと抱きつき離さない。それを見てファムファはやれやれと呆れている。
「く、苦しいよ」
「若様、若様……! このヤマトナ、生きた心地がしませんでした。申し訳ございません、二度とおそばを離れませんゆえ……」
「まあまあ、無事に会えたんだから良かったのニャ。こっちはまあ大丈夫だったけど、そっちは何事もなかったかニャ?」
「あ、それが実は危ないところでさ。これこれこういうことがあって……」
ヤマトナの腕の中から抜け出したグライクが、はぐれてからの顛末を語ると、今度はファムファが半狂乱となった。
「し、し、漆黒の睡蓮を、投げ捨てた!? 嘘ウソうそ……!」
「いや別に捨てたわけじゃなくてさ、仕方なくね」
「そういう問題じゃないニャ! 今すぐ回収しに行くニャ!」
「えぇ……でも、あそこにはまだきっと山ほど精霊が――」
「そこは大ポカしたグライクが責任持ってどうにかするニャ!」
「無茶言うなよ……」
命の危機とはいえ、命より重い価値のある魔具を捨てるのはあり得ない!とファムファは主張する。自分のものでもないというのに。
「若様、ご心配無用です! このヤマトナにお任せくださいませ。私、精霊の扱いについては多少心得が。妙案がございますわ」
そこで自信満々に声を上げたのはヤマトナであった。
その懐から取り出されたのは、拳大の球。忍者メイドの嗜みとして、ヤマトナは常にいくつかの忍び道具を持ち歩いていた。
「これは?」
「名を焙烙玉と申しまして、強い火薬が詰められております。通常の使い方としては、爆音と爆煙で目眩しするものですが……今回は火薬に魔力毒を混ぜ込みます」
続いてヤマトナが取り出したのは、瓶に入った妖しい色の液体だった。忍者メイドの嗜みとして、ヤマトナは常にいくつかの毒を持ち歩いていた。
「精霊は魔力と霊魂が合わさって出来たような存在ですから、物理的な武器を使って相手取るのはやや骨が折れます。とはいえ、その性質も一長一短。周囲の魔力を取り込みやすいので、これを使えば即座に毒が回り、一網打尽にできるはずです」
なんだか害虫駆除みたいだな、という言葉を呑み込んで、グライクはファムファを見やる。
「じゃ、これでリベンジ、いってみようか」
そうして、如何にそれらを使うかの作戦を練ることが、唯一生き残る道と言えた。
「魔精の指環は最終手段として……」
最初に思いついたのは、かつて絶体絶命の状況から救ってくれた魔具のことだ。
魔精という、恐らくは最上位の精霊であるズーニーを呼び出して助けを願うのが、最も手っ取り早そうに思える。
しかし、それも確実ではないので、グライクは他の手を考え続ける。
(七死刀やヤオヨロズで一体ずつ倒す、っていうのはゴリ押しすぎるよな。荒鬼霊主の靴があっても、体力は無限じゃないし)
ここで安易な攻撃を避けたのは賢明であった。
グライクは知らなかったが、体が肉によって構成されていない精霊種の中には、物理攻撃が極めて効きにくいタイプもいる。
また、肉の体を持たないからには、当然目や鼻といった感覚器官があるわけではなく、魔力を読み取って周囲を認識する。
幸か不幸か、今のグライクはごく弱い魔力しか持たないため、すぐさま部屋中の精霊が集ってきたりはしなかった。
かといって悠長に考えている暇はない。
実際、一番近くにいた火の精霊はグライクに気付き、今にも襲い掛からんとしている。
(うぅ、どうする!? ……そうだ! アレがあった!)
土壇場で打つ手を閃いたのは幸運か、それとも実力か。
いずれにしろ、グライクが四次元袋から取り出したのは――
「出ろ、漆黒の睡蓮!」
魔力濃き原始の時代の環境の中で咲き誇ったこの睡蓮は、いわば魔力の塊である。その魔力の巨大さに、それこそ大広間中の精霊が瞬時に反応し、殺到してくる。
「それ!」
その黒睡蓮を、グライクはなるべく遠くに放り投げた。すると精霊たちはそれを追い、結果的に彼から離れていく。
「いくら優秀な魔具があっても、今の俺にあれだけの精霊を倒せるかは分からないし、ここは三十六億計逃げるに如かずってね」
精霊というのはただでさえとても強力で、しかも召喚陣から現れた場合、通常この階層に出現するレベルよりも強大な種がいても不思議ではない。
ヤオヨロズや七死刀がいくら強くても、肝心のそれを操るグライクの腕はまだまだ発展途上。分が悪い勝負はなるべく避けるのが冒険の鉄則である。
「少しもったいないけど、命には替えられない。今のうちに……」
気を逸らすことに成功したとはいえ、いつ精霊たちが戻ってくるか分からない。一刻も早く脱出路を見つける必要があった。
幸いなことに、大広間からの出口はすぐ近くに見つかった。グライクはそろそろと息を潜めて通路に抜け出て、しばらく離れた所で一息つく。
と、そこへ背後から何者かの気配が近付いてきた。
「うわっ!? ――ああ、なんだ」
「若様、ご無事でしたか!」
「やっと見つけたニャ……!」
見れば、そこにいたのはヤマトナとファムファであった。はぐれたグライクを第二階層中を駆けずり回って捜していたのである。
ほとんど半狂乱になっていたヤマトナは、主従の関係も忘れてグライクにひしと抱きつき離さない。それを見てファムファはやれやれと呆れている。
「く、苦しいよ」
「若様、若様……! このヤマトナ、生きた心地がしませんでした。申し訳ございません、二度とおそばを離れませんゆえ……」
「まあまあ、無事に会えたんだから良かったのニャ。こっちはまあ大丈夫だったけど、そっちは何事もなかったかニャ?」
「あ、それが実は危ないところでさ。これこれこういうことがあって……」
ヤマトナの腕の中から抜け出したグライクが、はぐれてからの顛末を語ると、今度はファムファが半狂乱となった。
「し、し、漆黒の睡蓮を、投げ捨てた!? 嘘ウソうそ……!」
「いや別に捨てたわけじゃなくてさ、仕方なくね」
「そういう問題じゃないニャ! 今すぐ回収しに行くニャ!」
「えぇ……でも、あそこにはまだきっと山ほど精霊が――」
「そこは大ポカしたグライクが責任持ってどうにかするニャ!」
「無茶言うなよ……」
命の危機とはいえ、命より重い価値のある魔具を捨てるのはあり得ない!とファムファは主張する。自分のものでもないというのに。
「若様、ご心配無用です! このヤマトナにお任せくださいませ。私、精霊の扱いについては多少心得が。妙案がございますわ」
そこで自信満々に声を上げたのはヤマトナであった。
その懐から取り出されたのは、拳大の球。忍者メイドの嗜みとして、ヤマトナは常にいくつかの忍び道具を持ち歩いていた。
「これは?」
「名を焙烙玉と申しまして、強い火薬が詰められております。通常の使い方としては、爆音と爆煙で目眩しするものですが……今回は火薬に魔力毒を混ぜ込みます」
続いてヤマトナが取り出したのは、瓶に入った妖しい色の液体だった。忍者メイドの嗜みとして、ヤマトナは常にいくつかの毒を持ち歩いていた。
「精霊は魔力と霊魂が合わさって出来たような存在ですから、物理的な武器を使って相手取るのはやや骨が折れます。とはいえ、その性質も一長一短。周囲の魔力を取り込みやすいので、これを使えば即座に毒が回り、一網打尽にできるはずです」
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