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本編
5.仕合の行方
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居丈高な男についていくと、木張りの床の道場に通された。街並みは割とヨーロッパっぽいのに、ここはやけに日本ぽい。
何人かが素振りで訓練していたが、入ってきた男を見て姿勢を正し、脇に並んでスペースを空ける。こいつ、ここの中で偉い方なんだな。
「真剣か鉄剣か、選べ!」
男はそう問いかけてくる。
鉄剣て、木刀的な訓練用のやつかな?
「じゃ、鉄剣でお願いします。貸してもらえます?」
「ふん、日和よって」
お前が勧めたんだろうがい。まあいいや、なんとでも言え。
「ほれ、構えてみぃ」
放り投げられた鉄剣とやらは、鉄を薄く叩いて作ったごくごく軽いものだった。確かにこれならそんなに危なくない。
「では、お願いします」
俺と男はお互いにいわゆる正眼の構えを取る。が、俺の方はなんかしっくりこない……こう、かな?
【イヌイは 秘術・無極の構え を身に付けた!】
「な⁉︎ 貴様、マキノ様相手にそんな構えなど、舐めおるか!」
「マキノ様、隙だらけにござる! ご存分に打たれませい!」
脇で見ていた門弟達が口々に騒ぎ立てる。
今の俺の構えは、剣を脇にだらりと下げた自然形だ。確かに舐めてるように見えるかもだけど、別にそういうつもりじゃないのよ。こっちの方が自然かなって感じるだけで。
そもそも俺って素人だから、構えってなんか分からんし、好きにやらせてくれ。
「ーーイヤアアアァ!」
一方のマキノは、別段感情の乱れもない感じで、気負いもなく思いっきり打ち込んできた。
あ、やっぱこいつは周りのいかにもモブ的な奴らとはちょっと違うんだ。
上背のある体格を生かした、脳天唐竹割りってやつが迫ってくる。
速い。
速いけど、遅い。
どういうことかっていうと、スピードってものは相対的なもんだからね。つまり、他の人の目には速いだろうけど、俺にしてみれば遅い、ってわけ。
なので、スルッと身を横にかわしてそのまま後ろに回る。
【イヌイは 秘術・裏街道抜き を使った】
「⁉︎ どこへ行った?」
そんな俺の動きが捉えられなかったらしく、マキノはめちゃめちゃ焦っている。そんな大したスピードじゃなかったんだがね。
「ほい、一本。終わりかな?」
そのままポン、と後頭部を軽く剣で叩く。そういえばルールを聞いてなかったけど、向こうがやろうとしたことをやり返しておけば間違いないでしょ。
周りで見ている奴らもすっかり黙ってしまった。やめろよ、無言だとなんかどう反応したらいいのか分からんやんけ。
「……完敗にござる。まさかこれほどの腕前とは存じず、大変な失礼をいたしました。何卒お許しを……!」
当のマキノは、これまでと正反対のおカタい態度で謝ってくる。あ、やっぱりもう終わりね。これ以上はどうしようかと思ってたよ。
「いやいや、鋭い振りでした! 危ないとこでしたよホント。いい勝負をありがとうございました」
「何をおっしゃる。私とて武芸者の端くれ、力の差はよく分かっております。いやはや、どうかもう少し御指南いただけないでしょうか」
案外素直だし結構グイグイくるのね。そういうの嫌いじゃない。
第一印象とだいぶ違う性格っぽいけど、いい奴そうだ。というか、逆に俺がかなり常識知らずのことをしてたのかも。ここは穏やかにいきましょうかね。
「ええ、僕にできることならなんでも」
「かたじけない! 申し遅れましたが、私はマキノと申す者。皆もご挨拶せい! ……失礼、先生のお名前は?」
「あ、イヌイと申します。よろしく」
そんな感じで上手いことお互い仲直りして、しばらく剣の道について話すことになったのだった。
***
「なんと、イヌイ殿は本当にすべて自己流と申されるか。にわかには信じられぬことですな」
「ええ、田舎出身なもんで、習ったりするところがなかったんです。いわば自然が我が師……なんつって」
「なるほど、剣の理はあくまで実践の中にありと……いや誠に恐れ入るばかり」
こんな感じで、どう話してもいい方向に勘違いされるような会話を、かれこれ二、三時間続けている。
こっちが得た情報としては、ここのような武術の道場は世界中どこにでもあり、武器の種類や流派でいくつも勢力が分かれていて、お互いに競い合っているのだとか。
で、どこも共通しているのは、戦いに勝つこと、及びそのための技術が一番大事であることらしい。
そうした奥義とか戦術、又は考え方自体とかをひっくるめて、「テクネ」と呼ぶんだって。中国武術の「気」とか「クンフー」みたいなニュアンスかな。
流派とかが違っても、とにかく相手のテクネが凄ければ無条件に敬うものらしい。そうしないのは自分のテクネ不足をさらけ出すようなもので、言っちゃえばダサいんだと。
ここも結構有名らしく、最初の俺の態度はそういう意味で悪く捉えられて、マキノとしては目にもの見せてやろうとしたそうだ。そりゃ悪いことしたな。
「それで、この街には商業ギルドに用があって来たんですけど、他にどんなギルドがあります?」
「もちろん、冒険者ギルドをはじめたいていの所が揃っております。このワウラの街はジャーポン国でも有数の規模の都市ですからな」
お、冒険者ギルドあるの。
もう少し話を聞くと、冒険者という仕事はいろんなことにかなり融通を利かせてもらえるようだ。
じゃ、次はそこ行って、身分証明書を手に入れてみようかな。条件次第だけど。
何人かが素振りで訓練していたが、入ってきた男を見て姿勢を正し、脇に並んでスペースを空ける。こいつ、ここの中で偉い方なんだな。
「真剣か鉄剣か、選べ!」
男はそう問いかけてくる。
鉄剣て、木刀的な訓練用のやつかな?
「じゃ、鉄剣でお願いします。貸してもらえます?」
「ふん、日和よって」
お前が勧めたんだろうがい。まあいいや、なんとでも言え。
「ほれ、構えてみぃ」
放り投げられた鉄剣とやらは、鉄を薄く叩いて作ったごくごく軽いものだった。確かにこれならそんなに危なくない。
「では、お願いします」
俺と男はお互いにいわゆる正眼の構えを取る。が、俺の方はなんかしっくりこない……こう、かな?
【イヌイは 秘術・無極の構え を身に付けた!】
「な⁉︎ 貴様、マキノ様相手にそんな構えなど、舐めおるか!」
「マキノ様、隙だらけにござる! ご存分に打たれませい!」
脇で見ていた門弟達が口々に騒ぎ立てる。
今の俺の構えは、剣を脇にだらりと下げた自然形だ。確かに舐めてるように見えるかもだけど、別にそういうつもりじゃないのよ。こっちの方が自然かなって感じるだけで。
そもそも俺って素人だから、構えってなんか分からんし、好きにやらせてくれ。
「ーーイヤアアアァ!」
一方のマキノは、別段感情の乱れもない感じで、気負いもなく思いっきり打ち込んできた。
あ、やっぱこいつは周りのいかにもモブ的な奴らとはちょっと違うんだ。
上背のある体格を生かした、脳天唐竹割りってやつが迫ってくる。
速い。
速いけど、遅い。
どういうことかっていうと、スピードってものは相対的なもんだからね。つまり、他の人の目には速いだろうけど、俺にしてみれば遅い、ってわけ。
なので、スルッと身を横にかわしてそのまま後ろに回る。
【イヌイは 秘術・裏街道抜き を使った】
「⁉︎ どこへ行った?」
そんな俺の動きが捉えられなかったらしく、マキノはめちゃめちゃ焦っている。そんな大したスピードじゃなかったんだがね。
「ほい、一本。終わりかな?」
そのままポン、と後頭部を軽く剣で叩く。そういえばルールを聞いてなかったけど、向こうがやろうとしたことをやり返しておけば間違いないでしょ。
周りで見ている奴らもすっかり黙ってしまった。やめろよ、無言だとなんかどう反応したらいいのか分からんやんけ。
「……完敗にござる。まさかこれほどの腕前とは存じず、大変な失礼をいたしました。何卒お許しを……!」
当のマキノは、これまでと正反対のおカタい態度で謝ってくる。あ、やっぱりもう終わりね。これ以上はどうしようかと思ってたよ。
「いやいや、鋭い振りでした! 危ないとこでしたよホント。いい勝負をありがとうございました」
「何をおっしゃる。私とて武芸者の端くれ、力の差はよく分かっております。いやはや、どうかもう少し御指南いただけないでしょうか」
案外素直だし結構グイグイくるのね。そういうの嫌いじゃない。
第一印象とだいぶ違う性格っぽいけど、いい奴そうだ。というか、逆に俺がかなり常識知らずのことをしてたのかも。ここは穏やかにいきましょうかね。
「ええ、僕にできることならなんでも」
「かたじけない! 申し遅れましたが、私はマキノと申す者。皆もご挨拶せい! ……失礼、先生のお名前は?」
「あ、イヌイと申します。よろしく」
そんな感じで上手いことお互い仲直りして、しばらく剣の道について話すことになったのだった。
***
「なんと、イヌイ殿は本当にすべて自己流と申されるか。にわかには信じられぬことですな」
「ええ、田舎出身なもんで、習ったりするところがなかったんです。いわば自然が我が師……なんつって」
「なるほど、剣の理はあくまで実践の中にありと……いや誠に恐れ入るばかり」
こんな感じで、どう話してもいい方向に勘違いされるような会話を、かれこれ二、三時間続けている。
こっちが得た情報としては、ここのような武術の道場は世界中どこにでもあり、武器の種類や流派でいくつも勢力が分かれていて、お互いに競い合っているのだとか。
で、どこも共通しているのは、戦いに勝つこと、及びそのための技術が一番大事であることらしい。
そうした奥義とか戦術、又は考え方自体とかをひっくるめて、「テクネ」と呼ぶんだって。中国武術の「気」とか「クンフー」みたいなニュアンスかな。
流派とかが違っても、とにかく相手のテクネが凄ければ無条件に敬うものらしい。そうしないのは自分のテクネ不足をさらけ出すようなもので、言っちゃえばダサいんだと。
ここも結構有名らしく、最初の俺の態度はそういう意味で悪く捉えられて、マキノとしては目にもの見せてやろうとしたそうだ。そりゃ悪いことしたな。
「それで、この街には商業ギルドに用があって来たんですけど、他にどんなギルドがあります?」
「もちろん、冒険者ギルドをはじめたいていの所が揃っております。このワウラの街はジャーポン国でも有数の規模の都市ですからな」
お、冒険者ギルドあるの。
もう少し話を聞くと、冒険者という仕事はいろんなことにかなり融通を利かせてもらえるようだ。
じゃ、次はそこ行って、身分証明書を手に入れてみようかな。条件次第だけど。
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