怪獣は馬鹿でかい何かではない

横山剛衛門

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夜明けの栄光

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 ある日、世界はあっけなく崩壊した。

 原因は、唐突に現れた空間の歪みと、そこから湧いて出た怪物達だ。長らく御伽噺や空想の中の存在と思われていた奴等は、実際に私達の前にその姿を見せ、語られてきた通りの恐ろしさで、世界を蹂躙した。

 私達の世界の武器は、奴等にも有効だった。しかし、あまりにも突然で、あまりにも脅威的で、そしてあまりにも多すぎる空間の歪みとそこから溢れ出す怪物達に対し、結局は為す術はなかった。

 そうして、世界は崩壊した。たった一週間かそこらの事だった。


 あの日私は、山中にある別荘に行くところだった。街の自宅から数時間かけていくそこは、いつか来るかもしれない大災害への備えの意味もあり、数ヶ月分の食料と水、医薬品や生活必需品を準備しておいた事が、私の最初の幸運だった。

 別荘に辿り着くまでに見た地獄を忘れる事はできない。緑色で角の生えた小人が無数に集り、牛の頭を持つ大男が巨大な斧を振り回し、人とも獣ともつかぬ異形が牙と爪で引き裂き、宙を高速で飛び回る黒い影が取り憑いて狂わせ、そうして様々に人々を虐殺した。

 私には誰一人助ける事はできなかった。ただただ、別荘を目指して、逃げた。
 私はそれを恥じているし、私にそうさせた奴等を憎む。できる限りの手で復讐し、そうして生きていくと決めたのだった。


 今、私はライフルの照準器スコープを通して、緑色の小鬼ーーいっそゴブリンと呼ぼうーーを見下ろしている。
 血に塗れた小汚い粗末な衣服。見つけてからずっと続けている咀嚼。それらは奴を殺すのに充分な理由だった。

 山中に木霊する厳かな発砲音に続いた、グゲッ、っという醜い断末魔の後に、左側頭部を失ったゴブリンが倒れた。
 また一匹、この世界に這い出た破滅を打ち消してやった。しかし、そこにもはや喜びはない。こんな事をしても、何も帰ってくる事はない。当然だ。
 それでも、私はこうして生きていく。そう決めたのだから。
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