怪獣は馬鹿でかい何かではない

横山剛衛門

文字の大きさ
4 / 7

12:51

しおりを挟む
最初、なぜ将軍がその男に慇懃な態度で接するのか、私には分からなかった。
将軍は一人の兵士としても幕僚としても多大な功績を挙げてきた比類なき軍人で、同時にその激烈な性格も有名である。
一方、「ミスター」と呼ばれた初老の男は、落ち着いた物腰の大男だ。とはいえ体の大きさの割に威圧感を与えることはなく、むしろ存在感が希薄で、おおげさに感情を見せることもない。
二人は司令官室のソファーに腰掛けて向かい合い、今回の作戦について話し合っている。部屋には将軍の秘書である私を除いて他に誰もいないし、その私も蚊帳の外だった。

今起きているような事態は、さすがの将軍も初めてに違いない。だが、ミスターはそうではないらしい。
「おそらく、黒竜だろう。けして見くびることはできないが、思っていたよりは厄介ではなさそうだ」
その証拠に、このような信じられないことを言う。すでに街がいくつか消し炭になり、とんでもない数の被災者が出ているというのに。
ちょうど一週間前の日曜日になんの前触れもなく現れたあのカイジュウは、瞬く間に最初の街を壊し、次の街、また次の街と壊し続けた。ある伝説上の生き物に酷似した姿で、その伝説通りの危険さだった。
これまで我々が用いたどんな兵器も効果はなく、どんなに最新の装置による追跡も許さず、行方をくらましてしまう。
「別の個体の報告もあったが、こちらはそれきりでやはり正体不明だ」
将軍の補足にミスターは頷き、続いてこう言った。
「まずは、一体目を、順番にだ」

そこからの話で、私の認識が間違っていたと分かった。それは、将軍はこのような作戦が初めてでないということだ。
数十年前、まだ現場の一兵卒だった将軍は、ある極秘作戦への参加を命じられ、部隊は出撃先の孤島で出逢った謎の生物との戦いで散々な犠牲を出した挙句、なんとかそのカイジュウを封じることに成功したらしい。
そして、その作戦を導いたのが、このミスターだということだった。
数十年前?  いや、聞き間違いではない。二人は確かにそう言った。将軍はともかく、ミスターは見かけよりかなり年寄りらしい。
ミスターは将軍がこれまでに展開を指示してきた作戦の概要を聞き、それからどんな「道具」があるのか聞き、どんな被害や特徴があるのかを詳しく聞いた。
「以上が目標について分かっている全てだ」
「目標、だなんて呼び方はよせ。ちゃんと名前をつけるんだ。ワシにつけさせてもらおう。キョムホウだ」
名前をつければ恐れは減る。名付け得るものだと分かるから。まずはそこからということだ。
将軍はミスターの指摘に反対することなく、そのまま受け入れた。その後のあらゆることについても。

カイジュウ狩りのためにやるべきことがテキパキと決められていった。これらは大まかに言えば四つの段階に分けられる。まずは相手を調べること。次にどうするか考えること。そしてそれを確実に行うこと。最後に結果を省みること。
我々が普段やることとよく似ているが、結局のところ、何をやるかではなく誰がやるか、がモノを言う面は少なからずある。
こうして我々は、ここに至ってようやく本当に意味での備えを始めた。次にキョムホウが現れたときには、今までとは違う一歩目を踏み出せるだろう。
楽しみだ、とまでは言わないが、覚悟は出来た。カイジュウは馬鹿でかい何かではない。怖るるなかれ、だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

ある辺境伯の後悔

だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。 父親似だが目元が妻によく似た長女と 目元は自分譲りだが母親似の長男。 愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。 愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。 - - - - - - - - - - - - - ただいま後日談の加筆を計画中です。 2025/06/22

処理中です...