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最初、なぜ将軍がその男に慇懃な態度で接するのか、私には分からなかった。
将軍は一人の兵士としても幕僚としても多大な功績を挙げてきた比類なき軍人で、同時にその激烈な性格も有名である。
一方、「ミスター」と呼ばれた初老の男は、落ち着いた物腰の大男だ。とはいえ体の大きさの割に威圧感を与えることはなく、むしろ存在感が希薄で、おおげさに感情を見せることもない。
二人は司令官室のソファーに腰掛けて向かい合い、今回の作戦について話し合っている。部屋には将軍の秘書である私を除いて他に誰もいないし、その私も蚊帳の外だった。
今起きているような事態は、さすがの将軍も初めてに違いない。だが、ミスターはそうではないらしい。
「おそらく、黒竜だろう。けして見くびることはできないが、思っていたよりは厄介ではなさそうだ」
その証拠に、このような信じられないことを言う。すでに街がいくつか消し炭になり、とんでもない数の被災者が出ているというのに。
ちょうど一週間前の日曜日になんの前触れもなく現れたあのカイジュウは、瞬く間に最初の街を壊し、次の街、また次の街と壊し続けた。ある伝説上の生き物に酷似した姿で、その伝説通りの危険さだった。
これまで我々が用いたどんな兵器も効果はなく、どんなに最新の装置による追跡も許さず、行方をくらましてしまう。
「別の個体の報告もあったが、こちらはそれきりでやはり正体不明だ」
将軍の補足にミスターは頷き、続いてこう言った。
「まずは、一体目を、順番にだ」
そこからの話で、私の認識が間違っていたと分かった。それは、将軍はこのような作戦が初めてでないということだ。
数十年前、まだ現場の一兵卒だった将軍は、ある極秘作戦への参加を命じられ、部隊は出撃先の孤島で出逢った謎の生物との戦いで散々な犠牲を出した挙句、なんとかそのカイジュウを封じることに成功したらしい。
そして、その作戦を導いたのが、このミスターだということだった。
数十年前? いや、聞き間違いではない。二人は確かにそう言った。将軍はともかく、ミスターは見かけよりかなり年寄りらしい。
ミスターは将軍がこれまでに展開を指示してきた作戦の概要を聞き、それからどんな「道具」があるのか聞き、どんな被害や特徴があるのかを詳しく聞いた。
「以上が目標について分かっている全てだ」
「目標、だなんて呼び方はよせ。ちゃんと名前をつけるんだ。ワシにつけさせてもらおう。キョムホウだ」
名前をつければ恐れは減る。名付け得るものだと分かるから。まずはそこからということだ。
将軍はミスターの指摘に反対することなく、そのまま受け入れた。その後のあらゆることについても。
カイジュウ狩りのためにやるべきことがテキパキと決められていった。これらは大まかに言えば四つの段階に分けられる。まずは相手を調べること。次にどうするか考えること。そしてそれを確実に行うこと。最後に結果を省みること。
我々が普段やることとよく似ているが、結局のところ、何をやるかではなく誰がやるか、がモノを言う面は少なからずある。
こうして我々は、ここに至ってようやく本当に意味での備えを始めた。次にキョムホウが現れたときには、今までとは違う一歩目を踏み出せるだろう。
楽しみだ、とまでは言わないが、覚悟は出来た。カイジュウは馬鹿でかい何かではない。怖るるなかれ、だ。
将軍は一人の兵士としても幕僚としても多大な功績を挙げてきた比類なき軍人で、同時にその激烈な性格も有名である。
一方、「ミスター」と呼ばれた初老の男は、落ち着いた物腰の大男だ。とはいえ体の大きさの割に威圧感を与えることはなく、むしろ存在感が希薄で、おおげさに感情を見せることもない。
二人は司令官室のソファーに腰掛けて向かい合い、今回の作戦について話し合っている。部屋には将軍の秘書である私を除いて他に誰もいないし、その私も蚊帳の外だった。
今起きているような事態は、さすがの将軍も初めてに違いない。だが、ミスターはそうではないらしい。
「おそらく、黒竜だろう。けして見くびることはできないが、思っていたよりは厄介ではなさそうだ」
その証拠に、このような信じられないことを言う。すでに街がいくつか消し炭になり、とんでもない数の被災者が出ているというのに。
ちょうど一週間前の日曜日になんの前触れもなく現れたあのカイジュウは、瞬く間に最初の街を壊し、次の街、また次の街と壊し続けた。ある伝説上の生き物に酷似した姿で、その伝説通りの危険さだった。
これまで我々が用いたどんな兵器も効果はなく、どんなに最新の装置による追跡も許さず、行方をくらましてしまう。
「別の個体の報告もあったが、こちらはそれきりでやはり正体不明だ」
将軍の補足にミスターは頷き、続いてこう言った。
「まずは、一体目を、順番にだ」
そこからの話で、私の認識が間違っていたと分かった。それは、将軍はこのような作戦が初めてでないということだ。
数十年前、まだ現場の一兵卒だった将軍は、ある極秘作戦への参加を命じられ、部隊は出撃先の孤島で出逢った謎の生物との戦いで散々な犠牲を出した挙句、なんとかそのカイジュウを封じることに成功したらしい。
そして、その作戦を導いたのが、このミスターだということだった。
数十年前? いや、聞き間違いではない。二人は確かにそう言った。将軍はともかく、ミスターは見かけよりかなり年寄りらしい。
ミスターは将軍がこれまでに展開を指示してきた作戦の概要を聞き、それからどんな「道具」があるのか聞き、どんな被害や特徴があるのかを詳しく聞いた。
「以上が目標について分かっている全てだ」
「目標、だなんて呼び方はよせ。ちゃんと名前をつけるんだ。ワシにつけさせてもらおう。キョムホウだ」
名前をつければ恐れは減る。名付け得るものだと分かるから。まずはそこからということだ。
将軍はミスターの指摘に反対することなく、そのまま受け入れた。その後のあらゆることについても。
カイジュウ狩りのためにやるべきことがテキパキと決められていった。これらは大まかに言えば四つの段階に分けられる。まずは相手を調べること。次にどうするか考えること。そしてそれを確実に行うこと。最後に結果を省みること。
我々が普段やることとよく似ているが、結局のところ、何をやるかではなく誰がやるか、がモノを言う面は少なからずある。
こうして我々は、ここに至ってようやく本当に意味での備えを始めた。次にキョムホウが現れたときには、今までとは違う一歩目を踏み出せるだろう。
楽しみだ、とまでは言わないが、覚悟は出来た。カイジュウは馬鹿でかい何かではない。怖るるなかれ、だ。
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