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~皇国レミアムへの道~

~皇国レミアム復活編~ 惨憺

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 闇が支配していた。混沌が支配していた。それは遍く怨嗟の声であった。ゼイフォゾンはそれに支配されていた。彼の深層意識にある黒い炎が燃え盛っていた。止める者などいなかったし、止められる者などどこにも存在していなかった。その胎動は全てを黒く染め上げた。ゼイフォゾンの力は生と死の概念を己の物にすることである。それを遂には制御する事ができなくなった。それは一気にゲイオス王国の兵士たちを取り込んだからではなく、その吸収量が無限ではなかった事に起因する。怨念が、闇黒がゼイフォゾンを支配していた。その闇は、黒き者どもは容赦がなかった。そしてゼイフォゾンを暗澹へと連れていき、包み込んでいった。それはいかなる生命体の精神をも食らい尽くすほどの怨嗟の嵐。ゼイフォゾンはようやく自分が死ねると思った。それに支配されてしまえば、自分は安らかに逝けると思い込んでいた。その通りなのかも知れなかった。しかし、それは幻想であった。ゼイフォゾンの作り出した夢に過ぎなかった。これは力の奔流であった。ゼイフォゾンの力の、一つの顕れであった。それを確認できるのは他ならぬゼイフォゾンのみであった。均衡が崩れつつあったのだ。ゼイフォゾンの鎧が、純白の鎧が黒く染まっていくのだった。ゼイフォゾンの記憶が蘇る。ランゼイター、これは神の創り出した最強の物質である。闇の神が命を懸けて産み出した最強の力。これはこのコル・カロリで世界三大聖遺物の一つである。それがゼイフォゾンを構成する物の一つであった。それは生と死の概念を吸収し、無限に攻撃力を上昇させるものであった。森羅万象に刻み込む、始まりと終わりの力。それは正しく闇であった。究極の漆黒であった。ゼイフォゾンはそれを使い過ぎて、暴走しているのであった。その内に秘めたる無限の闇はゼイフォゾンの精神を確実に蝕んでいた。彼は、いや、彼だったものが完成されようとしていた。


「ガトランは死んだ。あのゼハートという将軍によって」

「受け入れよ。受容せよ。この闇はどんな夢よりも心地いい」

「ゼイフォゾンよ。その身を捧げよ。己を捧げよ。黒き運命に身を委ねるのだ」

「ガトランは死んだ。復讐せよ」

「ガトランが……死んだだと?」


 ガトランが死んだ。これは事実ではない、真実ではない。しかし、怨嗟の声は確実にゼイフォゾンの精神を、心を支配するために嘘を吐き続けた。負の感情はゼイフォゾンにとって遠いものだったが、それは今や過去のものになりつつあった。怒り、憎しみ、悲しみ、嗚咽、怨念といった感情を励起させるためにゼイフォゾンの心を乗っ取ろうとしていた。そして、彼はガトランが死んだ事を認めてしまったのであった。真理という名の嘘に呑まれてしまった。ガトランが死んだのは何故か、自分の力が足りなかったからである。そう考えた。しかし、怨嗟の声は、闇はそれを認めなかった。ガトランが死んだのは力が足りなかった訳ではない。ゼハートという将軍によって殺されたのだ。ゲイオス王国が全ての元凶なのだと言って聞かなかった。彼はそれを認めざる得なかった。戦争を終わらせたいなら、受容し、闇を受け入れ、その圧倒的な力で全てを滅ぼすしかないと。復讐だ、それが一番正しい選択だ。怒れ、憎め、悲しめ、嗚咽し、怨念を解き放てば全て楽になれる。どんな敵も屠ってくれよう。受容せよ、狂え。彼は、ゼイフォゾンはそれを受け入れるしかなかった。制御できなかった。暴虐に身を任せるしか方法がなかった。そして彼は、別の存在になった。遂に破壊神の如き存在へと変化し、ランゼイターはその偉容を強め、完全な得物になった。ゼイフォゾンだったものはゲイオス王国の兵士たちを殺し尽くし、その無限大の黒き闇を解き放った。すると、要塞の一部が崩れた。轟音と共に全てを破壊し尽くすゼイフォゾンだったものは、要塞の外へと行った。ゼイフォゾンだったものの深層にはあるものが支配していた。


「これが力だ。これがお前の求めていた答えだ。これがお前の使っていた力の本来の使い方だ。分かるか?全てを滅ぼせば、何も失わずに済む。お前の背負っていた悲しみから解放されるのだ。滅ぼせ、そのためにこの力は存在する。完成したランゼイターを、神剣ランゼイターを振るえ。全ての奇跡を否定するその力を正しく振るえ。涙も、後悔も、全て滅ぼせば無くなる。そしてお前が本当の神になるのだ。お前が受容した事によって洗い流されるものは数多い。さぁ、存分に暴虐の限りを尽くせ」

「ガトランが死んだ。私は何もできなかった。そうだ、全てはこの世の全ての悪が、悪意が、悪いのだ。それは滅ぼさねばならない。全てを裁かなければならない。破壊しなければならない。そうか、私の生まれた意味が、今なら分かる。私は破壊する。全てを破壊し、この世を闇へと還すのだ。混沌に戻さねばなるまい。神剣ランゼイターは私の希望だ。ガトランはこの行為を尊ぶであろう。私はお前たちよりも更に邪悪であった!」


 ゼイフォゾンだったものの暴走が始まった。この要塞に起こる全ての出来事が霞むような力の奔流が、要塞全体を駆け巡った。それはエミリエルとラーディアウスに届き、レグレス将軍とゼイオンにも届いた。その底なしの闇は戦場を支配した。あらゆる生命が塵芥と化すその力は、まさに神の力かそれ以上のものを感じさせた。ゼイフォゾンだったものは、ゲイオス王国の兵士たちを見境なく殺した。そしてゼハートを探した。復讐せねばなるまいと。しかし、その様子を見たシュテーム連邦王国の魔剣士たちは恐怖のあまり動けなかった。戦慄していた。ゼイフォゾンだったものは、それほど恐ろしかった。まるであらゆる生命体の生命の重みが、あらゆる意味で軽くなり、虚しいものになろうとしていた。いや、もうそうなっていたのかも知れない。この世の全てが無意味になるような究極の闇は戦場を蹂躙していた。ゼイフォゾンだったものはその通りに暴虐の限りを尽くした。そしてそれを止めようと、エミリエルとラーディアウス、レグレス将軍とゼイオンが出てきた。この四名は、ゼイフォゾンだったものの存在を認めた。そして、その強大な力にまた、戦慄した。エミリエルはこの様子に見覚えがあった。父であるゴーデリウス一世の事である。ゴーデリウス一世は遥か昔、百年戦争と呼ばれる戦争で神の如き力を遺憾なく発揮し、戦場を蹂躙していた。そして、七英雄の中でも最強の者と呼ばれるようになった。このゼイフォゾンだったものの発揮している力そのものは、それと同じではないか。またはそれ以上なのではないか。


「困ったのう。これではゲイオス王国だけでなく、シュテーム連邦王国さえも滅ぼしそうじゃ」

「我々の剣術のみで対抗できるのか。この化け物相手に」

「ラーディアウス、僕はこの瞬間を待っていたよ。こんな極上の相手を前に我慢できるはずがない」

「調子に乗るなゼイオン。この破壊の化身は我々だけで何とかせねばなるまい。ここはひとまず休戦とし、全力を以てこの破壊の化身を倒す。よいな?エミリエル」

「ラーディアウスや、妾の事はエミリーでよい。そうじゃな……止めるとしようかの、あのゼイフォゾンを」


 ゼイフォゾンだったものは、この四人を認めた。敵として認めた。その目は輝く黄金ではなかった。空虚な紅に染まっていた。その目から何故か血の涙を流していた。だが、その暴虐はその涙に似つかわしくないものであった。四人はそれぞれの得物を抜いた。エミリエルは斬馬刀を。レグレス将軍は二本の長剣を。ゼイオンは物干し竿を。ラーディアウスは己の刀を。それぞれが全力の態勢であった。そこに容赦なくゼイフォゾンだったものが迫る。神剣ランゼイターを手に驚異的な速度で襲い掛かった。四人はそれぞれ、その攻撃を避けると、ゼイフォゾンだったものは狙いをラーディアウスに定めた。ラーディアウスはそれに気付くと、神剣ランゼイターと鍔迫り合いになってはいけないと思い、回避行動に全力を傾けた。ゼイフォゾンだったものの剣術は神懸かり的なもので、回避するだけでも精一杯だったのではあるが、神剣ランゼイターと切り結ぶ事があろうものなら、己の刀がどうなるかは想像できた。ラーディアウスはどこかに隙を作らないと全員が攻撃に移れないと踏んで、すんでのところで躱した瞬間を狙って斬撃を放った。その斬撃はゼイフォゾンだったものの漆黒の鎧に食い込んだ。ラーディアウスの膂力はひるませるのに充分だった。それを好機として、三人はそれぞれ斬撃を放った。だがゼイフォゾンだったものの漆黒の鎧はその傷をすぐに再生させ、神剣ランゼイターを一薙ぎした。膨大なまでの闇の力が四人を襲い、吹き飛ばした。この四人の力を以てしても止まらない。しかし、四人は諦めなかった。それぞれの国の存亡をかけ、立ち上がった。


「妾が先陣を切る。残りの者は妾に着いて来るがよい。この斬馬刀は聖なるもの、未来を改変する力を持っておる。それを使えば……」

「突破口が開けると。そう言いたいのだな?エミリー」

「ふうん、僕にはよく分からないけど、楽しければそれでいいんだ。でもあの力、気に入らないねぇ。全然楽しめないじゃないか」

「今はそんな事を言っている時ではない。エミリエル様、着いていきます」


 エミリエルが先頭に立った。斬馬刀を舞うように構え、ありったけの闘気と妖力を込めると、戦場が一気に桜色に変化した。ゼイフォゾンだったものの力の奔流、究極の闇の力は戦場を漆黒に染め上げたが、それと拮抗するように押し合っていた。ぶつかり合う力と力の中には、誰も入ってこれなかった。あのラーディアウスでさえも躊躇うほどに。エミリエルは斬馬刀を天に掲げた、そして縦に振り下ろした。それから横に一閃した。その瞬間、空間が割れた。そう、未来を断ち切り、改変したのである。それは正しく奇跡のような力であった。エミリエルの居合刀と斬馬刀には神の物質が使われ、鍛冶神が鍛えた代物である。それをことごとく使いこなすエミリエルの潜在能力は膨大なもので、曰く全能の姫と称された。その力を存分に引き出し、斬馬刀の力を発揮したのは、ゼイフォゾンだったものの力がそれほど恐ろしいものだったからに他ならない。その一閃を合図として、ラーディアウス、ゼイオン、レグレス将軍が一斉に突進した。ゼイフォゾンだったものはこの未来を改変する力に少し隙を突かれた様子で、怯んでいた。それが好機だった。まずはレグレス将軍がありったけの魔力を二本の長剣に注ぎ、一撃を加えた。漆黒の鎧はそれで少しだけ砕けた。それからゼイオンが縮地を使って一閃した。それは腹部に一撃を加える事に成功し、ゼイフォゾンだったものは後退りした。そしてラーディアウスが全霊を懸けた光速の抜刀で漆黒の鎧を砕いた。それからエミリエルが飛び上がり、斬馬刀を袈裟懸けにして一閃した。ゼイフォゾンだったものの一部がそこで両断された。それから怒涛の攻撃は続いた。漆黒の鎧が徐々に砕け、両断され、ゼイフォゾンだったものは弱り始めていた。


「このまま行けば倒せそうじゃの。じゃが……」

「再生が速いですな。それにあの頑強さは尋常ではない」

「僕ももうそろそろ限界かな。このまま行けば確実に僕たちの負けだ」

「弱音を吐くなゼイオン。エミリー、最後の一押しだ」

「分かっておる」


 ゼイフォゾンだったものはゼハートを探し続けた。その障害となるものは全て破壊しにかかった。しかし、今のゼイフォゾンだったものは弱っていた。その深層意識の中で、ゼイフォゾンは必死に抗っていた。疑問を持ち始めたのだった。ガトランが死んだというのに、何故亡骸はないのか。死んだのなら証拠が欲しいが、それを提示してくれるものは何もない。邪悪に染まるのは別に良かった。だが、それだけで、ガトランがもしも生きていたならばどうだろう。ゼハートという将軍を見つけ出して殺してしまったらガトランの生きるべき目的を喪失させてしまう事に繋がらないか。そういう事について自問自答しつつ、己の闇と向き合っていた。ゼイフォゾンだったもの=ダウン・ゼイフォゾンの状態になってから己のやっている事に己が恐怖していた。殺戮の限りを尽くし、破壊の限りを尽くし、暴虐の限りを尽くしている自分の状態は果たして自分が望んでいたのだろうか。そんな訳がなかった。もし仮にガトランが死んだとしよう。ガトランがそれを望むだろうか。全てを滅ぼせば楽になれると言われたが、それら全てを滅ぼしてしまえば寂しくはないだろうか。あの世に住まうオーガンとイゼベルがそれを許してくれるだろうか。自分の暴走を、自分ではもうどうする事もできない。だが、堕ちていったのも自分の選択である。それの責任を取らねばならない。しかし、どうやってその責任を果たせばよいのだろう。自分が死ぬ事でこの闇を相殺できるならば喜んでそうしよう。しかし、この無限大の闇、漆黒、死とどうやって戦えばよいのだろう。ゼイフォゾンにとってこの問題は鬱でしかなかった。自分のこの暴虐と戦っている者たちはシュテーム連邦王国のエミリエルとレグレス将軍、ゲイオス王国の将軍の二人。その凄まじい戦力が自分を倒そうと全力で向ってくるのが見える。そうか、自分はもはや害悪でしかないのか、と思わざるを得ない状況である。それでもゼイフォゾンは己を取り戻すのに必死だった。


「何故、今になってこの心地の良い闇黒を拒む?これはお前が望んだ事であるぞ。お前がこの力に目覚めなければ、今頃お前は何もできない案山子に過ぎなかったであろう。生と死の概念を吸収するこの力はお前を正常に戻す働きがある。これはお前の一部、そして希望なのだ。復讐せよ、そしてこの世に破壊をもたらすのだ。この世の生命は蛆虫に過ぎない。湧いて出てくるものだ。勝手に生まれて、そしてお前の手で殺し尽くすのだ。塵芥と化せと思えば、全てお前の言う通りになる。この歯向かってくる四人の愚者もそうだ。お前がその気になれば殺せる。殺せ、楽になれ、殺せ、殺せ、殺せ。全てはお前の邪悪さ故に殺せ。滅ぼしてしまえばいい。全てを殺し尽くして楽になるのだ」

「私は、私はガトランが殺された事など信じぬ。私を正気に戻してくれ。私は帰らねばならぬ。私を待っている者の為に戻らねばならぬ。これは塵芥の望みではない。それにこの力は私だけのものだ。お前のものではない。私は正しく、この力を使う事に微塵の躊躇いも持たぬと宣言しよう。しかし、これは何の罰であろうか。私は暴虐の化身になる気も、全てを滅ぼす究極の闇にもなるつもりもない。私を正気に戻してくれ。そして帰らせてくれ。それで全ては終わる、この悲劇は終わるのだ。ガトランは生きているのだろう。お前は私に嘘を吐いた。それが闇の成せる技なのだろう。この状態が私の正常だと?どこにそんな真実がある?私は私だ、ゼイフォゾンだ。ダウン・ゼイフォゾンではない」

「もう遅い。お前の身体は我々が乗っ取った。お前の精神が正常だったとしても、それはお前がどうにかできる問題ではない。我々は復讐を遂げる。お前の身体を使って遂げるのだ。我々はお前に殺された命そのものだ。お前という一振りの剣に吸収されるしかなかった命そのものだ。お前が教えてくれたのだ、命など取って足らぬものだとな。我々は世界に復讐する。この数多の、幾億の憎しみを制御する事ができるというのならばやってみせよ。それがお前にできるのならば」

「私は未来永劫、お前たちと戦うと宣言しよう。ランゼイターを完成させてくれた事に感謝しよう。だが、その剣は私の剣だ。神剣ランゼイターは森羅万象に直接刻み込む魔剣の王だ。これをお前たちに悪用されるのは敵わん。人類はもっと生きなければならぬ。私の希望はガトランの生だけではない。皆の幸福だ。私は戦おう。私自身と戦おう」


 ダウン・ゼイフォゾンは動きを止めた。そしてその眼球から血の涙は流れていなかった。エミリエルとレグレス将軍、ゼイオンとラーディアウスはその様子を見て、ある事を感じていた。ゼイフォゾンも己と戦っているのかも知れないと。漆黒の鎧が再生していく。そして神剣ランゼイターを天に掲げると、そこから負の力が溢れてきた。その怨嗟の呻きは戦場を奏でる音楽へと変わり、そこだけがまるで地獄か魔界に変わったように思えた。四人は限界を迎えていた。魔族の力とも違うこのダウン・ゼイフォゾンの力はまさしく、正しく破壊神であった。手に握られた神剣ランゼイターの力は未来を改変しても折れる事もなく、その偉容を欲しいままにしていた。だが突如として、ダウン・ゼイフォゾンは苦しみだした。その口から聞こえてきたのは、嗚咽と叫びだった。声にならない声とも言うべきものであった。この様子を見て、四人は攻撃する気力を失くした。これ以上の暴走は止められない。止められるのは七英雄のうちの誰かになるであろう。そうなれば国どころか大陸が危険な状態になる。人類では到底到達できない存在、それは神。ダウン・ゼイフォゾンは神なのだ。いや、ゼイフォゾンは神という存在だったのだ。その証拠に、この力である。圧倒的過ぎる。そんなダウン・ゼイフォゾンの前に現れたのは一人の男を抱きかかえた真紅の将軍であった。ゼハートである。その腕にはガトランがいた。ガトランは意識はあったが、身体が動かなかった。ゲイオス王国の兵士がシュテーム連邦王国の魔剣士のひとりに助けを乞い、その魔剣士がゼハートを追って事情を説明していた。ゼハートはガトランとゼイフォゾンの関係は知らなかったが、直感で必要になると思っていた。


「ガトラン、この破壊神を知っているか」

「ゼイフォゾン……そうか。お前の目論見通り、そうなったか。大丈夫だ、俺が何とかする。皆は下がっていてくれ。ゼハート、感謝する」

「良いんだ。お前をこんな風にしたのは俺なんだからな。近づくぞ」

「……頼む」


 ゼハートとガトランはダウン・ゼイフォゾンに向っていった。それを止める者は誰もいなかった。それぞれが限界を迎えていた。そしてダウン・ゼイフォゾンの叫びはますます高まっていった。それを我慢しながら、ゼハートはガトランを抱えながら歩いていった。そして、至近距離まで到達した瞬間、ガトランがダウン・ゼイフォゾンの背中に触れた。


「ゼイフォゾン、ただいま……俺は生きているぞ」

「ガト……ラン?」


ダウン・ゼイフォゾンは、ゼイフォゾンに戻っていた。その手には神剣ランゼイターがしっかりと握られていた。ゼイフォゾンはガトランを認めると、涙を流した。それは血の涙ではなく、純粋な、透明な涙であった。
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